こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第96講「グラフの嘘を見抜く」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はA(頻出。得点差がつく)、情報Ⅱでの接続先は(3)情報とデータサイエンスです。
この講で扱うのは「騙されない側の技術」だけです。伝わるグラフの作り方は別の講に譲り、ここでは他人が作った図をどう疑うかに絞ります。先に結論を言うと、グラフの嘘のほとんどは数字を偽らずに作られています。だから読む側は、数字ではなく軸を見るしかありません。
1. この講の問い
同じ数字から正反対の印象を作れてしまうのに、それを「嘘」と呼び切れないのはなぜか。
2. 結論
グラフの嘘のほとんどは、数値の改ざんではなく表示の選択でできている。数字は正しいまま印象だけが動くので、後から「嘘だ」と名指しできない。
作り手が動かせる場所は決まっている。軸の起点・軸の縮尺・図形の次元・期間の範囲・母数の5か所だけ。世に出回る手口は、この5か所の組合せにすぎない。
だから読む側の防御も5つでよい。軸・単位・母数・期間・出典を確認する。ただしゼロ切りは常に悪ではない。悪いのは「量そのものを長さで示す図でゼロを切ること」である。
3. なぜそうなるのか
3-1 嘘は数値ではなく「対応づけ」に入る
グラフとは、数値を図形の量(長さ・面積・角度・位置)へ対応づける規則のことです。棒グラフなら、値 v に対して棒の高さ h を
h = k ×(v − c)
c = 軸の起点/k = 縮尺
という規則で決めています。データが決めているのは v だけです。c と k は作り手が自由に決めます。 そして読み手が目にするのは h だけです。
つまり、v を一切いじらなくても、c と k を選ぶだけで h はいくらでも変わります。ここがグラフの嘘の入り口であり、同時に「嘘と言い切れない」理由でもあります。数値は本当に正しいからです。改ざんではなく、表示の選択なのです。
3-2 手口① 縦軸のゼロ切り
総務省統計局「なるほど統計学園」は、棒グラフをこう定義しています。
棒グラフは、縦軸にデータ量をとり、棒の高さでデータの大小を表したグラフです。(縦横が逆の場合もあります。)
総務省統計局「なるほど統計学園(初級)棒グラフ」https://www.stat.go.jp/naruhodo/4_graph/shokyu/bou-graph.html 2026年8月3日取得
棒グラフは「高さの比 = 量の比」という約束のうえに成り立っています。ところが起点を c にすると、見かけの比は
(v₂ − c)÷(v₁ − c)
になります。c = 0 のときだけ、これが本当の比 v₂ ÷ v₁ と一致します。そして c を v₁ に近づけると分母が 0 に近づくので、見かけの比はいくらでも大きくできます。ゼロ切りとは、比を壊す操作なのです。
3-3 手口② 軸の圧縮と引き伸ばし
折れ線の傾きは「縦1単位あたりの長さ」÷「横1単位あたりの長さ」で決まります。この2つは独立に選べるので、同じ増加が急上昇にも横ばいにも見えます。統計局もこれを名指ししています。
グラフは、縦横の比率を変えたり、波形で省略したり、デザインを変えることで、見る人に与える印象が変わってきます。誤った印象を与えない、適切なデザインを考えましょう。
総務省統計局「なるほど統計学園(上級)グラフ作成の基本」https://www.stat.go.jp/naruhodo/9_graph/kihon.html 2026年8月3日取得
3-4 手口③ 面積・体積の錯覚
値は1次元の量です。ところが絵グラフやアイコンでは「絵ごと r 倍に拡大」して表すことがあります。高さも幅も r 倍にすれば面積は r² 倍、立体なら r³ 倍です。値が1.13倍でも、面積は1.28倍、体積は1.44倍に見えます。
第85講で扱ったヒストグラムは「面積が度数」という設計を意図的に採っている図でした。面積に意味を持たせた正しい表現と、面積に意味がないのに面積が変わってしまう表現は、まったく別物です。
3-5 手口④ 期間の切り取り(チェリーピッキング)
時系列から2点だけ選べば、上昇でも下降でもたいてい作れます。系列が上下していれば、必ずどこかに逆向きの区間があるからです。そして「なぜこの年から始めたのか」はグラフの本文に書かれないことがほとんどです。
3-6 手口⑤ 3D・立体効果
立体棒グラフでは奥行きが値ではありません。手前の柱は遠近法で大きく見え、天板の楕円のせいで「どこまでが値なのか」も曖昧になります。円グラフを傾ければ、手前の扇形の面積だけが増えます。文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章 学習24 は、まさにこの点を研修の問いに立てています。
立体グラフや円グラフが誤解を招く表現であるとされるのはなぜか,調べてみよう。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章 学習24(令和2年)p.207相当。2026年8月3日取得
3-7 手口⑥ 割合の作法(合計100%と母数)
統計局は円グラフについて、2つの禁止を明記しています。
円グラフを描くときは、合計が100%になるようにします。(中略)また、複数回答を認める質問の場合、合計が100%を超えますが、このような場合も円グラフにしてはいけません。
総務省統計局「なるほど統計学園(初級)円グラフ」https://www.stat.go.jp/naruhodo/4_graph/shokyu/pie-chart.html 2026年8月3日取得
「複数回答なのに円グラフ」は、実際に世の中でよく見かけます。合計が100%を超えているのに全体が円1つで描かれていたら、その時点で読む価値がありません。
さらに第80講(データの種類と尺度)で見たとおり、順序尺度のカテゴリを順序を無視して並べ替えるのも誤りです。母数(分母)の違うものを同じ図に並べるのも同じ種類の操作です。
3-8 ゼロ切りは常に悪ではない
ここを断罪で終えると、別の誤解を生みます。統計局は折れ線グラフについて、はっきりこう書いています。
折れ線グラフの縦軸の目盛りは、ゼロから始めるのが普通ですが、あまり数字に変化がなくて見にくいときは、縦軸に波線を入れて途中を省略することもあります。
総務省統計局「なるほど統計学園(初級)折れ線グラフ」https://www.stat.go.jp/naruhodo/4_graph/shokyu/oresen-graph.html 2026年8月3日取得
ゼロ切りは正規の手法であり、波線で明示するという作法とセットになっています。理由は2つあります。
理由1:折れ線の役目は「量」ではなく「変化の方向」だから。 統計局の分類でも、棒グラフは「棒の高さで、量の大小を比較する」、折れ線グラフは「量が増えているか減っているか、変化の方向をみる」と用途が分けられています。変化を見るための図にとって、ゼロは特別な点ではありません。
理由2:そもそも比に意味のない尺度があるから。 気温は間隔尺度で、摂氏の0℃は絶対的な原点ではありません(第80講)。摂氏15℃と30℃の比は 30 ÷ 15 = 2.00 ですが、同じ2地点を華氏にすると 59°F と 86°F で、比は 86 ÷ 59 = 1.4576 になります。単位を変えると比が変わってしまう量に、「ゼロから描け」というルールは意味を持ちません。
その図形が「量そのもの」を表しているなら、ゼロ起点が要る(棒グラフ・面積)。
「変化」を表しているなら要らない(折れ線)。ただし切ったことを図の上で明示しなければならない。
3-9 だから読む側は軸を見るしかない
数値が正しい以上、読む側にできるのは対応づけの規則を確認することだけです。見るべきは5点です。
| 確認 | 何を見るか | 見つかる嘘 |
|---|---|---|
| 軸 | 縦軸の起点はどこか。波線はあるか。縦横比は不自然でないか | ゼロ切り・軸の圧縮 |
| 単位 | %か実数か。総数か1人あたりか。左右で軸が違わないか | 単位のすり替え |
| 母数 | n はいくつか。誰に聞いたか。分母は同じか | 標本の偏り・母数の違うものの比較 |
| 期間 | どこからどこまでか。なぜその起点なのか | 切り取り |
| 出典 | 誰がいつ公表したか。注記に何が書いてあるか | 比較できない値の比較 |
4. 手で確かめる
ここからは実データで、同じ数字から2枚の違うグラフを作ります。使うのは文部科学省「令和6年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)確定値」(令和7年2月12日公表)に載っている、高等学校の「裸眼視力1.0未満の者」の割合です。健康状態の調査は全幼児・児童・生徒の 25.4%(3,190,771人)を対象とした抽出調査です。
| 年度 | 平成26 | 平成30 | 令和元 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 令和6 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 割合(%) | 62.89 | 67.23 | 67.64 | 63.17 | 70.81 | 71.56 | 67.80 | 71.06 |
出典:文部科学省「令和6年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)確定値」https://www.mext.go.jp/content/20250213-mxt_chousa01-000040132_1.pdf 令和7年2月12日公表・2026年8月3日取得
実験1 縦軸のゼロ切りで印象を3.4倍にする
平成26年度 62.89% と令和6年度 71.06% の2本だけを、縦軸の起点を変えて描きます。棒の値は完全に同じです。
図1 同じ2つの値。左は縦軸0起点、右は縦軸60起点。棒の値は1つも変えていない。
計算で確かめます。
0起点 : 71.06 ÷ 62.89 = 1.1299… → 約1.13倍
60起点 :(71.06 − 60) ÷ (62.89 − 60)
= 11.06 ÷ 2.89 = 3.8270… → 約3.83倍
増幅率 : 3.8270 ÷ 1.1299 = 3.3870… → 約3.39倍
同じ 8.17ポイント差が、軸の起点を60にするだけで 3.39倍に増幅されました。数字は1つも変えていません。だから「この図は嘘だ」と言い切れないのです。言えるのは「この図は比を表していない」ということだけです。
実験2 期間を切り取って結論を反転させる
次は軸を固定し、切り取る期間だけを変えます。左は令和4年度と令和5年度の2点、右は平成26年度から令和6年度までの全期間です。
図2 軸は同じ。切り取る期間を変えただけで、結論の向きが反転する。赤い2点が左の図で使った期間。
左の図は嘘をついていません。令和4年度 71.56% から令和5年度 67.80% へ、確かに 3.76ポイント下がっています。右の図も嘘をついていません。平成26年度 62.89% から令和6年度 71.06% へ、確かに 8.17ポイント上がっています。同じ表から、正反対の見出しが2つ作れました。
そして、この勝負には決着がついています。 公表資料そのものに、こう注記されているからです。
「なお、令和2年度から令和5年度の数値については、いずれの項目も調査時期の異なる数値を含んでいる影響があるため、他の年度の数値と比較はできない。」
つまり令和5年度の値を使った「3.76ポイント改善」という主張は、出典の注記を読んだ瞬間に消えます。いっぽう平成26年度と令和6年度の比較は、この範囲の外なので生き残ります。チェックリストの5番目「出典」が、ここで効いています。
実験3 高さも幅も伸ばすと、面積は二乗で効く
値の比 1.1299倍を、棒の高さだけで表した場合と、絵ごと縦横に拡大した場合を並べます。
図3 1次元の量を2次元の図形に載せると、比は二乗で効く。
値の比 r = 1.1299…
面積の比 r^2 = 1.2767… → 約1.28倍
体積(立体) r^3 = 1.4425… → 約1.44倍
13%の増加が、絵にすると28%増、立体にすると44%増に見えます。これが「立体グラフが誤解を招く」と言われる正体のひとつです。
実験4 ゼロ切りをしないと見えないもの
最後に、逆の例です。同じ資料に載っている 17歳男子の平均身長は、昭和23年度 160.6cm、令和6年度 170.8cm(過去最高は170.9cm、平成6・8〜11・13・18年度)。戦後に10.2cm 伸びたという、教科書に載るレベルの大きな変化です。これをゼロ起点で描いてみます。
図4 左は正しいが読めない。右は読めるが、切ったことを図の上で示す義務がある。
10.2 ÷ 180 = 0.05666… → 軸全体のわずか 5.67%
高さ200pxの図なら 約11px しか差が出ない
戦後に10cm伸びたという歴史的な変化が、ゼロ起点では11ピクセルになってしまいます。「ゼロから描くのが常に正義」と覚えてしまうと、今度はこちらの誤解に落ちます。大事なのはゼロかどうかではなく、その図が「量」を見せる図なのか「変化」を見せる図なのかです。
5. 共通テストではこう出る(重要度A)
大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」(2022年11月9日公表)は、『情報Ⅰ』第4問(配点25点)のねらいをこう書いています。
データの活用と分析に関する基本的な知識及び技能と,データが表すグラフから読み取れることを考察できるかを問う。
大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」p.8。2022年11月9日公表・2026年8月3日取得
さらに問1のねらいは次のとおりです。
そこから分析できる仮説とそうでない仮説を考察し識別できるかを問う。
同上。
つまり「この図から言えること/言えないこと」を仕分けさせる型が、一次資料の側で明言されています。第86講(相関係数)や第87講(相関と因果)と同じで、選択肢には必ず「言い過ぎの文」が混ざるという構造です。
①図に無い量を足した文。 割合しか描かれていない図から人数を語る。箱ひげ図から平均値を語る(第85講)。
②相関を因果に読み替えた文。 「関係がある」を「原因である」にすり替える。
③母数の違うものを比べた文。 分母が違う割合どうしを、そのまま大小比較する。
④描かれた期間の外へ伸ばした文。 グラフの範囲外を「この調子なら」と外挿する。
この4つは、本講のチェックリストの「軸・単位・母数・期間」にそのまま対応しています。図が読めるかどうかではなく、文が図を超えていないかを見るのがコツです。試作問題の参考問題(エアコンとアイスクリームの売上)でも、問1のねらいは「時系列のグラフから,月ごとの変動の特徴を読み取れるかを問う」となっており、読み取りそのものが独立して配点されています。
6. 情報Ⅱではこうなる
6-1 語数で見る、情報Ⅰと情報Ⅱの分水嶺
国の一次資料3種類を全文検索して、関係する語の出現回数を数えました(2026年8月3日、当方で実施)。
| 語 | 学習指導要領解説 情報編 | 情報Ⅰ教員研修用教材 第1〜4章 |
情報Ⅱ教員研修用教材 全章 |
|---|---|---|---|
| 可視化 | 23 | 87 | 12 |
| 誤解 | 0 | 5 | 4 |
| 信憑性 | 4 | 0 | 12 |
| バイアス | 4(すべて情報Ⅱ(3)) | 0 | 24 |
読み取れることは3つあります。
①「誤解」は学習指導要領解説に一度も出てきません。 誤解を招くグラフという論点は、制度の設計図には無く、教員研修用教材の学習活動の側にしかありません。
②「可視化」は情報Ⅰの語です。 87回 対 12回で、情報Ⅰのほうが圧倒的に多い。情報Ⅰは「どう見せるか」を大量に扱う科目です。
③「信憑性」「バイアス」は情報Ⅱの語です。 情報Ⅰの教員研修用教材には 1回も出てきません(0回 対 12回、0回 対 24回)。情報Ⅱは「そのデータは信じるに値するか」を扱う科目です。
情報Ⅰの「グラフの嘘」は表示の問題。情報Ⅱの「グラフの嘘」はデータが生まれる過程の問題へ移る。
情報Ⅰでは「この軸は切られている」と気づけば勝ちだが、情報Ⅱでは「そもそも誰にどうやって聞いたデータなのか」まで戻る。
6-2 情報Ⅱ教材の1ページ目が、まさにゼロ切りの図
文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章 学習11「データと関係データベース」は、いきなり「データの信憑性と信頼性」から始まります。そして冒頭の図表1は、同じ e-Stat のデータ(平成26年 品目別1世帯当たりの1か月間の支出のうち野菜の漬物の購入額)を、縦軸だけ変えて2通り描いた棒グラフです。
実物を確認したところ、ア)は縦軸が200円から800円、イ)は0円から800円でした。つまり国の教材の図表1そのものが、ゼロ切り版と全体表示版の対比になっています。本講の実験1と同じことを、情報Ⅱの教材は1ページ目でやっているのです。教材の言葉ではこうです。
演習1では,同じデータであっても目盛りの取り方や階級の幅(ビン幅)の取り方,外れ値の扱いにより異なったヒストグラムとなることを確認し,データの信憑性をデータの提供者の視点から考える。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 学習11(令和2年7月)p.110。2026年8月3日取得
キーワードは「データの提供者の視点から」です。情報Ⅰの第85講では「階級幅で見え方が変わる」と学びました。情報Ⅱでは同じ現象が、提供者が印象を選べてしまうという信憑性の問題として立て直されます。
さらに、この学習11の展開1「データの信憑性や信頼性はどのように調べるか」の指導上の留意点は、次の2行です。
データを可視化する際の留意点を理解させる。/標本抽出やバイアスとデータの信頼性について関連付ける。
同教材 学習11「学習活動と展開」p.116。2026年8月3日取得
可視化の留意点が、標本抽出とバイアスと同じ枠に置かれている。これが情報Ⅱの立ち位置です。
6-3 学習指導要領解説が名指しする「グラフを疑う」学習活動
制度の側にも根拠があります。高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編の情報Ⅱ(3)イ(ア)は、こう書いています。
ここでいうバイアスとは,データを収集する際に生じる偏りのことであり,対象となるデータを選択する際に生じる偏りである選択バイアスや,データを測定する際に生じる情報バイアスといわれるものがある。(中略)例えば,Webページなどに掲載されている記事やデータ,グラフ等について,その収集の方法や対象について調べ,目的にあった公正な収集がなされているか,その分析や可視化に関して,適切な方法の選択や解釈がなされているかについて話し合う活動などが考えられる。
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」(平成30年7月)情報Ⅱ(3)イ(ア)、p.49相当。2026年8月3日取得
「Webに載っているグラフを持ってきて、可視化の方法が適切かを話し合う」。これが情報Ⅱでは解説本文に明記された学習活動です。情報Ⅰ側に、これに対応する記述はありません。
6-4 情報Ⅰ側にぽっかり空いている穴
ここまで書くと不思議に思うはずです。情報Ⅰ教員研修用教材 第4章 学習24「データの形式と可視化」は、学習活動の目的に「不適切や誤解を招く可視化について理解する」とはっきり掲げています。ところが——
研修内容(本文)には、立体グラフや円グラフがなぜ誤解を招くのかの説明が一行もありません。
本文にあるのは質的データの可視化(箱ひげ図・ヴァイオリンプロット・分割表・モザイク図)と、可視化から問題を発見する話(ダイヤモンドのデータと交絡因子)だけです。「誤解を招く可視化」は、学習活動の展開3の問い「立体グラフや円グラフが誤解を招く表現であるとされるのはなぜか,調べてみよう」として、外に投げられています。
その展開3の「指導上の留意点」は、次の3行です。
実際の誤った可視化の使い方などを例にその表現について理解する。/ニュースなどに用いられている可視化に関して,批判的な態度で評価することができるようにする。/また,誤った例をできるだけ多く提示する。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章 学習24(令和2年)p.209相当。2026年8月3日取得
「ニュースに用いられている可視化を批判的な態度で評価できるようにする」というのは、国が明確に求めている態度です。ところがその手口の一覧は、国のどの資料にも載っていません。文部科学省の授業・研修用コンテンツ(「アンケートで身近な問題を解決しよう」「オープンデータを活用しよう」)にも、該当する説明はありませんでした(2026年8月3日にスライドPDFを確認)。
これは本書が繰り返し見つけてきた「情報Ⅰの本文には無い穴」のひとつです。トレース、サブネット、論理回路のノイズ耐性と同じ構造で、試験には出るのに、国の教材には手順が書かれていない。だから本講で、手口を6つに分類して並べました。これが本講の存在理由です。
まとめ
- グラフの嘘は数値ではなく「値 → 図形」の対応づけ(h = k ×(v − c))に入る。だから数字は正しいまま印象だけが動く。
- 動かせるのは軸の起点・縮尺・図形の次元・期間・母数の5か所。手口はその組合せにすぎない。
- 棒グラフは「高さの比=量の比」の約束。ゼロを切るとこの約束が壊れる。実データでは 1.13倍 が 3.83倍 に見えた。
- 折れ線は変化を見る図なのでゼロ起点は必須ではない。ただし切ったら波線で明示する(総務省統計局)。
- 気温のような間隔尺度は比に意味がないので、「ゼロから描け」というルール自体が当たらない(第80講)。
- 読む側は軸・単位・母数・期間・出典の5点を見る。出典の注記が結論を消すことがある。
- 共通テストは「この図から言えること/言えないこと」の仕分けで出る(試作問題 第4問 問1)。重要度A。
- 情報Ⅰは可視化(表示)、情報Ⅱは信憑性とバイアス(データの生成過程)。語数で 0回 対 24回 の断絶がある。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」(平成30年7月)https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章(令和2年)https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_006.pdf
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章前半(令和2年7月)https://www.mext.go.jp/content/20200702-mxt_jogai01-000007843_004.pdf
- 文部科学省「令和6年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)確定値」(令和7年2月12日公表)https://www.mext.go.jp/content/20250213-mxt_chousa01-000040132_1.pdf
- 総務省統計局「なるほど統計学園(上級)グラフ作成の基本」https://www.stat.go.jp/naruhodo/9_graph/kihon.html
- 総務省統計局「なるほど統計学園(初級)棒グラフ」https://www.stat.go.jp/naruhodo/4_graph/shokyu/bou-graph.html
- 総務省統計局「なるほど統計学園(初級)折れ線グラフ」https://www.stat.go.jp/naruhodo/4_graph/shokyu/oresen-graph.html
- 総務省統計局「なるほど統計学園(初級)円グラフ」https://www.stat.go.jp/naruhodo/4_graph/shokyu/pie-chart.html
- 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」(2022年11月9日公表)https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003141.pdf
- 文部科学省「高等学校情報科 授業・研修用コンテンツ」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html
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