情報Ⅰ 最強120講義

散らばり(分散・標準偏差・四分位)──なぜ偏差を2乗し、なぜ√を取るのか【情報Ⅰ 最強120講義 第84講】

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こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第84講「散らばり(分散・標準偏差・四分位)」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はS、情報Ⅱでの接続先は(3)情報とデータサイエンスです。分散の公式を丸暗記した状態で共通テストに行くと、必ず足を取られます。この講ではなぜ偏差を2乗するのか、なぜ最後に√を取るのかを原理から説明し、それが情報Ⅱの主成分分析にそのまま使われるところまでお見せします。

1. この講の問い

平均が同じ2つの集団を「違う」と言うために、なぜ偏差をそのまま足さずに、わざわざ2乗してから平均し、最後に√を取るのか。

2. 結論

この講の結論

偏差(各データ − 平均)の和は必ず0になるので、そのまま足すと散らばりの情報が全部消えます。消えないように2乗して平均したのが分散。2乗した副作用で単位が「点²」「cm²」になり元データと比べられなくなるので、√で単位を戻したのが標準偏差です。そして分散・標準偏差は「値の大きさ」を見るので外れ値に弱く、四分位範囲は「順位」しか見ないので外れ値に強い。どちらが正しいかではなく、目的で使い分けます。

3. なぜそうなるのか

3-0. まずこの講の立ち位置を確認する

いきなり驚くことを書きます。「分散」も「標準偏差」も「四分位数」も、情報Ⅰの学習指導要領解説には一度も出てきません。

私は文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」(平成30年7月)の全文を機械検索しました(2026年8月3日実施)。結果はこうです。

出現回数 備考
標準偏差 0
四分位 0
箱ひげ 0
平均値・中央値・代表値 各0
分散 2 どちらも「データベースを分散」「分散処理」=統計量ではない
散らばり 1 しかも情報Ⅱ(3)側の記述
相関係数 1 情報Ⅰ(4)側で名指しされている唯一の統計量

では情報Ⅰ(4)には何が書いてあるのか。書いてあるのは統計量の名前ではなく、接続の指示のほうです。

共通教科情報科の第2款の第1「情報Ⅰ」の2の(4)「情報通信ネットワークとデータの活用」の内容については,数学科の第2款の第1「数学Ⅰ」の2の(4)「データの分析」の内容と関連付けて扱うこと

文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(該当箇所は解説p.107相当)

つまり国の設計はこうです。統計量の定義と計算は数学Ⅰが担当する。情報Ⅰが担当するのは、そのデータをどう集め、どう整え、どう可視化し、どう解釈するかのほう。

文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章も、同じ切り分けを明示しています。

小学校で,量的データのばらつき ( 分布 ) の記述として,ドットプロットや中心位置を示す統計量(代表値)である平均値・中央値・最頻値を学習する。(中略)中学校では,度数分布やヒストグラム,四分位数及び四分位数に最小値と最大値を加えた5つの位置統計量(5数要約)を示す箱ひげ図による分布の意味を学習する。高等学校の数学Ⅰでは,分布の広がりを示す統計量である分散・標準偏差,外れ値や統計的仮説検定の考え方について学習する

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章(令和2年、該当箇所はp.184相当)

代表値は小学校、四分位と箱ひげ図は中学校、分散・標準偏差と外れ値は数学Ⅰ。 これが国の想定する積み上がり方です。この事実は受験生にとって朗報でもあり悪報でもあります。朗報は「情報Ⅰの試験で分散の定義そのものを難しく問う余地は小さい」こと。悪報は「定義は既習扱いなので、情報Ⅰ側では説明されないまま道具として使わされる」こと。代表値そのものについては第83講 代表値(平均・中央値・最頻値)にまとめてあります。

3-1. 偏差の和は必ず0になる(だから足しても無駄)

データを 、その平均を とします。各データの偏差は です。「散らばりが大きい=偏差が大きい」のだから、偏差を全部足せばよさそうに思えます。やってみましょう。

どんなデータでも0になります。 途中で使ったのは だけで、これは平均の定義そのものです。だから偏差の和は散らばりの指標としてまったく役に立ちません。データが 5, 5, 5, 5 でも −1000, 1000, −1000, 1000 でも、答えは同じ0なのです。

この0は失敗ではなく、平均という点の性質です。 平均とは「偏差の和がちょうど0になる点」、つまり数直線上でのデータの重心(つり合いの点)です。シーソーの支点を重心に置いたらつり合うのと同じで、つり合っている以上、符号付きで足せば消えるに決まっています。

平均(重心)マイナスの偏差プラスの偏差左右の長さの合計がぴったり等しいので、符号付きで足すと必ず 0 になる

したがって散らばりを測るには、符号を消してから足すしかありません。方法は2つ。絶対値を取るか、2乗するかです。

3-2. なぜ絶対値ではなく2乗なのか

まず正直に書いておきます。絶対値でもよいのです。 実際、平均絶対偏差 は立派な散らばりの指標で、「平均から平均してどれだけ離れているか」という意味では分散より直感的ですらあります。「2乗するのは絶対値だと計算しにくいから」という説明をよく見かけますが、あれは正確ではありません。絶対値の計算自体は簡単です。本当の理由は3つあります。

理由① 絶対値は微分できない点がある

で尖っていて微分できません。式変形の途中でずっと場合分けを引きずることになります。 は全域でなめらかで、微分すると という素直な式になります。

理由② 2乗は「平均」と相性が良い(ここが決定的)

散らばりを測る基準点 を平均に固定せず、変数として考えてみます。

この を最小にする は何でしょうか。 で微分します。

とすると なので、これが最小です。

つまり平均とは「偏差の2乗和を最小にする点」なのです。2乗して測ると、その測り方が自動的に平均を選び出す。分散と平均は、たまたま同じ式に登場するのではなく、同じ最小化問題の答えと最小値という関係にあります。

ちなみに絶対値のほうで同じことをすると、 を最小にする 中央値になります。「平均とセットなのが標準偏差、中央値とセットなのが四分位範囲」という対応は、ここから来ています。代表値の選び方と散らばりの選び方が独立でないのは、こういう理由です。

理由③ 微分できるから、後の全部につながる

2乗和を最小化するという発想は、そのまま最小二乗法になります。最小二乗法は回帰直線を決める方法であり、情報Ⅱの重回帰分析の土台であり、機械学習の損失関数の原型でもあります。絶対値を選んでいたら、この道は開けませんでした。2乗を選んだのは、微分したい未来があったからです。

3-3. 分散の定義と、なぜ√を取るのか

以上から、分散を次のように定めます。

これで散らばりは測れました。しかし困ったことが起きます。単位が2乗になっている。

テストの点数(点)のデータなら、分散の単位は「点²」です。身長(cm)なら「cm²」。面積でもないのに cm² と言われても、元の身長と比べようがありません。「平均170cm、分散36cm²」と言われて、170 と 36 を並べる意味がない。そこで√を取ります。

これが標準偏差です。単位は cm に戻ります。「平均170cm、標準偏差6cm」なら、170 と 6 が同じ土俵に乗る。「だいたい164cmから176cmあたりに多くの人がいる」と、元のデータと同じ言葉で言えます。

標準偏差とは、分散を「元のデータと同じ単位に翻訳し直したもの」です。 分散が理論用(微分しやすい)、標準偏差が読解用(意味が分かる)、という役割分担だと思ってください。だから共通テストで標準偏差が出てきたら、それはものさしの目盛りとして出ています。この読み方が正しいことは、大学入試センター自身の文書で確認できます(第5節)。

3-4. 別公式「2乗の平均 − 平均の2乗」はなぜ成り立つか

分散にはもう1つの表し方があります。言葉にすると「2乗の平均から、平均の2乗を引く」。導出は展開するだけです。

ここで なので、

ポイントは真ん中の項が になり、最後の と合わさって が残ることだけ。 覚える式ではなく、その場で3行で出せる式です。

実務上の意味も大きい。定義通りに計算すると「①平均を出す→②全データの偏差を出す→③2乗して足す」とデータを2周しなければなりません。別公式なら を同時に足していけるので1周で済む。表計算やプログラムで大量データを扱うとき、この差は効きます。なお なので、この式から が常に成り立つことも分かります。等号はすべてのデータが等しいときだけです。

3-5. データを ax + b に変換すると散らばりはどう動くか

全データに同じ定数を足す、あるいは同じ定数を掛ける。共通テストの頻出パターンなので、暗記ではなく導出しておきます。新しいデータを とすると、平均は 。偏差はどうなるでしょうか。

が消えました。 これがすべてです。定数を足してもデータ全体が数直線上を平行移動するだけで、データ同士の相対的な位置関係は1ミリも変わらない。散らばりは「相対的な位置関係」の話なので、足し算では動かないのです。一方 は残っているので、 となります。

操作 平均 分散 標準偏差
定数 b を足す 平均+b 変わらない 変わらない
定数 a 倍する a×平均 a² 倍 |a| 倍
ax + b に変換 a×平均+b a² 倍 |a| 倍

標準偏差に絶対値が付くのを落とさないこと。(符号を反転)しても散らばりは同じで、標準偏差が負になることはありません。そしてこの表を逆向きに使うと、次の変換が出てきます。

この は平均0、標準偏差1になります。これが標準化(基準化)であり、z得点といいます。10倍して50を足せば偏差値(平均50・標準偏差10)です。この変換が第6節(情報Ⅱ)の主役になります。

3-6. 四分位数──「値」ではなく「順位」で測る

分散・標準偏差は各データの値そのものを使います。だから1つでもとんでもない値が混ざると、その1個に引きずられる。2乗しているぶん、引きずられ方はむしろ増幅されます。そこで、値ではなく順位だけを見る測り方があります。

四分位数はデータを大きさの順に並べたときに,データの個数 ( 相対度数 ) を 4 等分する境界値で,データが小さい方から順に第 1 四分位数(Q1),第 2 四分位数(Q2)(中央値と同値),第 3 四分位数(Q3)という。(中略)四分位数はそれぞれ,下側累積 25%点,下側累積 50%点,下側累積 75%点に相当する。

前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章(該当箇所はp.184相当)

そして四分位範囲(IQR) で定めます。これは「真ん中の50%がどれだけの幅に収まっているか」です。

なぜ外れ値に強いのか。 は「下から25%の位置にいる人の値」「75%の位置にいる人の値」でしかありません。最大値が100だろうと10000だろうと、その人が一番上にいるという順位が変わらない限り、 も動かない。値の大きさを見ていないのだから、値が暴れても平気なのです。

この性質があるので、外れ値の判定そのものに四分位範囲が使われます。教員研修用教材は箱ひげ図の作図規則としてこう書いています。

第1四分位数から第1四分位数− 1.5 ×四分位範囲 (IQR) までの間の最小値,第 3 四分位数から第 3 四分位数+ 1.5 ×四分位範囲 ( 箱の長さ ) までの間の最大値をひげの両端とし,それ以上離れた値を外れ値として点で示す箱ひげ図(図表 2)を学習する

前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章(該当箇所はp.184相当)

つまり から の外側が外れ値です。外れ値に強い指標を使って、外れ値を見つける。 ここは順序が大事で、標準偏差で外れ値を判定しようとすると、外れ値自身が標準偏差を膨らませて自分を隠してしまいます。

この講では四分位数は「値としての定義」までにとどめます。 箱ひげ図の描き方・読み方は第85講(ヒストグラムと箱ひげ図)で扱います。この講に図を持ち込むと、指標の話と作図の話が混ざるためです。相関係数は第86講です。公開済みの講は最強120講義のハブページから辿れます。

3-7. 分母は n か n−1 か

高校で「分散=偏差の2乗の平均」と習うので分母は n です。ところが表計算ソフトにもプログラミング言語にも、分母が n−1 のものが並んでいます。混乱するところなので整理しておきます。

  • 手元のデータそれ自体の散らばりを述べたい → 分母 n(母分散
  • 手元のデータをより大きな集団からの標本とみなし、その大きな集団の散らばりを推定したい → 分母 n−1(不偏分散

情報Ⅰ・数学Ⅰの範囲は前者、分母 n です。実際、教員研修用教材の演習で指定されている関数は VAR.PSTDEV.P、末尾の P は population(母集団)。VAR.S / STDEV.S(sample)ではありません。教材が明示的に分母 n 側を選んでいることは押さえる価値があります。Python の statistics モジュールも同じ区別を持っていて、pvariance / pstdev が分母 n、variance / stdev が分母 n−1 です。先頭の p の有無で答えが変わります。

4. 手で確かめる

以下の数値はすべて、私の手元で Python の fractions.Fraction(分数のまま計算して誤差を出さない)と statistics の両方で独立に検算したものです(2026年8月3日実施)。

4-1. 8個のデータで、定義通りに計算する

データは 2, 4, 4, 4, 5, 5, 7, 9 の8個。まず平均は 2+4+4+4+5+5+7+9 = 40 なので、40 ÷ 8 = 5 です。

データ 2 4 4 4 5 5 7 9 合計
偏差 −3 −1 −1 −1 0 0 2 4 0
偏差の2乗 9 1 1 1 0 0 4 16 32

偏差の合計が0になっています。3-1の主張がそのまま目に見えました。よって分散は 、標準偏差は です。

4-2. 別公式でも同じになるか

2乗の平均は (4+16+16+16+25+25+49+81) ÷ 8 = 232 ÷ 8 = 29。平均の2乗は 。よって 29 − 25 = 4。一致しました。 平均を1回も引かずに分散が出ています。

参考までに平均絶対偏差も出しておきます。(3+1+1+1+0+0+2+4) ÷ 8 = 12 ÷ 8 = 1.5。標準偏差2とは違う値になります。同じデータでも「散らばり」の測り方が違えば違う数が出るのは当然で、どちらかが間違いなのではありません。

4-3. データを変換する実験

全データに10を足すと 12, 14, 14, 14, 15, 15, 17, 19。全データを3倍すると 6, 12, 12, 12, 15, 15, 21, 27。

データ 平均 分散 標準偏差
5 4 2
10 を足す 15 4 2
3 倍する 15 36 6

10を足しても標準偏差が動かないこと、3倍で分散が 倍・標準偏差が3倍になること。3-5の表がそのまま出ました。面白いのは、10を足した場合と3倍した場合で平均がどちらも15になっていることです。 平均だけ見ていたら2つは区別できない。散らばりを見て初めて別物だと分かる。この講の存在意義がここに凝縮されています。

4-4. 外れ値を1個入れる実験(この講の山場)

元データの最大値9を100に置き換えます。個数は8個のままです(2, 4, 4, 4, 5, 5, 7, 100)。

指標 元データ 9 を 100 にした後 変化
平均 5 16.375 3.3 倍
標準偏差 2 約 31.63 約 15.8 倍
中央値 Q2 4.5 4.5 不変
第1四分位数 Q1 4 4 不変
第3四分位数 Q3 6 6 不変
四分位範囲 IQR 2 2 不変

1個の値を変えただけで標準偏差は約16倍になり、四分位範囲は1ミリも動きません。 3-6の「順位しか見ていないから強い」が、数字で見えたと思います。ついでに外れ値の判定もしてみましょう。Q3 + 1.5 × IQR = 6 + 1.5 × 2 = 9。100はこれを大きく超えるので、教員研修用教材の規則では外れ値として点で打たれます。ちなみに元データの9はちょうど境界上で、外れ値にはなりません

元データ標準偏差 2四分位範囲 29 を 100 に標準偏差 約 31.63(約 15.8 倍に膨張)四分位範囲 2(完全に不変)同じ1個の外れ値に対して、平均系の指標は暴れ、順位系の指標は動かない

4-5. 高校流の四分位数と表計算の答えが食い違う

四分位数には流儀がいくつかあります。高校(数学Ⅰ)で習うのは「中央値でデータを2つに分け、下半分の中央値を Q1、上半分の中央値を Q3 とする」という決め方です。2, 4, 4, 4, 5, 5, 7, 9 なら、下半分 2, 4, 4, 4 の中央値が 、上半分 5, 5, 7, 9 の中央値が

ところが Excel の QUARTILE.INC は線形補間で求めるので、同じデータで を返します。Python の statistics.quantiles の inclusive も同じ 5.5 でした(実行して確認しました)。

求め方 Q1 Q2 Q3
高校(数学Ⅰ)流 4 4.5 6
Excel の QUARTILE.INC 相当 4 4.5 5.5

これは片方が間違いなのではなく、定義が違うのです。 教員研修用教材の演習が QUARTILE.INC を指定している以上、表計算で出した値と手計算の値が合わないことは起こりえます。試験では問題文の定義に従ってください。手元で表計算を使って検算するとき、この食い違いを知らないと「自分の計算が間違っている」と誤解して時間を溶かします。

4-6. Python で検算する(p の有無に注意)

以下は実際に実行して出力を確認したコードです。

import statistics
D = [2, 4, 4, 4, 5, 5, 7, 9]
print(statistics.mean(D))
# 5
print(statistics.pvariance(D))
# 4                     ← 分母 n(母分散)
print(statistics.pstdev(D))
# 2.0                   ← 分母 n(母標準偏差)
print(statistics.variance(D))
# 4.571428571428571     ← 分母 n-1(不偏分散)
print(round(statistics.stdev(D), 6))
# 2.13809               ← 分母 n-1

pvariance は 4、variance は約 4.571。 同じデータで違う数が出ます。3-7で書いたとおり、情報Ⅰ・数学Ⅰの「分散」は前者(p が付くほう)です。別公式と四分位も確認しておきましょう。

D = [2, 4, 4, 4, 5, 5, 7, 9]
n = len(D)
m  = sum(D) / n
m2 = sum(x * x for x in D) / n
print(m2 - m * m)
# 4.0    ← 2乗の平均 - 平均の2乗
print(statistics.quantiles(D, n=4, method='inclusive'))
# [4.0, 4.5, 5.5]
print(statistics.quantiles(D, n=4, method='exclusive'))
# [4.0, 4.5, 6.5]

inclusive と exclusive でまた違います。 四分位数は「定義を確認してから使う」ものだと、体で覚えておいてください。

4-7. 標準化してみる

3-5で出した を元データに当てはめます。平均5、標準偏差2です。

データ 2 4 4 4 5 5 7 9
z 得点 −1.5 −0.5 −0.5 −0.5 0 0 1.0 2.0

z の平均は0、標準偏差は1になります(Python でも確認済み)。単位が消えていることに注目してください。 元が点でも cm でも円でも、z には単位がありません。 は「平均から標準偏差2個ぶん上」という意味で、何のデータでも同じ言葉で語れます。この「単位が消える」性質が、第6節で情報Ⅱの主成分分析につながります。

4-8. 国の教材の数値を検算する(実データ)

文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章の演習1は、気象庁のサイトから熊谷の2017年・2018年の7月1日〜8月31日の日最高気温をダウンロードして統計量を比較させます。教材に載っている結果はこうです(単位は℃)。

統計量 2017年 2018年 用いる関数
最高 37.8 41.1 =MAX(範囲)
第3四分位数 34.6 37.4 =QUARTILE.INC(範囲,3)
中央値 32.2 35.4 =MEDIAN(範囲)
第1四分位数 29.1 31.9 =QUARTILE.INC(範囲,1)
最低 23.0 23.4 =MIN(範囲)
平均値 31.8 35.9 =AVERAGE(範囲)
分散 13.1 15.9 =VAR.P(範囲)
標準偏差 3.6 4.0 =STDEV.P(範囲)

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章(令和2年、該当箇所はp.185相当)

私はここで手を止めて検算しました。。四捨五入して 3.6 と 4.0。教材の分散と標準偏差は整合しています。

読み方も書いておきます。中央値も四分位数も平均値も、すべて2018年のほうが高い。だから「2018年の熊谷は全般に暑かった」と言えます。ここで大事なのは、「最高気温41.1℃を記録した」という1個の値だけでは、全般に暑かったとは言えないということです。1個の記録は外れ値かもしれない。分布全体がずれていることを示すには、中心(平均・中央値)と散らばり(標準偏差・四分位)の両方を見るしかありません。この講のテーマそのものが、国の教材の演習の設計思想になっています。 なお標準偏差は 3.6 → 4.0 とわずかに増えています。中心が上がったうえに、日々のばらつきもやや大きくなったということです。平均だけ見ていたら落とす情報です。

4-9. 標準偏差は行政の標準装備である

散らばりは学者の道具ではありません。国の統計もセットで公表しています。文部科学省「令和6年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)確定値」(令和7年2月12日公表)では、身長・体重の平均値と標準偏差が年齢別に公表されています(詳細表は e-Stat 掲載)。17歳の平均身長は男子170.8cm・女子158.0cm、平均体重は男子62.2kg・女子52.5kgです。

この調査は全数調査ではなく抽出調査で、発育状態(身長・体重)の抽出率は全幼児・児童・生徒の5.2%(649,142人)と明記されています。ここで3-7の話が生きます。約65万人は「標本」であり、知りたいのは日本の全高校生(母集団)の姿です。 分母を n にするか n−1 にするかという問いは、こういう場面で実際に意味を持ちます。情報Ⅰでは n でよいのですが、「なぜそんな区別があるのか」の答えは、この5.2%という数字の中にあります。

出典:文部科学省「令和6年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)確定値を公表します」令和7年2月12日 https://www.mext.go.jp/content/20250213-mxt_chousa01-000040132_1.pdf / 詳細集計表(e-Stat)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files

5. 共通テストではこう出る(重要度 S)

5-1. 一次資料で確認できること

大学入試センターが公表した「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」(2022年11月9日公表)には、『情報Ⅰ』第4問(配点25点)の各設問の概要が書かれています。題材は「国が実施した生活時間の実態に関する統計調査」で、スマートフォン・パソコンなどの使用時間と睡眠・学業の時間との関係を扱うものです。そして問5の説明がこうです。

各都道府県の睡眠の時間と学業の時間の関係を表した散布図の各点と回帰直線によって得られる推定値との残差やそれを変換した値を理解し,標準偏差を単位として中心から外れている度合を読み取ることができるかを問う。

大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表

「標準偏差を単位として」。 出題者自身がこう書いています。これが第84講で一番重要な一文だと私は思います。共通テストが求めているのは「偏差の2乗和を n で割れ」ではありません。標準偏差をものさしの目盛りとして使い、あるデータが中心からどれだけ外れているかを読むことです。3-5で導いた が、そのまま出題の骨格になっています。同資料によれば、第4問の問2・問3はどちらも箱ひげ図から分布の特徴を読み取る設問です。四分位が箱ひげ図の形で問われることも、一次資料で確認できます。

5-2. 出題の4つの型

型1:統計量そのものを計算させる

小さいデータを与えて分散・標準偏差を出させる型。ここは3-4の別公式(2乗の平均 − 平均の2乗)で速く抜けます。定義通りに2周するより明らかに速い。

型2:データの変換による変化

「全員に一律5点加点したら標準偏差はどうなるか」「単位を cm から m に変えたら分散は何倍か」型。3-5の表を導出できれば即答です。足しても標準偏差は動かない/a 倍すると |a| 倍、この2つだけ。a 倍で分散が a² 倍になる点を標準偏差と混同しないこと。

型3:2つの集団の比較

平均は同じだが散らばりが違う2集団、あるいは平均も散らばりも違う2集団を並べて判断させる型。教員研修用教材の熊谷の演習(4-8)がまさにこれです。「平均が高い=全員が高い」ではないという引っかけが仕込まれやすい。

型4:標準偏差をものさしとして使う

試作問題 第4問 問5 の型。残差や偏差を標準偏差で割った値を読ませます。この型があるから重要度は S です。単なる計算ではなく、標準化という考え方そのものを問うています。

5-3. 実際の出題の傾向

2026年1月実施の共通テスト「情報Ⅰ」第4問は「桜の開花日の予測」を題材に、気象庁のオープンデータを用いた出題だったと分析されています。オープンデータの定義、欠損値の判定、時系列グラフの解釈から始まり、相関係数、散布図と回帰直線、箱ひげ図の読み取り、残差へと進む構成です。情報Ⅰ全体の平均点は56.69点(前年69.26点)だったとされます。情報処理学会 学会誌「情報処理」note 掲載の分析記事(大橋真也、2026年2月27日)による。予備校・学会誌の分析は二次情報であり、当塾では共通テストの問題文・選択肢・図表は転載していません。

構図に注目してください。 試作問題も2026年度も、データの分析は「箱ひげ図で分布を見る → 散布図で関係を見る → 回帰直線を引く → 残差を標準偏差で測る」という流れで組まれています。四分位(分布の形)と標準偏差(ものさし)は、それぞれ独立の知識ではなく、この一本のパイプラインの部品なのです。 学習計画の立て方は共通テスト「情報Ⅰ」対策はいつから何をやるべきか、実際に得点を伸ばした事例は36点から本番92点へ伸ばした指導実例にまとめてあります。

5-4. 落とし穴

  • 標準偏差と分散を取り違える。 「分散が3倍」と「標準偏差が3倍」はまったく違います(分散3倍なら標準偏差は 倍)。単位を意識すれば防げます。
  • 定数を足すと散らばりが変わると思い込む。 平行移動しているだけです。
  • 定数倍で標準偏差に絶対値を付け忘れる。 −2倍でも標準偏差は2倍で、負にはなりません。
  • 平均だけで2集団を比べる。 平均が同じでも中身がまったく違うことがあります(4-3)。
  • 四分位数の流儀を確認しない。 高校流と表計算の答えが食い違うことがあります(4-5)。試験は問題文の定義に従います。
  • 外れ値を標準偏差で探そうとする。 外れ値自身が標準偏差を膨らませます。判定には四分位範囲を使います。
  • 分母 n と n−1 を混ぜる。 情報Ⅰ・数学Ⅰは n。表計算なら VAR.P / STDEV.P、Python なら pvariance / pstdev
  • 「散らばりが小さい=良い」と決めつける。 良し悪しは目的が決めます。品質管理なら小さいほうがよいが、多様性を測る文脈なら大きいことに価値があります。

5-5. 練習用の自作問題(本記事オリジナル)

問題

(1)データ 1, 3, 5, 7, 9 の平均・分散・標準偏差を求めよ。
(2)(1) のデータの全員に4を足したとき、平均・分散・標準偏差はそれぞれいくらか。
(3)(1) のデータを2倍したとき、分散は何倍になるか。標準偏差は何倍か。
(4)あるデータの「2乗の平均」が50、平均が6であった。分散を求めよ。
(5)データ 3, 5, 6, 8, 9, 12, 15, 20(8個、小さい順)について、高校(数学Ⅰ)流に Q1・Q2・Q3・四分位範囲を求めよ。また Q3 + 1.5 × IQR を求め、20 が外れ値と判定されるか答えよ。
(6)平均60、標準偏差8のテストで76点を取った人の z 得点はいくらか。

解答

(1)平均5。偏差は −4, −2, 0, 2, 4 で、偏差の2乗の和は 。分散 、標準偏差 (約2.83)。
(2)平均9、分散8(変わらない)、標準偏差 (変わらない)。
(3)分散は 倍、標準偏差は2倍。
(4)
(5)下半分 3, 5, 6, 8 より 。全体の中央値 。上半分 9, 12, 15, 20 より 。20 は 25.5 以下なので外れ値と判定されない
(6)。z 得点は2(偏差値なら70)。

6. 情報Ⅱではこうなる

6-1. 情報Ⅰでは「読む数」、情報Ⅱでは「割る数」

情報Ⅰで標準偏差は、データの散らばり具合を読むための数です。情報Ⅱでは役割が変わります。割る数になるのです。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章 学習14「主成分分析による次元削減」に、こう書かれています。

① 5科目の得点のレベル(位置)をそろえる(平均を同じにする,平均からの偏差にする)。
② 5科目の得点のレベル(位置)とばらつきの大きさの双方をそろえる(平均と標準偏差を同じにする,基準化(標準化)する,または,偏差値にする)。
 単位が異なる複数の変数を扱う場合は,②の基準化を行い,単位をそろえる必要がある。

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章(令和2年7月、該当箇所はp.137相当)

「単位をそろえる必要がある」。 ここが情報Ⅰとの決定的な違いです。情報Ⅰで扱うのは1種類の変数(気温だけ、点数だけ)であることが多い。だから単位をそろえる必要が生じません。情報Ⅱでは、身長(cm)と体重(kg)と50m走のタイム(秒)を同時に扱います。このとき単位が違うまま計算すると、たまたま数字が大きい変数が結果を支配してしまいます。

だから割る。4-7でやった が、情報Ⅱでは分析の前処理として必須の手続きになります。 標準偏差で割ることで単位が消え、すべての変数が「平均からの標準偏差何個ぶん」という共通の言葉に翻訳される。これが標準化(基準化)であり、機械学習でいうスケーリングそのものです。さらに同じ教材は、標準化するかしないかで結果が変わることまで明記しています。

①では,各変数の分散の大きさを考慮した係数が求まり,②では,各変数の分散の違いを無視した係数が求まる。

前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章(該当箇所はp.137相当)

「分散の違いを無視する」ために標準化する。 情報Ⅰで一生懸命計算した分散が、情報Ⅱでは「意図的に消す対象」になる。同じ量が、目的によって主役にも消去対象にもなります。この転換が面白いところです。

6-2. 分散が「情報量」になる

もう一歩進みます。主成分分析とは何かについて、同じ教材はこう定義しています。

主成分分析で作成する主成分とは,係数 a,b,c,d,e を50人の生徒の合成変数の値(主成分得点)が最もばらつくように,つまり,分散が最大となるように決定される一つの変数である。ばらつきが大きいことがその変数の情報量の大きさに対応する。

前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章(該当箇所はp.136〜137相当)

情報Ⅰでは「散らばり」はデータの性質を表す1つの指標にすぎません。情報Ⅱでは、散らばりの大きさそのものが「情報量」と定義され、最大化の目標になります。

理屈は分かりやすい。50人の生徒に何かの指標を与えて、全員が同じ値になったとします。その指標は50人を区別する力を1ミリも持ちません。逆に値が大きくばらつく指標は、誰が誰かをよく区別できる。ばらついている=情報を持っている。 だから「分散が最大になる方向」を探すことが、「一番よく区別できる新しい指標を作ること」になるわけです。第2主成分は「第1主成分と独立である(無相関)という条件の下で,分散が最大になるように求められる」(同上)。無相関という条件が付くのは、情報の重複を避けるためです。ここで第86講 散布図と相関係数と散らばり(本講)が合流します。

学習指導要領解説の情報Ⅱ(3)側にも、同じ発想が書かれています。

また,3変量以上のデータに関して,複数の散布図などを作成し,データの散らばりの様子を基にデータ同士を比較したり,グループ分けする方法などについて学び,データを説明する変数を減らしたり,変数を減らすことによって,どのような利点があるかについて考察する活動も考えられる。

前掲「解説 情報編」(該当箇所はp.52相当)

解説の全文でただ1か所だけ現れる「散らばり」が、この情報Ⅱ側の文です。 情報Ⅰ側には出てきません。国の文書レベルで、散らばりは情報Ⅱの言葉なのです。

6-3. 数学との連携の指定

3-0で引用した接続の指示には、続きがあります。「共通教科情報科の第2款の第2『情報Ⅱ』の2の(3)『情報とデータサイエンス』の内容については,数学科の第2款の第5『数学B』の(3)『統計的な推測』の内容と関連付けて扱うこと」(前掲「解説 情報編」p.107相当)。

情報Ⅰ(4)は数学Ⅰ「データの分析」、情報Ⅱ(3)は数学B「統計的な推測」。この2段構えが、3-7で保留にした「分母 n か n−1 か」の答えが置かれている場所でもあります。 標本から母集団を推定する話は数学Bであり、情報Ⅱがそれと連携するよう指定されています。

6-4. 情報Ⅰと情報Ⅱの扱いの違い

観点 情報Ⅰ 情報Ⅱ
標準偏差の役割 散らばりを読む数 標準化のために割る数
分散の位置づけ データの性質を表す指標 情報量そのもの(最大化の目標)
扱う変数の数 1〜2 変数 3 変数以上(多変量)
単位 そろっている前提 そろえる手続き(基準化)が必須
四分位・箱ひげ図 分布を可視化して読む 前処理(外れ値の検出)と結果の比較
連携する数学 数学Ⅰ「データの分析」 数学B「統計的な推測」
到達点 分布の特徴を説明する 次元削減・分類・予測モデルを作る

情報Ⅰが「散らばりを測って終わり」なのに対し、情報Ⅱは「散らばりを使って新しい変数を作る」ところまで行きます。 標準偏差は情報Ⅰで卒業する知識ではなく、情報Ⅱ・大学のデータサイエンス・機械学習の前処理へ、形を変えずにそのまま持ち込まれます。情報Ⅱ第3章の学習構成を見れば、その道筋がそのまま見えます。学習11 データと関係データベース/12 大量のデータの収集と整理・整形/13 重回帰分析とモデルの決定/14 主成分分析による次元削減/15 分類による予測/16 クラスタリングによる分類/17 ニューラルネットワークとその仕組み/18 テキストマイニングと画像認識。この8段の入口に立つための切符が、本講の です。

まとめ

  • 偏差の和は必ず0になる。平均が重心だから当然で、そのままでは散らばりを測れない。
  • 2乗するのは「計算が楽だから」ではない。微分できるからで、それが最小二乗法・回帰・主成分分析へつながる。平均は偏差の2乗和を最小にする点である。
  • √を取るのは単位を元に戻すため。分散は理論用、標準偏差は読解用。
  • 別公式「2乗の平均 − 平均の2乗」は3行で導ける。データを1周で済ませられるので実務でも速い。
  • 定数を足しても散らばりは動かない。a 倍すると分散は a² 倍、標準偏差は |a| 倍。
  • 四分位範囲は順位しか見ないので外れ値に強い。1個の外れ値で標準偏差は約16倍になっても IQR は不変だった。
  • 共通テストは標準偏差を「ものさしの目盛り」として使わせる。試作問題の一次資料に明記がある。
  • 情報Ⅱでは標準偏差は「割る数」になり、分散は「情報量」になる。

出典(すべて2026年8月3日に取得)

本文中の計算はすべて Python の fractions.Fractionstatistics で独立に検算しています。制度に関する記述は2026年8月時点のものです。基数と桁の話は第40講 2進数・10進数・16進数の変換にまとめてあります。

藤原進之介(ふじわら しんのすけ)/数強塾 代表

オンライン数学・情報Ⅰ専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しています。「公式を覚える」ではなく「なぜそうなるかを説明できる」状態を作ることを指導の軸に置いています。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第84講のWeb版です。藤原進之介のプロフィールを見る

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