こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第48講「共通テスト用プログラム表記①変数と代入」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はS(毎年出る。落とすと致命的)、情報Ⅱでの接続先は(4)情報システムとプログラミングです。
ここから第53講まではプログラム表記のシリーズです。その第1回である本講では、表記そのものの位置づけと変数・代入だけを固めます。演算子・条件分岐・反復・配列は後の講に譲ります。土台が緩いまま先へ進むと、必ず第3問で崩れるからです。
1. この講の問い
共通テスト『情報Ⅰ』のプログラムに出てくる = は、数学の等号と同じものなのでしょうか。
2. 結論
共通テストで使われるのは DNCL ではなく「共通テスト用プログラム表記」です。DNCL は旧課程科目「情報関係基礎」の言語で、別物です。そしてプログラム表記の = は等号ではなく、「右辺を計算して、その結果を左辺の変数に入れよ」という命令。左右は対等ではありません。だから x = x + 1 は矛盾ではなく、「いまの x に 1 を足したものを、あらためて x に入れ直せ」という一手順にすぎません。
3. なぜそうなるのか
3-1. 使われるのは「DNCL」ではありません
受験生向けの情報に「共通テストの疑似言語=DNCL」と書かれていることがありますが、これは正確ではありません。
大学入試センターが公表している「共通テスト手順記述標準言語 (DNCL) の説明」(2022年1月)の冒頭には、こうあります。
大学入試センターではこのような事情を考慮し,「情報関係基礎」の出題にあたり,共通テスト用の手順記述言語 (DNCL) を使用します
大学入試センター「共通テスト手順記述標準言語 (DNCL) の説明」2022年1月
主語は「情報関係基礎」です。これは旧課程の科目で、いまの『情報Ⅰ』とは別物でした。『情報Ⅰ』で使われるものは、同じセンターが公表した「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」(2022年11月9日公表)の第5節に、「共通テスト用プログラム表記の例示」として置かれています。名前が違い、文書が違い、そして中身も違う。代入の書き方が根本から変わっています。
| 項目 | 旧DNCL(情報関係基礎) | 共通テスト用プログラム表記(情報Ⅰ) |
|---|---|---|
| 代入 | kosu ← 3 | kosu = 3 |
| 四則 | + − × /(全角) | + – * /(半角) |
| 1を足す | 「kosu を 1 増やす」と日本語で書ける | この構文は無い。x = x + 1 |
| 文字列 | 「 」でも ” ” でもよい | ” ” のみ |
| 全部大文字の変数 | 実行中に変化しない値と規定 | 規定なし(配列名が先頭大文字とだけ) |
| 添字 | 0以上。問題により1以上のみ | 特に説明がなければ0から |
この表の3行目が本講のすべてです。旧DNCLでは「kosu を 1 増やす」と日本語で書けたので、代入の向きを取り違えようがありませんでした。 新しい表記ではその逃げ道が消え、x = x + 1 を自分で読み解かなければならなくなりました。第47講で扱ったアルゴリズムと流れ図が「処理の流れを図で描く」話だったのに対して、ここからは「その流れを文字で書く文法」の話に移ります。
3-2. なぜ特定の言語ではなく専用の表記なのか
理由は例示の冒頭に明記されています。
高等学校の「情報Ⅰ」の授業で使用するプログラミング言語は多様であることから,共通テスト『情報Ⅰ』の試作問題作成にあたり,共通テスト用のプログラム表記を使用します
大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表
学校によって Python を使うところ、JavaScript を使うところ、VBA を使うところ、Scratch を使うところがあります。もし試験を Python で出せば、Python を習った生徒だけが有利になってしまう。試験が測るべきは学力であって、学校がどの言語を採用したかではありません。だからどの言語からも等距離にある表記を用意したわけです。実際この資料には、二分探索という同一のアルゴリズムを流れ図・共通テスト用プログラム表記・Python3・JavaScript・VBA・Scratch の6通りで並べた対比表まで載っています。
ただし、同じ資料にはこういう但し書きがあります。
しかしながら,問題文の記述を簡潔にするなどの理由で,この説明文書の記述内容に従わない形式で出題することもあります。したがって,共通テスト『情報Ⅰ』の受験に際しては,当該問題文の中の説明や指示に注意し,それらに沿って解答してください
前掲「試作問題『情報』の概要」第5節
つまりこの例示は「文法書」ではありません。 本番では例示にない書き方が出うるし、そのときは問題文の説明が優先されます。暗記すべきは文法の一覧ではなく、「その場で定義を読んで従う」態度のほうです。
3-3. 国の文書は「変数」をほとんど名指ししていません
なぜこの講がわざわざ必要なのか、もう一段深いところを書きます。
高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編を全文検索すると、「変数」という語は6か所しかありません。しかも情報Ⅰの記述に現れるのは1か所だけで、それはプログラミングの節ではなく、モデル化とシミュレーションの学習活動です。
関係する変数が少ない事象を数式で表す技能を身に付け,変数に代入する値を変えるなどしながらシミュレーションを繰り返し,適切な解決方法を発見したり選択したりする学習活動が考えられる
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(該当箇所は解説p.34相当)
アルゴリズムとプログラミングの節に「変数」という語は一度も出てきません。 国の設計文書が、情報Ⅰのプログラミングで変数をどこまで扱うかを指定していないのです。結果として教科書ごとに深さがバラバラになり、共通テストは自前の表記を用意して足並みを揃えるほかなかった。受験生が独学で埋めるべき穴は、まさにここにあります。
なお「変数は箱である」という説明は、塾が持ち出した比喩ではありません。「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章に、次の一文があります。
コンピュータで変数は指定されたビット数の箱に入っていると考える。この箱 ( 定められたビット数 ) に収まるものであれば誤差は生じないが,収まらないものは誤差が生じる
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章 コンピュータとプログラミング(令和2年)
ただし教材はこれを誤差の説明として持ち出しており、代入の説明としては使っていません。箱の比喩を代入につなぐ作業は、読者側でやる必要があります。本講はそこを引き受けます。
3-4. = は等号ではなく命令です
数学の x = x + 1 には解がありません。両辺から x を引くと 0 = 1 になるからです。にもかかわらず、プログラム表記では x = x + 1 が普通に出てきます。矛盾ではないのでしょうか。矛盾ではありません。記号が同じだけで、意味がまったく違います。
- 数学の
=:左と右が等しいという主張。時間の概念がなく、左右を入れ替えても意味は変わりません。 - プログラム表記の
=:右辺を計算して左辺の変数に入れよという命令。時間の概念があり、左右を入れ替えたら別の意味になります。
代入は次の3ステップで実行されます。この順番が命です。
矛盾が起きないのは、右辺を読む時点の x と、左辺に書き込んだ後の x が、別の時刻の x だからです。数学の等式には時刻がなく、代入には時刻がある。この違いを飲み込めるかどうかが、共通テスト第3問を読めるかどうかの分かれ目です。
コツを一つ。= を見たら心の中で必ず「← に読み替える」。旧DNCLは実際に ← で書いていました。矢印に直せば、向きを間違えることはありません。
3-5. 変数名が意味を持つ理由
機械にとって、変数名は無意味です。kosu を a に書き換えても、実行結果は1ビットも変わりません。にもかかわらず、大学入試センターの例示は kosu(個数)、kingaku_goukei(金額合計)、Tokuten(得点)、hidari(左)、migi(右)といった、意味の読み取れる名前を使っています。
理由は明快で、変数名は人間へのメッセージだからです。共通テストのプログラム問題は、コードを書かせる試験ではなく読ませる試験です。hidari と migi を見た瞬間に「探索範囲の両端を持っているな」と分かるかどうかで、解答時間が変わります。これは国の教材も同じ立場で、「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章のシミュレーションの節にはこうあります。
プログラム中に用いる変数と諸条件の対応をわかりやすくするためにも,変数表を作成しておくとよい
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章(同節の図表1「変数表」は dt=時間間隔/x=水平位置/y=鉛直位置/g=重力加速度/v0=初速度 などを掲げる)
変数と意味の対応表を作れ、と国の教材が言っている。 これは試験対策としてもそのまま使えます。問題のコードを読むとき、余白に自分で変数表を書く。それだけで正答率が変わります。
4. 手で確かめる
4-1. 代入を1行ずつ追う(トレース表)
大学入試センターの例示に出てくる kosu と kingaku を使って、代入だけの短いプログラムを追います。
(1) kosu = 3
(2) kingaku = 300
(3) kingaku_goukei = kingaku * kosu
(4) kosu = kosu + 1
(5) kingaku_goukei = kingaku_goukei + kingaku
(6) 表示する("個数は", kosu, "合計は", kingaku_goukei)
トレース表の作り方はただ一つ、1行実行するごとに全変数の値を1行書く。横線は「まだ値が入っていない」を表します。
| 行 | 実行内容 | kosu | kingaku | kingaku_goukei |
|---|---|---|---|---|
| 開始 | — | — | — | — |
| (1) | kosu に 3 を入れる | 3 | — | — |
| (2) | kingaku に 300 を入れる | 3 | 300 | — |
| (3) | 300 × 3 = 900 を入れる | 3 | 300 | 900 |
| (4) | 3 + 1 = 4 を kosu に入れ直す | 4 | 300 | 900 |
| (5) | 900 + 300 = 1200 を入れ直す | 4 | 300 | 1200 |
| (6) | 表示する | 4 | 300 | 1200 |
(4)行が本講の山場です。 右辺 kosu + 1 を計算する時点の kosu は 3。だから 4 になります。ここで「左辺の kosu が 4 だから右辺も 4 で、答えは 5」と読んでしまうと、以後の値が全部ずれます。
そして(5)行に注意してください。(4)で kosu を 4 に変えても、(3)で計算した 900 は(3)の時点の kosu の値で確定してしまっているので、900 のままです。後から kosu をいくら変えても再計算はされません。
代入は「関係を結ぶ」のではなく「値をコピーする」。 表計算ソフトの数式とは決定的に違い、実行したその瞬間の値を写し取って終わりです。
4-2. 2つの変数の値を入れ替える
x に 5、y に 8 が入っています。この2つを入れ替えたい。素直に書くとこうなります。
(1) x = 5
(2) y = 8
(3) x = y
(4) y = x
| 行 | x | y |
|---|---|---|
| (1) | 5 | — |
| (2) | 5 | 8 |
| (3) | 8 | 8 |
| (4) | 8 | 8 |
失敗しています。 (3)で x に 8 を入れた瞬間、x が持っていた 5 は消えました。だから(4)で y に入れようとしても、もう 5 はどこにも残っていません。
(1) x = 5
(2) y = 8
(3) tmp = x
(4) x = y
(5) y = tmp
| 行 | x | y | tmp |
|---|---|---|---|
| (1) | 5 | — | — |
| (2) | 5 | 8 | — |
| (3) | 5 | 8 | 5 |
| (4) | 8 | 8 | 5 |
| (5) | 8 | 5 | 5 |
入れ替わりました。この tmp のように、値を一時的に避難させるためだけに置く変数を一時変数といいます。「変数は箱であり、代入は上書きである」を認めない限り、なぜ一時変数が要るのかは理解できません。逆に、この例を自力で説明できたら本講は理解できています。
4-3. Python で実際に実行して確かめる
以下はすべて私の手元の Python 3 で実行し、出力を確認したものです。プログラム表記と Python は代入記号が同じ = なので、そのまま置き換えて実験できます。
kosu = 3
kingaku = 300
kingaku_goukei = kingaku * kosu
print(kingaku_goukei)
# 900
kosu = kosu + 1
kingaku_goukei = kingaku_goukei + kingaku
print(kosu, kingaku_goukei)
# 4 1200
4-1のトレース表と一致しました。次に入れ替えの失敗と成功です。
x = 5
y = 8
x = y
y = x
print("x =", x, " y =", y)
# x = 8 y = 8
次に一時変数を使った書き方です。
x = 5
y = 8
tmp = x
x = y
y = tmp
print("x =", x, " y =", y)
# x = 8 y = 5
ついでに、数値限定の裏技も試しておきます。x = x + y → y = x - y → x = x - y と書くと、一時変数なしで x=8, y=5 に入れ替わりました。ただしこれは足し算と引き算ができる型でしか使えません。文字列で同じことをすると、こうなります。
s = "A"
t = "B"
s = s + t
t = s - t
# TypeError: unsupported operand type(s) for -: 'str' and 'str'
この TypeError が、第6ブロック(情報Ⅱ)への入口です。 「足せるが引けない」という区別は、変数に入っている値の型の話だからです。
最後に、kosu を a、kingaku を b に置き換えて c = b * a を実行しても、答えはやはり 900 でした。変数名は人間のためだけにあります。
5. 共通テストではこう出る(重要度S)
5-1. 例示の全体像を先に持っておく
「共通テスト用プログラム表記の例示」は10項目からなります。本書では第48〜53講で順に扱いますが、地図を先に持っておくと迷いません。
| 項目 | 内容 | 担当講 |
|---|---|---|
| 1 変数 | 英字で始まる英数字と _。配列名は先頭大文字。添字は0から | 第48講 |
| 2 文字列 | ” で囲む。+ で連結 | 第48講 |
| 3 代入文 | = で代入。, で複数文を1行に。【外部からの入力】 | 第48講 |
| 4 算術演算 | + – * /、商 ÷、余り %、べき乗 ** | 第49講 |
| 5 比較演算 | == != > < >= <= | 第49講 |
| 6 論理演算 | and or not | 第49講 |
| 7 関数 | 要素数(Data)、表示する(…) | 第49・53講 |
| 8 条件分岐 | もし〜ならば: ほか | 第50講 |
| 9 繰返し | 〜の間繰り返す: ほか | 第51講 |
| 10 コメント | # 以降は処理の対象外 | 第48講 |
そのうえで、本講で押さえるべき「引っかかりやすい細部」は次の3点です。
1. 添字は「特に説明がなければ」0から始まる。 この前置きが重要で、問題文が1始まりを定義してくることがあります。
2. , で複数の代入文を1行に並べられ、左から順に実行される。 例示は kosu = 3 , kingaku = 300。二分探索の例示でも hidari=0 , migi=kazu-1 と実際に使われています。
3. 大文字始まりは配列。 配列そのものの扱いは第52講に譲りますが、この見分けだけは今つけておきます。
5-2. 出題のされ方(3つの型)
数行のコードを示し、実行後の変数の値や表示される値を答えさせる型。空欄補充は結局これの集合体です。x = x + 1 のような自己参照の代入が1回でも混ざれば、そこで差がつきます。
組込みの説明があるのは 要素数(配列) 程度で、それ以外の関数は基本的に問題中に説明されます。逆に言えば、変数の意味は問題文に書かれないことがある。hidari migi goukei といった名前から役割を読み取る力が、そのまま得点になります。
例示にない書き方が出たら、優先されるのは問題文です。センター自身が「この説明文書の記述内容に従わない形式で出題することもあります」と明記しています。例示を丸暗記した人ほど、この型で事故ります。
なお2026年1月実施の『情報Ⅰ』第3問は、問1が言語を使わずに課題を整理し、問2で配列での表し方を埋め、問3で改良する3段構成だったと分析されています。問1の時点ではコードが出てこない。 表記の文法は入口にすぎず、その先に「何を変数に持たせるか」の判断があります。出題構造の分析は東進およびZ会の公開分析(二次情報)による。当塾では共通テストの問題文・選択肢・図表・プログラムコードは転載していません。
5-3. 落とし穴
=を等号として読む。 最大の事故。見たら←に読み替える。- 右辺の評価が先だと忘れる。
x = x + 1を「x と x+1 が等しい」と読むと全滅します。 - 代入は参照ではなくコピーだと忘れる。
b = aのあとで a を変えても、b は変わりません。 - 添字の開始が0か1かを確認しない。 例示は0始まりですが、問題文が定義してきたらそちらが正。
- 大文字始まりの変数を通常の変数と読む。 例示上は配列です。
- 旧DNCLの解説を教材にする。
←や「〜を1増やす」は情報関係基礎の記法。『情報Ⅰ』の表記ではありません。
5-4. 練習用の自作問題(本記事オリジナル)
問1 次を実行した後の a と b の値を答えよ。
(1) a = 4(2) b = a * 2(3) a = a + b(4) b = a - b
問2 共通テスト用プログラム表記の変数名として認められないものをすべて選べ。
(ア)kosu (イ)2kosu (ウ)kosu_2 (エ)Kosu (オ)kosu kei
問3 x と y を入れ替えるつもりで次のように書いた。実行結果を答え、理由を1行で述べよ。
(1) x = 10(2) y = 3(3) y = x(4) x = y
問4 次の goukei は最後にいくつになるか。
(1) Data = [2, 4, 6, 8](2) goukei = 0 , i = 0(3) goukei = goukei + Data[i](4) i = i + 1(5) goukei = goukei + Data[i]
問1 a = 12、b = 4。(2)で b = 8、(3)で a = 4 + 8 = 12、(4)で b = 12 − 8 = 4。
問2 (イ)(オ)。変数名は英字で始まる英数字と _ の並びなので、数字始まりの 2kosu と、空白を含む kosu kei は不可。(エ)は大文字始まりなので配列名として扱われる点に注意(変数名として不正なのではありません)。
問3 x = 10、y = 10。(3)で y の 3 が消えて 10 に上書きされ、(4)ではその 10 が x に戻るだけだから。入れ替えには一時変数が必要。
問4 6。添字は0から始まるので、(3)で Data[0] = 2 を足して goukei = 2、(4)で i = 1、(5)で Data[1] = 4 を足して goukei = 6。
プログラム表記の演算子や関数、条件分岐、反復、配列は第49講以降で順に扱います。学習計画全体の立て方は共通テスト「情報Ⅰ」対策はいつから何をやるべきかにまとめました。本書の全120講の一覧は『藤原進之介の最強120講義』目次ページから辿れます。
6. 情報Ⅱではこうなる
情報Ⅰでは、変数は「値を入れる箱」で終わります。情報Ⅱでは主題が3つに増えます。箱に何を入れてよいか(データ型)/その箱を誰が触ってよいか(スコープと情報隠ぺい)/箱にどんな名前を付けるか(規約)です。
6-1. 型──「足せるが引けない」の正体
4-3で文字列の引き算が TypeError になりました。この区別が正面に出るのが情報Ⅱです。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章 学習11「データと関係データベース」は、表形式データを扱うにあたりデータ型を明示し、例として Char / String / Int / Real / Object を挙げます。情報Ⅰでは「変数に値を入れる」で済んでいたものが、情報Ⅱでは「この列は Int である」と型を決めてから扱う世界に入ります。 第40講(基数変換)で見た「箱のビット数は有限である」という話が、ここで型として再登場します。
6-2. スコープ──「その箱を誰が触ってよいか」
情報Ⅱで変数が本当に主題になるのはここです。「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章の「モジュール結合とカプセル化」に、次の記述があります。
モジュール内部の変数(データ)が他のモジュールから直接読み書きできてしまうため,モジュールを正しく作ったとしても他のモジュールの不具合などでデータの整合性が壊れてしまう可能性がある
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章 情報システムとプログラミング(令和2年6月)
これは「独立性の低いモジュール」の説明です。解決策として提示されるのがカプセル化で、教材は「図表6 のモジュールでは、変数に値を書くための設定用の関数と、変数の値を参照するための読み出し用の関数を用意している」と続け、オブジェクトとしてのモジュールを「データである変数と、手続きである関数で定義される」と説明します。
情報Ⅰの視点では、変数は書き換えられて当たり前でした。 4-2で見たとおり、x = y と書けば x の中身は消える。情報Ⅱでは、その「書き換えられてしまうこと」自体が設計上のリスクとして扱われます。だから箱に直接手を突っ込ませず、設定用と読み出し用の関数だけを外に出す。変数の見える範囲を意図的に絞る——これがスコープの発想です。第68講(プロトコルとTCP/IPの4階層)で見た階層化の御利益が、ここではデータの見せ方に適用されています。
6-3. 命名と一時変数──「名前」が設計対象になる
3-5で「変数名は人間へのメッセージだ」と書きました。情報Ⅱでは、それがチーム開発の規約になります。
同じ第4章の「チームでの開発の進め方」には、コーディングスタイルとは「変数名や関数名の規則、コメントの書き方など考えなければいけないルールについて統一した基準を作成し、それに従うこと」だとあります。Python の構文規則の制約として「変数名の1文字目は数字にはできない」「予約語になっている語句は変数名に使用できない」を挙げ、規約の名として PEP8 を示しています。
「1文字目は数字にできない」——これは共通テスト用プログラム表記の「変数名は英字で始まる英数字と _ の並び」とまったく同じ規則です。試験用の表記が勝手に決めたローカルルールではなく、現実の言語の規則を引き写したものだと分かります。
さらに教材はリファクタリングの一覧表に、「変数のインライン化」(一時的な役割の変数を使わなくする)と「変数名の変更」(現在の役割に対して良い名前ではない変数を付け直す)を独立項目として載せています。4-2で導入した tmp を思い出してください。情報Ⅰでは「一時変数を置けるようになる」がゴールでした。情報Ⅱでは、その一時変数を置くか消すかが設計判断になります。 同じ道具が、使えるようになる対象から、選ぶ対象に変わる。私はここに、情報Ⅰと情報Ⅱの段差がいちばんよく表れていると思っています。
6-4. 情報Ⅰと情報Ⅱの扱いの違い
| 論点 | 情報Ⅰ | 情報Ⅱ |
|---|---|---|
| 変数とは | 値を入れる箱 | データ(状態)そのもの。関数と対でモジュールを構成する |
| 型 | ほぼ意識しない | Int / Real / String などを決めてから扱う |
| 見える範囲 | 全部見える前提 | 隠す。設定用・読み出し用の関数を通す |
| 名前 | 意味が伝わればよい | チームの規約として統一する(PEP8) |
| 一時変数 | 入れ替えのために導入する | 残すか消すかを判断する(インライン化) |
情報Ⅰが「変数を使えるようになる」で終わり、情報Ⅱは「変数を誰にどこまで見せるかを決める」ところまで行きます。 第48講は、その最初の一歩です。
まとめ
- 使われるのは DNCL ではなく「共通テスト用プログラム表記」。DNCL は旧課程「情報関係基礎」の言語で、代入は
←だった。 - 専用表記の理由は、採用言語が多様でも公平に測るため。ただし例示は文法書ではなく、本番は問題文の指示が優先される。
=は等号ではなく「右辺を計算して左辺の箱に入れよ」という命令。右辺の評価が先。だからx = x + 1が成立する。- 代入は参照ではなくコピー。だから入れ替えには一時変数が要る。
- 情報Ⅱでは、変数は型・スコープ(カプセル化)・命名規約という3つの設計対象になる。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表(第5節「共通テスト用プログラム表記の例示」)
- 大学入試センター「共通テスト手順記述標準言語 (DNCL) の説明」2022年1月
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章(令和2年)
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 前半・第4章(令和2年)
- 東進・Z会の出題分析(二次情報。設問構造の説明にのみ使用)
制度に関する記述はすべて2026年8月時点のものです。同じ第3部では第43講(論理演算・真理値表・ベン図)が条件式の土台になります。カテゴリ「情報Ⅰ 最強120講義」から他の講も読めます。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第48講のWeb版です。
「プログラムの問題だけ、どうしても読めない」という方へ
共通テスト『情報Ⅰ』の第3問は、読める人と読めない人で得点が真っ二つに割れます。代入の追跡は独学だと最初の一歩でつまずきがちです。数強塾では数学と情報Ⅰの両方に対応したオンライン個別指導を行っています。学習相談は無料、体験授業は3,000円(税込)でお受けしています。
