- ネットワークの目的は「つなぐ」ことではなく「共有する」こと。1本の回線・1台のプリンタ・1つのファイルを、複数で使えるようにする仕組みです。
- LAN と WAN を分ける本当の基準は距離でも速度でもなく「誰が管理しているか」。距離や速度は結果であって定義ではありません。
- 共有が始まった瞬間に「誰が使ってよいか」という管理が同時に発生する。だから構成の話は、そのままセキュリティの話になります。
こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。ここから『藤原進之介の最強120講義』は第4部・ネットワーク編に入ります。この第67講は、プロトコル(第68講)やパケット(第69講)、IPアドレス(第70講)といった個別の仕組みに入る手前に置かれる講です。扱うのは「そもそもネットワークとは何をする道具なのか」という一点だけ。ここが曖昧なまま先へ進むと、以降の講がすべて用語の暗記になってしまいます。
1. ネットワークとは「共有」の仕組みである
まず数字から入りましょう。総務省「令和6年通信利用動向調査」(調査時点 令和6年8月末、公表 令和7年5月30日)によれば、過去1年間にインターネットを利用した人がいる世帯の利用機器はスマートフォン 91.0%、パソコン 72.2%(複数回答)。一方で、自宅でインターネットを利用する世帯の接続回線は光回線(FTTH回線)60.5% が最も高く、5G回線 34.6%、LTE・BWA回線 29.8%、ホームルーター 21.6%、これらを含めたブロードバンド回線が 94.2% となっています。
国の教材も、まったく同じことを言っています。文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章 学習18(1) は、家庭内 LAN が何のために作られるのかを2つ挙げています。
(文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章 学習18)
前者は回線の共有、後者はデータの共有。どちらも「共有」です。さらに情報Ⅱ側の教材(第4章 学習19「サーバの種類」)を見ると、プリントサーバが「プリンタを共有する機能を提供する」と定義されています。共有という言葉が、そのままサーバの職務内容になっているわけです。
そして、ここが本講で一番大事なところです。共有が始まった瞬間に、管理が発生します。 1台のプリンタを10人で使うなら「誰が使ってよいか」を決めなければならない。1つのファイル置き場を共有するなら「誰が読めて誰が書けるか」を決めなければならない。ネットワークの構成と情報セキュリティが情報Ⅰで同じ単元に置かれているのは、教育上の都合ではなく共有と管理が同じ現象の裏表だからです(この先は第77講で扱います)。
2. LAN と WAN は「管理者が誰か」で線を引く
多くの参考書は「LAN は狭い範囲、WAN は広い範囲」と書きます。私はこの覚え方をお勧めしません。外すからです。
情報Ⅰ教員研修用教材 学習18(1) は、LAN を規模で3段階に分けています。
(同 第4章 学習18)
注目してほしいのは最後です。「都道府県内の学校ネットワーク」まで LAN と呼んでいます。 県をまたぐわけではないにせよ、これは「狭い範囲」ではありません。
では規模は何で測っているのか。教材は自分で問いを立て、自分で答えを出しています。「このようなLANの規模とは何をもとに考えたらよいのだろうか」——そして少し先で、こう書きます。
(同 第4章 学習18)
基準は接続機器の台数であって、距離ではありません。
では LAN と WAN の違いは何か。教材の別の一文にヒントがあります。「ルータ等の LAN の内部と外部を分ける機器については、どのような役割を果たしているのか」。
LAN = 自分たちで管理できる範囲。WAN = 他人の設備を借りる範囲。
距離が近いのは「自分で配線を引ける範囲がだいたい近いから」という結果にすぎず、速度が速いのは「自分で機器を選べるから」という結果にすぎません。
この区別が分かると、VPN が一気に理解できます。VPN は他人の回線(WAN)の上に、自分の管理範囲(LAN)を作り直す技術です。「仮想的な専用線」という説明が腑に落ちるのは、LAN と WAN の線引きが管理者にあると分かっているときだけです。
★「WAN」は国の一次資料に一度も出てこない
ここで本書の目玉を1つ置きます。私は次の3つの資料を全文テキスト化して機械的に数えました(2026年8月3日)。
- 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編(共通教科・専門教科の全編)
- 文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材(巻頭+第1〜4章、章ごとに別PDF)
- 文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材(序章+第1〜5章。第3章は前半・後半の2分冊の両方)
| 語 | 解説 情報編 | 情報Ⅰ教材 | 情報Ⅱ教材 |
|---|---|---|---|
| LAN(VLAN 等を除く) | 9 | 148 | 42 |
| WAN | 0 | 0 | 0 |
| ワイドエリア | 0 | 0 | 0 |
LAN は解説に「Local Area Network」という綴りつきの定義まであるのに、WAN は一度も出てきません。 対になる語の片方だけが存在している状態です。
では WAN はどこに在るのか。IPA「ITパスポート試験 シラバス Ver.6.5」(2026年1月8日掲載)の「58. ネットワーク方式」の【目標】の第一文が、これです。
(IPA「ITパスポート試験 シラバス Ver.6.5」)
情報処理技術者試験の最下位レベルの試験の、目標の1行目。高校の共通教科の一次資料には無い語が、そこには当たり前の顔で置かれています。第77講が VPN について見つけたのと、まったく同じ形の空白です。
3. 有線と無線で設計が変わるのは「電波は届く範囲すべてに漏れる」から
情報Ⅰ教員研修用教材 学習18(2) は、有線と無線の違いをこう書いています。
(同 第4章 学習18)
違うのは一番下の層だけ、という宣言です(この「層」の話は第68講で扱います)。だからこそ、同じブラウザ・同じアプリが有線でも無線でも動きます。
ところが「一番下の層だけ」の違いが、設計を根本から変えます。同教材の図表5「無線LANと有線LANのメリット・デメリット」で、無線LANのデメリットとして挙がっているのは次の4つです。
- 一般的に通信速度が遅い
- 接続機器の特定が困難
- 電波の干渉を受けやすい
- 簡単に通信内容を傍受できる
最後の1つがすべてを説明します。有線は、物理的にケーブルを挿さないと参加できません。 建物に入り、机まで来て、ポートに挿す。この物理的な手間そのものが第一の関門になっています。
対して無線は、電波が届く範囲すべてが入口です。 隣の部屋も、道路も、上の階も。参加の可否を物理で制限できない以上、制限は暗号で行うしかない。無線LANで暗号化が「推奨」ではなく「必須」なのは、暗号化が唯一残された関門だからです。
なお「無線は一般的に通信速度が遅い」は、あくまでこの演習表の記述であり、普遍法則ではありません。教材自身も直後に「現在では IEEE802.11 で規格化され、通信品質や速度の問題に関しては、あまり問題はなくなってきている」と書いています。速度で有線と無線を区別する覚え方は、時代とともに崩れます。「電波は漏れる/ケーブルは挿さないと入れない」という物理のほうが、はるかに寿命が長い。
4. クライアントサーバとピアツーピア:優劣ではなく「何を優先するか」
ここは情報Ⅱ側の教材が非常に明快なので、そのまま借ります。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章 学習19「情報システムの集中処理と分散処理」より。
一方の分散処理システムは、1台のコンピュータが故障しても処理を継続できるため信頼性が高く、機能の拡張が容易ではあるが、保守やセキュリティ管理、運用管理が複雑になるデメリットがある。
(文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章 学習19)
きれいに裏返しになっています。 集中は「管理しやすいが単一障害点になる」、分散は「壊れにくいが管理が難しい」。
同じ構図が、クライアントサーバと P2P にも現れます。
(同 第4章 学習19)
教材が P2P の実例として挙げるのは、暗号資産のブロックチェーン、一部のSNSアプリ(電話アプリやメッセンジャーアプリなど)、IoT分野です。
5. 接続形態は「1台壊れたときどうなるか」で比べる
スター型・バス型・リング型・メッシュ型。この4つを形で暗記させる教材は多いのですが、形は覚える価値がありません。 覚えるべきは故障の影響範囲です。
そして本題は次の図です。同じ「1か所が壊れた」でも、止まる範囲がまったく違います。
| 形態 | つなぎ方 | 端末が1台壊れたら | 中心/幹線が壊れたら | 配線量 |
|---|---|---|---|---|
| スター型 | 中心の機器に全員がぶら下がる | その1台だけ切れる | 全滅 | 端末数ぶん |
| バス型 | 1本の幹線に全員がぶら下がる | その1台だけ切れる | 全滅 | 少ない |
| リング型 | 隣の隣へと輪でつなぐ | 輪が切れて全体に影響 | ― | 少ない |
| メッシュ型 | 互いを直接つなぐ | 他の経路が残る | ― | 非常に多い |
この表の読み方はひとつだけ。「壊れにくさ」と「配線量」がトレードオフになっているということです。メッシュは最も壊れにくく、最も高い。スターは安いが中心が命綱になる。
家庭やオフィスで実際に使われているのがスター型なのは、「ハブやルータという中心が1台あれば済み、1台の端末を抜き差ししても他に影響しない」から。中心が落ちたら全滅するリスクを、機器1台を守るコストと引き換えに受け入れているということです。
★接続形態の名前も、国の一次資料には無い
これも数えました。上と同じ3資料で、「スター型」「バス型」「リング型」「メッシュ型」「トポロジ」はいずれも 0 件です。
素朴に数えると、存在しないものが74件あることになってしまいます。「◯件だった」と言う前に、必ずヒットした箇所を1つずつ見ること。これは読者にもそのまま使ってほしい作法です。
では接続形態はどこに在るのか。IPA「基本情報技術者試験 シラバス Ver.9.2」の「(1) ネットワークアーキテクチャ ① ネットワークトポロジ」にこうあります。
(IPA「基本情報技術者試験 シラバス Ver.9.2」)
なお ITパスポート Ver.6.5 には「トポロジ」も「スター型」も0件。接続形態は、情報処理技術者試験でも1段上(基本情報)の内容ということになります。
6. この講の位置:中学校の続きから始まっている
最後に、この講がなぜ第4部の入口に置かれるのかを、制度から説明しておきます。
中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 技術・家庭編 の内容「D 情報の技術」(2)ア は、こう書かれています。
(中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 技術・家庭編)
そしてその解説本文が、扱う中身を具体的に列挙しています。「コンピュータ同士を接続する方法や、情報通信ネットワークの構成、サーバやルータ等の働きや、パケット通信や Web での情報の表現、記録や管理などの情報通信ネットワーク上で情報を利用する仕組みについて理解させるようにする」。
一方、高等学校学習指導要領解説 情報編 情報Ⅰ(4)ア(ア) は、こうです。「情報通信ネットワークを構成するクライアントやサーバ、ハブ、ルータなどの構成要素の役割について理解するようにする」。
| 段階 | 名指しされる構成要素 |
|---|---|
| 中学校 技術・家庭科 D(2)ア | サーバ、ルータ |
| 高校 情報Ⅰ(4)ア(ア) | クライアント、サーバ、ハブ、ルータ |
高校が中学校に足したのは「クライアント」と「ハブ」の2語だけです(中学校の解説に「ハブ」も「クライアント」も0件)。しかも高校側の解説はさらに、家庭内LANを実際に構築させること、有線と無線の違い、公衆無線LANの注意点、そして「あらかじめ用意したトラブルを抱えている情報通信ネットワークの不具合を解決したりする」ことまで求めています。
なお 2026年8月時点で、次期学習指導要領は中央教育審議会で審議中です。教育課程部会 情報・技術ワーキンググループの「情報・技術WG取りまとめ(案)」(令和8年7月30日 資料1)は、現状の課題として「小学校ではコンピュータやネットワークの仕組みの理解が扱われていない」「中学校でもコンピュータやネットワークの仕組みの理解やデータ活用が十分に扱われていない」と明記したうえで、中学校「情報・技術科(仮称)」の学習イメージに「c. 情報通信ネットワークの構成」という項目名を置き、「情報通信ネットワークを構成する機器や接続の仕組みを調べ、整理してワークシートにまとめたうえで、簡易なネットワークの設定を体験して」と書いています。あくまで審議中の「案」であり確定ではありませんが、この分野を土台から手を動かして学ぶ方向は維持されそうだ、というのが現時点の見立てです。
7. 手で確かめる ── 自分の機械に聞く
自分のパソコンが LAN のどこに立っているかは、コマンド3つで分かります。以下はすべて 2026年8月3日に私が macOS 上で実際に実行した出力です。個人を特定しうる値(MACアドレス、グローバルIPv6アドレス)はマスクしました。 プライベートIPv4アドレスは RFC1918 が定める範囲なのでそのまま載せます。
(1) 自分の住所を見る ── ifconfig(Linux なら ip addr)
$ ifconfig en0
en0: flags=8863<UP,BROADCAST,SMART,RUNNING,SIMPLEX,MULTICAST> mtu 1500
ether xx:xx:xx:xx:xx:xx
inet6 fe80::xxxx:xxxx:xxxx:xxxx%en0 prefixlen 64 secured scopeid 0xb
inet 192.168.1.11 netmask 0xffffff00 broadcast 192.168.1.255
media: autoselect
status: active
読むべき点は3つです。
- inet 192.168.1.11 ── 192.168.0.0〜192.168.255.255 は RFC1918 が定めるプライベートアドレスの1ブロック。世界のどこからも直接は届かないアドレスであり、これを持っているということは「私は LAN の内側にいる」ということです(→ 第70講)。
- netmask 0xffffff00 ── 16進 ffffff00 は2進で 1 が24個・0 が8個。つまり /24。上位24ビットがネットワーク部、下位8ビットがホスト部。同じ LAN に置けるホストは 2の8乗 − 2 = 254台(全0はネットワークアドレス、全1はブロードキャストアドレスで使えないため)。
- mtu 1500 ── 1回に送れる最大サイズが 1500 バイト。この数字がパケット分割の話に直結します(→ 第69講)。
(2) 出口を見る ── netstat -rn(Linux なら ip route / route -n)
$ netstat -rn -f inet
Internet:
Destination Gateway Flags Netif Expire
default 192.168.1.1 UGScg en0
127 127.0.0.1 UCS lo0
192.168.1 link#11 UCS en0
192.168.1.1 xx:xx:xx:xx:xx:xx UHLWIir en0 1195
192.168.1.11 xx:xx:xx:xx:xx:xx UHLWI lo0
192.168.1.142 xx:xx:xx:xx:xx:xx UHLWIi en0 1050
192.168.1.255 ff:ff:ff:ff:ff:ff UHLWbI en0
224.0.0.251 01:00:5e:00:00:fb UHmLWI en0
1行目が主役です。default → 192.168.1.1。これがデフォルトゲートウェイ。「宛先が自分の LAN の中でないなら、全部ここへ投げる」という意味です。
そして 3行目の 192.168.1 → link#11。「192.168.1.◯◯ 宛なら、ゲートウェイを通さず直接ケーブル(en0)に出せ」という意味です。この2行の対比が、そのまま「内側/外側」の定義になっています。
(3) 隣人を見る ── arp -a
$ arp -a
ntt.setup (192.168.1.1) at xx:xx:xx:xx:xx:xx on en0 ifscope [ethernet]
? (192.168.1.11) at xx:xx:xx:xx:xx:xx on en0 ifscope permanent [ethernet]
? (192.168.1.142) at xx:xx:xx:xx:xx:xx on en0 ifscope [ethernet]
? (192.168.1.255) at ff:ff:ff:ff:ff:ff on en0 ifscope [ethernet]
mdns.mcast.net (224.0.0.251) at 01:00:5e:00:00:fb on en0 ifscope [ethernet]
ここが一番おもしろいところです。 ARP は「この IP アドレスの機器、いま誰?」と LAN 全体に叫んで返事を待つ仕組みです。だから arp -a に出てくるのは、自分と同じ LAN にいる相手だけ。
この出力には、私が今まさに通信している遠くのサーバは1つも出てきません。ゲートウェイの向こう側は、1台も見えない。 見えているのは、ルータ(192.168.1.1)と、自分(192.168.1.11)と、家の中のもう1台(192.168.1.142)だけです。
最後の 224.0.0.251(mDNS)も同じ話です。224.0.0.0/24 は「同じネットワークの中だけに配られ、ルータを越えない」と決められたマルチキャストアドレス。プリンタやスピーカーが設定なしで見つかるのは、この「LAN の中だけに届く呼びかけ」が使われているからです。共有が LAN の中で完結している実物が、ここに映っています。
自分で確かめる練習
- /24 の LAN に 254台まで置けるのはなぜか、2進法で説明できるか(→ 第40講・第70講)
- 自分の環境で arp -a を実行し、出てきた台数を数える。教材が言う「数十台までを小規模な LAN と考える」と比べてみる
- ping でゲートウェイに届くのに外のサイトに届かないとき、原因は LAN 側か WAN 側か
8. 共通テストではこう出る(重要度:A)
ネットワーク単元は必ず出題され、その入口である構成要素は「知っていれば取れる」得点源になります。
出題の形(大学入試センターの公表資料から)
大学入試センターが公表した「試作問題『情報』の概要」によれば、試作問題『旧情報(仮)』第4問は生徒3人が身近なネットワークや情報セキュリティについて自ら学習する題材で、小問9つがすべてこの分野に充てられています。センターが公表している各設問の概要は次のような構造です(設問文・選択肢・図表は転載しません)。
| 小問 | 公表されている出題のねらい |
|---|---|
| 問1 | 家庭の中で身近に使用されている情報通信ネットワークの機器について、その名称と役割の理解 |
| 問2 | 無線LANの機器に接続するために必要な SSID や暗号化キーの理解 |
| 問3 | 無線LANへの接続に対するセキュリティ対策の知識 |
| 問4 | 初めて自宅にインターネットの回線を引く場面での留意点 |
| 問5 | 無線LANの一覧から読み取れることと、暗号化キーがないネットワークに接続する危険 |
| 問6 | ルータやハブの機能に関する知識を基に、情報通信機器の接続を具体的な事例の中で考察 |
| 問7〜9 | ブルートフォース攻撃・その対策・情報セキュリティの三要素 |
問1と問6が、そのままこの講の内容です。 そして注目すべきは、この9問が「機器の名称と役割」から入って「セキュリティ」で終わる構造になっていること。共有の話が管理の話に接続していくという本講の骨格が、出題の並びそのものになっています。
引っかかりやすい点
- LAN/WAN を距離で覚えている。 「都道府県内の学校ネットワーク」を LAN と呼ぶ資料が国の側にある以上、距離での判別は当てになりません。管理者が誰かで判断する。
- 「無線は遅い」を法則だと思っている。 教材の演習表の記述であって、規格の進歩で変わります。軸は速度ではなく「電波は漏れる/ケーブルは挿さないと入れない」。
- ハブとルータの混同。 ハブは同じ LAN の中で機器をまとめる。ルータはLAN と外を分ける。「境界にいるのはどちらか」で覚えます。
- 接続形態を形で覚えている。 問われるのは「1台壊れたらどこまで止まるか」。形は答えを出すための道具にすぎません。
- サーバを「高性能なコンピュータ」だと思っている。 サーバは性能の話ではなく役割の話。情報Ⅱ教材の定義は「サービスを要求するクライアントと、要求されたサービスを提供するサーバ」——要求する側か、提供する側か、それだけです。
自作の類題
【問】ある学習塾が、教室に生徒用パソコン20台、講師用パソコン2台、プリンタ1台を置き、1本の光回線でインターネットに接続している。次の(a)〜(c)に答えよ。
- (a) この20台が同時に Web を閲覧できるのは、どの機器がどんな働きをしているからか。
- (b) 講師用パソコンからは生徒の成績ファイルが読めるが、生徒用パソコンからは読めないようにしたい。これは LAN を「つなぐ」話か「管理する」話か。理由とともに述べよ。
- (c) 教室のハブが1台故障した。影響範囲はどうなるか。もし故障したのがルータだったらどうか。
解答の骨子。(a) ルータが LAN と WAN の境界に立ち、1本の回線を複数の機器で共有させている。(b) 管理の話。共有を始めた時点でアクセス権の設定が必要になる。(c) ハブ故障ならそこにぶら下がる機器だけが切れる(スター型の性質)。ルータ故障なら外部との通信が全滅する一方、LAN 内部のファイル共有やプリンタは生きている——ここが「LAN と WAN は別物」を実感できる場所です。
9. 情報Ⅱではこうなる
語数で見る分水嶺
第4部の他の講と同じ方法で、3つの一次資料を数えました(2026年8月3日、当方でテキスト化して機械計数。ヒット箇所は1件ずつ用法を目視で確認しています)。
| 語 | 解説 情報編 | 情報Ⅰ教材 | 情報Ⅱ教材 |
|---|---|---|---|
| クライアントサーバ | 0 | 0 | 11 |
| P2P | 0 | 0 | 5 |
| 集中処理 | 0 | 0 | 5 |
| 分散処理 | 1(専門教科側) | 0 | 6 |
| ハブ | 1 | 4 | 0 |
| LANスイッチ | 0 | 0 | 2 |
| VLAN | 2(専門教科側) | 1 | 7 |
| セグメント | 1(情報Ⅱ側) | 0 | 8 |
この表が、そのまま接続マップです。
情報Ⅰでの扱い
情報Ⅰでは、構成要素は「役割を理解する」対象です。解説 情報Ⅰ(4)ア(ア) は「クライアントやサーバ、ハブ、ルータなどの構成要素の役割について理解するようにする」と書きます。クライアントとサーバは並列に並んだ2つの部品の名前であって、「クライアントサーバシステム」という一つの構成方式としては、解説にも情報Ⅰ教員研修用教材にも一度も登場しません(ともに0件)。
つまり情報Ⅰでは、構成は与えられているものです。家にあるルータ、学校にあるハブ、その役割を知る。教材の演習が「歯科医院を想定して小規模な LAN の構成に必要なものを列挙し、店舗内の機器の配置図も描いてみましょう」となっているのも、部品を並べる段階だからです。
情報Ⅱでの扱い
情報Ⅱでは、構成が選択肢になります。
情報Ⅱ教員研修用教材 第4章 学習19 は、まず処理形態を集中/分散で対比し、次にクライアントサーバと P2P を対比し、さらに2層から3層への移行を扱います。
(文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章 学習19)
構成が変わった理由が「通信負荷」だと明記されています。 情報Ⅰで計算する通信量(→ 第73講)が、情報Ⅱではシステムの層構造を決める設計根拠に化けるわけです。
さらに 学習20 では、ネットワークの分割がセキュリティ設計になります。
(同 第4章 学習20)
「物理的な接続形態とは独立して」——この一句が、本講の第5節と情報Ⅱをつなぐ蝶番です。情報Ⅰでは接続形態は物理の話(どう配線するか)でした。情報Ⅱでは、物理配線をそのままに、論理的な LAN の線引きだけを引き直せるようになる。LAN の境界が、ケーブルの届く範囲から、設計者が決めるものへ変わります(→ 第77講)。
情報Ⅱで消えるもの・名前が変わるもの
- 「ハブ」は情報Ⅱ教員研修用教材の全章で0件になります。 代わりに「LANスイッチ」が現れる(第4章1件・第5章1件)。物理的に電気信号を配るだけの箱から、どのポートへ流すかを判断する機器へ、語ごと入れ替わっている。
- 集中/分散という区別自体が相対化されます。 同 学習19 は「ただし近年では、インターネットを経由して利用するクラウドコンピューティングが普及しつつあり、集中処理か分散処理かを区別することの意義が薄れつつある」と書く。教材が自分で自分の分類に留保をつけている箇所です。
まとめ
情報Ⅱ:ネットワークの構成は「決めるもの」。 集中か分散か、2層か3層か、どこにセグメントの線を引くか。目的と制約から選び、その選択を説明できる。
そして選択の理由は、いつも同じ形をしています。「何を共有し、誰に使わせるか」。 ネットワークは共有の仕組みであり、共有には必ず管理が伴う——第67講の結論は、そのまま情報Ⅱの設計論の入口になっています。
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月 https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_006.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_005.pdf / 文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 技術・家庭編」平成29年7月 https://www.mext.go.jp/content/20230516-mxt_kyoikujinzai02-000033059_04.pdf / 文部科学省 中央教育審議会 教育課程部会 情報・技術ワーキンググループ「情報・技術WG取りまとめ(案)について」令和8年7月30日 資料1 https://www.mext.go.jp/content/20260730-mxt_kyoiku01-000050649-3.pdf / 大学入試センター「試作問題『情報』の概要」 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003141.pdf / 総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(世帯編)」令和7年5月30日公表 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR202400_001.pdf / IPA「ITパスポート試験 シラバス Ver.6.5」2026年1月8日掲載 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kn1-att/syllabus_ip_ver6_5.pdf / IPA「基本情報技術者試験 シラバス Ver.9.2」2026年1月8日掲載 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kpe-att/syllabus_fe_ver9_2.pdf / RFC 1918 Address Allocation for Private Internets(1996年2月) https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc1918.txt
調査範囲の宣言:「0件」と書いた語(WAN/ワイドエリア/スター型/バス型/リング型/メッシュ型/トポロジ)について全文検索した範囲は、解説 情報編(共通教科・専門教科の全編)、情報Ⅰ教員研修用教材(巻頭+第1〜4章)、情報Ⅱ教員研修用教材(序章+第1〜5章、第3章は前半・後半の両方)、中学校学習指導要領解説 技術・家庭編 です。なお文部科学省「授業・研修用コンテンツ」【情報Ⅰ】の「はじめてのネットワーク構築」スライドPDFは全ページが画像で構成されておりテキスト抽出ができないため、この1点は語数調査の対象外です。
この記事を書いている講師に、直接習うことができます。
