こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第60講「確定モデルのシミュレーション」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はA、情報Ⅱでの接続先は(3)情報とデータサイエンスです。
モデルの分類そのものは第59講 モデル化の分類で扱いました。本講はその中の「確定モデル」を実際に動かす回です。乱数を使う確率モデルには立ち入らず、同じ入力なら必ず同じ結果になる世界だけを見ます。
1. この講の問い
元金10万円を年利5%で預けたら10年後にいくらか。答えは \(100000 \times 1.05^{10}\) で一発で出ます。では、なぜコンピュータにわざわざ1年ずつ数えさせるのでしょうか。
2. 結論
確定モデルの正体は漸化式です。「いまの状態」から「次の状態」を決める規則を1本書き、それを繰り返すだけで未来が全部決まる。数学Bの数列でやっていることと同じ構造です。
見た目がまったく違う問題——複利・人口・水槽・落下運動——が同じ漸化式の形になります。それがモデル化の威力です。
閉じた式(一般項)が解けるなら計算機は要りません。解けないとき、途中で条件が変わるとき、途中経過が見たいときに、1ステップずつ進めるしかない。それがシミュレーションです。
ただし刻み幅を変えると答えが変わります。確定モデルは「同じ入力なら同じ結果」ですが、刻み幅も入力の一部だからです。
3. なぜそうなるのか
3-1. 教材の複利モデルは、実は漸化式だった
文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章 学習16 は、確定モデルを「不規則な現象を含まず,方程式などで表せるモデル」と定義したうえで、その例として複利法を挙げます。数式モデルはこう書かれています。
●複利法の数式モデル
次期の金額=現在の金額+利息
利息=現在の金額×利率×時間間隔
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章 学習16(令和2年)
この2行を1本にまとめ、\(t\) 期目の金額を \(P_t\)、利率を \(r\)、時間間隔を1と置くと
\[P_{t+1} = P_t + P_t\, r = (1+r)\,P_t\]
これは漸化式です。 数学Bの数列で書く \(a_{n+1} = r\,a_n\) と、記号が違うだけで完全に同じものです。
私は塾でこう言っています。情報Ⅰのモデル化とシミュレーションは、数学の漸化式の応用問題です。 そして漸化式の本質は「初期値が1つと、次を決める規則が1本あれば、その先は全部決まる」ことでした。ドミノ倒しと同じで、①最初の1枚を倒す ②\(n\) 番目が倒れれば \(n+1\) 番目も倒れる——この2つが揃えば全部倒れる。数学的帰納法の構造そのものです。確定モデルが未来を全部決められるのは、この構造を持っているからです。
図1:確定モデルの正体。規則1本を繰り返すだけで未来が決まる
3-2. 見た目が違う問題が、同じ形になる
漸化式の型を1つ覚えると、まったく違う顔の問題が同じ箱に入ります。
| 題材 | 1ステップで何が起きるか | 漸化式 |
|---|---|---|
| 複利の預金 | 残高の \(r\) 倍が増える | \(P_{t+1} = P_t + rP_t\) |
| 人口(制限なし) | 人口の \(r\) 倍が増える | \(N_{t+1} = N_t + rN_t\) |
| 水槽 | 毎分 \(Q\) 入り、たまった量の \(p\) 倍が抜ける | \(W_{t+1} = W_t + Q – pW_t\) |
| 生物の個体数(上限あり) | 増える分から、混みあいで減る分を引く | \(N_{t+1} = N_t + rN_t – rN_t\frac{N_t}{K}\) |
上の2つはまったく同じ式です。片方は円、片方は人ですが、モデルの上では区別がありません。単位を捨てて構造だけを残すのがモデル化だという第59講の話が、ここで効いてきます。
4行目は同教材 学習17(3)「生命体の増加シミュレーション」のモデルで、教材は減少率をこう定義しています。
減少率 = (現在の個体数/環境収容力)×増加率
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章 学習17
個体数が環境収容力 \(K\) より少なければ増え、超えれば減る。だから \(K\) に落ち着きます。教材はこの曲線をロジスティック曲線と呼び「環境収容力に収束する S 字曲線として有名である」と書いています。
3-3. なぜシミュレーションするのか
ここが本講で一番大事なところです。式を解いて閉じた形(一般項)が出るなら、シミュレーションは要りません。
複利 \(P_{t+1} = (1+r)P_t\) は等比数列ですから、一般項は
\[P_t = P_0\,(1+r)^t\]
と一発で出ます。10年後を知りたいなら \(t=10\) を代入すればよく、10回ループを回す必要はない。それでも教材がプログラムを書かせるのは、次の3つの場合に備えるためです。
- 解けない。 上のロジスティックのように非線形の項(\(N_t^2\) が出てくる)が入ると、高校の道具では一般項が出ません。1ステップずつ進めるしかない。
- 途中で条件が変わる。「5年目から利率が3%に下がる」「7分後に排水口を開ける」——閉じた式は「規則がずっと同じ」を前提にしています。変わるなら、変わる瞬間まで進めて、そこから別の規則で続けるしかない。
- 途中経過が見たい。「いつ1.5倍になるか」は一般項を睨んでも分かりません。教材が「この実行結果から,5%の利率の場合には9年ほどで1.5倍になることがわかる」と書けたのは、10年ぶんを表にしたからです。
計算機の出番は「解けないとき」「変わるとき」「途中が見たいとき」。 逆に言えば、解ける問題をわざわざシミュレーションするのは答え合わせのためであり、第4節ではまさにそれをやります。
3-4. 刻み幅——連続を階段で近似する
現実の時間は連続ですが、漸化式は飛び飛びの点でしか値を持ちません。だから現実を漸化式に落とす時点で「刻み幅」を決めなければなりません。
教材 学習17 の放物運動が、この決断を明示しています。指導上の留意点にこうあります。
速度が変化する運動であっても,微小時間内では一定の速度で運動しているというヒントを与え,生徒自らが数式を立てることができるようにする。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章 学習17(学習活動と展開 展開1)
学習活動の側にも「微小時間内は等速運動であるという仮説を立て」と書かれています。「仮説」です。 本当は速度が連続的に変わっているのに、\(dt\) の間だけは変わらないことにする。教材のプログラムでは \(dt = 0.01\) と置かれています。
これは曲線を階段で近似する操作です。\(dt\) を大きくすれば階段は粗くなり、小さくすれば細かくなる。階段と曲線のあいだに残る面積が、そのまま誤差になります。
図2:刻み幅ごとに「等速」とみなすと、階段と本当の速度のあいだに三角形が残る。これが誤差の正体
3-5. だから確定モデルなのに結果がぶれる
確定モデルは「同じ入力なら必ず同じ結果」です。これは正しい。しかし刻み幅も入力の一部です。刻み幅を変えれば、それは別の入力であり、別の結果が出ます。
これは第32講 デジタル化とは何かで扱った「デジタル化すると必ず何かを捨てる」とまったく同じ構造です。音の標本化で1秒間に何回測るかを決めれば、その間の変化は捨てられる。シミュレーションで \(dt\) を決めれば、その間の変化は捨てられる。捨てた分が誤差になる。
教材はこの誤差にもきちんと触れています。第3章の学習内容の全体像には「(ア)コンピュータの仕組み」の下に「(2)計算誤差/計算誤差,プログラミングを使った計算誤差の確認」が置かれ、学習11 には次の演習があります。
「0.28-0.27」のような計算の誤差は一見すると微々たる誤差でしかないが,実際に惑星探査機が地球から木星まで行って帰る軌道計算に使用した場合,このような計算誤差が大きな問題になるケースがある。それはなぜか考えてみましょう。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章 学習11 演習3
答えは本講の主題そのものです。軌道計算は漸化式を何億回も回します。1ステップの微小な誤差が、繰り返しの回数だけ積み上がる。
3-6. 教材が鉛直方向だけ「平均速度」を使う理由
ここは教材を読み込まないと気づけない箇所で、しかも本講の核心に直結します。教材の放物運動のモデル式を、水平方向と鉛直方向で並べてみます。
水平方向:微小時間後の位置 = 現在の位置 + 現在の速度 × 時間間隔
鉛直方向:微小時間後の位置 = 現在の位置 + 平均速度 × 時間間隔
平均速度 = (現在の速度 + 微小時間後の速度)/2
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章 学習17(1)
水平は「現在の速度」、鉛直は「平均速度」。書き方が違います。 なぜでしょうか。
水平方向は等速なので、現在の速度と平均速度が同じ値になり、区別する意味がありません。ところが鉛直方向は速度が変化します。\(dt\) のあいだずっと「区間のはじめの速度」で進むと決めると、実際より落ちる勢いが足りず、高く上がりすぎる。図2の三角形がそれです。区間のはじめと終わりの速度の平均を使えば、この偏りが打ち消されます。
これは誤差を減らすための工夫であり、教材はそれを黙って入れています。 次の節で両方を実際に走らせ、差を数値で出します。
4. 手で確かめる
4-1. まず手で4ステップ(複利)
\(P_0 = 100000\)、\(r = 0.05\)。漸化式 \(P_{t+1} = P_t + 0.05\,P_t\) を手で回します。
| ステップ | 計算 | 金額(円) |
|---|---|---|
| 1年目 | 100000 + 100000×0.05 = 100000 + 5000 | 105,000 |
| 2年目 | 105000 + 105000×0.05 = 105000 + 5250 | 110,250 |
| 3年目 | 110250 + 110250×0.05 = 110250 + 5512.5 | 115,762.5 |
| 4年目 | 115762.5 + 5788.125 | 121,550.625 |
規則は1本。あとは同じことを繰り返すだけです。
4-2. Python で100ステップ回し、閉じた式と突き合わせる
yokin = 100000.0
riritsu = 0.05
vals = [yokin]
for i in range(100):
yokin = yokin + yokin * riritsu
vals.append(yokin)
for n in [1, 5, 10, 20, 50, 100]:
closed = 100000.0 * (1.05 ** n)
print(n, round(vals[n], 6), round(closed, 6))
実行結果です(Python 3、2026年8月3日に実行)。
| \(n\) | 漸化式を100回回した値(円) | 閉じた式 \(100000 \times 1.05^{n}\) | 差 |
|---|---|---|---|
| 1 | 105,000.000000 | 105,000.000000 | 0 |
| 5 | 127,628.156250 | 127,628.156250 | \(-2.9\times10^{-11}\) |
| 10 | 162,889.462678 | 162,889.462678 | \(-2.9\times10^{-11}\) |
| 20 | 265,329.770514 | 265,329.770514 | \(-1.7\times10^{-10}\) |
| 50 | 1,146,739.978575 | 1,146,739.978575 | \(-2.3\times10^{-9}\) |
| 100 | 13,150,125.784630 | 13,150,125.784630 | \(-5.8\times10^{-8}\) |
一致します。 差は円にして1億分の1にも満たない浮動小数点の丸め誤差ですが、よく見ると回数が増えるほどじわじわ大きくなっています(\(10^{-11}\) から \(10^{-8}\) へ)。繰り返しが誤差を積み上げるという3-5の話が、こんなところにも顔を出します。
ついでに教材の記述も検算しました。9年目で \(1.05^{9} = 1.551328\) 倍、8年目で \(1.05^{8} = 1.477455\) 倍。教材の「9年ほどで1.5倍になる」は正しいと確認できました。
4-3. 刻み幅を変えると答えが変わる(複利)
同じ「年利5%」でも、1年に何回利息をつけるかで1年後の金額は変わります。年 \(n\) 回に分け、1回あたり \(0.05/n\) の利率をつけます。
for n in [1, 2, 4, 12, 365, 8760]:
print(n, round(100000.0 * (1 + 0.05 / n) ** n, 4))
| 刻み方 | 年 \(n\) 回 | 1回あたりの利率 | 1年後(円) |
|---|---|---|---|
| 1年に1回 | 1 | 5% | 105,000.0000 |
| 半年に1回 | 2 | 2.5% | 105,062.5000 |
| 3か月に1回 | 4 | 1.25% | 105,094.5337 |
| 1か月に1回 | 12 | 5/12 % | 105,116.1898 |
| 1日に1回 | 365 | 5/365 % | 105,126.7496 |
| 1時間に1回 | 8760 | — | 105,127.0946 |
| 刻みを0に近づけた極限 | — | — | 105,127.1096 |
同じ年利5%なのに、刻み方だけで1年後が127円違います。 そして刻みを細かくしていくと \(100000 \times e^{0.05} = 105127.1096\) に近づいて止まる。数学Ⅲで習う \(\left(1+\frac{1}{n}\right)^{n} \to e\) が、ここに顔を出します。
確定モデルなのに答えが1つに決まらない。 正確に言えば、決まらないのではなく刻み幅まで含めて初めてモデルが決まるのです。
4-4. 水槽(自作の類題・手で追える)
毎分 \(Q = 10\) L 入り、毎分「たまっている量の2割」が抜ける水槽を考えます。漸化式は \(W_{t+1} = W_t + 10 – 0.2\,W_t\)。
| 分 | 計算 | 水量(L) |
|---|---|---|
| 1 | 0 + 10 − 0 | 10 |
| 2 | 10 + 10 − 2 | 18 |
| 3 | 18 + 10 − 3.6 | 24.4 |
| 4 | 24.4 + 10 − 4.88 | 29.52 |
増え方がだんだん鈍ります。最後は入る量と抜ける量が釣り合って止まり、\(10 = 0.2W\) より \(W = 50\) L に落ち着く。複利と同じ形の式なのに、\(-0.2W_t\) が付いただけで「増え続ける」から「一定値に落ち着く」へ性質が変わりました。 モデルを1行変えることの意味がこれです。
4-5. 刻み幅の本丸——放物運動で誤差を測る
教材と同じ条件(初速30 m/s、45度、\(g = 9.8\))で、投げ上げから0.5秒後の高さを計算します。着地判定の影響を避けるため、時刻を固定して比べます。閉じた式は \(y = v_{y0}T – \frac{1}{2}gT^{2}\)。\(v_{y0} = 30\sin 45^\circ = 21.2132034\) なので
\[y(0.5) = 21.2132034 \times 0.5 – \tfrac{1}{2}\times 9.8 \times 0.5^{2} = 9.38160172\]
import math
g, v0 = 9.8, 30.0
vy0 = v0 * math.sin(45.0 * math.pi / 180.0)
T = 0.5
for dt in [0.5, 0.25, 0.1, 0.05, 0.01]:
ya = yb = 0.0
vya = vyb = vy0
for _ in range(int(round(T / dt))):
vya_n = vya - g * dt
ya = ya + (vya + vya_n) / 2.0 * dt # 教材の「平均速度」
vya = vya_n
yb = yb + vyb * dt # 単純に「現在の速度」
vyb = vyb - g * dt
print(dt, round(ya, 8), round(yb, 8))
実行結果です(2026年8月3日に実行)。
| 刻み幅 \(dt\) | 「現在の速度」で進めた値 | その誤差 | 教材の「平均速度」 | その誤差 |
|---|---|---|---|---|
| 0.50 | 10.60660172 | +1.225000 | 9.38160172 | 0 |
| 0.25 | 9.99410172 | +0.612500 | 9.38160172 | 0 |
| 0.10 | 9.62660172 | +0.245000 | 9.38160172 | 0 |
| 0.05 | 9.50410172 | +0.122500 | 9.38160172 | 0 |
| 0.01 | 9.40610172 | +0.024500 | 9.38160172 | 0 |
読み取ってほしいことが2つあります。
① 誤差は刻み幅にきれいに比例している。 \(dt\) を半分にすると誤差も半分(1.225 → 0.6125 → 0.245 …)。実際、誤差はちょうど \(2.45\,dt\) になっています。これは手でも確かめられます。\(dt = 0.5\) なら1ステップだけなので \(y = 21.2132034 \times 0.5 = 10.6066017\)、閉じた式との差は \(\frac{1}{2}\times 9.8 \times 0.5 \times 0.5 = 1.225\)。「刻みを半分にすれば誤差も半分」は、精度が足りないときにどうすればよいかを教えてくれます。
② 教材の平均速度版は、刻み幅を変えても誤差が出ない。 等加速度運動では、区間の本当の平均速度が「はじめと終わりの平均」にぴったり一致するからです。図2の三角形が、上下で打ち消し合うと考えてもよい。モデルの書き方を1行変えるだけで誤差が消えることがある——教材が鉛直方向だけ平均速度を使っていた理由がこれです。
ただし、これは「等加速度だから」うまくいっただけで万能ではありません。教材のロジスティック(増加率 0.01、環境収容力 1000、初期個体数 10、時刻1000まで)を刻み幅を変えて回すと、こちらは平均を取らない単純な形なので刻み幅の影響が残ります。
| 刻み幅 \(dt\) | 時刻1000での個体数 |
|---|---|
| 1.00 | 995.543510 |
| 0.50 | 995.534463 |
| 0.25 | 995.529978 |
| 0.10 | 995.527299 |
| 0.01 | 995.525696 |
| 刻みを0に近づけた極限 | 995.525518 |
刻みを細かくするほど真の値に近づきます。確定モデルの結果は「刻み幅を書かなければ再現できない」——これがこの節の結論です。
5. 共通テストではこう出る(重要度 A)
確定モデルのシミュレーションは、共通テスト「情報Ⅰ」では第2問・第3問のどちらの顔でも出ます。モデル化とシミュレーションは情報Ⅰ(3)の「内容の取扱い」に名指しされた項目であり、単独で問われるだけでなくプログラミング問題の題材にもなるからです。型は3つに整理できます。
型1:与えられた漸化式から次の値を求める
「次の値 = いまの値 + …」という規則と初期値が与えられ、数ステップ後の値を答える型。あるいは表の一部が空欄になっていて埋めさせる型です。
要領は1つ。表を書くこと。 縦にステップ、横に変数を並べた表を作り、1行ずつ埋める。第54講 トレースとまったく同じ作業です。頭の中で計算しようとすると必ず1ステップずれます。
引っかけは「更新の順番」にあります。1回のループで変数を2つ更新するとき、先に更新した新しい値を使うのか、更新前の古い値を使うのかで答えが変わる。教材の放物運動のコードが速度を先に更新してから位置の計算で新しい速度を使っているのは、まさにこの順番を意識した書き方です。設問の式に「現在の」と書いてあるか「次の」と書いてあるかを、指で押さえて読んでください。
型2:条件を変えたときの結果を比較する
パラメータ(利率・初速度・刻み幅・上限値など)を変えたときにグラフや表がどう変わるかを問う型、あるいは複数のグラフから条件に合うものを選ばせる型です。ここは形で覚えるのが速い。
- 毎回「一定の割合」で増える → どこまでも伸びる曲線。増え方自体が増えていく。
- 毎回「一定の量」が増える → 直線。
- 増える分と、たまった量に比例して減る分がある → 一定値に近づいて平らになる(4-4の水槽)。
- 上限があって混みあうと増えにくい → S字(ロジスティック曲線)。
グラフの終わりが「平ら」なら、必ずどこかにたまった量に比例して減る項か上限があります。これを探せば選択肢は一瞬で絞れます。
型3:表計算ソフトの式を選ぶ
あるセルに入れるべき式を選ばせる型。漸化式を表計算に落とすと「1つ上の行のセルを参照する式を、下方向にコピーする」形になります。
- 縦に時間を並べたなら、参照するのはすぐ上の行。
- 利率のように全行で共通の定数は、1か所のセルに置いて絶対参照で読む。ここを相対参照のまま下にコピーすると、参照先が1行ずつずれて壊れます。これが最頻出の引っかけです。
判定手順も決まっています。①その式は「1つ前の状態」を参照しているか ②動いてほしくない参照が固定されているか ③下にコピーしたとき参照がどう動くか。 この3点だけ確認すれば足ります。
本講の範囲で失点する原因は、ほぼ「暗算した」の一語に尽きます。漸化式は1ステップの計算がやさしいぶん、書かずに進めたくなる。しかし本試験の設問は3〜5ステップ先を訊いてきます。表を書けば必ず取れる問題を、書かないから落とす。 変数を縦に並べた表を最初の1行だけでも書き出す習慣をつけてください。
なお、乱数を使う確率モデル(モンテカルロ法)や待ち行列、表計算による具体的な作り方は本書の別の講で扱います(『最強120講義』の目次から辿れます)。本講は同じ入力なら必ず同じ結果になる世界に限定しました。
6. 情報Ⅱではこうなる
6-1. 情報Ⅱの教材から「シミュレーション」はほぼ消える
まず驚くべき事実から。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材の各章を全文検索したところ、「シミュレーション」という語の出現数は次のとおりでした(2026年8月3日、公開PDFをテキスト化して計数)。
| 章 | 「シミュレーション」の出現数 |
|---|---|
| 第1章 情報社会の進展と情報技術 | 3 |
| 第2章 コミュニケーションとコンテンツ | 0 |
| 第3章 情報とデータサイエンス(前半) | 1 |
| 第3章 情報とデータサイエンス(後半) | 0 |
| 第4章 情報システムとプログラミング | 0 |
| 第5章 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究 | 1 |
情報Ⅰでは1つの節を占め、学習16・学習17という2つの学習項目が丸ごと割かれていたテーマです。それが情報Ⅱでは独立した学習項目としては存在しません。第1章の3件はAIの性能を語る文脈(「人間の1人の脳を完全にシミュレーション可能な性能」)と学習活動の注記であり、確定モデルの話ではありません。
では、モデル化とシミュレーションはどこへ行ったのか。 残った2件が答えを教えてくれます。
6-2. シミュレーションが「最適な値の探索」に変わる
第3章前半の唯一の1件は、学習13「重回帰分析とモデルの決定」の冒頭にあります。
効果を推測(要因分析)したり,シミュレーションを行って最適な Y の値を探索したりと,単純に Y の値を予測するだけではなく制御する方策に関しても考察を深めることもできる。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 学習13「重回帰分析とモデルの決定」(令和2年7月)
読み替えるとこうなります。情報Ⅰのシミュレーションは時間を1ステップずつ進めることでした。情報Ⅱのシミュレーションは、データから推定した回帰モデルの上で説明変数を振ってみて、目的変数 \(Y\) が最良になる組み合わせを探すことです。
- 情報Ⅰ:人が法則(漸化式)を書き、時間軸に沿って動かす。
- 情報Ⅱ:データが式(回帰式)を決め、その式の上で説明変数を動かして最適点を探す。
動かす軸が「時間」から「説明変数」に変わる。 これが第60講から情報Ⅱへの橋の正体です。
6-3. そしてモデル自体が選択の対象になる
第59講で確認したとおり、同じ学習13 はこう書きます。
そこで,モデル式の構築にあたっては,説明変数の取捨選択が重要な課題となる。これを変数選択もしくはモデル選択(モデリング)という。
前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章 学習13
情報Ⅰの確定モデルでは、式は与えられているか、目的から人が決めます。「複利だから \(P_{t+1} = (1+r)P_t\)」で議論は終わる。ところが情報Ⅱでは、どの説明変数を式に入れるか自体が問題になります。教材はさらに、変数を増やせば寄与率 \(R^{2}\) は上がるが「新しいデータに対して予測力がまるでない」モデルができてしまうと警告し、AIC(赤池の情報量規準)という指標を紹介します。
情報Ⅰでは「モデルを動かす」、情報Ⅱでは「モデルを選ぶ」。 本講で私が「刻み幅まで含めて初めてモデルが決まる」と書いたのは、その予行演習です。刻み幅は人が選びます。情報Ⅱでは、選ぶ対象が刻み幅から変数の集合そのものに拡大し、選ぶ基準が「目的に照らした判断」から数値の指標に変わるのです。
6-4. 探究の道具として1行だけ残る
もう1件は第5章「情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究」の学習内容の全体像です。「エ コンピュータや情報システムの基本的な仕組みと活用」の「1 問題の発見と解決」に、こう並んでいます。
コンピュータの仕組みの活用,情報システムの活用,物理現象や数学的事象のシミュレーション
前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第5章 本単元の学習内容
情報Ⅰで身に付けた確定モデルのシミュレーションは、情報Ⅱでは独立した学習内容ではなく、探究のときに取り出して使う道具として位置づけられています。本講でやったことは、情報Ⅱに入ってからは「もう使えて当然」の扱いになるということです。だから情報Ⅰのうちに、手で回せるようにしておく価値があります。
まとめ
- 確定モデルの正体は漸化式。初期値1つと「次を決める規則」1本で未来が全部決まる。数学Bの数列と同じ構造。
- 複利・人口・水槽・個体数は、見た目が違っても同じ形の漸化式になる。
- 閉じた式が解けるならシミュレーションは要らない。解けない/途中で条件が変わる/途中経過が見たいの3つが計算機の出番。
- 連続を漸化式に落とすには刻み幅を決めなければならない。教材は「微小時間内は等速運動であるという仮説」と明言している。
- 刻み幅を変えると答えが変わる。 年利5%でも刻み方だけで1年後が127円違い、放物運動では誤差が刻み幅にきれいに比例した。確定モデルは刻み幅まで書いて初めて再現できる。
- 教材が鉛直方向だけ「平均速度」を使うのは誤差を消すため。実測すると平均速度版の誤差は0になる。
- 情報Ⅱでは「シミュレーション」の語がほぼ消え、①回帰モデル上での最適値の探索 ②探究の道具、の2つに姿を変える。モデルは動かすものから選ぶものになる。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章 コンピュータとプログラミング(令和2年)
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第1章〜第5章(令和2年)/出現数の計数は公開PDFをテキスト化して実施
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
- 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」(高等学校情報科)
制度の話はすべて2026年8月時点の情報です。関連する講として、プログラムを1行ずつ追う技術は第54講 トレース、変数と代入の考え方は第48講 変数と代入、モデルの分類そのものは第59講 モデル化の分類に書きました。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第60講のWeb版です。
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