情報Ⅰ 最強120講義

【情報Ⅰ 第87講】相関と因果は違う──交絡・逆の因果・偶然を図で見分ける

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「アイスの売上と水難事故の件数には相関がある」。この話を聞いて笑える人でも、いざ試験の選択肢に「観光地をアピールしたから旅行者が増えた」と書かれると、うっかり選んでしまいます。第86講で相関係数の正体を確かめました。この第87講が扱うのは、その次の一歩です。相関があった。では、そこから何を言ってよくて、何を言ってはいけないのか。ここは共通テストが毎年ねらう場所であり、しかも国が作った「情報Ⅰ」教員研修用教材の本文には「因果」という語が一度も出てこない場所でもあります。自分で埋めるしかない穴を、原理から埋めます。

1. この講の問い

「2つの量に相関がある」と分かったとき、そこから何を言ってよくて、何を言ってはいけないのか。

2. 結論

・相関があっても、①逆の因果 ②第三の変数(交絡) ③偶然の3つの可能性が残っている。だから「Aが原因でBが起きた」とは言えない。

・因果を言うには、介入して比べる(対照実験・ランダム化・A/Bテスト)か、条件をそろえて比べる(層別・説明変数の追加)必要がある。ただ観察しただけのデータからは、原則として因果は言えない。

・ただし因果が言えなくても予測には使える。「相関は無意味」は逆向きの誤解である。

3. なぜそうなるのか

3-1 「相関がある」は何を言っているのか

第86講で、相関係数 は「2つの変数を標準化してから、偏差の積を平均したもの」だと確かめました。この定義をもう一度眺めてください。そこに入っているのは、各データの の値と の値だけです。

入っていないものを数え上げてみます。

(a) 時間の順序が入っていない。どちらが先に起きたかの情報は のどこにもありません。 を入れ替えても は同じ値です(定義が対称だからです)。

(b) 介入の結果が入っていない。 を人為的に動かしたら はどうなったか」というデータは、そもそも取られていません。

(c) 測っていない変数が入っていない。手元にある2列以外のことは、 には何ひとつ反映されません。

つまり は「この2列の数字は同じ向きに動いた」という記述にすぎません。原因という言葉は、この計算のどこからも出てきません。本講はこの一行を、3つの型に分けて言い直していきます。

3-2 型① 逆の因果

まず素朴な取り違えから。AとBに相関があるとき、A→Bだと思い込んだが、実はB→Aだった、というものです。

・「よく本を読む子は語彙が多い」── 語彙が多いから本を読めるのかもしれない。
・「運動している人は健康だ」── 健康だから運動できるのかもしれない。
・「レビューの点が高い店は繁盛している」── 繁盛している店にレビューが集まるのかもしれない。

相関係数の定義が について対称である以上、矢印の向きを一切決めてくれません。向きを決めているのは、いつでも読み手の頭の中にある物語のほうです。

3-3 型② 第三の変数(交絡)

これが本命です。AとBのどちらも原因ではなく、背後にある第三の変数Cが両方を動かしている場合。

学習指導要領解説 情報編は、情報Ⅰ(4)の学習活動でこう書いています。

調べようとするもの以外で結果に影響を与えている原因である交絡因子

文科省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章は、もう少し実務的に定義します。

交絡因子とは,対象としている 2 変数と相互に相関の高い隠れた変数(因子)のことである。

定番の例が「アイスの売上」と「水難事故の件数」です。この2つには確かに正の相関が出ます。しかしアイスを食べたから溺れるわけでも、溺れたからアイスが売れるわけでもありません。気温が両方を押し上げているだけです。図に描くと一目で分かります。

① 第三の変数(交絡)気温アイスの売上水難事故この2つの間に矢印は無いそれでも相関は出る② 逆の因果よく本を読む語彙が多い??どちら向きかは r では決まらない向きを決めているのは読み手の物語

図1 上が交絡。気温からアイスへ、気温から事故へ矢印が出ていて、アイスと事故のあいだには矢印が無い。それでも相関は出る。下が逆の因果。相関係数の定義は対称なので、矢印の向きは数値からは決まらない。

教材が置いている例も見ておきましょう。ひとつは時系列データの読み方についての注意です。

時系列データには,時間推移に伴うトレンド要因(例えば,その期間に全般的に体力や運動能力そのものが低下傾向にあるなど)が交絡因子として,項目に対して共通に関係する場合もあり,単純に散布図や相関係数から項目同士の直接的な関係と一概に判断するのは誤りである

年度ごとに集計した2つの指標が両方とも右肩下がりなら、それだけで相関は出ます。共通の原因は「年」です。

もうひとつは同じ教材の学習24(p.205相当)にあります。統計ソフトRに付属するダイヤモンドのデータで、横軸にカットの質、縦軸に価格をとった箱ひげ図を描くと、カットの質が上がるほど価格が下がって見える。教材はこれを「これは不思議な現象に見えるだろう」と書き、「ヒントは『交絡因子』である」とだけ添えて演習にしています

なぜ,このような逆転現象が起こっているのでしょうか。考えてみましょう。また,どのようなグラフを描けば,この現象について納得できる説明ができるでしょうか。

答えは書かれていません。ここは自分で埋める場所です。第4節で、同じ形の逆転を整数だけの表で作ってお見せします。

3-4 型③ 偶然

3つ目は身も蓋もない理由です。変数を大量に取れば、無関係でも高い相関を示す組は必ず出ます。

理由は組合せの数にあります。変数が 個あれば、2つ選ぶ組は

通り。 なら 435 通りです。1組あたりで が偶然 0.5 を超える確率が仮に数パーセントでも、435回試せば何組かは必ず超えます。これを多重比較の問題といいます。

「たくさん調べて、いちばん相関の高かった組を報告する」という手続きは、この意味で危険です。報告された の大きさは、実質的に「435個の中の最大値」であって、最初から1組だけ調べたときの とは意味が違います。4-3 で実際に乱数で作って確かめます。

3-5 では、因果を言うには何が要るのか

3つの型を並べたので、逆に「どうすれば因果を言えるのか」を考えます。答えは2方向あります。

(a) 介入して比べる。観察するのではなく、こちらから を動かして の変化を見る。しかも「 を動かしたグループ」と「動かさなかったグループ」のそれ以外の条件をそろえる。条件をそろえる最も確実な方法が、どちらのグループに入れるかをくじ引きで決めることです。くじ引きなら、測っている変数も測っていない変数も、平均的には両群で同じになります。これがランダム化であり、対照実験の背骨です。

観察しただけのデータ背景の違い配られ方結果効果と背景の違いが混ざるくじ引きで割り当てる背景の違いくじ引き配られ方結果背景から配られ方への矢印が切れる

図2 上の観察データでは「配られ方→結果」の効果と「背景の違い」が混ざる。下のようにくじ引きで割り当てを決めると、背景の違いから配られ方への矢印が切れ、残った矢印だけを効果として読める。これがランダム化の意味。

情報Ⅰの教員研修用教材にも、この考え方はきちんと顔を出しています。学習22 の統計的仮説検定の節です。

検定の考え方は,自動レコメンドや、Web ページなどである一定期間にAとBの2パターンを用意しておき,どちらが効果的な結果を残したかによって Web ページを自動改善する A/B テスト等,近年のデータに基づく情報技術を理解する上で重要になっている。

A/Bテストは、まさに「2パターンを用意して、割り当てを分けて、結果を比べる」という介入です。相関を眺めるのではなく、こちらが変えて比べる。ここが決定的に違います。同じ節には、もうひとつ大事な注意もあります。

p 値が有意水準より大きくなる場合は,帰無仮説が正しいというより,検出力の問題もあるので,今回のデータは帰無仮説を棄却する統計的な証拠にはならないという判断に留めることが重要である。

「差が出なかった」は「差が無い」ではない。相関の話でも同じで、「 が小さかったから関係が無い」とは言えません(第86講で見たとおり、放物線でも は0になります)。

(b) 条件をそろえて比べる。介入できない場合(気温を人為的に変えるわけにはいきません)、交絡因子の値ごとにデータを切り分けて、その中だけで比べます。教材が層別と呼んでいる操作です。

層別とは,名義尺度や順序尺度で記録されたデータの値を基に,データの対象をグループに分けて比較分析等をすることを指す。

気温を固定してしまえば、その中ではアイスも事故も気温から同じ影響を受けています。それでも相関が残るなら、気温以外の何かが働いている。消えるなら、気温だけで説明がついていたことになります(第80講で扱った尺度の話が、ここで効いてきます。層別できるのは名義尺度・順序尺度だからです)。

そして、ここに観察データの限界があります。層別も、次節で見る重回帰も、調整できるのは測ってある変数だけです。測っていない交絡因子には手が出ません。しかも「測っていない交絡因子が無いこと」はデータからは証明できない。だから観察しただけのデータからは、原則として因果は言えない。これは技術が足りないという話ではなく、構造の問題です。

3-6 因果でなくても予測には使える

ここで逆向きの誤解に釘を刺しておきます。「相関では因果が言えない」を「相関は使えない」と読んではいけません。予測という仕事に限れば、因果はいりません。

・傘の売上から、その日の降水を当てることはできる。傘が雨を降らせたわけではない。
・緯度から桜の開花日をかなり当てることができる。緯度が花を咲かせるわけではない。

なぜ当たるのかというと、共通の原因(雨・気温)を経由して情報が伝わっているからです。交絡は、因果を言いたい人にとっては敵ですが、予測したい人にとっては味方なのです。区別すべきなのは、次の一点だけです。

予測:「 がこの値のとき、 はいくつくらいだろう」── 観察の世界の質問。相関で足りる。

介入:「こちらで変えたら はどう変わるだろう」── 操作の世界の質問。因果が要る。

傘を1万本余分に配っても雨は降りません。予測モデルを、そのまま「何をすればよいか」の根拠に使った瞬間に事故が起きます。この区別は、後で見るように情報Ⅱの教材が正面から立てています。

3-7 制度の話 ── 国の教材に「因果」の語が無い

最後に、私がこの講を厚く書く理由を制度の側から書いておきます。

学習指導要領解説 情報編は、情報Ⅰ(4)の学習活動として「相関関係や因果関係などのデータの関係性」「交絡因子」を名指ししています。ところが、同じ文部科学省が作った「情報Ⅰ」教員研修用教材 第4章のPDF全文を検索すると、「因果」という語が1回も出てきません(2026年8月3日に全文を抽出して確認)。「交絡」は3か所ありますが、いずれも「交絡因子」という語が置かれているだけで、相関と因果の関係を正面から論じた節はありません。

情報Ⅱ側も同じでした。「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章(学習11〜18)にも「因果」「交絡」は0件です。

つまり「相関と因果は違う」は、指導要領には書かれているのに、国の教材本文には解説が無い。教科書や先生によって扱いの厚みが大きく変わる場所であり、それでいて共通テストは出す。本書で私が拾い続けている「一次資料の本文に無いのに試験に出る」項目の、4つ目です(トレース、サブネット、論理回路に続きます)。

4. 手で確かめる

4-1 擬似相関を自分で作って、層別で消す

共通の原因からだけ2つの変数を作ります。互いには一切参照させません。それでも相関が出ることを確かめ、共通原因の値を固定すると消えることを確かめます。乱数の種を固定してあるので、そのままコピーすれば同じ数字が出ます。

import random
from statistics import mean, pstdev
def corr(a, b):
    ma, mb = mean(a), mean(b)
    sa, sb = pstdev(a), pstdev(b)
    return sum((p - ma) * (q - mb) for p, q in zip(a, b)) / (len(a) * sa * sb)
random.seed(87)
n = 3000
T, A, B = [], [], []
for _ in range(n):
    t = random.randrange(20, 36)          # 気温 20〜35℃
    a = 3.0 * t + random.gauss(0, 6)      # アイスの売上(気温だけで決まる+雑音)
    b = 0.4 * t + random.gauss(0, 3)      # 水難事故の件数(気温だけで決まる+雑音)
    T.append(t); A.append(a); B.append(b)
print("--- 全データ n =", n)
print("r(気温, アイス)   =", round(corr(T, A), 3))
print("r(気温, 事故)     =", round(corr(T, B), 3))
print("r(アイス, 事故)   =", round(corr(A, B), 3))
print("--- 気温を固定して層別する")
for t0 in (24, 28, 32):
    aa = [a for t, a in zip(T, A) if t == t0]
    bb = [b for t, b in zip(T, B) if t == t0]
    print("気温 %d℃ の日だけ n = %d   r(アイス, 事故) = %.3f" % (t0, len(aa), corr(aa, bb)))

実行結果です(2026年8月3日、Python 3.9.6 で実行)。

--- 全データ n = 3000
r(気温, アイス)   = 0.914
r(気温, 事故)     = 0.514
r(アイス, 事故)   = 0.469
--- 気温を固定して層別する
気温 24℃ の日だけ n = 177   r(アイス, 事故) = 0.003
気温 28℃ の日だけ n = 231   r(アイス, 事故) = -0.029
気温 32℃ の日だけ n = 184   r(アイス, 事故) = -0.084

a を作る行は b を一度も見ていませんし、b を作る行も a を見ていません。因果関係はゼロです。それでも が出ます。ところが気温を1℃に固定すると、どの層でもほぼ0になる。気温を通り道にして流れていた相関だったということです。

この実験は、3-3 の図1をそのまま数字にしたものです。矢印が無いのに相関が出る。矢印が出ている変数を固定すると相関が消える。これが交絡の正体です。

4-2 層別すると勝敗が逆転する(整数だけの例)

完全な架空データです。2種類の課題プリントPとQを配り、後日のテストの合格率を比べたとしましょう。

Pの合格率 Qの合格率
上位クラス 240 / 300 = 80.0% 85 / 100 = 85.0%
下位クラス 30 / 100 = 30.0% 105 / 300 = 35.0%
層をまぜた全体 270 / 400 = 67.5% 190 / 400 = 47.5%

どちらの層でもQのほうが5ポイント高い。ところが層をまぜて集計すると、Pが 67.5% でQの 47.5% を大きく上回ります。

種明かしはこうです。上位クラスにはもともと合格しやすい生徒が多く、そこにPが多く配られていました(P 300人・Q 100人)。下位クラスではその逆(P 100人・Q 300人)。交絡因子はもともとの学力層であり、それが「どちらのプリントを受け取ったか」と「合格したか」の両方に効いています。

割り算だけで追えます。240+30=270、300+100=400 で 67.5%。85+105=190、100+300=400 で 47.5%。電卓もいりません。

この表が示しているのは、集計の単位を変えると結論がひっくり返るということです。どちらの数字が正しいかは、データだけでは決まりません。「プリントの効果を知りたい」のであれば層別したほうを見るべきですし、「実際に何人が合格したか」を知りたいなら全体を見るべきです。目的を決めずに集計すると、都合のよい表を選べてしまいます。

教材がダイヤモンドの箱ひげ図で出した宿題も、これと同じ形です。カットの質が高い石ほど小さく仕上げられているなら、大きさ(カラット)が交絡因子になり、価格の逆転が起こりえます。教材は答えを書かず「どのようなグラフを描けば説明できるか」と問うています。答えは、上の表と同じで層別して描き直すことです。

4-3 偶然だけで 0.7 の相関を作る

互いにまったく無関係な乱数の系列を30本用意します。各系列は20個の値です。全部で435組の相関係数を計算してみます。

import random
from statistics import mean, pstdev
def corr(a, b):
    ma, mb = mean(a), mean(b)
    sa, sb = pstdev(a), pstdev(b)
    return sum((p - ma) * (q - mb) for p, q in zip(a, b)) / (len(a) * sa * sb)
random.seed(2026)
m, n = 30, 20                       # 30本の系列、それぞれ20個の値
S = [[random.gauss(0, 1) for _ in range(n)] for _ in range(m)]
pairs = []
for i in range(m):
    for j in range(i + 1, m):
        pairs.append((abs(corr(S[i], S[j])), i + 1, j + 1))
pairs.sort(reverse=True)
print("組の総数 =", len(pairs))
print("|r| が大きい順に上位5組")
for v, i, j in pairs[:5]:
    print("  系列%2d と 系列%2d : |r| = %.3f" % (i, j, v))
print("|r| >= 0.5 の組の数 =", sum(1 for v, _, _ in pairs if v >= 0.5))
print("|r| >= 0.6 の組の数 =", sum(1 for v, _, _ in pairs if v >= 0.6))

実行結果です(2026年8月3日、Python 3.9.6 で実行)。

組の総数 = 435
|r| が大きい順に上位5組
  系列21 と 系列22 : |r| = 0.722
  系列12 と 系列20 : |r| = 0.619
  系列 5 と 系列10 : |r| = 0.591
  系列18 と 系列21 : |r| = 0.568
  系列 7 と 系列23 : |r| = 0.562
|r| >= 0.5 の組の数 = 10
|r| >= 0.6 の組の数 = 2

全部ただの乱数です。それでも435組のうち10組が 、最大は 0.722 に達します。「系列21と系列22には強い相関がある」と報告したら完全な嘘になりますが、その1組だけを切り出して見せられたら、誰も嘘だと分かりません。

相関を報告するときは、いくつの組を調べたうえでその1組を選んだのかまで書く。これが多重比較への最低限の防御です。逆に言えば、ニュースやSNSで「意外な相関」を見たときに最初に聞くべき質問は「ほかにいくつ調べましたか」です。

5. 共通テストではこう出る(重要度 A)

第4問(データの活用)の中で、散布図やクロス集計表を見せて「この図から言えることはどれか」を選ばせる型が定番です。ここで問われているのは計算力ではなく、読み取りの限界を知っているかどうかです。

選択肢の作られ方には決まった構造があります。大きく3種類が混ぜられます。

(1) 図から本当に読み取れる記述(=正解)。「〜の傾向がある」「〜と〜には正の相関が見られる」のように、傾向の記述で止まっているのが特徴です。

(2) 因果を断定した記述(=誤り)。「〜が原因で〜が増えた」「〜すれば〜が増える」「〜のおかげで〜になった」。相関しか描かれていない図から、原因を名指ししてしまっています。この型は必ず1つは混ざります。

(3) 全体の傾向を個々のデータに当てはめた記述(=誤り)。「〜が多い地域は必ず〜も多い」「すべての〜について〜である」。散布図の傾向は平均的な話であって、個々の点には例外があります。

したがって、選択肢を読むときは動詞と副詞に線を引くのが一番速い。

・因果を示す語 …… 原因・要因・影響を与えた・〜のおかげで・〜すれば〜になる・効果があった・つながった

・全称を示す語 …… 必ず・すべて・どの〜も・例外なく・常に

このどちらかが入っていたら、まず疑う。散布図1枚から因果は出てきませんし、全称命題も出てきません。私は授業でも「選択肢の中でいちばん強いことを言っている文が、たいてい誤り」と伝えています。

もうひとつ頻出なのが交絡因子を選ばせる型です。「この2つの量に相関が見られた理由として考えられるものはどれか」と聞き、選択肢に「両方に影響を与える別の要因」を混ぜてきます。図1の上の図を頭に置いていれば、「その要因は、両方に矢印を出せるか」だけを判定すればよい。片方にしか効かない要因は、相関の説明になりません。

逆方向の引っかけにも注意してください。「相関があるだけでは因果は言えない」は正しいが、「相関があるから因果は無い」は間違いです。因果があるときにも相関は出ます。データからは判断できないだけです。選択肢に「因果関係は存在しない」と断定してあれば、それも言い過ぎで、誤りになります。

2026年度(令和8年度)本試験の第4問は、気象庁のオープンデータを使った桜の開花日の予測が題材でした(情報処理学会 学会誌「情報処理」note版に掲載された大橋真也氏の分析による。2026年2月27日公開)。緯度や氷点下日数といった変数を足して予測の精度を上げていく流れで、そこで問われているのは予測であって因果ではありません。3-6 の区別ができていれば、この誘導は自然に読めます。

6. 情報Ⅱではこうなる

6-1 交絡因子は、情報Ⅰと情報Ⅱの両方に名指しされている

学習指導要領解説 情報編の全文で「交絡」は2回しか出てきません。1回は情報Ⅰ(4)、もう1回が情報Ⅱ(3)イ(ア)です。並べてみると、文言と置かれている文脈がはっきり違います

情報Ⅰ(4) 情報Ⅱ(3)イ(ア)
原文 調べようとするもの以外で
結果に影響を与えている
原因である交絡因子
測定しようとするもの以外で
結果に影響を与える
交絡因子
前後の文脈 相関係数などの統計指標、
相関関係や因果関係、
単回帰分析
収集・整理・整形、
様々なバイアス、
入手元の違いによる信頼性
つまり 分析するときに
気づくもの
集めるときに
設計するもの

情報Ⅰでは、目の前に置かれたデータを分析していて「これは交絡かもしれない」と気づきます。情報Ⅱでは、そもそもどのデータを測って集めるかを決める段階で交絡を考える。交絡因子を後から調整するには、その変数が測られていなければなりません。だから「集めるときに決まってしまう」のです。同じ語なのに、責任の重さが違います。

6-2 重回帰=「他の条件をそろえたうえで」を計算する装置

情報Ⅱの学習13は「重回帰分析とモデルの決定」です。第86講で見たとおり、この学習は情報Ⅰ教員研修用教材187ページの演習2の続きから始まります。体力測定データで「立ち幅跳び」から「50m走のタイム」を予測する単回帰(寄与率45%)に、「ハンドボール投げ」「握力得点」「上体起こし」を加えて説明変数を4本にすると、寄与率は 52.5%(統計ソフトRの出力で Multiple R-squared: 0.5249)まで上がります。

説明変数を増やすという操作は、予測の文脈では「精度を上げる」ことですが、因果の文脈では別の意味を持ちます。重回帰の各係数は「他の説明変数の値をそろえたときの、その変数の効き方」を表す。つまり 3-5(b) の層別を、連続的な変数に対して数式でやっているのが重回帰です。交絡因子を説明変数として式に入れることが、そのまま調整になります。

ただし、入れられるのは測ってある変数だけです。ここは 3-5 で書いた限界がそのまま持ち越されます。説明変数を増やすことは交絡の調整に「あたる」けれども、それで観察データが実験データに変わるわけではありません。

6-3 教材自身が「予測」と「要因分析」を切り分けている

ここが本講と情報Ⅱの接続の核心です。学習13の【研修の目的】には、次の2項目が並んでいます。

課題発見とデータに基づく問題解決の枠組みにおける予測と予測モデル構築の意義,要因分析と制御の位置付けを理解する。

予測と要因分析の違いを理解し,予測精度を上げるためのモデルの改良(モデリング)の方法を理解する。

本文はこう説明します。

各説明変数の値の変化が目的変数にどのように影響するのかという効果を推測(要因分析)したり,シミュレーションを行って最適な Y の値を探索したりと,単純に Y の値を予測するだけではなく制御する方策に関しても考察を深めることもできる。

予測・要因分析・制御の三つ組です。3-6 で私が書いた「観察の世界の質問」と「操作の世界の質問」の区別が、教材の研修目的そのものになっています。情報Ⅰでは「相関を見つけて回帰直線を引く」で終わりますが、情報Ⅱではその式で何をするつもりなのかを先に決めろと言われるわけです。

そして学習13は、モデル選択の話の中で決定的な警告を置いています。統計ソフトの自動変数選択(総当法・変数増加法・変数減少法・変数増減法)について、こうです。

何が変数として選択されたかを全くブラックボックスとし単純に予測モデルを構築したい場合は,自動変数選択の機能は便利ではあるが,説明変数が目的変数に与える効果に言及し要因分析を行う場合は,自動変数選択は安易に使用すべき手法ではない

予測が目的なら機械に変数を選ばせてよい。しかし「この変数がこう効いている」と言いたいなら、機械に選ばせてはいけない。同じ重回帰でも、目的によって許される手続きが違うということです。相関と因果の区別が、そのまま作業手順の分岐になった姿だと言えます。

6-4 矢印の図は、情報Ⅱでは「特性要因図」として出てくる

3-3 で描いた矢印図に対応するものが、情報Ⅱの教材にもあります。学習13は重回帰に入る前に、特性要因図(フィッシュボーンダイアグラム)・要因連関図・イシューツリー・ロジックツリー・ロジックモデルを挙げて、こう書きます。

いずれにしても,何が何に影響を与えるかの構図(仮説)を明示することが肝要である。

演習1は「予測したい目的変数、予測に使用する説明(要因)変数の候補と、なぜ、それが要因となるのかの理由を考え、特性要因図にまとめましょう」です。

データを触る前に、矢印の図を描け。これが情報Ⅱの入口に置かれています。相関係数を計算するのはそのあと。順序が逆になった瞬間に、3-4 の多重比較が始まってしまうからです。

6-5 それでも限界は消えない

重回帰で交絡を調整し、変数選択を慎重にやり、矢印の図を先に描いても、観察データであるかぎり因果の主張には限界が残ります。測っていない交絡因子は調整できませんし、「測っていない交絡因子が無いこと」はデータからは示せません。

だから最後は 3-5(a) に戻ります。因果を本気で言いたいなら、介入して比べる。情報Ⅰの教材がA/Bテストに触れているのは、その入口を示しているのだと私は読んでいます。

7. この講のまとめ

・相関係数は「2列の数字が同じ向きに動いた」という記述にすぎない。時間の順序も、介入の結果も、測っていない変数も入っていない。

・だから相関からは因果が出ない。残る可能性は①逆の因果 ②第三の変数(交絡) ③偶然の3つ。

・因果を言うには介入して比べる(ランダム化・A/Bテスト)か、条件をそろえて比べる(層別・説明変数の追加)。ただし調整できるのは測ってある変数だけで、観察データには原則として限界がある。

因果が言えなくても予測には使える。予測(観察の世界)と介入(操作の世界)を混ぜないこと。

・共通テストでは、選択肢に必ず「因果を断定した文」と「全称にした文」が混ざる。動詞と副詞に線を引いて切る。

・情報Ⅱでは、交絡が「集める段階で設計するもの」に変わり、重回帰が「他の条件をそろえる装置」になる。教材自身が予測・要因分析・制御を切り分けている。

参考にした一次資料(すべて2026年8月3日取得)

共通テストの出題については、大橋真也「令和8年度大学入学共通テスト『情報Ⅰ』第4問の分析」情報処理学会 学会誌「情報処理」note版(2026年2月27日)https://note.com/ipsj/n/n1f1fb760e00c を参照しました。本文中の設問の説明は出題形式についてのもので、問題文・選択肢は引用していません。

執筆者:藤原進之介(数強塾 代表)

数強塾 代表。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。情報Ⅰの参考書を複数執筆しています。本連載『藤原進之介の最強120講義』は、情報Ⅰの各項目を情報Ⅱの内容まで引き上げて解説する全120講のシリーズです。

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