情報Ⅰ 最強120講義

ルーティングとゲートウェイ|ルータは全世界の宛先を知らない【情報Ⅰ第72講】

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この講の問い ── 世界中のどのルータも「全世界の宛先」を知らないのに、なぜパケットは地球の裏側まで届くのか。

  • ルータが知っているのは「最終目的地までの道のり」ではなく、次にどこへ渡せばよいかだけ。これを繰り返すから届く(ホップバイホップ)
  • 知らない宛先は「とりあえずこっちへ」と決めておく(デフォルトルート)。これがあるから経路表が小さくて済む
  • 経路は固定されていない。壊れたら別の道に切り替わる。代償としてループが起こりうるので、TTL(ホップ数の上限)で止める

こんにちは、数強塾の藤原進之介です。第70講でIPアドレスが「まち+番地」の二段構えになっていること、そしてその目的が経路表を小さくすることだと書きました。第71講では、その住所を名前から引き当てるDNSを扱いました。

今回は、住所が分かったあとの話です。宛先のIPアドレスが決まっただけでは、まだ何も届いていません。そこから先、実際にどうやってその住所まで運ぶのか。ここが第4部ネットワーク編で最後に残っていた穴です。

そして正直に先に書いておくと、この「経路の決め方」は、国が配っている情報Ⅰの教材の本文に一行も書かれていません。その確認は第6章でお見せします。まずは原理からいきましょう。

1. ルータは全世界の宛先を知らない

思考実験をひとつ。あなたが東京の郵便局員だとして、鹿児島県のある住所に宛てた手紙を受け取ったとします。あなたは鹿児島までの道順を知っている必要があるでしょうか。

ありません。「西へ向かう便に載せる」ことだけ知っていれば十分です。あとは次の局が同じことをする。それを繰り返せば、誰も全行程を知らないまま手紙は鹿児島に着きます。

インターネットのルータも、まったく同じことをしています。JPNICの解説はこの動作を「隣接するルータ単位でパケットを転送していく」と書き、これをホップバイホップと呼んでいます(JPNICニュースレター No.38「インターネット10分講座:経路制御」2008年3月)。

あなたの パソコン ルータ A ルータ B ルータ C 目的のサーバ 知っているのは 「次はB」だけ 知っているのは 「次はC」だけ 知っているのは 「次はサーバ」だけ 全行程を知っている機械は、この図の中に1台もいない それでもパケットは届く ── これがホップバイホップ

図1 どのルータも全体を知らない。それでも全体としては正しく届く。

ここが本講のいちばんの芯です。「全体を知っている中央が無いのに、全体としては動く」──分散システムというものの本質が、情報Ⅰの範囲で初めて顔を出すのがこの単元です。

2. 経路表には何が書いてあるか

ルータが持っている表を経路表(ルーティングテーブル)といいます。JPNICの同じ記事は、経路表の要素として「宛先ネットワーク」「ネクストホップ」「出力インタフェース」「情報源」「メトリック」を挙げています。

高校段階で押さえるのは、最初の2つだけで十分です。

意味
宛先ネットワーク 「どういう宛先の集合か」(1台ではなく、まとまった範囲)
ネクストホップ 「その宛先なら、次にどの機械へ渡すか」

1行が1台ではなく「宛先の集合」であることが要点です。/24 なら1行で254台分をまかなえる。第70講の「まち+番地」が効いてくるのがここで、番地まで書いた表を持つ必要がないから、表が小さくて済みます。

3. 複数の行が一致したらどうするか ── ロンゲストマッチ

ところが、素直に表を引こうとすると困ったことが起きます。宛先 192.168.1.142 のパケットが来たとき、経路表の中で「192.168.1.0/24(この LAN)」の行と「それ以外全部」の行の両方が一致してしまうのです。どちらに従うのか。

答えはより長く一致した行が勝つ。これをロンゲストマッチといいます。ルータの動作を定めた RFC 1812 は、経路の選び方をまず「Basic Match」で候補を絞り、そのうえで「Longest Match」でプレフィックス長が最大のものだけを残す、と定義しています。

これは規則として丸暗記するものではありません。具体的に指定されているほうが、より確かな情報だから優先するという、ごく自然な話です。「日本宛」と「東京都宛」の指示が両方あるなら、東京都宛のほうが確かに決まっている。それだけのことです。

4. デフォルトルート ── なぜこれがあると表が小さくなるのか

「それ以外全部」を引き受ける行をデフォルトルートといいます。RFC 1812 の用語集はこれを「経路表に明示的に載っていないネットワークプレフィックス宛のデータを送るために使われる経路表のエントリ」と定義し、本文では「明示的な経路が無いすべてのネットワークへの経路であり、定義上、プレフィックス長が0の経路である」と書いています。

このプレフィックス長0というのがうまい設計です。長さ0ということは、どんな宛先にも一致する。しかし他のどの行よりも短い。つまり「他に一致する行が1つも無いときだけ勝つ」という性質が、ロンゲストマッチの規則1本から自動的に出てきます。「これは例外だから最後に見よ」といった特別扱いを書き足す必要がありません。

経路表(この3行しか知らない) 192.168.1.1 /32 ── 一致32ビット 192.168.1.0 /24 ── 一致24ビット 既定 0.0.0.0 /0 ── 一致0ビット 宛先ごとに、どの行が勝つか 192.168.1.1 へ → 3行とも一致 → 勝つのは /32(いちばん長い) 192.168.1.142 へ → /24 と /0 が一致 → 勝つのは /24 まったく知らない宛先へ → /0 だけが一致 → 既定へ丸投げ 長さ0は「他に何も無いときだけ勝つ」。だから例外規定を書かずに済む。

図2 ロンゲストマッチとデフォルトルート。長さ0の行が「最後の受け皿」として自動的に働く。

家庭のルータは、世界のどこにどんなネットワークがあるかを1行も知りません。知っているのは「自分のLAN」と「それ以外はISPへ」の2行だけでよい。第70講で言った「経路表を小さくする」は、住所を階層化することデフォルトルートを置くこと、この2つが揃って完成します。

5. なぜ経路は動的に変わるのか

経路表の作り方は2通りあります。JPNICの同じ記事は、人があらかじめ書いておく方法を静的経路制御、経路制御アルゴリズムに従ってルータ自身に管理させ「経路の情報に変更があったとき…自動的に経路表を更新」させる方法を動的経路制御と呼び分けています。

なぜ手間のかかる動的が要るのか。答えは単純で、途中の回線や機械は壊れるからです。経路が固定されていたら、途中の1台が落ちた瞬間に、その先へは永久に届かなくなります。動的経路制御があれば、隣のルータが「そっちはもう通れない」と知り、別の隣へ渡すようになる。

A B D C 故障 Bが落ちると、AはDへ渡すように経路表を書き換える Aは「Cまでの全行程」ではなく「次の1台」を選び直すだけ

図3 経路が固定されていないから迂回できる。Aがやり直すのは「次の1台」の選択だけ。

インターネットが壊れにくいのは、経路が固定されていないからです。予備の機械をたくさん置いたからではなく、「行き方を決め打ちしない」という設計そのものの帰結です。

全体を知らなくても全体が動く

もう1段だけ広げます。JPNICは「ある組織が管理するネットワークを自律システム(Autonomous System:AS)」と呼び、経路情報の交換をAS内で行うIGPAS間で行うEGPに大別しています。

つまりインターネットには「全体を管理している中央」がありません。それぞれの組織が自分の中は自分で決め、境界で互いに「うちの向こうにはこういう宛先がある」と教え合っているだけ。それでも世界中がつながります。

第71講のDNSも、根から下へ権限を委譲することで「全部を知っている1台」を作らずに済ませていました。同じ設計思想が、名前の側(DNS)とアドレスの側(ルーティング)の両方に現れている。ここに気づけると、この分野の見通しが一気によくなります。

6. TTL ── ループを止める仕組み

動的にすると、うれしくない副作用が出ます。各ルータが独立に判断しているので、Aが「Bへ渡せ」、Bが「Aへ渡せ」と思い込む瞬間がありうる。するとパケットが2台のあいだを永遠に往復します。放っておけば回線がゴミで埋まる。

そこでIPヘッダには TTL(Time To Live) という数が入っています。RFC 791(1981年9月)は「データグラムの寿命の上限を示すもので、送信者が設定し、経路上の処理される地点で減らされる。宛先に着く前に0になったら、そのデータグラムは破棄される」とし、「自己破壊のタイムリミットと考えてよい」と書いています。

単位は秒と決められているのですが、ルータの要件を定めた RFC 1812 の 5.3.1 は「パケットを扱うルータ(その他のモジュール)は、経過時間が1秒よりずっと短くてもTTLを最低1は減らさなければならない」とし、そのうえで「したがってTTLは事実上、データグラムがインターネット上をどこまで伝わっていけるかのホップ数の上限である」と明言しています。つまり実態は秒数ではなくホップ数です。

⚠️ 第71講のTTLとは別物です。DNSのTTLは「この答えを何秒キャッシュしてよいか」という時間(JPRS用語辞典)。IPヘッダのTTLは「あと何台のルータを通ってよいか」という回数。同じ略語で、層が違えば意味が違います。共通テストで混ぜて出されたら、迷わず「どの層の話か」を先に決めてください。

7. ゲートウェイ ── 単なる出口ではない

ゲートウェイは「門」であり、単なる出口ではなく規約の違うネットワークどうしをつなぐ翻訳点を指す言葉です。家庭で「デフォルトゲートウェイ」といえば、LAN(同じ規約で直接話せる世界)と、その外(別の運用者・別の規約の世界)との境目に立つ機械のことです。

面白いのは、この語が国の高校教材ではまったく別の意味でしか使われていないことです(第10章の語数調査でお見せします)。境目という概念は、情報Ⅱではセグメント化・VLAN・DMZという具体的な設計語に置き換わっていきます。

8. 「名前 → アドレス」と「アドレス → 経路」は別の仕事

この単元でいちばん混ざりやすい点を、先に固めておきます。

段階 何をするか 担当 該当講
① 名前解決 ドメイン名 → IPアドレス DNS 第71講
② 経路決定 IPアドレス → 次にどこへ渡すか ルータの経路表 本講

①が終わってから②が始まります。①はアプリケーション層、②はインターネット層で、層も違います(第68講)。この区別は、あとで見るとおり共通テストの選択肢そのものになっています。

9. 手で確かめる

以下はすべて私が実際に実行して確認した出力です(2026年8月3日・macOS)。中継ルータのアドレスと逆引き名は RFC5737 の文書用アドレス(198.51.100.0/24・203.0.113.0/24)に置き換えてあります。ホップ数・所要時間・構造は実測のままです。家庭内のアドレスは RFC1918 のプライベートアドレスです。

9-1. 自分の経路表を見る(netstat -rn)

$ netstat -rn -f inet
Destination        Gateway            Flags      Netif
default            192.168.1.1        UGScg      en0
127                127.0.0.1          UCS        lo0
127.0.0.1          127.0.0.1          UH         lo0
192.168.1          link#11            UCS        en0
192.168.1.1/32     link#11            UCS        en0
224.0.0/4          link#11            UmCS       en0
255.255.255.255/32 link#11            UCS        en0

(機器のMACアドレスが載る行は除いてあります。Windowsなら route print、Linuxなら ip route。)

これが経路表の実物です。左が「宛先の集合」、右が「次にどこへ渡すか」。私のパソコンは、世界のネットワークを7行しか知りません

9-2. ロンゲストマッチを手で適用する

上の表を使って、宛先ごとにどの行が選ばれるかを自分で追ってみてください。

宛先 一致する行 勝つ行 結果
192.168.1.142 192.168.1(/24)と default(/0) /24 ケーブルに直接出す
192.168.1.1 /32 と /24 と /0 の3行 /32 その行の指示に従う
163.44.185.200 default(/0)だけ /0 192.168.1.1 へ渡す

3行目が本講の主題です。私のパソコンは 163.44.185.200 がどこにあるか一切知りません。「知らないからデフォルトへ」と決めているだけ。それで届きます。

9-3. TTLを1ずつ増やすと、返事をする機械が入れ替わる

TTLが本当にホップ数の上限として働いていることは、1行で確かめられます。ping -m はTTLを指定して送るオプションです(macOS。Windowsは ping -i)。

$ ping -c 1 -m 1 sukyojuku.com
PING sukyojuku.com (163.44.185.200): 56 data bytes
92 bytes from (自宅のルータ) (192.168.1.1): Time to live exceeded
$ ping -c 1 -m 2 sukyojuku.com
36 bytes from (ISPの1台目・マスク) (198.51.100.147): Time to live exceeded
$ ping -c 1 -m 3 sukyojuku.com
36 bytes from (ISPの2台目・マスク) (198.51.100.133): Time to live exceeded

宛先は3回とも同じです。変えたのはTTLの値だけ。それなのに「寿命が尽きました」と返事をしてくる機械が、1台ずつ奥へずれていきます。RFC 1812 が「事実上ホップ数の上限」と書いていることが、そのまま目に見えます。

9-4. 経路をすべて出す(traceroute)

この作業をTTL=1,2,3,… と自動でやるのが traceroute(Windowsは tracert)です。

$ traceroute -n -q 1 sukyojuku.com
traceroute to sukyojuku.com (163.44.185.200), 20 hops max, 40 byte packets
 1  192.168.1.1        6.965 ms   ← 自宅のルータ
 2  198.51.100.147     7.287 ms   ← 契約ISPの入口(マスク)
 3  198.51.100.133     9.136 ms
 4  198.51.100.89      9.669 ms
 5  198.51.100.61      9.078 ms
 6  203.0.113.60      13.956 ms   ← 別事業者の網へ(マスク)
 7  203.0.113.163     10.738 ms
 8  203.0.113.150     10.247 ms
 9  203.0.113.202     12.981 ms
10  163.44.185.200    11.437 ms   ← 目的のサーバ

10台を経由しています。そしてこの10台のうち、最終目的地を知っていたのは最後の1台だけ。残りの9台は「次はこっち」と渡しただけです。

9-5. 経路は固定されていない(同じ宛先へ3回)

ここが本講の目玉です。同じパソコンから、同じ宛先へ、続けて3回実行した結果を並べます。

ホップ 1回目 2回目 3回目
1 192.168.1.1 192.168.1.1 192.168.1.1
2 198.51.100.147 198.51.100.147 198.51.100.147
3 198.51.100.133 198.51.100.133 198.51.100.133
4 198.51.100.81 198.51.100.81 198.51.100.89
5 198.51.100.61 198.51.100.57 198.51.100.65
6〜9 同じ 同じ 同じ
10 163.44.185.200 163.44.185.200 163.44.185.200

4台目と5台目が毎回違います。数十秒のあいだに、私は同じサイトへ3通りの道で通っている。「AからBへの経路」という固定した道は、そもそも存在しません。第5章で書いた「経路は固定されていない」は、比喩ではなく実測できる事実です。

9-6. 経路表が枝分かれする瞬間を見る(3つの宛先へ)

宛先を変えて、どこで道が分かれるかを見ます。

ホップ sukyojuku.com www.mext.go.jp www.dnc.ac.jp
1 192.168.1.1 192.168.1.1 192.168.1.1
2 198.51.100.147 198.51.100.147 198.51.100.147
3 198.51.100.133 198.51.100.133 198.51.100.129
4 198.51.100.81 198.51.100.81 198.51.100.77
5 198.51.100.61 198.51.100.65 198.51.100.61
6以降 宛先の事業者へ 別の事業者へ 応答なし

先頭の2台は、3つとも同じです。私の家のルータもISPの入口も、3つの宛先の区別をまだしていません。デフォルトルートに従って同じ方向へ流しているだけだからです。区別が始まるのは3台目以降、つまり経路表がその宛先について具体的な行を持っている場所まで来て、初めてです。

なお www.dnc.ac.jp は途中から応答なしになりました。ICMPを返さない設定のルータやフィルタがあると、traceroute には映りません。traceroute で見えないことと、通っていないことは別です。

9-7. 自分でやってみる練習

  • netstat -rn(または route print / ip route)を実行し、自分のデフォルトゲートウェイを書き出す。経路表が何行あるか数える
  • ping -m 1(Windowsは ping -i 1)を公的機関のサイト宛に実行し、どの機械が「Time to live exceeded」を返すか確かめる
  • traceroute を2つの宛先に対して実行し、何ホップ目で道が分かれるかを探す
  • 同じ宛先に3回実行し、経路が変わるかどうかを見る(変わらない環境もあります。それも結果です)

10. 共通テストではこう出る(重要度 B)

10-1. まず、出題実績を正直に確認する

大学入試センターが公開している令和7年度・令和8年度の本試験および追・再試験の『情報Ⅰ』問題PDF計4本を、私の手元で全文検索しました(2026年8月3日)。

R7本試験 R7追・再 R8本試験 R8追・再
ルーティング 0 0 1 0
ルータ 0 0 0 1
経路 1 1 0 1

ルーティングを主題にした大問は、この2年に1つもありません。出てくるのはすべて第1問の小問の、しかも選択肢のレベルです。これが重要度をBとする根拠であり、「必ず出る」と煽るつもりはありません。ただし選択肢に混ぜられたときに区別できないと落とすので、取り切る価値はあります。

10-2. 型1:名前解決と経路決定を混ぜてくる

令和8年度 本試験 第1問 問4 は、大学入試センター自身が「エラーメールを題材としたメール送受信の仕組みの理解を問う問題」と説明しています(問題評価・分析委員会報告書)。その中の小問で、「メールを送る過程で用いられる、通信先のIPアドレスを特定する仕組み」を4つの選択肢から選ばせています。選択肢にはDNSと並んでルーティングが置かれていました(設問文・選択肢は転載しません)。

問われているのは「アドレスを特定する」仕事です。これは第71講の名前解決=DNSの担当であって、ルーティングは「アドレスが決まったに、どこへ渡すかを決める」仕事ですから、ここでは選べません。第8章の表が、そのまま採点基準になっています。

同じ報告書は、この問4について「メールの送受信の仕組みについての深い理解が不足している」と述べ、問4aの3つの空欄の正答率を5割弱・3割強・約1割と公表しています。仕組みを言葉として覚えているだけでは通用しない、という実測値です。

10-3. 型2:ルータの役割そのものを選ばせる

令和8年度 追・再試験 第1問 問1 では、「情報通信ネットワークに関する説明として最も適当なもの」を4択で選ばせています。誤答選択肢の1つは、ルータ・ハブ・DNSサーバという機器名を並べ、それらが揃わなければLANは構築できないと述べるものでした。

また大学入試センターが公表した「試作問題『情報』の概要」は、試作問題『旧情報(仮)』第4問 問6 を「ルータやハブの機能に関する知識を基に、情報通信機器の接続について具体的な事例の中で考察できるかを問う」と説明しています。機器名と役割の対応は、出題側が明示的に想定している論点です。

10-4. 引っかけの急所5つ

  • TTLが2種類ある。IPヘッダのTTLは「あと何台通れるか」、DNSのTTLは「何秒キャッシュしてよいか」。同じ略語で別物(第71講
  • 「アドレスを調べる」と「経路を決める」を混ぜる。前者はDNS、後者はルータ
  • ルータとハブを取り違える。ハブは同じLANの中で信号を配る機械で、経路を選びません。ネットワークをまたぐ判断をするのがルータです
  • 「経路は決まっている」と思い込む。9-5のとおり、同じ宛先でも経路は変わりえます
  • traceroute に出ないホップがある。表示されないことは、そこを通っていないことを意味しません(9-6)

10-5. 私が作った類題(自作)

問題

あるパソコンの経路表に、次の3行だけが登録されている。

① 宛先 192.0.2.0/24 → 直接送出 / ② 宛先 192.0.2.128/25 → ルータAへ / ③ 宛先 0.0.0.0/0 → ルータBへ

宛先が 192.0.2.200 のパケットは、どこへ送られるか。

答え

ルータA。①②③のすべてに一致するが、一致したビット数がいちばん長いのは②(25ビット)だから。デフォルトルート③は長さ0なので、他に一致する行があるかぎり必ず負けます。

11. 情報Ⅱではこうなる

11-1. まず押さえる事実 ── 経路の決め方は、情報Ⅰの一次資料の本文に書かれていない

語数調査を行いました。当てた範囲は、①高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編を第1部(共通教科=情報Ⅰ・情報Ⅱ)と第2部(主として専門学科において開設される教科=専門教科情報科)に分けた全文、②情報Ⅰ教員研修用教材(表紙・序章+第1〜4章の全分冊)、③情報Ⅱ教員研修用教材(序章+第1章・第2章・第3章前半・第3章後半・第4章・第5章の全7分冊)です。いずれもPDFをテキスト化し、空白と改行を全部除去してから部分文字列として計数しました(2026年8月3日・当方実施)。

解説 第1部(共通教科) 解説 第2部(専門教科) 情報Ⅰ教材 情報Ⅱ教材
経路 1 0 1 3
ルータ 1 0 19 5
ルーティング 0 0 1 0
ルーティングテーブル 0 0 1 0
経路制御 1 0 1 0
経路表 0 0 0 0
デフォルトゲートウェイ 0 0 0 0
デフォルトルート 0 0 0 0
ホップ 0 0 0 0
TTL 0 0 0 0
ゲートウェイ 0 0 0 5

用法の内訳(数える前に1件ずつ目で確認しました)

  • 解説 第1部の「経路」1件=「ルータ」1件=「経路制御」1件は、すべて同じ1文です。情報Ⅰ(4)ア(ア) の「…クライアントやサーバ,ハブ,ルータなどの構成要素の役割について理解するようにする。また…プロトコルには経路制御や伝送制御など様々な役割があり…」。この1文がすべてで、経路の決め方は一言も書かれていません。
  • 専門教科側は0件でした。解説 第2部には科目「ネットワークシステム」があり、その語自体は85件出てくるのに、「経路」「ルータ」「ゲートウェイ」「中継」はいずれも0件。DNSが専門教科側に1件だけあった第71講とは、逆の形です
  • 情報Ⅰ教員研修用教材 第4章の「ルータ」19件は、1件も経路決定の説明ではありません。内訳は、学習内容の全体像の一覧1件/家庭LANの外部接続機器2件/無線ルータの設定(規格・暗号化方式・フィルタ・ゲストモード)13件/トラブル対応1件/学習活動の目的1件/章末の総合演習の指導例1件。ルータは「設定する箱」としてしか登場せず、中で何をしているかは書かれていません
  • 「ルーティング」「ルーティングテーブル」の1件は本文ではありません。章末の総合演習の指導例に「ルータのルーティングテーブルやフィルタなどと関連した学習を考えてもよいだろう」とあるだけです
  • 「経路制御」1件も本文ではありません。章冒頭の「学習内容の全体像」という目次的な語の一覧の中にあります
  • 情報Ⅱ教材の「ゲートウェイ」5件のうち2件は「高輪ゲートウェイ」でした。第1章のインフォグラフィックスの図中に出てくる山手線の駅名です。残り3件は第4章 学習20 の「アプリケーションゲートウェイ方式」(ファイアウォールのプロキシ方式)。ネットワークの境目という意味のゲートウェイは、3資料すべてで0件です
  • 情報Ⅱ教材 第4章の「ルータ」1件は、学習20 の「パケットフィルタリングはルータに実装されている場合が多い」。情報Ⅱでもルータは「経路を決める箱」ではなく「フィルタを実装する箱」として出てきます

11-2. では、国はどこに置いているのか

文部科学省の授業・研修用コンテンツの側です。【情報Ⅰ】「情報通信ネットワークとデータの活用」[6]「はじめてのネットワーク構築」のワークシート(Word)は、実習の設定項目に「IPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ(ルータ)、DNSの設定」を挙げ、さらにこう求めています。

「複数のルータを用いてルーティングできるようにする場合は、ルーティングテーブルを作成した方法とその表示、端末同士のpingの送受信もキャプチャして説明しよう」

結果の考察の切り分けとしても「端末からルータのLAN側までの通信経路でのやりとり」「ルータによるパケットの転送」「ルータのWAN側と異なるネットワークの端末などとのやりとり」を挙げています。

要求だけがあって、説明がない。ルーティングテーブルを作れと書いてあるのに、それが何で、どう作るのかを書いた国の教材はありません。第70講のサブネット・第71講のDNSとまったく同じ形で、「実習で手を動かす対象」として置かれ、講義用の説明が抜けているのです。

実務側との段差も測りました。IPAのシラバスでは、ITパスポート試験 Ver.6.5(レベル1)の用語例に「デフォルトゲートウェイ」があり、基本情報技術者試験 Ver.9.2(レベル2)は「IPパケットのルーティングのあらましを理解する」と本文に書いて用語例に「ルーティング」、ネットワーク運用管理ツールの用語例に「traceroute」を置いています。応用情報技術者試験 Ver.7.2(レベル3)もほぼ同じ構成です。

ところが「ホップ」「デフォルトルート」「経路制御」「OSPF」「BGP」は、この3つのシラバスすべてで0件でした(機械的に当たる「TTL」の応用情報1件は big.LITTLE、「RIP」の応用情報1件は TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)の部分一致で、いずれも別物です)。つまりホップ数やTTLの中身は、高校にも情報処理技術者試験のレベル1〜3にも無く、RFCまで下りないと出てきません。本講がRFC 791とRFC 1812を引いたのは、そのためです。

11-3. 情報Ⅱでの扱い ── 経路と境界が「設計する対象」になる

情報Ⅱ教員研修用教材 第4章 学習20「情報システムの情報セキュリティ」で、ネットワークの区切りは設計の対象になります。

  • セグメント化:「ネットワークで機密性の度合いが異なる情報ごとに,セグメントを設定することをネットワークのセグメント化という」。教材は文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」(令和元年12月版)に基づき、校務系/校務外部接続系/学習系の3分離を図で示します
  • VLAN:「物理的な接続形態とは独立して仮想的なLANセグメントを作るVLAN(Virtual LAN)と呼ばれる技術で,情報セキュリティの機密性を高めることもできる」「VLANはその機能を持つLANスイッチを使用し,接続された機器を管理者の設定した任意のグループに分けることで,ネットワークを分割することができる」「1つのネットワーク内で直接通信できる範囲(ブロードキャストドメイン)を,VLANを使って2つに分割した様子を示している」
  • 冗長化と可用性:学習24「分割したシステムの結合とテスト」の非機能テストに「ネットワーク構成を二重化しているとき…障害で通信に異常が発生した際、自動的にバックアップ回線に切り替わって通信を継続する仕組みが機能するかどうか、稼働前にテストしなければならない」とあります

ここが本講と情報Ⅱの接点です。情報Ⅰでは「経路は勝手に切り替わってくれるもの」だったのが、情報Ⅱでは「切り替わることを稼働前にテストしておく項目」になります。壊れにくさが、期待するものから検査するものに変わる。

境界の引き方も変わります。情報Ⅰの経路は配線と住所で決まっていました。VLANは管理者の設定で境界を引き直します。第70講で「アドレスを分けるのは経路表を小さくするため」と学んだ分割が、情報Ⅱでは機密性を確保するための分割になる。目的が入れ替わっているのに、やっていることは同じ「範囲を切る」です(第77講もあわせて読んでください)。

11-4. 情報Ⅰと情報Ⅱの違いを一言で

観点 情報Ⅰ 情報Ⅱ
ルータ 経路を選ぶ機械(ただし国の教材は「設定する箱」としてしか書かない) フィルタを実装する箱(学習20)
経路が切り替わること 「壊れにくい理由」として理解する 稼働前にテストする項目(学習24 非機能テスト)
境界の引き方 配線とアドレスで決まる 管理者の設定で引き直す(VLAN・セグメント化)
分割の目的 経路表を小さくする(第70講) 機密性を高める(学習20)
立場 使う人 設計してテストする人

12. まとめ

  • ルータは全世界の宛先を知らない。知っているのは次にどこへ渡すかだけ。それを繰り返せば届く(ホップバイホップ)
  • 一致する行が複数あれば長いほうが勝つ。デフォルトルートは長さ0なので、他に何も無いときだけ勝つ。だから経路表が小さくて済む
  • 経路は固定されていない。だから壊れにくく、だからループしうる。止めるのがTTL(ホップ数の上限)。DNSのTTL(秒)とは別物
  • 情報Ⅱでは、この「経路と境界」がVLAN・セグメント化・回線の二重化という設計とテストの対象になる

今日この講で持ち帰ってほしいのは、ルーティングという語の定義ではなく、「全体を知っている者がいなくても、全体は動く」という考え方のほうです。これは情報の世界のあちこちで繰り返し出てきます。

出典(すべて2026年8月3日取得)
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」 https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_006.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_005.pdf / 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」【情報Ⅰ】[6]はじめてのネットワーク構築 ワークシート https://www.mext.go.jp/content/20230425-mxt_jogai02-000021502_003.docx (一覧 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html ) / 大学入試センター「過去3年分の試験問題」および「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書」『情報Ⅰ』 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/ / 大学入試センター「試作問題『情報』の概要」 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003141.pdf / 情報処理推進機構(IPA)「ITパスポート試験(レベル1)シラバス Ver.6.5」 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kn1-att/syllabus_ip_ver6_5.pdf / 同「基本情報技術者試験(レベル2)シラバス Ver.9.2」 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kpe-att/syllabus_fe_ver9_2.pdf / 同「応用情報技術者試験(レベル3)シラバス Ver.7.2」 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kq5-att/syllabus_ap_ver7_2.pdf / JPNICニュースレター No.38「インターネット10分講座:経路制御」(2008年3月) https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No38/0800.html / JPNIC「インターネット用語1分解説~ルーティングとは~」 https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/routing.html / RFC 791 Internet Protocol(1981年9月) https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc791.txt / RFC 1812 Requirements for IP Version 4 Routers(1995年6月) https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc1812.txt / RFC 5737 IPv4 Address Blocks Reserved for Documentation(2010年1月) https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc5737.txt
この記事を書いた人 ── 藤原進之介(ふじわら しんのすけ)

オンライン数学塾・数強塾 代表。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導してきました。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、本連載『藤原進之介の最強120講義』では、情報Ⅰの全範囲を情報Ⅱまで接続して解説していきます。

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