情報Ⅰ 最強120講義

抽象化・可視化・構造化|情報Ⅰ 最強120講義 第21講

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今日の一問
次の問いに答えなさい。
ア(イ)情報デザインが人や社会に果たしている役割を理解することでは,分かりやすく情報を表現するために,目的や受け手の状況に応じて伝達する情報を抽象化,可視化,構造化する方法,年齢,言語や文化及び障害の有無などに関わりなく情報を伝える方法を理解するようにする
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月、p.29 相当
——さて、どこから手をつける?
答えと考え方は、この記事の中で順を追って解説します。

こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第21講「抽象化・可視化・構造化」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はS(毎年出る。落とすと致命的)、情報Ⅱでの接続先は(2) コミュニケーションとコンテンツです。

情報デザインは「暗記でなんとかなる分野」だと思われがちです。実際、多くの受験生が「抽象化・可視化・構造化」の3語を呪文のように覚えて、本番で図を見た瞬間にどれがどれだか分からなくなります。原因ははっきりしていて、3つを同じ種類のものとして覚えているからです。この3つは、動作がまるで違います。そこを整理するのがこの講です。

1. この講の問い

なぜ路線図は、地理的にまったく正確でないのに「正しい図」なのでしょうか。

2. 結論

この講の結論

情報デザインの3手法は、並列に並んだ3つの技法ではありません。抽象化=捨てる、可視化=目に見える形に置き換える、構造化=並べ方と関係を与えるという、動作の違う3つです。このうち情報量を減らすのは抽象化だけで、だから抽象化が最初に来ます。何を捨てるかが決まらなければ、何を見せるかも、どう並べるかも決まらないからです。そして抽象化には必ず損失があります。何を捨てた図なのかを言えることが、情報デザインを「読む」力です。

3. なぜそうなるのか

3-1. この3語は、指導要領解説の1文から来ています

「抽象化・可視化・構造化」は、参考書が勝手に作った語呂ではありません。高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編の、情報Ⅰ (2) ア(イ) にこう書かれています。

ア(イ)情報デザインが人や社会に果たしている役割を理解することでは,分かりやすく情報を表現するために,目的や受け手の状況に応じて伝達する情報を抽象化,可視化,構造化する方法,年齢,言語や文化及び障害の有無などに関わりなく情報を伝える方法を理解するようにする文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月、p.29 相当

さらに同じ (2) のイ(イ) に、3手法それぞれの中身が例示されています。

情報を抽象化する方法としてアイコン,ピクトグラム,ダイヤグラム,地図のモデル化など,情報を可視化する方法として表,図解,グラフなど,情報を構造化する方法として,文字の配置,ページレイアウト,Webサイトの階層構造,ハイパーリンクなどを扱うことが考えられる。その際,全体を把握した上で,構成要素間の関係を分かりやすく整理することが大切である前掲、p.29 相当

冒頭の問いの答えは、実はこの一文の中にあります。「地図のモデル化」が、可視化ではなく抽象化に分類されているのです。路線図は「地図をきれいに見せたもの」ではありません。地図から距離と方角と曲がりを捨てたものなのです。

3-2. 3つは「動作」が違います

3手法を暗記しようとすると必ず混ざります。混ざる理由は、3つを「分かりやすくする工夫」という同じ袋に入れてしまうからです。動作で分けると混ざりません。

手法 入力 出力 動作 情報量
抽象化 現実の事物・複雑な情報 要点だけを残した表現 捨てる 減る
可視化 数量・関係 長さ・面積・位置・形 置き換える 減らない
構造化 要素の集まり 順序・階層・グループ 関係を与える 減らない

いちばん大事なのは右端の列です。情報量を減らすのは抽象化だけ。可視化は、数字という「読まないと分からない形」を長さという「見れば分かる形」に載せ替えているだけで、量そのものは保存されます。構造化にいたっては、要素は1つも減りません。並べ方を変えているだけです。

だから3つは交換できません。「グラフにしたから抽象化した」も「アイコンにしたから可視化した」も誤りです。

3-3. なぜ抽象化が先に来るのか——目的が先、手法は後

文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第2章の学習9「情報をデザインすることの意味」は、デザインの役割をこう定義しています。

何かをデザインするという行為には,必ず達成したい目的が存在している。(中略)つまり,デザインには,「問題解決の手段」という役割が与えられていることになる。「良いデザイン」には,「どのような問題を解決するか」という目的が明確に設定され,「設定された問題が適切に解決されている」という結果が伴っている。文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章、令和2年、p.80 相当

目的が決まらなければ、何を捨ててよいかが決まりません。乗り換えを目的にするなら距離は捨ててよいのですが、徒歩の所要時間を知りたいなら距離こそ残さなければなりません。同じ対象でも、目的が変われば捨てるものが変わります。これが「目的が先、手法は後」の意味です。

同じ教材の学習7には、地図を例にした3手順が書かれています。

例えばある場所の地理情報は,そのままでは多様な情報が入っており複雑すぎる。そこで,移動を目的とした「地図」にする際には,まず受け手が見る方向の地図や縮尺が考慮されて切り取られる。次に地名や交差点名などの名称や建物記号,部分的に色などの情報を足していく。そして移動には優先度が高くない地形や標高などの情報をできるだけ減らしていく。前掲 第2章 学習7、p.67-68 相当

切り取る → 足す → 減らす。この3手順のうち2つが「減らす方向」であることに注意してください。教材は続けてこう断言しています。

デザインは足し算と思われがちであるが,何を間引いていくかの引き算の方が重要である。「シンプル」という言葉は,削った結果であり,引き算と強く関係している。前掲、p.68 相当

「情報デザイン」と聞くと、色を足し、アイコンを足し、飾りを足す作業を想像します。国の教材はその正反対を書いています。引き算が本体なのです。

3-4. 抽象化には必ず損失があります

ここがこの講の着地点です。抽象化は情報を減らす操作ですから、必ず何かが失われます。これは失敗ではなく定義です。

指導要領解説は、まったく別の単元(情報Ⅰ (3) モデル化とシミュレーション)で、この損失をはっきり名指ししています。

現実の事象を抽象化することでコンピュータが扱える形に表現するモデル化のメリットや抽象化に起因するモデル化の限界前掲 解説、p.34 相当

抽象化に起因するモデル化の限界」。限界の原因は抽象化だ、と国が書いています。路線図から実際の距離が分からないのは、路線図の欠陥ではありません。距離を捨てたのですから当然です。

そして第32講で扱ったデジタル化も、この意味では抽象化の一種です。標本化は「測った瞬間と瞬間の間」を捨て、量子化は「段階と段階の間の細かさ」を捨てます。捨てるから軽くなり、捨てるから元には戻りません。抽象化とまったく同じ構造です。本書ではこの「捨てることで使えるようにする」という筋が、第32講・本講・第36講(圧縮)・第59講(モデル化)を貫いています。

損失があること自体は問題ではありません。問題は、誰が何を捨てたのかが見えないことです。教員研修用教材は、そこに倫理の問題があるとまで書いています。

また,この「足す」と「引く」は,情報の真正さにおいて極めて大きな問題である。何を載せて何を載せないのかの判断は,しばしば提供する側の都合によって決定されている。判断基準に対する倫理感が必要である。前掲 第2章 学習7、p.68 相当

図を作る側の話として読んでもよいのですが、受験生にとって重要なのは読む側の話としてです。目の前の図は、誰かが何かを捨てた結果です。「何を捨てた図か」を言えるようになること。それが情報デザインを読む力であり、グラフの嘘(第96講)につながる入口でもあります。

3-5. 可視化だけ、情報デザインの本文に居ません

ここで一次資料の妙な事実を1つ挙げます。3手法の語が国の文書に何回出てくるかを数えてみました(PDFをテキスト化し、改行・空白を除いてから全文検索。2026年8月3日実施)。

ただし数える前に、1つ大きな罠を外しておかなければなりません。学習指導要領解説 情報編は、1冊の中に第1部「各学科に共通する教科『情報』」(=私たちの情報Ⅰ・情報Ⅱ)と、第2部「主として専門学科において開設される教科『情報』」(=専門高校の専門教科情報科)の両方が入っています。そして専門教科情報科には「情報デザイン」という科目そのものが存在します(解説 第2部 第2章 第9節、p.143以降)。ですから解説の全文で語を数えると、専門高校の話が混ざります。実際、区別するとこうなります。

解説 情報編
全文
うち第1部
(情報Ⅰ・Ⅱ)
うち第2部
(専門教科)
情報Ⅰ教材 第2章
(情報デザイン)
情報Ⅰ教材 第4章
(データの活用)
情報Ⅱ教材
第2章
抽象化 9 9 0 6 0 0
可視化 23 18 5 1 77 0
構造化 22 6 16 12 1 16
情報デザイン 156 52 103 47 0 12

区別しないと何を見誤るか、2つあります。

第1に、「構造化」の扱いを大きく見誤ります。全文では22件ありますが、私たちに関係する第1部はわずか6件で、残り16件は専門高校の話です。しかも第1部の6件のうち、情報デザインの文脈は冒頭の2件だけで、あとの4件はプログラムの構造化(関数で分割する話)と構造化データ(関係データモデルの話)という、まったく別の意味です。つまり共通教科の情報Ⅰで「情報デザインとしての構造化」を指している解説の記述は、実質2件しかありません。

第2に、「情報デザイン」という語の重心を見誤ります。156件のうち103件は専門教科側です。専門高校には「情報デザイン」という科目があり、その指導項目は (1) 情報デザインの役割と対象/(2) 情報デザインの要素と構成/(3) 情報デザインの構築(ア 情報の収集と検討/イ コンセプトの立案/ウ 情報の構造化と表現)/(4) 情報デザインの活用、と細かく立てられています。ネットで「情報デザイン 学習指導要領」と検索して出てきた記述が、実は専門高校向けだった、ということが起こりえます。語を数えるときは、どちらの部の話かを必ず確かめること。この記事のもとになっている参考書では、この区別を全部の講で徹底しています。

さて、第1部に限って見ても、可視化だけが情報デザインの章にほとんど居ません。情報Ⅰ教員研修用教材 第2章にある1件は、冒頭の「学習内容の全体像」という目次的な一覧の中にあるだけで、本文の説明には一度も出てきません。代わりに可視化は、同じ教材の第4章「情報通信ネットワークとデータの活用」に77件集中しています。

文部科学省の「授業・研修用コンテンツ」でも同じことが起きています。「コミュニケーションと情報デザイン」の単元に用意されたコンテンツは4本で、題名は次のとおりです。

「コミュニケーションと情報デザイン」の授業・研修用コンテンツ(全4本)

1. 情報デザインの要!情報の構造化
2. 情報デザインの極意!【具体化】と【抽象化】
3. これで君もクリエイター!コンテンツ制作の流れとコツ
4. デジタル化の現場で学ぶ!マルチメディア作品の作り方!

可視化を冠したものは1本もありません。そして注目してほしいのは2本目で、抽象化は「可視化」とではなく「具体化」と対にされています。抽象化の反対語は可視化ではない、というのが国の並べ方です。ここからも、3つが並列の技法ではないことが読み取れます。

つまり制度上、可視化の作法はデータの単元で身につける建て付けになっているのです。ヒストグラムと箱ひげ図(第85講)データの種類と尺度(第80講)が第4部にあるのは、そういう事情です。受験生の側でやるべきことは1つだけです。「情報デザイン=抽象化と構造化」で終わらせず、データ側で学ぶ可視化を、この3手法の枠に自分でつなぎ直しておくこと。共通テストは単元をまたいで出題しますから、つないでいない人だけが損をします。

なお、教員研修用教材は可視化についての誤解も先回りして潰しています。

一般的に,視覚情報は文字よりも認知過程がシンプルである。そのため「分かりやすくする=視覚化する」と短絡的に解釈されることがあるが,これは誤りである。前掲 第2章 学習7、p.68 相当

図にすれば分かりやすくなる、ではありません。目的に対して図が向いているときだけ分かりやすくなります。ここでも判断の起点は目的です。

3-6. 構造化は「要素を減らさずに理解を変える」

構造化の定義も教材にあります。

情報の構造化とは,情報をある基準を用いて整理し,整理された情報同士を結び付けていくことである。前掲 第2章 学習9、p.82 相当

「ある基準を用いて整理」の部分が、いわゆる「究極の5個の帽子掛け」であり、その中身は構造化を扱う次の講に譲ります。この講で押さえるのは動作のほうです。構造化では要素が1つも減りません。減らさずに、順序・階層・グループという関係だけを足す。それだけで理解のしやすさが変わる、というのが構造化の主張です。

もう1つ、構造化まわりで必ず引っかかる語があるので先に潰しておきます。「整列」です。

⚠️「整列」は情報Ⅰの中に2つの意味で出てきます

①デザインの整列(Alignment)=要素の位置を揃えること。教員研修用教材 第2章は「デザイン原則としてよく知られているものは,『近接』『整列』『反復』『対比/強弱』のルールである」と書き、目の特性(ゲシュタルトの法則)の話として扱います。
②並べ替えの整列(ソート)=データを昇順・降順に並べ替えること。同じ教材の第3章に「二分探索は,事前に昇順または降順にデータを整列させる必要がある」と出てきます。

私が数えたところ、情報Ⅰ教員研修用教材の「整列」は全4件で、うち3件は①のAlignment(すべて第2章)、②のソートは第3章の1件だけでした。字面が同じでも領域が違います。情報デザインの問題文に「整列」とあればまず①、アルゴリズムの問題文にあれば②です。迷ったら「何を揃えているか」を見てください。位置を揃えているなら①、値の大小で並べ替えているなら②です。

3つを1行で

抽象化:目的に不要なものを捨てる(情報は減る/元に戻せない)
可視化:量や関係を目に見える形に置き換える(情報は減らない)
構造化:要素はそのままに並べ方と関係を与える(情報は減らない)

3-7. 教科書会社の指導書も、路線図で同じことを言っています

ここまでは国の文書だけを見てきました。教科書の側はどうでしょうか。教科書発行社の1つである日本文教出版が公開している『情報Ⅰ』指導書の解説編に、冒頭の問いの答えがそのまま書かれています。

鉄道の路線図では,各駅は地理上の絶対的な位置関係(どの方向に何 km 離れているか)は示しておらず,各駅間を結ぶ路線の接続状況のみを示している。それは,鉄道利用者にとっては地理的な位置よりも,どの路線を使い,どこで乗り換えるのかなどの情報を得ることが重要な行為だからである。日本文教出版『情報Ⅰ』指導書 解説編(見本)「14 情報デザイン」/2022年度用教科書対応、p.54-55 相当

「示しておらず」=捨てている、「重要な行為だから」=目的が決めている。同じ資料は、抽象化そのものもこう定義しています。

抽象化では,利用者にとって重要な本質的な情報だけを取り出し,余計な情報は捨て去る。したがって,抽象化の作業では何が伝えられるべき情報なのかについて,事前に理解できていることが前提となる。前掲

最後の一文が効いています。「事前に理解できていることが前提」——何を伝えるべきかが先に分かっていなければ、抽象化という作業は始められません。3-3で「目的が先、手法は後」と書いたことを、教科書会社は「前提」という語で言っているわけです。

そして可視化の定義はこうです。

そのデータから見出した意味を伝えるには,データそのものを提示するのではなく,グラフや表などの形で表現し直したものを使うほうがよい。このような手法を可視化という。前掲

「表現し直したもの」。捨てるのではなく、載せ替える。国の教材と教科書会社の指導書が、別々の言葉で同じ区別をしていることを確認しておきたいところです。

3-8. 国が示す授業例には、3語が1度も出てきません

もう1つ、意外な一次資料を挙げます。文部科学省は2024年5月7日に「共通教科情報科『情報Ⅰ』の学習指導と学習評価の工夫・改善について」という事例集を公表しており、その中に単元「情報デザイン」の実践事例(北海道教育委員会作成)が入っています。

この事例で単元は4つの小単元に分けられ、探究の過程に対応づけられています。

小単元 探究の過程 時間
① 情報デザインの方法 課題の設定 1時間
② 社会の中での情報デザインの分析と探究 情報の収集 1時間
③ コンテンツの企画と制作 整理・分析 1時間
④ コンテンツの評価と改善 まとめ・表現 2時間

生徒がやるのはピクトグラムの制作です。シンキングツールで企画し、図形描画アプリで作り、クラウドに保存して5人程度のグループで相互評価し、助言をもとに修正します。評価規準は3観点でこう置かれています。

【知識・技能】情報デザインの考え方について理解し、情報デザインの方法を身に付けている。
【思考・判断・表現】目的や受け手の状況に応じた情報デザインを考え、情報デザインの考え方や方法を用いて表現できる。
【主体的に学習に取り組む態度】コミュニケーションの目的を明確にしようと粘り強く取り組もうとし、学習活動を振り返ることを通して、自らの学習を調整しようとしている。文部科学省「学習指導と学習評価の工夫・改善」高等学校「情報Ⅰ」単元「情報デザイン」/北海道教育委員会、2024年5月7日公表

ここで数えてほしいのです。この事例集の当該資料に、「抽象化」は0件、「構造化」も0件です(「可視化」の1件は「ピクトグラム制作の過程を可視化し」=制作過程を見えるようにする、という別の用法)。国が示す授業のモデルケースに、3語が1度も出てきません。

これは3語が不要という意味ではありません。3語は活動そのものではなく、活動を分析するための枠だということです。ですから「3語を覚える」という勉強のしかたは、そもそも狙いを外しています。事例集に載った生徒の振り返りが、それを裏から証明しています。

2色で表現することです。実際に社会で使われているピクトグラムの多くは2色です。2色でパーツとパーツの区別をつけることと情報を分かりやすく伝えることの両立に苦労しましたが、最終的には表現することができました。前掲、生徒の振り返り記述の例

「2色で」というのは、色という情報を極端に捨てるという制約です。捨てれば伝わらなくなる方向に働き、捨てなければ図記号になりません。この生徒は、抽象化という語を使わずに、抽象化のトレードオフを正確に説明しています。求められているのはこの理解であって、語の暗記ではありません。

4. 手で確かめる

4-1. 路線図を自分で作ってみます

同じ路線を2通りに描きます。片方は駅の実際の位置どおり、もう片方は抽象化したものです。

① 地理的に正確な図(実際の位置どおり) 北町 中央 市役所前 大学前 東谷 駅が詰まる所と離れる所ができ、線も曲がる ② 抽象化した図(=路線図) 北町 中央 市役所前 大学前 東谷 捨てた:距離・方角・線の曲がり 残した:駅の順序・どこがつながっているか
図1 同じ路線を、地理的に正確に描いた図(上)と抽象化した図(下)

抽象化した図で捨てたものは、駅間の距離・方角・線路の曲がりの3つ。残したものは、駅の順序・どの駅とどの駅がつながっているか・乗換駅がどこか、の3つです。

乗り換え案内という目的に対しては、捨てた3つはどれも要りません。だから抽象化した図のほうが「正しい」のです。逆に「隣の駅まで歩けるか」を知りたい人にとって、この図は使えません。同じ図が、目的によって正しくも間違いにもなる。これが3-3で書いたことの実物です。

4-2. 1つの情報を、4通りに作り分けます

題材は「ある高校生の学校での1日」。8時30分から17時00分まで、合計510分です。まず加工前のデータを置きます。

① 生データ(何も加工していない一次情報) 8:30 – 8:45  朝の連絡    15分 8:45 – 10:35  1・2限     110分 10:35 – 10:45 休憩      10分 10:45 – 12:35 3・4限     110分 12:35 – 13:15 昼食      40分 13:15 – 15:05 5・6限     110分 15:05 – 15:20 清掃      15分 15:20 – 17:00 部活動     100分
図2 ① 生データ。合計 15+110+10+110+40+110+15+100=510分(8:30+510分=17:00)

この510分を、3手法でそれぞれ加工します。まず抽象化です。

② 抽象化した図(8項目 → 4種類) 授業 休憩・食事 連絡・清掃 部活動 捨てた:時刻・順序・8項目それぞれの名前(もう復元できない) 残した:その日にどんな種類の活動があったか
図3 ② 抽象化。情報が減っている=元のデータには戻せない

この図からは「3・4限が何時からだったか」は復元できません。これが抽象化の損失です。次に可視化。時間の長さを、そのまま帯の長さに置き換えます。

③ 可視化した図(1分=1目盛りの帯) 8:30 12:00 17:00 授業 休憩・食事 連絡・清掃 部活動 捨てたもの:なし / 足したもの:長さと位置という視覚的な量
図4 ③ 可視化。授業(青)の合計が 330 分=全体の約65%(330÷510=0.647)だと一目で分かる

表を見ても「授業が多い」としか言えませんが、帯にすると授業が全体の約65%を占めることが一瞬で分かります。数字は表にもあったのに、比較は帯にしないとできません。これが可視化の仕事です。最後に構造化。要素は1つも捨てずに、並べ方だけを変えます。

④ 構造化した一覧(1日 → 種類 → 個々の活動) 1日(510分) 授業 330分 部活動 100分 休憩・食事 50分 連絡・清掃 30分 1・2限 3・4限 5・6限 部活動 休憩 昼食 朝の連絡 清掃 捨てたもの:なし(8項目すべてがどこかに載っている) 足したもの:分類という関係と、合計という要約
図5 ④ 構造化。検算:330+100+50+30=510分。①と一致する

4つを見比べると、②だけが情報を減らしていることが分かります。②は元に戻せず、③と④は元に戻せます。3手法の違いは、この「戻せるかどうか」で判定できます。ここまで自分の手で1度作っておくと、本番で図を見た瞬間に「これは減っているか、減っていないか」で分類できるようになります。

5. 共通テストではこう出る

重要度:S。情報デザインは共通テストの (2) 領域そのものです。大学入試センターが公表した試作問題『情報Ⅰ』の構成では、第1問 問4(配点4点)が「(2) コミュニケーションと情報デザイン」に、第2問 A(配点15点)が「(1) 情報社会の問題解決/(2) コミュニケーションと情報デザイン」に割り当てられています(大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表)。合計で最大19点が関わる枠です。

同じ資料の第1問 問4の設問概要は、こう書かれています。

情報デザインの考え方について,問題文から読み取った内容を踏まえて,示された情報がどの基準に基づいて整理されているかについて考察できるかを問う。大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表

「暗記しているか」ではなく「考察できるか」です。出題の型は次の3つに整理できます。

型1:図の意図を読む型

提示された図やサインについて、それが何のために作られたかを問う型です。まず目的を特定し、次にその目的のために何を捨てているかを見ると、選択肢が絞れます。「この図から分からないことはどれか」という聞き方をされたら、それは捨てたものを聞かれています。

型2:どの手法が使われているかを選ぶ型

3-2の表の右端、「情報量が減っているか」で判定します。要素が消えていれば抽象化、量が形や長さになっていれば可視化、要素は同じで並びだけ変わっていれば構造化です。3つの定義を言葉で覚えていると迷いますが、この基準なら図を見るだけで決まります。

型3:改善案を選ぶ型

「もっと分かりやすくするにはどうすればよいか」を選ばせる型です。ここでの引っかけは決まっていて、「情報を足した選択肢」と「正確さを上げた選択肢」です。路線図を地理的に正確に直す案、案内図に建物の名前を全部書き足す案は、たいてい誤答になります。目的に照らして不要なものを足しているからです。教員研修用教材が「引き算の方が重要」と書いているのは、まさにここに効きます。

まとめると、情報デザインは暗記科目に見えて、実際は目的から手法を導く問題です。設問文には必ず「誰に、何のために」が書いてあります。そこを線で囲ってから選択肢を見る。それだけで、用語を覚えていなくても答えが出る設問が少なくありません。

なお、ピクトグラムは社会の側でも規格化されています。案内用図記号(JIS Z 8210)は、国土交通省の説明によれば「不特定多数の人々が利用する公共交通機関や公共施設、観光施設等において、文字・言語によらず対象物、概念または状態に関する情報を提供する図形」です。文字・言語によらずという部分が抽象化そのもので、だからこそ言語の違う人にも届きます。抽象化は「省略」ではなく「共有できる形にすること」でもある、という側面はここで押さえておきましょう。

6. 情報Ⅱではこうなる

6-1. 語数で見る分水嶺

3-5で出した表に、情報Ⅱ側を足します。

解説 情報編
第1部
情報Ⅰ教材
第2章
情報Ⅱ教材
第2章
情報Ⅱ教材
序章+第1〜5章 合計
抽象化 9 6 0 2(第1章のAI技術年表の図の中)
可視化 18 1 0 12(うち6件は第3章)
構造化 6 12 16 23
要件定義 2(2件とも情報Ⅱ側) 0 5 30(第4章が21件で最多)

※情報Ⅱ教材は序章・第1章・第2章・第3章前半・第3章後半・第4章・第5章の全7分冊を数えました。第3章は2分冊に分かれており、片方だけを見ると数を誤ります。

情報Ⅱの「(2) コミュニケーションとコンテンツ」に進むと、「抽象化」「可視化」という語は情報デザインの文脈から消えます。残るのは構造化だけで、しかも増えます。代わりに現れるのが要件定義です。この語は情報Ⅰ教員研修用教材の全4章に0件、解説 情報編にも2件しかなく、その2件はどちらも情報Ⅱ (4) の説明の中にあります(=第1部側。専門教科側には0件)。情報Ⅱ側の内訳は第2章5件・第4章21件・第5章4件の計30件で、第4章「情報システムとプログラミング」が本丸です。

6-2. じつは情報Ⅰの教科書指導書に、すでに「要件の定義」が書かれています

ただし、この語が情報Ⅱで突然生えてくるわけではありません。3-7で引いた日本文教出版の指導書は、情報Ⅰの段階で「情報デザインの流れ」をこう図示しています。

問題の発見 → 情報収集と分析 → 要件の定義 → 試作と評価 → 改善と運用日本文教出版『情報Ⅰ』指導書 解説編(見本)「14 情報デザイン」図1/2022年度用教科書対応

そして本文でこう説明します。

この流れでいうと「問題の発見」が「デザイン対象の発見」であり,「要件の定義」が「デザインのための要件定義」になる。情報デザインでは,試作品の制作と評価,改善のプロセスが1回で済むことは少なく,何度か試作品をつくっては改善するという作業が必要となる。前掲

国の教材には0件の語が、教科書の指導書には情報Ⅰの段階で入っています。これは矛盾ではなく、情報Ⅱへの助走が教科書側で先に始まっている、ということです。共通テストは学習指導要領の範囲で作られますから、この語自体が情報Ⅰで直接問われることはまずありません。ですが考え方は同じなので、情報Ⅱに進む人はここでつないでおくと楽になります。

6-3. 「捨てる」が「要件定義」という工程になります

情報Ⅱ教員研修用教材 第2章の学習8「プロトタイプの作成」は、制作を5つの工程に分けています。

❶調査(ユーザーの観察・共感)/❷問題解決のための仮説の作成/❸要件定義/❹プロトタイプの設計・作成/❺検証文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章、令和2年6月、p.79 相当

そして要件定義の説明は、こうです。

ここで重要なのは,機能として必要なものと不必要なものを分類することである。最低限実装しておかないとユーザーが困るものは何か,なくても問題ないものは何かという視点から考えるようにするとよい。前掲、p.81 相当

必要なものと不必要なものを分類して、不必要なほうを消す。これは情報Ⅰで学ぶ抽象化と、まったく同じ動作です。違うのは名前と立場だけ。情報Ⅰでは「分かりやすく伝えるための考え方」だったものが、情報Ⅱでは制作工程の第3段階という具体的な作業になり、削った機能の一覧が成果物として残ります。教材は学校の連絡アプリを例に、「フォトアルバム」は要らないので削除対象だ、とまで書いています。

6-4. 構造化は「作業手順」になります

続く「プロトタイプの設計・作成」で、構造化はこう扱われます。

具体的な機能の整理は,リスト化→グルーピング→構造化の3つのステップで行う。前掲、p.81 相当

情報Ⅰでは「情報をある基準で整理して結び付けること」という概念だった構造化が、情報Ⅱでは手順の最後の1ステップになります。しかも順番が決定的で、要件定義(=捨てる)が先、構造化(=並べる)が後。この講で「抽象化が先、構造化が後」と言ったことが、情報Ⅱでは工程表として明文化されているわけです。

さらに構造化は、情報Ⅱの他の章にも生き残ります。第3章では「構造化データ(行列データ)」、第4章では「プログラムの構造化」と、作業を分解する「WBS(Work Breakdown Structure)」。3手法のうち構造化だけが、デザインを離れてもそのまま道具として使われ続けます。

6-5. 「効果測定」は語ではなく、工程として在ります

情報Ⅱの (2) は、作って終わりではありません。学習指導要領解説 情報Ⅱ (2) イ(ウ) の説明にはこうあります。

例えば,コンテンツの発信が及ぼす効果や影響について取り上げ,Web上のアンケートシステムやアクセス履歴などから定量的な分析を行い,コンテンツの改善について扱うことなどが考えられる。前掲 解説、p.47 相当

教員研修用教材の学習10「コンテンツの発信と改善」は、これを実際の指標に落としています。Webサイトならアクセス解析(どのページが見られ、どこで離脱したか)、SNSなら分析ツール(表示回数・反応数・拡散数)。そして次の一文が置かれます。

Webサイトにおいて,ユーザーに到達してほしい最終的な成果のことをコンバージョン(Conversion)という。(中略)ユーザーの反応の分析とコンテンツの改善は,コンテンツに触れた人のコンバージョン率を高めることが目的となる。前掲 情報Ⅱ教材 第2章 学習10、p.99 相当

教材はさらに、アクセス解析やSNSの数値は定量的に得られるので比較できるが、投稿フォームや返信から得られる声は定性的なので比較は難しい、と両者を区別しています。

ひとつ注意点です。「効果測定」という語そのものは、情報Ⅱ教員研修用教材の全5章に1件も出てきません(テキスト化して全文検索、2026年8月3日)。使われるのは「評価」「改善」「定量的」です。用語として覚えるのではなく、評価の基準が「先生や友人の主観」から「アクセス履歴という数値」へ移るという中身を押さえるほうが正しい理解です。

6-6. 情報Ⅰと情報Ⅱの違いを1行で

情報Ⅰ (2) と 情報Ⅱ (2) の違い

情報Ⅰ:3手法を理解する。作品を作り、自己評価・相互評価で振り返る。評価は主観でよい。
情報Ⅱ:捨てる作業に要件定義という名前と工程が付き、並べる作業はリスト化→グルーピング→構造化という手順になり、評価はアクセス履歴とコンバージョン率という数値になる。

抽象化・可視化・構造化という語が消えるのではありません。動作が工程名に置き換わり、測れる形になるのです。

7. この講のまとめ

  • 3手法は指導要領解説 情報Ⅰ (2) の1文が出典。そこでは「地図のモデル化」が抽象化に分類されている。
  • 動作が違う。抽象化=捨てる(情報が減る)/可視化=置き換える/構造化=関係を与える。減らすのは抽象化だけ。
  • だから抽象化が先。何を捨てるかは目的が決める。目的が先、手法は後。
  • 抽象化には必ず損失がある。解説は「抽象化に起因するモデル化の限界」と書く。デジタル化(第32講)と同じ構造。
  • 教員研修用教材は「引き算の方が重要」「何を載せて何を載せないかは提供側の都合になりがち」と書く。何を捨てた図かを言えることが読む力。
  • 可視化だけ、情報デザインの章の本文に居ない(第2章1件・第4章77件)。可視化の作法はデータの単元側にある。国の授業用コンテンツも4本中に可視化の回が無く、抽象化は具体化と対にされている。
  • 解説 情報編は第1部(情報Ⅰ・Ⅱ)と第2部(専門教科)が1冊に同居している。「構造化」22件のうち第1部は6件だけ、「情報デザイン」156件のうち103件は専門教科側。どちらの部の話かを確かめずに数えると読み違える。
  • 国が示す授業の実践事例(ピクトグラム制作)には、3語が1度も出てこない。3語は活動ではなく、活動を分析する枠。
  • 共通テストは「考察できるか」を問う。目的を特定 → 捨てたものを見る、で選択肢が絞れる。足す案・正確にする案は引っかけになりやすい。
  • 情報Ⅱでは、捨てる=要件定義、並べる=リスト化→グルーピング→構造化、評価=アクセス解析とコンバージョン率になる。「要件の定義」は教科書の指導書なら情報Ⅰ段階ですでに図示されている。

出典(すべて2026年8月3日に取得。語数はいずれもPDFをテキスト化した全文検索)

  • 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
  • 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章 コミュニケーションと情報デザイン(令和2年)/第4章 情報通信ネットワークとデータの活用(令和2年)
  • 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章 コミュニケーションとコンテンツ(令和2年6月)
  • 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材(本編)」一覧(序章+第1〜5章/第3章は前半・後半の2分冊、計7分冊)
  • 文部科学省「高等学校情報科 授業・研修用コンテンツ」
  • 文部科学省「共通教科情報科『情報Ⅰ』の学習指導と学習評価の工夫・改善について」高等学校「情報Ⅰ」単元「情報デザイン」、「探究的な学び」(北海道教育委員会作成、2024年5月7日公表)
  • 日本文教出版『情報Ⅰ』指導書 解説編(見本)「14 情報デザイン」/2022年度用教科書対応
  • 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表
  • 国土交通省「バリアフリー:案内用図記号(JIS Z 8210)」

この講は情報Ⅰ 最強120講義(全講一覧)の第21講です。抽象化と同じ「捨てる」構造を持つデジタル化は第32講 デジタルとアナログで、可視化の実物は第85講 ヒストグラムと箱ひげ図第80講 データの種類と尺度で扱っています。情報Ⅱという科目そのものの全体像は第109講 情報Ⅱの全体像にまとめました。制度の話はすべて2026年8月時点の情報です。

執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)

オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第21講のWeb版です。

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