- 情報セキュリティとは、情報の機密性・完全性・可用性の3つを確保すること。これは国の教材の定義そのものです。
- ところがこの3つは互いに引っ張り合います。 1つを強く上げると、別の1つが必ず下がる。
- だからセキュリティとは「安全にすること」ではなく、3つのバランスをどこで取るかを決めることです。文部科学省の教員研修用教材自身が「3要素を最大限に確保しなければならないのかというと、そうではない」と書いています。
こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。『最強120講義』第14講は、共通テスト重要度Aの「情報セキュリティの3要素」です。
この講では暗号の原理には踏み込みません。 共通鍵暗号・公開鍵暗号は別の講で扱います。ここで扱うのは、その手前にある「そもそも何を守ろうとしているのか」という枠組みだけです。枠組みが分かっていないまま暗号の手順を覚えても、共通テストでは点になりません。
1. まず定義を、国の一次資料の文言で押さえる
文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第1章 学習2(25ページ)の一文が定義です。
(文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 学習2)
同じ国の資料でも、「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章 学習20 では、3つが括弧つきで短く言い切られています。受験生にはこちらのほうが使いやすい。
(文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章 学習20)
学習指導要領解説 情報編も、情報Ⅰ (1)ア(イ) で「情報セキュリティの3要素である機密性・完全性・可用性の重要性」と名指ししています。3要素は教科書会社が作った語ではなく、国が指導内容として書いている語です。
2. なぜ「3つ」で足りるのか
3つという数は、暗記事項ではありません。情報に対してできることが3通りしかないから3つになるのです。
情報に対して人ができる操作は、突き詰めると「読む」「書き換える」「使う」の3つしかありません。この3つがそれぞれ悪いほうに転んだ状態が、3要素の侵害です。
| 操作 | 悪いほうに転ぶと | 守る名前 |
|---|---|---|
| 読む | 許されない者が読んでしまう | 機密性(Confidentiality) |
| 書き換える | 中身が勝手に変わる・壊れる | 完全性(Integrity) |
| 使う | 許された者が使えない | 可用性(Availability) |
「見せない・書き換えさせない・使えなくさせない」。 情報に起きうる不都合は、この3つで尽きます。だから3つなのであって、「重要なものを3つ選んだ」のではありません。
ここで第74講(HTTP・HTTPS)とつながります。HTTPSが守るものは、規格 RFC 9110 の第4.2.2節の定義によれば「相手が本物か(認証)・機密性・完全性」の3つでした。並べてみると、欠けているものが見えます。
- HTTPSが守る3つ … 認証 / 機密性 / 完全性
- 情報セキュリティの3要素 … 機密性 / 完全性 / 可用性
HTTPSは可用性を1ミリも守りません。 鍵マークが出ているサイトでも、サーバが落ちていれば開けない。暗号は「見せない」「書き換えさせない」ための道具であって、「使えるようにする」道具ではないからです。
3. 3つは互いに衝突する ── ここが本講の核心
3要素は仲良く並んでいるのではありません。押し合っています。
(1) 機密性を上げると、可用性が下がる
見せないようにするには、確認を増やすしかありません。パスワードを長く複雑にし、二段階認証を入れ、アクセスできる人を絞る。すると本人が入れなくなる事故が必ず一定の割合で起きます。
機種変更したら二段階認証のコードが受け取れなくなった。パスワードを複雑にしすぎて誰も覚えられず、結局メモを貼った。これは笑い話ではなく、機密性を上げた代償として可用性が落ちたという、教科書どおりの現象です。
(2) 可用性を上げると、機密性が下がる
止まらないようにする方法は、基本的に増やすことです。サーバを2台にする、バックアップを別の場所にも置く、回線を二重化する。ところが複製が増えるということは、盗まれる場所が増えるということでもあります。
バックアップ媒体の紛失や、複製先のクラウドの設定ミスによる漏洩は、可用性のために作った複製が機密性の穴になった典型例です。
(3) 完全性を上げると、機密性が下がる
「勝手に書き換えられていないこと」を保証する最も確実な方法は、誰がいつ何を変えたかを全部記録すること(ログ・変更履歴)です。ところがその履歴には、誰がどのファイルをいつ見たかが書いてあります。
履歴そのものが、極めて濃い機密情報になります。 完全性のために作った台帳が、新しく守らなければならない資産を1つ増やしてしまう。ここは見落とされやすいところです。
(4) 機密性を上げると、完全性も可用性も落ちることがある
暗号化は機密性の代表的な手段ですが、鍵を失えば自分も読めません。 暗号化されたまま復号できないデータは、完全性の観点でも可用性の観点でも失われています。「暗号化しておけば安全」は、鍵の管理という新しい可用性の問題を作り出しているだけです。暗号方式そのものは第16講(共通鍵暗号)で扱います。
(5) そして全部の後ろにコストがある
3要素のどれを上げるにも、お金・時間・手間がかかります。文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材は、この点をはっきり書いています。
(同 第1章 学習2)
そして「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章 学習20 も、まったく同じことを繰り返します。
(同 第4章 学習20)
国の資料が、情報Ⅰでも情報Ⅱでも同じ念押しをしています。 これは偶然ではありません。「とにかく厳しくすればよい」という誤解が、それだけ起きやすいということです。
だから本講の結論はこうなります。セキュリティとは「安全にすること」ではなく、「3つのバランスをどこで取るかを決めること」です。 決めるのは技術ではなく人であり、決めた以上は責任を負う。情報Ⅰでこの内容が「情報社会の問題解決」の単元に置かれている理由が、ここにあります。
▲ 3要素は三角形の頂点。真ん中に全部乗せることはできず、どこかに点を置く判断がセキュリティの実体。
4. 全部は守れない ── だから「守る価値のないものは守らない」
3つとも最高にできない以上、次に決めるのはどれを守るかです。国の資料は、この判断の手順まで書いています。IPA「基本情報技術者試験(レベル2)シラバス Ver.9.2」のリスクマネジメントの項です。
(IPA「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」)
まず情報資産を洗い出し、3要素の観点から等級をつける。 用語例には「情報資産台帳」まで挙がっています。つまり「全部を最高レベルで守る」は選択肢として存在せず、守るものに順位をつけることが手順として組み込まれているのです。
塾では「リスク=脅威 × 脆弱性 × 資産の価値」というかけ算の形で教えられることがあります。考え方の道具としては有用です。ただし、私が確認した範囲では国の一次資料はこれをかけ算の式としては書いていません(IPAのシラバスは「リスクを特定し、そのリスクの生じやすさ及び実際に生じた場合に起こり得る結果を定量的又は定性的に把握してリスクレベルを決定し」という書き方をします)。ですので本書では、式ではなく次の3つの言葉として整理します。
- 脅威 … 悪いことを起こしうる外からの要因。攻撃、故障、災害、誤操作
- 脆弱性 … こちら側の弱点。総務省の定義は「プログラムの不具合や設計上のミスが原因となって発生するサイバーセキュリティ上の欠陥」
- 資産の価値 … 失われたときの痛みの大きさ
この3つが揃って初めてリスクになります。 どれか1つが0なら、リスクは実質的に0。狙われても弱点がなければ何も起きないし、弱点があっても失って痛くないものなら守る必要がない。「守る価値のないものは守らない」は手抜きではなく、限られた資源を価値のあるものに集中させるための判断です。
5. 可用性は、なぜいちばん忘れられるのか
3要素のうち、受験生が最も落とすのが可用性です。理由は3つあります。
理由1:可用性の侵害には、悪者が出てこないことがある
停電でサーバが止まった。地震でデータセンターが被災した。アクセスが集中してつながらない。誰も悪いことをしていないのに、可用性は侵害されています。 「セキュリティ=悪い人から守ること」と思い込んでいると、この型が丸ごと視野から消えます。
面白いことに、文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材の図表4「情報セキュリティの3要素」は、可用性の欄にだけ「停電」という語を書いています。機密性の欄にも完全性の欄にも、自然現象は書かれていません。国の図が、可用性の特殊さを図で示しているわけです。
理由2:可用性の対策は「守る」ではなく「増やす」の形をとる
機密性の対策は鍵をかける、完全性の対策は署名する ── いかにも「守っている」姿をしています。ところが可用性の対策は、サーバを増やす・回線を二重にする・電源を用意する。見た目がセキュリティ対策に見えません。 だから設備投資の話だと思われて、セキュリティの話から落ちるのです。
理由3:教材の中でも、可用性は名前を呼ばれないまま通過する
これは私が一次資料を全文検索して数えて分かったことです。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章での語の出現回数は、次のとおりでした。
| 語 | 「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章での出現回数 |
|---|---|
| 機密性 | 8回 |
| 完全性 | 1回 |
| 可用性 | 1回 |
完全性と可用性の1回は、どちらも冒頭の定義文の中です。それ以降、この章は最後まで機密性のためだけに書かれています(ファイアウォール、ポート番号によるパケットフィルタリング、アクセス権の設定、ネットワークのセグメント化とVLAN。すべて「機密性を保持する・高める」と説明されます)。
ところが同じ第4章の学習24には、無停電電源装置(UPS)、ネットワークの二重化、システム回復テスト、性能テストが並びます。どう読んでも可用性の話です。 それなのに、その節に「可用性」という語は一度も出てきません。呼び名は「非機能要件」に変わっています。
可用性は、内容としては確かに教えられている。ただ、名前を呼ばれないまま通過する。 これが「可用性がいちばん忘れられる」ことの、私が示せる最も具体的な証拠です。
6. 手で確かめる ── 身近な10場面を3要素で判定する
次の表を、まず自分で埋めてから読んでください。1つの事件が複数の要素にまたがるところが山場です。
| # | 起きたこと | 機密性 | 完全性 | 可用性 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 校内サーバが停止し、成績が見られない | - | - | ○ |
| 2 | 答案の点数が第三者に書き換えられた | - | ○ | - |
| 3 | 生徒名簿がネット上に流出した | ○ | - | - |
| 4 | ランサムウェアでファイルを暗号化され、さらに中身を公開すると脅された | ○ | ○ | ○ |
| 5 | 二段階認証のコードが届かず、本人がログインできない | - | - | ○ |
| 6 | 停電でオンライン授業が中断した | - | - | ○ |
| 7 | 共有ファイルを別の人が誤って上書きした | - | ○ | - |
| 8 | 落とした部活の名簿を誰かに拾われた | ○ | - | - |
| 9 | 大量アクセスで学校のWebサイトがつながらない | - | - | ○ |
| 10 | アルバムのデータを入れたUSBメモリが壊れて読めない | - | ○ | ○ |
注目してほしいのは4番と10番です。
4番のランサムウェアは、3つ全部に同時に刺さります。 ファイルを暗号化されて開けない(可用性)、勝手に変換されて元に戻せない(完全性)、そして盗み出した中身を公開すると脅される(機密性)。IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日公表)の組織編で、ランサム攻撃による被害は1位です。現代で最も深刻な脅威が、3要素すべてを同時に破壊する型をとっていることは、覚えておく価値があります。ちなみに同じ組織編の9位はDDoS攻撃で、こちらは可用性だけを狙う攻撃です。
10番のUSBメモリの破損には、悪人が1人も出てきません。 それでも完全性(データが壊れた)と可用性(取り出せない)が同時に失われています。事故も災害も、立派なセキュリティ侵害です。
そして5番。これは「セキュリティ対策そのものが、セキュリティを侵害している」例です。機密性を上げるために入れた二段階認証が、可用性を落としている。第3節で見たトレードオフが、そのまま起きています。
7. 可用性だけが「数値になる」ことを、計算で確かめる
3要素のうち、可用性だけは数字で表せます。稼働率です。IPA「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」は「MTBF,MTTR,稼働率などシステムの信頼性を評価する際の評価項目と,その指標,並列システム,直列システムの稼働率の基本的な計算方法を理解する」と書いています。
1年は 365 × 24 = 8,760時間。稼働率が分かれば、年間の停止時間はかけ算1回で出ます。
| 稼働率 | 年間の停止時間 |
|---|---|
| 99% | 8,760 × 0.01 = 87.60時間(約3.65日) |
| 99.9% | 8,760 × 0.001 = 8.76時間 |
| 99.99% | 0.876時間 = 約52.6分 |
| 99.999% | 約5.3分 |
「99%」と聞くと十分に思えますが、年に3日半も止まります。 9を1つ増やすごとに停止時間が10分の1になる。可用性の議論が「9をいくつ並べるか」の話になるのは、この効き方のためです。
さらに、機密性とのトレードオフが数値で見える場所がここにあります。 稼働率0.99の装置を2台使うとき、つなぎ方は2通りあります。
▲ 同じ2台でも、つなぎ方で可用性は逆向きに動く。1台だけのときは年87.6時間の停止。
- 直列(両方が動いて初めて使える)… 0.99 × 0.99 = 0.9801(98.01%、年間 174.32時間の停止)
- 並列(どちらか1台が動けば使える)… 1 −(1 − 0.99)の2乗 = 1 − 0.0001 = 0.9999(99.99%、年間 0.876時間の停止)
1台だけのときは87.6時間の停止でした。部品を増やして直列につなぐと可用性は倍悪化し、並列(冗長化)にすると100倍良くなります。(この節の数値はすべて2026年8月3日に私が Python 3 で実行して確認しました。1年=365日として計算しています。)
そしてここが核心です。並列化とは、同じデータを持つ場所を増やすことです。 年間停止時間は87.6時間から0.876時間へ100分の1になりましたが、盗まれうる場所は1か所から2か所へ倍になりました。 可用性を上げる操作が、そのまま機密性のリスクを上げている。3要素の衝突が数字で見える、唯一の場所です。
なお稼働率は、MTBF(平均故障間隔)と MTTR(平均修復時間)から求めます。MTBF = 990時間、MTTR = 10時間なら、990 ÷(990 + 10)= 0.99。分母は「動いていた時間 + 直していた時間」=全部の時間、分子は「動いていた時間」です。式ではなく、この意味で覚えてください。
教材の演習を、そのままやってみる
文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第1章 学習2 の演習2は、こういう問いです。
(同 第1章 学習2 演習2、図表8「情報セキュリティの3要素に基づく評価」)
「高・中・低の3段階で評価しなさい」 ── ここが決定的です。国の教材が、「3つとも高」を答えとして想定していません。 もし3つとも最高にすべきなら、3段階で評価させる意味がありません。
たとえば学校のパソコン室なら、私はこう考えます。授業中に使えないと授業が成立しないので可用性は高。共用端末に個人の秘密を置かない運用なら機密性は中。提出物の破損は困るがサーバ側にも保存があるなら完全性は中。──これは正解ではなく、私の判断です。判断が違えば別の答えになります。答えが人によって変わることこそが、この単元の学習内容そのものです。
8. 共通テストではこう出る(重要度 A)
3要素は、センターの一次資料で名指しされている
大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」(2022年11月9日公表)には、『旧情報(仮)』第4問(配点25)問9 のねらいとして、次のように書かれています。
(大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」)
「情報セキュリティの三つの要素」が、設問のねらいとして名指しされています。 これは推測ではなく、大学入試センターが公表した文書の記述です。
同じ第4問の並びも参考になります。問1が機器の名称と役割、問2がSSIDと暗号化キー、問3が無線LANのセキュリティ対策、問5が暗号化キーのないネットワークに接続する危険、問7がブルートフォース攻撃と解析時間、問8がサーバ管理者の立場での対策、そして問9が3要素。「身近な場面 → 知識 → 自分ならどうするか」という流れの終着点に3要素が置かれています。
出題の型は2つに絞れる
型A:事例から、侵害された要素を選ばせる。 短い事例文が与えられ、機密性・完全性・可用性のどれが損なわれたかを答えます。第6節の表がそのまま練習になります。
型B:対策と要素の対応を問う。 「この対策は3要素のどれを守るためのものか」を問います。対応の骨格は次のとおりです。
| 対策 | 主に守る要素 |
|---|---|
| パスワード・アクセス権の設定・暗号化・ファイアウォール | 機密性 |
| デジタル署名・ハッシュ値の照合・変更履歴・書き込み権限の制限 | 完全性 |
| バックアップ・二重化(冗長化)・無停電電源装置(UPS)・負荷分散 | 可用性 |
「バックアップ」が可用性の側に入ることを、必ず押さえてください。 バックアップを「情報を守ること」と漠然と覚えていると、機密性に分類してしまいます。バックアップの目的は「消えても取り戻せること」であり、取り戻せる=使える=可用性です。
「可用性」が答えになる問題は、思ったより多い
これは実戦的な話です。作問する側の立場で考えると理由が見えます。
- 機密性の事例(漏洩)と完全性の事例(改ざん)は、誰が読んでも一目で分かる。差がつかない
- 可用性の事例(停電・故障・アクセス集中・認証の失敗)は、「これはセキュリティの話ではない」と誤解する受験生が一定数出る。差がつく
差がつくところが出題されます。だから、「悪意が見当たらない事故」が出てきたら、まず可用性を疑う。 これが本講で持ち帰ってほしい実戦的な判断です。
引っかけの急所
「セキュリティ対策は厳しいほどよい」は誤り。 国の教材が「3要素を最大限に確保しなければならないのかというと、そうではない」と明記している。
「停電や故障はセキュリティと関係ない」は誤り。 可用性の侵害である。
「バックアップは機密性の対策」は誤り。 可用性の対策であり、むしろ複製が増えるぶん機密性のリスクは上がる。
「暗号化すればすべて解決」は誤り。 暗号化が守るのは主に機密性で、鍵を失えば可用性も完全性も失われる。
「HTTPSなら3要素が全部守られる」は誤り。 HTTPSが守るのは認証・機密性・完全性で、可用性は入っていない。
「完全性=情報が全部そろっていること」は誤り。 完全性は「正確であること・勝手に変わっていないこと」であって、量の話ではない。
「二段階認証は良いことしかない」は誤り。 機密性を上げる代わりに可用性を下げている。だからこそ復旧手段の設計が要る。
私が作った類題
① 成績の入力後、変更した教員名と日時を自動で記録するようにした
② 成績データを毎晩、別の校舎のサーバにも複製するようにした
③ 成績の閲覧を担任と教科担当だけに限定した
④ ②で作った複製先のサーバにも、③と同じ閲覧制限をかけた
この問題の眼目は④です。 ②で可用性を上げた瞬間に、守るべき場所が1か所増えました。だから④の作業が必要になります。可用性を上げる操作が機密性の穴を開け、それを塞ぐために追加の作業が発生する ── 3要素が押し合うとは、こういうことです。①で作った変更履歴も同じで、その履歴自体が新しく守るべき機密情報になります。
9. 情報Ⅱではこうなる
情報Ⅰの3要素は「情報を使う人として、何を守るべきかを知る」ものでした。情報Ⅱでは、これが「自分が作るシステムの、設計と検証の対象」に変わります。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章「情報システムとプログラミング」で追いかけましょう。
(1) 学習指導要領解説の、情報Ⅱ側での扱い
解説 情報編の情報Ⅱ (1)ア(ア)「情報技術の発展の歴史を踏まえ、情報社会の進展について理解すること」に、次の一文があります。
(文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」情報Ⅱ (1)ア(ア))
情報Ⅰでは「守るべきものの名前」だった3要素が、情報Ⅱでは「情報技術の発展の歴史の中で、必要性が増してきたもの」として登場します。同じ語なのに、立ち位置が「今守るべきこと」から「なぜ必要になったのかを説明すべきこと」へ動いています。
(2) 学習20 ── 3要素が設計の目標になり、そして機密性に偏る
「情報Ⅱ」教員研修用教材 第4章 学習20「情報システムの情報セキュリティ」は、まず図表1「情報システムのトラブルとその影響の例」を置きます。機密情報の漏洩、個人情報の流出、Webページ改ざん、システム停止、ウイルス感染の5つです。
トラブルを先に並べ、そのあとで3要素を出す。 情報Ⅰが定義から入るのと、順番が逆です。情報Ⅱでは3要素が「覚える定義」ではなく「何が起きると困るかを整理するための枠」として導入されます。
そのうえで学習20は、具体的な技術を並べます。データの暗号化(共通鍵暗号・公開鍵暗号・デジタル署名・SSL/TLS)、ファイアウォール(パケットフィルタリング方式・アプリケーションゲートウェイ方式)、アクセス制御(任意・強制・役割ベース)、アクセス権の設定、ネットワークのセグメント化とVLAN。ここで、私が数えた語数が効いてきます。
機密性8回に対し、完全性1回・可用性1回。しかも完全性と可用性の各1回は冒頭の定義文の中だけ。以降に登場する技術は、ことごとく「機密性を保持する・高める」と説明されます。 ファイアウォールは「認められた者だけがアクセスできる機密性を保持しなければならない」ため、ポート番号の設定は「情報システムの機密性を保持する」ため、アクセス権の設定は「情報システムの機密性をより高める」ため、VLANは「情報セキュリティの機密性を高める」ため。
情報Ⅱの情報システム設計は、3要素のうち機密性に強く偏っています。 これは教材の欠陥ではなく、「ネットワークにつないだシステムを作る」という文脈では、真っ先に設計しなければならないのが機密性だからです。第70講で学んだサブネットによるアドレス空間の分割が、ここでは「機密性の度合いが異なる情報ごとにセグメントを分ける」というセキュリティ設計として再登場します。情報Ⅰで「経路表を小さくするため」だった分割が、情報Ⅱでは「機密性を確保するため」に変わるのです。
(3) 学習24 ── 可用性が「非機能要件」という別名で戻ってくる
同じ第4章の学習24「分割したシステムの結合とテスト」で、消えていた2つが戻ってきます。ただし別の名前で。
まず「非機能テスト」。ここには次のものが並びます。
(同 第4章 学習24「非機能テスト」)
多数のユーザーからアクセスされて負荷が高くなっても正常に動くかを見る性能テストも、ここに入ります。これは全部、第7節で計算した稼働率の話です。 ところが学習24 の本文に「可用性」の語は出てきません。呼び名は「非機能要件」に変わっています。
情報Ⅰでは「可用性という名前の、覚えるべき要素」だったものが、情報Ⅱでは「テスト項目として書き出し、稼働前に実際に確かめるもの」になります。UPSを用意したら、本当に停電時に切り替わるかを試す。回線を二重化したら、本当に自動で切り替わるかを試す。知識から、検証手続きへ。 これが情報Ⅰと情報Ⅱの決定的な差です。
同じ学習24 の「セキュリティテスト」には、ブルートフォース攻撃・リバースブルートフォース攻撃・リスト型攻撃、そしてXSS(クロスサイトスクリプティング)・CSRFが並びます。XSSの説明では「Cookieとして保存された情報を取られてしまったりする被害が起こる」「通信方式が平文で暗号化されていない場合は盗聴や改ざんの可能性が考えられる」と書かれます。盗聴=機密性、改ざん=完全性。 3要素が、そのまま自分のシステムに対するテスト項目の分類になっているのです。
| 要素 | 情報Ⅱでの居場所 | そこでの呼ばれ方 |
|---|---|---|
| 機密性 | 学習20(設計)+学習24(セキュリティテスト) | そのまま「機密性」 |
| 完全性 | 学習20(デジタル署名)+学習24(改ざんの検出) | 主に「改ざん対策」 |
| 可用性 | 学習24(非機能テスト) | 「非機能要件」 |
情報Ⅰで対等に3つ並んでいたものが、情報Ⅱでは設計・テストという工程に配られ、そのとき名前が変わります。 可用性という語だけが消えるのは、情報Ⅱで可用性が軽んじられているという意味ではありません。「性質の名前」から「工程の名前」へ変わっただけです。それを知らないと、情報Ⅱの教材を読んでも「可用性はどこへ行ったのか」が分からなくなります。
(4) 7要素は、共通教科ではなく「その先」に置かれている
最後に7要素について、正確に整理しておきます。ネット上には「情報セキュリティの7要素」の解説が大量にありますが、どこに書かれているかで扱いが変わります。 根拠になるのは、文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第1章 学習2 のこの一文です。
(同 第1章 学習2)
- 真正性(authenticity)… 本人であることを認証できる
- 責任追跡性(accountability)… ログなどから操作を追跡できる
- 信頼性(reliability)… 意図することが確実に実行できる
- 否認防止(non-repudiation)… 後で「やっていない」と言わせない
IPA「ITパスポート試験(レベル1)シラバス Ver.6.5」の用語例にも「情報セキュリティの要素(機密性,完全性,可用性,真正性,責任追跡性,否認防止,信頼性)」と7つが並び、「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」にも英語つきで同じ7語が並びます。資格試験では、最も基礎のレベルから7要素が範囲内です。
ところが、学習指導要領解説 情報編を全文検索すると事情が違います。
| 語 | 解説 情報編 全文での出現 | どこに出るか |
|---|---|---|
| 機密性・完全性・可用性 | あり | 情報Ⅰ (1)/情報Ⅱ (1)/専門教科 |
| 真正性 | 2回 | すべて専門教科「情報セキュリティ」 |
| 責任追跡性 | 2回 | すべて専門教科「情報セキュリティ」 |
| 否認防止 | 1回 | 専門教科「情報セキュリティ」 |
共通教科(情報Ⅰ・情報Ⅱ)の記述には、真正性・責任追跡性・否認防止が1回も出てきません。 出てくるのは、専門学科向けの科目「情報セキュリティ」だけです。しかも、その書き方が興味深い。
(同 解説 情報編、専門教科情報科「情報セキュリティ」(1)ア)
「否認防止を含む責任追跡性」 ── 解説は否認防止を責任追跡性の一部として扱っており、7つを並列に挙げる一般的な説明とは構成が違います。ここまで踏み込んで書いてある解説書は少ないので、本書では正確に書いておきます。
受験生への実用的な結論。 共通テストで確実に問われるのは3要素です。7要素は「教員研修用教材と資格試験には書いてあるが、学習指導要領解説の共通教科側には無い」という位置づけなので、名前と一言の意味を言えれば十分で、深追いは要りません。ただし責任追跡性(ログで追跡できる)と否認防止(後で否定させない)は、類題の①で見たように完全性の対策から自然に出てくるので、セットで理解しておくと得をします。
10. この講の要点
- 3要素は「読む・書き換える・使う」の3操作に対応するので、3つで尽きる
- 3要素は互いに押し合う。機密性を上げれば可用性が下がり、可用性を上げれば機密性が下がり、完全性を上げれば機密性が下がる
- セキュリティとは「安全にすること」ではなく「バランスをどこで取るかを決めること」。 国の教材が情報Ⅰでも情報Ⅱでも「最大限に確保すればよいものではない」と念を押している
- 全部は守れないので、資産に等級をつける。守る価値のないものは守らない
- 可用性が最も忘れられる。 悪意が見当たらない事故が出てきたら、まず可用性を疑う
- 情報Ⅱでは、機密性が設計(学習20)に、可用性が「非機能要件」という別名でテスト(学習24)に配られる
『藤原進之介の最強120講義』の全体像はこちらから追えます。
- 『藤原進之介の最強120講義』ハブページ/全記事一覧
- 第74講 Webの仕組み(HTTP・HTTPS)(HTTPSが守る3つと、守らない可用性)
- 第16講 共通鍵暗号(機密性を確保する道具の中身)/第70講 IPアドレスとサブネット(分割が機密性の設計になる)
- 共通テスト情報Ⅰの対策法
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」 https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_003.pdf / 同 第4章 https://www.mext.go.jp/content/20200722-mxt_jogai02-100013300_006.pdf / 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第4章 https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000007843_005.pdf / 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」2022年11月9日 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003141.pdf / IPA「基本情報技術者試験(レベル2)シラバス Ver.9.2」 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kpe-att/syllabus_fe_ver9_2.pdf / IPA「ITパスポート試験(レベル1)シラバス Ver.6.5」 https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/ / IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」2026年1月29日公表 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html / 総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」脆弱性とは? https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/basic/risk/11/
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