こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第12講「著作権① 著作者の権利と保護期間」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はS(落とすと致命的)、情報Ⅱでの接続先は(1) 情報社会の進展と情報技術です。
著作権を「権利の名前を10個覚える単元」だと思っている受験生が非常に多い。しかしそれでは共通テストの4択は落とせません。この講では「登録しなくても権利が生える」という一点から、著作権のすべての性質を導きます。 条文はすべて e-Gov 法令検索の原文と文化庁の一次資料で確認しました。
1. この講の問い
なぜ、登録も申請もしていない他人の文章や写真に、いきなり権利が生えているのか。
2. 結論
著作権は創作した瞬間に自動で発生する(無方式主義。著作権法第17条第2項)。だから世の中のほぼすべての文章・写真・イラスト・プログラムに、最初から権利がついている。その権利は二階建てで、売り買いできる財産権(複製権・公衆送信権など)と、その人から切り離せない著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)に分かれる。保護されるのは表現だけで、アイデア・事実・ありふれた表現は保護されない。そして権利は死後70年で切れ、社会全体の共有財産になる。
3. なぜそうなるのか
3-1. 「登録がいらない」ことが、すべての出発点
情報Ⅰの教科書は知的財産権を必ず2つに分けます。産業財産権と著作権です。この分け方を暗記事項だと思っている人が多いのですが、これは分類ではなく制度設計の根本的な違いです。
文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第1章は、こう書いています。
知的財産権は,申請の必要な産業に関する産業財産権と,申請の必要がない文化や芸術に関する著作権に大きく分けられる。
(産業財産権は)これらは,特許庁に出願し,登録することで権利が発生する。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 情報社会の問題解決(該当箇所は教材p.32相当)
産業財産権は「出願 → 審査 → 登録」を通らないと権利が生まれません。だから登録簿を見れば誰の権利かが分かる。著作権はその逆です。
著作権法 第17条(著作者の権利)第2項
著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
文化庁「著作権テキスト」(令和7年度版)はこれを無方式主義と呼び、さらに踏み込んでこう書きます。
著作権は、こうした手続を一切必要とせず、著作物が創られた時点で「自動的」に付与するのが国際的なルールとされています(権利取得のための「登録制度」などは禁止)。
文化庁著作権課「著作権テキスト 令和7年度版」(2026年8月3日取得)
登録が「不要」なのではありません。登録を権利発生の条件にすること自体が条約で禁じられているのです。日本がベルヌ条約を締結したのは明治32(1899)年。100年以上前から、この世界は「作った瞬間に権利が生える」ようにできています。
3-2. だから「ネットにあるから自由」は構造的に成り立たない
ここから直ちに、重い帰結が出ます。
登録がいらない、ということは「権利者を探す窓口が制度として存在しない」ということです。
特許なら特許庁のデータベースを引けば権利者が分かります。商標も同じ。ところが著作権には、その照合先がそもそも存在しない。友人がスマホで撮った写真、匿名アカウントのイラスト、10年前の個人ブログの文章。これらはすべて創作された瞬間に権利が発生していて、どこにも登録されていないのです。
「ネットに落ちているから自由に使える」という誤解は、ここを裏返しに理解しています。正しくは逆で、登録がないからこそ、目に入るほぼすべてに権利があると考えなければならない。文化庁の著作権テキストも、他人の著作物を使いたいときのフロー図の第1段階でこう言い切っています。
何らかの形で創作者の個性が発揮され、表現されているものであれば、多くの場合、著作物に該当すると考えた方がよいでしょう。
前掲「著作権テキスト 令和7年度版」
「これは著作物ではないだろう」という推定から出発してはいけない。これが国の一次資料の立場です。デジタル化すると劣化なしでいくらでも複製できるという性質と、この無方式主義が組み合わさったとき何が起きるか。それが現代の著作権問題そのものです。
3-3. 二階建て構造 ── なぜ人格権は譲渡できないのか
著作権法第17条第1項は、著作者が持つ権利を2つの束にまとめています。
- 第18条〜第20条 …… 著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)
- 第21条〜第28条 …… 著作権(複製権・公衆送信権・翻案権など。財産権)
そしてこの2つの束は、扱いが正反対です。
第61条第1項(著作権の譲渡)
著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
第59条(著作者人格権の一身専属性)
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。
なぜこう分けたのでしょうか。財産権のほうは「その作品からお金を生む権利」ですから、他人に売れないと経済が回りません。出版社が本を出すのも、レコード会社が音源を流通させるのも、権利の一部を譲り受けたり許諾を得たりして成立しています。
一方の人格権は、作品を通じて表れる「その人自身」を守る権利です。
- 公表権(第18条)…… まだ世に出していないものを、勝手に世に出されない
- 氏名表示権(第19条)…… 本名を出すか、ペンネームにするか、出さないかを自分で決める
- 同一性保持権(第20条)…… 「その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」
この3つを他人に売れてしまったら、「あなたの名前で、あなたの意に反した改変版を、あなたの許可なく公表する権利」を第三者が持てることになります。それは財産の移転ではなく人格の移転であり、法はそれを認めません。だから一身専属なのです。
ここが実務でいちばん効きます。 「権利を買ったのだから改変も自由」は成り立たない。財産権をすべて譲り受けても、著作者人格権は著作者に残ったままだからです。だから制作契約には「著作者人格権を行使しない」という条項がわざわざ書かれる。譲渡できないので、行使しないと約束させるしかないのです。
さらに第60条は、著作者が亡くなった後でさえ、著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないと定めています。権利そのものは死とともに消えるのに、やってはいけないことは残る。人格に結びついた権利であることが、ここにも出ています。
3-4. 保護されるのは「表現」だけ ── アイデアも事実も守られない
著作権法第2条第1項第1号の定義はこうです。
第2条第1項第1号
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
文化庁の著作権テキストは、この定義を4つの要件に分解し、それぞれ何が落ちるかを示しています。
| 要件 | そこで落ちるもの |
|---|---|
| (a)「思想又は感情」を | 「東京タワーの高さ:333メートル」のような単なる事実やデータ |
| (b)「創作的」に | 他人の模倣品、およびありふれたもの(誰が表現しても同じようになるもの) |
| (c)「表現したもの」であって | アイデア(表現されていないもの) |
| (d)「文芸・学術・美術・音楽の範囲」 | 工業製品 |
そして同テキストは、特許権との違いをこう名指しします。
「特許権」は「アイデア」を保護し、「著作権」は「表現」を保護しています。
前掲「著作権テキスト 令和7年度版」
薬の製法に特許があるとき、その製法どおりに薬を製造・販売すればアイデアの利用なので特許権の侵害になります。しかしその製法を書いた論文をコピーすれば、表現の利用なので著作権の侵害になる。同じ対象に、まったく違う2本の権利が別々の角度から当たっているのです。
条文にも明示があります。
第10条第2項
事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。
第10条第3項
(プログラムの著作物への)保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。
アルゴリズム(=解法)そのものは著作権では守られません。守られるのは、それを書き下したソースコードという表現のほうです。
この一点が、レポートや志望理由書に直結します。 同じ事実を自分の言葉で書き直したものは、元の文章とは別の著作物になる。事実は誰のものでもないからです。逆に、表現をそのまま持ってくれば、たとえ出典を書いても、引用の要件(第32条。次講で扱います)を満たさなければ複製権の侵害になる。「出典を書いたからセーフ」ではないのは、保護されているのが事実ではなく表現だからです。
3-5. なぜ死後70年で切れるのか ── 著作権は永久の所有権ではない
第51条(保護期間の原則)
著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、……著作者の死後……七十年を経過するまでの間、存続する。
第57条(保護期間の計算方法)
……著作者が死亡した日……の属する年の翌年から起算する。
ここで問うべきは「なぜ終わりがあるのか」です。土地の所有権に期限はありません。なぜ著作権にはあるのか。文化庁の著作権テキストが、その理由をはっきり書いています。
著作者等に権利を認め保護することが大切である一方、一定期間が経過した著作物等については、その利用による新たな創造の観点から、権利を消滅させ、社会全体の共有財産として自由に利用できるようにすることが「文化の発展」にとって必要であると考えられたためです。
前掲「著作権テキスト 令和7年度版」
著作権法第1条(目的)も、権利の保護は目的ではなく手段だと宣言しています。
第1条(目的)
この法律は、……これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
つまり著作権とは、文化を発展させるために国が期限つきで与えている独占です。作った人に報いなければ次の作品は生まれない。しかし永久に囲い込めば、その作品を土台にした次の創作が起きなくなる。保護と利用の綱引きの、現時点での妥協点が「死後70年」なのです。
4. 手で確かめる
4-1. 身近な12個を、条文で判定する
「著作物かどうか」は感覚ではなく、第2条第1項第1号の定義と第10条以下の条文で決まります。手元の12個を1つずつ判定してみましょう。
| # | 素材 | 著作物か | 主に働く権利/備考 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 友人がスマホで撮った写真 | ○ | 無断でSNSに上げれば複製権・公衆送信権。勝手なトリミングは同一性保持権 | 第10条1項8号/第21条・第23条・第20条 |
| 2 | 電話帳の五十音順の並び | × | 素材の選択・配列に創作性がない。個々の情報も単なる事実 | 第12条1項の裏返し |
| 3 | 五・七・五の俳句 | ○ | 短さは無関係。思想又は感情を創作的に表現していれば足りる | 第2条1項1号/第10条1項1号 |
| 4 | プログラムのソースコード | ○ | 複製権のほか、書き換えて派生物を作れば翻案権 | 第10条1項9号/第21条・第27条 |
| 5 | プログラミング言語そのものと文法規則 | × | 言語・規約・解法には保護が及ばない | 第10条3項 |
| 6 | 事実だけのニュース見出し・訃報 | × | 「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」 | 第10条2項 |
| 7 | 憲法・法律の条文 | 著作物だが対象外 | 権利の目的とならない。誰でも自由に使える | 第13条1号 |
| 8 | 裁判所の判決文 | 著作物だが対象外 | 同上 | 第13条3号 |
| 9 | 会社のロゴマーク | ○になり得る | 図案としては美術の著作物。ブランドとしての保護は登録が要る商標権 | 第10条1項4号/商標法 |
| 10 | 政府統計の数値そのもの | × | 単なる事実・データ。ただし情報の選択や体系的な構成に創作性があればデータベースの著作物 | 第12条の2 |
| 11 | 自分の未公開の日記 | ○ | 公表権が生きている典型。勝手に公開されない | 第10条1項1号/第18条 |
| 12 | 教員が作成した期末テスト問題 | ○ | 職務上作成し学校名義で公表するものは学校側が著作者になり得る(職務著作) | 第10条1項1号/第15条1項 |
表を作ってみると分かるのは、×になる理由がすべて同じ形をしていることです。 「事実だから」「ありふれているから」「アイデア(解法)だから」。いずれも表現に至っていない、あるいは表現に個性がない。3-4で見た1本の線が、12件すべてを切り分けています。
なお、生成AIが出力した文章の扱いは、2026年8月時点で議論が続いている論点なので、この表には入れていません。出発点は第2条第1項第1号が著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義している点にあり、そこから先は次講の担当です。
4-2. 実際に公有になった作品で、保護期間を計算する
抽象論で終わらせず、公有(パブリックドメイン)になった実物で計算してみましょう。題材は江戸川乱歩です。青空文庫の作家別作品リストによれば、生年 1894-10-21、没年 1965-07-28。
第57条により、起算点は死亡日そのものではなく死亡した年の翌年1月1日です。
没年 1965 → 起算 1966-01-01
1966 + 50 - 1 = 2015 → 保護期間の満了は 2015-12-31
当時の保護期間は死後50年でした。したがって乱歩作品の著作権は2015年12月31日限りで消滅しています。
これは机上の計算ではありません。青空文庫の「怪人二十面相」の図書カードを見ると、テキストファイルの初登録日は 2016-03-04 と記録されています。満了の直後に公開が始まっているのです。作品の初出は「少年倶楽部」1936(昭和11)年1月号から12月号。発表から80年を経て、誰でも自由に読める共有財産になりました。
ここで、もう1件と比べてください。文化庁の著作権テキストが挙げている藤田嗣治(1968年没)の例です。
没年 1968 → 起算 1969-01-01
旧法(死後50年)なら 1969 + 50 - 1 = 2018 → 2018-12-31 で満了するはずだった
現行法(死後70年)では 1969 + 70 - 1 = 2038 → 2038-12-31 まで保護される
保護期間を50年から70年に延ばす改正は、TPP11協定の発効日である平成30(2018)年12月30日に施行されました。藤田嗣治の著作権は、満了予定日のわずか2日前にまだ生きていた。だから延長の対象になり、20年長く保護されることになったのです。
一方の乱歩は、施行の時点ですでに消滅していました。いったん切れた著作権は復活しません。
江戸川乱歩(1965年没) …… 2015-12-31 満了(公有)
藤田嗣治 (1968年没) …… 2038-12-31 まで保護
------------------------------------------------
没年の差 3年 → 公有になる年の差 23年
没年が3年違うだけで、公有になる年が23年ずれる。 保護期間の計算は「70年を足す」ではなく「翌年から起算し、その年の12月31日まで」であり、しかも改正の時点で権利が生きていたかどうかで結論が変わります。ここまで手を動かすと、保護期間が単なる暗記事項でないことが体で分かるはずです。
5. 共通テストではこう出る(重要度 S)
5-1. 実際の出題を、構造として押さえる
大学入試センターが公開している令和7年度 追・再試験の「情報Ⅰ」第1問 問1 a は、「日本の著作権法に基づく判断として最も適当なものを選べ」という4択です(大学入試センターの著作物ですので、問題文・選択肢は転載しません。以下は設問構造の説明です)。
注目すべきは、4つの選択肢がそれぞれ別の論点に対応していることです。1つの小問の中で、
- 保護期間が満了した作曲家の作品を自分で演奏する場合の扱い(→ 本講の3-5)
- 他人の著作物をWebページに丸ごと転載する場合の扱い(→ 複製権・公衆送信権。本講の3-3)
- 自分で購入したものを自分の勉強のために複製する場合の扱い(→ 私的使用のための複製。次講)
- 撮影した写真を他人に渡す場合の扱い(→ 原作品の譲渡と著作権の関係)
が横断的に問われています。著作権法の骨格を1問で総ざらいする作りです。逆に言えば「複製権とは何か」を単独で覚えていても解けません。判断の型が要ります。
一方で、令和7年度(2025年)本試験と令和8年度(2026年)本試験の「情報Ⅰ」には、問題本文に「著作」「知的財産」の語が1件も出ていません(両年度の問題PDFを当方で全文検索。2026年8月3日確認)。毎年必ず出るわけではありませんが、追試験では真正面から出ています。「出れば確実に取る」タイプの分野だと考えてください。
5-2. 出題の3つの型
- 著作物にあたるかを判定させる型……「事実だけの記述」「ありふれた表現」「アイデアの段階のもの」を混ぜ、どれが著作物かを選ばせる。判断基準は第2条第1項第1号の4要件ひとつだけです。
- どの権利が侵害されたかを選ばせる型……「無断でコピーした」なら複製権、「無断でネットに上げた」なら公衆送信権、「勝手に一部を切って改変した」なら同一性保持権、「名前を消した」なら氏名表示権。行為と権利名の対応を、条文の順に頭に入れておくのが最短です。
- 産業財産権との区別を問う型……分ける基準はただ1つ、登録が要るかどうか。特許権・実用新案権・意匠権・商標権は出願と登録で権利が発生し、著作権は創作で発生します。
5-3. よく出る引っかけ
| 誤りの選択肢によくある形 | なぜ誤りか |
|---|---|
| 著作権表示(©)がないから自由に使える | 無方式主義なので表示は権利の条件ではない。文化庁も「©を付す法律的な意味はほとんどなくなっています」と書いている |
| 有名でない個人の作品には著作権がない | 発生に有名無名は関係ない(第17条2項) |
| 著作権を買ったので自由に改変できる | 著作者人格権は譲渡できない(第59条) |
| 保護期間は死亡日から70年 | 翌年1月1日から起算する(第57条) |
| アイデアを真似したら著作権侵害 | 著作権は表現を保護する。アイデアの側は特許の守備範囲 |
5-4. 自作の類題
次のうち、日本の著作権法上、著作物に当たらないものをすべて選べ。
① 高校生が撮影した文化祭のスナップ写真
② 気象庁が発表した「本日の東京の最高気温は32.4℃」という記述だけの文
③ 授業で配布された、教員が自作した練習問題のプリント
④ 二分探索というアルゴリズムの考え方そのもの
⑤ 生徒が自分でPythonで書いた並べ替えプログラムのソースコード
答:② と ④
②は「単なる事実」であり、第2条第1項第1号の「思想又は感情」を欠きます(第10条第2項の趣旨も同じ)。④は「解法」なので、第10条第3項により保護が及びません。①③⑤はいずれも著作物です。データベースの構造を思い出すと、4-1の表の10番「数値そのものは事実だが、情報の選択や体系的な構成に創作性があればデータベースの著作物」という切り分けも腑に落ちるはずです。
6. 情報Ⅱではこうなる
6-1. まず数字で見る ── 「著作権」は国の一次資料のどこに、どれだけ書いてあるか
本書恒例の語数調査を、著作権のキーワードで実施しました(2026年8月3日、当方で全文検索)。対象は ①学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編 ②情報Ⅰ教員研修用教材 ③情報Ⅱ教員研修用教材。解説は「共通教科(情報Ⅰ・情報Ⅱ)」の部分と「専門教科情報科」の部分に分けて数えました。
| 語 | 解説 (共通教科) |
解説 (専門教科) |
情報Ⅰ 教材 |
情報Ⅱ 教材 |
|---|---|---|---|---|
| 著作権 | 0 | 8 | 16 | 2 |
| 著作物 | 0 | 1 | 4 | 0 |
| 知的財産権 | 0 | 11 | 6 | 0 |
| 知的財産 | 6 | 22 | 11 | 0 |
| 産業財産権 | 0 | 1 | 7 | 0 |
| 著作者人格権 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 公表権/氏名表示権/同一性保持権 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 複製権/公衆送信権 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 保護期間 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 無方式(主義) | 0 | 0 | 0 | 0 |
| クリエイティブ・コモンズ | 0 | 1 | 0 | 0 |
| 引用 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| パブリックドメイン/公有 | 0 | 0 | 0 | 0 |
読み取れることは3つあります。
(1) 学習指導要領解説の共通教科(=情報Ⅰ・情報Ⅱ)の本文に「著作権」という語は1回も出てきません。 8件はすべて専門教科情報科(情報産業と社会・コンテンツ制作など)の記述です。共通教科側にあるのは「知的財産」6件だけで、その中身は「知的財産に関する法律」「知的財産や個人情報の保護と活用」といった分野名の指定にとどまります。
(2) 本講で扱った語のほぼ全部が、国の3資料すべてで0件です。 著作者人格権も、公表権も、同一性保持権も、複製権も、公衆送信権も、保護期間も、無方式主義も、パブリックドメインも、一次資料の本文には一度も書かれていない。それでいて共通テストは「日本の著作権法に基づく判断」を4択で問う。トレース・サブネット・DNSと同じ「一次資料に無いのに出る」項目で、本書はこれを空白リストに加えました。
(3) 唯一まとまった記述がある情報Ⅰ教員研修用教材でさえ、著作権の分量はおよそ1ページです。 しかも教材自身が、演習の設問でこう書いています。
たくさんの権利の集合体である著作権のすべてを生徒に理解させることは難しい。 そこで,著作権の基本的な考え方を学ばせたい。どのように学ばせればよいか考えてみましょう。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第1章 演習1(2)
国の教材が「全部は無理だ、考え方を学ばせよ」と教員に投げているのです。だからこそ本講は、権利名の一覧ではなく「無方式主義から二階建て構造へ」という考え方の筋で書きました。
6-2. 情報Ⅰでは「守る側」、情報Ⅱでは「発信する側」
情報Ⅰでの著作権は (1)「情報社会の問題解決」に置かれています。学習指導要領解説はこう書きます。
ア(イ)……情報社会で生活していくために、知的財産に関する法律、個人情報の保護に関する法律、不正アクセス行為の禁止等に関する法律などを含めた法規、更に、マナーの意義や基本的内容……を理解するようにする。
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(情報Ⅰ(1))
主語は「情報社会で生活していく」私たちであり、他人の権利を侵害しないための知識として置かれています。
情報Ⅱに入ると立場が変わります。解説 情報Ⅱ (2)ア(ウ) は、コンテンツを社会に発信する方法を扱う項目で、わざわざ情報Ⅰへ逆参照します。
その際、共通教科情報科の第2款の第1「情報Ⅰ」の2の(1)「情報社会の問題解決」での個人情報の取扱いや知的財産の扱いも踏まえ、暗号化などの情報を保護する方法、データを圧縮する方法などについて理解するようにする。
前掲「解説 情報編」(情報Ⅱ(2)ア(ウ))
情報Ⅰで学んだ知的財産の扱いを「踏まえ」たうえで発信せよ、というのが情報Ⅱの要求です。守る側から、出す側へ。ここが分水嶺です。ちなみにこの同じ一文がデータ圧縮を「発信の技術」として再登場させる根拠にもなっています。
6-3. 情報Ⅱ教材が語らないこと ── 「素材」は13件、「著作」は0件
ところが実際の情報Ⅱ教員研修用教材を開くと、驚くことになります。
第2章「コミュニケーションとコンテンツ」── コンテンツ制作を丸ごと扱う章の全文に、「著作」という語が0件です。 一方で「素材」は13件出てきますが、その文脈はすべて管理と効率の側にあります。
コンテンツを制作する上では、文章やイラストといった素材の管理も重要となる。従来であれば、クラウド上にある素材をブラウザで探し、ダウンロードして……クラウド化された素材集を活用することで、アプリケーションからクラウド上のデータを直接扱い、チームで素材を共有することが可能となる。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章 コミュニケーションとコンテンツ(令和2年6月)
素材は「探す・保存する・共有する」対象として語られ、「誰の権利のもとで使ってよいのか」は書かれていません。クリエイティブ・コモンズの語も、情報Ⅰ教材・情報Ⅱ教材ともに0件で、解説にある唯一の1件は専門教科の記述です。
実在のサービスなどに関連するビジネスモデル、オープンソースやクリエイティブ・コモンズといったライセンス形態などの具体的な事例を通して……
前掲「解説 情報編」第2部 専門教科情報科の各科目「メディアとサービス」
つまり「素材の権利処理」と「ライセンスの選択」は、情報Ⅱの教材本文には存在せず、解説の逆参照と専門教科の側にしか書かれていません。 情報Ⅱを取る生徒がコンテンツを作るとき、いちばん最初に突き当たる問題が、教材の本文には無いのです。
6-4. それでも情報Ⅱが「発信者の権利」を要求している証拠
情報Ⅱ教員研修用教材が著作権に触れる数少ない箇所は、いずれも発信者の立場からのものです。第5章の活動例(学校紹介コンテンツの企画・制作)では、動画を扱う場面でこう書かれています。
スマートフォンなどで手軽に動画が撮影できるとはいえ、撮影した動画を公開するためには、一定の編集が必要となり、オフィシャルな宣伝として動画を使用する場合には、肖像権や著作権をはじめ、その内容など、様々な点で注意が必要となる。
前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第5章 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究
「手軽に撮れる」と「公開してよい」は別だ、という指摘です。情報Ⅰでは「他人のものを勝手に使わない」だったものが、情報Ⅱでは「自分が公開する成果物について、映り込んだ人の権利・使った素材の権利・成果物自体の権利をどう処理するか」という設計問題になります。
そして第1章「情報社会の進展と情報技術」では、著作権法が「社会の変化に伴って必要とされてきた法」の一つとして並べられます。
不正アクセス禁止法、デジタルコピー等に対応した著作権法、電磁的記録に対応した刑法……などが挙げられるが、同じ名前の法律であっても、社会の要請に合わせて内容が改正されてきている。
前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第1章 情報社会の進展と情報技術
情報Ⅰ教員研修用教材の側にも、これと呼応する一文があります。
著作権法については数年に一度の頻度で改正されている。 ……文化庁のサイトで常に最新の情報を得ておきたい。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第1章
情報Ⅰでは「今の条文を覚える」、情報Ⅱでは「なぜ改正され続けるのかを情報技術の進展と結びつけて説明する」。 これが本講の第6ブロックの答えです。デジタル化によって複製が劣化しなくなり、ネットワークによって誰でも世界中へ公衆送信できるようになった。技術が変わるたびに、保護と利用のつり合いの取り方が変わる。だから法が動く。著作権法は、情報技術の歴史そのものを映した法律なのです。
6-5. 発信者として身につけるべき3つ
- 素材の利用許諾……第63条第1項「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる」。同条第2項により、使ってよい範囲は許諾された利用方法と条件の範囲内に限られます。「自由に使っていい」と言われても、それがどの範囲なのかを確認するのが発信者の仕事になります。
- クリエイティブ・コモンズ……あらかじめ「この条件なら許諾する」と表示しておく仕組みです。無方式主義のせいで権利者に個別に問い合わせるコストが跳ね上がるという、3-2で見た構造的な問題への実務的な回答だと理解してください。教材本文には無いが、制作の現場では必須の知識です。
- 成果物の権利帰属……グループで作った作品は共同著作物になり、保護期間は「最終に死亡した著作者の死後70年」(第51条第2項の括弧書き)。学校の業務として教員が作れば職務著作(第15条)で学校側が著作者になり得ます。作ったあとで誰のものかを決めるのではなく、作る前に決めておく。これが情報Ⅱのコンテンツ制作プロセスに権利の話が入り込む理由です。
まとめ
- 著作権は創作した瞬間に自動で発生する(第17条第2項、無方式主義)。産業財産権が「出願・登録で発生」するのと正反対。
- 登録制度が無いということは権利者を照合する窓口が無いということ。だから「ネットにあるから自由」は構造的に成り立たない。
- 権利は二階建て。財産権(第21〜28条)は譲渡できる(第61条)が、著作者人格権(第18〜20条)は一身専属で譲渡できない(第59条)。だから「権利を買ったから改変も自由」にはならない。
- 保護されるのは表現だけ。アイデア・事実・ありふれた表現・解法は保護されない(第10条第2項・第3項)。だから同じ事実を自分の言葉で書き直せば別の著作物になる。
- 保護期間は死後70年(第51条第2項)、起算は翌年1月1日(第57条)。期限があるのは、権利を消して社会全体の共有財産にすることが「文化の発展」に必要だと考えられているから(第1条)。
- 語数調査では、著作者人格権・複製権・公衆送信権・保護期間・無方式主義がいずれも解説・情報Ⅰ教材・情報Ⅱ教材のすべてで0件。共通テストに出るのに国の本文に無い、典型的な「情報Ⅰ本文の空白」。
- 情報Ⅰは「他人の権利を侵害しない側」、情報Ⅱは「自分が発信する側」。解説 情報Ⅱ(2)ア(ウ) が情報Ⅰの知的財産の扱いを「踏まえ」と逆参照している。
そして、次の問いが残ります。 世の中のほぼすべてに権利があり、勝手に複製も公衆送信もできないのなら、私たちは他人の文章を1行も引けないのでしょうか。学校の授業でプリントも作れないのでしょうか。そんなはずはありません。では、許諾を得ずに使ってよい場合とは何なのか。 それが次の第13講「著作権②」の主題です。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- e-Gov法令検索「著作権法」(昭和45年法律第48号)第1条・第2条・第10条・第12条・第12条の2・第13条・第15条・第17条〜第21条・第23条・第27条・第28条・第32条・第51条・第57条・第59条〜第61条・第63条
- 文化庁著作権課「著作権テキスト 令和7年度版」
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 情報社会の問題解決
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第1章・第2章・第5章(令和2年6月)
- 大学入試センター 令和7年度 本試験・追再試験、令和8年度 本試験「情報Ⅰ」問題PDF(設問構造の説明にのみ使用。問題文は転載していません)
- 青空文庫「作家別作品リスト:江戸川 乱歩」および「図書カード:怪人二十面相」
本講の続きと、120講の全体像は『藤原進之介の最強120講義』総合ハブにまとめています。制度・法令の記述はすべて2026年8月時点のものです。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第12講のWeb版です。
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