情報Ⅰ 最強120講義

情報・データ・知識の違い|情報Ⅰ 最強120講義 第5講

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この講の問い ── 同じ「28」が、データにも情報にも知識にもなるのはなぜか。

  • 3つを分けている線は、モノの側ではなく文脈の側にあります。数字そのものを睨んでも、それがデータか情報かは決まりません。
  • 国の一次資料の定義はこうです。データ=事象や現象を数字や文字などで記号化したもの/情報=意味や価値が付加されたデータやメッセージ/知識=得られた情報を分析し蓄積したもの
  • ただし「DIKW」という名前は、学習指導要領解説にも共通テストにも一度も出てきません。 覚える価値があるのは語ではなく、「これはどの段にあるか」を判定する型のほうです。

こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。『藤原進之介の最強120講義』第5講は「情報・データ・知識の違い」を扱います。

この講は情報Ⅰの一番はじめに置かれる話で、しかも後ろの30講くらいの土台になっているのに、参考書ではだいたい3行で片づけられます。ここでは、国の資料に本当に何が書いてあるのかを確かめたうえで、「機械が扱えるのはデータまでで、意味づけは人間の仕事だ」という一点まで組み立てます。

1. 先に、定番用語が国の資料に在るかを確かめる

第6講(情報の特性)で、参考書の定番である「残存性・複製性・伝播性」という3語が、国の一次資料に0件だったことを書きました。本講の定番である「DIKWモデル(Data → Information → Knowledge → Wisdom)」も同じ疑いがあるので、先に確かめておきます。

私は2026年8月3日に、次の資料をすべてテキスト化し、空白と改行を除去したうえで機械的に数えました。

解説 第1部
(共通教科)
解説 第2部
(専門教科)
情報Ⅰ教材 情報Ⅱ教材 共通テスト
4回分
DIKW 0 0 0 0 0
知恵 0 0 3 0 0
暗黙知 0 0 0 0 0
形式知 0 0 0 0 0
ナレッジ 0 0 0 0 0
知識 54 208 32 47 6
データ 292 334 768 911 105
情報 1361 1461 1155 1356 196

当てた範囲:学習指導要領解説 情報編 全文(第1部=共通教科81,949字/第2部=専門教科110,838字に分離)/情報Ⅰ教員研修用教材 序章+第1〜4章の全6分冊(185,514字)/情報Ⅱ教員研修用教材 序章+第1章・第2章・第3章前半・第3章後半・第4章・第5章の全7分冊(249,585字)/大学入試センター「情報Ⅰ」令和7年度本試験・同追再試験・令和8年度本試験・同追再試験の問題本文(60,786字)

この表は、そのままでは読めません。 読み方に注意が要る行が2つあります。

件数だけを見ると必ず読み違えます。
・解説 第1部の「知識」54件のうち、37件は「知識及び技能」「知識や技能」という資質・能力の言い回しで、本講の知識とは別物です。
・共通テストの「知識」6件は、全部が令和7年度追・再試験の1つの設問の中にあり、中身は認証方式の話でした(「本人だけが知っている知識や情報を使って認証する『知識認証』」。うち5件は「知識認証」という複合語)。完全な別語義です。
・情報Ⅰ教材の「知恵」3件のうち、DIKWの意味なのは2件だけで、しかも同じ1つの段落の中にあります。残り1件は「知恵や思考力をもって」という日常語でした。

2. では、国は何と書いているのか

3段の定義は、情報Ⅰ教員研修用教材 第1章 学習1「情報やメディアの特性と問題の発見・解決」(p.16)に、たった3文だけ書かれています。ここが本講の一次資料です。

事象や現象を数字や文字などで記号化したものがデータであり,意味や価値が付加されたデータやメッセージを情報という。得られた情報を分析し蓄積したものが知識である。一般には,情報という言葉の意味は広く,データやメッセージ,知識を含めて指す場合もある。
── 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章

同じページの図表1「情報の成り立ち」は、この文を絵にしたものです。【データ】事象・現象を数字・文字などで記号化したものから矢印が出て、【情報】人にとって意味や価値のあるものへ向かい、そこから【伝えたい相手】へ渡ります。その矢印に添えられている語が「解釈」です。

この図の要点は、矢印が人間の側にあることです。 データが自分で情報になるのではありません。人が解釈することで情報になります。

そして最後の1文を読み飛ばさないでください。「一般には,情報という言葉の意味は広く,データやメッセージ,知識を含めて指す場合もある」──国の教材が、自分で境界の緩さを認めています。 3段の区別は、厳密な分類ではなく見方の道具として置かれています。ここを取り違えて「この語はデータ、この語は情報」と暗記しにかかると、必ず破綻します。

「知恵」は別の章に、別の出典で載っている

4段目の「知恵」が出てくるのは、同じ教材の第1章ではなく第2章、学習7「コミュニケーションを成立させるもの」(p.65)です。しかも国の言葉ではなく、ネイサン・シェドロフという人物のモデルの紹介という形をとっています。

ネイサンは「理解」という目に見えない概念を,簡潔なモデルとして図表1のように表現した。このモデルで表現されている重要なポイントとして,まず「『データ』はコンテクスト(文脈)によって,初めて『情報』になること。」逆に言えば,「コンテクストが伴わないものは情報ではないということ」。そして,「情報は個人的な『経験』を通して『知識』となり,さらに『知恵』に昇華されていく。」
── 同 第2章

図には「図表1 理解の外観(ネイサン・シェドロフ)」というキャプションと、市販書からの転載である旨の出典が付いています。つまり、こういうことになります。

  • 3段(データ・情報・知識)=国の教材が自分の言葉で第1章に書いている
  • 4段目(知恵)=第2章で、市販書の図の紹介として1度だけ触れられている
  • 「DIKW」という呼び名=国の資料には一度も無い

参考書で「DIKWモデル」と紹介されているものは、この2か所を後から接ぎ木したものだと理解しておくのが正確です。使ってはいけないという話ではありませんが、「一般にDIKWと呼ばれる」と主語を分けるべき語であって、「国がそう教えている」と言ってはいけません。

ちなみにこのモデルは、学術的にも一枚岩ではありません。黒崎茂樹「『データ・情報・知識・知恵』モデルの再考」(拓殖大学『人文・自然・人間科学研究』No.49, pp.132-155, 2023年3月)は、情報学・経営学・教育学・工学・物理学がそれぞれ別々のバリエーションでこのモデルを出していることを突き合わせたうえで、「情報の定義は多様である」と書いています。流派によって段の切り方が違うものを、1つの正解のように暗記しても仕方がありません。

3. 線は「文脈」にある

ここまでの一次資料から、判定の型が1つ取り出せます。

「『データ』はコンテクスト(文脈)によって,初めて『情報』になる」──逆に言えば「コンテクストが伴わないものは情報ではない」。

だから、モノを見ても段は決まりません。 「28」という数字を睨んでも、それがデータなのか情報なのかは分かりません。決めるのは、その数を受け取る側が、どんな文脈を持っているかです。

  • 文脈が無い → データ(記号の並びでしかない)
  • 文脈がある → 情報(意味を持つ)
  • その意味を分析して蓄積し、次の場面でも使える形にした → 知識

4. なぜこの区別が実務上重要なのか ── 機械が扱えるのはデータまで

ここが本講で一番大事なところです。コンピュータが形式的に処理できるのは、記号としてのデータまでで、意味づけは人間の側にしかありません。

これは私の意見ではなく、日本学術会議の参照基準に書かれています。 日本学術会議 情報学委員会 情報科学技術教育分科会「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 情報学分野」(2016年3月23日)は、情報を扱う主体で3つに分けています。

生命情報は意味作用の源泉であり,自転車に乗る身体技能のような暗黙知など,明示的/非明示的なすべての情報を含む最も広義の情報である。社会情報は記号で明示化された生命情報であり,人間社会で通用する全ての情報を含む。機械情報は社会情報の記号が独立したものであり,機械で形式的に処理することが可能な,最も狭義の情報である。
── 日本学術会議「教育課程編成上の参照基準 情報学分野」

言い換えるとこうなります。機械が受け取っているのは「記号が独立して、意味内容が潜在化したもの」だけです。 意味は、記号から剥がれて人間の側に残っています。同じ報告は、情報そのものについてもこう書いています。

情報が物理力でなく意味作用(意味のもつ働きや影響力)を通じて世界を変化させ,そこに価値と秩序を与える

情報Ⅱの教材が、この抽象論を実務の言葉で書いている

面白いのはここからです。情報Ⅱ教員研修用教材 第3章(前半)学習11「データと関係データベース」が、まったく同じことを、現場の言葉で書いています。

例えば,地震の観測値(常にどのくらい揺れているかを測定している値)は数値の羅列であり,事前に何を表す値なのか分かっている人に説明してもらわなければ,見る人にその数値の意味が分からない。一方で,人にとってデータの意味を分かりやすいようにすると,データサイエンスでデータ処理する際には扱いづらい。例えば,通知表のように各生徒の履修科目とその成績を印刷すると,一人一人の生徒にとっては分かりやすいが,コンピュータではそれらのデータは処理しづらい。
── 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章

これはトレードオフの宣言です。 人に分かりやすくすると機械が処理しづらくなり、機械が処理しやすくすると人には意味が読めなくなる。教材はこの直後に「人にもある程度データの意味を読むことができ,コンピュータでも処理しやすい形」として表形式データを出し、そこから関係データベースへ入っていきます。

表形式データもヘッダーも、この矛盾に対する妥協案として設計されています。 つまり「意味づけは人間、処理は機械」という分業は、実際のファイル形式にまで降りてきているわけです。

「AIが答えを出した」と言うとき、何をデータとして与え、出てきた記号列をどう意味づけるかは、全部人間が決めています。 第80講の尺度(この列は名義か比例か)も、第82講の前処理(この空欄は欠測なのか0なのか)も、第87講の因果の判定(相関が出たがこれは因果と呼べるのか)も、機械が答えを持っていない問いです。

5. 階段は一方通行ではない

DIKWの図はふつうピラミッドで描かれ、下から上への一方通行に見えます。ところが、国のいちばん新しい指針は、逆向きの矢印を先に書いています。

日本学術会議 情報学委員会 情報学教育分科会「情報教育課程の設計指針 ― 初等教育から高等教育まで(第2版)」(令和8年〈2026年〉5月12日公表)の学習内容 A1「情報の特性と表現」は、水準をこう並べています。

L1: 情報とはものごとに対し知り得たことであるということ、人間やコンピュータが作り出すこと、間違った情報も存在することを理解している。(小学校・情報)
L2: 情報を外部化(書き記すなど、データ化)により記録/表現できるということを理解している。(小学校・情報)

情報が先にあって、それを外部化する操作が「データ化」だと書かれています。 データ→情報の順ではありません。

矛盾しているわけではありません。同じ現象を、受け取る側から見るか、記録する側から見るかで、矢印の向きが変わるだけです。

  • 受け取る側から見れば、手元に来るのは記号列(データ)で、そこに文脈を当てて情報にする
  • 記録する側から見れば、頭の中にあるのは情報で、それを書き記して記号列(データ)にする

ピラミッドを「下から上への一方通行」と覚えると、この往復が見えなくなります。実際のデータサイエンスの作業は、この往復を何周も回るものです。

外部化(=データ化) 記録する側から見た向き データ 記号化したもの 情報 意味や価値が付いた 知識 分析し蓄積したもの 解釈 文脈を与える 分析・蓄積 次にも使える形に 機械が形式的に 処理できるのはここまで (=機械情報) 意味づけは人間の側にしかない 「解釈」の矢印を引いているのは人 出典:情報Ⅰ教員研修用教材 第1章 図表1/ 日本学術会議 参照基準 情報学分野・設計指針 第2版

図:3つの段と、機械が触れる範囲。矢印は右向きだけではない

6. 手で確かめる ── 同じ数列を3通りに読む

次の4つの数を見てください。

問い28, 31, 30, 31 ── これはデータですか、情報ですか、知識ですか。

ここで止まると、これはデータです。4つの整数が並んでいるという以上のことは何も言えません。

ここに文脈を1つ与えます。「平年の2月から5月までの、各月の日数」。

途端にこれは情報になります。28は2月、31は3月、30は4月、31は5月。この4つの数は「今年の5月は31日まである」という判断に使えます。数そのものは1文字も変わっていません。変わったのは、受け手が持っている文脈だけです。

さらに一段上げます。「なぜ2月だけ28なのか」「28にならない年はあるのか」を調べて、次の規則を手に入れたとします。

うるう年の判定規則:西暦年が4で割り切れる年はうるう年。ただし100で割り切れる年は平年。ただし400で割り切れる年はうるう年。

これが知識です。もう「2月は28日」という個別の事実ではなく、任意の年について答えを出せる規則になっています。1996年でも2100年でも使えます。これが「次の場面で再利用できる」ということです。

Pythonの標準ライブラリで検算しました(実行して確認済みです)。

import calendar
print([calendar.monthrange(2025, m)[1] for m in (2,3,4,5)])
print([calendar.monthrange(2024, m)[1] for m in (2,3,4,5)])
for y in (1900, 2000, 2024, 2025, 2100):
    print(y, calendar.isleap(y), (y % 4 == 0 and y % 100 != 0) or y % 400 == 0)

出力はこうなります。

[28, 31, 30, 31]
[29, 31, 30, 31]
1900 False False
2000 True True
2024 True True
2025 False False
2100 False False

1900年は平年、2000年はうるう年、2100年は平年です。 4で割り切れるかどうかだけで判定すると、1900年と2100年を間違えます。規則という形の知識は、こういう例外までまとめて面倒を見てくれます。

そしてもう1つ大事なことがあります。2024年の同じ4か月を並べると「29, 31, 30, 31」になります。 同じ「2月から5月の日数」という文脈でも、年という文脈がもう1枚必要でした。文脈は1枚とは限りません。

身近な10個を判定する

次の表を、上から順に自分で判定してみてください。右の2列は最初は隠して考えたほうがよいです。

# 目の前にあるもの 判定 理由
1 体重計の液晶に出ている「52.4」 データ 単位も対象も分からなければ、ただの数
2 「私の今朝の体重は52.4kg」 情報 誰の・いつの・何の量かという文脈が付いた
3 「私は朝より夜のほうが1kgほど重い」 知識 複数の測定を分析して、次の日にも使える形になった
4 気象庁のアメダスから落としたCSVの1行 データ ヘッダーを見ないと何の列かも分からない
5 「明日の東京の降水確率は70%」 情報 傘を持つかどうかの判断に直接使える
6 「降水確率70%以上なら長傘を持つ」 知識 自分の行動規則として蓄積されている
7 学生証のバーコードの縞模様 データ 読み取り機が数字に戻すまで意味を持たない
8 「この本の在庫は残り3冊」 情報 発注するかどうかを決められる
9 掛け算の九九 知識 体系化され、いつでも呼び出せる
10 「7 8 5 6」というメモ書き ? 文脈が無いので判定できない

10番目が本講の核心です。 「7 8 5 6」は、書いた本人が「駅のロッカーの番号だ」と思い出せば情報になりますし、思い出せなければ永久にデータのままです。同じ紙に書かれた同じ4文字が、受け手によって段を変えます。

そして次の3つを比べてください。

  • 同じ「52.4」が、1番ではデータで、2番では情報の一部になっている
  • 同じ「70%」が、5番では情報で、6番では知識を作る材料になっている
  • 9番の九九は、覚える前は情報(「7×8は56だ」という個別の事実)だったものが、体系として身に付いた瞬間に知識になった
段は物に貼り付いたラベルではありません。関係の名前です。

機械と人間のトレードオフを、自分の手で作ってみる

さきほど引いた教材の「通知表」の例を、実際に2つの形で書いてみると腹に落ちます。

人に読ませる形(通知表型)

山田太郎
  国語 4  数学 5  英語 3
田中花子
  国語 5  数学 3  英語 4

機械に処理させる形(表形式)

氏名,科目,評定
山田太郎,国語,4
山田太郎,数学,5
山田太郎,英語,3
田中花子,国語,5
田中花子,数学,3
田中花子,英語,4

上は1人分がまとまっていて人には読みやすいのですが、「数学の平均を出せ」と言われた瞬間に詰まります。 下は1人分がバラバラで人には読みにくいのですが、「科目が数学の行の評定を平均する」で一発です。

同じ内容なのに、形を変えただけで得意なことが入れ替わります。 この形の変換そのものを扱うのが第82講(データの整形)で、下の形に名前を付けたのが第90講・第91講(データベース)です。

7. 知識にすると何が得なのか

教材の定義に戻ります。知識は「得られた情報を分析し蓄積したもの」でした。「蓄積」がキーワードです。

  • 情報は、その場の問いに答える。 「今日の気温は33度だ」は今日にしか効かない
  • 知識は、次の問いにも答える。 「気温が30度を超えた日は来客が2割減る」は明日にも来月にも効く

学習指導要領解説も、情報Ⅰ(1)ア(ア) で蓄積を明示的に扱えと書いています。

成果を発信し,周りと共有することによって情報が蓄積され,情報と情報技術を活用した自らの問題解決が社会に貢献できる可能性があることについて理解するようにする
── 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」

振り返って発信することが、なぜ指導要領に書かれているのか。 それは道徳的なお作法だからではなく、そうしないと情報のまま消えて、知識にならないからです。1回の問題解決で得たことを、次の問題解決で使える形にする──それが「蓄積」の意味であり、知識という段を立てる理由です。

8. 共通テストではこう出る(重要度 B)

出題実績を正直に書きます

令和7年度本試験・同追・再試験・令和8年度本試験・同追・再試験の「情報Ⅰ」問題本文を全文検索した結果(2026年8月3日)は、次のとおりでした。

  • 「DIKW」「知恵」「暗黙知」「形式知」「情報の成り立ち」は4回とも0件
  • 「知識」は6件ですが、全部が令和7年度追・再試験の認証方式の設問の中で、本講の知識とはまったく別の語です
  • 「データ」105件・「情報」196件はありますが、3語の区別そのものを定義として問う設問は1問もありません

用語としての直接出題は、私が確認した範囲で0件です。 ここを脅すのは誠実ではないので、はっきり書いておきます。重要度はBが妥当で、語の暗記に時間を使う講ではありません。

(なお、文部科学省「授業・研修用コンテンツ」のスライドPDFの一部はテキスト抽出ができない画像PDFであることが分かっています。上の「0件」は、テキスト抽出できた資料の範囲での0件です。)

では何が効くのか ── 「このデータは何か」を判定する力

語は出ませんが、判定は毎回出ています。しかも難しい。

大学入試センターの「令和7年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書」に載っている作題部会の見解は、第4問(旅行・観光消費動向調査を題材にした探索的データ分析)についてこう書いています。

問1は,データの尺度水準と,棒グラフ・帯グラフについての特徴を適切に理解しているかを問う問題(中略)正答率については概ね高めであったが,問1のア・イと問3のキで2割台と非常に低かった
── 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書」

同じ報告書には、寄せられた意見として「尺度水準やグラフの読み取りが容易であるという意見もあった。しかし,尺度水準については先に述べた通り正答率が非常に低かった」とも書かれています。

易しいと評価された問題が、実際には2割台でした。 受験生は「名義尺度・順序尺度・間隔尺度・比例尺度」という語は覚えているのに、目の前の列を見て「これはどれか」と判定する経験が足りていないのです。本講の区別も、第80講の尺度も、まったく同じ構造の弱点を突かれています。

引っかけの型

  1. 「データを集めれば情報になる」 → なりません。文脈を与えるのは人間です。集めただけの数値列は、量が増えてもデータのままです。
  2. 「AIが情報を生み出している」 → 出力されるのは記号列です。それを情報として受け取っているのは人間の側であり、意味づけの責任も人間の側にあります。
  3. 情報の特性の話と混ざる第6講の「形がない/消えない/簡単に複製できる/容易に伝播する」は情報という段の性質の話で、本講の段の分け方とは別の論点です。設問がどちらを聞いているかを取り違えないこと。
  4. 「知識=知っていること」だと思い込む → 教材の定義は「得られた情報を分析し蓄積したもの」です。単に記憶していることではなく、次の場面で使える形にしてあることが要ります。

自作の類題

ある高校の生徒会が、購買のパンの売れ行きを調べた。次の①〜④のうち、教員研修用教材の定義に照らして「知識」にあたるものとして最も適当なものを一つ選べ。
① レジの記録に残っている「10:12 カレーパン 1」という1行
② 「今日のカレーパンの販売数は42個だった」というまとめ
③ 「雨の日はカレーパンの販売数が平常時より2割少ない」という、3か月分の記録を分析して得られた傾向
④ 「明日は雨の予報である」という天気予報
答え:③①は記号の並びで、対象も文脈も外から与えないと読めないのでデータ。②は「今日の」「カレーパンの」という文脈が付いて判断に使えるので情報。④も情報です(明日という限られた場面にしか効きません)。③だけが複数の情報を分析し、次の雨の日にも使える形になっています。
補足:③と④を組み合わせると「明日はカレーパンを2割減らして発注する」という判断が出ます。知識が効くのは、まさにこの「次の場面」の側です。

重要度についての私の判定

  • 語を覚える価値:低い。 「DIKW」も「知恵」も、国の資料にも共通テストにも出ていません
  • 判定の型を持つ価値:高い。 第4問(データ活用)の入口は毎回「この列は何か」で、そこで2割台の正答率が出ています
  • 後続の講の土台としての価値:非常に高い。 第80講・第82講・第87講・第90講は、全部この区別の上に乗っています

つまり「得点する講」ではなく「後の全部を支える講」です。Bという記号のわりに、抜くと後がぐらつきます。

9. 情報Ⅱではこうなる

「情報」と「データ」の比が、章ごとに80倍動く

全体の件数を眺めるだけでは何も出てきません。章ごとに「情報」÷「データ」の比を出すと、分水嶺が一目で出ました(当方の計数、2026年8月3日)。

分冊 字数 データ 情報 情報÷データ
学習指導要領解説 第1部(共通教科) 81,949 292 1,361 4.66
情報Ⅰ教材 第1章(情報社会の問題解決) 39,093 42 404 9.62
情報Ⅰ教材 第2章(情報デザイン) 38,258 59 341 5.78
情報Ⅰ教材 第3章(プログラミング) 38,946 76 23 0.30
情報Ⅰ教材 第4章(ネットワークとデータ) 54,662 561 126 0.22
情報Ⅱ教材 第1章(情報社会の進展) 54,895 42 384 9.14
情報Ⅱ教材 第2章(コンテンツ) 33,009 17 121 7.12
情報Ⅱ教材 第3章前半(データサイエンス) 39,890 456 54 0.12
情報Ⅱ教材 第3章後半(同) 34,300 199 27 0.14
情報Ⅱ教材 第4章(情報システム) 52,518 129 388 3.01
情報Ⅱ教材 第5章(探究) 18,396 35 160 4.57

上下で80倍近い開きがあります。 情報Ⅰ第1章では「情報」が「データ」の9.6倍出てくるのに、情報Ⅱ第3章前半では逆に「データ」が「情報」の8.3倍になります。

同じ教科の同じ教材の中で、語彙がまるごと入れ替わっています。 これは書き手の癖ではなく、扱っている対象が違うからです。情報を論じる章と、データを処理する章は、別の言語で書かれています。本講の区別が「言葉遊びではない」ことの、いちばんはっきりした証拠がこれだと思います。

情報Ⅱでは「データ」の定義そのものが乗り換わる

情報Ⅰと情報Ⅱで、同じ「データ」という語の定義文が違います。 並べるとよく分かります。

情報Ⅰ教材 第1章 学習1 情報Ⅱ教材 第3章 学習11
定義 事象や現象を数字や文字などで記号化したもの データ分析に使うもとになるもの
立っている位置 でき方の側(世界からどう切り出されたか) 使い道の側(この先の分析に何を入れるか)
次に来る議論 情報・知識との区別、メディアの特性 信憑性・信頼性、母集団とサンプルサイズ、バイアス

情報Ⅱ教材の原文はこうです。

データとはデータ分析に使うもとになるものをいい,データ分析とはそのデータの傾向や性質を数量で捉えることをいう。
── 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 学習11

情報Ⅰでは「どうやってできたか」で定義していたものが、情報Ⅱでは「何に使うか」で定義し直されます。 そして定義を使い道の側に置いた瞬間、「そのデータは信じるに値するのか」という問いが必ず付いてきます。 だから学習11は定義の直後に信憑性(credibility)から始まり、母集団、サンプルサイズ、選択バイアス、生存バイアスへと進みます。

情報Ⅰでは「データは意味を持たない」で終わっていたものが、情報Ⅱでは「意味を持たないからこそ、どう集めたかが全部効いてくる」に変わります。 これが本講の接続の核です。

「どこから来たデータか」が3分類で名前を持つ

学習12「大量のデータの収集と整理・整形」は、データの入手経路をこう3つに切っています。

データを収集する際には,アンケートのような調査からの取得,計測機器からの取得,Web API からの取得などの方法がある。
── 同 第3章 学習12

情報Ⅰでは、データは「与えられるもの」でした。情報Ⅱでは、データは「どの経路で取りに行ったか」が属性として付いてきます。 学習12は実際にアメリカ地質調査所(USGS)の地震カタログAPIを叩き、Webスクレイピングの節では「Webスクレイピングを利用規約で禁止しているWebサイトもあるので,利用規約を確認することも必要である」と、取得の作法まで書いています。

取り方が変われば、データの偏りも変わります。 学習11の選択バイアスの議論(お菓子の購入者だけにアンケートを採る、固定電話にだけ電話をかける)は、この3分類と直結しています。学習指導要領解説 情報Ⅱ(3) も、対象を「情報通信ネットワークに接続された情報機器により生成されているデータ」と書いています。人が答えたデータだけではなく、機械が勝手に吐き出しているデータが正面から入ってくるのが情報Ⅱです。

「知恵」は情報Ⅱにも出てこない

念のため書いておきます。情報Ⅱ教員研修用教材の全7分冊で「知恵」は0件です。 DIKWの4段目は、情報Ⅰの第2章に市販書の図として1度出てくるだけで、それ以上どこにも展開されません。

国のカリキュラムが本気で作り込んでいるのは、データと情報のあいだの1本の線だけです。 その先の「知識」「知恵」は、名前としては置かれていますが、内容としては展開されていません。この落差を知っておくと、参考書の「DIKWピラミッド」の図をどう扱えばよいかが決まります。図として頭に入れておく価値はありますが、線を引く練習をすべきなのはデータと情報のあいだだけです。

なお、情報Ⅱは共通テストの出題範囲ではありません(2026年8月時点)。ここは「入試に出るから」ではなく、情報Ⅰの理解が深くなるから読む場所です。第109講で情報Ⅱの全体像を扱っています。

10. この講の要点

  • 段を決めるのは物ではなく文脈。「コンテクストが伴わないものは情報ではない」(情報Ⅰ教材 第2章)
  • 国の定義は情報Ⅰ教材 第1章の3文だけ。データ=記号化したもの/情報=意味や価値が付加されたもの/知識=分析し蓄積したもの
  • 「DIKW」は国の一次資料に0件。「知恵」は情報Ⅰ教材に2件(第2章の転載図の紹介)だけで、情報Ⅱには0件
  • 教材自身が「情報という言葉の意味は広く、データや知識を含めて指す場合もある」と境界の緩さを認めている
  • 機械が形式的に処理できるのは記号=機械情報まで(日本学術会議 参照基準)。意味づけは人間の側にしかない
  • 人に読みやすい形と機械が処理しやすい形は両立しない。表形式データはその妥協案(情報Ⅱ教材 学習11)
  • 矢印は一方通行ではない。記録するときは情報→データ(外部化)に走る(日本学術会議 設計指針 第2版・2026年5月)
  • 共通テスト4回分で語の出題は0件。ただし「この列は何か」を判定する問題は2割台の正答率
  • 情報Ⅱではデータの定義が「でき方」から「使い道」へ乗り換わり、信憑性・バイアス・取得経路が付いてくる
  • 章ごとの「情報÷データ」比は 9.62 〜 0.12 まで動く。 同じ教材の中で語彙がまるごと入れ替わっている

『藤原進之介の最強120講義』の全体像はこちらから追えます。

出典(すべて2026年8月3日取得)
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月 https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_003.pdf / 同 第2章 https://www.mext.go.jp/content/20200928-mxt_jogai01-100013300_001.pdf / 同 第4章 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_006.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材(本編)」第3章前半 https://www.mext.go.jp/content/20200702-mxt_jogai01-000007843_004.pdf / 同 第3章後半 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_007.pdf / 同 第1章 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_002.pdf / 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html / 日本学術会議 情報学委員会 情報科学技術教育分科会「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 情報学分野」平成28年3月23日 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-h160323-2.pdf / 日本学術会議 情報学委員会 情報学教育分科会「情報教育課程の設計指針 ― 初等教育から高等教育まで(第2版)」令和8年5月12日 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf2/kohyo-26-h260512.pdf / 情報処理学会 情報入試委員会「情報科全教科書用語リスト」2024年4月12日 https://www.ipsj.or.jp/topics/20240412_word.html / 黒崎茂樹「『データ・情報・知識・知恵』モデルの再考」拓殖大学『人文・自然・人間科学研究』No.49, pp.132-155, 2023年3月 https://takushoku-u.repo.nii.ac.jp/records/656 / 大学入試センター 令和7年度本試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=771&f=abm00005965.pdf / 同 令和7年度追・再試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=772&f=abm00006001.pdf / 同 令和8年度本試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=2144&f=abm00017564.pdf / 同 令和8年度追・再試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=2146&f=abm00017593.pdf / 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書」
この記事を書いた人 ── 藤原進之介(ふじわら しんのすけ)

オンライン数学塾・数強塾 代表。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導してきました。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、本連載『藤原進之介の最強120講義』では、情報Ⅰの全範囲を情報Ⅱまで接続して解説していきます。

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