「試作問題は解いたほうがいいですか」と毎年聞かれます。答えはイエス、ただし理由は『予想が当たるから』ではありません。大学入試センターは本試験の報告書で2年連続「試作問題の形式に従っている」と書いています。形式であって、題材ではない。実際、試作に出た誤り訂正・論理回路・残差は実施4回でゼロ。この講は、試作問題・サンプル問題・正解表・モニター調査報告という一次資料だけを使い、試作問題が何だったのか、そして実施後に何が起きたのかを、配点の検算と8セット横断の計数で確かめます。
こんにちは、数強塾グループ代表の藤原進之介です。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第107講のWeb版で、第5部「共通テスト攻略」に属します。共通テスト重要度はA。
なお本記事では、共通テストおよび試作問題の問題文・選択肢・図表・プログラムを一切転載していません(大学入試センターの著作物です)。扱うのは①設問構造の説明 ②配点などの公表データ ③題材と問われ方の要約 ④自作の類題の4つだけです。
結論
1. 試作問題は「予告」であって「予想」ではない。大学入試センター自身が令和7年度・令和8年度の報告書で「試作問題の形式に従っている」と書いています。守られたのは4大問20/30/25/25の骨格であって、題材ではありません。
2. 試作に出て本試験4回に出ていない項目がある。パリティ・誤り訂正・論理回路・残差・累積相対度数・特許権・二次元コード・帽子掛け。逆に本試験の主役だったチェックディジット・移動平均・画素・データベースは試作にありません。両方向とも外れています。
3. それでも解く価値はある。試作問題はB5・60分・100点・配点表つきの実物で、しかも大学生1,115名に実際に解かせて分量を測った資料だからです。ただし「サンプル問題」は別物で、優先度は下がります。
「試作問題」は一つではない——3つの文書がある
まずここを整理しないと話が始まりません。大学入試センターは、令和7年度からの『情報Ⅰ』について、性格の違う文書を3回出しています。これはセンター自身が令和7年度の問題評価・分析委員会報告書に書いている年表です。
文部科学省が正式に『情報Ⅰ』を共通テストの出題科目とすることを公にしたのは,令和3年7月に各教育長,各大学長等に通知された「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」においてである。この通知の前,令和2年11月に「試作問題(検討用イメージ)」が関係機関に示され,令和3年3月に「サンプル問題」が大学入試センターより公表されていたが,この通知の後,令和4年11月に「試作問題」が公表された。
大学入試センター『令和7年度 大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書』「情報Ⅰ」まとめ より
受験生が入手できるのは2番目と3番目です。そしてこの2つはまったく別物です。混ぜている解説をよく見かけますが、混ぜると対策を誤ります。
サンプル問題と試作問題は、作られ方が違う
| 項目 | サンプル問題『情報』 | 試作問題『情報Ⅰ』 |
|---|---|---|
| 公表 | 令和3年3月24日 | 令和4年11月9日 |
| 版型 | A4版 | B5サイズ(本番と同じ) |
| 試験時間 | 想定していないと明記 | 60分 |
| 配点 | 正解表に配点欄が無い | 100点(配点表つき) |
| 大問数 | 3 | 4 |
| 経過措置科目 | 無し | 『旧情報(仮)』を同時公表 |
| 参考問題 | 無し | 第4問の参考問題を別途公表 |
サンプル問題の「作成の趣旨」には、こう書いてあります。
本サンプル問題は専門家により作成されたものですが,過去のセンター試験や大学入学共通テストと同様の問題作成や点検のプロセスを経たものではなく,また,実際の問題セットをイメージしたものや試験時間を考慮したものでもありません。
・サンプル問題であるため,A4版で作成しています。
大学入試センター「情報 サンプル問題 作成の趣旨」より
一方、試作問題の表紙は「B5サイズで作成しています」から始まり、試験時間60分・100点満点・解答用紙のマーク方法まで書いてあります。サンプル問題は「イメージ」、試作問題は「試験のリハーサル」です。この差は決定的です。
ただし、試作問題にも同じ限界の但し書きがあります。
本試作問題は専門家により作成されたものですが,過去の大学入試センター試験や大学入学共通テストと同様の問題作成や点検のプロセスを経たものではありません。
試作問題『情報Ⅰ』表紙「作成の趣旨及び留意点」より
これはセンターが自分で書いた注意書きです。「本試験と同じ品質保証を受けた問題ではない」と明言している。だから試作問題の細部(選択肢の癖、極端に難しい設問)を本番の予想材料にしてはいけません。枠組みを見るための資料です。
センターは「形式に従っている」としか言っていない
ここが本講の芯です。センターは本試験の自己評価で、2年連続で同じ言い方をしています。
令和7年度共通テストの『情報Ⅰ』は,この「試作問題」の形式に従っている。第1問と第2問は特定の分野を限定せずに,第1問~第4問までで「情報Ⅰ」の全分野から出題する形となっている。
令和7年度 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』
今年度の共通テストの『情報Ⅰ』は,令和7年度試験に引き続き,令和4年11月の「試作問題」の形式に従っている。
令和8年度 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』
「形式」です。「内容」でも「題材」でも「範囲」でもない。引き継がれたのは次の4点だけだと考えるのが素直です。
- 大問が4つで、配点が20・30・25・25であること
- 第1問が全分野からの小問集合、第2問が中問2つ(AとB)であること
- 第3問がプログラミング、第4問がデータ活用であること
- 共通テスト用プログラム表記を使うこと
この4点は令和7・8年度の本試験・追再試験の4セットすべてで守られています(第97講「共通テスト『情報Ⅰ』の出題形式と時間配分」で配点表を検算しました)。守られたのは箱であって、中身ではありません。
「試作に出たのに本試験に出ていない」をどう受け取るか
私は8つの問題セット——サンプル問題/試作問題『情報Ⅰ』/同 参考問題/試作問題『旧情報(仮)』/令和7年度 本試験・追再試験/令和8年度 本試験・追再試験——の全文を、Unicode正規化のうえ空白と改行を落として機械的に数え直しました。手順は後述します。結果はこうです。
試作問題『情報Ⅰ』にあって、実施された4回のどこにも無いもの。
| 語 | 試作『情報Ⅰ』 | 本試験・追再4回 |
|---|---|---|
| パリティ | 13件 | 0件 |
| 誤り訂正 | 4件 | 0件 |
| 論理回路 | 5件 | 0件 |
| 残差 | 6件 | 0件 |
| 累積相対度数 | 2件 | 0件 |
| 特許(権) | 5件 | 0件 |
| 帽子掛け | 1件 | 0件 |
| 二次元コード | 36件 | 1件(令7追再の言及のみ) |
| 外れ値 | 8件 | 令7本試1件・令8本試1件 |
逆に、実施された4回にあって試作問題『情報Ⅰ』に無いもの。
| 語 | 試作『情報Ⅰ』 | 実施された回 |
|---|---|---|
| チェックディジット | 0件 | 令7本試 8件 |
| 移動平均 | 0件 | 令8追再 23件 |
| 画素 | 0件 | 令8本試5件・令8追再2件 |
| 最大値 | 0件 | 令8本試 10件 |
| データベース | 0件 | 令8追再 5件 |
| 四分位 | 0件 | 令7本試2件・令8追再3件 |
| 散布図行列 | 0件 | 令7追再 4件 |
| 16進法 | 1件 | 令8本試 5件 |
はっきりしています。「試作に出たから出る」は成り立ちません。そして「試作に無いから出ない」も成り立たない。両方向とも外れています。
では試作問題は無意味だったのか。そうは思いません。センター自身が、同じ報告書の同じ段落で理由を書いているからです。
ただし,他の教科・出題科目と同様に,一回の試験で教科の全分野を遍く網羅することは不可能であり,数年間の本試験及び追・再試験を併せて,「情報Ⅰ」の全分野から広く出題することが求められる。
令和7年度・令和8年度 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』(両年度に同趣旨の記述)
これが決定的な一文です。センターは「1回で全部は出せない。何年かかけて全分野から出す」と宣言している。つまり、試作に出て本試験4回に出ていない項目は、「消えた」のではなく「まだ順番が来ていない」と読むのが正しい。誤り訂正・論理回路・残差は、いずれも学習指導要領「情報Ⅰ」の範囲内です。範囲内で、センターが一度は問題にした題材で、まだ本番で使われていない。出題ストックとして残っていると考えるべきです。
実際、題材が形を変えて戻ってきた例がすでにあります。
- 試作 第2問B は模擬店の待ち行列を乱数でシミュレーションする問題でした。令和8年度本試験では、第3問(プログラミング)が「文化祭のゲーム展示における来訪者の待ち時間」を題材にしています。題材は戻り、乱数が外れ、大問が移りました。
- 試作 第1問問3 は論理回路と真理値表でした。令和8年度本試験 第2問B は論理積・論理和・否定を画像の重ね合わせに使わせています。回路図は消え、論理演算だけが残りました。
「同じ題材が同じ形で出る」ことはない。「測ろうとしている能力」が別の服を着て出てくる。これが試作問題の正しい読み方です。令和8年度本試験そのものの分析は第106講「令和8年度本試験の解剖」に譲ります。
では何を予想材料にすべきか——国の授業用教材
試作問題を予想材料にできないなら、何を見ればいいのか。ひとつ、実証された線があります。
試作問題『情報Ⅰ』第4問は「国が実施した生活時間の実態に関する統計調査」を題材に、都道府県別の睡眠の時間と学業の時間の散布図・回帰直線・残差を扱いました。そして文部科学省が公開している授業・研修用コンテンツ[5]「オープンデータの分析」が、ほぼ同じ題材の単回帰を扱っています。さらに文部科学省の情報Ⅱ解説動画[1] も同じ調査・同じ変数を使っています(第101講「第4問(データ活用)の解き方」で確認しました)。
授業用コンテンツ → 試作問題 → 情報Ⅱ解説動画という線が、すべて国の資料の中に実在しています。偶然ではなく、同じ人たちが同じ素材を使っているということです。「国が授業で使えと言っている題材」は、試作問題より予想材料として強い。これは受験生にとって実利のある結論です。
経過措置科目『旧情報(仮)』は、現役生には別物
試作問題は2科目ぶん公表されました。『情報Ⅰ』と『旧情報(仮)』です。ここを混ぜてはいけません。
『旧情報(仮)』は平成21年告示の学習指導要領(旧課程の「社会と情報」「情報の科学」)に対応した経過措置科目で、現行の『情報Ⅰ』とは根拠となる指導要領が違います。構成も違います。
| 項目 | 試作『情報Ⅰ』 | 試作『旧情報(仮)』 |
|---|---|---|
| 対応する指導要領 | 平成30年告示「情報Ⅰ」 | 平成21年告示「社会と情報」「情報の科学」 |
| 大問数 | 4(全問必答) | 6(必答2+選択2) |
| 必答 | 第1〜4問 | 第1問35点・第4問25点 |
| 選択 | なし | 第2問/第3問(15点)、第5問/第6問(25点) |
ただしまったく無関係でもありません。センターは両科目で同じ問題を共有しています。試作問題の概要が明示している対応は次の5か所です。
| 『情報Ⅰ』 | 『旧情報(仮)』 | 配点 |
|---|---|---|
| 第1問 問1 | 第1問A 問1 | 4点 |
| 第1問 問2 | 第1問A 問2 | 6点 |
| 第2問A | 第1問B | 15点 |
| 第2問B | 第2問 | 15点 |
| 第3問 | 第5問 | 25点 |
| 合計 | — | 65点 |
正解表を突き合わせると、この5か所は正解も配点も完全に一致します。つまり『旧情報(仮)』の試作問題を解いても、65点分は『情報Ⅰ』の試作問題と同じ問題を解いているだけです。
そして最も大事な事実。『旧情報』は令和7年度の1回で終わりました。
- 令和7年度 本試験:『情報Ⅰ』279,718人(平均69.26点)/『旧情報』22,171人(平均72.82点)/『旧情報関係基礎』41人(平均56.88点)
- 令和8年度 本試験:『情報Ⅰ』305,202人のみ(平均56.59点)。設問別得点率表に『旧情報』の欄そのものが存在しません
(いずれも大学入試センター「設問別得点率及び正答率表」から当方が集計。令和7年度・令和8年度 各本試験)
2026年8月時点で、これから受験する人にとって『旧情報(仮)』の試作問題は「もう実施されない科目の試作問題」です。共通部分の65点は『情報Ⅰ』側で解けば足ります。残りの35点分(モールス信号と情報量、ネットワークの速度と解像度、クリエイティブ・コモンズ、無線LANと情報セキュリティ、アンケート設計)は、題材としては『情報Ⅰ』でも通用しますが、「情報Ⅰの試作問題」ではありません。
ここを混同したまま「試作問題に出たクリエイティブ・コモンズは頻出」と言うのは誤りです。実際、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスが出題されたのは『旧情報(仮)』試作 第3問問3 のみで、『情報Ⅰ』側の5セット(試作+本試験4回)には0件です。
手で確かめる①——正解表から配点を検算する
試作問題『情報Ⅰ』の正解表(大学入試センター公表)には、解答記号ごとの正解と配点が載っています。ここからマーク数(解答記号の総数)と採点単位(配点欄の数)を数えました。
| 大問 | マーク数 | 採点単位 | 設問数 | 配点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 11 | 10 | 4 | 20 |
| 第2問(A・B) | 14 | 10 | 7 | 30 |
| 第3問 | 16 | 14 | 3 | 25 |
| 第4問 | 7 | 6 | 5 | 25 |
| 合計 | 48 | 40 | 19 | 100 |
検算:20+30+25+25=100。大問ごとの内訳も合います。第1問は 1+1+2+3+3+2+2+2+1+3=20、第2問Aは 3+3+2+2+5=15、第2問Bは 3+3+3+3+3=15、第3問は 1+1+3+1+1+1+2+2+2+2+2+3+2+2=25、第4問は 4+5+5+5+3+3=25。解答記号が各大問「ア」から連続していることも確認しました。
手で確かめる②——試作問題は本試験より「1問が重い」
第97講で本試験4セットのマーク数を出しました。そこに試作問題を並べます。
| 項目 | 試作 | 令7本試 | 令8本試 |
|---|---|---|---|
| マーク数 | 48 | 51 | 60 |
| 採点単位(設問) | 40 | 41 | 46 |
| 1設問あたり平均配点 | 2.500点 | 2.439点 | 2.174点 |
| 1設問の最大配点 | 5点 | 4点 | 4点 |
| 第4問の採点単位 | 6 | 9 | 11 |
| 第3問の採点単位 | 14 | 12 | 12 |
(令7・令8は大学入試センター「設問別得点率及び正答率表」から当方が集計)
読み取れることは2つあります。
第一に、試作問題は本試験より1問が重い。平均2.500点は、実施された本試験のどちらより高い。とくに試作の第4問は、25点をたった6個の採点単位に割っています。しかも5点の設問が3つ連続します(問2・問3・問4)。1つ落とすと5点飛ぶ設計です。本試験の第4問は令和7年度で9個、令和8年度で11個に細かく割られました。センターは試作問題より配点を細かく刻む方向に動いた——これは、試作問題を解いたときの「1問の重さ」の体感が本番とは違うということです。
第二に、第3問(プログラミング)だけは逆です。試作の第3問は25点を14個に割っており、本試験(12個)より細かい。問1〜問3の3設問しかないのに、その中に14の採点単位が詰まっています。プログラミングは最初から「刻んで取らせる」設計でした(第3問の攻略は第100講「第3問(プログラミング)の解き方」で扱っています)。
手で確かめる③——8つの問題セットを機械的に数え直す
再現できるように手順を書きます。
- 大学入試センターから8つのPDFを取得する(サンプル問題/試作『情報Ⅰ』/試作『情報Ⅰ』参考問題/試作『旧情報(仮)』/令7本試・追再/令8本試・追再)。
pdftotext -layoutでテキスト化する。- Unicode正規化(NFKC)をかけ、空白と改行をすべて除去する。これをやらないと「誤り訂/正」のように語の途中で改行が入り、系統的に少なく数えてしまいます。
- その上で語を数える。0件が出たら、語を短く切る・表記ゆれ(全角半角、送り仮名)・同義語で必ず引き直す。
Pythonなら次の3行が本体です。
import unicodedata, re
t = re.sub(r'\s+', '', unicodedata.normalize('NFKC', open(path, encoding='utf-8').read()))
print(t.count('パリティ'))
この手順で、上の表の数字はすべて再現できます。
ひとつ注意点を残しておきます。「待ち行列」という語は、試作問題の本文には0件で、出てくるのは「概要」の設問のねらい(2件)だけです。本文が使うのは「待ち時間」「待ち人数」。語で探すと題材を取り逃すという典型例です。私が「待ち行列は本試験に出ていない」と書かなかったのは、これを確認したからです。
手で確かめる④——自作の類題:パリティで誤りの位置を突き止める
試作問題 第1問問2の考え方だけを使って、私が作った問題です(試作問題そのものではありません)。
「1の個数が偶数になるように1ビット足す」方式(偶数パリティ)を考えます。4×4のビットを並べ、行にも列にもパリティビットを付けることにします。送信側が作った表は次のとおりです。
d1 d2 d3 d4 | 行P
行1 1 0 1 1 | 1
行2 0 1 1 0 | 0
行3 1 1 0 0 | 0
行4 0 0 1 1 | 0
-------------------+----
列P 0 0 1 0 |
受信側が受け取ったのは、次の表でした。
d1 d2 d3 d4 | 行P
行1 1 0 1 1 | 1
行2 0 1 1 0 | 0
行3 1 1 1 0 | 0
行4 0 0 1 1 | 0
-------------------+----
列P 0 0 1 0 |
問 誤っているビットは何行目・何列目か。
答 行3、d3。
解き方 行ごとに1の個数を数えます。行1は 1+0+1+1=3、パリティ1を足して4で偶数、正常。行2は 0+1+1+0=2、パリティ0で2、正常。行3は 1+1+1+0=3、パリティ0で3=奇数、異常。行4は 0+0+1+1=2、パリティ0で2、正常。
次に列ごとに数えます。d1列は 1+0+1+0=2、列パリティ0で2、正常。d2列は 0+1+1+0=2、列パリティ0で2、正常。d3列は 1+1+1+1=4、列パリティ1で5=奇数、異常。d4列は 1+0+0+1=2、列パリティ0で2、正常。異常だった行と列の交点が、誤ったビットの位置です。
ここが誤り検出と誤り訂正の分かれ目です。1方向だけのパリティは「どこかが間違っている」までしか分からない(検出)。縦横に付けると「どこが間違っているか」まで分かる(訂正)。試作問題が6点を割いたのは、この「読み取った仕組みを、その場で具体的な場面に当てはめる」力です。仕組みを暗記していたかどうかではありません。
そして、この題材にはもうひとつ意味があります。「パリティ」「誤り訂正」「誤り検出」「チェックディジット」は、学習指導要領解説 情報編にも、情報Ⅰ教員研修用教材にも、情報Ⅱ教員研修用教材にも0件です(当方が3資料を全文検索。解説は共通教科側・専門教科側の両方を含めて0件)。情報Ⅰ教材にあるのは、デジタル通信の説明の中の一文——「送信するデータそのものに誤りを訂正することが可能な仕掛けを組み込むことにより正確な通信が可能になる」——だけで、仕組みは書かれていません。
国の教材に仕組みが無い題材に、試作問題は6点を割いた。だから問題文の中に仕組みの説明が全部書いてあったのです。共通テストは「教材に無いこと」を、その場で読ませて出す。この構造を知っておくことに意味があります。
ついでに解けたこと——試作問題の解答欄は「a〜d」だった
第97講で、共通テストの解答欄が「0〜9 と a〜d」(14個)から「0〜9 と a〜f」(16個)に拡張されたのが令和8年度だと確認しました。そのとき「試作問題の様式は未確認」と残していました。今回、試作問題本体の冒頭にある解答方法の説明を読んで解決しました。
問題の文中の(空欄)などの□に数字(0~9)又は文字(a~d)を入れるよう指示された場合
試作問題『情報Ⅰ』表紙「解答」より(空欄記号は省略)
試作問題の様式は令和7年度と同じ14個でした。実際、試作問題『情報Ⅰ』の正解表に載っている正解は0〜8の数字だけで、文字の解答は1つもありません。16進法1桁をそのまま1マークで答えさせる形式は令和8年度から可能になったものなので、試作問題を解くときに「16進法の答えを1マークで書く練習」はできません。
共通テストではこう出る(重要度A)
「試作問題は解く価値があるか」に正面から答えます。価値はあります。ただし理由は「予想が当たるから」ではありません。
理由1:60分100点の実物である。試作問題はB5・60分・100点・配点表つきで作られています。過去問が4セットしかない科目で、本番と同じ土俵の問題セットが1つ増えるのは大きい。しかも第4問は5点設問が3つ並ぶ重い設計なので、「1問落とすと重い」という緊張感の練習になります。
理由2:実際に大学生1,115名が解いている。大学入試センターは、試作問題を公表した翌日から3日間(令和4年11月10日〜12日)、大学生1,115名を対象に試作問題モニター調査を実施しました。試作問題『情報Ⅰ』を60分で解かせ、続けて試作問題『旧情報(仮)』の一部を45分で解かせ、アンケートを取っています。センターは「令和7年度大学入学共通テストの問題作成にあたっては,このモニター調査の結果などを踏まえ,問題の内容,分量,程度等に留意した問題となるよう検討していきます」と書いている。つまり試作問題は、分量と程度を実測するために本当に使われた問題です。「解いてみたが分量がおかしい」と疑う必要がない、という意味で信頼できます。
理由3:センターが「形式に従う」と言った、その形式の原本である。第1問が全分野の小問集合、第2問が中問2つ、第3問がプログラミング、第4問がデータ活用——この骨格は試作問題で決まり、4回とも守られました。骨格を体で覚えるための資料として最良です。
一方で、次の使い方はしてはいけません。
- 試作の題材を「頻出」と呼ばない。二次元コード36件、パリティ13件、論理回路5件、残差6件——どれも本試験4回で使われていません。
- 試作の正答率を気にしない。試作問題には受験生の正答率データがありません(モニター調査の結果も公表されていません)。難易度の感覚を作るなら、本試験の設問別正答率表を見るべきです。
- 『旧情報(仮)』の試作問題を『情報Ⅰ』対策として解かない。65点分は『情報Ⅰ』側と同じ問題。残り35点分は旧課程の科目のもので、その科目は令和7年度で終了しました。
- サンプル問題(令和3年3月)を優先しない。配点も試験時間も設定されていない「イメージ」です。
優先順位を1本にまとめます。
- 令和8年度 本試験(最新・最難)
- 令和7年度 本試験
- 令和8年度・令和7年度 追・再試験
- 試作問題『情報Ⅰ』(+第4問の参考問題)
- サンプル問題『情報』(余力があれば)
- 試作問題『旧情報(仮)』の非共通部分(不要)
サンプル問題に1点だけある固有の価値も書いておきます。私が8セットを数え直したところ、「ネットワーク部」8件・「ホスト部」4件・「IPv4」1件は、サンプル問題にしか存在しません(試作問題3種と本試験4回はすべて0件)。IPアドレスのネットワーク部とホスト部を、ビット数と基数変換の話として正面から扱った出題は、国の公表問題ではサンプル問題 第1問問4 だけです。この分野が不安な人には、その1問だけ解く価値があります。また四分位数はサンプル問題 第3問に11件と最も厚く出ています(試作『情報Ⅰ』は0件)。
引っかけの注意を1つ。「試作問題に出た=重要」と書いてある教材を見たら、その語が本試験4回で何回出たかを自分で確かめてください。第22講「情報の構造化とLATCH」で扱った「究極の5つの帽子掛け」も同じ構図です。試作 第1問問4(配点4点)で正面から出ましたが、実施された4回の本文には「帽子掛け」も「LATCH」も0件でした。語を暗記する価値は低く、問われるのは当てはめです。
情報Ⅱではこうなる
この講は情報Ⅱへの接続がありません。試作問題もサンプル問題も『情報Ⅰ』の試験問題であり、『情報Ⅱ』は共通テストの出題科目ではないからです。
ただし、1つだけ数字で確認しておく価値があります。情報Ⅱの内容は、8つの問題セットのどこにも出ていません。私が数えた範囲では、主成分・クラスタリング・決定木・機械学習・教師あり/教師なし・重回帰・説明変数・目的変数・SQL・関係データベース・正規化・非構造化データ・交差検証・過学習・ウォーターフォール・プロトタイプ・要件定義——これらの語は、サンプル問題/試作問題3種/本試験4回のすべてで0件です。唯一の例外は「テキストマイニング」が令和8年度追・再試験に2件出ることですが、中身を見ると誤答選択肢(フィッシングを答えさせる設問の、選ばれてはいけない選択肢)でした。情報Ⅱの語は、正解として一度も要求されていません。
境界がはっきり出るのは「残差」です。試作問題 第4問問5 は残差を6回使い、「標準偏差を単位として中心から外れている度合を読み取ることができるか」を問いました。この語を国の3資料で数えると——学習指導要領解説 情報編 0件/情報Ⅰ教員研修用教材 6件/情報Ⅱ教員研修用教材 20件。情報Ⅰ側で残差は「散布図の点と回帰直線の縦のずれとして読む」ところで止まりますが、情報Ⅱ教員研修用教材 第3章では「残差平方和を最小にするように求められる。これを最小二乗法という」まで進み、残差分析が重回帰のモデル評価の道具になります。情報Ⅰの残差は「読む対象」、情報Ⅱの残差は「モデルを直すための材料」。試作問題が第4問問5で測ろうとしたのは、その入口の読み取りでした。
まとめ
- 「試作問題」は3つある。サンプル問題(令和3年3月・A4・配点なし)と試作問題(令和4年11月・B5・60分・100点)は別物。
- センターが言っているのは「形式に従っている」だけ。守られたのは4大問20/30/25/25の骨格であって、題材ではない。
- 試作にあって本試験4回に無いもの(パリティ・誤り訂正・論理回路・残差・累積相対度数・特許権・二次元コード・帽子掛け)と、本試験にあって試作に無いもの(チェックディジット・移動平均・画素・最大値・データベース・四分位・散布図行列)がある。両方向とも外れている。
- ただしセンターは「一回の試験で全分野を遍く網羅することは不可能」「数年間の本試験及び追・再試験を併せて全分野から広く出題することが求められる」と書いている。出ていない項目は消えたのではなく、順番が来ていない。
- 試作問題は解く価値がある。理由は60分100点の実物であることと、大学生1,115名に実際に解かせて分量を測った資料であること。予想が当たるからではない。
- 『旧情報』は令和7年度の1回(22,171人)で終わった科目。65点分は『情報Ⅰ』と共通問題なので、非共通部分を解く必要はない。
- 予想材料として本当に強いのは文部科学省の授業・研修用コンテンツ。試作 第4問の題材は授業用コンテンツ[5]「オープンデータの分析」とほぼ同じで、同じ調査が情報Ⅱ解説動画[1]にも使われている。
本講は参考書『藤原進之介の最強120講義』の一部です。全120講の一覧はこちら、公開済みの記事はカテゴリ「情報Ⅰ 最強120講義」からご覧いただけます。
出典
- 大学入試センター「令和7年度試験の問題作成の方向性、試作問題等」(令和4年11月9日公表/情報は令和4年12月23日一部訂正) https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kako_shiken_jouhou/r7/r7_kentoujoukyou/r7mondai.html
- 同「試作問題『情報Ⅰ』」 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003277.pdf /「試作問題『情報Ⅰ』(参考問題)」 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003154.pdf /「試作問題『旧情報(仮)』」 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003278.pdf
- 同 正解表『情報Ⅰ』 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003169.pdf / 正解表『情報Ⅰ』(参考問題) https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003170.pdf / 正解表『旧情報(仮)』 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003165.pdf
- 同「試作問題「情報」の概要」 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=744&f=abm00003141.pdf
- 同「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題モニター調査の実施概況について」(別添6) https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=743&f=abm00003527.pdf
- 同「サンプル問題(『地理総合』,『歴史総合』,『公共』,『情報』)」(令和3年3月24日公表) https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kako_shiken_jouhou/r7/r7_kentoujoukyou/index.html / サンプル問題『情報』問題 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=743&f=abm00000307.pdf / 正解表 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=743&f=abm00000294.pdf / ねらい https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=743&f=abm00000300.pdf
- 同「令和7年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書(本試験)」『情報Ⅰ』 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r7_hyouka/r7_hyoukahoukokusyo_honshiken.html / 同(令和8年度) https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r8_hyouka/r8_hyoukahoukokusyo_honshiken.html
- 同「令和7年度 試験情報データ(本試験)」設問別得点率及び正答率表 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r7_hyouka/r7_data.html / 同(令和8年度) https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r8_hyouka/r8_data.html
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」/「情報Ⅰ教員研修用教材」/「情報Ⅱ教員研修用教材」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00915.html
- 文部科学省「高等学校情報科に関する特設ページ(授業・研修用コンテンツ)」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html
(本記事の数値はすべて2026年8月3日に上記の一次資料から取得し、配点の合算・マーク数の計数・語の計数はいずれも当方で独立に検算しています。語の計数はUnicode正規化と空白除去を行ったうえでの機械計数です。試作問題・サンプル問題のPDFのうち図表が画像化されている部分は全文検索の対象外であり、「0件」は「テキスト抽出できた範囲で0件」を意味します。)
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第107講のWeb版です。
「過去問が少なくて、何を解けばいいか分からない」という方へ
数強塾では数学と情報Ⅰの両方に対応したオンライン個別指導を行っています。学習相談は無料、体験授業は3,000円(税込)でお受けしています。
