こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第10講「匿名加工情報・仮名加工情報とデータ利活用」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はB(毎年は出ないが、出れば取り切れる)、情報Ⅱでの接続先は(3)情報とデータサイエンスです。
第9講「個人情報とプライバシー権」が「何が個人情報か、なぜ守るのか」を扱いました。すると必ず次の疑問が来ます。「では、そのデータはもう使えないのか」。この講はその答え、つまり守りながら使うための制度だけを扱います。
先に一つお断りします。法律は誤ると実害が出ます。 この記事の条文はすべて e-Gov 法令検索の原文と個人情報保護委員会のガイドライン・規則に当たって書きました。他サイトの要約は写していません。制度の記述はすべて2026年8月時点のものです。
1. この講の問い
名前を消せば、そのデータは自由に使ってよいのか。
2. 結論
名前を消しただけでは足りません。残った列の組合せで個人が絞り込めてしまうからです。だから法律は、①どこまで加工すればよいかの基準を委員会規則まで降りて定め、②そのうえで「元の人を特定しようとする行為」そのものを禁止しました。技術と行為の二段構えです。そして使い道が2通りあるので制度も2つあります。社内分析用の仮名加工情報(第三者提供は原則禁止)と、社外提供用の匿名加工情報(本人同意なしで渡せるが加工基準が厳しい)です。
3. なぜそうなるのか
3-1. 「名前を消す」は「識別を消す」ではない
まず定義文に戻ります。個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律・平成15年法律第57号)第2条第1項第1号です。
当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等……により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第2条第1項第1号
括弧の中が容易照合性です。氏名という「1列」を消しても、残った列の組合せが他の情報と照らし合わせられる状態なら、識別可能性は消えていません。
文部科学省「情報Ⅰ」教員研修用教材 第1章も、この定義文をそのまま引用したうえで匿名加工情報の説明へ進みます。国の教材が「容易照合性 → 匿名加工情報」という順で並べているのは偶然ではありません。名前を消すだけでは足りない、という事実がこの制度の出発点だからです。
3-2. だから法律は「加工の基準」を規則まで降ろした
匿名加工情報の定義は第2条第6項にあります。
「匿名加工情報」とは、次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう。
e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第2条第6項
そして第43条第1項が、加工の方法を個人情報保護委員会規則に委ねます。実体は個人情報の保護に関する法律施行規則(平成28年個人情報保護委員会規則第3号)第34条にあり、基準は5つです。ここまで降りないと「どこまで消せばよいか」は分かりません。
| 号 | 内容 | 何をしている規定か |
|---|---|---|
| 1号 | 特定の個人を識別できる記述等の全部または一部を削除 | 名札を外す |
| 2号 | 個人識別符号の全部を削除 | 名札を外す |
| 3号 | 元データと加工後データを連結する符号を削除 | 戻り道を断つ |
| 4号 | 特異な記述等を削除 | 目立つ人を隠す |
| 5号 | 前各号のほか、個人情報データベース等の性質を勘案して適切な措置 | 組合せによる絞り込みを潰す |
主役は4号と5号です。 1〜3号は名札を外す作業にすぎません。組合せによる絞り込みに手を入れるのは4号と5号だけです。
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」は、4号の想定事例に「症例数の極めて少ない病歴を削除する」「年齢が『116歳』という情報を『90歳以上』に置き換える」を挙げます。そして5号の解説にこう書いています。
同条第1号から第4号までの加工を施した情報であっても、一般的にみて、特定の個人を識別することが可能である状態あるいは元の個人情報を復元できる状態のままであるといえる場合もあり得る。
個人情報保護委員会「ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」3-2-2-5
「1〜4号をやっても足りないことがある」と、国のガイドラインが自分で書いている。 ここが本講の芯です。同ガイドラインの別表2は、そのための手法として項目削除/レコード削除/セル削除・一般化・トップ(ボトム)コーディング・ミクロアグリゲーション・データ交換(スワップ)・ノイズ付加・疑似データ生成の7種類を挙げています。
3-3. 技術だけでは守れないから、行為そのものを禁じた
加工の基準をどれだけ細かく書いても、「加工後のデータに別のデータをぶつけて元の人を割り出す」ことは技術的には可能です。これを再識別といいます。 だから法律は、行為そのものを禁じました。
第43条第5項……作った本人(個人情報取扱事業者)は、本人を識別するために匿名加工情報を他の情報と照合してはならない
第45条(識別行為の禁止)……受け取った側(匿名加工情報取扱事業者)は、削除された記述等・個人識別符号・加工の方法に関する情報を取得してはならず、他の情報と照合してもならない
第41条第7項……仮名加工情報についても同じ禁止がかかる
さらに第43条第2項と規則第35条が加工方法等情報の安全管理措置を義務づけ、ガイドラインは「氏名と仮IDの対応表は匿名加工情報の作成後は破棄しなければならない」と明記します。
図1 加工基準だけでは安全は作れない。だから行為規制が要る。
3-4. なぜ制度が2つあるのか——用途が違うから
仮名加工情報は令和2年改正(令和2年法律第44号、令和4年4月1日全面施行)で新しく作られました。定義文を並べると差が一目で分かります。
仮名加工情報(第2条第5項)……他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報
匿名加工情報(第2条第6項)……特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたもの
e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第2条第5項・第6項
仮名加工情報には「照合しない限り」という条件が付いている。匿名加工情報には「復元できないように」という要求が上乗せされている。この1行の差が、以下すべての差を生みます。
| 仮名加工情報 | 匿名加工情報 | |
|---|---|---|
| 加工基準 | 規則第31条(3つ) | 規則第34条(5つ) |
| 個人情報にあたるか | 原則あたる | あたらない |
| 第三者提供 | 原則禁止 (第41条第6項・第42条第1項) |
本人同意なしで可 (公表+明示が条件。第43条第4項・第44条) |
| 利用目的 | 変更できる (第41条第9項で第17条第2項を適用除外) |
— |
| 開示・利用停止等の請求 | 適用されない(第41条第9項) | 対象外 |
| 再識別 | 禁止(第41条第7項) | 禁止(第43条第5項・第45条) |
| 主な使いどころ | 社内での分析 | 社外への提供 |
そして2つの規則の差分を見ると、設計思想がそのまま出てきます。
匿名加工にだけある:3号 連結符号の削除/4号 特異な記述等の削除/5号 データベース等の性質を勘案した措置
仮名加工にだけある:3号 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある記述等の削除(クレジットカード番号など)
つまり、仮名加工は「漏れても金銭被害が出ないところまで」削り、匿名加工は「組合せでも当てられないところまで」削る。深さが違うのは、出ていく先が違うからです。社内に留まるなら、識別を防ぐ仕事は行為規制(第41条第7項)に任せられる。社外へ出せば行為規制の目は届きにくくなるので、そのぶんを加工の深さで埋めるしかない。
図2 同じ「加工」でも、行き先が違えば必要な深さが違う。
個人情報保護委員会のFAQ(Q14-1「匿名加工情報と仮名加工情報の違いは何ですか」)も、違いを「匿名加工情報は個人情報に該当せず第三者提供が可能、仮名加工情報は原則として個人情報に該当し第三者提供は原則禁止」と整理しています。
3-5. なぜ社会は「使う」ほうへ舵を切ったのか
守るだけならデータは死蔵されます。ここは制度の側がはっきり書いています。学習指導要領解説 情報編(平成30年7月)の第3章 第2節「科学的な理解に基づく情報モラルの育成」です。
知的財産や個人情報に関する扱いについては、関係する法律や規則ができた経緯や目的の理解を図るようにし、保護と同時に活用にも配慮されていることを理解するようにする。
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」第3章 第2節
さらに同じ解説の情報Ⅰ (1) ア(イ) の内容の取扱いに、こう書かれています。
また、個人情報の保護に関する法律における個人データの例外的な第三者提供について考えることによって、個人情報の保護と活用の在り方を扱うことが考えられる。
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」情報Ⅰ (1) ア(イ)
面白いのは、この解説が「匿名加工情報」という語を一度も使っていないことです(後で数字を出します)。国は「保護と活用」を扱えと指示しながら、その具体を第三者提供の例外のほうに置いた。匿名加工情報という制度名が出てくるのは、教員研修用教材の側だけです。
「使う」ほうへ舵を切った実例として、いちばん分かりやすいのは医療です。医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律(平成29年法律第28号。通称・次世代医療基盤法)は、法律の題名そのものに「匿名加工」と「仮名加工」が入っています。第1条の目的はこうです。
……健康・医療に関する先端的研究開発及び新産業創出を促進し、もって健康長寿社会の形成に資することを目的とする。
e-Gov法令検索「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律」第1条
令和5年改正で仮名加工医療情報の仕組みが加わり、令和6年4月1日に施行されました。「守る」と「使う」は対立ではなく、制度が両方を同時に成立させようとしている。 これが本講のいちばん大事な視点です。
3-6. 2026年8月時点の最新——第3の道が用意された
2026年(令和8年)7月17日、個人情報保護法等の一部を改正する法律が公布されました。 個人情報保護委員会事務局の資料「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(令和8年7月)によれば、改正の柱の一つが統計作成等の特例です。
個人データ等の第三者提供及び公開されている要配慮個人情報の取得について、統計情報等の作成(※)にのみ利用される場合は本人同意を不要とする。※統計作成等であると整理できるAI開発等を含む。(第30条の2、第31条の3)
個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(令和8年7月)
施行期日は「原則として公布の日から起算して2年を超えない範囲内」で政令に委ねられており、2026年8月時点では未施行です。試験に条番号が出ることはまずありません。押さえるべきは構図のほうです。
本人同意なしにデータを渡す道が、①匿名加工情報 ②統計作成等の特例(新設・未施行)の2本立てになろうとしている。同じ資料が理由を「特定の個人との対応関係が排斥された統計情報等の作成や利用は……個人の権利利益を侵害するおそれが少ない」と書いていて、これは匿名加工情報を作ったときとまったく同じ論理です。制度は同じ考え方を、別の入口でもう一度使っている。
4. 手で確かめる
ここが本講の目玉です。実在の個人・実在の名簿は一切使いません。 この記事のために作った架空の10行で、「名前を消しただけ」に何が起きるかを実際に数えます。
段階0:元の名簿(これは個人情報そのもの)
| 生徒番号 | 氏名 | 学年 | 部活 | 誕生月 | 通学時間 | 身長 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| S-001 | 山田太郎 | 1 | サッカー部 | 4月 | 25分 | 162cm |
| S-002 | 佐藤花子 | 1 | サッカー部 | 6月 | 40分 | 158cm |
| S-003 | 鈴木一郎 | 1 | 吹奏楽部 | 10月 | 15分 | 165cm |
| S-004 | 田中二郎 | 1 | 美術部 | 11月 | 30分 | 170cm |
| S-005 | 高橋三郎 | 2 | 陸上部 | 7月 | 20分 | 174cm |
| S-006 | 伊藤四郎 | 2 | バスケットボール部 | 9月 | 45分 | 168cm |
| S-007 | 渡辺五郎 | 3 | 書道部 | 1月 | 35分 | 160cm |
| S-008 | 中村六子 | 3 | 吹奏楽部 | 2月 | 10分 | 155cm |
| S-009 | 小林七海 | 3 | テニス部 | 10月 | 50分 | 163cm |
| S-010 | 加藤八重 | 3 | 陸上部 | 12月 | 25分 | 185cm |
段階1:氏名だけを消す(世間でいう「匿名化」)
氏名の列を落としました。ここで何列そろえば1人に絞れるかを数えます。以下はすべて実際に実行した結果です。
学年だけ : グループ数 3 / 1人だけのグループ 0件 / 最小グループ 2人
学年+部活 : グループ数 9 / 1人だけのグループ 8件 / 最小グループ 1人
学年+部活+誕生月: グループ数10 / 1人だけのグループ 10件 / 最小グループ 1人
学年+部活+誕生月の3列で、10人全員が1人に確定します。 名前は1文字も残っていないのに、です。しかも高校生なら、同級生のこの3つは普段の会話でだいたい知っている。これが「他の情報と容易に照合することができ」の実物です。
段階2:規則第34条の1〜4号だけを機械的に当てる
氏名を削除(1号)、個人識別符号はもともと無し(2号)、生徒番号=連結符号を削除(3号)、185cmを「175cm以上」に置き換え(4号・トップコーディング)。結果はこうなりました。
加工後の全列 : グループ数10 / 1人だけのグループ 10件 / 最小グループ 1人
学年+部活+誕生月: グループ数10 / 1人だけのグループ 10件 / 最小グループ 1人
まったく改善していません。 1〜4号は「名札を外す」「珍しい値を潰す」規定であって、組合せの問題を解いていないからです。ガイドラインが5号を置き、「1号から4号までの加工を施した情報であっても……識別することが可能である状態……のままであるといえる場合もあり得る」と書いた理由が、ここで数字として見えます。
段階3:5号(データベース等の性質を勘案)まで当てる
誕生月 → 四半期に一般化、部活 → 運動部・文化部に一般化、通学時間と身長 → 項目削除。
加工後の全列: グループ数 5 / 1人だけのグループ 0件 / 最小グループ 2人
----
(1年, 文化部, 10〜12月) → 2人
(1年, 運動部, 4〜6月) → 2人
(2年, 運動部, 7〜9月) → 2人
(3年, 文化部, 1〜3月) → 2人
(3年, 運動部, 10〜12月) → 2人
ようやく「誰か1人に確定できない」状態になりました。代わりに、残った列は3つだけです。
段階4:列を1本戻すと壊れる
+通学時間(30分未満/以上の2区分のみ): 1人だけのグループ 10件 / 最小グループ 1人
+身長(10cm刻みに丸めたもの) : 1人だけのグループ 10件 / 最小グループ 1人
たった2区分の列を1本戻しただけで、10人全員がまた1人に確定します。
1.難しさは「列の数」ではなく「組合せの数」にある。 列が1本増えるだけで、区別できる組合せは掛け算で増えます。
2.10行では、有用性を保ったまま匿名加工することはほぼ不可能。 匿名加工情報が現実に使われるのが何十万件という規模のデータである理由がこれです。規則第34条第5号が「個人情報データベース等の性質を勘案し」と書いているのは、同じ加工でも母体が小さいと安全にならないからです。
3.だからこそ最後の砦が行為規制になる。 第45条「識別行為の禁止」は、技術で守り切れない部分を法が引き受けている条文です。
5. 共通テストではこう出る
重要度は B です。「毎年出る」と煽らず、根拠を出します。
私が確認できた大学入試センターの公開資料——令和7年度 本試験・追再試験、令和8年度 本試験、試作問題の概要、令和9年度の出題方針——の本文には、「匿名加工」「仮名加工」の語が1件もありませんでした。「個人情報」が本文に現れるのは令和7年度 追・再試験 第1問だけで、令和7年度・令和8年度の本試験には0件です。第12講で著作権について確認したのと同じ、「毎年出る」ではなく「出れば取り切る」型だと考えてください(範囲の宣言つきの事実です。上記以外の回は確認していません)。
その1問の設問構造だけを説明します(大学入試センターの著作物なので、問題文・選択肢は転載しません)。
① 会員制サービスのプライバシーポリシー(利用目的と第三者提供に関する部分)が提示される
② 会員がその方針に同意している前提で、3つの事例それぞれについて「問題とならない/問題となりうる」を判定させる
③ 解答は〇×の組合せを選ぶ形式
問われているのは知識ではなく当てはめです。対策は3つに絞れます。
- まず利用目的の範囲内かを見る。 方針に書かれた目的から外れていれば×
- 次に「第三者」に当たるかを見る。 委託先・事業承継・共同利用は第三者に当たりません(法第27条第5項)。ここが最大の引っかけです
- 「加工したから自由になる」と即断しない。 匿名加工情報として渡せるのは、規則第34条の基準に従って加工し、項目と方法を公表し、匿名加工情報である旨を明示した場合だけです(第43条第3項・第4項)
よくある誤答パターン
| 選択肢の言い回し | 正誤 | 理由 |
|---|---|---|
| 名前を消したから第三者に提供してよい | × | 氏名の削除は規則第34条第1号を満たすだけ。4号・5号と公表・明示が残る |
| 匿名加工情報にすれば何をしてもよい | × | 第45条の識別行為の禁止と、第43条第3項・第4項の公表義務が残る |
| 仮名加工情報にすれば外部に渡せる | × | 逆。仮名加工情報は第三者提供が原則禁止(第41条第6項) |
| 匿名加工情報も個人情報である | × | 個人情報には当たらない。だから開示請求の対象にもならない |
| 仮名加工情報は本人からの開示請求の対象になる | × | 第41条第9項で第32条〜第39条は適用されない |
6. 情報Ⅱではこうなる——この講は、情報Ⅱへ行くと扱いが薄くなる
本書は「上限を情報Ⅱに置く」と宣言しています。しかし全部の項目が情報Ⅱへ伸びるわけではありません。 本講はその例外です。ごまかさずに数字を出します。
6-1. 実測した語数(2026年8月3日に私が数え直したもの)
PDFのテキスト抽出は語の途中で改行が入るので、空白と改行を全部除去してから数えました。学習指導要領解説は第1部(共通教科=情報Ⅰ・情報Ⅱ)と第2部(専門学科の専門教科情報科)を分けて数えています。混ぜて数えると共通教科の厚みを見誤るからです。
| 語 | 解説 第1部 (共通教科) |
解説 第2部 (専門教科) |
情報Ⅰ 教員研修用教材 |
情報Ⅱ 教員研修用教材 |
|---|---|---|---|---|
| 匿名加工情報 | 0 | 0 | 6(全て第1章) | 0 |
| 仮名加工情報 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 個人情報保護法 | 0 | 0 | 11(全て第1章) | 0 |
| 個人情報保護委員会 | 0 | 0 | 6 | 0 |
| 個人情報 | 15 | 15 | 61(第1章59・第4章2) | 10 |
| プライバシー | 0 | 5 | 12 | 0 |
情報Ⅱ教員研修用教材は序章・第1章・第2章・第3章前半・第3章後半・第4章・第5章の7分冊すべてを検索した結果です(第3章が前半・後半の2分冊であることを見落とすと、この種の「0件」は簡単に間違えます)。
ついでに一つ。「プライバシー」は学習指導要領解説の共通教科側に0件で、5件はすべて専門教科情報科の側でした。共通教科の解説は「プライバシー」という語を使わずに、法規と個人情報という言い方で通しています。
6-2. 情報Ⅱ側の「個人情報」10件は、何をしているのか
件数だけ数えて終わりにせず、10件すべてを目で確認しました。
| 場所 | 件数 | 文脈 |
|---|---|---|
| 第1章 | 4 | 情報セキュリティポリシー策定組織の図/不正アクセスとUSBメモリ紛失/持ち出し端末の取り決め/メールの宛先誤りによる漏洩 |
| 第4章 | 5 | 漏洩したときの影響を考える研修目的/情報システムのトラブル一覧の「個人情報の流出」/同上/データ流出と暗号化/SSL・TLSの説明文 |
| 第5章 | 1 | 探究のテーマ一覧「情報システムにより個人情報が収集されること、その利便性と危険性」 |
10件中9件が「漏らさない」文脈です。情報Ⅰでは使うために加工する対象だった個人情報が、情報Ⅱでは守るべき資産になっている。同じ語で、立ち位置が「使う側」から「守る側」へ入れ替わっています。
6-3. なぜ薄くなるのか
理由は情報Ⅱという科目の作りにあります。
- 情報Ⅱ (4) 情報システムとプログラミングは、学習者を作る側に立たせます。作る側にとって個人情報は「設計とテストで守る対象」です。解説が「暗号化、ファイアウォール、個人認証、アクセス制御、ネットワークのセグメント化」を並べるとおりです
- 情報Ⅱ (3) 情報とデータサイエンスは、分析対象を「情報システムや情報通信ネットワークに接続された情報機器により生成されているデータ」と定義し、話題を収集経路と規約(Web API・Webスクレイピング・利用規約)のほうへ移します
- そもそも国の情報Ⅱ教員研修用教材の発行日は令和2年3月で、仮名加工情報を作った令和2年改正法(同年公布・令和4年4月1日全面施行)より前です。語が無いのは当然でもあります
6-4. それでも1か所だけ、制度が情報Ⅱ側に残っている
「情報Ⅱに制度の話は無い」と言い切ると嘘になります。学習指導要領解説の全文で「オプトアウト」は1件だけあり、それは情報Ⅱ (4) イ(ア) です。
携帯情報端末の位置情報システムを取り上げ、GPS衛星や携帯情報端末の基地局、無線LANを使用した機器からの情報を用いることで使用者の位置を正確に特定するための仕組み、ユーザーの無線LANで接続される機器の位置情報の利用を無効にできるオプトアウト方式などの制度、情報システムにおける個人情報の利用の在り方などを扱う。
文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」情報Ⅱ (4) イ(ア)
制度が「覚える知識」ではなく「情報システムの設計要素」として残っている。 これが本講の情報Ⅱ接続の正確な姿です。加えて情報Ⅱ (5) の探究テーマにも「個人情報の保護と活用についての学習教材や啓発リーフレットを作成する」が残ります。制度が消えるのではなく、扱う立場が変わる。
6-5. 本当の続きは高校の外にある
伸びる先は情報Ⅱではなく、情報処理技術者試験と個別法です。
| 段 | 資料 | 扱い |
|---|---|---|
| 高校 | 情報Ⅰ教員研修用教材 第1章 | 匿名加工情報だけ(6件)。仮名加工情報は無い |
| レベル1 | IPA ITパスポート試験シラバス Ver.6.5 | 用語例に「匿名加工情報、オプトイン、オプトアウト、第三者提供」。仮名加工情報は無く、国際的動向の用語例に「仮名化・匿名化」 |
| レベル2 | IPA 基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2 | 用語例に「匿名加工情報、仮名加工情報」の両方 |
| 個別法 | 次世代医療基盤法 | 法律の題名に両方が入り、認定事業者という仕組みで運用される |
高校(匿名加工情報だけ)→ ITパスポート(+オプトイン/オプトアウト)→ 基本情報(+仮名加工情報)という3段の階段になっています。情報Ⅱの教科書で待っていても、この続きは来ません。
7. この講のまとめ
1. 名前を消しても識別は消えない。組合せで絞り込める(実験では3列で全員特定)
2. だから加工の基準が規則第34条に5つあり、効くのは4号(特異な記述等)と5号(DB全体の性質)
3. 技術では守り切れないので識別行為そのものを禁止した(第43条第5項・第45条)=二段構え
4. 制度が2つあるのは用途が違うから。仮名=社内・第三者提供禁止/匿名=社外・同意なしで提供可
5. 国の解説は「保護と同時に活用にも配慮されている」と明記している。守ることと使うことは対立ではない
出典
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第57号)第2条第1項・第5項・第6項、第41条〜第46条 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律施行規則」(平成28年個人情報保護委員会規則第3号)第31条・第32条・第34条・第35条・第36条 https://laws.e-gov.go.jp/law/428M60020000003
- e-Gov法令検索「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律」(平成29年法律第28号)第1条 https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000028
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」(令和6年12月2日一部改正)3-2-2-4/3-2-2-5/別表2 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_anonymous/
- 個人情報保護委員会「匿名加工情報」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/tokumeikakouInfo/
- 個人情報保護委員会 FAQ Q14-1「匿名加工情報と仮名加工情報の違いは何ですか」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q14-1/
- 個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(令和8年7月) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260717_kaiseihounitsuite.pdf
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」(平成30年7月)
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416756.htm
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」(令和2年3月発行)序章〜第5章
- IPA「ITパスポート試験 シラバス Ver.6.5」/「基本情報技術者試験 シラバス Ver.9.2」
- 大学入試センター 令和7年度・令和8年度 大学入学共通テスト「情報Ⅰ」(設問構造の確認のみ。問題文は転載していません)
取得日はいずれも2026年8月3日です。制度の記述はすべて2026年8月時点のものです。
この講は情報Ⅰ 最強120講義(全講一覧)の第10講です。この前段にあたる「何が個人情報か・なぜ守るのか」は第9講 個人情報とプライバシー権、法律を原文で当てる作法は第12講 著作権①、公共データを「使う」側の制度は第81講 データの収集とオープンデータ、加工したデータを実際に分析にかける工程は第82講 データの整理と整形へ進みます。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第10講のWeb版です。
「情報Ⅰの制度分野、暗記で乗り切れるか不安」という方へ
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