こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第58講「Pythonとプログラム表記の対応」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はA、情報Ⅱでの接続先は(4)情報システムとプログラミングです。
本講は第48講「変数と代入」から始まったプログラム表記シリーズの総まとめにあたります。各文法の細部は各講に譲り、ここでは「対応表」と「差分」だけに集中します。学校でPythonを習った人にも、習っていない人にも、同じ橋を架けるのが目的です。
1. この講の問い
共通テスト『情報Ⅰ』のために、私たちは Python を覚えなければならないのでしょうか。
2. 結論
- 覚える必要はありません。共通テストが測るのは「表記を読む力」であって、特定の言語の知識ではない。これは大学入試センターがQ&Aで明文にしています。Python未習の受験生が不利になることは、制度上ありません。
- むしろ危ないのはPython既習者のほうです。共通テスト用プログラム表記はPythonによく似ていますが、同じではない。似ているから読み飛ばし、7か所で事故ります。
- それでもPythonを学ぶ価値はあります。ただしそれは共通テストのためではなく、情報Ⅱと大学以降のためです。目的をはっきり分けてください。
3. なぜそうなるのか
3-1. 国は、情報Ⅰで使う言語を指定していない
まず出発点を押さえます。高等学校学習指導要領(平成30年告示)は、情報科で使うプログラミング言語を一つに定めていません。第3章「各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」の(4)に、こうあります。
言語の選択は、国ではなく学校に委ねられているのです。しかも解説は、情報Ⅰ(3)イ(イ)の解説文の中で、暗記を目的化しないことを2度も念押ししています。
その際,プログラミング言語ごとの固有の知識の習得が目的とならないように配慮する。文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
教える側の教材も、同じ姿勢です。文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第3章には、教員向けの注意点として次の一文があります。
つまり「どの言語で教えるか」は、各学校の先生が決める設計になっている。しかも文部科学省は、その「選択」を実際に支えています。「情報Ⅰ」教員研修用教材のページには、本編(Pythonで書かれています)とは別に「第3章 他プログラミング言語版」という区分があり、JavaScript版(7.9MB)・VBA版(6.3MB)・ドリトル版(5.8MB)・swift版(9.8MB)の4本のPDFが並んでいます(2026年8月3日確認)。同じ第3章を、国が5通りの言語で書き直して配っているのです。「学校によって習う言語が違う」は、私の推測ではなく国の教材の構成そのものです。
これは抽象論ではありません。文部科学省「高等学校用教科書目録(令和8年度使用)」を開くと、「情報Ⅰ」の検定教科書は17点あり、その中に書名にプログラミング言語名が入った教科書があります。実教出版『高校情報Ⅰ JavaScript』(教科書番号 情Ⅰ704・令和3年検定済・206ページ)です。同じ「情報Ⅰ」という科目で、教科書が言語を選んでいる。この一冊の存在が、「学校によって習う言語が違う」ことの何よりの証拠です。
3-2. だから共通テストは、どの言語でもない表記を作った
言語がバラバラなら、試験を特定の言語で出した瞬間に不公平が生まれます。大学入試センターはこれを正面から書いています。「令和9年度 大学入学共通テストQ&A」(令和8年6月19日更新)のQ5が、まさにこの質問です。
A5 高等学校の授業では、多様なプログラミング言語が利用されている可能性があることから、プログラミングに関する問題のプログラム表記は、受験者が初見でも理解できる大学入試センター独自のプログラム表記を用いることとしています。独立行政法人大学入試センター「令和9年度 大学入学共通テストQ&A」令和8年6月19日更新(2026年8月3日取得)
「初見でも理解できる」。ここが本講の急所です。初見で理解できることを目標に設計された表記に対して、事前の暗記で対抗しようとするのは、そもそも設計思想を取り違えています。やるべきことは覚えることではなく、読むことです。
さらにセンターは、「共通テスト用プログラム表記の例示」の中で、同一のアルゴリズム(二分探索)を、流れ図・共通テスト用プログラム表記・Python3・JavaScript・VBA・Scratch の6通りで並べた対比表を自分で載せています。特定の言語に肩入れしていないことを、資料の形で示しているわけです。本講でやるのは、その対比表のPython3の列を、受験生の目で読み直す作業です。
3-3. Pythonは「表記の親戚」であって、同じではない
ここからが本講の核心です。共通テスト用プログラム表記は、旧課程のDNCL(旧「情報関係基礎」用)と比べると、はっきりPython寄りになりました。代入が ← から = へ、四則が全角から半角へ、比較が ==、論理が and / or / not。第48講で見たとおりです。
しかし寄せただけで、同じにはしていません。そして厄介なことに、似ているものほど、人は差を見落とします。Pythonを学校で習った受験生が第3問で崩れるのは、知らないからではなく、知っている顔をした別物を、知っているものとして読んでしまうからです。
一方で、Pythonを習っていない受験生は「自分は不利だ」と思い込みがちですが、それも違います。例示に載っている文法は、変数・文字列・代入・算術演算・比較演算・論理演算・関数・条件分岐・繰返し・コメントの10項目だけ。分量にして見開き1ページ分です。Pythonを1行も知らなくても、この1ページで完結します。
4. 手で確かめる
以下、表記側はすべて大学入試センター「共通テスト用プログラム表記の例示」の書式どおり、Python側はすべて手元の Python 3.9.6 で実行して出力を確認したものです(2026年8月3日実行)。
4-1. 6分類の対応表
① 変数と代入
| 項目 | 共通テスト用プログラム表記 | Python 3 |
|---|---|---|
| 代入 | kosu = 3 |
kosu = 3 |
| 計算して代入 | kingaku_goukei = kingaku * kosu |
同じ |
| 1行に複数文 | kosu = 3 , kingaku = 300(カンマ) |
kosu = 3; kingaku = 300(セミコロン) |
| 変数名の規則 | 英字で始まる英数字と _ |
ほぼ同じ(_ 始まりも可) |
| 配列名 | 先頭文字が大文字(Data) |
慣習は小文字(data) |
kingaku = 300、kosu = 3 として kingaku_goukei = kingaku * kosu を実行すると 900。ここは表記もPythonも一字一句同じに書けます。
② 演算
| 項目 | 表記 | Python 3 | 一致 |
|---|---|---|---|
| 四則 | + - * / |
+ - * / |
○ |
| 商(整数) | ÷(全角) |
// |
× |
| 余り | %(全角) |
%(半角) |
× |
| べき乗 | ** |
** |
○ |
| 比較 | == != > < >= <= |
同じ | ○ |
| 論理 | and or not |
同じ | ○ |
Pythonで確認しました。7 / 2 は 3.5、7 // 2 は 3、7 % 2 は 1、2 ** 10 は 1024。そして7 ÷ 2 と 7 % 2 をPythonにそのまま書くと SyntaxError です(全角記号はPythonの演算子ではありません)。演算子の細部は第49講で扱いました。
③ 分岐
表記側(| と ⎿ で制御範囲を表し、⎿ が制御文の終わりを示します)。
もし x >= 3 ならば:
| x = x - 1
そうでなくもし x < 0 ならば:
| x = x * 2
そうでなければ:
⎿ y = y * 2
Python側。
if x >= 3:
x = x - 1
elif x < 0:
x = x * 2
else:
y = y * 2
対応は もし〜ならば:=if、そうでなくもし〜ならば:=elif、そうでなければ:=else。コロン : は両方に付きます。分岐そのものは第50講で扱いました。
④ 反復
| 項目 | 表記 | Python 3 |
|---|---|---|
| 回数指定 | x を 0 から 9 まで 1 ずつ増やしながら繰り返す: |
for x in range(0, 10, 1): |
| 逆順 | 「減らしながら」もある | range(9, -1, -1) |
| 条件付き | n < 10 の間繰り返す: |
while n < 10: |
| 範囲の表し方 | 終わりの値を書く(含む) | 止まる値を書く(含まない) |
Pythonで確認:list(range(0, 10, 1)) は [0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9]。list(range(9, -1, -1)) は [9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, 0]。goukei = 0、n = 0 から while n < 10: の中で goukei = goukei + n、n = n + 1 を回すと、goukei は 45、n は 10 になります。
⑤ 配列
| 項目 | 表記 | Python 3 |
|---|---|---|
| 作る | Data = [10,20,30,40,50,60] |
同じ |
| 添字 | 特に説明がなければ 0から | 0から |
| 要素数 | 要素数(Data) |
len(data) |
| 2次元 | Data[2,4](カンマ1組) |
data[2][4](角括弧2組) |
| 一括初期化 | Tokuten のすべての値を0にする |
tokuten = [0] * 5 |
Pythonで確認:Data = [10,20,30,40,50,60] として len(Data) は 6、Data[0] は 10、Data[len(Data)-1] は 60。そしてData[2,4] をPythonのリストに書くと TypeError: list indices must be integers or slices, not tuple になります。
⑥ 関数
| 項目 | 表記 | Python 3 |
|---|---|---|
| 値を返す関数 | kazu = 要素数(Data) |
kazu = len(data) |
| 値を返さない関数 | 表示する(Data) |
print(data) |
| 連結 | 「カンマ区切りで文字列や数値を連結できる」 | print(a, b)(カンマの位置に半角空白が入る) |
| 入力 | nyuryoku =【外部からの入力】 |
nyuryoku = input() |
| コメント | # 以降は処理の対象とならない |
同じ |
Pythonで確認:print(52, 'は', 5, '番目にありました') の出力は 52 は 5 番目にありました で、カンマの位置に半角空白が1つずつ入ります。空白を入れたくなければ print(str(52) + 'は' + str(5) + '番目にありました') と書いて 52は5番目にありました。
なお例示の「7関数」には、受験生にとって決定的な注記が付いています。
関数は覚えるものではなく、問題冊子で説明されるものだと、センター自身が書いているわけです。
4-2.「似ているのに違う」7つの事故ポイント
(1) 表示と入力が、行の数を変える
センター自身が並べた二分探索の対比表を数えると、Python3側は19行、共通テスト用プログラム表記側は20行です。1行ずれる原因は3〜4行目にあります。Pythonは atai = int(input('...')) と表示と入力を1行に畳めるのに対し、表記側は 表示する("...") と atai =【外部からの入力】 の2行に分かれるからです。「表記はPythonを日本語にしただけ」と思って行番号を対応させると、ここで必ずずれます。
(2) 文字列は " だけ
例示は「文字列はダブルクォーテーション(")で囲む」の1通りだけを定めています。旧DNCLは 「 」 と " " の2通りが使えましたが、そこは絞られました。Pythonは ' も " も使えるので、既習者ほど ' を書きがちです。理由も分かります。例示の文字列の例は moji = "I'll be back."。これをPythonで 'I'll be back.' と書くと SyntaxError になる。だから表記は " に一本化したのだと考えると、覚えやすくなります。
(3) 1行に複数文を並べる記号が違う
表記は hidari = 0 , migi = kazu-1、Pythonは hidari = 0; migi = kazu-1。表記のカンマ形式をPythonにそのまま書くと SyntaxError です。逆に言えば、表記のカンマは「複数の代入文を並べただけ」で、Pythonのタプル代入(a, b = b, a)とは別物です。
(4) 整数除算と余りの記号が違う
表記は ÷ と %(どちらも全角)、Pythonは // と %(半角)。見た目が近いだけに、答案で / と書いてしまう事故が起きます。÷ は「商の整数値」であって「割り算」ではありません。
(5) 繰り返しの範囲の書き方が正反対
表記の i を 0 から kazu-1 まで 1 ずつ増やしながら繰り返す は、終わりの値 kazu-1 を含みます。Pythonの range(0, kazu, 1) は、kazu に達したら止まる=kazu を含みません。だからセンターの対比表でも range(0, kazu, 1) と 0 から kazu-1 まで が対応するのです。
この2つは「同じ範囲を、別の端で書いている」だけ。kazu = 10 で確かめると、どちらも0〜9の10個です。ここを取り違えると、ループが1回多い/少ない答えを選んでしまいます。
(6) 制御範囲の終わりが「見える」か「見えない」か
表記は | と ⎿ で制御範囲を表し、⎿ が制御文の終わりを示します。Pythonにこの終端記号はなく、字下げが戻った場所が終わりです。つまり表記のほうが終わりを明示していて、実は読みやすい。Python既習者は「インデントで読む」癖のまま | の本数を数えず、入れ子の深さを1つ読み違えます。
指導する側として、ひとつ言っておきたいことがあります。「インデント」「字下げ」という語は、学習指導要領解説 情報編(共通教科の第1部・専門教科の第2部の両方)にも、情報Ⅰ教員研修用教材 第1〜4章にも、共通テスト用プログラム表記の例示PDF全文にも、1件もありません(当方が pdftotext でテキスト化し、空白・改行を除去してから機械計数。2026年8月3日実施)。情報Ⅱ教員研修用教材でようやく「インデント」が3件出ますが、うち2件はJSONの整形の話で、Pythonの字下げに触れているのは第4章のコーディングスタイルの1件(タブか空白か、をチームで統一せよ)だけです。Pythonのブロック構造という、既習者がいちばん事故る場所に、国の資料は言葉を与えていない。独学で埋めるべき穴の一つです。
(7) 配列名の大文字と、2次元の添字
例示は「配列名は先頭文字が大文字」と決めています(Data、Tokuten)。ところがセンターの対比表のPython側は data と小文字です。同じ資料の中で大文字と小文字が使い分けられている。さらに2次元配列の添字は、表記が Data[2,4]、Pythonが data[2][4]。表記の書き方をPythonにそのまま持ち込むと TypeError になります。
4-3. 片方でしか書けないもの
Pythonでは書けるが、表記の例示には無いもの。1行スワップです。Pythonなら a, b = b, a の1行で a=5, b=8 が a=8, b=5 になります(実行確認済み)。表記の例示にある , は「複数文を1行で表記できる」という意味だけで、右辺をまとめて受け取る規定はありません。表記で入れ替えるなら、第48講でやったとおり一時変数を使うしかない。
表記では書けるが、Pythonにそのままは持ち込めないもの。Tokuten のすべての値を0にする です。表記は日本語の文をそのまま1つの命令として書けます。Pythonでこれに当たるのは tokuten = [0] * 5 で、書き方が完全に別物です。同様に nyuryoku =【外部からの入力】 の 【 】 も、表記だけの記法です。
4-4. 例示に「記載が無い」もの(推測で埋めない)
正直に書きます。次の項目は、共通テスト用プログラム表記の例示に規定がありません。私が例示PDF(p.18〜23)の全文を検索して確認した結果です。
- 真偽値(
True/False):例示にTrueFalse「真」「偽」はいずれも0件。センター自身のサンプルプログラムも、終了判定にowari = 0/owari = 1という整数のフラグを使っています。 - 利用者が関数を定義する書式:例示にPythonの
defに当たる記法はありません。関数は「呼ぶ」側だけが示されます。 - 文字列の長さ・部分取り出し(スライス):規定なし。
- 演算子の優先順位:規定なし(第49講で確認済み)。
- 「表示する」がカンマの位置に空白を入れるかどうか:明記なし。ただしセンターのサンプルは
表示する("添字"," ","要素")のように空白そのものを文字列として渡しているので、自分で渡す書き方に倣うのが安全です。
規定が無いものは、本番では問題文が定めます。推測で覚えず、その場で読む。これが唯一の正解です。
5. 共通テストではこう出る
重要度:A。単独で「Pythonとの違いを答えよ」と問われることはありません。効いてくるのは、第3問でプログラムを読むとき、Pythonの知識が正しく働くか、誤作動するかの分かれ目としてです。
大学入試センターの「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』」は、第3問の正答率をこう分解しています。
設定の読み取りは8割できるのに、プログラムの動きになると2割。ここに全部が出ています。落としているのは知識ではなく、「この行を実行したら値がどうなるか」を1歩ずつ追う力です。そしてPython既習者は、この「1歩ずつ」を省略してしまう。読めている気になれるからです。追い方そのものは第54講「トレース」で扱いました。
rangeの癖でループ回数を1つ間違える(4-2の(5))。|の本数を数えず、入れ子の深さを読み違える(4-2の(6))。÷を「割り算」だと思って小数を出してしまう(4-2の(4))。=と==を、書き慣れた側に引きずられて取り違える。しかも流れ図では比較に=を使うので、同じ資料の中で意味が反転します(第47講で確認済み)。- 配列の添字が0からだと決めつける。例示は「特に説明がない場合は0から」であって、問題文の指示が優先されます。
関数についても補助線を引いておきます。私が公開されている問題PDFをテキスト化して数えたところ、「関数」という語は令和7年度の本試験・追試験の『情報Ⅰ』には0件、令和8年度は本試験に4件・追試験に2件現れます(2026年8月3日実施)。センターも「令和8年度試験の新たな試みとして、プログラム表記で関数を取り扱った」と自己評価に書いています。ただし出題されたのは「関数を定義させる」形ではありません。問題冊子の中に【関数の説明】という囲みが置かれ、その関数が何を引数に取り何を返すかが日本語1〜2行と具体例で示される、という形です。つまりPythonの def の書式を暗記する必要はなく、囲みを読む力があれば足ります。
6. 情報Ⅱではこうなる
ここで目的が切り替わります。情報Ⅱでは、Pythonが「読む対象」から「作る道具」に変わります。
数字で見ると、境目がはっきり出ます。「Python」という語の出現回数を、国の一次資料で数えました。
| 資料 | Pythonの出現回数 |
|---|---|
| 学習指導要領解説 情報編 第1部(共通教科・情報Ⅰ/情報Ⅱ) | 0 |
| 同 第2部(専門学科の専門教科「情報科」) | 0 |
| 情報Ⅰ 教員研修用教材(第1〜4章) | 15(第3章12・第4章3) |
| 情報Ⅱ 教員研修用教材(序章+第1〜5章の全7分冊) | 53(序章2・第3章前半15・第3章後半7・第4章27・第5章2) |
当方が pdftotext -layout でテキスト化し、空白・改行を除去してから機械計数。2026年8月3日実施。当てた範囲=解説 情報編 全文を第1部・第2部に分けて計数/情報Ⅰ教材 第1〜4章の全4分冊/情報Ⅱ教材 序章・第1章・第2章・第3章前半・第3章後半・第4章・第5章の全7分冊。
まず学習指導要領解説は、共通教科側でも専門教科側でも「Python」を1度も書いていません。これが3-1で見た「言語を指定しない」の裏づけです。
そのうえで、教員研修用教材の姿勢が情報Ⅰと情報Ⅱで正反対になります。情報Ⅰ教材が「使用するプログラミング言語の選択をしなければならない」と先生に選ばせるのに対し、情報Ⅱ教材の第4章は冒頭で言い切ります。
続けて、Pythonのバージョンは v3.7 以上、実行環境は Anaconda の統合開発環境を想定する、とまで書かれています。しかも各学習項目の冒頭には「この学習項目で使用するプログラミング言語はPythonです。」という一文が置かれ、同じ文が全7分冊で7回(第3章前半2回・第3章後半2回・第4章3回)繰り返されます。情報Ⅰでは開かれていた選択肢が、情報Ⅱでは閉じる。バージョンと開発環境まで指定される。これは「Pythonが偉い」という話ではなく、作るものが大きくなると、環境を揃えないとチームで作れないという、開発の現実そのものです。
ではそのPythonで何をするのか。3つあります。
① データを扱う道具になる(第3章)
pandas という語は、学習指導要領解説 情報編に0件、情報Ⅰ教員研修用教材に0件、情報Ⅱ教員研修用教材に18件(第3章前半16・第3章後半2)現れます。たとえば学習12 演習4 の整列は、df.sort_values('増減率', ascending=False) のたった1行です。情報Ⅰで自分で書いた並べ替えのアルゴリズム(第56講)は、情報Ⅱでは前処理の1行に畳まれます。アルゴリズムを書く人から、アルゴリズムを選んで使う人へ。探索も同じ道をたどります(第55講)。
② 言語を「選ぶ」ことを学ぶ(第4章)
情報Ⅱ教材 第4章 学習23 には、代表的なプログラミング言語の用途表があります。Java(情報システム開発、Androidのアプリケーション開発など)/JavaScript(Web画面で動作するプログラムなど)/PHP(Webサーバで動作するプログラムなど)/Python(機械学習のプログラムなど)/R(統計処理のプログラムなど)/Ruby/Swift。さらにコンパイル方式とインタプリタ方式の違いが説明されます。情報Ⅰでは「言語は先生が選ぶもの」だったのが、情報Ⅱでは「自分が目的に応じて選ぶもの」になる。
③ 作法とテストが付いてくる(第4章)
同じ第4章は、変数名や関数名の規則をチームで統一する「コーディングスタイル」を扱い、規約として PEP8(Python Enhancement Proposal 8)を名指しします。さらにテスト用の枠組みとしてPythonの標準ライブラリ unittest を紹介します。情報Ⅰでは「動けば正解」だったコードに、情報Ⅱでは「他人が読めるか」「壊れていないと言えるか」という基準が加わる。これがPythonを学ぶ本当の理由です。
なお、情報Ⅱは共通テストの出題範囲外です(大学入試センター プレス発表資料「令和9年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テストの出題教科・科目の出題方法等及び問題作成方針について」令和7年6月6日)。ですからこの節は入試の得点には直結しません。しかし、「なぜ共通テストは言語を指定しないのか」の答えは、情報Ⅱ側を見て初めて完成します。情報Ⅰの段階で言語を固定しないのは、生徒の進む先が多様だからです。そして進んだ先では、ちゃんと言語を固定して、環境を揃えて、規約に従って書く。共通テストのためにPythonを覚えるのではなく、情報Ⅱと大学のためにPythonを学ぶ。順番を間違えないでください。
まとめ
- 国は情報Ⅰで使う言語を指定していない。だから共通テストは「受験者が初見でも理解できる」独自の表記を使う(大学入試センターQ&A・令和8年6月19日更新)。
- やるべきは「Pythonを覚える」ことではなく「表記を読む」こと。例示は10項目・見開き1ページで完結する。
- Python既習者は7か所で事故る。特に
rangeの範囲・|の数え落とし・÷・全角記号。 - Pythonの価値は共通テストではなく情報Ⅱと大学以降にある。情報Ⅱ教材は第4章で言語をPythonに固定し、pandas・PEP8・unittest まで踏み込む。
プログラム表記シリーズの他の講、および120講の全体像は『藤原進之介の最強120講義』ハブページとカテゴリ一覧からたどれます。
この記事で使った一次資料
- 大学入試センター「令和9年度 大学入学共通テストQ&A」(令和8年6月19日更新)
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/faq.html - 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」第5節「共通テスト用プログラム表記の例示」(2022年11月9日一部修正)
https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003141.pdf - 大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』」
https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=2151&f=abm00017684.pdf - 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」(平成30年7月)
https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf - 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章
https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_005.pdf - 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第3章 他プログラミング言語版(JavaScript版・VBA版・ドリトル版・swift版)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1421808.htm - 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章
https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_005.pdf - 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第3章前半
https://www.mext.go.jp/content/20200702-mxt_jogai01-000007843_004.pdf - 文部科学省「高等学校用教科書目録(令和8年度使用)」
- 実教出版「情報Ⅰ・Ⅱ」教科書一覧
https://www.jikkyo.co.jp/highschool/jouhou/jou-text/
いずれも2026年8月3日取得。本文中の Python の出力・エラーはすべて手元の Python 3.9.6 で実行して確認しました。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第58講のWeb版です。
「学校でPythonを習っていないから不利では」と不安な方へ
共通テスト『情報Ⅰ』は、特定の言語を知らなくても満点が取れるように作られています。必要なのは、見開き1ページの表記を読み切る力だけです。数強塾では数学と情報Ⅰの両方に対応したオンライン個別指導を行っています。学習相談は無料、体験授業は3,000円(税込)でお受けしています。
