こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第59講「モデル化の分類(静的/動的・確定/確率)」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はS、情報Ⅱでの接続先は(3)情報とデータサイエンス(数理モデル)です。
この分野は「静的モデルは時間を含まない、動的モデルは時間を含む」と暗記して終わりにされがちです。しかしそれでは、共通テストが本当に問いたい「目的に合うモデルを選ぶ力」「モデルの限界を言葉にする力」に届きません。この講では、分類の暗記ではなくモデルを作るという行為そのものを解剖します。
1. この講の問い
同じ「教室の混み具合」を扱っているのに、なぜ人によって全く違うモデルができあがるのか。そして、そのうちどれが「正しい」のか。
2. 結論
モデル化とは、現実から何を捨てるかを決める行為です。何を残すかではありません。残るものは捨て残りにすぎません。
捨てるものは目的が決めます。目的が変われば捨てるものが変わり、同じ対象から別のモデルが生まれる。だから「正しいモデル」は存在せず、目的に対して有効かどうかしかありません。
分類の軸は互いに独立に3本あります。①どう表現したか(図的・数式・物理)②時間を変数に入れたか(静的・動的)③同じ入力で同じ結果が返るか(確定・確率)。
3. なぜそうなるのか
3-1. 教材の定義を、動詞に注目して読む
文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材の第3章 学習16「確定モデルと確率モデル」は、モデルをこう定義しています。
モデルとは,事物や現象の本質的な形状や法則性を抽象化して,より単純化したものを指す言葉であり,事物や現象のモデルを作ることをモデル化と呼ぶ。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章 学習16(令和2年)
ここに動詞が2つあります。「抽象化して」と「単純化した」です。抽象化とは、対象から一部の性質だけを取り出すこと。取り出すということは、取り出さなかったものを置き去りにするということです。単純化はその結果であって、目的ではありません。
つまりモデル化の本体は抽象化、すなわち捨てる操作なのです。
3-2. 捨てないとモデルにならない
教室の混み具合をモデル化するとしましょう。現実の教室には、机の数、椅子の材質、生徒40人それぞれの身長と機嫌、その日の天気、電車の遅延、教室の温度、窓から見える木の本数まで、無限に情報があります。
これを全部書き込んだら何ができるでしょうか。現実そのものができます。現実そのものは現実の代わりになりません。計算できないし、紙にも書けない。だからモデル化では必ず捨てます。
そして捨てた瞬間に、捨てたものについては何も言えなくなります。学習指導要領解説 情報編は、この当たり前のことを制度の言葉で書いています。
現実の事象を抽象化することでコンピュータが扱える形に表現するモデル化のメリットや抽象化に起因するモデル化の限界、シミュレーション結果から予測を行ったり最適な解決方法を検討したりすることなどを扱う
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月、情報Ⅰ(3)イ(ウ)(解説p.34相当)
「抽象化に起因する」という言い回しが決定的です。モデルの限界は、作った人の腕が悪いから生じるのではありません。抽象化したから生じる。そして抽象化しなければモデルになりません。メリットと限界は同じ1つの操作の裏表であり、限界のないモデルは存在しないのです。
3-3. だから「正しいモデル」は存在しない
学習指導要領の「内容の取扱い」には、次の一文が置かれています。
アの(ウ)及びイの(ウ)については,コンピュータを使う場合と使わない場合の双方を体験させるとともに,モデルの違いによって結果に違いが出ることについても触れるようにする。
前掲「解説 情報編」情報Ⅰ 内容の取扱い(4)(解説p.31相当)
これは「気をつけないと結果がずれますよ」という注意書きではありません。結果が違って当たり前だと教えなさい、という指示です。捨てるものが違えば残るものが違い、残るものが違えば計算が違う。そして何を捨てるかは目的が決める。目的が違えば違うモデルになるのが正常なのです。
私は授業でこう言っています。モデルに正誤はない。あるのは「この目的に効くか」だけだ。 建築図面は色を捨てていますが、それは間違いではありません。色を知りたいときに建築図面を見るほうが間違いなのです。
3-4. 分類軸①:表現形式(図的・数式・物理)は独立した別の軸
ここが本講で最も誤解の多いところです。教員研修用教材は、分類の図を2枚に分けています。
- 図表1「モデルの表現形式による分類の例」
- 図表2「対象の特性による分類の例」
本文はこう書きます。「モデルは,表現形式や対象の特徴によって分類することができる」。「表現形式や対象の特徴」であって「表現形式という対象の特徴」ではありません。別々の切り口が2つあると教材自身が宣言しているのです。
表現形式による分類とは、図的モデル(図・グラフ・地図・回路図)/数式モデル(方程式で書いたもの)/物理モデル(実物の縮小模型)という分け方。これは「何の上に描いたか」の分類です。学習指導要領解説も「実際の事象を図や数式などにモデル化して表現する方法」(情報Ⅰ(3)ア(ウ)、解説p.33相当)と、表現の手段だけを並べています。
「数式モデルだから動的ですか?」という質問を毎年受けますが、答えはノーです。数式で書いた静的モデルもあれば、図で描いた動的モデルもあります。
3-5. 分類軸②:静的/動的 = 時間を変数に入れたか
静的モデルは,プラスチックモデルや建築図面などのように時間的要素を含まないもので,動的モデルはレジの待ち行列や,気象予測,生物の成長など,時間的要素を含んだ事象のモデルである。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章 学習16
判定は1行で済みます。そのモデルに「時刻 」が変数として入っているか。
入っていなければ静的モデル。時間が止まった1枚の絵です(座席表・建築図面・路線図)。入っていれば動的モデル。時間を進めると状態が変わります(複利計算・人口の増減・待ち行列)。
注意すべきは、「実物が時間とともに変わるかどうか」ではなく「モデルが時間を変数に持っているか」が基準だという点です。建物は実際には経年劣化しますが、建築図面はそれを捨てている。だから静的モデルです。捨てたものは分類に効きません。
3-6. 分類軸③:確定/確率 = 同じ入力で同じ結果が返るか
確定モデルは不規則な現象を含まず,方程式などで表せるモデルであり,確率モデルはサイコロやクジ引きのような不規則な現象を含んだモデルである。
前掲「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章 学習16
これも判定は1行。同じ入力をもう一度入れて、同じ答えが返ってくるか。 返れば確定モデル、返らなければ確率モデルです。次の章で実際にプログラムを走らせて確かめます。
よくある誤解を1つ潰しておきます。「乱数の種(シード)を固定すれば毎回同じ結果になるのだから、確率モデルも確定モデルでは?」という質問。鋭いのですが違います。種の固定は実装の再現性の話であって、モデルが不規則性を含むかどうかとは別のレイヤーです。これも実行して見せます。
なお学習指導要領解説は、モデル化とシミュレーションについて「高等学校数学科の第2款の第4『数学A』の2の(2)『場合の数と確率』との関連が深く」と書き、さらに「数学科と連携し,不確実な事象を含む確率的モデルを扱うことも考えられる」と述べています(解説p.33相当)。情報Ⅰの確率モデルは、数学Aと国の文書の上で正式に手を組んでいるのです。
3-7. 3本の軸は独立に動く
| 軸 | 問い | 値 |
|---|---|---|
| 表現形式 | 何の上に描いたか | 図的/数式/物理 |
| 時間 | 時刻を変数に入れたか | 静的/動的 |
| 不規則性 | 同じ入力で同じ結果か | 確定/確率 |
| 例 | 表現形式 | 静的/動的 | 確定/確率 |
|---|---|---|---|
| 建築図面・教室の座席表 | 図的 | 静的 | 確定 |
| 複利計算の式 | 数式 | 動的 | 確定 |
| サイコロを1回振る手続き | 数式 | 静的 | 確率 |
| レジの待ち行列 | 数式 | 動的 | 確率 |
| 風洞実験用の車の模型 | 物理 | 静的 | 確定 |
「サイコロを1回振る手続き」が静的で確率である点に注目してください。1回の目を求めるだけなら時間は登場しません。ここに「10分間で何人来るか」を入れた瞬間に動的になります。軸は本当に独立に動きます。
4. 手で確かめる
4-1. 同じ「教室の混み具合」を目的別に3通りモデル化する
対象は1つ、目的は3つ。何が捨てられ、どの分類に入るかを並べます。
目的A:明日の説明会で、この教室に椅子は足りるか。 必要なのは席数と参加人数だけ。時間も、誰がいつ来るかも捨てます。座席の配置図に○を打っていく。
目的B:開始10分前から毎分2人ずつ入るとき、開始時刻に何人いるか。 時間を入れます。ただし「毎分きっかり2人」と決めるので、ばらつきは捨てます。
目的C:自習室の席は20。生徒40人が各自0.5の確率で来る。席は足りるか。 「誰が来るか」は分からないので確率として残します。人数のばらつきこそ知りたいものなので、これは捨てられません。
| 目的 | 残したもの | 捨てたもの | 表現形式 | 静的/動的 | 確定/確率 |
|---|---|---|---|---|---|
| A 椅子は足りるか | 席数・人数 | 時間・個人差 | 図的 | 静的 | 確定 |
| B 開始時に何人か | 時間・流入速度 | ばらつき・個人差 | 数式 | 動的 | 確定 |
| C 席が埋まるか | 人数・来る確率 | 個人差・到着時刻 | 数式 | 動的 | 確率 |
同じ教室です。変わったのは目的だけで、できたモデルは3つとも違う。 そしてどれも間違っていません。目的Aのモデルで目的Cを論じたら、それが間違いです。
4-2. 分類の判断樹
図:モデルの分類を決める2つの質問と、それとは独立な表現形式の軸
4-3. 確定モデルと確率モデルを実際に走らせる
論より実行です。次のコードを実際に動かしました(Python 3、2026年8月3日実行)。
import random
# A. 確定モデル:0人から始めて毎分2人ずつ、10分間
def kakutei(hajime, mai_fun, fun):
n = hajime
for _ in range(fun):
n = n + mai_fun
return n
print(kakutei(0, 2, 10)) # 1回目
print(kakutei(0, 2, 10)) # 2回目
print(kakutei(0, 2, 10)) # 3回目
実行結果です。
20
20
20
同じ入力に対して同じ出力。これが確定モデルです。次に確率モデル。
# B. 確率モデル:40人が各自 0.5 の確率で来る
def kakuritsu(nin, p, seed=None):
rnd = random.Random(seed)
kuru = 0
for _ in range(nin):
if rnd.random() < p:
kuru += 1
return kuru
print(kakuritsu(40, 0.5)) # 1回目
print(kakuritsu(40, 0.5)) # 2回目
print(kakuritsu(40, 0.5)) # 3回目
実行結果(2026年8月3日に実行したときの値)。
23
19
17
同じ入力なのに3回とも違います。 しかもこの結果は、読者が手元で実行したらまた違う数字になります。それが正常です。
では確率モデルは何も予言できないのか。そうではありません。1回の値は定まらなくても、多数回の平均は安定します。
rnd = random.Random(20260803)
kekka = [sum(1 for _ in range(40) if rnd.random() < 0.5) for _ in range(10000)]
print(sum(kekka) / len(kekka)) # 平均
print(min(kekka), max(kekka)) # 最小・最大
19.9364
8 33
理論上の期待値は
であり、1万回の平均 19.9364 はこれと 0.32% の差に収まっています(独立に計算:|19.9364 − 20| ÷ 20 = 0.00318)。一方で1回ごとの実現値は 8 から 33 まで振れています。「平均は当たるが、1回は当たらない」——これが確率モデルの性格であり、目的Cで「平均が20人だから20席で足りる」と考えてはいけない理由でもあります。
最後に、乱数の種を固定した場合。
print(kakuritsu(40, 0.5, seed=1))
print(kakuritsu(40, 0.5, seed=1))
26
26
同じ値が返りました。しかしこのモデルは依然として確率モデルです。種を固定したのは「同じサイコロの振り方を再現した」だけで、モデルの中から「サイコロを振る」という手続きが消えたわけではないからです。分類はモデルの構造で決まり、実行の再現性では決まりません。
4-4. 確定モデルの実例を、教材の数値で検算する
教員研修用教材 学習16 は、確定モデルの例として複利法を挙げ、「次期の金額=現在の金額+利息」「利息=現在の金額×利率×時間間隔」という数式モデルを提示しています。利率を 、 期目の金額を と書けば
です。教材は元金10万円・利率5%で10年分を回すプログラムを載せ、「この実行結果から,5%の利率の場合には9年ほどで1.5倍になることがわかる」と述べています。私の手元で独立に検算しました。
| 年 | 金額(円) | 倍率 |
|---|---|---|
| 8年目 | 147,745.54 | 1.477455 |
| 9年目 | 155,132.82 | 1.551328 |
| 10年目 | 162,889.46 | 1.628895 |
8年目で1.477倍、9年目で1.551倍。教材の「9年ほどで1.5倍」は正しいと確認できました(、。2026年8月3日に独立に計算)。
ここで確認したいのは金融の話ではありません。このモデルは何を捨てたかです。捨てたのは金利の変動、税金、途中の入出金、インフレ。全部捨てて「毎期一定率で増える」だけを残した。だから確定モデルになりました。確定モデルとは、不規則性を捨てる決断をしたモデルのことです。
なお、モンテカルロ法・待ち行列・表計算による方法といった具体的なシミュレーション手法は、本書の別の講で扱います(『最強120講義』の目次から辿れます)。本講の仕事は分類の枠組みと、モデルを作るという行為そのものを固めることにあります。
5. 共通テストではこう出る(重要度 S)
重要度をSとする根拠は制度側にあります。モデル化とシミュレーションは情報Ⅰ(3)の「内容の取扱い」に名指しで指定された項目であり、2025年度(令和7年度)の本試験でも第2問Bでシミュレーションを題材とした出題が行われたと分析されています。出題の有無以前に、モデルの発想は第3問のプログラミングにも第4問のデータ分析にも通底します。出題の型は3つです。
型1:分類を問う型
事例を挙げて「静的か動的か」「確定か確率か」を判定させる型。引っかけの中心は、表現形式の軸と対象の特性の軸を混ぜた選択肢です。「数式モデルなので動的である」「図的モデルなので静的である」という選択肢が並んだら、それは軸の混同を突いています。3-4で見たとおり、教材自身が図表を2枚に分けています。
もう1つの引っかけは「実物が変化するか」で判定させる型。建築図面の対象である建物は変化しますが、図面は静的モデルです。判定するのはモデルであって対象ではありません。
型2:目的に合うモデルを選ぶ型
状況と目的を与え、複数のモデル案から適切なものを選ばせる型。ここで効くのが「モデルに正誤はなく、目的に対する有効性しかない」という原理です。手順は決まっています。①この目的で答えたい問いは何か → ②その問いに答えるために絶対に捨ててはいけない量は何か → ③それを残しているモデルはどれか。 目的Cで「ばらつき」を捨てたモデルを選んだら不正解、という構造がそのまま出ます。
型3:モデルの限界を問う型
シミュレーション結果を示し、「この結果をそのまま使えない理由は何か」「モデルを改善するには何を加えるべきか」を問う型。学習指導要領解説の「抽象化に起因するモデル化の限界」がそのまま設問化されたものと考えてよいでしょう。
答え方の型も決まっています。「このモデルは○○を捨てている。しかし現実では○○が結果に効く。だから○○を変数として加える必要がある」。捨てたものを言語化できる受験生は、この型で確実に得点します。
なお確率モデルの改善を問う設問では「一様乱数で近似しているが、実際の到着はもっと偏る」という論点が出やすい。情報処理学会の学会誌の記事でも、試作問題のシミュレーションについて、一様乱数が用いられている一方で現実的なモデルはポアソン分布になる、という指摘がなされています(高木正則・電気通信大学、2022年10月20日)。「使っている乱数の分布が現実と違う」はモデルの限界の代表例です。
分類の暗記に走らないこと。「時刻を書いたか」「2回入れて同じか」の2つの質問を自分に投げれば、暗記なしで即答できます。 表現形式は別の質問として独立に答える。この3問法を身体に入れておけば型1の所要時間はゼロになり、その時間を型2・型3に回せます。
なお、モデルを実際に動かす段階では流れ図とプログラムの読み方が必須になります。そこは第47講 アルゴリズムと流れ図と第54講 トレースで扱いました。
6. 情報Ⅱではこうなる
情報Ⅰと情報Ⅱでは、モデルの作り方の向きが逆になります。ここが本講の接続の核心です。
6-1. 人が法則を書き下す(情報Ⅰ)/データから法則を掘り出す(情報Ⅱ)
情報Ⅰのモデル化は、人間が現象を観察して「毎期一定率で増える」「等加速度で落ちる」という法則を先に決めて式に書きます。情報Ⅱは逆です。
将来の現象を予測したり,複数の現象間の関連を明らかにしたりするために,適切なモデル化や処理,解釈・表現を行うことでは,回帰,分類,クラスタリングなどを通して,データを基にモデル化し,検討を行い,その結果を基に不確実な事象について予測,判断する力を養う。
前掲「解説 情報編」情報Ⅱ(3)イ(イ)(解説p.51相当)
「データを基にモデル化し」——法則を先に決めるのではなく、データから係数を決める。情報Ⅰの数式モデルは人が書いた式、情報Ⅱの数式モデルはデータが書いた式です。その入口が第86講 散布図と相関係数で扱った回帰の話になります。
6-2. 「捨てる」が正式な用語になる:変数選択(モデル選択)
本講の主題「モデル化とは捨てることである」は、情報Ⅱでは比喩ではなく手法の名前になります。
そこで,モデル式の構築にあたっては,説明変数の取捨選択が重要な課題となる。これを変数選択もしくはモデル選択(モデリング)という。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 学習13「重回帰分析とモデルの決定」(令和2年7月)
「取捨選択」です。情報Ⅰで私が「捨てる行為だ」と説明したものが、情報Ⅱでは正式な用語として登場します。さらに教材は、捨てないとどうなるかを示します。
説明変数を増やせば増やすほど単純に大きくなる。(中略)複雑なモデルほど寄与率R²は大きくなる。(中略)しかし,これらのモデルでは,残差の自由度は0となり,標準誤差は無限大となり計算できない。つまり,新しいデータに対して予測力がまるでないことになる。
前掲「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章 学習13
捨てないと当てはまりは良くなるが、予測できなくなる。 情報Ⅰでは「捨てすぎると現実とずれる」を学び、情報Ⅱでは「捨てなさすぎると新しいデータに効かない」を学ぶ。両側から挟まれて、モデル化は捨てる量を選ぶ問題になります。そのための指標として教材は AIC(赤池の情報量規準) を挙げ、「AICは小さいほど良いモデルとされる」と述べます。情報Ⅰでは人が目的に照らして判断していた「良いモデル」が、情報Ⅱでは数値の指標になるわけです。
ただし教材は同時に釘を刺します。「説明変数が目的変数に与える効果に言及し要因分析を行う場合は,自動変数選択は安易に使用すべき手法ではない」。指標に丸投げするな、という警告です。「何を捨てるかは目的が決める」という情報Ⅰの原理は、情報Ⅱでも生き残っています。
6-3. 最適化がモデル作りの道具になる
同教材の第3章 学習14(主成分分析)では、主成分の係数を求めるのに表計算ソフトの最適化機能を使います。原文は「制約条件を指定した上で変数のセル(係数のセル)を変化させ目標値を最大化させる係数を求める最適化機能を使う」「Excelでの最適化機能は『ソルバー』と呼ばれる」。目的関数を最大化し、制約条件の下で係数を決める——線形計画法と同じ道具立てです。情報Ⅰで「作って動かす」だけだったモデルが、情報Ⅱでは「制約の中で最良の解を探す」対象になります。
また、日本文教出版の「情報Ⅱ」教科書では第3章「情報とデータサイエンス」の「データの分析」の中に「数理モデル」の項目が置かれ、変数選択と次元削減・回帰分析・クラスタリング・ニューラルネットワークと並んでいます(同社Webサイト、2026年8月3日確認)。これは1社の教科書の構成であって「情報Ⅱの内容」そのものではありませんが、モデルが数理モデルという名前で章立てされるのが情報Ⅱの世界です。
6-4. 最適化はすでに情報Ⅰの教室に来ている
ここは受験生に伝えておきたい事実です。文部科学省の「実践事例」ページには、情報Ⅰ「コンピュータとプログラミング」の事例として次の2本が並んで掲載されています。
- (14)「プログラミングとシミュレーション(確率モデル)(北海道_2023)」
- (15)「モデル化とシミュレーション(線形計画法)(北海道_2023)」
事例(15)は北海道札幌北高等学校の実践で、学校祭の模擬店でクレープを売るという題材から、価格と販売数の関係を直線の式で表し、材料の制約の下で利益を最大化する線形計画問題に取り組ませています。表計算ソフトのソルバーと Python の両方で最適解を求めた例が掲載され、数学Ⅱ「図形と方程式」および理科との教科横断が明記されています。担当教員のコメントがそのまま載っているのですが、これが効きます。
○ 大学入学共通テストで出題される可能性があることから、さまざまな問題とモデル化の手法(数理問題)を生徒に示したいと考えています。
○ プログラムでシミュレーションを繰り返すことは簡単にできます。一方、モデルをつくることは生徒にとって難しい可能性があります。
文部科学省「実践事例」(15)「モデル化とシミュレーション(線形計画法)(北海道_2023)」(2026年8月3日取得)
「シミュレーションは簡単だが、モデルを作るのは難しい」——現場の先生が同じことを言っています。だから本講では分類の暗記ではなく「モデルを作るという行為そのもの」に時間をかけました。ここが難所だと国の資料も認めているからです。
まとめ
- モデル化とは捨てる行為。何を捨てるかは目的が決める。
- だから「正しいモデル」は存在せず、目的に対して有効かどうかしかない。学習指導要領も「モデルの違いによって結果に違いが出る」と明記している。
- 分類の軸は独立に3本。①表現形式(図的・数式・物理)②時間を変数に入れたか(静的・動的)③同じ入力で同じ結果か(確定・確率)。教材は①と②③を別の図表に分けている。
- 判定は2つの質問で足りる。「時刻を書いたか」「2回入れて同じか」。
- 確率モデルは1回の値は定まらないが平均は安定する。乱数の種を固定しても確率モデルであることは変わらない。
- 情報Ⅱでは「捨てる」が変数選択(モデル選択)という正式な手法になり、AICという指標と、最適化(ソルバー・線形計画法)が加わる。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章 コンピュータとプログラミング(令和2年)
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 情報とデータサイエンス 前半(令和2年7月)
- 文部科学省「実践事例」(高等学校情報科)/事例(15)「モデル化とシミュレーション(線形計画法)(北海道_2023)」
- 日本文教出版「情報Ⅱ」教科書ページ(二次情報。1社の構成として引用)
- 高木正則(電気通信大学)「『モデル化とシミュレーション』分野の問題を解いてみよう!」情報処理学会 学会誌「情報処理」note版、2022年10月20日(二次情報。設問構造の説明にのみ使用)
制度の話はすべて2026年8月時点の情報です。関連する講として、コンピュータの中で計算がどう行われるかは第43講 論理演算とベン図に書きました。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第59講のWeb版です。
「情報Ⅰ、独学でいけるのか不安」という方へ
数強塾では数学と情報Ⅰの両方に対応したオンライン個別指導を行っています。学習相談は無料、体験授業は3,000円(税込)でお受けしています。
