情報Ⅰ 最強120講義

【情報Ⅰ 第33講】音のデジタル化──なぜ標本化周波数は「2倍」なのか

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今日の一問
次の問いに答えなさい。
その際,情報のデジタル化に関して標本化,量子化,符号化,二進法による表現などを理解するようにするとともに,標本化の精度や量子化のレベルによって,ファイルサイズや音質,画質の変化が生じることを科学的に理解するようにする
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(2026年8月3日取得)
——さて、どこから手をつける?
答えと考え方は、この記事の中で順を追って解説します。

こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第33講「音のデジタル化(標本化・量子化・符号化・PCM)」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はS(毎年出る。落とすと致命的)、情報Ⅱでの接続先は(3)情報とデータサイエンスです。

この単元は「データ量=標本化周波数×量子化ビット数×チャンネル数×秒数」という式だけ覚えて済ませてしまう人が非常に多い分野です。しかしその暗記では、なぜ「2倍」なのかなぜCDは40kHzではなく44.1kHzなのかという問いに答えられません。この講では原理から説明し、さらにその理解が情報Ⅱの機械学習にそのままつながることまでお見せします。計算はすべてPythonで検算し、図は本記事のために描き起こしました。

1. この講の問い

なぜ「元の音の最高周波数の2倍より高く測らなければならない」のか。そしてなぜCDは、その2倍ぴったりではなく 44.1kHz という半端な数なのか。

2. 結論

この講の結論

音のデジタル化は時間を区切る(標本化)→ 値を段階に丸める(量子化)→ 段階の番号を2進法で書く(符号化)の3段階。これをそのまま実装した方式がPCMで、データ量は「標本化周波数×量子化ビット数×チャンネル数×秒数」で出る。

「2倍」が出てくるのは1周期の山と谷を分けるには最低2点が要るから。しかも2倍ちょうどでは復元できないので、実際の規格は必ず2倍より上に取る。

測る回数が足りないと、速い波が遅い別の波に化けて記録される(折り返し雑音)。量子化ビット数を増やすと階段の刻みが細かくなり、丸め誤差が小さくなる。

3. なぜそうなるのか

3-1. この講が扱うのは「時間の方向」である

デジタル化の話は2本立てになっています。本講は時間方向(1秒間に何回測るか=標本化周波数、1回を何ビットで書くか=量子化ビット数)、第34講「画像のデジタル化」は空間方向(画素をいくつ並べるか=解像度、1画素を何ビットで書くか=階調)です。

この2つが同じ話であることは、私が勝手に言っているのではありません。文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」の情報Ⅰ (2)ア(ア) に、こう書かれています。

その際,情報のデジタル化に関して標本化,量子化,符号化,二進法による表現などを理解するようにするとともに,標本化の精度や量子化のレベルによって,ファイルサイズや音質,画質の変化が生じることを科学的に理解するようにする

文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(2026年8月3日取得)

「標本化の精度」と「量子化のレベル」という同じ2語で、音質と画質が並べて書かれている。時間方向でも空間方向でも、やっていることは「区切る」と「丸める」の2つしかないのです。

そして注目していただきたいのが末尾の「科学的に理解するようにする」という文言です。手順を覚えろとは書いていません。なぜ音質が変わるのかを説明できるようになれ、と国が書いている。この講はまさにそこを扱います。

3-2. 標本化・量子化・符号化とは何か(定義の原文)

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章には、デジタル化のプロセスがこう定義されています。

アナログ情報をデジタル化するときには,連続的に変化する量を一定の時間間隔で区切る標本化それぞれの値にあらかじめ定めた段階値を割り当てる量子化量子化した数値を2進法で表現する符号化の手順が行われる。

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章 コミュニケーションと情報デザイン(令和2年/2026年8月3日取得)

この一文を分解すると、3つの動詞がきれいに分かれます。

段階 やること 何を捨てるか
標本化 一定の時間間隔で区切って測る 測った瞬間と瞬間のの情報
量子化 測った値を、決めた段階値に丸める 段階と段階のの情報
符号化 段階の番号を2進法で書く 何も捨てない(書き方を変えるだけ)

捨てているのは前の2つだけで、符号化では何も失われません。 ここを分けて理解できているかどうかが、この単元の分かれ目です。「符号化すると音が悪くなる」と思っている受験生が毎年いますが、それは違います。悪くなるのは標本化と量子化の段階であって、符号化は単なる翻訳作業です。

このやり方——測って、丸めて、2進法で書く——をそのまま実装した方式を PCM(Pulse Code Modulation、パルス符号変調) といいます。CDも電話もこれです。

3-3. なぜ「2倍」なのか——1周期に最低2点

ここが本講の核心です。

波というものは、上がって下がって元に戻るのが1周期です。この「上がって下がる」を点だけで表そうとしたら、最低でも何点必要でしょうか。

山に1点、谷に1点。合計2点です。 1点しか打たなければ、その波が上がっているのか下がっているのかすら分かりません。だからいちばん速い波(=最高周波数の成分)の1周期あたり2点は必要で、1秒あたりに直せば「最高周波数の2倍の回数」測らなければならない。これが標本化定理(サンプリング定理)が2倍を要求する理由です。

そしてここからが本題で、2倍ちょうどではダメなのです。

1000Hzの正弦波を、ちょうど2倍の2000Hzで測ってみます。標本を取る時刻は \(t = 0,\ \tfrac{1}{2000},\ \tfrac{2}{2000},\ \dots\) です。このとき測れる値は

\[\sin\left(2\pi \times 1000 \times \frac{n}{2000}\right) = \sin(\pi n) = 0\]

となり、すべて0になります(\(n\) は整数)。山も谷も踏まずに、ゼロ交差点ばかりを踏み続けてしまう。測った結果は「無音」と区別がつきません。

だから標本化定理の正しい言い方は「2倍以上」ではなく「2倍より高く」です。実際、規格はどれも2倍より上に取ってあります。

3-4. なぜ44.1kHzという半端な数なのか

ここで必要になるのが「人間はどこまで高い音が聞こえるのか」という数値です。これは文部科学省の授業・研修用コンテンツのスライドに書かれています。「コミュニケーションと情報デザイン(4)『デジタル化の現場で学ぶ!マルチメディア作品の作り方!』」の最終ページ(p.14)「音声のデジタル化 解説」です。

一般的な可聴音域は20Hz〜20,000Hz

CD音質はサンプリング周波数が44100Hz / 電話は8000Hz→CD音質またはそれ以上

文部科学省「授業・研修用コンテンツ」【情報Ⅰ】コミュニケーションと情報デザイン(4) スライド p.14(2026年8月3日取得)

この20,000Hzを標本化定理に当てはめます。必要な標本化周波数の下限は

\[20000 \times 2 = 40000\ \text{Hz}\]

です。CDの44,100Hzはこれを上回っています。「可聴域の2倍強」というのは、この40,000と44,100の比較のことです。 ぴったり2倍の40,000Hzではなく、そこから4,100Hzだけ上に取ってあります。

なぜ余分に取るのか。3-3で見たとおり2倍ちょうどでは復元できないのが第一の理由です。もう一つは、標本化する前に高すぎる成分を切り落としておかなければならない(理由は3-5で述べます)という事情です。この「切り落とす」フィルタは、ある周波数を境にストンと0になるようなものは作れず、必ずなだらかに落ちます。つまり「残したい上限」と「完全に切り終わる周波数」の間に幅が要る。44.1kHzなら折り返しの境目は

\[\frac{44100}{2} = 22050\ \text{Hz}\]

なので、\(22050 – 20000 = 2050\ \text{Hz}\) ぶんの坂道を確保できます。40,000Hzちょうどではこの坂道が1本も引けません。 44.1という半端な数字は、そういう工学的な余白の産物です。

CDの規格値そのものは、業界団体の公式文書で確認できます。一般社団法人 日本オーディオ協会の「ハイレゾ|定義と運用」には、参考表として「44.1kHz/16bit:CDスペック」と明記され、ハイレゾの基準は「96kHz/24bit:CDスペックより両方高い」と定義されています(2026年8月3日取得)。

「両方高い」——つまり時間方向(44.1→96kHz)と値方向(16→24bit)の両方を上げるのがハイレゾの定義であり、本講の2つの軸がそのまま規格の条文になっているわけです。同ページはさらに、アナログ系の要件として録音マイク・アンプ・スピーカー/ヘッドホンの高域再生性能40kHz以上を求めています。デジタルだけ良くしても、入口と出口が追いつかなければ意味がないという設計思想が読み取れます。

3-5. 折り返し雑音(エイリアシング)はなぜ起きるのか

測る回数が足りないとどうなるか。「粗くなる」のではありません。別の波に化けます。

標本化周波数 \(f_s\) で、\(f_s/2\) を超える周波数 \(f\) の波を測ると、得られる標本値の列は \(f_s – f\) というもっと低い周波数の波を測ったときの標本値と一致してしまう。区別する手段が原理的に存在しません。これが折り返し雑音(エイリアシング)です。

具体的にやってみます。\(f_s = 40000\ \text{Hz}\) で \(f = 30000\ \text{Hz}\) を測ると

\[40000 – 30000 = 10000\ \text{Hz}\]

となり、30kHzの音が10kHzの音として記録されます。10kHzは人にはっきり聞こえる高さです。つまり「聞こえないはずの高すぎる音」が「聞こえる位置の雑音」になって降りてくる。折り返しという呼び名は、\(f_s/2\)(ナイキスト周波数)を鏡にして周波数が折り返されることに由来します。

だから、標本化する前に高い成分を切り落とすフィルタが要ります。 順序が大事で、測ってからでは手遅れです。化けてしまった後の10kHzは、本物の10kHzと数値上まったく同じで、分離できません。「録音の前処理」がなぜ必要かという問いの答えは、この一点に尽きます。

十分に速く測った場合1周期に4点。点を結んだ形(破線)が元の波(実線)と同じ形になる測る回数が足りない場合1周期に約1.33点。点を結ぶと、元より遅い別の波に見える=折り返し雑音

図2:上段は1周期に4点あり、点を結んだ形が元の波と同じになる。下段は点が足りず、結ぶと元より遅い別の波に見える(折り返し雑音)。図はスマートフォンでは横にスクロールできます。

3-6. 量子化ビット数を増やすと何が良くなるのか

標本化が時間の刻みなら、量子化は値の刻みです。量子化ビット数 \(n\) で表せる段階数は \(2^n\) になります。

量子化ビット数 段階数
3 bit 8 下の図の例
8 bit 256 電話(G.711)
16 bit 65,536 CD
24 bit 16,777,216 ハイレゾ

測った値は、この段階のどれかに丸められます。丸めた分のずれが量子化誤差です。信号の振れ幅全体を1として \(n\) ビットで刻むと、刻み幅 \(\Delta\) と最大誤差は

\[\Delta = \frac{1}{2^{n}},\qquad \text{max error} = \frac{1}{2^{\,n+1}}\]

となります。ビットを1つ増やすと段階数は2倍になり、刻み幅と最大誤差は半分になる。 これが「ビット数を増やすと音が良くなる」の中身であって、魔法ではなくただの二分割です。

もう少し体感に近い形にすると、表せる振幅の比は \(2^{n}\) 倍です。音の大きさの比を表すデシベル(振幅比なら \(20\log_{10}\))に直すと

\[20\log_{10}\left(2^{16}\right) = 96.33\ldots,\qquad 20\log_{10}\left(2^{24}\right) = 144.49\ldots\]

となります(単位はdB。数値は本記事で計算し、下の検算コードで再現できます)。16bitと24bitの差は約48dBで、これは扱える音の大小の幅がそれだけ広がることを意味します。

図で見ると一目です。次の図は、連続した波形(青の実線)に一定間隔で標本点(青丸)を打ち、それぞれを3bit=8段階のどれかに丸めた(橙の階段)ものです。青丸と橙丸の縦のずれが量子化誤差です。

000001010011100101110111時間 →段階値(3bit)標本化周期標本化=測った値量子化=段階に丸めた値

図1:標本化と量子化。青の実線が元の波形、青丸が標本点、橙の階段が3bit(8段階)に量子化した結果。青丸と橙丸の縦のずれが量子化誤差。

橙の階段が青の曲線からずれている量が、そのまま「音の劣化」です。 ビット数を増やせば横線の本数が増え、階段が曲線に貼りつきます。標本化周波数を上げれば青丸の間隔が詰まり、階段の踏み面が細かくなります。縦を細かくするのが量子化ビット数、横を細かくするのが標本化周波数——この対応が図で見えれば、この講は8割終わりです。

3-7. 符号化とPCM、そして「電話がこもって聞こえる」理由

段階の番号が決まれば、あとはそれを2進法で書くだけです。3bitなら0〜7を 000111 と書く。上の図の縦軸のラベルがそれです。この段階で情報は失われません。

規格として実在するPCMの例を見ましょう。国際電気通信連合の勧告 ITU-T G.711「Pulse code modulation (PCM) of voice frequencies」(Geneva, 1972; further amended、現在も有効)には、こう書かれています。

The nominal value recommended for the sampling rate is 8000 samples per second. The tolerance on that rate should be ± 50 parts per million (ppm).

Eight binary digits per sample should be used for international circuits.

ITU-T Recommendation G.711(2026年8月3日取得)

つまり標本化周波数8000Hz、量子化ビット数8bit。これが国際電話回線のPCMです。3-4で引いた文部科学省のスライドにも「電話は8000Hz」とあり、国際規格と授業用教材の数値が一致します。1秒あたりのビット数を出してみると

\[8000 \times 8 = 64000\ \text{bit/s} = 64\ \text{kbit/s}\]

この64kbit/sという数字は、通信の教科書に必ず出てきます。その正体は「電話の音を1秒デジタル化するのに要るビット数」にすぎません。(通信速度そのものの計算は第73講「通信速度とデータ量の計算」で扱っています)

そして標本化周波数が8000Hzということは、折り返しの境目は \(8000 \div 2 = 4000\ \text{Hz}\) です。4kHzより上の成分は、そもそも記録されていない。 電話の声がこもって聞こえるのも、電話越しだと「し」と「ひ」が聞き分けにくいのも、原因はこの数値にあります。音質の印象という主観的な話が、規格の数値ひとつで説明できてしまう。ここが私がこの単元を好きな理由です。

ちなみにG.711は、段階を等間隔ではなく小さい音のところを細かく刻みます(A-lawとμ-lawという2つの符号化則があり、μ-lawは北米と日本で使われます)。8bitしかない中で小さい音を潰さないための工夫で、「刻み幅は一定でなくてもよい」という発想の実例になっています。共通テストでは等間隔しか出ませんが、原理としては知っておいてよいところです。

4. 手で確かめる

この節の数値はすべてPythonの分数演算(fractions.Fraction)で独立に検算しています。 割り切れない値を小数で持たないので、「なんとなく合っている」という状態が生まれません。

4-1. データ量の式は、公式ではなく掛け算の意味

\[\text{data[bit]} = \text{fs[Hz]} \times \text{bits} \times \text{ch} \times \text{sec}\]

日本語に直すと「データ量[bit]=標本化周波数[Hz]×量子化ビット数[bit]×チャンネル数×時間[秒]」。この式は暗記するものではなく、単位を書き下せば自動的に出てきます。

  • 標本化周波数 [回/秒]:1秒間に何回測るか
  • 量子化ビット数 [bit/回]:1回の測定を何ビットで書くか
  • 掛けると [bit/秒]:1秒あたり何ビットか
  • チャンネル数を掛ける:ステレオは左右で2本ぶん
  • 秒数 [秒] を掛ける:\(\text{bit/s} \times \text{s}\) で秒が約分され bit が残る

最後に秒が約分できるかを目で見る。 約分が通らなければ立式が間違っています。この確認だけで、この単元の失点はほぼ消えます。そして——この式が返すのはbitであって、B(バイト)ではありません。 ここが最大の落とし穴なので、以下では毎回bitとBの両方で答えを出します。

4-2. 例題1:電話品質(モノラル・G.711と同じ条件)

例題1

標本化周波数8000Hz、量子化ビット数8bit、モノラル(1チャンネル)で10秒間の音声を記録する。データ量は何bitか。また何Bか。

\[8000 \times 8 \times 1 \times 10 = 640\,000\ \text{bit}\]
\[640\,000 \div 8 = 80\,000\ \text{B} = 80\ \text{kB}\]

答:640,000 bit = 80,000 B(80 kB、\(10^3\) 系)。 \(2^{10}\) 系で書くなら \(80\,000 \div 1024 = 78.125\) KiB です。同じ量が「80 kB」とも「78.125 KiB」とも書ける。数字が違うのではなく、ものさしが違う。

4-3. 例題2:CD品質(ステレオ)

例題2

標本化周波数44100Hz、量子化ビット数16bit、ステレオ(2チャンネル)。(1) 1秒あたりのデータ量、(2) 3分間のデータ量を求めよ。

(1) 1秒あたり:

\[44100 \times 16 \times 2 \times 1 = 1\,411\,200\ \text{bit/s}\]
\[1\,411\,200 \div 8 = 176\,400\ \text{B/s}\]

約1.41 Mbit/s(=176.4 kB/s)。「CDは約1.4Mbps」という数字は、この掛け算そのものです。

(2) 3分間(180秒):

\[1\,411\,200 \times 180 = 254\,016\,000\ \text{bit}\]
\[254\,016\,000 \div 8 = 31\,752\,000\ \text{B} = 31.752\ \text{MB}\]

答:254,016,000 bit = 31,752,000 B = 約31.75 MB(\(2^{20}\) 系なら約30.28 MiB)。3分の曲1つで約32MB。だから音楽配信は圧縮なしでは成立しないという話が、精神論ではなく掛け算の帰結として出てきます。

4-4. 例題3:条件を落とすとどれだけ減るか

例題3

例題2と同じ3分間の音を、標本化周波数22050Hz・量子化ビット数8bit・モノラルで記録した。データ量は何Bか。また例題2の何倍か。

\[22050 \times 8 \times 1 \times 180 = 31\,752\,000\ \text{bit}\]
\[31\,752\,000 \div 8 = 3\,969\,000\ \text{B} = 3.969\ \text{MB}\]

答:3,969,000 B = 約3.97 MB。例題2の \(\frac{1}{8}\) 倍。

なぜ1/8か。標本化周波数が半分、量子化ビット数が半分、チャンネルが半分で \(\frac12 \times \frac12 \times \frac12 = \frac18\) だからです。この式は掛け算だけでできているので、どれか1つを \(k\) 倍すればデータ量もちょうど \(k\) 倍になります。 共通テストが「標本化周波数を2倍にしたらデータ量は何倍か」と聞いてくるとき、求めているのはこの比例関係の理解であって、計算力ではありません。

ここで面白いのは、例題3の総ビット数31,752,000 bit と、例題2の総バイト数31,752,000 B が同じ数字になっていることです。もちろん量は8倍違う。単位を書かずに数字だけ見ていると、この2つを取り違えます。 作問者はこういう数字を狙って作れます。

4-5. 例題4:圧縮率

例題4

例題2のCD品質3分間の音を、128 kbit/s の固定ビットレートで圧縮した。圧縮後のデータ量と圧縮率を求めよ。ここで \(1\ \text{kbit/s} = 10^3\ \text{bit/s}\) とする。

\[128 \times 10^{3} \times 180 = 23\,040\,000\ \text{bit}\]
\[23\,040\,000 \div 8 = 2\,880\,000\ \text{B} = 2.88\ \text{MB}\]
\[\frac{23\,040\,000}{254\,016\,000} = \frac{40}{441} = 0.09070\ldots\]

答:2,880,000 B(約2.88 MB)、圧縮率は約9.07%(元の約1/11)。

約1/11まで縮むのに聞いた感じがそれほど変わらないのはなぜか。3-4で引いた文部科学省の授業用スライドが、まさにその答えを書いています。「範囲外の音をカット」「小さすぎる音をカット」——つまり可聴音域20Hz〜20,000Hzの外側と、他の音に埋もれて聞こえない小さい音を捨てているのです。同スライドは「など違和感がないようにデータをカットすることでファイルサイズを減らしているのがMP3」と続けます(2026年8月3日取得)。圧縮率の計算は、可聴域という人間側の条件と直結しています。

分数で \(\frac{40}{441}\) ときれいに出るのは、両方に180秒という共通因子が入っているからです。約分できる形で持っておくと、検算が一瞬で終わります。 なお「圧縮率」という語は、圧縮後÷圧縮前(小さいほど縮んだ)で使う場合と、削減した割合(大きいほど縮んだ)で使う場合があります。問題文がどちらで聞いているかを必ず確認してください。ここでは前者で計算しました。

4-6. 例題5:折り返し雑音の周波数

例題5

標本化周波数40kHzで、30kHzの成分を含む音を、前処理なしで標本化した。この成分は何Hzの音として記録されるか。

ナイキスト周波数は \(40000 \div 2 = 20000\ \text{Hz}\)。30kHzはこれを超えているので折り返します。

\[40000 – 30000 = 10000\ \text{Hz}\]

答:10 kHz。 同じ計算を電話品質でやると、\(f_s = 8000\) のナイキスト周波数は4000Hzなので、5000Hzの成分は \(8000-5000 = 3000\ \text{Hz}\) に化けます。声の中の高い成分が、低い雑音になって混ざる。 これを防ぐために、標本化の前にフィルタで切るのです。

4-7. 検算コード(実行して出力を確認済み)

from fractions import Fraction as F
import math
# 例題1 電話品質モノラル10秒
b1 = 8000 * 8 * 1 * 10
print(b1, b1 // 8, F(b1, 8 * 10**3))
# 例題2 CD品質ステレオ
bps = 44100 * 16 * 2
b2 = bps * 180
print(bps, bps // 8)
print(b2, b2 // 8, F(b2, 8 * 10**6))
# 例題3 条件を落とす
b3 = 22050 * 8 * 1 * 180
print(b3, b3 // 8, F(b3, b2))
# 例題4 圧縮率
b4 = 128 * 10**3 * 180
print(b4, b4 // 8, F(b4, b2))
# 量子化:ビット数と段階数・振幅比のデシベル
for n in (3, 8, 16, 24):
    print(n, 2**n, round(20 * math.log10(2**n), 2))
# 折り返しの確認:40kHzで30kHzを測ると10kHzと同じ標本値になる
fs = 40000.0
a = [round(math.sin(2 * math.pi * 30000 * (k / fs)), 12) for k in range(9)]
c = [round(math.sin(2 * math.pi * 10000 * (k / fs)), 12) for k in range(9)]
print(all(abs(x + y) < 1e-9 for x, y in zip(a, c)))
# ちょうど2倍で測ると全部0になる
print([round(math.sin(2 * math.pi * 1000 * (k / 2000)), 12) for k in range(6)])

実行結果はこうなります。

640000 80000 80
1411200 176400
254016000 31752000 3969/125
31752000 3969000 1/8
23040000 2880000 40/441
3 8 18.06
8 256 48.16
16 65536 96.33
24 16777216 144.49
True
[0.0, 0.0, -0.0, 0.0, -0.0, 0.0]

最後の2行が本講の主張の証拠です。True は「30kHzと10kHzが区別できない」こと、ゼロの並びは「2倍ちょうどでは何も記録できない」ことを示しています。 定理を暗記しなくても、この2行を自分で実行すれば納得できます。

5. 共通テストではこう出る(重要度S)

音のデジタル化は、共通テスト「情報Ⅰ」で毎年何らかの形で問われる領域です。単独の大問になるとは限りませんが、第1問の小問集合や、デジタル化を題材にした大問の一部として計算がぶら下がります。落とすと痛い。

以下は設問の構造の説明であり、実際の問題文ではありません(共通テストの問題文・選択肢・図表は大学入試センターの著作物なので転載しません)。パターンは5つに整理できます。

型1:データ量の計算

標本化周波数・量子化ビット数・チャンネル数・秒数が与えられ、データ量を問う型。
引っかけ:答えの単位がbitなのかBなのか。8倍ずれた値と1/8ずれた値の両方が選択肢に並びます。
対策:4-1のとおり単位を書きながら立式する。式が返すのはbit。Bが要るなら最後に8で割る。

型2:条件を変えたときの増減

「標本化周波数を2倍にしたらデータ量は何倍か」「ステレオをモノラルにしたら」「量子化ビット数を8bitから16bitにしたら」。
引っかけ:「段階数は何倍か」と聞かれた場合。量子化ビット数を2倍にすると段階数は2倍ではありません(8bit→16bitなら256→65536で256倍)。データ量は2倍、段階数は256倍。同じ「2倍にする」でも答えが違う。
対策:データ量は掛け算なので比例、段階数は指数なのでべき乗。どちらを聞かれているかを読む。

型3:圧縮率・圧縮後のデータ量

元のデータ量と圧縮後のビットレートが与えられ、圧縮率や削減量を問う型。
引っかけ:「圧縮率」の定義。圧縮後÷圧縮前か、削減した割合か。
対策:問題文の定義に従う。定義が書いていなければ、選択肢に9%と91%のような補数関係の値が並ぶことが多いので、そこから判断できます。

型4:用語の定義と順序

標本化・量子化・符号化の3語を定義文と対応させる/正しい順に並べる型。
引っかけ:標本化と量子化の入れ替え。
対策:3-2の教員研修用教材の定義文をそのまま覚えるのが最短です。「時間間隔で区切る=標本化」「段階値を割り当てる=量子化」「2進法で表現する=符号化」。

型5:標本化定理・折り返し

「最高周波数◯Hzの音を記録するには標本化周波数は最低いくら必要か」。
引っかけ:「2倍以上」と「2倍より高く」。試験では2倍を境に選択肢が作られるので、問題文の指示に従って答えます。
対策:ナイキスト周波数=標本化周波数の半分、という関係だけ確実に。折り返し後の周波数は \(f_s – f\)。

引っかけの5点セット

1. bitとB(8倍。この単元最大の失点源)/2. データ量は比例、段階数はべき乗/3. kB・MBが \(10^3\) 系か \(2^{10}\) 系か(問題文の宣言を探す)/4. 標本化=時間、量子化=値(入れ替え注意)/5. チャンネル数の見落とし(「ステレオ」の一語で2倍)

この5点セットを確認する手順として持っておけば、計算力に関係なく取れる単元です。私が重要度をSに置いているのは、配点のためだけではなく、確実に取れるのに落とす人が多いからです。数値表現そのものに不安がある方は第40講「2進数・10進数・16進数の変換」も合わせてどうぞ。

6. 情報Ⅱではこうなる

6-1. 情報Ⅰでの到達点は「音を数値の列にした」ところまで

情報Ⅰのこの講で、私たちは音を \(44100 \times 16 \times 2\) 個の整数の列に変換しました。そこで話は終わります。 情報Ⅰの出題は「その列が何ビットか」を問うところまでです。情報Ⅱは、その数値の列を入力として何かを予測するところから始まります。

6-2. 一次資料での裏づけ

学習指導要領解説 情報編、情報Ⅱ (3)「情報とデータサイエンス」のイ(ウ) には、学習活動としてこう書かれています。

更に,画像や音声データを分類できる関数やライブラリを持つ専用のソフトウェアを活用し,機械学習によって訓練データを処理することにより,他の画像や音声に関しての予測を行う実習などを体験することも考えられる

文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月(2026年8月3日取得)

「音声データを分類する」「他の音声に関しての予測を行う」——これが情報Ⅱ側の到達点です。 情報Ⅰで作った数値の列が、そのまま機械学習の入力データになります。

同じ節には、機械学習の評価についても「訓練データとは異なるテストデータによって試し,モデルのあてはめの度合いについての評価・判断を行う方法について理解するようにする」とあり、訓練データの多様性の不足による適合不足と、訓練データでの認識率は高いが実際の認識率が上がらない過剰適合にも触れるとされています。

ここが情報Ⅰとの決定的な差です。 情報Ⅰでは「計算が合っているか」だけが問題でした。情報Ⅱでは「このモデルは新しい音に対しても通用するか」を問う。答えが1つに定まらない世界に入ります。

6-3. 音は「非構造化データ」として扱われる

文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章の学習11「データと関係データベース」には、RDBで使われるデータ型の例が表として載っています。そこには Object(blob)=「図,音声などのデータ」 という行があります(2026年8月3日取得)。

つまり情報Ⅱでは、音はデータベースに入る1つの型として扱われます。数値や文字列と並んで、テーブルの1カラムになる。「音=波形」というイメージから、「音=レコードの属性値」というイメージへの転換がここで起きます。

6-4. 「特徴量」という考え方とディープラーニング

同じ教材の第3章後半、学習17「ニューラルネットワークとその仕組み」には、ニューラルネットワークが長く非現実的とされた時代について、こう書かれています。

その間,人が特徴量を指定して行う機械学習が活用されるようになったが,人によるコンピュータの学習であり,限界が見られていた

文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 情報とデータサイエンス 後半(令和2年6月/2026年8月3日取得)

「人が特徴量を指定する」とは何か。音で言えば、「音の高さ」「音の大きさ」「立ち上がりの速さ」といった、人間が思いつく指標を人間が設計して機械に渡すことです。1秒あたり44,100個の数値をそのまま渡すのではなく、人間が「重要そうな数個」に要約して渡す。そしてディープラーニングが変えたのは、その要約を人間がやらなくてよくなったことでした。

同教材はニューロン1個の計算を「(入力)×(重み付け)+(バイアス)」を活性化関数に入れる、と説明しています。この「入力」の位置に入るのが、本講で作った数値の列です。 情報Ⅰの標本化・量子化は、ニューラルネットワークの入力層に数を並べるための前処理だった、と後から分かります。

6-5. 標本化周波数と量子化ビット数は「設計パラメータ」になる

情報Ⅱのデータサイエンスで音声を扱うとき、標本化周波数と量子化ビット数は与えられる条件ではなく、自分で決める設計パラメータになります。高くすれば情報は増えるが学習の計算量とデータ量が増える。低くすれば軽くなるが、判別に必要な特徴が折り返しで壊れているかもしれない。

3-5で見た折り返し雑音は、ここで「データの品質問題」として再登場します。 前処理を間違えたデータで学習させたモデルは、どれだけ良いアルゴリズムを使っても正しくなりません。情報Ⅰの受験生にとってエイリアシングは計算問題ですが、情報Ⅱの実習者にとってはデータを台無しにする実害です。

6-6. 接続の要約

情報Ⅰ(この講) 情報Ⅱ (3)情報とデータサイエンス
音を標本化・量子化して数値の列にする その数値の列を機械学習の入力にする
データ量が何bit/何Bかを計算する 訓練データとテストデータに分け、適合不足・過剰適合を評価する
標本化周波数・量子化ビット数は問題文が与える 自分で設計する(情報量と計算量のトレードオフ)
折り返し雑音は計算問題 折り返し雑音はデータ品質の問題
音は波形 音は非構造化データ(blob)/特徴量の供給源

この講の掛け算ができない人は、情報Ⅱの音声データ分析に入れません。 逆に言えば、44,100という数字の意味が分かっていれば、そこから先は地続きです。

この講のまとめ

  • デジタル化は「時間で区切る(標本化)」「値を丸める(量子化)」「2進法で書く(符号化)」の3段階。情報が失われるのは前の2つだけ。
  • 「2倍」は1周期に山と谷の2点が要るから。ただし2倍ちょうどでは復元できないので、規格は必ず2倍より上に取る。
  • 標本化周波数の半分(ナイキスト周波数)を超える成分は \(f_s – f\) に折り返して雑音になる。だから録音前にフィルタで切る。
  • 量子化ビット数を1つ増やすと段階数は2倍、刻み幅と最大誤差は半分になる。
  • データ量の式が返すのはbit。Bが要るなら8で割る。この取り違えが最大の失点源。
  • 情報Ⅱでは、この数値の列が機械学習の入力になり、標本化周波数と量子化ビット数は自分で決める設計値になる。

出典(すべて2026年8月3日に取得)

  • 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
  • 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」【情報Ⅰ】コミュニケーションと情報デザイン(4)「デジタル化の現場で学ぶ!マルチメディア作品の作り方!」スライド(全14ページ/p.14「音声のデジタル化 解説」)
  • 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第2章 コミュニケーションと情報デザイン(令和2年)
  • 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章 情報とデータサイエンス 前半・後半(令和2年)
  • ITU-T Recommendation G.711 “Pulse code modulation (PCM) of voice frequencies”(Geneva, 1972; further amended)
  • 一般社団法人 日本オーディオ協会「ハイレゾ|定義と運用」

なお本記事の初版では、人の可聴域の上限「20,000Hz」を数値の根拠として使っていませんでした。学習指導要領解説と教員研修用教材を当たっても記載が見つからなかったからです。その後、同じ文部科学省の授業・研修用コンテンツのスライドに「一般的な可聴音域は20Hz〜20,000Hz」と明記されているのを確認し、3-4を書き直しました。「一次資料が無い」は、たいてい「自分が当てた範囲に無い」だけです。 私自身の失敗としてここに残しておきます。

本記事は『藤原進之介の最強120講義』の一部です。全体の目次は情報Ⅰ 最強120講義(総目次)から、情報Ⅰがなぜ必修になったのかという背景は情報Ⅰはなぜ必修になったのかからどうぞ。制度の話は2026年8月時点の情報です。

執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)

オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第33講のWeb版です。

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