こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第22講「情報の構造化とLATCH」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はB、情報Ⅱでの接続先は(2) コミュニケーションとコンテンツです。
「LATCH」という言葉を参考書で見たことがある人は多いと思います。位置・アルファベット・時間・カテゴリ・階層の頭文字だ、と。ところが私が国の一次資料を全部当てて数えたところ、この4文字は教員研修用教材にも学習指導要領解説にも大学入試センターの問題にも、一度も出てきませんでした。出てくる場所はたった1か所です。しかも5番目の訳語が資料ごとに違います。この講は、そこから始めます。
1. この講の問い
同じ20件の部活動一覧を並べ替えるとき、「正しい並べ方」は存在するのでしょうか。
2. 結論
構造化とは「並べ方を決めること」であり、並べ方は目的が決める。正しい並べ方は存在せず、目的に対する適不適しかない。
整理の基準を5つ(位置・アルファベット・時間・カテゴリ・連続量)に整理する流儀がある。ただし「LATCH」という頭字語が出てくる国の一次資料は、文科省の授業用スライド1本だけ。教員研修用教材と大学入試センターは「究極の5個(5つ)の帽子掛け」と書く。
5番目の H を「階層」とだけ覚えると落ちる。教員研修用教材の訳語は「連続量」で、意味は大小・高低の順、つまりランキングである。
3. なぜそうなるのか
3.1 まず、国が何と書いているかを確かめる
本書の方針は「参考書の定番用語を、使う前に一次資料で確認する」です。今回もそこから始めました。当てた範囲は次のとおりです。
- 学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編(第1部=共通教科/第2部=専門教科を分けて計数)
- 情報Ⅰ教員研修用教材(表紙・序章+第1〜4章の全分冊)
- 情報Ⅱ教員研修用教材(序章+第1〜5章。第3章は前半・後半の2分冊)
- 大学入試センター 試作問題『情報Ⅰ』/令和7・8年度の本試験・追再試験の問題PDFと問題評価・分析委員会報告書
- 文部科学省 授業・研修用コンテンツのスライドPDF
| 語 | 解説 第1部 |
解説 第2部 |
情報Ⅰ 教材 |
情報Ⅱ 教材 |
授業用 スライド |
|---|---|---|---|---|---|
| LATCH | 0 | 0 | 0 | 0 | 有 |
| 帽子掛け | 0 | 0 | 6 | 0 | 0 |
| ワーマン | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 |
| 構造化 | 6 | 16 | 16 | 23 | 有 |
| MECE | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
結論は「LATCHは在る。ただし在る場所が1か所だけ」です。 文科省の授業・研修用コンテンツ「【情報Ⅰ】コミュニケーションと情報デザイン(1)『情報デザインの要!情報の構造化』」のスライドとワークシートに、「情報を整理する基準(LATCH)」「情報の整理には『LATCH』という五つの基準が用いられる」と書かれています。ワークシート(答え)にも同じ5つが並んでいます。逆に言えば、教科書会社の指導書を含め、それ以外の資料はこの4文字を使っていません(日本文教出版『情報Ⅰ』指導書 解説編の見本でも0件でした)。
3.2 名前も訳語も、資料ごとに違う
ここからが本番です。同じ5つの基準を、国は3か所で3通りに書いています。
| 情報Ⅰ教員研修用教材 (令和2年) |
試作問題『情報Ⅰ』 (令和4年11月) |
授業用スライド (2023年3月) |
|
|---|---|---|---|
| 呼び名 | 究極の5個の帽子掛け | 究極の5つの帽子掛け | LATCH |
| L | 位置(Location) | 場所 | 位置(Location) |
| A | アルファベット | アルファベット | アルファベット(五十音) |
| T | 時間(Time) | 時間 | 時間(Time) |
| C | カテゴリ(Category) | カテゴリー | 分野(Category) |
| H | 連続量(Hierarchy) | 階層(連続量) | 階層(Hierarchy) |
覚えるべきは4文字の綴りではなく、「Hは上下の階層ではなく、大小・高低の順である」という中身です。これは例を見れば動かしようがありません。教員研修用教材の例は「口コミサイトの評価の数値など」、試作問題の例は「重要度順のToDoリスト、ファイルサイズの大きい順」、授業用スライドの例は「ランキングなど」。3つともランキングであって、組織図やフォルダの入れ子ではないのです。
覚え方の修正:LATCHのHを「階層=ツリー構造」と覚えている人は、いま上書きしてください。Hはランキングです。ツリー構造の話は、次の3.3で出てくる「結び付き方の5つ」のほうに属します。
図1 5つの整理の基準(例は情報Ⅰ教員研修用教材・試作問題・授業用スライドに挙げられたもの)
3.3 構造化は2段階になっている
情報Ⅰ教員研修用教材 第2章 学習9「情報をデザインすることの意味」の定義がいちばん精密です。
情報の構造化とは,情報をある基準を用いて整理し,整理された情報同士を結び付けていくことである。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章 学習9(令和2年)
つまり構造化は「整理する」で終わりません。(1) ある基準で整理する → (2) 整理されたもの同士を結び付けるの2段階です。(1)の基準が5つの帽子掛けで、(2)の結び付き方も教材は5つに分けています。
整理された情報同士の結び付きは,「並列」「順序」「分岐」「因果」「階層」の5つに分類でき,それぞれ情報の表現の仕方に反映される。
同上
そして表現方法まで指定しています。「並列」なら箇条書き、「順序」なら番号付きリスト。この2つは文字だけで書けます。しかし「分岐」「因果」「階層」は文字だけだと冗長になるので図解を取り入れる。Webサイトの構造も同じで、教材は「並列」「順序」「分岐」「階層」の4種類のサイト構造を図で示しています。
ここで初めて「階層」という語が出てくることに注意してください。5つの基準のH(連続量)と、結び付き方の「階層」は別の話です。この2つを混ぜて「LATCHのHは階層=ツリー構造」と説明すると、教材の記述と食い違います。
3.4 並べ方は目的が決める
なぜ基準を選ばなければならないのか。目的が違えば、探し方が違うからです。
- 探すのが目的なら、五十音順が強い。名前を知っている人が最短で辿り着ける
- 比べるのが目的なら、数値順(連続量)が強い。上位と下位の差が一目で分かる
- 経緯を知るのが目的なら、時系列が強い。何がいつ変わったかが順に読める
- 行くのが目的なら、位置が強い。地図と同じ順に並んでいれば移動の計画が立つ
- 選択肢を絞るのが目的なら、カテゴリが強い。関係ないものを丸ごと見なくてよくなる
第21講 抽象化・可視化・構造化で「目的が先、手法は後」と書きました。構造化はその最も具体的な現れです。正しい並べ方は存在せず、目的に対する適不適しかありません。
3.5 階層の落とし穴:親は1つしか選べない
階層構造には、実感しにくいが致命的な制約があります。1つの項目は、1つの親にしか属せないのです。
部活動一覧を「運動部/文化部」の2階層にした瞬間、競技かるた部をどちらに入れるかを決めなければなりません。読み札を取り合う対戦競技ですが、活動場所は和室です。eスポーツ部も同じで、勝敗を競う対戦ですが道具はパソコンです。どちらに入れても、もう片方から探した人は見つけられません。
これを回避するのがタグです。タグは1つの項目に複数貼れます。「競技かるた部:運動/文化/和室」と付けておけば、どちらから探しても当たります。階層は「1つに決める」代わりに全体像が見え、タグは「複数持てる」代わりに全体像が見えません。この交換条件が、構造化を設計するときの最初の分かれ道になります。
図2 階層とタグは優劣ではなく、失うものが違う
この論点は、教員研修用教材の指導上の留意点にも仕込まれています。学習9の展開3で、教材は教員にこう指示しています。
テーマの設定については,「究極の5個の帽子掛け」の複数の基準でグループ化できるようなものを選ぶ。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章 学習9 学習活動と展開
1つの対象が複数の基準で整理できることを、教材は前提にしています。「この情報の基準はどれか」を一意に当てさせる問題ではないのです。ここは5節でそのまま得点に効きます。
3.6 軸を混ぜない:国の一次資料に「MECE」は無い
グルーピングでよくある失敗は、1つの分類の中で軸が混ざることです。「運動部/文化部/和室で活動する部」と並べると、和室の部は運動部にも文化部にも入ってしまい、探す人はどこを見ればよいか分かりません。
この考え方はビジネス書では「MECE(漏れなく・ダブりなく)」と呼ばれます。しかしMECEは、私が当てた国の一次資料すべてで0件でした(解説の第1部・第2部、情報Ⅰ教材の全分冊、情報Ⅱ教材の全7分冊)。国が使う語は別にあります。「網羅」です。情報Ⅱ教員研修用教材 第4章では、プログラムのテストの文脈で「命令網羅」「分岐網羅」「条件網羅」という語が9回使われ、「テストを一度にもれなく行うためのテストランナー」という表現も出てきます。
つまり「漏れなく」という発想は、情報Ⅰでは情報デザインの助言として、情報Ⅱではテスト設計の技術として現れます。用語を覚えるなら「MECE」ではなく「網羅」のほうが、国の資料と共通テストには近いということです。
3.7 「5つしかない」は定理ではない
教員研修用教材は「情報を整理する基準について、『位置』『アルファベット』『時間』『カテゴリ』『連続量』の5つしかないとしている」と書きます。主語に注意してください。「ワーマンが……としている」のであって、国が「5つしかない」と断定しているのではありません。
実際、5つに収まらない整理はいくらでも作れます。色で並べる、値段で並べる、人気で並べる——ただしこれらは「連続量」に吸収できます。使用頻度で並べるのも連続量です。5つに帰着させられることが多い、という経験則であって、証明された定理ではありません。私はこの点を確かめようとして解説・両教材・入試センターの資料を検索しましたが、「5つで尽くされる」ことの根拠を国が示している箇所は見つかりませんでした。だから本書では「そう整理する流儀がある」と書きます。
なお、文科省の授業・研修用コンテンツのうち、いくつかのスライドPDFは画像化されていてテキスト抽出ができません。ここでの「0件」はテキスト抽出できた資料の範囲での0件です。この限界は明記しておきます。
4. 手で確かめる
ここからが本題です。同じ20件を、5通りに並べ替えてみます。 使うのは架空の高校の部活動一覧(例示データ。実在の学校のものではありません)。項目は名称・よみ・活動場所・創部年・区分・部員数の6つだけです。
4.1 先頭6件だけを比べる
| 基準 | 並べ替えの先頭6件 | どんな目的の人に向くか |
|---|---|---|
| L 位置 校門から近い順 |
野球部/陸上競技部/弓道部/水泳部/卓球部/剣道部 | 見学に来た人。移動しながら順に回れる |
| A 五十音 よみ順 |
eスポーツ部/囲碁部/科学部/合唱部/華道部/弓道部 | 名前を知っている人。最短で1件に辿り着く |
| T 時間 創部年の古い順 |
野球部/陸上競技部/合唱部/文芸部/水泳部/剣道部 | 学校の歴史を知りたい人。周年行事の担当者 |
| C カテゴリ 運動部→文化部 |
弓道部/剣道部/水泳部/卓球部/野球部/陸上競技部 | 「運動系がいい」と決めている新入生 |
| H 連続量 部員数の多い順 |
吹奏楽部/野球部/陸上競技部/合唱部/卓球部/水泳部 | 規模を比べたい人。予算配分を考える生徒会 |
同じ20件です。中身は1文字も変わっていないのに、先頭に来るものが5通りとも違います。 これが「構造化とは並べ方を決めること」の意味です。そして表の右の列を読めば分かるとおり、5つのどれが正しいかは、読む人が誰かを決めないと決まりません。
4.2 五十音順にも規則が要る
「よみ順に並べる」は、実際にやると単純ではありません。eスポーツ部の読み「いーすぽーつぶ」の長音「ー」、合唱部「がっしょうぶ」の小書きの「っ」「ょ」と濁点。これらをそのまま文字コード順に並べると、辞書の順序とずれます。実際の五十音順は、小書き文字を大書きに、濁点・半濁点を清音に、長音を直前の母音に置き換えてから比べます。
| 元の読み | 並べ替えに使う形 | 効いた規則 |
|---|---|---|
| きゅうどうぶ(弓道部) | きゆうとうふ | 小書き「ゅ」→「ゆ」/濁点を清音に |
| いーすぽーつぶ(eスポーツ部) | いいすほおつふ | 長音「ー」→直前の母音/半濁点を清音に |
| がっしょうぶ(合唱部) | かつしようふ | 小書き「っ」「ょ」/濁点を清音に |
この正規化をしてはじめて、eスポーツ部が「い」の位置に入り、囲碁部の前に来ます。「アルファベット順」は自明ではなく、規則を決めて初めて定まる——これも「並べ方を決める」という作業の一部です。
4.3 階層で表現できないものを1つ入れる
20件のうち、競技かるた部とeスポーツ部の2つは、運動部にも文化部にも理屈が立ちます。上の表では文化部に入れましたが、これは私が決めただけです。
さらに、同じ活動場所を2つの部が共有している組が3つあります。会議室(囲碁部・将棋部)、和室(競技かるた部・茶道部)、第1グラウンド(野球部・陸上競技部)。位置で階層を作ると「和室」の下に競技かるた部と茶道部が並びますが、区分で階層を作ると2つは離れます。どちらの階層を選んでも、表現できない関係が必ず残ります。
タグならこうなります。
- 競技かるた部:#運動 #文化 #和室 #2013年創部
- 茶道部:#文化 #和室 #1966年創部
タグは複数貼れるので取りこぼしません。代わりに、上下関係が消えるので全体像が描けません。ここは実際に手を動かすと一瞬で腑に落ちるところです。手元のノートで、自分の学校の部活動を10個だけ書き出し、5通りに並べ替えてみてください。「どれか1つに決めろ」と言われたときの苦しさが、構造化という作業の正体です。
4.4 再現用のコード
下のコードは実際に実行して、上の表の並びを確認したものです。五十音順のための正規化も含めています。
SMALL = "ぁぃぅぇぉっゃゅょゎ"
LARGE = "あいうえおつやゆよわ"
DAKU = {"が":"か","ぎ":"き","ぐ":"く","げ":"け","ご":"こ",
"ざ":"さ","じ":"し","ず":"す","ぜ":"せ","ぞ":"そ",
"だ":"た","ぢ":"ち","づ":"つ","で":"て","ど":"と",
"ば":"は","び":"ひ","ぶ":"ふ","べ":"へ","ぼ":"ほ",
"ぱ":"は","ぴ":"ひ","ぷ":"ふ","ぺ":"へ","ぽ":"ほ"}
VOWEL = {"あかさたなはまやらわがざだばぱ":"あ",
"いきしちにひみりぎじぢびぴ":"い",
"うくすつぬふむゆるぐずづぶぷ":"う",
"えけせてねへめれげぜでべぺ":"え",
"おこそとのほもよろごぞどぼぽ":"お"}
#
def yomi_key(s):
out = []
for ch in s:
if ch in SMALL:
ch = LARGE[SMALL.index(ch)]
if ch == "ー":
prev = out[-1] if out else ""
ch = ""
for group, v in VOWEL.items():
if prev in group:
ch = v
break
out.append(DAKU.get(ch, ch))
return "".join(out)
#
# clubs = [(名称, よみ, 活動場所, 創部年, 区分, 部員数), ...] 20件
sorted(clubs, key=lambda c: yomi_key(c[1])) # A 五十音
sorted(clubs, key=lambda c: c[3]) # T 創部年
sorted(clubs, key=lambda c: -c[5]) # H 部員数の多い順
5. 共通テストではこう出る
重要度B。ただし「まだ出ていない」ではありません。 出題実績を一次資料で確認した結果を書きます。
5.1 試作問題『情報Ⅰ』第1問 問4(配点4点)
大学入試センターが令和4年11月に公表した試作問題『情報Ⅰ』の第1問 問4 が、「究極の5つの帽子掛け」を正面から出題しています。設問の構造は空欄3つです。
- 問題文に5つの基準の名前・説明・例が全部書いてある(=暗記していなくても読めば解ける形式)
- 1つ目の空欄は、鉄道の路線図がどの基準で整理されているか(1点)
- 残り2つの空欄は、旅行会社サイトの「温泉がある宿の満足度評価ランキング」がどの基準か。2つ選ぶ(両方正解で3点、片方だけなら1点。順序は問わない)
ここで第21講と1点だけ突き合わせておきます。第21講では路線図を抽象化の代表例として扱いました(距離と方角を捨てている)。ところが試作問題は、同じ路線図を「位置(場所)で整理されたもの」として問います。矛盾ではありません。捨てているのは距離と方角で、残しているのは駅の並び順=相対的な位置だからです。何を捨てたかを見るのが抽象化、何を基準に並べたかを見るのが構造化。同じ図を2つの目で見る練習になります。
大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」の記述はこうです。
問4 情報デザインの考え方について,問題文から読み取った内容を踏まえて,示された情報がどの基準に基づいて整理されているかについて考察できるかを問う。
大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表
引っかけは2つ選ぶほうです。 ランキングだから「連続量」だけ、と考えると片方しか取れません。宿のジャンル(温泉がある宿、食事が人気の宿……)で絞り込んだうえで満足度の順に並べているので、カテゴリと連続量の2つが同時に効いているのです。3.5節で書いた「1つの対象が複数の基準で整理できる」が、そのまま設問になっています。
5.2 令和8年度 追・再試験 第1問 問3(配点6点)
実施された試験でも出ています。令和8年度の追・再試験 第1問 問3 は、議事録の構造化が題材でした。問題評価・分析委員会報告書の問題作成部会の見解にこうあります。
問3が議事録作成業務といった身近な話題から構造化によって期待される情報デザインの効果を考察できるかを問う問題
大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』(追・再試験)」
設問は3つ(a・b・c)で、正解表から配点を数えると合計6点。第1問は20点ですから、第1問の3割が構造化だったことになります。問われ方は「記号で階層を表した記録に、どんな文字装飾を加えれば構造が分かりやすくなるか」「階層構造をさらに分かりやすくする工夫はどれか」という形で、用語を答えさせる問題ではありません。3.3節の「並列なら箇条書き、階層なら図解・見出し」という教材の記述が、そのまま出題の骨格になっています。
なお、追・再試験の報告書には正答率が載りません(受験者数が本試験と桁違いに少ないためです)。ですからここでは「難しかった/易しかった」は書きません。
5.3 だから、こう対策する
- 「帽子掛け」「LATCH」という語そのものは、実施された4回(令和7・8年度の本試験・追再試験)の問題文に一度も出ていません。 語の暗記に時間をかける価値は低い
- 代わりに問われるのは基準の当てはめと構造化の効果。「これは何で整理されているか」「どう表現すると構造が伝わるか」の2つに答えられればよい
- 「二つ選べ」に注意する。 試作問題も追・再試験も、構造化まわりの設問で「二つ選べ/順序は問わない」を使っている。1つに決め打ちする癖があると落とす
- Hを「階層」とだけ覚えていると、ランキングの設問で手が止まる。Hはランキング
- 情報デザインは第1問で毎年顔を出すが、切り口は毎年違う。令和7年度の本試験 第1問 問4 はフィッツの法則が題材だった。分野は固定、題材は自由と考えておく
6. 情報Ⅱではこうなる
情報Ⅰでは、構造化は「情報を分かりやすく見せる」ための工夫でした。情報Ⅱでは、構造化は制作工程の1段階になり、さらに分析の道具とプロジェクト管理の手法にまで広がります。
6.1 制作工程の1段階になる(第2章 学習8)
情報Ⅱ教員研修用教材 第2章 学習8「プロトタイプの作成」は、5工程を「調査 → 問題解決のための仮説の作成 → 要件定義 → プロトタイプの設計・作成 → 検証」と定めます。そして4番目の中身がこうです。
具体的な機能の整理は,リスト化→グルーピング→構造化の3つのステップで行う。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章 学習8(令和2年)
情報Ⅰが「構造化しましょう」で終わるのに対し、情報Ⅱはその前に2工程を置きました。まず必要な機能を全部書き出し(リスト化)、次に「要素同士の関係性を明確にし、同じ種類の機能をグループとしてまとめ」(グルーピング)、最後に「上位の機能と下位のどの機能がひもづくのか」を決める(構造化)。成果物は第1階層・第2階層・第3階層の3段の表です。
つまり情報Ⅰでは「基準を選ぶ」だった構造化が、情報Ⅱでは「階層を作る」になります。5つの帽子掛けはここには出てきません(情報Ⅱ教材に「帽子掛け」は全7分冊で0件)。語数で見ても分水嶺がはっきり出ます。「グルーピング」「リスト化」は情報Ⅰ教材で0件、情報Ⅱ教材 第2章で各3件です。
6.2 「捨てる」判断が先に来る
もう1つの違いは、情報Ⅱが構造化の前に削ることです。学習8の要件定義にはこう書かれています。
ここで重要なのは,機能として必要なものと不必要なものを分類することである。最低限実装しておかないとユーザーが困るものは何か,なくても問題ないものは何かという視点から考える。
同上
教材は連絡アプリの例で、「フォトアルバム」を削除する対象として名指しします。情報Ⅰの構造化は「あるものをどう並べるか」でしたが、情報Ⅱの構造化は「そもそも何を残すか」から始まるわけです。
演習解答(第2章 学習8)には、授業資料を公開するスマートフォンアプリの構造化の例が載っています。トップの下に「教科からのお知らせ/授業資料/行事カレンダー/設定」を置き、授業資料の下に「今年度/過去のもの」、その下に「詳細」を置く3階層。設定には「教員のIDのみ表示」という条件が添えられています。教材本編ではなく演習解答にしか無い記述なので、ここは押さえておく価値があります。
6.3 階層が「分析の道具」になる(第3章 学習15)
情報Ⅱ 第3章後半 学習15「分類による予測」では、階層構造がまったく別の顔で出てきます。決定木です。
1本の直線では分類できないデータを複数の属性(条件)を基に分割し,その条件を……木構造で表現する
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 学習15
情報Ⅰの階層は人が意味を考えて作るものでした。情報Ⅱの決定木の階層はデータから作られます。「木構造」は情報Ⅰ教員研修用教材に0件で、情報Ⅱ教材の第3章後半に2件、「決定木」は7件。同じ「階層」でも、作る主体が人から機械に変わる——これが情報Ⅰ→情報Ⅱの分水嶺です。
6.4 「作業」を構造化する(第4章 学習25)
さらに情報Ⅱは、構造化の対象を情報から作業へ広げます。第4章のプロジェクト・マネジメントに出てくるWBSがそれです。
WBS(Work Breakdown Structure)とは,作業を分解して構造化する手法であり,システム開発プロジェクトにおける作業単位を決定するために有効である
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章
作り方も情報Ⅰの構造化と同じ形をしています。「プロジェクトのゴールを決定する。次に、ゴールに到達するために必要な作業を列挙していき、更には細分化していく」——目的が先、列挙が次、階層化が最後。学習8のリスト化→グルーピング→構造化と、そっくりです。
6.5 国自身が「文章の構造」と「プログラムの構造」を結んでいる
情報Ⅱ教員研修用教材 第4章「プログラムの改善・改良(1)プログラムの構造化」の書き出しが、この講の締めくくりにふさわしいので引きます。
日常書く文章は,段落も見出しもなく何ページも続くと,論理的な構造として表現することが難しく,それを正しく読むことも困難になってしまうことがある。プログラムも……明確な構造を持たせることが重要である。更に,まとまった内容については,章や節の見出しのように関数を定義して,その処理の名前を付けておくことでプログラム全体を把握しやすくなる。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章
見出しをつけることと、関数を切り出すことは、同じ行為である。 国の教材が自分でそう書いています。情報Ⅰで学ぶ「情報の構造化」は情報デザインの話に見えますが、情報Ⅱではそのままプログラムの設計原理になります。この講で学ぶ「並べ方を決める」は、分野を越えて効く技術なのです。
6.6 語数調査(当てた範囲を明記します)
当てた範囲:学習指導要領解説 情報編(第1部=共通教科/第2部=専門教科を分けて計数)/情報Ⅰ教員研修用教材(表紙・序章+第1〜4章)/情報Ⅱ教員研修用教材(序章+第1章・第2章・第3章前半・第3章後半・第4章・第5章=全7分冊)。空白と改行を除去してから機械計数し、ヒット箇所は1件ずつ目で用法を確認しました。
| 語 | 解説 第1部 |
解説 第2部 |
情報Ⅰ 教材 |
情報Ⅱ 教材 |
|---|---|---|---|---|
| LATCH | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 帽子掛け | 0 | 0 | 6(全部 第2章 学習9) | 0 |
| ワーマン | 0 | 0 | 2 | 0 |
| MECE | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 構造化 | 6 (情報デザイン文脈は2) |
16 | 16 (2章12・3章3・4章1) |
23 (2章16・3章前3・4章3・1章1) |
| グルーピング | 0 | 0 | 0 | 3(全部 第2章) |
| リスト化 | 0 | 0 | 0 | 3(全部 第2章) |
| 階層 | 4 | 6 | 9 | 17 (3章後7・4章5・2章4・1章1) |
| 木構造 | 1 | 1 | 0 | 2(第3章後半) |
| 決定木 | 0 | 0 | 0 | 7(第3章後半) |
| 網羅 | 0 | 3 | 0 | 9(全部 第4章) |
| 五十音 | 0 | 1 | 1 | 2 |
| 時系列 | 1 | 1 | 10 | 5 |
注意した点。「構造化」を素朴に数えると解説は22件になりますが、16件は第2部=専門教科側です(専門学科の専門教科情報科には、科目「情報デザイン」そのものが実在します)。共通教科側の6件のうち情報デザインの文脈は2件だけで、残り4件はプログラムの構造化と「構造化データ/構造化されていないデータ」(関係データモデル)。用法を見ずに数えると、共通教科の扱いを3倍に見誤ります。
ついでに、学習指導要領解説(共通教科側)が挙げる「構造化する方法」も引いておきます。5つの帽子掛けではありません。
情報を構造化する方法として,文字の配置,ページレイアウト,Webサイトの階層構造,ハイパーリンクなどを扱うことが考えられる。その際,全体を把握した上で,構成要素間の関係を分かりやすく整理することが大切である。
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(情報Ⅰ (2))
解説は「並べ方の基準」ではなく「表現の手段」を挙げています。教材は「基準」、解説は「手段」、授業用スライドは「LATCHという名前」。3つの資料が、それぞれ違う角度から同じ1つのことを言っている——この重ね方が分かると、情報デザインは暗記科目ではなくなります。
まとめ
- 構造化とは並べ方を決めること。並べ方は目的が決める。正しい並べ方は無い
- LATCHという語が在る国の一次資料は、文科省の授業用スライド1本だけ。教員研修用教材と大学入試センターは「究極の5個(5つ)の帽子掛け」
- Hは「階層」ではなく「連続量」=ランキング。 教材の例は口コミの評価点、試作問題の例はファイルサイズの大きい順
- 構造化は2段階。基準で整理する → 結び付き(並列・順序・分岐・因果・階層)を決める。ここで初めて「階層」が出る
- 階層は親を1つに強制する。 複数のカテゴリに属するものはタグでしか表せない
- MECEは国の資料に0件。国が使う近い語は「網羅」(情報Ⅱ 第4章に9件)
- 出題実績は、試作問題 第1問 問4(4点・3空欄)と令和8年度追・再試験 第1問 問3(6点・3設問)。語ではなく当てはめと効果が問われる
- 情報Ⅱでは リスト化→グルーピング→構造化 の制作工程になり、さらに決定木(分析)とWBS(作業管理)へ広がる
出典(すべて2026年8月3日に取得。語数はいずれもPDFをテキスト化した全文検索)
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章 コミュニケーションと情報デザイン(PDF・令和2年)
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章(PDF)/第3章後半/第4章(PDF)および第2章 演習解答(令和2年)
- 文部科学省「高等学校情報科 授業・研修用コンテンツ」【情報Ⅰ】コミュニケーションと情報デザイン(1)「情報デザインの要!情報の構造化」スライド・ワークシート(答え)(2023年3月24日)
- 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報Ⅰ』」および正解表、「試作問題『情報』の概要」2022年11月9日公表
- 大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト 追・再試験の問題『情報Ⅰ』」および正解表、「問題評価・分析委員会報告書(追・再試験)」
- 日本文教出版『情報Ⅰ』指導書 解説編(見本)「14 情報デザイン」2022年度用教科書対応
この講は情報Ⅰ 最強120講義(全講一覧)の第22講です。構造化を含む3手法の枠組みは第21講 抽象化・可視化・構造化、情報デザインという分野そのものの目的は第20講 情報デザインは何のためにあるかで扱いました。並べ替えた結果を図にする話は第95講 可視化の基本と第96講 グラフはこうしてうそをつく、誰にでも届く形にする話は第23講 ユニバーサルデザインとアクセシビリティへ続きます。制度・出題の話はすべて2026年8月時点の情報です。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第22講のWeb版です。
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