情報Ⅰ 最強120講義

情報の特性(残存性・複製性・伝播性)とは|モノとの違いから原理で理解する【情報Ⅰ 第6講】

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この講の問い ── 情報を人に渡しても、なぜ自分の手元から消えないのか。

  • 情報はモノと違って渡しても減りません。 渡すという操作が、位置の移動ではなく複製だからです。
  • 3つの特性はここから順に出ます。手元に残る=残存性/減らないので安く増える=複製性/安く増えるので勝手に広がる=伝播性
  • 帰結はひとつ。出した後の回収は原理的に不可能なので、判断を置ける場所は「出す前」しかありません。これは説教ではなく、対称性が壊れているという事実から出てきます。

こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。『最強120講義』第6講は「情報の特性」を扱います。

この講は「情報がモノと何が違うか」だけに絞ります。情報・データ・知識の区別は第5講、メディアリテラシーや情報の信頼性は第7・8講の担当です。ここでは性質そのものを、原理から組み立てます。

1. 先に用語の話を正直にしておく

いきなり水を差すようですが、大事なことなので最初に書きます。「残存性・複製性・伝播性」という3語は、国の一次資料には一度も出てきません。

私は2026年8月3日に、次の資料をすべてテキスト化して全文検索しました。学習指導要領解説 情報編(共通教科の部分と専門教科の部分を分けて計数)、情報Ⅰ教員研修用教材 第1〜4章、情報Ⅱ教員研修用教材 序章+第1〜5章の全7分冊(第3章は前半・後半の2分冊なので両方)、そして共通テスト「情報Ⅰ」の令和7年度本試験・令和7年度追再試験・令和8年度本試験・令和8年度追再試験の問題本文です。結果はこうなりました。

解説(共通教科/専門教科) 情報Ⅰ教材
第1〜4章
情報Ⅱ教材
全7分冊
共通テスト
4回分
残存性 0/0 0 0 0
複製性 0/0 0 0 0
伝播性 0/0 0 0 0
「形がない」 1/0 6 0 0
「消えない」 1/0 5 0 0
「簡単に複製できる」 1/0 3 0 0
「容易に伝播する」 1/0 4 0 0
「情報の特性」 1/0 11 2 0

当方で全文検索(2026年8月3日)。空白と改行を除去してから計数。「残存」「存性」「製性」「播性」と短く切って再検索しても0件で、PDF抽出による語の分断ではありません。

国の書き方は3つではなく4つで、しかも全部やまと言葉です。学習指導要領解説 情報編 情報Ⅰ(1)ア(ア) の原文はこうです。

情報には「形がない」,「消えない」,「簡単に複製できる」,「容易に伝播する」などの特性や,表現,伝達,記録などに使われるメディアの特性を理解するようにし
── 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」(平成30年7月)

教科書や参考書で使われる3語は、このうち②③④に漢語の名前を付けたものです。落ちているのは①「形がない」ですが、実はこれが出発点になっています。 ここから組み立てていきましょう。

2. 「形がない」から、「渡す」が「複製」になる

モノの受け渡しは位置の移動です。本を人に渡せば、本は相手のところに行き、自分の手元からは消える。移動には保存則があります。

情報の受け渡しは複製です。形が無いものは物理的に動かせないので、「渡す」というのは実際には相手のところに同じものを作ることになる。だから減りません。

モノ(本)を渡す=移動 自分 相手 移動する 自分の手元からは 消える(=減る) だから盗まれれば気づく 情報を渡す=複製 自分 相手 複製される 自分の手元にも 残る(=減らない) だから盗まれても気づかない

図1 同じ「渡す」でも、モノは移動、情報は複製。ここから全部が出る。

情報Ⅰ教員研修用教材 第1章の図表2「情報の代表的な特性」は、情報と「もの(本)」を並べてこう書いています。

■消えない / 情報:内容が複製され伝わり、元に残り続ける / 本:宛先に移動され、元の所から消える
── 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 図表2

これが残存性です。「消えない」というと自然に消滅しないことのように聞こえますが、正確には渡しても手元から消えないことを言っています。

3. 残存性の裏側 ── 盗まれても気づかない

同じ図表2は、続けて決定的な一行を書いています。

→ 複製されたかどうかもわからない
── 同上

モノが盗まれれば、そこに空白ができます。 空白が証拠になるから気づける。ところが情報が盗まれても、元のデータはそのまま残っているので、被害の痕跡がそもそも発生しません。

これが第14講の情報セキュリティの3要素が難しい根本理由です。3要素を「気づけるか」で並べ直すと、私の整理ではこうなります。

要素 何が起きたか 事後に気づけるか
完全性 書き換えられた 元と比べれば分かる
可用性 使えなくなった 止まるので真っ先に分かる
機密性 見られた・持ち出された 原理的に、事後には分からない
3つのうち機密性だけが観測できないのは、残存性の直接の帰結です。だから機密性の対策は「起きたか確かめる」ではなく、「起きないようにする」しかありません。

4. 複製性 ── 費用がかからないから、制度で独占を作るしかない

モノは1個目にも2個目にも同じだけ材料と手間がかかります。だから作った人は、費用より高く売れば回収できる。市場はそれで成立します。

情報は違います。1個目には費用がかかるが、2個目以降はほぼゼロ。 すると、作った人と、それを複製して配る人とで費用が同じになりません。 複製する側のほうが安い。放っておくと、作った人は費用を回収できず、次を作れなくなります。

だから「複製してはいけない」という人工的なルールを作る。 それが著作権であり、その中心にあるのが複製権(著作権法第21条)です。

著作権は自然に存在する権利ではありません。 複製性という技術的な事実に対して、後から社会が作った対抗措置です。第12講(著作権①)で扱う保護期間や無方式主義も、すべてこの前提の上に立っています。

順序も一次資料で確認できます。情報Ⅰ教員研修用教材 第1章は「著作権法については数年に一度の頻度で改正されている」と書き、情報Ⅱ教員研修用教材 第1章はもっとはっきり書いています。

不正アクセス禁止法,デジタルコピー等に対応した著作権法,電磁的記録に対応した刑法……などが挙げられるが,同じ名前の法律であっても,社会の要請に合わせて内容が改正されてきている
── 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第1章

技術が先にあって、法律が後から作られている。 国の教材が自分でそう書いているわけです。だから「著作権法にこう書いてあるから守る」ではなく、「複製が安くなるたびに、法律が追いかけて書き換えられてきた」と読むほうが実態に合っています。

ついでに、モノには著作権のような制度が要らない理由も同時に分かります。本という物体を貸しても、貸した人の手元から本は消えるので勝手には増えない。増えるのは中身のほうだけです。だから法は物体ではなく表現を守る形になった。制度の設計そのものが、複製性という性質から逆算されているのです。

5. 伝播性 ── 取り消せないし、訂正は追いつかない

伝播は複製の連鎖です。モノで連鎖は起きません。渡すと手元から消えるので、そこで止まる。情報は渡しても減らないので、受け取った人がそのまま次の送り手になれます。

そして厄介なのは、訂正が元と同じ経路を通らないことです。

  • 元の情報は、自分 → A → Aの知り合い → …… と、自分の知らない人へ勝手に伸びていく
  • 訂正を出せる相手は、自分が直接つながっている人だけ
  • その先へ訂正が伸びるかは、受け取った人が転送してくれるかどうか次第。そして訂正はふつう、元の情報ほど面白くない

この非対称は、数で出せます。単純化したモデルで比を取ってみましょう。1人が新たに3人に渡す(分岐 k=3)、5段まで伝わる(n=5)とします。訂正のほうは、受け取った人のうち半分だけが次へ転送する(p=0.5)とします。

元の情報が届く人数 訂正が届く人数
1段目 3 1.5 2倍
2段目 9 2.25 4倍
3段目 27 3.375 8倍
4段目 81 5.06 16倍
5段目 243 7.59 32倍
累計 363 19.8 18.4倍
元の情報(全員が次へ渡す) …… 5段目で 243人 訂正(半分しか次へ渡さない) …… 5段目で 約7.6人 差は 2⁵ = 32倍 白い丸=そこで止まった人

図2 分岐比が半分になるだけで、差は段数に対して 2ⁿ で開く。

「訂正記事は元記事ほど広まらない」というのは感覚の話ではなく、分岐比の差が指数で効くという計算の話です。転送率をどう見積もっても、1未満の掛け算が段ごとに効く以上、追いつくことはありません。(この計算は Python で独立に検算しました。3⁵=243、1.5⁵=7.59375、243÷7.59375=32.0)

制度の側には削除を求める仕組みもあります。個人情報保護法は、本人が事業者に対して保有個人データの利用停止・消去を請求できると定めています(同法第35条。個人情報保護委員会がガイドラインとQ&Aを公開しています)。ただしこれは特定の事業者に義務を課す制度であって、既に複製された全部を回収する仕組みではありません。制度は「持っている人」に効くので、持っている人を全部特定できない限り効かないのです。

6. だからどうするのか

回収が原理的に不可能なら、判断を置ける場所は「出す前」しかありません。 これは道徳の話ではありません。

モノなら「返して」が成立します。返せば相手の手元から消えるからです。情報では「返して」が意味を持ちません。返してもらってもコピーは残るし、そもそも返したかどうかを確認する方法が無い(第3節と同じ理由です)。

つまり情報の発信は、取り消し(undo)が定義されていない操作です。取り消せる操作なら、迷ったらとりあえずやってみて、後で戻せばよい。取り消せない操作は、実行前に確定させるしかない。 「気をつけよう」ではなく、操作の性質が違うから手順を変えるという話です。

「後で消せる」を前提にした設計をしない。これは個人の投稿でも、システムの設計でも同じです。

7. 手で確かめる① モノと情報に同じ操作をする

学習指導要領解説は「例えば,『情報』と『もの』とを比較し,例を挙げて考えることを通して,情報の特性を扱うことが考えられる」と書いています。情報Ⅰ教員研修用教材の学習1 も、展開1 の問いを「情報とものとの違いについて考えてみよう」に置いている。モノとの比較は、国が指定した方法です。 そこで、同じ操作を並べてみます。

操作 モノ(本1冊) 情報(同じ内容のデータ) 効いている特性
貸す 手元から消える。返るまで自分は読めない 手元に残る。同時に両方が読める 残存性
売る 売った瞬間に自分のものではなくなる 売っても手元にある。何人にでも売れる 残存性・複製性
もう1つ作る 紙・印刷・製本の費用が新たにかかる ほぼ費用ゼロ。しかも劣化しない 複製性
盗まれる 無くなるので気づく 元がそのまま残るので気づかない 残存性
広める 配った冊数だけ手元から減る。連鎖は止まる 受け取った人が次の送り手になる。連鎖が続く 伝播性
捨てる 捨てれば無くなる 自分の管理下からしか消えない 残存性・複製性
訂正する 貸した相手を全員知っているので全員に届く 誰まで届いたか分からないので全員には届かない 伝播性
最後の2行がこの講の要点です。 捨てる操作と訂正する操作だけが、モノでは完結して、情報では完結しない。

8. 手で確かめる② 「消したはず」の情報が残っている場所を数える

1回の発信を、コピーが置かれうる場所で数え上げてみましょう。

  1. 自分の端末(下書き・送信済み・写真アプリ)
  2. 相手の端末
  3. サービスの本番サーバ
  4. そのバックアップ
  5. 配信用のキャッシュ
  6. 検索サービスの索引
  7. 誰かが撮ったスクリーンショット
  8. 引用・転載された先

8か所。 このうち自分が消せるのは1だけです。2〜4は事業者に頼めば消えることがある。5と6は時間が経てば入れ替わることが多い。そして7と8は、頼む相手が誰なのかを特定できません。

「削除ボタンを押した」で消えるのは、この8か所のうち事実上1〜3です。伝播性というのは、要するに「7と8の個数が自分には分からない」ということ。 数えられないものは、回収の計画も立てられません。

9. 共通テストではこう出る

9-1 出題実績を正直に書く

令和7年度本試験・令和7年度追再試験・令和8年度本試験・令和8年度追再試験の「情報Ⅰ」問題本文を全文検索した結果(2026年8月3日)、「特性」「情報の特性」「残存性」「複製性」「伝播性」「消えない」「形がない」はいずれも4回とも0件でした。

用語そのものは出ていません。 「毎年出るから絶対覚えろ」と脅すのは誠実ではないので、そう書きます。

9-2 ただし、考え方は判定基準として毎回効いている

語では出ませんが、事例の正誤を判定させる形では出ています(設問文は大学入試センターの著作物なので、ここでは構造と問われ方だけを書きます)。

  • 令和8年度 追・再試験:SNSの利用上の注意点として書き出された複数の記述の正誤を、組合せで答えさせる小問があります。そのうちの一つが「不適切な投稿に気づいてすぐ削除すれば、内容が広まることはない」という趣旨の記述で、残存性・伝播性を知っていれば即座に誤りと分かります。 写真に付く位置情報についての判断も同じ問題に並んでいます。
  • 令和7年度 本試験:デジタル署名で何が確認できるかを選ばせる小問があり、誤答の選択肢のひとつが複製の有無に言及していました。正解は改ざんの検知です。署名は複製を防げないし、複製されたかどうかも教えてくれません。 第3節のとおり、それは原理的に分からないからです。
  • 令和7年度 追・再試験:会員証の不正な複製を抑制したいときに、効果が期待できない方式を選ばせる小問があります。複製のしやすさが方式によって違う、という前提で作られています。

9-3 引っかけの型は4つ

誤りやすい記述 なぜ誤りか
暗号化すれば複製されない 複製はされる。読めないだけ。機密性の対策であって複製性の対策ではない
デジタル署名やハッシュで複製が検知できる 検知できるのは改ざん。複製の検知は原理的に不可能
削除すれば消える 自分の管理下からしか消えない(第8節の8か所)
劣化しないのは複製性のおかげ 劣化しないのはデジタルだから第32講)。形がないから複製が安い、とは別の話。混ぜない

9-4 自作の類題

ある生徒が、部活動の連絡用グループに、明日の集合時刻を間違えて投稿してしまった。5分後に投稿を削除し、正しい時刻を投稿し直した。このとき、次のうち確実に言えることはどれか。

① 誤った時刻を見た人はいない ② 誤った時刻を見た人にも、訂正が必ず届く ③ 誤った時刻の情報が、グループの外に出ている可能性がある ④ 削除により、サービス提供者の側にもデータは残らない

答え ③

①は5分間の閲覧を否定できません。②は訂正が届く保証がありません(既にグループを抜けた人、通知を切っている人、転送された先の人)。④はサーバやバックアップまで消えたことを、利用者側から確認する手段がありません。

確実に言えるのは「悪いほうの可能性」だけ。 この非対称が、この講の全部です。

9-5 重要度についての私の判定

本連載では重要度Aとしていますが、一次資料で確認した限り用語としての直接出題は4回分で0件です。正直に切り分けておきます。

  • 語を覚える価値:低い。 「残存性・複製性・伝播性」という漢語は、国の資料にも共通テストにも一度も出ていません。教科書の呼び名として知っていれば十分です。
  • 判定の型を持つ価値:高い。 第1問に置かれる情報モラル・セキュリティ系の小問は、この3つを物差しにすると迷わなくなります。9-3 の4型はそのまま得点になります。
つまりこれは「覚える講」ではなく「判断の物差しを作る講」です。暗記に時間を使う場所ではありません。

10. 情報Ⅱではこうなる

本講の接続先は情報Ⅱ (1)「情報社会の進展と情報技術」です。第109講(情報Ⅱの全体像)で扱った5つの内容項目のうち、いちばん最初に置かれている導入の項目にあたります。

10-1 情報Ⅱ第1章に「情報の特性」は無い

情報Ⅱ教員研修用教材 第1章(=(1) に対応する分冊)を全文検索すると、こうなります。

  • 「情報の特性」0件/「複製」0件/「拡散」0件
  • 「伝播」は1件あるが、これはAI技術の年表の中の「誤差逆伝播法」で、本講の伝播とは無関係(ヒット箇所を1件ずつ目で確認しました)

情報Ⅰで教えた4つの特性は、情報Ⅱ(1) では前提に降格し、語としては消えます。

10-2 では第1章は何をやるのか

情報Ⅱ教員研修用教材 第1章 学習1「情報社会の発達と社会や人への影響」は、半導体の集積技術の話から始まります。 トランジスタ→IC→LSI、ムーアの法則、製造プロセスの微細化。そして「1970年代 1万個/1980年代 10万個/1990年代 100万個/2000年代 1000万個/2010年代 1億個/2020年代 10億個」というトランジスタ数の推移表が置かれる。

学習指導要領解説の情報Ⅱ(1) も「情報技術の発展の歴史を踏まえ」を繰り返し、この項目を「この科目の導入として位置付ける」と明記しています。差ははっきり書けます。

情報Ⅰ (1) 情報Ⅱ (1)
問い 情報はモノとどう違うのか その違いを生んでいる条件は、どう変わってきたのか
方法 モノとの比較(ブレーンストーミング+KJ法) 技術史をたどる(半導体・通信・AI)+将来を討議する
扱い 性質を静的に理解する 性質を成り立たせるコストの変化を歴史として追う
形がない/消えない/簡単に複製できる/容易に伝播する AI 37件・SNS 18件・IoT 12件・5G 9件(当方の計数)
「複製が安い」「一瞬で伝わる」は固定された事実ではなく、技術によって下がり続けてきたコストの現在値です。情報Ⅱはそれを歴史として扱う。だから情報Ⅰの4特性は、情報Ⅱでは下敷きになります。

10-3 「情報の特性」が情報Ⅱで再登場するのは、AIの章

情報Ⅱ教員研修用教材の全7分冊で「情報の特性」の語が出るのは2件だけで、どちらも第3章後半 学習15「分類による予測」(決定木・機械学習)です。しかもその文言は、情報Ⅰ教員研修用教材 第1章 学習1 とまったく同じものが使われています。

情報の特性を踏まえた上で,情報をどのように扱うかについて,自分の考えをまとめる。
── 情報Ⅰ教員研修用教材 第1章 学習1/情報Ⅱ教員研修用教材 第3章 学習15(同一の文)

情報Ⅰの最初のほうで作った判断の型が、AIを扱う場面でそのまま呼び出される。 情報Ⅱ側で「情報の特性」に会うのは、ここだけです。

10-4 伝播性だけは、情報Ⅱで立場が反転する

情報Ⅱ教員研修用教材 第2章「コミュニケーションとコンテンツ」には「拡散」が13件あります(第5章にさらに2件)。文脈は全部、コンテンツを発信する側のものです。

SNSでは公式アカウント等において既存のユーザーとの関係を構築し,そのユーザーに自社のコンテンツを拡散してもらう
発信されるメッセージがユーザーの共感を呼べば,好印象とともに他のユーザーへ拡散されることになるため,コンテンツの拡散の好循環が生まれる
── 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章

情報Ⅰでは「防ぐもの」だった伝播が、情報Ⅱでは「設計して起こすもの」になります。 ここが接続のいちばん面白いところです。

そして重要なのは、同じ教材が同じ段落で限界も書いていることです。

しかし,ユーザーも発信力を持つということは,コンテンツに対するユーザーの評価も拡散することになる。ユーザーの評価はコンテンツを発信する側からコントロールすることができない。そのため,悪い評価がつくと,その評価も拡散されることになり,いわゆる「炎上」と呼ばれる状態に陥る可能性もある。
── 同上
伝播は起こすことはできるが、向きを選ぶことはできない。 情報Ⅰで学ぶ「取り消せない」と、情報Ⅱで学ぶ「拡散を設計する」は矛盾していません。同じ性質の、使う側と使われる側です。

10-5 情報Ⅱ(1) は独学しにくい

文部科学省が公開している「情報Ⅱ解説動画」は、私が2026年8月3日に確認した時点で4カテゴリ(探究/コミュニケーションとコンテンツ/情報システムとプログラミング/情報とデータサイエンス)だけで、第1章「情報社会の進展と情報技術」に対応する動画はありません。

一方、情報Ⅰ側は充実しています。文部科学省「授業・研修用コンテンツ」の学習動画は、[1]「情報やメディアの特性と問題の発見・解決:情報Ⅰ-①」(11分21秒)から始まります。国が用意した情報Ⅰの学習動画の1本目が、まさにこの講のテーマです。 教員向けとされていますが、生徒が見ても十分に分かります。

なお、情報Ⅱは共通テストの出題範囲ではありません(2026年8月時点)。ここは「入試に出るから」ではなく、情報Ⅰの理解が深くなるから読む場所です。

11. この講の要点

  • 情報の特性は、国の一次資料では4つ(形がない/消えない/簡単に複製できる/容易に伝播する)。「残存性・複製性・伝播性」の3語は国の資料に0件の教科書用語
  • 出発点は「形がない」。だから渡すが複製になり、減らない
  • 減らないから盗まれても気づかない。3要素のうち機密性だけが事後に確かめられない
  • 複製に費用がかからないから、制度で独占を作らないと作った人が回収できない。技術が先、法律が後
  • 伝播は複製の連鎖。訂正は分岐比が小さいので、差は 2ⁿ で開く(3⁵ 対 1.5⁵ = 32倍)
  • 回収が原理的に不可能なので、判断は出す前にしか置けない。undo が定義されていない操作
  • 情報Ⅱ(1) では特性の語が消え、特性を成り立たせるコストの歴史に置き換わる。伝播性だけは第2章で「設計して起こすもの」へ反転する

『藤原進之介の最強120講義』の全体像はこちらから追えます。

出典(すべて2026年8月3日取得)
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月 https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_003.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材(本編)」第1章 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_002.pdf / 同 第2章 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_003.pdf / 同 第3章後半 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_007.pdf / 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html / 教職員支援機構「情報やメディアの特性と問題の発見・解決:情報Ⅰ-①」 https://www.nits.go.jp/materials/videos/info/001.html / 文部科学省「情報Ⅱ解説動画」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_02652.html / 大学入試センター 令和7年度本試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=771&f=abm00005965.pdf / 同 令和7年度追・再試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=772&f=abm00006001.pdf / 同 令和8年度本試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=2144&f=abm00017564.pdf / 同 令和8年度追・再試験 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=2146&f=abm00017593.pdf / 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/ / 著作権法(e-Gov 法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
この記事を書いた人 ── 藤原進之介(ふじわら しんのすけ)

オンライン数学塾・数強塾 代表。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導してきました。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、本連載『藤原進之介の最強120講義』では、情報Ⅰの全範囲を情報Ⅱまで接続して解説していきます。

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