こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第80講「データの種類と尺度(量的・質的)」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はS(毎年出る。落とすと致命的)、情報Ⅱでの接続先は(3)情報とデータサイエンスです。
データ分析の講というと、多くの人は平均や標準偏差の計算から入ります。しかしその前に必ず通らなければいけない関門があります。そもそもこのデータは何型なのかという判断です。ここを飛ばすと、数字は出るのに全部無意味、という事故が起きます。この講は第4部のデータ分析すべての土台になります。
1. この講の問い
なぜ「背番号の平均」は計算できるのに、意味がないのか。
2. 結論
データ分析で最初にやるべきことは、平均を出すことでもグラフを描くことでもなく、そのデータがどの尺度で測られたものかを見分けることです。尺度は名義・順序・間隔・比例の4つがあり、下から順に「使ってよい計算」が1段ずつ増えていきます。尺度が決まると、使ってよい計算が決まる。 この順序を逆にした瞬間、分析は数字が出ているのに全部無意味になります。
3. なぜそうなるのか
3-1. これは発展的な話題ではなく、指導要領に名指しされた必修事項です
先に位置づけを確認します。高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編の、情報Ⅰ (4) ア(ウ) にこう書かれています。
また,名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比例尺度などのデータの尺度水準の違い,文字情報として得られる「質的データ」と数値情報として得られる「量的データ」などの扱い方の違いを理解するようにする
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(該当箇所は解説p.42相当)
4つの尺度の名前が、国の文書にそのまま列挙されています。さらに文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章の学習22「量的データの分析」を開くと、研修の目的のいちばん最初の項目がこれです。
名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比例尺度などのデータの尺度水準の違いを理解する。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章(令和2年、該当箇所はp.183相当)
平均でも標準偏差でも相関係数でもなく、尺度が第1項目なのです。国は「データ分析の入口はここだ」と設計しています。にもかかわらず、多くの受験生がここを飛ばして代表値の計算から入ります。だから第4問で足をすくわれるのです。
3-2. 尺度とは「モノサシ」のこと
教員研修用教材の定義は、拍子抜けするほど素直です。
データは測定される尺度(モノサシ)の違いで次の4種類に分けることができる。質的データとして①名義尺度,②順序尺度,量的データとして③間隔尺度,④比例尺度などがある。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章(p.183相当)
まず大きく2つ。質的データ(分類項目としてばらつくもの)と量的データ(数直線上の値としてばらつくもの)です。総務省統計局の「なるほど統計学園」は、質的データの例に「好きなスポーツ、血液型、自動車のナンバー」を挙げています。自動車のナンバーが質的データだ、というのはこの講の核心を一撃で言い当てています。そして質的データが2つ(名義・順序)、量的データが2つ(間隔・比例)に割れます。これが4尺度です。
3-3. 4つの尺度は「できることが1段ずつ増える階段」です
ここが本講でいちばん大事なところです。4つの尺度は横並びの分類ではありません。下から順に、許される操作が1つずつ増えていく階段になっています。
図:尺度の階段。上の段ほど情報が濃く、濃い側から薄い側へは落とせるが、逆はできない。
| 尺度 | 質/量 | 意味を持つ操作 | 新たに許されるもの |
|---|---|---|---|
| 名義尺度 | 質的 | 同じか違うか | ― |
| 順序尺度 | 質的 | 上の全部+大小 | 順序 |
| 間隔尺度 | 量的 | 上の全部+差(引き算) | 等間隔性 |
| 比例尺度 | 量的 | 上の全部+比(割り算) | 絶対的な0 |
上の段に行くほど情報が濃い。そして濃い側から薄い側へは落とせるが、薄い側から濃い側へは作り出せません。では1段ずつ何が起きているのかを見ていきます。
3-4. 名義尺度:数字が「名前」でしかない
教材の例は性別です。ここに背番号・郵便番号・血液型・都道府県コードを加えてよいでしょう。これらは数字で書かれていることがあります。背番号は 1 や 18 や 51 です。だから足し算も割り算も、電卓の上では通ります。しかし通ることと意味があることは違います。
なぜ意味がないのか。背番号における「1」は、順序でも量でもなくラベルだからです。背番号1番と51番を入れ替えても、チームの何も変わりません。ラベルは付け替えても情報が失われない。ところが平均を取ると、この「付け替えても同じ」という性質が壊れます。付け替え方によって平均が変わってしまうからです。
平均が意味を持つのは、値の付け替えが許されないとき、つまり数値そのものが量を表しているときだけ。 名義尺度で意味を持つ代表値は、最頻値(いちばん多いカテゴリ)しかありません。教員研修用教材の学習24は、この点をこう詰めています。
例えば,男性に 1,女性に 0 という数値が割り当てられているとき,その数値の平均値に意味はあるだろうか。(中略)ところが,学年の項目に 1,2,3 などの数値が入力されている場合,これらの総和や平均値は何を意味するだろうか。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章 学習24(p.201相当)
面白いのは、教材が男女の 0/1 については「確かに男女比を計算することが可能」と留保を置いていることです。カテゴリが2つしかない0/1の平均は「1の割合」に一致するので、たまたま意味を持ちます。しかしこれは例外であって、3カテゴリ以上に番号を振ったら平均は即座に無意味になります。この例外は後で情報Ⅱのダミー変数につながるので、覚えておいてください。
3-5. 順序尺度:並べられるが、間隔は保証されない
教材の例は成績評価です。
優>良>可のような順序構造がある。ただし,優と良,良と可の程度の差が一致する保障はない。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章(p.183相当)
この一文が順序尺度のすべてです。並べられる。しかし目盛りは等間隔ではない。 アンケートの5段階評価も同じです。5と4の差、2と1の差が、回答者の心の中で同じ大きさである保証はどこにもありません。「5」を滅多に付けない人もいれば、「3」に逃げる人もいます。
にもかかわらず、私たちは平気で「満足度の平均は4.2でした」と書きます。これは本来あやしい処理です。 差が等間隔だと仮定して初めて足し算ができるのに、その仮定が保証されていないところで足し算をしているからです。実務では等間隔性を仮定して平均を取る運用が広く行われていますし、それ自体を全否定はしません。ただしそれが仮定の上に乗っていることは知っておくべきです。共通テストで「この処理は適切か」と問われたとき、判断の根拠になるのはこの一点です。
3-6. 間隔尺度:差は意味を持つが、比は意味を持たない
③間隔尺度の例としては気温などがあげられる。摂氏と華氏の 0 が違うなど絶対的な原点はないが等単位制はあるので,データの差は意味を持ち,データの比は意味を持たない。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章(p.183相当)
「等単位制はある」つまり目盛りは等間隔です。だから10℃と20℃の差も、20℃と30℃の差も、同じ「10度」として扱ってよい。足し算と引き算が解禁されるので、平均が意味を持ちます。
しかし割り算は解禁されません。理由はただ一つ、0℃が「熱が無い」を意味していないからです。摂氏の0は水が凍る温度という人間の都合で決めた点にすぎず、華氏では別の場所に0があります。原点が約束事で動くなら、原点からの距離の比も約束事で動いてしまいます。教材はこれを、やってはいけない例として名指ししています。
間隔尺度のデータに対して,例えば,気温 15℃の地点Aと気温 30℃の地点Bについて,地点 B は地点 A より2倍暑いと判断してしまう。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章(p.183相当)
3-7. 比例尺度:絶対的な0があるから、比が意味を持つ
比例尺度の例は身長や体重です。教材は「0cm や 0kg など,絶対的な 0 を持ち等単位制もあるので,データの差だけでなくデータの比も意味を持つ」と書いています。間隔尺度と比例尺度を分けるのは、絶対的な0(絶対零点)があるかどうか、この1点だけです。
0cm は「長さが無い」、0円は「金が無い」、0分は「時間が経っていない」。どれも人間の都合ではなく、対象そのものの不在を表します。だから「180cmは90cmの2倍」と言ってよい。単位をcmからインチに変えても、この2倍は2倍のまま保たれます。温度でも絶対温度(ケルビン)は絶対零点を持つので比例尺度になり、摂氏10℃と20℃はケルビンでは 283.15K と 293.15K、比は約1.035倍にすぎません。「2倍暑い」がいかに乱暴かが数字で見えます。
3-8. 尺度は「落とせる」が「上げられない」
教員研修用教材の学習22には、データ変容の手法として水準化(レベル化)が挙げられています。「量的データをある値でいくつかに区切って,順序尺度(質的データ)に変換すること」で、気温から「普通・夏日・真夏日」を作る、世帯別所得金額から「高所得・中所得・低所得」を作る、といった操作です。ヒストグラムの階級分けも本質的には同じことをしています。
しかし逆はできません。「優・良・可」を後から「85点・70点・55点」に変換して平均を取ってよい根拠は、どこにもありません。落とすときに捨てた情報は戻ってこないからです。同じ学習22には層別(名義尺度や順序尺度の値でグループ分けして比較する)と変数変換(人口1000人あたりの県民所得を出す、床面積1平方メートルあたりの価格に直す等)も定義されています。変数変換のほうは比例尺度どうしの割り算だから許される操作です。ここでも尺度が「してよいこと」を決めています。
4. 手で確かめる
以下のコードはすべて Python 3 の標準ライブラリだけで動きます(pandas は不要)。私の手元で実際に実行し、出力を確認したものです。
4-1. 身近な12項目を4尺度に分類する
komoku = [
("背番号", "meigi"),
("血液型", "meigi"),
("郵便番号", "meigi"),
("好きな教科", "meigi"),
("成績評価(優良可)", "junjo"),
("満足度5段階", "junjo"),
("マラソンの着順", "junjo"),
("気温(摂氏)", "kankaku"),
("西暦(年)", "kankaku"),
("身長(cm)", "hirei"),
("所持金(円)", "hirei"),
("通学時間(分)", "hirei"),
]
dekiru = {
"meigi": ("=,!=", "最頻値"),
"junjo": ("=,!=,<,>", "最頻値・中央値"),
"kankaku": ("=,!=,<,>,差", "最頻値・中央値・平均"),
"hirei": ("=,!=,<,>,差,比", "最頻値・中央値・平均・変化率"),
}
namae = {"meigi":"名義尺度","junjo":"順序尺度",
"kankaku":"間隔尺度","hirei":"比例尺度"}
for k in ("meigi","junjo","kankaku","hirei"):
shu = "質的" if k in ("meigi","junjo") else "量的"
print("[" + namae[k] + " / " + shu + "データ]")
print(" 使える比較: " + dekiru[k][0] + " / 代表値: " + dekiru[k][1])
print(" 項目: " + "、".join(n for n, s in komoku if s == k))
実行結果です。
[名義尺度 / 質的データ]
使える比較: =,!= / 代表値: 最頻値
項目: 背番号、血液型、郵便番号、好きな教科
[順序尺度 / 質的データ]
使える比較: =,!=,<,> / 代表値: 最頻値・中央値
項目: 成績評価(優良可)、満足度5段階、マラソンの着順
[間隔尺度 / 量的データ]
使える比較: =,!=,<,>,差 / 代表値: 最頻値・中央値・平均
項目: 気温(摂氏)、西暦(年)
[比例尺度 / 量的データ]
使える比較: =,!=,<,>,差,比 / 代表値: 最頻値・中央値・平均・変化率
項目: 身長(cm)、所持金(円)、通学時間(分)
判断に迷いやすいものを補足します。マラソンの着順は順序尺度です。1位と2位の差と、2位と3位の差が同じである保証はありません(1位が独走かもしれない)。一方マラソンのタイムは比例尺度です。同じ競技のデータでも、記録の仕方で尺度が変わります。西暦は間隔尺度です。西暦0年は「時間が無い」ではなく後から決めた基準点なので、「2000年は1000年の2倍」は無意味です。一方年齢は比例尺度(0歳=生まれた瞬間で絶対的な0)。尺度は「対象」ではなく「測り方」で決まります。
4-2. 摂氏と華氏で「比が保たれない」ことを計算する
華氏への変換は F = C × 9 ÷ 5 + 32 です。実際に計算してみます。
def c_to_f(c):
return c * 9 / 5 + 32
for a, b in [(10, 20), (15, 30)]:
fa, fb = c_to_f(a), c_to_f(b)
print("摂氏 %d と %d : 比 = %.4f / 差 = %d" % (a, b, b / a, b - a))
print("華氏 %.0f と %.0f : 比 = %.4f / 差 = %.0f" % (fa, fb, fb / fa, fb - fa))
print(" → 差の比 %.1f は摂氏でも華氏でも同じ" % ((fb - fa) / (b - a)))
摂氏 10 と 20 : 比 = 2.0000 / 差 = 10
華氏 50 と 68 : 比 = 1.3600 / 差 = 18
→ 差の比 1.8 は摂氏でも華氏でも同じ
摂氏 15 と 30 : 比 = 2.0000 / 差 = 15
華氏 59 と 86 : 比 = 1.4576 / 差 = 27
→ 差の比 1.8 は摂氏でも華氏でも同じ
読み取ってほしいことが2つあります。
第一に、比が壊れています。 摂氏では 30 ÷ 15 = 2.0000 倍だったものが、華氏では 86 ÷ 59 = 1.4576 倍になりました。同じ2地点の同じ気温です。単位を替えただけで「何倍暑いか」が変わってしまうなら、その「何倍」は現実の何も指していません。教員研修用教材が「2倍暑いと判断してしまう」を誤りの例に挙げている理由が、これで数字として見えます。
第二に、差の比は壊れていません。 摂氏の10度差は華氏の18度差、摂氏の15度差は華氏の27度差になりました。18 ÷ 10 も 27 ÷ 15 も、どちらも 1.8 です。間隔尺度で壊れるのは「値どうしの比」だけで、「差どうしの比」は保たれます。 だから間隔尺度でも平均・分散・標準偏差・相関係数は問題なく使えます。これらはすべて「差」から作られているからです。ここを混同して「間隔尺度では割り算が一切できない」と覚えると、逆に間違えます。
4-3. 5段階評価の平均は、何を隠すか
A = [5, 5, 4, 1, 5]
B = [4, 4, 4, 4, 4]
def heikin(x):
return sum(x) / len(x)
def chuoichi(x):
y = sorted(x)
return y[len(y) // 2]
for namae, x in [("A組", A), ("B組", B)]:
print("%s %s 平均 %.1f 中央値 %d" % (namae, x, heikin(x), chuoichi(x)))
A組 [5, 5, 4, 1, 5] 平均 4.0 中央値 5
B組 [4, 4, 4, 4, 4] 平均 4.0 中央値 4
平均はどちらも 4.0 で完全に一致します。 しかしA組には「1」を付けた人が1人います。強い不満を持った人が確かに存在するのに、平均という1つの数字はそれを完全に消してしまいました。中央値は 5 と 4 で違いが出ます。順序尺度に対しては、順序しか使わない代表値のほうが情報を保つのです。平均が何を捨てるかという話は第83講 代表値(平均・中央値・最頻値)で本格的に扱うので、そちらに譲ります。本講で押さえてほしいのは、そもそも平均を使ってよいかは代表値の話ではなく尺度の話だという順序です。
4-4. 実データで確かめたい人へ
尺度の判別は、教科書の例題より実データのほうが圧倒的に鍛えられます。教員研修用教材が学習22の参考資料として挙げているのは次の3つです(いずれも2026年8月3日に接続を確認しました)。
- 政府統計の総合窓口(e-Stat) https://www.e-stat.go.jp/
- 気象庁「過去の気象データ・ダウンロード」 https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php
- 「科学の道具箱」 https://rika-net.com/contents/cp0530/contents/
気象庁のページは地点・項目・期間を選んでCSVでダウンロードできます。日別のデータを取ると、気温(間隔尺度)・降水量(比例尺度)・風向(名義尺度)・天気概況(名義尺度)が同じ1枚の表に同居していることが分かります。1つのデータセットの中で列ごとに尺度が違う、というのが現実です。だから分析の前に、列を1つずつ見て尺度を確定させる必要があります。なお教員研修用教材の学習活動は、展開1の問いが「アンケートや調査などで集められるデータの回答形式を分類しよう」から始まります。国の教材でも、データ分析の授業の1時間目は尺度の判別なのです。
5. 共通テストではこう出る(重要度 S)
尺度そのものを単独で問う設問が毎年出るとは限りません。しかし第4問(データの活用)を解くための前提として毎回効いてきます。重要度をSにしたのは、この「前提として効く」度合いが極端に高いからです。以下、出題パターンを整理します(問題文・選択肢は転載しません)。
型1:質的か量的かの判別
表やアンケート用紙が提示され、各項目が質的データか量的データかを分類させる、あるいは4尺度のどれかを選ばせる型です。数字で書かれている名義尺度(会員番号、部屋番号、コード値)が必ず紛れ込んでいます。「数字だから量的」と反射で答えると落ちます。判別の手順を固定しておきましょう。
(1) その値どうしを足して意味があるか。無ければ質的データ。
(2) 質的なら、並べる順序があるか。あれば順序尺度、なければ名義尺度。
(3) 量的なら、0が「無い」を意味するか。意味するなら比例尺度、しないなら間隔尺度。
型2:尺度に応じたグラフの選択
「このデータを可視化するのに適切なグラフはどれか」型です。教員研修用教材の学習24が対応表そのものを与えているので、これに沿って覚えるのが確実です。
| データの組み合わせ | 適した可視化 | 適さないもの |
|---|---|---|
| 質的(名義)1つ | 棒グラフ・円グラフ | ― |
| 質的(順序)1つ | 順序を保った棒グラフ | 順序を無視した並べ替え |
| 量的1つ | ヒストグラム・箱ひげ図 | 棒グラフ |
| 質的 × 量的 | 箱ひげ図・ヴァイオリンプロット | 散布図 |
| 量的 × 量的 | 散布図 | 分割表 |
| 質的 × 質的 | 分割表・モザイク図 | 散布図 |
教員研修用教材は、質的×量的(クラスの生徒の男女別の身長)について「散布図などの量的データ×量的データの可視化の手法を使うことは望ましくない」と明記し、質的×質的(英語と数学の5段階評定)については散布図の例を示したうえで「よく表現できているとは言えない」と述べています。教材が「これはダメ」の例まで載せているという事実は、そこが出題ポイントだと言っているに等しいのです。
型3:平均が使えない場面
集計処理の妥当性を問う型です。教員研修用教材が「尺度と分析の方法があっていない例」として挙げている次の3つが、ほぼそのまま出題の骨格になります。
- 数字で入力されている名義尺度のデータの平均を計算してしまう
- 順序尺度のカテゴリの順序を無視して棒グラフや円グラフに表してしまう
- 間隔尺度で「2倍」と判断してしまう(15℃と30℃の例)
この3つは暗記に値します。国の教材が名指しした誤りだからです。
型4:前処理・データの整理の一部として
欠損値の扱い、外れ値の判断、層別、水準化。これらはデータの整理・整形の講の内容ですが、どの処理が許されるかは尺度で決まります。たとえば欠損値を平均で埋める処理は量的データにしか使えず、質的データでは最頻値で埋めるか欠損として残すしかありません。
落とし穴
- 数字で書かれていても量的とは限らない。 背番号・郵便番号・学籍番号・コード値。これが最頻出の引っかけです。
- 「比例尺度」「比尺度」「比率尺度」は同じもの。 文部科学省の教材と指導要領解説は「比例尺度」、総務省統計局の解説ページは「比尺度」と書いています。官庁間でも表記が揺れているので、問題文の表記に合わせてください。
- 順序尺度の平均は「あやしい」であって「絶対禁止」ではない。 実務では等間隔性を仮定して平均を取ります。ただし「適切か」と問われたら仮定の存在を意識して答えます。
- 西暦・時刻は間隔尺度、年齢・経過時間は比例尺度。 「いつ」か「どれだけ」かで変わります。
- 量的データの棒グラフはヒストグラムではない。 棒グラフは棒を離して描き、ヒストグラムは階級が連続しているので棒をくっつけて描きます。尺度の違いが図の描き方に出た例です。
練習用の自作問題
次の項目を、名義尺度・順序尺度・間隔尺度・比例尺度に分類してください。
(1)テストの偏差値 (2)電話番号 (3)震度 (4)マグニチュード (5)1日の歩数 (6)アンケートの「はい/いいえ」 (7)標高(m) (8)時刻(24時制)
(1)間隔尺度。平均50・標準偏差10になるよう変換した値で、0は絶対的な原点ではありません。「偏差値70は35の2倍」は無意味。
(2)名義尺度。純粋なラベルです。
(3)順序尺度。震度5強と6弱の差、6弱と6強の差が等しい保証はありません。
(4)間隔尺度。対数スケールの量なので値どうしの比に意味はありません。ただし差には意味があります。
(5)比例尺度。0歩は「歩いていない」。
(6)名義尺度。カテゴリが2つで順序もありません。ただし0/1に置き換えれば平均が「はいの割合」になる特殊ケースです。
(7)間隔尺度。標高0mは平均海面という人間が決めた基準点で、絶対的な0ではありません。
(8)間隔尺度。0時は人間の都合。「12時は6時の2倍」は無意味ですが、「6時間後」という差は意味を持ちます。
(4)と(7)は迷ってよいところです。迷ったら「0のところで、その量は本当に無いのか」を自問してください。 それが唯一の判定基準です。
6. 情報Ⅱではこうなる
情報Ⅰでは、尺度は「データを分類するための知識」です。情報Ⅱでは、尺度の判断が分析パイプラインの最初の分岐になります。判断を間違えると、その先の処理が全部無駄になります。
6-1. 指導要領解説が「分析手法の選択そのもの」と書いている
「質的データ」,「量的データ」など,結果として求めている形式に応じて適切な分析手法を選択し,データを分析することが必要である。また,Web ページに掲載されているデータなどを取り上げることによって,データの処理の一連の流れの中でデータの整理や整形,加工を扱うことが考えられる。
前掲「解説 情報編」情報Ⅱ (3)情報とデータサイエンス(該当箇所は解説p.51〜52相当)
情報Ⅰでは「扱い方の違いを理解する」だったものが、情報Ⅱでは「適切な分析手法を選択する」に変わっています。知識から意思決定へ。 これは本書が全講で追いかけている構図で、この講でもきれいに現れます。
6-2. 前処理とは「尺度を確定させる作業」のこと
文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章の学習12「大量のデータの収集と整理・整形」は、研修の目的の第2項目に「データの形式の変換やデータの単位,欠損値や外れ値の処理を行う方法について理解し,目的に応じたデータを整形・整理する知識や技能を生徒に身に付けさせる授業ができるようになる」を置いています。そして演習3は、e-Stat で「都道府県の指標 基礎データ 人口・世帯 2020」を検索してダウンロードし、表計算ソフトで前処理させる課題です。教材が挙げている修正項目が生々しい。
- 不要な行や列を削除する/項目名を修正する
- 不要なカンマが付与されないようセルの書式を「通貨」から「標準」に変更する
- プログラムでファイルを開くことができるよう「CSV UTF-8形式」で保存する
- 表記のゆれを修正する(大文字と小文字、西暦と和暦、正式名称と略称、空白の有無など)
- 重複するデータを除去する
公開されているデータには,印刷することを前提に整形されているものも多く,このようなデータを,プログラムを用いて処理するには,このように前処理をする必要がある。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章(令和2年7月、該当箇所はp.119相当)
この一連の作業をデータクリーニングと呼びます。注目してほしいのは「不要なカンマ」の項目です。3桁区切りのカンマが入った数字は、コンピュータにとっては文字列であって数値ではありません。つまり比例尺度であるはずの人口が、読み込んだ瞬間は名義尺度と区別がつかない状態になっています。前処理とは、人間が見て分かっている尺度を、機械にも分かる型に直す作業なのです。ここを飛ばすと、平均を取ろうとしてエラーが出るか、もっと悪いことに、文字列として辞書順に並べ替えられて気づかないまま分析が進みます。
6-3. 質的変数は0と1に組み替えてから回帰に入れる(ダミー変数)
そして本講の接続の核心がここです。情報Ⅱの学習13「重回帰分析とモデルの決定」に、こう書かれています。
重回帰分析では,目的変数も説明変数も基本的には量的な変数である必要があるが,説明変数に質的な変数を用いることがある。この場合は,説明変数の質的な属性の有無を,0 と 1 の数値で対応させた変数(ダミー変数と呼ぶ)で表現し直し,ダミー変数を説明変数として重回帰分析を行う。目的変数が質的変数の場合は,ロジスティック回帰分析を行う。
前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章 学習13「ダミー変数」
情報Ⅰで「質的データに平均や回帰は使えない」と習います。情報Ⅱでは「だから0と1に組み替えてから入れる」と習います。禁止で終わらず、回避策まで用意されているのです。
ここで3-4の伏線が回収されます。男女に 0/1 を割り当てたとき、その平均が「1の割合」になるので意味を持つ、という例外がありました。ダミー変数はこの例外を意図的に作り出す技法です。カテゴリが3つ以上あるときは、番号を1・2・3と振るのではなく、「Aか否か」「Bか否か」という0/1の列を複数作ります。番号を振ってしまうと、「BはAの2倍」という存在しない順序と間隔を機械に信じ込ませてしまうからです。そして最後の一文も重い。目的変数が質的変数ならロジスティック回帰。 つまり「何を予測したいか」の尺度によって、使うモデルの名前ごと変わります。尺度は分析の入口で判断するだけでなく、出口のモデル選択まで決めているのです。
6-4. 情報Ⅰと情報Ⅱの扱いの違い
| 情報Ⅰ | 情報Ⅱ | |
|---|---|---|
| 尺度の役割 | データを4種類に分類する知識 | 分析手法を選ぶための分岐条件 |
| 質的データ | 平均を使ってはいけない対象 | ダミー変数に組み替えて回帰に入れる対象 |
| 目的変数が質的なら | 扱わない | ロジスティック回帰を選ぶ |
| 前処理 | 欠損値・外れ値の扱いを理解する | 実データをCSV UTF-8に整形しPythonで読ませる |
| 到達点 | この計算は使ってよいかを判断できる | この目的にはどのモデルかを選択できる |
まとめ
- データはまず質的/量的に分かれ、さらに名義・順序・間隔・比例の4尺度に分かれる。指導要領解説に名指しされた必修事項である。
- 4尺度は階段。順序が付く→目盛りが等間隔になる→0が絶対的になる、の順に使える計算が増える。
- 名義尺度に平均は無意味(ラベルを付け替えると値が変わるから)。順序尺度の平均は等間隔性の仮定に乗っている。
- 間隔尺度と比例尺度を分けるのは絶対零点の有無だけ。摂氏を華氏に直すと比が 2.0000 倍から 1.4576 倍に変わるが、差の比 1.8 は変わらない。
- 尺度は下へ落とせる(水準化)が、上へは作れない。
- 情報Ⅱでは、尺度の判断が前処理と分析手法選択の分岐になり、質的変数はダミー変数として回帰に投入される。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章 情報通信ネットワークとデータの活用(令和2年)
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 情報とデータサイエンス 前半(令和2年7月)
- 総務省統計局「なるほど統計学園:データ・データセットの種類」/「データ・スタート:データと変数の尺度」
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)/気象庁「過去の気象データ・ダウンロード」
この講は情報Ⅰ 最強120講義(全講一覧)の第80講です。続く第83講 代表値で「どの代表値を使うか」に進みます。デジタル化の側から数値の表現を追いたい方は第40講 2進数・10進数・16進数の変換、データが流れる仕組みは第68講 プロトコルとTCP/IPの4階層をどうぞ。制度の話はすべて2026年8月時点の情報です。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第80講のWeb版です。
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