共通テスト情報Ⅰの第3問は、配点25点のプログラミングの大問です。大学入試センターの公表資料によれば、正答率は条件設定の理解が8割以上、空欄補充が4〜8割、改善が4割程度、そしてプログラムの動きを問う問題は約2割でした。この講は、その落差がどこから来るのかを一次資料で分解し、対策の順序と時間配分を配点から逆算します。
こんにちは、数強塾グループ代表の藤原進之介です。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第100講のWeb版で、第5部「共通テスト攻略」の1本目です。共通テスト重要度はS。第3問は、情報Ⅰのなかで最も得点差が大きく出る場所です。
なお本記事では、共通テストの問題文・選択肢・図表・プログラムを一切転載していません(大学入試センターの著作物です)。扱うのは①設問構造の説明 ②題材と問われ方の要約 ③私が自分で作った類題の3つだけです。
1. この講の問い と 結論
問いは1行です。
配点25点の第3問で、受験生は具体的にどこで点を落としていて、そこにどう時間を配るべきか。
結論から書きます。
- 第3問は1つの大問ではなく、性格の違う3つの試験が続けて出る場所です。
- 正答率は「条件設定の理解 8割以上/空欄補充 4〜8割/改善 4割程度/動きを問う 約2割」。この階段が、そのまま対策の順序になります。
- だから対策は「関数や文法を覚える」ではありません。問題冊子を読み、紙の上で追う——それだけです。
2. まず、この大問は「覚えて臨む試験」ではない
いちばん最初に、いちばん大事なことを置きます。
大学入試センターは、令和8年度と令和9年度の「問題作成方針」に、2年連続で一字一句同じ文を書いています。
プログラミングに関する問題を出題する際のプログラム表記は,授業で多様なプログラミング言語が利用される可能性があることから,受験者が初見でも理解できる大学入試センター独自のプログラム表記を用いる大学入試センター「令和9年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト 出題教科・科目の出題方法等」より(2026年8月3日取得)
「初見でも理解できる」と出題者が宣言している。これは飾りの言葉ではなく、設計の宣言です。旧版の説明資料(共通テスト手順記述標準言語 DNCL の説明)の第6節にも、こう書かれています。
あらかじめ用意された関数には,値を返すものと値を返さないものがあります。関数の動作は,問題文の中で定義されます。大学入試センター「共通テスト手順記述標準言語(DNCL)の説明」6節より(2026年8月3日取得)
つまり、第3問で使う関数の仕様は、その場で問題冊子に書いてある。覚えていく必要がないどころか、覚えていった仕様と違うことがあります(この危険は第49講 演算子と組込み関数で詳しく扱いました)。
ここから、第3問の対策の形が決まります。
暗記して臨む試験ではない。読んで、追う試験である。
この一行を、この講の最初と最後に置きます。ここを外すと、勉強の方向が丸ごとずれます。
3. 第3問は「3つの試験」でできている
第3問の中身は、毎年ほぼ同じ形をしています。しかもそれは予備校の分析ではなく、出題者本人の文章で確認できます。大学入試センターは毎年「問題評価・分析委員会報告書」を公表しており、そこに問題作成部会の自己評価が載っているからです。
令和7年度 本試験(題材=工芸品の製作担当の割り振り)
問1では,条件設定を読み取り,データの種類と意味を理解する力と手作業で解を求める手順を思考する力を問う問題,問2では,与えられた状況を配列で適切に表現する力と繰り返しや条件分岐に対する理解力を問う問題,問3では,求められた出力を得る手順の全体構造を理解し,それをプログラムで表現する力を問う問題とした
令和8年度 本試験(題材=文化祭のゲーム展示の待ち時間)
問1では,問題文で説明されている条件設定を読み取り,具体的なデータに対して手作業で解を求める手順を考察する力を問う問題とした。問2では,繰り返しや関数を用いて問1で読み取った状況を適切に表現する力,問3では,繰り返しや条件分岐の理解力,求められた出力を得る手順の全体構造を理解し,改善するための力を問う問題とした
令和8年度 追・再試験(題材=クイズ集の作成)
問1は手順やデータの意味を理解する力と実際に手作業で手順を実行する思考力を問う問題,問2は手順を繰り返しや条件分岐を適切に用いてプログラムとして表現する力やその動きを問う問題,問3は問2のプログラムを拡張してより複雑な手順をプログラミングするための論理的思考力を問う問題としたいずれも大学入試センター「問題評価・分析委員会報告書」問題作成部会の見解より(2026年8月3日取得)
3回とも、同じ骨格です。
| 段 | 何をする段か | 出題者の言葉 |
|---|---|---|
| 問1 | 手で考える | 「手作業で解を求める」「実際に手作業で手順を実行する」 |
| 問2 | コードに落とす | 「配列で適切に表現する」「プログラムとして表現する」 |
| 問3 | 改良する | 「改善するための力」「拡張して」 |
センター自身が令和8年度本試験について「令和7年度試験を踏襲し」とも書いています。つまりこれは偶然そう見えるのではなく、意図された固定の型です。
そして重要なのは、この3段が難易度順に並んでいることです。令和7年度 追・再試験の自己評価はこう書いています。
難易度は,問1から問3まで基礎的な問題から発展的な思考が求められる問題へと難易度が高くなっている
令和8年度 追・再試験も「問いが進むにつれ発展的な思考が求められ高くなっている」。前から順に解く価値がある大問だということです(これは第1問・第2問には必ずしも当てはまりません)。
4. 正答率の階段が、そのまま対策の順序になる
ここがこの講の芯です。令和8年度 本試験の自己評価は、第3問の正答率をこう報告しています。
正答率は,条件設定の理解を問う問題は8割以上,プログラム中の空欄を埋める問題は4〜8割,プログラムの改善を扱った問題は4割程度,プログラムの動きを問う問題は約2割であった。全体としては6割弱で,いずれの問題も識別力は高かった大学入試センター「令和8年度 問題評価・分析委員会報告書(本試験)」『情報Ⅰ』問題作成部会の見解より(2026年8月3日取得)
数字を並べ直します。
| 問われ方 | 正答率 | 意味 |
|---|---|---|
| 条件設定の理解 | 8割以上 | ここは落とせない。ここは読解であってプログラムではない |
| 空欄補充 | 4〜8割 | 選択肢を1つずつ入れて確かめる戦法が効く |
| プログラムの改善 | 4割程度 | 全体構造が見えていれば取れる |
| プログラムの動きを問う | 約2割 | ここが合否を分ける |
しかもこの傾向は1年限りではありません。令和7年度 本試験の自己評価も、同じ第3問について「条件設定の理解を問う問題はほとんどが9割以上,プログラム中の空欄を埋める問題は4〜6割,プログラムの動きを問う問題は約2割」と報告しています。2年連続で、動きを問う問題だけが約2割です。
「識別力は高かった」という一言も見逃せません。識別力が高いとは、その設問の正誤が全体の成績とよく対応しているということ。言い換えれば、第3問は合否の並べ替えに実際に使われている大問です。
対策の順序は、この階段がそのまま決めます。
- まず条件設定の理解を絶対に落とさない(8割以上=ここを外すと大きく沈む)
- 次に空欄補充を作業で取る
- そのうえで「動きを問う」を練習する(ここだけは一朝一夕では上がらない)
5. 「約2割の設問」で何が起きているのか
では、正答率2割の設問はどんな顔をしているのか。分解します。形はほぼ2種類です。
- A型:ある行が何回実行されたかを聞く。「最初の何回かの繰り返しの中で、ある行である配列の要素に値が代入された回数は何回か」といった形。
- B型:ある時点での変数・配列要素の値を聞く。「この時点で配列◯◯の添字△の要素はいくつになっているか」といった形。
どちらも、選択肢を眺めても絶対に答えが出ません。文法を知っているかを聞いていないからです。聞かれているのは1つだけ。
あなたはこのプログラムを、最後まで1行ずつ動かせますか。
これがトレースそのものです(技術の詳細は第54講 トレース──プログラムを手で追う技術で扱いました)。そして、なぜ他の設問より圧倒的に正答率が低いのかも説明がつきます。
- 条件設定の理解は、日本語を読めば答えが出る
- 空欄補充は、選択肢という足場がある。4つのうち明らかにおかしいものを削れば確率が上がる
- 動きを問う問題は、足場が無い。途中で1回でも値を間違えたら、最後の答えは合わない
「なんとなく」で当たる余地がゼロなのです。だから2割まで落ちる。逆に言えば、ここは練習した人だけが取れる。識別力が高いのは当然です。
5.1 第3問の形に合わせたトレースの具体化
① 列は「問題文が用意した表」に合わせる。第3問は親切な大問で、多くの場合問1に表や図の形でトレース表の雛形が示されます。令和8年度 追・再試験では、図の名前そのものが「手作業で手順を試したときのメモ」でした。しかも2枚あります。「どこまで進んだか」を記録する表と、「いま何個たまったか」を記録する表。つまり出題側は表を2枚に分けろと教えてくれている。自分で列を考える前に、まず問題文の表の列をそのまま使ってください。
② 添字の列を必ず別に立てる。令和8年度 追・再試験の自己評価は、難易度についてこう書いています。
全体として,添字の意味が2種類存在する点などでやや高めの難易度であったと思われる
「添字の意味が2種類」というのは、たとえばある配列は「何番目の対象か」で引き、別の配列は「その対象の種類の番号」で引くという状態のことです(第52講 配列で扱った、要素の値が別の配列の添字になる型です)。このとき事故は必ず「どっちの添字だったか」で起きます。表に添字専用の列を立て、そこに毎行その値を書けば、取り違えは目で見つかります。
令和7年度 追・再試験でも、高校の教科担当教員からこういう意見が出ています。
受験者が正確にプログラムを読み解くには,プログラムに使用する変数や配列が多かった(高校評価)
これに対してセンターは「変数や配列の役割が照らし合わせやすい出題に留意していく必要があろう」と応じています。変数の多さが難しさの正体だと、出題側も認めているということです。だから紙に置く。頭で持たない。
③ データを自分で小さくしない。問1で与えられるデータは、すでに小さくしてあります。第3問の問1は「難しい計算をさせる場所」ではなく、規則を1回手で回させる場所です。ここを飛ばして問2の穴埋めに行くと、根拠のない選択になります。
6. 出題者は「トレース」と書いている。教える側の文書には無い
ここで、この本にしか書けない事実を1つ置きます。
大学入試センターは、自分の設問を説明するのに「トレース」という語を使っています。令和8年度 本試験の自己評価、第3問についての原文です。
さらに,問3では,問題解決やプログラムのトレースに関する問題として,プログラムを改変する作業を設問対象とする問題を出題した
令和8年度 追・再試験では、高校の教科担当教員の評価としてこう書かれています。
プログラムをトレースする問題では,経験がない受験者にとってはやや難しかったと推測される(高校評価)
——「経験がない受験者」。現場の先生の言葉です。ところが、教える側の国の文書には、この語がありません。私が実際に数えた範囲を書きます(2026年8月3日、当方でテキスト化し、空白と改行を除いてから機械計数)。
| 資料 | 「トレース」 |
|---|---|
| 学習指導要領解説 情報編 第1部(共通教科=情報Ⅰ・情報Ⅱ) | 0 |
| 同 第2部(主として専門学科において開設される教科「情報」) | 0 |
| 「情報Ⅰ」教員研修用教材(表紙・序章+第1〜4章) | 0 |
| 「情報Ⅱ」教員研修用教材 本編(序章+第1・2・3前半・3後半・4・5章の全7分冊) | 2(後述) |
| 同 演習解答(第1〜5章の全5分冊) | 0 |
| 共通テスト『情報Ⅰ』本試験・追再試験 計4回分の問題本文 | 0 |
情報Ⅱ教材の2件は、1件ずつ中身を確認しました。プログラムの意味で使われているのは第4章 学習23 の1件だけで、もう1件は第3章後半で物体検出アルゴリズム YOLO を説明する「従来は画像をトレース(走査)して物体を検出していた」=画像処理の走査であり、別の意味です。
共通テスト第3問でいちばん差がつく力は、出題者も高校の先生も「トレース」と呼んでいるのに、情報Ⅰを教えるための国の文書には、その名前が1度も出てこない。
名前が無いものは、授業の単元になりません。単元にならなければ、宿題も定期試験も出ません。「経験がない受験者」が生まれる構造は、ここにあります。この講と第54講が存在する理由は、その空白を読者の側から埋めることです。
(範囲の注記:文部科学省の「授業・研修用コンテンツ」のスライドPDFはテキスト抽出が0文字=画像化されており全文検索の対象外です。したがって上の0件は「テキスト抽出できた資料の範囲で0件」であり、画像PDFに記述がある可能性は潰せていません。)
7. 時間配分は、配点と正答率から逆算する
試験は60分・100点。第3問は25点です。ここまでは有名な話ですが、第3問の中の配点まで見た人は少ないはずです。大学入試センターが公表している正解表には解答記号ごとの配点が載っているので、私が集計しました。
| 問1(手で考える) | 問2(コードに落とす) | 問3(改良する) | |
|---|---|---|---|
| 令和8年度 本試験 | 5点 | 10点 | 10点 |
| 令和8年度 追・再試験 | 4点 | 11点 | 10点 |
大学入試センター 令和8年度 本試験・追再試験『情報Ⅰ』正解表より当方集計(2026年8月3日取得)
ここから2つのことが言えます。
① 問1は「4〜5点しかない」のに、落とすと20点が崩れる。問1だけを見れば配点は小さい。しかし問2・問3は問1で整理した手順をコードに直す問題です。問1の理解が間違っていれば、問2の穴埋めは根拠を失い、問3の改良は方針すら立ちません。問1は得点源ではなく、残り20点の土台です。だから時間を惜しんではいけない。
② 配分は「点」ではなく「土台」で決める。第3問全体に使える時間を18分とすると(大問4題への配分は第54講の表を使ってください)、私の推奨はこうです。
| 段 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 問1 | 5分 | 表を必ず紙に書く。急がない。ここで規則を確定させる |
| 問2 | 7分 | 選択肢を1つずつ入れて、問1で作った表と突き合わせる |
| 問3 | 6分 | 変わった部分だけを追う。全部を読み直さない |
配点比は 5:10:10 なのに時間は 5:7:6。意図的に問1へ厚く配っています。理由は上のとおりで、問1は「4点の問題」ではなく「25点の入口」だからです。
そして、手を動かす問題に時間を残すための現実的な指針を1つ。
問2・問3で30秒考えて方針が立たない空欄は、いったん飛ばして次の空欄へ行く。
第3問の空欄は独立していません。後ろの空欄の選択肢が、前の空欄のヒントになっていることがよくあります(後ろで「この変数はこう使われる」と分かれば、前の空欄が決まる)。1つ目の空欄で止まって時間を使い切るのが、最悪の負け方です。
8. 手で確かめる——自作の類題を1問、最後まで解く
ここからは私が作った類題を1問、最後まで解いてみせます。題材も設定もすべてこちらで作ったもので、共通テストの問題は転載していません。第62講で扱った待ち行列とは別の題材にしてあります。
【類題】学校説明会のシャトルバス
学校説明会の日、最寄り駅から学校までのシャトルバスを1台走らせる。バスは停留所0から停留所4までを順に通り、そのあと学校に着く。各停留所では、先に降りる人が全員降り、そのあとに待っている人が乗る。バスの定員は15人である。停留所 i で待っている人数を配列 Machi、停留所 i で降りる人数を配列 Gesha に入れる。
Machi = [8, 5, 0, 12, 3]
Gesha = [0, 2, 4, 1, 0]
問1 すべての停留所で、待っている人を全員乗せたとする。(a) 車内の人数が最大になったとき、それは何人か。(b) 車内の人数が定員を超えたのは、5つの停留所のうち何か所か。
問2 次のプログラムは、問1の手順をそのまま書いたものである。空欄 ア 〜 ウ を埋めよ。また、(10)行目が実行された回数を答えよ。
(01) Machi = [8, 5, 0, 12, 3]
(02) Gesha = [0, 2, 4, 1, 0]
(03) teiin = 15
(04) zaiseki = 0
(05) saidai = 0
(06) kaisu = 0
(07) i を 0 から ア まで 1 ずつ増やしながら繰り返す:
(08) zaiseki = イ
(09) もし ウ ならば:
(10) kaisu = kaisu + 1
(11) もし zaiseki > saidai ならば:
(12) saidai = zaiseki
(13) 表示する("最大", saidai, "超過", kaisu)
問3 実際には、定員を超えて乗せることはできない。乗り切れなかった人はその停留所に残り、次の停留所ぶんの待ち人数に足していくことにした(このバスが戻ってくるまで待つものとする)。次の関数を使ってプログラムを改良したとき、最後まで乗れなかった人は何人か。
【関数の説明】乗れる人数(定員, 現在の人数, 待っている人数) … 定員から現在の人数を引いた値(負のときは0とする)と、待っている人数のうち、小さいほうの値を返す。
例:乗れる人数(15, 6, 12) は 9、乗れる人数(15, 15, 6) は 0 になる。
8.1 問1を解く——表を書く
まず表を書きます。頭で追いません。列は問題文の順序に合わせて、降車→乗車の順にします。
| 停留所 | 降車 | 降車後 | 乗車 | 乗車後 | 定員超過 | 最大 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 | 8 | 8 | − | 8 |
| 1 | 2 | 6 | 5 | 11 | − | 11 |
| 2 | 4 | 7 | 0 | 7 | − | 11 |
| 3 | 1 | 6 | 12 | 18 | ○(3人超過) | 18 |
| 4 | 0 | 18 | 3 | 21 | ○(6人超過) | 21 |
答え:(a) 21人 (b) 2か所。
ここで表の作り方について3つ。
- 「降車後」の列を必ず作る。1行で「在席 − 降車 + 乗車」と一気に計算すると、順序の入れ替え(先に乗せてしまう)に気づけません
- 超過の列は○×ではなく「何人超過か」まで書く。問3で効きます
- 最大の列は毎行書く。「最後の行が最大」とは限りません(このデータではたまたまそうですが、そう思い込むのが事故のもとです)
8.2 問2を解く——選択肢代入ではなく、表との突き合わせ
ア… 繰り返しの上限です。配列 Machi の要素数は5、添字は0から始まるので、上限は 要素数(Machi) - 1。ここで 要素数(Machi) と書くと6周してしまい、存在しない添字5を読みます。境界の1つ外という定番の事故です(第52講)。
イ… 表の「降車後」→「乗車後」の流れをそのまま式にします。zaiseki - Gesha[i] + Machi[i]。
ウ… 定員を超えたかどうかの判定なので zaiseki > teiin。>= にすると、ちょうど15人のときも超過に数えてしまいます。「超えた」は >、「以上」は >=。ここも定番です(第50講 条件分岐)。
そして最後の設問——(10)行目が実行された回数。これが正答率2割の型(A型:ある行が何回実行されたか)です。表の「定員超過」の列に○が2つ。よって2回。
この設問が表を書いた人だけに解ける理由が分かるでしょうか。(10)行目は「もし」の中にあります。何周目に条件が真になったかを知らなければ、回数は数えられない。そして「何周目に真になったか」は、プログラムを読んでいるだけでは絶対に出てきません。表の中にしかありません。
8.3 問3を解く——関数は覚えない。読む
まず関数の仕様を、問題文から読み取ります。「定員から現在の人数を引いた値(負のときは0とする)と、待っている人数のうち、小さいほうの値を返す」。
乗れる人数(15, 6, 12) を確かめます。15−6=9、待ち12。小さいほうは9。例と一致します。乗れる人数(15, 15, 6) は 15−15=0、待ち6。小さいほうは0。一致します。これで仕様は確定。
こういう関数を暗記していく必要はありません。むしろ、暗記していった別の言語の関数と混同するほうが危険です。令和8年度は本試験・追再試験ともに、プログラム表記で関数を新たに扱いました。センターの自己評価にこうあります。
令和8年度試験の新たな試みとして,プログラム表記で関数を取り扱った。「関数を使うことでプログラムを読み解きやすくする試みとして歓迎したい」(情報処理学会)と評価された
関数は敵ではなく、読みやすくするために置かれたということです。改良後のプログラムはこうなります(nokori が「乗れずに残った人数」)。
(01) Machi = [8, 5, 0, 12, 3]
(02) Gesha = [0, 2, 4, 1, 0]
(03) teiin = 15
(04) zaiseki = 0
(05) nokori = 0
(06) i を 0 から 要素数(Machi) - 1 まで 1 ずつ増やしながら繰り返す:
(07) zaiseki = zaiseki - Gesha[i]
(08) matsu = Machi[i] + nokori
(09) noru = 乗れる人数(teiin, zaiseki, matsu)
(10) zaiseki = zaiseki + noru
(11) nokori = matsu - noru
(12) 表示する("乗れなかった人数", nokori)
トレース表です。
| 停留所 | 降車 | 降車後 | 待ち(持ち越し込み) | 乗車 | 乗車後 | 残り |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 | 8 | 8 | 8 | 0 |
| 1 | 2 | 6 | 5 | 5 | 11 | 0 |
| 2 | 4 | 7 | 0 | 0 | 7 | 0 |
| 3 | 1 | 6 | 12 | 9 | 15 | 3 |
| 4 | 0 | 15 | 3+3=6 | 0 | 15 | 6 |
答え:6人。
改良の効果を見てください。改良前は最大21人(定員を6人オーバー)でしたが、改良後は一度も15人を超えません。そのかわり、6人が乗れないまま残るという新しい問題が出てきました。
改良は「良くする」ことではなく、「何を守り、何を諦めるかを決め直す」ことです。
第3問の問3が毎年ここを聞いているのは、そういう理由です。
8.4 Python で検算する
以上の数値は、すべて Python で独立に計算して一致を確認しました。実際の出力です。
=== 版A(改良前):待っている人を全員乗せる ===
停留所 降車 降車後 乗車 乗車後 超過 最大
0 0 0 8 8 0 8
1 2 6 5 11 0 11
2 4 7 0 7 0 11
3 1 6 12 18 3 18
4 0 18 3 21 6 21
最大乗車人数 = 21 / 定員超過の回数 = 2 / 超過の合計 = 9
=== 版B(改良後):乗れる人数だけ乗せ、残りは次の停留所へ持ち越す ===
停留所 降車 降車後 待ち 乗車 乗車後 残り
0 0 0 8 8 8 0
1 2 6 5 5 11 0
2 4 7 0 0 7 0
3 1 6 12 9 15 3
4 0 15 6 0 15 6
最終的に乗れなかった人数 = 6
版Bで車内人数が定員を超えた回数 = 0
手で作った表と、機械が出した表が1マスも違わないこと。これが第3問で目指す状態です。
9. 共通テストではこう出る
重要度 S。配点25点、そして識別力が高い=順位が動く場所です。
9.1 型は固定されている
- 配点25点(令和7年度・令和8年度とも。本試験・追再試験とも)
- 問1=手で考える/問2=コードに落とす/問3=改良するの3段。3回連続で出題者が明記している
- 難易度は問1→問3で上がる。前から順に解く価値がある
9.2 引っかけは「表記の細部」ではなく「対応関係」
過去4回(令和7・令和8の本試験と追・再試験)の問題本文を機械で数えると、こうなっています。
| 語 | R7本試 | R7追再 | R8本試 | R8追再 |
|---|---|---|---|---|
| 配列 | 11 | 19 | 10 | 11 |
| 添字 | 3 | 10 | 2 | 7 |
| 関数 | 0 | 0 | 4 | 2 |
| 要素数 | 0 | 0 | 6 | 6 |
大学入試センターが公開している問題PDFを当方でテキスト化し、空白を除いて計数(2026年8月3日)
読み取れることが2つあります。
① 令和8年度から「関数」と 要素数( ) が同時に入った。しかもそれは本試験だけの単発ではなく、追・再試験でも同時に起きています。方針の変更と見るべきです。要素数( ) は繰り返しの上限を書くために使われます。だから境界(要素数(X) か 要素数(X) - 1 か)が今後もっと問われます。
② 一貫して多いのは「配列」と「添字」。第3問の本体は昔も今も配列と添字の対応関係です。令和8年度追・再試験の「添字の意味が2種類存在する」という自己評価が、そのまま今後の狙い所を示しています。
9.3 添字は0から始まるとは限らない
令和8年度 追・再試験の自己評価に、重要な記述があります。
本問は,同年度の本試験や前年令和7年度の本試験及び追・再試験とは異なり,配列の添字を0から始めるプログラムの出題とした(中略)今後も丁寧な誘導・説明とともに,問題設定に適した添字の使用を続けたいと考える
つまり、4回のうち3回は添字が1から、1回は0からでした。「0から」と決め打ちで暗記してはいけないということです。毎回、問題文の宣言を読む。これも「初見でも理解できる表記」=読んで判断する試験という設計の一部です。
9.4 やること(優先順位つき)
- 問1で必ず紙に表を書く。書かずに解いた回は練習としてカウントしない
- 「何回実行されたか」「この時点でいくつか」の設問だけを集めて反復する。ここが2割の設問
- 境界を毎回声に出す。添字は0からか1からか、上限は 要素数 か 要素数−1 か、> か >= か
- 関数の仕様は必ず問題文で確認する。例が2つ書いてあれば、2つとも自分で計算して仕様を確定させる
10. 情報Ⅱではこうなる
10.1 受験で最も差がつく力は、制度上は情報Ⅱ側にしか名前を持たない
学習指導要領解説 情報編で、情報Ⅰのプログラミングの記述はこうです。
作成したプログラムの動作を確認したり,不具合の修正をしたりする力を養う(情報Ⅰ (3)イ(イ))
「力を養う」。方法は書かれていません。力は評価の対象であって、教える内容ではない。一方、情報Ⅱ (4)ア(ウ) にはこうあります。
プログラムの誤りを発見するために変数の値を表示してチェックする簡便な方法や,それを実現するためのソフトウェア等を使用する方法などについて理解し,必要な技能を身に付けるようにする
「力」ではなく「技能」。しかも「変数の値を表示してチェックする」という手順そのものが書かれています。
私が数えたところ、「変数の値」という語句は解説 情報編の第1部(共通教科)に1件しかなく、それがこの情報Ⅱの一文です。情報Ⅰ教員研修用教材 第3章にも「変数の値」は1件ありますが、そちらは繰り返し文の説明表の中の「変数の値を値1から値2の1つ前まで増減値の幅で変化させながら処理を繰り返す」という文法の説明であって、デバッグの話ではありません。
共通テスト第3問で正答率2割の設問を分けている力は、情報Ⅰでは「養う力」としてしか書かれず、情報Ⅱで初めて「身に付ける技能」になる。
情報Ⅱを開設している高校は多くありません。つまり受験で最も差がつく力が、制度上は多くの受験生の手の届かない側に置かれている。私がこの参考書を書いている理由が、ここに一番はっきり出ています。
10.2 情報Ⅱでは「工程」になる
情報Ⅱ教員研修用教材 第4章 学習23「分割したシステムの制作とテスト」を開くと、情報Ⅰでは名前の無かったものに全部名前が付いています。
- デバッグの工程は2つに分かれる。原文「・エラーの性質と場所を特定すること ・エラーを修正すること」
- 場所を特定する原始的手法として「プログラム中に表示命令を散りばめて,デバッグ用メッセージを出力する」「デバッガでの情報表示」
- 後者について「デバッガでプログラム中の変数をトレースしたり,プログラムの任意の箇所で一時停止させるブレークポイントと呼ばれる処理を追加したりできる」
- 手法として (1)帰納法 (2)逆戻りで考える (3)テストケースの利用
語数で見ると、断絶がはっきりします(当方で機械計数。2026年8月3日)。
| 語 | 解説 第1部 | 解説 第2部 | 情報Ⅰ教材 | 情報Ⅱ教材 |
|---|---|---|---|---|
| トレース(プログラムの意味) | 0 | 0 | 0 | 1(第4章) |
| デバッガ | 0 | 0 | 0 | 4(全て第4章) |
| ブレークポイント | 0 | 0 | 0 | 1(第4章) |
| テストケース | 0 | 0 | 0 | 4(全て第4章) |
| 単体テスト | 0 | 0 | 0 | 24(全て第4章) |
| 網羅(命令網羅・分岐網羅など) | 0 | 3 | 0 | 9(全て第4章) |
| 机上 | 0 | 0 | 0 | 0 |
範囲:解説 情報編は第1部=共通教科と第2部=専門教科を分離/情報Ⅰ教員研修用教材は表紙・序章+第1〜4章/情報Ⅱ教員研修用教材は本編 序章+第1〜5章の全7分冊+演習解答 第1〜5章の全5分冊。空白と改行を除去してから計数し、ヒットは1件ずつ用法を確認した
なお、情報Ⅱ教材の「トレース」1件は素朴な検索では見つかりません。2段組PDFの段またぎで「トレー」と「ス」に分断されており、間に別の段の文が挟まっているためです。「0件」という結論は、こういう技術的な理由だけでも簡単に出てしまう。数える人は必ず語を短く切って再検索してください。
10.3 「手作業」という語も、教える側の資料には無い
もう1つ。センターが3回連続で使っている「手作業」という語を、同じ資料群で数えました。
| 資料 | 件数 | 用法 |
|---|---|---|
| 解説 情報編 第1部/第2部 | 0/0 | − |
| 情報Ⅰ教員研修用教材 | 3 | 第2章=アーツ・アンド・クラフツ運動の手仕事/第3章=シミュレーションで「手作業による繰り返し試行との違い」/第4章=テキストマイニング以前の人手による分析 |
| 情報Ⅱ教員研修用教材 | 2 | 第1章=デザイン史/第4章=総合テストで「手作業で入力したり操作したり」 |
5件のうち、「プログラムの手順を人が紙の上で1回回してみる」という意味のものは1件もありません。情報Ⅰ教材 第3章の1件はむしろ逆で、手作業をやめてプログラムにするという文脈です。
出題者は「手作業で解を求める手順を考察する力」を第3問の入口に置いている。教える側の資料は「手作業をやめてコンピュータにやらせよう」と書いている。この向きの違いを知っているかどうかが、第3問の問1を軽く見るかどうかを分けます。
10.4 高校の外ではどうなっているか
- IPA 基本情報技術者試験 シラバス Ver.9.2 の「デバッグ」の項に「机上デバッグと実際にソフトウェアを動作させて行うデバッグの特徴」とあり、用語例に「デバッガ,トレーサー,スナップショット」が並びます
- 同試験の科目B「アルゴリズムとプログラミング」は擬似言語で出題されます。共通テストの表記と発想は同じで、プログラムを読んで動きを追う試験です
- なお応用情報技術者試験 シラバス Ver.7.2 にある「トレース」1件は「イベントトレース図」(設計技法)で、プログラムを追う意味ではありません
つまり、「机上でプログラムを追う」という営みには、高校の外にはきちんと名前がある。高校の情報Ⅰの資料にだけ無い。共通テストは、その名前の無い力を毎年25点分測っています。
まとめ
- 第3問は「問1=手で考える/問2=コードに落とす/問3=改良する」の3段。3回連続で出題者本人が明記している固定の型。
- 正答率は 8割以上/4〜8割/4割程度/約2割。動きを問う問題だけが2年連続で約2割で、識別力が高い。
- 設問別配点は 問1が4〜5点、問2・問3が10点前後。問1は得点源ではなく残り20点の土台なので、時間を厚く配る(18分なら 5/7/6)。
- 狙われるのは表記の細部ではなく配列と添字の対応関係。令和8年度から関数と 要素数( ) が本試験・追再試験の両方に同時に入った。
- 添字は0からとは限らない。関数の仕様は問題冊子に書いてある。暗記して臨む試験ではなく、読んで、追う試験です。
この講のシリーズ全体は情報Ⅰ 最強120講義から読めます。目次はこちらのハブページにまとめてあります。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書(本試験)」『情報Ⅰ』問題作成部会の見解 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r8_hyouka/r8_hyoukahoukokusyo_honshiken.html
- 大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書(追・再試験)」『情報Ⅰ』問題作成部会の見解 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r8_hyouka/r8_hyoukahoukokusyo_tsuisaishiken.html
- 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書(本試験)」『情報Ⅰ』 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r7_hyouka/r7_hyoukahoukokusyo_honshiken.html
- 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書(追・再試験)」『情報Ⅰ』 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r7_hyouka/r7_hyoukahoukokusyo_tsuisaishiken.html
- 大学入試センター 令和8年度 本試験の正解 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kako_shiken_jouhou/r8/r8_honsiken_seikai.html / 追・再試験の正解 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kako_shiken_jouhou/r8/r8_tuisaisiken_seikai.html
- 大学入試センター「過去3年分の試験問題」(問題PDF) https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編』平成30年7月 https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章 情報システムとプログラミング(令和2年6月) https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_005.pdf / 演習解答 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01292.html
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00017.html
- IPA「基本情報技術者試験 シラバス Ver.9.2」 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kpe-att/syllabus_fe_ver9_2.pdf /「応用情報技術者試験 シラバス Ver.7.2」 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kq5-att/syllabus_ap_ver7_2.pdf
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第100講のWeb版です。
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