こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第38講「CPU・メモリ・記憶階層」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はB、情報Ⅱでの接続先は(4)情報システムとプログラミングです。
前の第37講「コンピュータの構成と5大装置」では「5つの機能に分けて考える」という枠組みを扱いました。本講はその先、記憶がなぜ何段にも分かれているのかを扱います。この講には、私が実際に手元のMacで測った数値が出てきます。読者のみなさんも同じことができます。
1. この講の問い
なぜコンピュータの記憶は、1種類で済ませずに、何段にも分かれているのか。
2. 結論
1. 速い記憶は高く、安い記憶は遅い。 全部を最速の記憶で作れるならそうしている。できないから、よく使うものだけを近くに置く。これが記憶階層です。
2. 「主記憶/補助記憶」は1本の軸で分かれていません。 速度・容量・価格・電源を切ると消えるか。複数の軸で見ると、暗記が要らなくなります。
3. 令和8年度本試験は、まさにここを第1問の冒頭で問いました。正答率は0.2939でした。
3. なぜそうなるのか
3-1 全部を最速のメモリにできるなら、とっくにそうしている
記憶階層の話は、たいてい「レジスタ・キャッシュ・主記憶・補助記憶の順に速く、順に小さい」という表から始まります。私はこの順番から入るのは損だと思っています。表を覚えても、なぜその表になるのかが分からないからです。
出発点はもっと素朴です。速い記憶は、高い。
もしお金が無限にあるなら、コンピュータの記憶は全部いちばん速い素材で作ればいい。階層など要りません。実際には作れない。1バイトあたりの値段が違いすぎるからです。
すると設計者は選択を迫られます。「全部を速くする」が無理なら、次に良いのは何か。
答えが「よく使うものだけを速いところに置く」です。全部は無理でも、一部なら手が届く。そして幸運なことに、プログラムは記憶をまんべんなく使いません(3-5で実際に確かめます)。だから一部を速くするだけで、体感はかなり速くなる。
記憶階層は、けちった結果ではなく、けちりながら速くするための工夫です。「お金が足りないから仕方なく」ではなく、「限られた予算で最大の速さを買う方法」として設計されています。
記憶階層。数値はすべて筆者が手元のMac(Apple M3)で実測したもの(2026年8月3日)。
3-2 なぜ「主」と「補助」に分かれるのか——軸を1つに決めない
ここで多くの受験生がつまずきます。「主記憶=メモリ、補助記憶=ストレージ」と1対1で覚えて、少しひねられると崩れる。
崩れない覚え方は、分類の基準を1つに決めないことです。主記憶と補助記憶は、少なくとも4本の軸で違います。
| 軸 | 主記憶 | 補助記憶 |
|---|---|---|
| 速度 | 速い | 遅い |
| 容量 | 小さい | 大きい |
| 1バイトあたりの価格 | 高い | 安い |
| 電源を切ると | 消える | 残る |
4本目だけ、性質が違うことに気づいてください。速度・容量・価格は「程度の差」ですが、電源を切ると消えるかどうかは「質の差」です。程度の差は連続的に並べられますが、質の差は境界線を引きます。
そして——ここが本講でいちばんお伝えしたいことなのですが——この4本目の軸は、高校の一次資料に一度も出てきません。
私は次の資料を全文テキスト化し、空白と改行を除いてから検索しました(2026年8月3日実施)。
- 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編(第1部=共通教科/第2部=専門教科を分けて)
- 情報Ⅰ教員研修用教材(序章+第1〜4章の全6分冊)
- 情報Ⅱ教員研修用教材(序章+第1〜5章、第3章は前半・後半の2分冊の全7分冊)
結果は、「揮発性」0件・「不揮発性」0件。語が無いだけでなく、「電源を切ると消える/残る」という内容も見当たりません。念のため「電源」で拾った8件を1件ずつ目で見ましたが、プリンタの電源、フロッピーディスク、スマート家電の照明、無停電電源装置(UPS)で、記憶の話は1件もありませんでした。
一方、IPA ITパスポート試験シラバス Ver.6.5(2026年1月8日適用開始)には、「41.メモリ」の(1)メモリの種類と特徴の用語例に「揮発性メモリ,不揮発性メモリ(フラッシュメモリ)」が入っています。
主記憶と補助記憶を分ける最も本質的な基準が、高校の一次資料には無く、その1段外側には在る。 だからこそ、ここは自分で埋めておく価値があります。
3-3 CPUが速くなっても、全体は速くならない
記憶階層が生まれた歴史的な理由は、一文で言えます。CPUだけが速くなり、メモリが追いつかなかった。
これは私の意見ではありません。情報Ⅰ教員研修用教材 第3章 学習11 が、自分でそう書いています。
メモリが少ない場合は,あふれたデータをハードディスクに保存するため,ハードディスクとのデータのやり取りにほとんどの時間がとられ,いくらCPUが高速でも実行速度は上がらない
文部科学省『高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材』第3章(令和2年/2026年8月3日取得)
「いくらCPUが高速でも実行速度は上がらない」。記憶階層という語を一度も使わずに、記憶階層が必要な理由そのものを書いているわけです。
第37講で、この教材が「制御装置,演算装置,記憶装置,入力装置,出力装置の5つで構成される」と書く場所を見ました。その同じ学習11の中に、この一文があります。教材は、装置を並べたあと、すぐに「速さの釣り合い」の話に移っている。 順番を追って読むと、5つの装置の分類より、こちらのほうが主張として強いことが分かります。
3-4 キャッシュは「予測」である——だから外れる
では、よく使うものだけを近くに置く、として。「よく使うもの」を誰がどうやって知るのでしょうか。
プログラムが「次はこれを使います」と申告してくれるわけではありません。だからコンピュータは当てにいきます。直前まで使っていたものと、その隣を、近くに引っ張っておく。それがキャッシュです。
キャッシュは記憶装置というより、予測の仕組みです。 そして予測である以上、外れます。当たれば速い、外れれば元の遅さに戻る(正確には、外しに行った分だけ少し遅くなる)。
私はここが、この講でいちばん面白いところだと思っています。コンピュータの中に、確率で動いている部分がある。 決まった手順を決まった通りに実行する機械だと思っていたものの内側に、「たぶんこれだろう」と賭けている場所がある。
「キャッシュメモリ」は高校の一次資料に0件です。 ただし、ここは検索の落とし穴があるので、実際に見た数字を書いておきます。
素朴に「キャッシュ」で検索すると、情報Ⅰ教材 第1章に3件、情報Ⅱ教材 第1章に12件、合計15件がヒットします。しかし15件すべてを目で確認したところ、キャッシュカード1件・キャッシュレス決済14件で、記憶装置の意味は0件でした。
同じく「レジスタ」は情報Ⅱ教材 第1章に1件出ますが、これは画像認識AIレジの説明文にある「レジスタッフ」が行末で分断されたもので、CPU内のレジスタではありません。
件数だけを見て「12件も扱っている」と書くと、まるごと誤りになります。
3-5 なぜ予測が当たるのか——局所性
キャッシュという賭けが成立するのは、プログラムの記憶の使い方が偏っているからです。
- さっき使ったものを、また使う(時間的な偏り)
- さっき使ったものの隣を、次に使う(場所的な偏り)
配列を先頭から順に足し合わせる処理を思い浮かべてください。a[0] の次は a[1]、その次は a[2]。隣です。 第52講で「配列はメモリ上の並びである」と書きましたが、その「並んでいる」という性質が、そのままキャッシュの当たりやすさになっています。
この偏りを局所性と呼びます。……と書きたいところなのですが、「局所性」「参照の局所性」は、私が調べた範囲では一次資料に1件もありません。 高校の3資料に0件なのは予想どおりでしたが、IPAの ITパスポート Ver.6.5・基本情報 Ver.9.2・応用情報 Ver.7.2 にも0件でした。キャッシュが効く理由そのものが、シラバスの語彙には無いわけです。
ですから本書では、「一般に局所性と呼ばれる」と主語を分けて書きます。そのうえで、語を覚える価値は低く、現象を自分で測る価値は高いと申し上げます。次の第4節でそれをやります。
3-6 「記憶階層」という語の、奇妙な位置
最後にもう1つ、数字を出しておきます。
| 資料 | 記憶階層 | キャッシュ メモリ |
揮発性 | 局所性 |
|---|---|---|---|---|
| 解説 情報編 第1部(共通教科) | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 解説 情報編 第2部(専門教科) | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 情報Ⅰ教員研修用教材(全6分冊) | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 情報Ⅱ教員研修用教材(全7分冊) | 0 | 0 | 0 | 0 |
| IPA ITパスポート Ver.6.5 | 3 | 1 | 1 | 0 |
| IPA 基本情報 Ver.9.2 | 3 | 2 | 1 | 0 |
| IPA 応用情報 Ver.7.2 | 3 | 3 | 1 | 0 |
普通、こういう表は「高校で軽く、上の試験で厚く」という段差になります。ところがこの表は段差になっていません。高校が0で、ITパスポートの時点でもう3件あり、そこから応用情報まで増えない。
ITパスポートは情報処理技術者試験のレベル1、最も入門的な区分です。そのシラバスの中分類15「コンピュータ構成要素」は、40.プロセッサ/41.メモリ/42.入出力デバイス の3項目で構成され、41.メモリの(3)がまるごと「記憶階層」。項目名として立っています。用語例は「キャッシュメモリ,主記憶,補助記憶」。
つまり、記憶階層は「高校の次に習うこと」ではなく、「高校を通り越したところで、いきなり入門レベルとして扱われていること」です。この非対称は、第5節の共通テストの話に直結します。
4. 手で確かめる
局所性は、測れます。 私は手元のMac(Apple M3)で実際に測りました。以下の数値はすべて、実行して確認したものです。
4-1 実験1:領域の大きさを変えて、ランダムに1回読む時間を測る
考え方はこうです。読む回数を固定して、読みに行く領域の広さだけを変える。領域が狭いうちは速いところに全部載る。広くなると載りきらなくなる。載りきらなくなった瞬間に、時間が跳ねるはずです。
import numpy as np, time
rng = np.random.default_rng(0)
N_ACCESS = 4_000_000 # アクセス回数は常に同じ
REPEAT = 5 # 最小値を採る
def _time(a, idx):
t0 = time.perf_counter()
a[idx].sum()
return time.perf_counter() - t0
def bench(size_bytes):
n = size_bytes // 8 # int64 = 8バイト
a = np.arange(n, dtype=np.int64)
idx = rng.integers(0, n, size=N_ACCESS) # 領域内をランダムに読む
best = min(_time(a, idx) for _ in range(REPEAT))
return best / N_ACCESS * 1e9 # 1アクセスあたりナノ秒
結果です。2回実行しました。傾向が同じことを確かめるためです。
| 領域の大きさ | 実行1 | 実行2 |
|---|---|---|
| 16KB | 0.65 ns | 0.70 ns |
| 64KB | 0.65 ns | 0.72 ns |
| 128KB | 0.76 ns | 0.78 ns |
| 512KB | 0.95 ns | 0.96 ns |
| 2MB | 1.02 ns | 1.04 ns |
| 8MB | 1.15 ns | 1.15 ns |
| 16MB | 3.06 ns | 2.76 ns |
| 64MB | 5.01 ns | 5.03 ns |
| 256MB | 5.51 ns | 5.48 ns |
| 1024MB | 5.59 ns | 5.71 ns |
実験1の結果(実行2)。8MBまでは緩やかに増えるだけだが、16MBで段差が出る。
8MBから16MBのあいだで、はっきり跳ねています(1.15 ns → 2.76 ns、約2.4倍)。
そして、この段差の位置には意味があります。同じマシンで次のコマンドを実行すると、
$ sysctl -n hw.perflevel0.l2cachesize
16777216
16777216バイト=16MB。 跳ねた場所と、このコンピュータが持っている速い記憶の大きさが、一致しています。
私は、階層の存在を「そう習ったから」ではなく、段差として自分で見たわけです。読者のみなさんも、お手元のマシンで同じことができます。段差の位置は機種によって違います。違って当然です。
(sysctl は macOS のコマンドです。Linux では lscpu、Windows では wmic cpu get L2CacheSize などが対応します。)
4-2 実験2:同じ量を同じ回数読む。違うのは「順番」だけ
実験1には反論の余地があります。「領域が広いほうが遅いのは、単に扱うデータが多いからではないか」と。
そこで、条件をもっと厳しくします。
- 同じ配列(64MB)
- 同じ回数(400万回)
- 違うのは、読む順番だけ
n = 64*1024*1024 // 8
a = np.arange(n, dtype=np.int64)
idx_seq = np.arange(N_ACCESS, dtype=np.int64) % n # 前から順に
idx_rand = rng.permutation(n)[:N_ACCESS] # ばらばらに
| 読み方 | 所要時間 | 1回あたり |
|---|---|---|
| 連続して読む | 2.42 ms | 0.61 ns |
| ばらばらに読む | 20.23 ms | 5.06 ns |
| 比 | 8.3 倍 | |
やることは1バイトも変わっていません。順番を変えただけで8.3倍。(実行1では8.5倍でした。)
これが局所性です。「隣を読む」というだけで、コンピュータは8倍速く動く。 第52講で「配列はメモリ上に並んでいる」と書いたことの意味が、ここで数字になります。
4-3 実測を「時間の比喩」に直す
ナノ秒は速すぎて実感が湧きません。いちばん速い読み出しを「1秒」に引き伸ばしたら、他は何秒かを計算してみます。
ネットワークの往復だけは別に測りました。ping -c 20 www.dnc.ac.jp の平均が 13.611 ms でした(2026年8月3日実行)。
| 実測 | 16KBを1秒としたら | |
|---|---|---|
| 狭い領域(16KB) | 0.70 ns | 1秒 |
| 8MBの領域 | 1.15 ns | 1.6秒 |
| 1GBの領域 | 5.71 ns | 8.2秒 |
| ネットワーク往復 | 13.611 ms | 225日 |
手元の記憶を読むのが1秒なら、ネットワークの向こうから取ってくるのは225日。 「なるべく手元で済ませる」という設計判断が、なぜあらゆる場面で出てくるのかが分かると思います。
私が測ったのは「まとめて読んだときの1件あたりの平均」であって、「1回読むのを待つ時間」ではありません。CPUは複数の読み出しを重ねて進めるので、単発の待ち時間はもっと長く出ます。
世の中に流通している「レジスタ1、キャッシュ数倍、メモリ数百倍」といった表は、たいてい単発の待ち時間のほうを指しています。私はその数値の裏を取れていないので、この記事には書きません。書けるのは、自分で測った比の構造だけです。
4-4 測れなかった話——キャッシュは、測ろうとする人の邪魔をする
正直に書きます。SSDの待ち時間も測ろうとして、失敗しました。
OSにはファイルの内容を覚えておく仕組み(ページキャッシュ)があるので、素直に読むと装置ではなくキャッシュを測ってしまいます。macOS にはこれを迂回する指示(F_NOCACHE)があるので、それを立てて4KBをランダムに2000回読み、迂回しない場合と比べました。
| 中央値 | |
|---|---|
| F_NOCACHE あり | 1.21〜1.33 マイクロ秒 |
| F_NOCACHE なし | 0.98〜1.12 マイクロ秒 |
| 比 | 1.1〜1.3倍 |
本当に装置まで取りに行っていれば、桁が変わるはずです。1.2倍しか変わらないということは、どちらの場合もキャッシュが答えている——つまり測れていない、ということです。
ですからSSDの数値は載せません。 ただ、この失敗自体が、この講の主題をよく表していると思います。キャッシュは、それを避けようとして書いたプログラムの裏をかくくらい、徹底的に効いている。
5. 共通テストではこう出る(重要度 B)
5-1 令和8年度本試験・第1問 問1a
令和8年度本試験の『情報Ⅰ』は、第1問の冒頭でこの話題を出しました。
設問の構造だけ説明します(問題文は大学入試センターの著作物ですので転載しません)。記憶装置を主記憶装置と補助記憶装置に大別したうえで、主記憶装置と比べたときの補助記憶装置の「速度」と「用途」を、それぞれ選択肢群から1つずつ選ばせる、空欄2つの組合せ問題です。用途の選択肢は「容量の大小」×「保存の長短」の4通りの組合せになっていました。
| 設問 | 配点 | 平均点 | 正答率 |
|---|---|---|---|
| 第1問 ア-イ(問1a) | 2 | 0.588 | 0.2939 |
| 第1問 ウ(問1b) | 2 | 0.606 | 0.3031 |
| 第1問 合計 | 20 | 8.100 | 0.4305 |
大学入試センター「令和8年度 設問別得点率及び正答率」より(2026年8月3日取得)。同年度『情報Ⅰ』の総平均点は56.59点。
知識問題として置かれた冒頭の設問が、3割を切りました。
5-2 出題した側が、何と書いたか
大学入試センターの『令和8年度 問題評価・分析委員会報告書(本試験)』には、問題作成部会自身の見解が載っています。
正答率は,第1問全体を通じて想定よりも低く,第1問の得点率は約4割であった。問1a,bの正答率はいずれも約3割と低かった。問1aは,主記憶装置,補助記憶装置という用語の表面的な理解にとどまり,コンピュータの仕組みを深く理解していないことを示唆している
大学入試センター『令和8年度 問題評価・分析委員会報告書(本試験)』「情報Ⅰ」問題作成部会の見解(2026年8月3日取得)
「想定よりも低く」と書いています。出題側にとっても予想外だったわけです。
5-3 事実を、並べておきます
ここで私は、2つの事実を並べるだけにとどめます。結んでしまわないように、気をつけて書きます。
出題側は、正答率の低さの理由を「用語の表面的な理解にとどまり、コンピュータの仕組みを深く理解していない」と述べた。
事実2
「主記憶装置」「補助記憶装置」という語は、学習指導要領解説(共通教科・専門教科とも)と情報Ⅰ教員研修用教材の全6分冊には1件も無く、私が確認できた国内の一次資料での出典は、情報Ⅱ教員研修用教材 第1章の各1件だけです。しかもその1件は装置の定義ではなく、技術史の記述の一部です。
この2つは、並べると何かを言いたくなります。 けれども私は「教材に無いから正答率が低かった」とは書きません。因果は、この2つの事実だけからは出ないからです。 教科書会社の『情報Ⅰ』教科書には主記憶・補助記憶が載っているかもしれない(12種の教科書本文は私の手元にありません)。授業で扱われていたかもしれない。用語ではなく組合せ問題という形式が難しかったのかもしれない。
言えるのは、こうです。「国が作った情報Ⅰの教材だけを完璧に読み込んだ受験生は、この語形に一度も出会わないまま試験会場に入ることになる。」 これは事実として言えます。そしてそれが分かっているなら、対策は簡単です。この講を読んでおけばいい。
5-4 引っかけどころ
この型で間違えるとしたら、次の3つです。
- 「補助」を「予備」と読む。 補助記憶は主記憶のバックアップではありません。役割が違う(作業場所か、保管場所か)のであって、主記憶が壊れたときの控えではない。
- 速度と容量を一緒に動かしてしまう。 「補助記憶は遅い」までは出るのに、「だから容量も小さい」としてしまう。逆です。遅いかわりに大きい——これがトレードオフの意味です。
- 組合せ問題であることを忘れる。 空欄が2つある問題は、片方が合っていても点になりません。令和8年度の ア-イ は2つで2点、部分点はありません。自信のある側から決めて、もう片方をそれに矛盾しないように選ぶ——この手順を体に入れておくこと。
5-5 自作の類題
私が作った練習問題です(共通テストの問題ではありません)。
あるノートパソコンで、大きな動画ファイルを編集していたところ、作業の途中から急に動作が重くなった。タスクマネージャで確認すると、CPUの使用率は30%程度で余裕があるのに、メモリの使用率は98%だった。このとき起きていることとして最も適当なものを1つ選べ。
① CPUの性能が足りないので、CPUを交換すれば解決する
② 主記憶に収まらなくなったデータが補助記憶へ移され、その読み書きに時間がかかっている
③ 補助記憶の容量が足りないので、動画が保存できていない
④ 電源を切ればメモリの内容が消えるので、再起動すれば動画の編集内容も速く戻る
正解は②。 ①はCPU使用率30%という数字と矛盾します(余っている資源を増やしても速くなりません——3-3で見た教材の一文そのものです)。③はメモリ使用率の話を補助記憶の話にすり替えています。④は前半(電源を切ると消える)は正しいのですが、正しい前半に誤った後半をつなげるのは選択肢の定番の作り方です。編集内容は消えます。
6. 情報Ⅱではこうなる
6-1 国内で唯一の出典が、情報Ⅱ側にある
第5節で触れたことを、正確に書きます。
「主記憶装置」「補助記憶装置」という語形が国の一次資料に出てくるのは、情報Ⅱ教員研修用教材 第1章 学習1 の各1件だけです。 解説 情報編は共通教科側も専門教科側も0、情報Ⅰ教員研修用教材は全6分冊で0。
そして、その唯一の出典が、装置の説明ではないことが重要です。
CPUの高性能化やOSのGUI化・マルチタスク化に伴い,求められる主記憶装置の容量が大きくなることはもちろん,画像表示用メモリ(VRAM)やモニタ画面の高性能化・微細化が進むようになった
また補助記憶装置の大容量化によって,テレビやビデオの機能を統合することも可能になった
文部科学省『高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材』第1章 学習1(令和2年3月/2026年8月3日取得)
主語が装置ではなく、時代です。 「主記憶装置とは何か」ではなく「求められる主記憶装置の容量が大きくなった」。情報Ⅱは、装置を定義するのではなく、装置の能力が変わったことが社会をどう変えたかを扱っています。
| 情報Ⅰ | 情報Ⅱ | |
|---|---|---|
| 何を問うか | 装置は何をするものか | 装置の能力が変わると何が変わるか |
| 語り口 | 役割の説明 | 技術史 |
| 出てくる語 | メモリ、ハードディスク (製品名寄り) |
主記憶装置、補助記憶装置、VRAM |
| 時間 | 静止した現在 | 1947年から現在まで |
6-2 「速いほど良い」が終わる場所
もう1つ、私が調べていていちばん驚いた対比を紹介します。
情報Ⅰ教員研修用教材 第3章(第37講・本講で何度も引いた学習11)には、こう書いてあります。
CPUの動作速度が速いほど,1動作あたりに実行する命令や処理するデータが多いほど性能の良いCPUとなる
『情報Ⅰ』教員研修用教材 第3章(2026年8月3日取得)
素直です。速いほど良い。
ところが情報Ⅱ教員研修用教材 第1章は、こう書きます。
2000年代後半になると,半導体の微細化が限界に近づいていることや,消費電力の関係で周波数を上げることが難しくなっているといわれ始めた。そのため,1チップに複数のコアを集積し,並列動作させることによって性能を向上させる方法がとられたり,また,量子コンピュータなど,従来とは動作原理の異なる技術によって性能を向上させたりする研究も進められている
『情報Ⅱ』教員研修用教材 第1章 学習1(2026年8月3日取得)
情報Ⅰが「速いほど良い」と言った、その速さが、もう上げられなくなっている。
情報Ⅰは「動作速度が速いほど良い」で止まる。情報Ⅱは「その道はもう行き止まりで、だから横に広げた(マルチコア)」まで書く。同じ話題の続きが、はっきり別の場所に置かれています。
なお、ここにも語の注意があります。「クロック」「クロック周波数」は3資料すべてで0件です。情報Ⅱ教材は「周波数」という語だけで書いています(第1章に1件、上の引用がそれです)。内容は在るのに、語が無い。 IPA ITパスポート Ver.6.5 は「40.プロセッサ」の用語例に「マルチコアプロセッサ,GPU,GPGPU,クロック周波数」を並べています。
6-3 速さが「設計要件」になる
情報Ⅱ教員研修用教材 第4章「情報システムとプログラミング」 まで進むと、速さの扱いがもう一段変わります。
非機能テストと呼ばれるテストでは,プログラムの機能ではなく処理速度や反応速度など,ユーザーが操作する際に不満がないレベルのものであるかをテストしていく。性能テストとは,情報システムを実際と同じように動かしてみて,要件を満たす性能が出るかどうかを確認するテストである
『情報Ⅱ』教員研修用教材 第4章(2026年8月3日取得)
「速い/遅い」が、感想ではなく合否判定の対象になっています。
まとめると、この話題は情報Ⅰ→情報Ⅱで3段に変わります。
| 段階 | 速さの位置づけ | 中身 |
|---|---|---|
| 情報Ⅰ | 装置の属性 | 速いCPUは良いCPU |
| 情報Ⅱ(1) | 歴史 | もう上がらないので、別の手を打った |
| 情報Ⅱ(4) | 設計要件 | 満たすべき数値であり、テストして確認するもの |
第4節で測った8.3倍は、情報Ⅱの世界では「性能テストに落ちるかどうか」の話になります。記憶階層を知っているプログラマと知らないプログラマでは、同じ機能を作っても性能テストの結果が変わる。 それがこの講を勉強する実利です。
6-4 調べた範囲の宣言
「0件」と書いた以上、どこまで調べたかを書く義務があると考えています。
当てた資料: 学習指導要領解説 情報編(第1部=共通教科/第2部=専門教科の両方)/情報Ⅰ教員研修用教材 全6分冊/情報Ⅱ教員研修用教材 全7分冊(第3章は前半・後半の両方)/IPA ITパスポート Ver.6.5・基本情報 Ver.9.2・応用情報 Ver.7.2/文部科学省 授業・研修用コンテンツの一覧。
文部科学省の授業・研修用コンテンツのうち「コンピュータとプログラミング」のスライドPDF[1]〜[4]とワークシートは、テキスト抽出が数バイトしかない画像PDFで、全文検索にかかりません。
そこで私は[1](センサーライト・8ページ)と[4](天気予報表示マシーン・9ページ)を画像化して目視で確認しました。内容は分岐構造・反復構造・micro:bit・WebAPI・Pythonで、装置や記憶階層の記述はありませんでした。残る[2](100連ガチャ)[3](発表順番)も題名のとおりプログラミングの回です。
そもそもこの一覧には、ハードウェアを扱う回が1本もありません(学習動画も[9]基本的なプログラミング/[10]アルゴリズム/[11]モデル化とシミュレーション/[12]情報システムの4本で、装置を飛ばして情報システムへ行きます)。
限界2:国の資料しか見ていない
私が見たのは国の資料です。教科書会社12種の『情報Ⅰ』教科書の本文は含みません。 「教材に無い」は「教科書に無い」ではありません。
7. この講のまとめ
・速い記憶は高い。 だから全部は速くできず、よく使うものだけを近くに置く。それが記憶階層。
・主記憶/補助記憶は4本の軸(速度・容量・価格・揮発性)で違う。 1本で覚えると崩れる。4本目は高校の一次資料に無い。
・キャッシュは予測であり、外れる。 当たるのは、プログラムの記憶の使い方が偏っている(一般に局所性と呼ばれる)から。
・偏りは測れる。 同じ配列を同じ回数、順番だけ変えて読むと8.3倍違った。段差の位置は L2 の 16MB と一致した。
・令和8年度本試験 第1問問1a の正答率は 0.2939。 出題側は「用語の表面的な理解にとどまる」と書いた。
・情報Ⅱでは、速さが「属性」→「歴史」→「設計要件」と3段に変わる。
本講は参考書『藤原進之介の最強120講義』の一部です。全120講の一覧は情報Ⅰ 最強120講義(目次)にあります。コンピュータの5つの機能は第37講、基数変換は第40講、記憶できる値の有限性と誤差は第42講で扱いました。制度の話は2026年8月時点の情報です。
主な一次資料: 文部科学省『高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材』 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_005.pdf / 同『「情報Ⅱ」教員研修用教材』 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_002.pdf / 同「授業・研修用コンテンツ」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html / 大学入試センター『令和8年度 問題評価・分析委員会報告書(本試験)』 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=2151&f=abm00017684.pdf / IPA『ITパスポート試験シラバス Ver.6.5』 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kn1-att/syllabus_ip_ver6_5.pdf / IPA『基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2』 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kpe-att/syllabus_fe_ver9_2.pdf (いずれも2026年8月3日取得)
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第38講のWeb版です。
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