情報Ⅰ 最強120講義

動画のデジタル化とフレームレート|情報Ⅰ 最強120講義 第35講

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今日の一問
動画は「画像を並べただけ」のはずです。それなのに、なぜ画像には要らなかった圧縮が、動画では必須になるのでしょうか。
数強塾代表の藤原進之介です。この講で、デジタル化の3部作が完成します。第33講で音(時間方向の標本化)、第34講で画像(空間方向の標本化)を扱いました。動画は、その両方を同時にやっているだけです。新しい原理は一つも出てきません。今回はそのことを、数字で確かめます。
——さて、どこから手をつける?
答えと考え方は、この記事の中で順を追って解説します。

第35講 動画のデジタル化とフレームレート/共通テスト重要度 A/情報Ⅱ接続:(3)情報とデータサイエンス+(2)コミュニケーションとコンテンツ。この講は『藤原進之介の最強120講義』の第2部(コミュニケーションと情報デザイン)にあたります。

1. この講の問い

動画は「画像を並べただけ」のはずです。それなのに、なぜ画像には要らなかった圧縮が、動画では必須になるのでしょうか。

数強塾代表の藤原進之介です。この講で、デジタル化の3部作が完成します第33講で音(時間方向の標本化)第34講で画像(空間方向の標本化)を扱いました。動画は、その両方を同時にやっているだけです。新しい原理は一つも出てきません。今回はそのことを、数字で確かめます。

2. 結論

(1) 動画のデジタル化に新しい原理は無い。「時間を刻む」(第33講)と「空間を刻む」(第34講)を同時にやっているだけである。だから式は、画像の式に「1秒あたりの枚数」と「秒数」を掛けただけになる。

(2) ところが掛け算が2本増えた瞬間に、答えの桁が壊れる。1920×1080・24bit・30fps の1分で約11.2GB。だから動画だけは、圧縮が「したほうがいい工夫」ではなく成立条件になる。

(3) そして動画は総量ではなく 1秒あたり何ビットか で語られる。この形にして初めて、回線速度(bps)と直接比べられるからである。

3. なぜそうなるのか

3-1 この講で「デジタル化3部作」が閉じる

第33講・第34講・第35講は、別々の暗記事項ではありません。同じ1つの手続きを、刻む方向を変えて3回やっているだけです。

第33講 音 第34講 画像 第35講 動画
標本化(何を刻むか) 時間を刻む 空間(平面)を刻む 空間と時間の両方
刻みの細かさの名前 標本化周波数[Hz] 解像度[画素] 解像度 + フレームレート[fps]
量子化(何を段階に落とすか) 振幅 明るさ・色 明るさ・色(画像と同じ)
段階の多さの名前 量子化ビット数 階調 階調(画像と同じ)
符号化 段階の番号を2進法で書く 同左 同左
データ量 周波数×ビット数×ch×秒 横×縦×1画素bit 横×縦×1画素bit×fps×秒

見てのとおり、動画の列に「新しく覚えること」は1つしかありません。フレームレートだけです。量子化と符号化は画像と完全に同じで、標本化に時間方向がもう1本足されただけ。ここに気づけば、この単元は覚える量が3分の1になります。

この講の役割は、この表を自分で埋められるようにすることです。音・画像・動画を三度覚えた人は、たいてい三度とも忘れます。一度で済ませてください。

3-2 一次資料は、動画を「パラパラ漫画」として定義している

文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第2章は、動画をこう定義しています。

静止画を連続して短い時間間隔で表示し,目の残像効果を利用して動いているように見えるようにしたものを動画という。動画は複数枚の静止画を連続で切り替えている。この静止画のことをフレームといい,1秒当たりのフレームの数をフレームレートという。

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章、令和2年(2026年8月3日取得)

そして図表8「動画の仕組み」に置かれているのは、ロケット発射の絵を①〜⑤と並べ、「順番にめくるとアニメーション(動画)になる」というパラパラ漫画の図です。難しい図ではありません。国が示している動画の姿は、文字どおりパラパラ漫画なのです。

ここから読み取るべきことが2つあります。

(a) 動画は「動いているもの」ではありません。 動いているのは受け手の目のほうです。教材が「目の残像効果を利用して」と書いているとおり、コンピュータの側は静止画を切り替えているだけで、連続性は人間の知覚が作っている。デジタル化とは、連続を離散に置き換えて、人間の側に補完させる操作です。第33講で音の標本化について書いたことと、まったく同じ構造をしています。

(b) フレームレートは「1秒当たりのフレームの数」=単なる個数です。 30fps なら1秒に30枚。60秒なら 30×60 = 1800枚。ここを「率」という字に惑わされて割り算しようとする答案が、毎年一定数あります。掛けます。

時間1枚目2枚目3枚目4枚目5枚目6枚目1 ÷ fps 秒1枚1枚は静止画(=第34講)。刻む間隔を決めるのがフレームレート音の標本化(第33講)で「点を刺した」のと同じ絵。刺さっているものが数値か画像かの違いしかない
図1 フレームは時間軸に等間隔で並んでいる。間隔は 1÷fps 秒

3-3 なぜ動画だけ圧縮が必須になるのか ── 掛け算が2本増えるから

第34講で、1920×1080 の24bitフルカラー画像1枚が 6,220,800 B(約6.2MB)であることを計算しました。写真1枚が6MB。これは重いけれど、扱えない量ではありません。スマートフォンの中に何千枚も入っています。

ところが動画にすると、この 6.2MB に fps秒数 が掛かります。

  • 1秒(30fps)なら ×30 → 約186MB
  • 1分(30fps)なら ×1800 → 約11.2GB
  • 1時間(30fps)なら さらに×60 → 約672GB

1分の動画が、写真1800枚ぶんの重さになる。 当たり前と言えば当たり前なのですが、この「当たり前」を数字で一度突きつけられるかどうかで、以降の理解がまるで変わります。

なぜ画像では圧縮が必須にならず、動画では必須になるのか。答えはです。画像のデータ量は「メガの世界」に収まりますが、動画は掛け算が2本増えるだけで「ギガの世界」に飛ぶ。1時間の映画1本で、市販のノートパソコンのストレージが丸ごと埋まってしまいます。

だから教材も、動画の節でだけ、圧縮を条件として書きます。

動画は多数の静止画を連続して表示するのでファイルサイズが大きくなる。このため,保存する際には圧縮することが多い。圧縮技術を含むデータの符号化や復号の技術をコーデックという。コーデック及びその設定によって動画の画質,ファイルサイズ,互換性は異なる

同教材 第2章(2026年8月3日取得)

「圧縮することが多い」という一文の前に、必ず「ファイルサイズが大きくなるので」という理由が置かれている。 一次資料は、圧縮を暗記事項ではなく必然として書いているのです。

3-4 なぜ「フレーム間の差分」を使うと減るのか

では、どうやって圧縮するのか。原理そのものは第36講 データ圧縮が扱いますので、ここでは動画に固有の圧縮の考え方だけを押さえます。

第36講の結論はこうでした。情報に偏りがあるから縮む。 偏りが無い(=完全にランダムな)データは、原理的に縮められません。

では動画の偏りはどこにあるのか。隣り合うフレームどうしが、ほとんど同じというところにあります。

30fps なら、1枚と次の1枚は 1/30 秒しか離れていません。1/30 秒のあいだに画面全体が入れ替わることは、ふつう起きない。人が歩いている動画なら、変わっているのは人の輪郭のあたりだけで、背景の壁も床も空も1画素も変わっていないのです。

ならば、2枚目を丸ごと記録する必要はありません。「1枚目と違うところだけ」を記録すれば、残りは1枚目からコピーすればいい。 これが時間方向の冗長性を使う、という意味です。

1枚目2枚目(1つ右へ動いた)差分(違うところだけ)6×6=36画素の静止画丸ごと記録すると36画素2画素だけ記録すればよい画面全体が変わる場面では差分も36画素になり、この工夫は効かない隣り合うフレームはほとんど同じ。だから「変わったところ」だけを記録する
図2 フレーム間差分(時間方向の冗長性)。動きが激しいほど差分が大きくなり、縮まなくなる

第34講で扱った画像の圧縮は、1枚の中の「隣り合う画素が似ている」という空間方向の冗長性を使っていました。動画は、それに加えて時間方向の冗長性という2本目の資源を持っている。だから動画は、画像より圧縮率を高くできるのです。

そして、ここから説明できるようになるべき現象が2つ出てきます。

(a) なぜ動きの激しい映像ほどファイルが大きくなるのか。 カメラが動く・場面が切り替わる・画面全体が揺れる。こういう場面では、隣のフレームと「違うところ」が画面全体に広がります。差分が小さくならないので、差分を記録する利点が消える。動きが激しい=時間方向の冗長性が少ない=縮まない。 スポーツ中継や激しいゲーム画面が、同じ長さの会議録画よりずっと重くなる理由がこれです。経験則ではなく、冗長性から出てくる結論です。

(b) なぜ動画の途中から再生できるのか。 差分だけを積み上げていくと、途中から見たい人は最初のフレームから全部たどらないと絵が作れません。そこで実際の動画形式では、差分ではなく丸ごと記録したフレームを定期的に挟みます。「途中から再生できる」という便利さは、圧縮率をわざと落として買っているものなのです。圧縮の話は、いつも何かとの取り引きになる。 学習指導要領解説も、専門教科の動画制作の項で「画質とファイルサイズにトレードオフの関係があること」と、この取り引きの存在を明記しています。

3-5 なぜ動画は「1秒あたり何ビット」で語られるのか

ここが本講で一番、他の講と結びつく場所です。

音も画像も「合計で何MBか」で語ります。ところが動画だけは、「1秒あたり何ビットか」という言い方をします。理由は単純で、それが回線速度と同じ形だからです。

第73講 通信速度とデータ量の計算で扱ったとおり、通信速度の単位は bps(bit per second)=1秒あたり何ビット送れるか でした。一方、動画の再生とは「1秒ぶんの映像を1秒以内に受け取り続ける」ことです。つまり判定式はこうなります。

回線が1秒に運べるビット数 ≧ 動画が1秒に必要とするビット数 → 再生できる

回線が1秒に運べるビット数 < 動画が1秒に必要とするビット数 → 止まる

合計サイズ(GB)では、この比較ができません。10GB の動画が再生できるかどうかは、それが10分の動画か10時間の動画かで正反対になるからです。「合計」を「秒あたり」に直して初めて、回線と同じ土俵に乗る。 だから動画は秒あたりで語られる。この量を一般にビットレートと呼びます。

そして重要なのは、この換算がまったく新しい計算ではないことです。第73講でやった「データ量 ÷ 速度 = 時間」の式を、時間の側で解いているだけ。第33講・第34講・第73講・第35講で、計算の型は一度も変わっていません。 掛けて、割って、単位をそろえる。それだけです。

3-6 フレームレートに「決まった正解」は無い ── 人間の知覚が仕様を決めている

第33講で、標本化周波数は「人間に聞こえる範囲を拾えれば十分」という考え方で決まる、と書きました。フレームレートも同じ構造をしています。

教材が「目の残像効果を利用して」と書いているとおり、フレームレートの下限を決めているのは、機械の性能ではなく人間の目です。1秒に何枚あればなめらかに見えるか。それが分かれば、それ以上に増やす必要はない。増やせば増やすほど、データ量だけが正比例で膨らみます。

ここで、正直に書いておかなければならないことがあります。「何 fps から人間はなめらかだと感じるか」という具体的な数値を、私は今回、国の一次資料の中に見つけられませんでした。 学習指導要領解説にも、情報Ⅰ・情報Ⅱの教員研修用教材にも、IPAのシラバスにも、その数値は書かれていません。教材が書いているのは「目の残像効果を利用して」というところまでです。

ですから本稿では、数値を書きません。 世の中でよく見る数字を「たぶんこのくらい」と書いてしまえば、それは推測を事実の顔で置くことになります。裏の取れない数字は書かない。これが本書の方針です(教材の演習が 60fps を採用していることは事実として確認できますので、後の計算ではその設定も使います)。

そのうえで、押さえるべき構造はこれです。標本化の細かさは、対象の性質ではなく、受け手の性質が決める。 音なら耳、画像なら目の解像力、動画なら目の時間分解能。デジタル化の設計値は、いつも人間の側から降りてくる。 この一文が、第33講・第34講・第35講の3講に共通する結論です。

3-7 一次資料は、この単元についてほとんど何も書いていない(語数調査)

本書は毎回、担当する講のキーワードが①学習指導要領解説 ②情報Ⅰ教員研修用教材 ③情報Ⅱ教員研修用教材 に何回出てくるかを数えています。第35講の結果は、これまでで最も極端でした(2026年8月3日、各PDFのテキストを抽出して計数)。

学習指導要領解説 情報編 情報Ⅰ教員研修用教材 情報Ⅱ教員研修用教材
動画 53 34 53
フレームレート 0 1 0
fps 0 1 0
ビットレート 0 0 0
圧縮 10 49 0
フレーム(語として) 1 6 25(全部「データフレーム」等で動画の意味は0)

読み取れることが3つあります。

(1)「フレームレート」は、国の一次資料の中にたった1文しかありません。 その1文が、3-2で引いた定義文です。つまり定義文がすべてで、それ以上の説明はどこにも無い

(2)「ビットレート」という語は、どこにもありません。 学習指導要領解説にも、情報Ⅰ・Ⅱの教員研修用教材にも0件。さらに調べると、IPA の基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2 にも、ITパスポート試験シラバス Ver.6.5 にも0件でした。「1秒あたりのデータ量」という考え方は必要なのに、それを呼ぶ語の足場が、国の資料の側に存在しないのです。

(3) 学習指導要領解説に1件だけある「フレーム」は、共通教科ではなく専門教科の記述です。解説は専門教科情報科の「ウ 動画のコンテンツ制作」で、タイムライン上でのカット編集やキーフレーム操作に触れ、そこで「画質とファイルサイズにトレードオフの関係があること」と書いています。動画を技術として腰を据えて扱うのは、情報Ⅰ・情報Ⅱではなく専門学科のほうなのです。

では「フレームレート」はどこに在るのか。IPA のシラバスです。ITパスポート試験シラバス Ver.6.5 の「マルチメディア技術 (4)動画処理」の用語例は、次のとおりです。

フレーム,フレームレート,MPEG(Moving Picture Experts Group),H.264,H.265,AVI,MP4

IPA「ITパスポート試験 シラバス Ver.6.5」(2026年8月3日取得)

基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2 も同じ (4)動画処理で「フレーム,フレームレートなど,コンピュータにおける動画表現の仕組み……を理解する」と本文に書き、用語例に MPEG・H.264・HEVC・H.265・QuickTime・AVI を並べています(2026年8月3日取得)。

「情報Ⅰの本文には無いのに、試験には出る」 ── 本書が繰り返し指摘してきた構造が、この単元にもそのまま在ります。学校の授業で1文しか触れられない項目を、計算問題として解けるところまで持っていく。そこが、この講の存在理由です。

4. 手で確かめる

この節の数値は、すべて Python で独立に検算しました(コードと出力は 4-5 に載せます)。

4-0 式は「画像の式に2つ掛けるだけ」

横 \(W\) 画素・縦 \(H\) 画素、1画素 \(b\) bit、フレームレート \(f\) fps、時間 \(t\) 秒とすると、

\[D_{\text{bit}} = W \times H \times b \times f \times t \qquad D_{\text{Byte}} = \frac{D_{\text{bit}}}{8}\]

そして1秒あたりのビット数(ビットレート)は、上の式から \(t\) を外すだけです。

\[R = W \times H \times b \times f\]

必ず bit と B の両方で答えを書いてください。 第33講・第34講で繰り返したとおり、この単元の最大の失点源は取り違えです。動画では桁が大きいぶん、間違えたときの被害も大きくなります。

4-1 非圧縮のデータ量を、設定を変えて並べる

1画素24bit(フルカラー)で固定し、解像度・フレームレート・時間を変えました。

設定 1フレーム フレーム数 合計[bit] 合計[B] 10進(GB) 2進(GiB) ビットレート
640×480・30fps・10秒 7,372,800 bit
=921,600 B
300 2,211,840,000 276,480,000 0.27648 0.25749 221.184 Mbps
1280×720・30fps・60秒 22,118,400 bit
=2,764,800 B
1,800 39,813,120,000 4,976,640,000 4.97664 4.63486 663.552 Mbps
1920×1080・30fps・60秒 49,766,400 bit
=6,220,800 B
1,800 89,579,520,000 11,197,440,000 11.19744 10.42843 1,492.992 Mbps
1920×1080・60fps・60秒 49,766,400 bit
=6,220,800 B
3,600 179,159,040,000 22,394,880,000 22.39488 20.85686 2,985.984 Mbps
3840×2160・60fps・60秒 199,065,600 bit
=24,883,200 B
3,600 716,636,160,000 89,579,520,000 89.57952 83.42743 11,943.936 Mbps

10進は \(1\,\text{GB} = 10^{9}\,\text{B}\)、2進は \(1\,\text{GiB} = 2^{30}\,\text{B}\) です(単位の2つの流儀については第73講)。

第34講と数字がつながっていることを確認してください。 第34講は 1920×1080・24bit の1フレームを 6,220,800 B と計算し、これを 60fps・1分にすると約22.4GB になると書きました。上の表の4行目がそれです。同じ設定なら、別の講で計算しても同じ数字が出る。 当たり前のようですが、これが「型が同じ」ということの意味です。

4-2 条件を変えると何倍になるか

表の行どうしを割り算するだけで、共通テストの「何倍か」型がそのまま解けます。

  • フレームレートを 30fps → 60fps(他は同じ):11,197,440,000 B → 22,394,880,000 B = ちょうど2倍。フレームレートは掛け算の中に1回しか出てこないので、比例します。
  • 解像度を 1920×1080 → 3840×2160(他は同じ):22,394,880,000 B → 89,579,520,000 B = ちょうど4倍。縦横それぞれが2倍なので、画素数は面積で4倍。第34講と同じ理由です。
  • 両方やったら:\(2 \times 4 = 8\) 倍。

ここが本講最大の引っかけどころです。 解像度は面積で効き(2倍→4倍)、フレームレートは長さで効く(2倍→2倍)。同じ「2倍にした」でも、答えが違う。「何を2倍にしたのか」を一度言葉にしてから式を立ててください。

4-3 圧縮率を求める

:1920×1080・24bit・30fps・60秒の動画(非圧縮 11,197,440,000 B)を圧縮したら 84,000,000 B(84MB)になった。圧縮率はいくらか。

\[\frac{84\,000\,000}{11\,197\,440\,000} = 0.0075017\ldots\]

  • 「圧縮後 ÷ 圧縮前」を圧縮率と呼ぶ流儀なら 約0.75%
  • 「減った割合」を答えさせる流儀なら 約99.25%減
  • 「何分の1になったか」なら 約133分の1

同じ状況を指す言葉が3つあります。 第33講・第34講・第36講でも繰り返しましたが、共通テストでは必ず問題文に定義が書いてあります。 自分の流儀で押し切らず、その場の定義文を読んでから割ってください。ここを読まずに計算した答案は、計算がすべて合っていても0点になります。

なお、133分の1というのは画像の圧縮ではまず出ない数字です。動画がこれほど縮むのは、3-4で見た「時間方向の冗長性」という2本目の資源があるからです。

4-4 ビットレートから「この回線で再生できるか」を判定する

:4-3 の圧縮後の動画(84,000,000 B を60秒で再生)を、公称100Mbps・実効60%の回線で、止まらずに再生できるか。

手順1:動画側を「1秒あたりのビット数」に直す

\[R = \frac{84\,000\,000 \times 8}{60} = \frac{672\,000\,000}{60} = 11\,200\,000\]

すなわち 11.2 Mbps です。

手順2:回線側を実効速度に直す(第73講の型)

\[100 \times 10^{6} \times 0.6 = 60\,000\,000\]

すなわち 60 Mbps です。

手順3:比べる。60 Mbps ≧ 11.2 Mbps なので 再生できます(約5.36倍の余裕)。

では、同じ回線で非圧縮のまま送れるでしょうか。 非圧縮 1920×1080・30fps のビットレートは 1,492,992,000 bit/s = 約1,493 Mbps。60 Mbps ではまったく足りません(必要量の約4%しか流せない)。圧縮があって初めて、動画は回線に乗る。

逆算型も同じ式です。 11.2 Mbps を実効60%の回線で通すには、公称で

\[\frac{11.2}{0.6} = 18.666\ldots\]

すなわち約18.67 Mbps 以上が必要です(実効50%なら22.4Mbps以上、実効80%なら14Mbps以上)。

注意点を1つ。 ここで B を bit に直し忘れると、答えが8分の1になります。動画は「B」で与えられ、回線は「bps」で与えられるのがふつうなので、この単元は構造的に bit と B をまたがされます。8倍・8分の1の誤差は、選択肢に必ず用意されています。

4-5 Python で検算する

まず「差分だけ記録すれば減る」を、実際に数えてみます。以下は実行して出力を確認したものです(外部ライブラリ不要)。

import copy
# 8x8 の2値フレーム。1画素だけが右に1つ動く
f1 = [[0]*8 for _ in range(8)]
f1[3][3] = 1
f2 = copy.deepcopy(f1)
f2[3][3] = 0
f2[3][4] = 1
diff = sum(1 for y in range(8) for x in range(8) if f1[y][x] != f2[y][x])
print("1フレーム丸ごと:", 8*8, "画素")
print("変わった画素:", diff, "画素")
# 画面全体が変わった場合(激しい動き)
f3 = [[1-f1[y][x] for x in range(8)] for y in range(8)]
diff2 = sum(1 for y in range(8) for x in range(8) if f1[y][x] != f3[y][x])
print("画面全体が変わった場合:", diff2, "画素")

実行結果:

1フレーム丸ごと: 64 画素
変わった画素: 2 画素
画面全体が変わった場合: 64 画素

静かな場面では 64 → 2(32分の1)。激しい場面では 64 → 64(まったく減りません。 むしろ「差分です」と書くぶん増えます)。3-4で説明した「動きが激しいほど重い」が、数として出ました。

続いて、4-1〜4-4のデータ量をまとめて検算します。

def video(w, h, bpp, fps, sec):
    bits = w * h * bpp * fps * sec
    return bits, bits // 8, w * h * bpp * fps
for name, a in [("1080p30 60s", (1920,1080,24,30,60)),
                ("1080p60 60s", (1920,1080,24,60,60)),
                ("2160p60 60s", (3840,2160,24,60,60))]:
    bits, B, bps = video(*a)
    print(f"{name}: {bits:,} bit = {B:,} B = {B/10**9:.5f} GB / {bps:,} bit/s")
c = video(1920,1080,24,30,60)[1]
print("assyukuritsu:", 84_000_000 / c)
print("hitsuyou bitrate:", 84_000_000*8//60, "bit/s")
print("100Mbps jikkou 60%:", int(100*10**6*0.6), "bit/s / saisei kanou:",
      100*10**6*0.6 >= 84_000_000*8/60)

実行結果:

1080p30 60s: 89,579,520,000 bit = 11,197,440,000 B = 11.19744 GB / 1,492,992,000 bit/s
1080p60 60s: 179,159,040,000 bit = 22,394,880,000 B = 22.39488 GB / 2,985,984,000 bit/s
2160p60 60s: 716,636,160,000 bit = 89,579,520,000 B = 89.57952 GB / 11,943,936,000 bit/s
assyukuritsu: 0.007501714677640604
hitsuyou bitrate: 11200000 bit/s
100Mbps jikkou 60%: 60000000 bit/s / saisei kanou: True

手計算とすべて一致しました。 なお 1080p60 の 22,394,880,000 B は、第34講が別の道筋(1枚 6,220,800 B × 3,600枚)で出した数字と同じです。

5. 共通テストではこう出る(重要度 A)

第33講・第34講が S、本講が A なのは、動画単独の出題頻度が音・画像より低いためです。ただし出たときに解けないと確実に落とすタイプで、しかも計算の型は第33・34・73講と完全に共通です。この講だけを捨てるという選択は成立しません。

型1:非圧縮のデータ量を求める

横 × 縦 × 1画素bit × fps × 秒。「1画素24bit」を「1フレーム24bit」と読み違えるミスが最頻出です。それから、フレーム数=fps × 秒をきちんと出すこと。ここを暗算で飛ばすと、後の割り算がすべて狂います。

型2:条件を変えたときの増減

4-2 のとおりです。解像度は面積(縦横2倍→4倍)、フレームレートは長さ(2倍→2倍)、時間も長さ(2倍→2倍)。「解像度もフレームレートも2倍」と言われたら \(4 \times 2 = 8\) 倍。ここが最大の得点差になります。

型3:圧縮率

定義が問題文に書いてあります。読んでから割る。「圧縮率20%」が「5分の1になった」なのか「2割減った」なのかは、その場の定義次第です。

型4:ビットレートと回線速度の判定

4-4 の3手順(動画を秒あたりに直す → 回線を実効速度に直す → 比べる)。第73講の計算そのものです。逆算型(必要な回線速度を問う)も、同じ式を移項するだけです。

引っかけの総まとめ

  • bit と B:動画は B、回線は bps。8倍・8分の1の選択肢が必ず用意されている
  • fps は掛ける(「率」に惑わされて割らない)
  • 解像度は面積、フレームレートは長さ
  • 10進の GB か 2進の GiB か(問題文の断りに従う)
  • 圧縮率の定義(問題文から拾う)
  • 1画素あたりの bit と、1フレームあたりの bit を混同しない

出題の実際 ── 一次資料で言えること

大学入試センターは、実施した試験について「問題評価・分析委員会報告書」を公開しています。令和7年度本試験『情報Ⅰ』の自己評価(作成部会自身による記述)によれば、受験者数は 279,718人、平均点は 69.26点、標準偏差は 16.09 でした。

そして第1問の中身について、センター自身がこう書いています(要約します)。問1aがデジタル署名、問1bがIPv4からIPv6への移行理由、問2が「コンピュータで取り扱う情報量(ビット)を身近な例である7セグメントLEDから理解し、ビットではなく記号として情報量を考察できるかを問う問題」、問3がチェックディジット、問4がフィッツの法則です(大学入試センター「令和7年度 問題評価・分析委員会報告書(本試験)」。2026年8月3日取得)。

つまり令和7年度本試験の第1問に、画像や動画のデータ量計算そのものは出ていません。 出たのは「情報量をビットで数える」という、より根っこの型でした。

ここから読み取るべきことは、「動画は出ないから捨てよう」ではありません。逆です。センターが問うているのは、公式を覚えているかではなく「情報量をビットで数えられるか」という力そのものだということです。7セグメントLEDでも、画像でも、動画でも、問われている力は同じ。だからこそ、公式を3つ覚えるのではなく、掛け算の意味を1つ理解しておくほうが強い。

直前チェックリスト

  • フレーム数を「fps × 秒」で出したか
  • 1画素あたりの bit 数を使ったか(1フレームの bit 数と混同していないか)
  • bit と B のどちらを聞かれているか、答案に単位を書いたか
  • 「◯倍」を、解像度は面積・フレームレートは長さで考えたか
  • 圧縮率の定義を問題文から拾ったか
  • 回線との比較のとき、両方を「1秒あたりのビット数」にそろえたか

6. 情報Ⅱではこうなる

情報Ⅰで動画は「数える対象」でした。情報Ⅱに進むと、動画は2つの方向に分かれます。(2)では「演出する対象」に、(3)では「分析するデータ」になる。 そして、どちらの側にもデータ量の計算は一切出てきません。

6-1 情報Ⅱ(2)コミュニケーションとコンテンツ ── 動画は「演出する対象」になる

文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第2章 学習9「コンテンツの制作と改善」の「3 動画の表現」は、こう始まります。

動画による表現は,構図などについては静止画のものと共通している部分が多い。動画特有の表現方法は,カメラの動きに伴った映像の見せ方や編集によるカットのつなぎ方によるところが大きい。

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章、令和2年6月(2026年8月3日取得)

そして扱われるのは、パン(横方向にカメラを動かす)、ティルト(縦方向に動かす)、そしてモンタージュ理論です。教材はモンタージュ理論を「前の映像の影響を受けて後の映像に新たな意味が与えられる」ものと説明し、具体例として、泣いている子供/何かを食べている/笑顔 という3つのカットを挙げます。

  • 泣いている → 食べている → 笑顔 の順につなぐと「ぐずっている子供が好きなものを食べて機嫌が直った」
  • 笑顔 → 食べている → 泣いている の順につなぐと「機嫌がよかった子供が嫌いなものを食べてぐずり始めた」

同じ素材が、並べる順序だけで正反対の意味になる。 そして演習は「複数の動画素材のカットを組み合わせて、ストーリーのある動画を作成してみましょう」。制作の前には絵コンテを描かせます。

情報Ⅰで「フレームを時間軸に並べる」と言ったとき、それはデータ量を数えるための並びでした。情報Ⅱでは、同じ「時間軸に並べる」が、意味を作る操作になるのです。並べ方が変われば伝わる内容が変わる。この落差は、情報Ⅰ→情報Ⅱの接続の中でも特に鮮やかなものの一つだと私は思います。

さらに文部科学省は、情報Ⅱ向けの解説動画とスライドを公開しています。【情報Ⅱ】コミュニケーションとコンテンツ の [2]「ニーズをとらえたコンテンツ!動画制作『学校紹介の動画を作ろう』」(2024年4月公開。2026年8月3日取得)がそれです。設定は「昨年度、制作した学校紹介の動画について新入生に印象を聞いてみたら不評だった。今年度はその動画を改善してみよう!」。制作は次の4ステップで進みます。

  • 調べる(インタビュー)
  • ねらいを定める(ブレインストーミング・KJ法・アイデアシート)
  • 作りながら考える(絵コンテ・撮影・素材制作・編集)
  • みんなで共有する(リリース・運用・改善)

動画の条件として明示されているのは、「対象となるユーザー:中学生/中学生の保護者」「対象とするメディア:学校公式SNS」「制作物:ショートムービー(15秒または30秒)」「法的な配慮(著作権法等)を考慮すること」「公序良俗に反しないこと」。役割分担は監督・撮影・編集の3つで、監督の仕事は「ニーズに沿って動画ができているか、タスクマネジメント、全体を総括する」と書かれています。

このスライド全体を通して、フレームレートも解像度もデータ量も圧縮率もビットレートも、数値が一つも出てきません。 要件は「秒数」と「配信先」だけです。情報Ⅰで計算した数字は、情報Ⅱの制作現場では編集ソフトの書き出し設定の中に消えている。「動画は重い」という理解だけが残って、計算そのものは前提に降格するのです。

6-2 情報Ⅱ(3)情報とデータサイエンス ── 動画は「時系列の画像」になる

もう一方の道です。第34講が確認したとおり、情報Ⅱ 第3章 学習18「テキストマイニングと画像認識」では、YOLO(You Only Look Once)による物体検出を実際に動かします。教材はYOLOを「リアルタイム物体検出・認識アルゴリズム」と紹介しています。

「リアルタイム」という語が、そのまま動画への接続点です。 静止画1枚を検出するのに1秒かかるモデルは、30fps の動画には使えません。1秒に30枚処理できて初めて「リアルタイム」になる。情報Ⅰで数えたフレームレートが、情報Ⅱでは「モデルに要求される処理速度」に化けるわけです。

文部科学省が公開している情報Ⅱの解説動画【情報とデータサイエンス】の [6]「モデルを用いた画像認識『自動で顔にぼかしを入れよう!』」(2024年3月公開。2026年8月3日取得)を見ると、この接続がさらにはっきりします。スライドの流れはこうです。

「データ」から学習し、作ったモデルで検出

この動画でやってみること:学習済みのモデルを使って、顔の検出・ぼかしに挑戦してみよう!(学習については別動画で!)

文部科学省「情報Ⅱ解説動画」【情報Ⅱ】情報とデータサイエンス [6] スライド(2026年8月3日取得)

使うライブラリは OpenCV(教材の説明は「インテルが開発・公開したオープンソースのコンピュータビジョン向けライブラリ」「Google Colaboratory ですぐに使うことができる!」)。検出結果は顔のリストとして返り、各行が x(左上x座標)・y(左上y座標)・w(幅)・h(高さ) の4つの数です。そして、その矩形を切り出してぼかしをかけ、元の画像に戻します。

ここで起きていることを、情報Ⅰの言葉に翻訳してみてください。 画像は画素の配列でした(第34講)。その配列の中の一部の矩形だけを取り出して書き換えている。動画は、その処理をフレームの枚数だけ繰り返すものです。1分の30fps 動画なら1800回。動画とは、時系列に並んだ画像であるという一文が、そのまま処理の設計になります。

そして、なぜ顔をぼかすのか。プライバシーへの配慮です。情報Ⅰでは「動画は重い」が問題でしたが、情報Ⅱでは「動画には人が写っている」が問題になる。扱う対象は同じ動画なのに、心配することが変わる。

6-3 情報Ⅱ側の資料にも「フレームレート」「圧縮」は無い

3-7 の語数調査に、情報Ⅱの列がありました。もう一度見てください。

  • 情報Ⅱ教員研修用教材(第1章〜第5章の全文)で「フレームレート」=0件
  • 同じく「ビットレート」=0件
  • 同じく「圧縮」=0件(情報Ⅰ教材では49件あったのに、です)
  • 「フレーム」は25件ありますが、すべて pandas の「データフレーム」やテストの「フレームワーク」で、動画の意味は0件

情報Ⅱの教材は、動画のデータ量を一度も計算しません。 情報Ⅱにとって動画は、もう「重さを心配する対象」ではないのです。重さの問題は情報Ⅰで片づいたものとして、その先 ── どう演出するか、どう分析するか ── だけを扱う。

これが「情報Ⅰの内容が情報Ⅱでは前提に降格する」ということの、最もはっきりした実例です。 前提に降格するということは、できて当たり前として扱われるということでもあります。だから情報Ⅰの段階で、掛け算の意味まで含めて理解しておく必要がある。情報Ⅱには、これを教え直してくれる場所がありません。

6-4 接続の要約

情報Ⅰ(第35講) 情報Ⅱ (2) コンテンツ 情報Ⅱ (3) データサイエンス
動画を何とみなすか フレームの列。データ量を計算する対象 表現。意味を作る素材 時系列に並んだ画像=分析対象のデータ
フレームの役割 データ量に比例する枚数 カット・つなぎ方(モンタージュ理論) モデルに1枚ずつ通す単位
フレームレートの役割 掛け算の因子 (出てこない) モデルに要求される処理速度
主な道具 電卓 絵コンテ・動画編集ソフト・KJ法 OpenCV・YOLO・学習済みモデル
何を心配するか 重い(保存できるか・回線に乗るか) 伝わるか(ユーザーのニーズを満たすか) 写っている人(プライバシー・ぼかし)
ゴール 何GBか・再生できるかを答える 見た人の行動が変わる動画を作る 動画から物体・顔を検出する

同じ「動画」という3文字が、3つの別々の仕事に分かれていく。 そして分かれた先のどこにも、データ量の計算は残っていません。だから今、計算しておくのです。

出典(すべて2026年8月3日に取得)

  • 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編』平成30年7月
  • 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章
  • 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章
  • 文部科学省「情報Ⅱ解説動画」(コミュニケーションとコンテンツ [2]/情報とデータサイエンス [6])
  • IPA「ITパスポート試験 シラバス Ver.6.5」/「基本情報技術者試験 シラバス Ver.9.2」
  • 大学入試センター「令和7年度 問題評価・分析委員会報告書(本試験)」

執筆:藤原進之介(数強塾 代表)

オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導してきました。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しています。本記事は『藤原進之介の最強120講義』の第35講の原稿を、Web用に再構成したものです。数値はすべて一次資料(文部科学省・IPA・大学入試センターの公表資料)で確認し、計算はすべて独立に検算しています。

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