こんにちは、数強塾代表の藤原進之介です。この記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』の第23講「ユニバーサルデザインとアクセシビリティ」のWeb版です。共通テスト「情報Ⅰ」での重要度はA(毎年何らかの形で出る)、情報Ⅱでの接続先は(2)コミュニケーションとコンテンツです。
この分野は「用語を覚えるだけの暗記項目」と思われがちです。しかし私は逆だと考えています。ここで問われているのは「誰が使えなくなっているかを見つける技術」であり、しかもその視点は一度手に入れると、街を歩いているだけで練習ができる。この講では、国の一次資料の全文検索で分かった「どこに何が書かれていないか」まで含めて、暗記ではない形でお見せします。
1. この講の問い
「使えない」のは、使えなかった人のせいなのか。
2. 結論
障害は人の側にあるのではなく、設計の側にあります。段差があるから車椅子が通れないのであって、段差を無くせば「障害」は消える。同じ人が、設計次第で困りもするし、困りもしない。
バリアフリーは後から障壁を取り除く、ユニバーサルデザイン(UD)は最初から誰でも使えるように設計する。だからUDのほうが安く早い。ただしUDは達成できる状態ではなく、近づけ続ける方向です。だからこの講の実体は、理念の暗記ではなく「誰が使えなくなっているかを見つける技術」になります。
図1 人は同じで、変わったのは設計だけ。「障害」は人の属性ではなく、設計と人の組み合わせで生まれる
3. なぜそうなるのか
3-1. 「障害」は人ではなく、人が作ったものの側にある
内閣府は、障害者差別解消法の説明で「社会的障壁」をこう定義しています。
障害のある方にとって、日常生活や社会生活を送る上で障壁となるような、社会における事物(通行、利用しにくい施設、設備など)、制度(利用しにくい制度など)、慣行(障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など)、観念(障害のある方への偏見など)その他一切のもの
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答」(2026年8月3日取得)
事物・制度・慣行・観念。4つとも人間が作ったものです。 人の身体は1つも入っていません。ここが決定的で、「障害があるから使えない」ではなく「そういう作り方をしたから使えない」という言い方に変わります。
なおこの法律は令和3年に改正され、令和6年(2024年)4月1日から、事業者による合理的配慮の提供が義務化されました(内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」)。配慮は好意ではなく、いま法律上の義務です(2026年8月時点)。
3-2. バリアフリーとUDは「時間の向き」が違う
国の教材は、両者をはっきり書き分けています。
このような人、例えば障がい者、高齢者、妊婦などにとって障壁(バリア)となっているものを取り除こうという考え方からスタートしたのがバリアフリーである。……一方で、ユニバーサルデザインはまた別の概念であり、障がいの有無、年齢、性別、人種等にかかわらず、すべての人にとって生活しやすい環境を実現するための工夫をさす。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章
ユニバーサルデザインは全ての人を対象とした、できる限り多くの人に使いやすいデザイン手法のことを指すが、バリアフリーとは、今あるものを高齢者や障害のある人が使いやすいようにする、という考え方であり両者に違いがある。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第1章
「今あるもの」を直すのがバリアフリー、「あらかじめ」作り込むのがUD。 差は思想ではなく順序です。
順序が違えばコストが違います。作った後にスロープを足すには、いったん作った構造を壊して付け足す工事が要る。最初から平らに作れば追加費用はほぼゼロ。Webも同じで、公開後に全ページの画像へ説明文を付け直すより、テンプレートを作る段階で入力欄を1つ増やすほうが圧倒的に安い。UDが推奨されるのは倫理的に立派だからだけではなく、後付けが高くつくからでもあります。
3-3. UDは「完成しない」——国の教材が自分でそう書いている
ここが本講でいちばん誠実に書かねばならないところで、しかも国の教材が先に書いています。
これらを満たし、全ての人のニーズに合わせたコンテンツを作ることは難しい。しかし、できる限り多様なニーズに合わせたデザインを考え……
ユニバーサルデザインで全てがうまくいけばよいが、追い付かないこともある。その際にはバリアフリーで補うという関係であることを説明してもよい。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第1章
つまりUDは「達成される状態」ではなく「近づけ続ける方向」であり、追いつかない部分をバリアフリーが後ろから埋める。両者は対立概念ではなく、役割分担です。
なぜ完成しないのか。ある人への配慮が、別の人には不便になることがあるからです。画像に長い説明文を付ければ、目で見て分かる人には同じ内容を二度読まされることになる。文字を大きくすれば1画面に入る情報が減り、一覧して比べたい人は不利になる。音で通知すれば、聞こえない人と、静かにしていたい人の両方に届かない。
トレードオフが存在する以上、「全員に最適」は原理的に存在しません。 UDが言っているのは「最適解がある」ではなく「排除される人をできるだけ減らせ」です。ここを取り違えた選択肢は、共通テストでも狙われます(第5節)。
3-4. アクセシビリティが「特別な人のため」ではない理由
情報Ⅱ教員研修用教材の第2章は、アクセシビリティをJISの定義で置いています。
アクセシビリティとは、JIS X 8341-1(高齢者・障害者等配慮設計指針)において「様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品、サービス、環境又は施設(のインタラクティブシステム)のユーザビリティ」と定義されている。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章 学習9
「最も幅広い層」は、事実上全員です。理由は単純で、制約は状況によっても発生するから。
| 制約の種類 | 例 | 誰に起きるか |
|---|---|---|
| 永続的 | 視覚障害・聴覚障害・手の欠損 | 一部の人 |
| 一時的 | 骨折している・目の手術後・中耳炎 | 誰でも一時的に |
| 状況的 | 片手に荷物・満員電車・騒がしい店内・直射日光・回線が遅い・加齢 | 全員に日常的に |
音だけの通知は、耳の聞こえない人にも、騒がしい駅にいる人にも届きません。同じ設計上の欠陥が、両方を同時に排除している。 そして加齢は例外なく全員に来ます。
だからアクセシビリティは「一部の人のための追加機能」ではなく、「自分が将来使えなくなる確率を下げる作業」です。私はこの説明がいちばん効くと思っています。
3-5. アクセシビリティとユーザビリティには「順序」がある
同じく国の教材が、2語をきれいに切り分けています。
アクセシビリティは「情報へのたどり着きやすさ」、すなわち、使える状態かどうかという意味でよく用いられ、ユーザビリティは「使いやすさ」、すなわち、ある程度は使えていることを前提に、使いやすい状態かどうかという意味でよく用いられる。
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第1章
「ある程度は使えていることを前提に」——この一句が要です。使えない人にとって、使いやすさは存在しません。 ボタンが押せない人に、ボタンの位置が最適かどうかは無意味です。
だから点検の順序は決まっています。まずアクセシビリティ(届くか)、次にユーザビリティ(速いか・迷わないか)。 逆順にやると、いちばん困っている人を最後まで見つけられません。
3-6. 実践の核は「情報の冗長化」
では具体的に何をするのか。原則は1つに集約できます。1つの手がかりだけに情報を載せない。
- 色だけで区別しない(赤字が必須項目 → 色を見分けられない人、白黒印刷で消える)
- 音だけで知らせない(通知音 → 聞こえない人、音を切っている人に届かない)
- 形・位置だけに頼らない(「右上のボタン」→ 画面幅が変われば右上ではない)
- 画像だけに文字を載せない(拡大でぼやけ、読み上げられず、検索にもかからない)
図2 情報の冗長化。ネットワークの冗長化と発想はまったく同じで、壊れる対象が回線から人の感覚器と状況に変わっただけ
3-7. どこに書かれているかを数えると、置き場所が見えてくる
3語が国の一次資料に何回出てくるかを数えました(PDFを pdftotext -layout でテキスト化し、空白を全除去した全文から部分文字列を計数。実施 2026年8月3日)。
| 語 | 解説 第1部 (共通教科) |
解説 第2部 (専門教科) |
情報Ⅰ 教員研修用教材 |
情報Ⅱ 教員研修用教材 |
|---|---|---|---|---|
| ユニバーサルデザイン | 4 | 1 | 8(全て第1章) | 17(全て第1章) |
| アクセシビリティ | 3 | 2 | 1(第1章の一覧表のみ) | 18(第1章3・第2章14・第5章1) |
| バリアフリー | 0 | 0 | 2(第1章) | 4(第1章) |
読み取れることが3つあります。
(1) UDは「情報デザインの単元」に書かれていない。 情報Ⅰ教員研修用教材でUDが出るのは8件すべて第1章(情報社会の問題解決)で、情報デザインを扱う第2章には0件です。UDは「デザインの技法」ではなく「情報社会をどう作るかという話」として置かれている。第21講で扱う抽象化・可視化・構造化とは、そもそも棚が違います。
(2) 「バリアフリー」は学習指導要領解説に1件も無い。 共通教科(情報Ⅰ・情報Ⅱ)側にも専門教科側にも0件で、語が現れるのは教員研修用教材だけ。教科書と入試では定番なのに、制度文書の本文には存在しません。本書が集めている「情報Ⅰ本文の空白」の1つです。
(3) 情報Ⅰと情報Ⅱで、主役の語が入れ替わる。 情報Ⅱ教材ではUDが第1章に17件と厚いのに、制作を扱う第2章では0件。代わりにアクセシビリティが14件で本格化します。これは第6節で詳しく扱います。
3-8. 「代替テキスト」は情報Ⅰの一次資料に1件も無い
もう1つ、数えていて私が驚いた事実があります。
| 語 | 解説 情報編 | 情報Ⅰ教員研修用教材 (第1〜4章) |
情報Ⅱ教員研修用教材 (全7分冊) |
|---|---|---|---|
| 代替テキスト | 0 | 0 | 2(第2章) |
| alt属性 | 0 | 0 | 1(第2章) |
| 音声読み上げ | 0 | 0 | 2(第2章) |
| JIS X 8341 | 0 | 0 | 1(第2章) |
情報Ⅰ教員研修用教材 第2章に「代替」という語は2件ありますが、用法が違います。「技術的、コスト的な問題で、改善するのが難しいときは、代替の手段を用意したり」——これは改善案としての代替であって、画像の代替テキストではありません。語を数えるときは1件ずつ本文を見ないと誤読する典型例なので、全件確認しました。
つまり、共通テストや教科書で問われる「画像に代替テキストを付ける」という具体的技法は、情報Ⅰの国の資料の本文には存在せず、情報Ⅱ教員研修用教材 第2章まで行かないと出てきません。 情報Ⅰの受験生が独学でここに詰まるのは、努力不足ではなく資料の構造の問題です。
4. 手で確かめる
4-1. 同じ画面を「使えなくなる人」の側から点検する
理念で終わらせないために、点検表を作ります。「良いデザインか」ではなく「誰が落ちるか」を問うのがコツです。
| 点検項目 | 落ちる人(永続的) | 落ちる人(状況的) | 直し方 |
|---|---|---|---|
| 必須項目を赤字だけで示している | 色の見分けが難しい人 | 白黒印刷した人/強い日差しの下 | 色+「※必須」の文字+記号 |
| 画像に説明が付いていない | 画面を見ずに使う人 | 回線が遅く画像が出ない人 | alt に画像が伝えている内容を書く |
| 通知が音だけ | 聞こえにくい人 | 電車内/音を切っている人 | 音+振動+画面表示 |
| 操作にマウスの精密な動きが要る | 手の細かい動きが難しい人 | 片手がふさがっている人/揺れる電車 | キーボードだけで全操作できるようにする |
| 文字が小さく固定されている | 見えにくい人 | 暗い場所/小さい画面 | 拡大に耐える。文字を画像に焼き込まない |
| 見出しが見た目だけで作られている | 見出しを頼りに移動する人 | 長文を拾い読みしたい全員 | h1→h2→h3 の順で階層に意味を持たせる |
| 文字と背景の明暗差が小さい | コントラスト感度が落ちた人 | 屋外/古い画面 | 4-4の基準で測る |
列を「永続的/状況的」の2つに割ったのが要点です。右の列が埋まった瞬間に、これが自分の話になります。
4-2. 代替テキストの有無で、機械が読める構造がどう変わるか
同じ1枚の画像に対して、書き方は3通りあります。
<!-- (A) alt が無い -->
<img src="graph.png">
<!-- (B) alt が空 -->
<img src="graph.png" alt="">
<!-- (C) alt に内容が書いてある -->
<img src="graph.png"
alt="2020年から2025年にかけて来場者数が約2倍に増えた折れ線グラフ">
WCAG 2.1 の達成基準 1.1.1「非テキストコンテンツ」(適合レベル A)は、非テキストコンテンツに同等の目的を果たすテキストによる代替を求めたうえで、装飾目的のものについてこう書いています。
If non-text content is pure decoration, is used only for visual formatting, or is not presented to users, then it is implemented in a way that it can be ignored by assistive technology.
W3C「Understanding Success Criterion 1.1.1: Non-text Content」(WCAG 2.1/2026年8月3日取得)。訳すと「非テキストコンテンツが純粋な装飾であるか、視覚的な整形にのみ用いられているか、利用者に提示されないものである場合、支援技術が無視できる方法で実装されている」。
ここから3通りの意味がはっきりします。
(A) alt が無い=何も宣言していない。装飾なのか情報なのか機械が判断できず、ファイル名がそのまま読まれるなど意図しない挙動になります。いちばん悪い。
(B) alt=””=「これは装飾なので無視してよい」という明示的な宣言。飾り線や余白埋めの画像にはこれが正解であって、手抜きではありません。
(C) alt に内容=画像が伝えている情報をテキストにも載せる。3-6の冗長化そのものです。
注意すべきは (C) の中身で、alt="グラフ" では何も伝わりません。書くべきは「見えている物の名前」ではなく「この画像がこの場所で伝えている内容」です。同じ写真でも、記事の飾りなら alt="" が正しく、商品ページの外観写真なら色や形を書くべきで、画像そのものではなく役割で決まります。グラフの読み方については第96講「グラフはこうして嘘をつく」もあわせてどうぞ。同じ図でも、何を伝えたいかで書くべき説明は変わります。
4-3. 見出しの順序が壊れると、移動手段が壊れる
<!-- 悪い例:見た目で選んでいる -->
<h1>学校祭のご案内</h1>
<h3>アクセス</h3> <!-- h2 を飛ばしている -->
<p>...</p>
<div class="midashi">出店一覧</div> <!-- 見出しに見えるが見出しではない -->
<!-- 良い例:意味で選んでいる -->
<h1>学校祭のご案内</h1>
<h2>アクセス</h2>
<p>...</p>
<h2>出店一覧</h2>
見出しは文書の目次であり、目次は移動手段です。h2 を飛ばせば目次に階層の穴が空き、div で見た目だけ見出しにすれば目次に載りません。
そしてこれは支援技術を使う人だけの問題ではありません。検索エンジンも、あとで自分がページ内を探すときも、同じ構造を頼りにしています。構造を正しく書くと、たまたま全員が得をする。 UDの実例そのものです。
4-4. コントラスト比の基準を一次資料で確認する
数値は必ず原典で確認します。WCAG 2.1 達成基準 1.4.3「コントラスト(最低限)」(適合レベル AA)をW3Cの原文で確認しました(2026年8月3日取得)。
・通常の文字:コントラスト比 4.5:1 以上
・大きな文字:3:1 以上
・「大きな文字」とは 18ポイント以上、または14ポイント以上の太字(日本語・中国語・韓国語のフォントでは、これと同等の大きさになるサイズ)
・除外:無効状態のUI部品、純粋な装飾、誰にも見えない文字、意味のある他の視覚的内容を含む画像の中の文字、ロゴやブランド名
W3Cの解説は、4.5:1 という数字の根拠まで書いています。通常の観察者に必要な最低比を 3:1 とし、視力 20/40 の人ではコントラスト感度が約1.5倍失われるため 3 × 1.5 = 4.5 とした、という組み立てです。加齢による感度低下を織り込んだ数字であり、ここでも対象は「特別な人」ではありません。また計算値は丸めません(4.499:1 は 4.5:1 を満たさない)。
日本では JIS X 8341-3:2016 がウェブアクセシビリティの規格として置かれ、デジタル庁は「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」(策定 2025年10月16日、デジタル社会推進標準ガイドラインのInformative文書)で「現在規格として参照されることが多い JIS X 8341-3:2016」と位置づけています。高校で習う話が、そのまま国の行政文書の実務基準になっているわけです。
4-5. 自分の画面で今日できる3つ
1. 画面をグレースケールにする。 OSの表示設定で色を抜くと、色だけに頼っている箇所が一瞬で出ます。
2. キーボードだけで操作してみる。 Tabキーだけで全部の操作に到達できるか。今どこにいるか見えるか。
3. 文字を200%に拡大する。 横に見切れる、重なる、ボタンが押せなくなる箇所を探します。
どれも障害の有無と関係なく、自分の手で再現できます。 これが「誰が使えなくなっているかを見つける技術」の実体です。私は生徒に、自分が作った文化祭のページで必ずこの3つをやらせています。だいたい3分で最低2か所は見つかります。
5. 共通テストではこう出る(重要度A)
まず事実から。大学入試センターが公表している出題意図・自己評価の文書には、「ユニバーサルデザイン」「アクセシビリティ」「バリアフリー」の語が1件も出てきません(私が確認した範囲:試作問題「情報」の概要、令和7年度・令和8年度の問題評価・分析委員会報告書、令和9年度の出題方針)。
では出ないのかというと逆で、この分野は毎年出ています。ただし用語を直接問う形ではない。 センター自身の記述を並べると分かります。
| 回 | センター自身による設問の説明(要約) |
|---|---|
| 試作問題 第1問 問4 (配点4点) |
情報デザインの考え方について、問題文から読み取った内容を踏まえて、示された情報がどの基準に基づいて整理されているかについて考察できるかを問う |
| 令和7年度 本試験 第1問 問4 |
フィッツの法則を題材に、マウスカーソルの移動やメニュー項目の配置について、示された法則に基づいて情報デザインについて考察できるかを問う。学会からは「設計のデザインをモデル化し、法則に従って考えさせるタイプの『情報デザイン』の問題」と評価された一方、一部の設問は正答率約9割5分で「常識の範囲で解答できるのではないか」との指摘も受けている |
| 令和8年度 本試験 第1問 問3 |
スマートフォンの入力インタフェースという受験者にとって身近な題材を取り上げ、データを活用したユーザの視点に立ったUI設計を考察できるかを問う。基本統計量の理解を要する設問の正答率は約5割 |
いずれも大学入試センターの公表資料による。当塾では共通テストの問題文・選択肢・図表・プログラムは転載していません。
3年分に共通する形は1つです。「用語を知っているか」ではなく「与えられた基準・法則・データに従って、その設計が誰にとってどうかを考える」。 だから対策も暗記ではありません。
出題の型
選択肢から「UDの考え方に当てはまるもの」を選ばせます。判定基準は「あらかじめ、より多くの人を想定して作られているか」の一点。後から特定の人のために足したものは、それ自体は良い施策でもバリアフリー側に分類されます。
画面やポスターを示し、改善すべき点を選ばせます。ここで効くのが4-1の点検表で、「誰が落ちるか」を1つずつ当てると選択肢が機械的に切れます。「色だけ」「音だけ」「画像だけ」「小さすぎ」「代替なし」の5つを持っておけば、たいてい当たります。
問題文が独自の基準や法則を定義し、それに当てはめさせます。知識ではなく読解であり、近年のセンターの主流はこれです。
落とし穴
- UDとバリアフリーを取り違える。「後から取り除く=バリアフリー」「最初から想定=UD」。時間の向きで判定します。
- 「全員が使えるようにするのがUD」と言い切る選択肢。 国の教材自身が「追い付かないこともある」と書いています(3-3)。言い切る選択肢は疑う。
- アクセシビリティとユーザビリティの混同。 たどり着けるか(アクセシビリティ)が先、使いやすいか(ユーザビリティ)が後。
- 「配慮は親切心」と読める選択肢。 2024年4月以降、事業者の合理的配慮の提供は法律上の義務です(2026年8月時点)。
- ピクトグラムをUDの同義語にしない。 ピクトグラムは手段の1つにすぎません(詳細は第24講)。
練習用の自作問題(本記事オリジナル)
次のうち、ユニバーサルデザインの考え方に最も近いものを1つ選べ。
① 既存の駅に、後からエレベーターを増設した
② シャンプーの容器に、最初から触って分かる突起を付けて製造している
③ 段差の前に、係員が来て手伝う体制を作った
④ 視覚障害のある利用者からの申し出を受けて、点字の案内板を追加した
②。①③④はいずれも既にあるもの・個別の申し出への対応であり、バリアフリーまたは合理的配慮に当たります。②だけが製造の段階であらかじめ組み込まれている。①③④が劣るという意味ではなく、3-3のとおり両者は補い合う関係です。
あるWebページに「必須項目は赤字で表示しています」と書かれている。この設計で情報が届かなくなる人を、永続的な制約と状況的な制約から1つずつ挙げ、改善案を書け。
永続的:色の見分けが難しい人。状況的:白黒で印刷した人/強い日差しの下で画面を見ている人。改善案:色に加えて「※必須」という文字と記号を併記する(=情報の冗長化)。
6. 情報Ⅱではこうなる
6-1. 主役の語が入れ替わる
3-7の表をもう一度見てください。情報Ⅱ教員研修用教材で UDは第1章に17件、第2章に0件。アクセシビリティは第2章に14件。これは偶然の偏りではなく、章の役割の違いです。
| 情報Ⅱ 第1章 (情報社会の進展と情報技術) |
情報Ⅱ 第2章 (コミュニケーションとコンテンツ) |
|
|---|---|---|
| 主役の語 | ユニバーサルデザイン 17件 | アクセシビリティ 14件・ユーザビリティ 7件 |
| 扱われ方 | 社会をどう作るかという考え方。演習は「身の回りにあるUDを挙げ、多様化した社会にどう対応しているかを検討する」 | 制作工程で配慮し、ツールで検査する対象。演習は「作成したコンテンツについて、ツールなどを用いてアクセシビリティのチェックを行い、改善する」 |
| 生徒がやること | 考える・気付く | 作る・測る・直す |
同じテーマが、思想の章と工程の章に分かれて2回出てきます。 情報Ⅰでは第1章に1回出てくるだけだったものが、情報Ⅱでは「なぜやるか」と「どうやるか」に分離する。これが本講の情報Ⅰ→情報Ⅱ接続の核です。
6-2. 「誰に届けるか」を決めることが、「何を作るか」を決める
情報Ⅱ教員研修用教材 第2章の学習8は、コンテンツ制作を5工程に固定します。
❶調査 → ❷問題解決のための仮説の作成 → ❸要件定義 → ❹プロトタイプの設計・作成 → ❺検証
文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第2章 図表3「プロトタイプを作るためのプロセス」
そして❷の中身を、教材はこう定義しています。
ここでいう仮説とは、ペルソナ(人物像)と利用する状況を考えることである。
同上
さらに利用状況は 5W1H で書き出させ、「これらをベースとして、要件定義やプロトタイプの設計に入る」と続きます。
つまり工程の順序が、「誰が・どんな状況で使うか」→「何を作るか」になっている。 情報ⅠではUDは「配慮すべき理念」でしたが、情報Ⅱでは対象者の定義が上流工程として制度化される。誰に届けるかを決めない限り、要件が1行も書けない構造になっています。
6-3. 主観の「配慮」から、道具で測る「検査」へ
学習9で、アクセシビリティがJIS X 8341-1の定義とともに登場し、具体的な手段が並びます。3-4・3-8で見たとおり、情報Ⅰ側の本文には1つも無かったものです。
- 音声読み上げ機能の提供
- 画像への代替テキストの適用(HTMLのimgタグにおけるalt属性の設定)
- 文字サイズの変更機能の提供
- サイト内の位置を明示する「パンくずリスト」
- 色覚障害に配慮した配色
そして演習3が「作成したコンテンツについて、ツールなどを用いてアクセシビリティのチェックを行い、改善してみましょう」。教材は本文でも「Webページの代替テキストや配色のコントラスト比など、アクセシビリティをチェックするツールがあるので、それらを活用して改善することができる」と書いています。
「気を付けましょう」から「測って直しましょう」への移行です。情報Ⅰが心構えで終わるところを、情報Ⅱは検査工程にする。ここが最大の落差だと私は思います。
6-4. 正直に書いておく——教材は「要件定義」の欄にアクセシビリティを書いていない
全文を読んで気づいた、教材自身のねじれを1つ書いておきます。
第2章の工程で、アクセシビリティが名指しされるのは学習9(制作)と評価の段階であって、学習8の❸要件定義の説明の中には出てきません。要件定義の例として挙がるのは「実装する機能や表示情報」です。
つまり国の教材ですら、アクセシビリティが後工程に置かれている。3-2で書いた「後付けは高くつく」がそのまま起きうる構造になっているわけです。
だから読者にはこう勧めたい。❷の仮説(ペルソナと利用状況)を書く段階で、「この人はどんな状況で使うか」を制約として書き込んでしまうこと。「片手で、電車の中で、音を出せない状態で使う」と1行書いておけば、それは自動的に要件になります。UDの思想(最初から)を情報Ⅱの工程に接続する具体的な方法は、ここにしかありません。
6-5. 情報Ⅰと情報Ⅱの違いを1行で
| 情報Ⅰ | 情報Ⅱ | |
|---|---|---|
| 位置 | (1)情報社会の問題解決の中の1話題 | (2)コミュニケーションとコンテンツ=章まるごとの制作工程 |
| 主役の語 | ユニバーサルデザイン | アクセシビリティ |
| 問われ方 | 「どういう考え方か」を理解する | 「作ったものが基準を満たすか」を測って直す |
| 対象者 | 「多様な人々」という一般的な想定 | ペルソナと利用状況として文書化する |
| 到達点 | 配慮の必要性に気付く | 検査と改善のサイクルを回す |
情報Ⅱ第2章そのものの全体像は第109講「情報Ⅱの全体像」にまとめてあります。情報Ⅱ教員研修用教材の序章は、第2章について「『情報Ⅰ』の(2)『コミュニケーションと情報デザイン』で身に付けたメディアの特性やコミュニケーション手段の特徴、情報デザインの考え方を活用し、深めることを期待している」と明記しています。本講と第21講が、その土台の側にあたるわけです。
まとめ
- 障害は人ではなく設計の側にある。内閣府の「社会的障壁」の定義は、事物・制度・慣行・観念という人が作ったもの4つからできている。
- バリアフリーは「今あるものを直す」、UDは「あらかじめ作り込む」。差は時間の向きであり、後付けが高くつくからUDが推奨される。
- UDは完成しない。 国の教材自身が「追い付かないこともある。その際にはバリアフリーで補う」と書いている。配慮どうしはトレードオフになる。
- アクセシビリティの対象は全員。制約には永続的・一時的・状況的の3種類があり、状況的な制約は全員に日常的に起きる。
- 順序は「たどり着けるか(アクセシビリティ)→ 使いやすいか(ユーザビリティ)」。教材が「ある程度は使えていることを前提に」と明記している。
- 実践の核は情報の冗長化。色だけ・音だけ・形だけ・画像だけに載せない。
- 語数:UDは情報Ⅰ教材8件・情報Ⅱ教材17件でどちらも第1章のみ。アクセシビリティは情報Ⅰ教材1件 → 情報Ⅱ教材 第2章14件。「バリアフリー」は学習指導要領解説に全文0件。
- 「代替テキスト」「alt属性」「音声読み上げ」「JIS X 8341」は情報Ⅰの一次資料に0件で、情報Ⅱ教員研修用教材 第2章にしかない。
- コントラスト比はWCAG 2.1 SC 1.4.3(レベルAA)で通常文字 4.5:1、大きな文字 3:1。日本ではJIS X 8341-3:2016が対応する。
- 共通テストは用語を直接問わない。与えられた基準・法則・データに従って設計を考察させる形で3年連続出ている。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第1章・第2章
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材」第1章・第2章(令和2年3月発行/PDF掲載 令和2年6月9日)
- 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」/令和7年度・令和8年度 本試験 問題評価・分析委員会報告書
- 内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答」/リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」
- W3C「Understanding Success Criterion 1.4.3: Contrast (Minimum)」「Understanding Success Criterion 1.1.1: Non-text Content」(WCAG 2.1)
- デジタル庁「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」(策定 2025年10月16日)
- 情報処理推進機構(IPA)「ITパスポート試験シラバス Ver.6.5」「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」
語数はいずれも、上記PDFをテキスト化して空白を全除去した全文に対する部分文字列の計数です。「0件」はすべて学習指導要領解説 情報編(第1部・第2部の両方)・情報Ⅰ教員研修用教材 第1〜4章・情報Ⅱ教員研修用教材 序章+第1〜5章の全7分冊(第3章は前半・後半の両方)を検索した範囲での0件です。制度の話は2026年8月時点の情報です。
本書『藤原進之介の最強120講義』の全講の一覧はこちらのハブページに、公開済みの記事はカテゴリ「情報Ⅰ 最強120講義」にまとまっています。情報Ⅰがそもそもなぜ必修になったのかという背景は情報Ⅰはなぜ必修になったのかをご覧ください。
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第23講のWeb版です。
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