情報Ⅰ 最強120講義

コンテンツ制作と効果測定|情報Ⅰ 最強120講義 第119講

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情報Ⅰの制作は「作って終わり」——そう説明されることが多いのですが、これは正確ではありません。学習指導要領解説は情報Ⅰの段階ですでに「PDCAサイクルにより……評価と改善を繰り返して」と書いています。では情報Ⅰと情報Ⅱの制作は何が違うのか。国の一次資料を全部当てて数えたところ、差はたった1か所に集中していました。この講はそこだけを扱います。

こんにちは、数強塾グループ代表の藤原進之介です。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第119講のWeb版で、第6部「情報Ⅱへの橋」の1本です。共通テスト重要度はC——情報Ⅱは共通テストの出題範囲外だからです。それでも読む価値があると私が考える理由は、記事の後半(共通テストの節)で書きます。

この講の問い

作ったものが良かったかどうかを、作り手の感想ではなく数字で言うには、何を数えればいいのか。

結論

① 情報Ⅰの制作は「作って、評価して、改善する」までを教室の内側で回す。情報Ⅱの制作は、教室の外にいるユーザーの反応を測って回す。

② 何を測るかは目的が決める。逆に言えば、指標を決めることは、実は目的を決めることである。

③ 国の一次資料は「効果測定」とは書かない。書くのは「効果検証」、そしてコンテンツの章では「分析と改善」である。

なぜそうなるのか

まず用語の断り——「効果測定」は国の資料に一度も出てこない

この講の題は「効果測定」ですが、私が調べた範囲では、この語は国の一次資料に一件も存在しません。

解説 情報編
第1部(共通教科)
解説 情報編
第2部(専門教科)
情報Ⅰ教員研修用教材
(全6分冊)
情報Ⅱ教員研修用教材
(全7分冊)
効果測定 0 0 0 0
効果検証 1 0 0 2

「効果測定」はWeb業界で広く使われる一般的な呼び方であって、学習指導要領の語ではありません。国が使うのは「効果検証」です。しかもその1件は情報Ⅱ(3)、つまりデータサイエンスの側にあります。

不確実な事象を予測するなどの問題発見・解決行うために,データの収集,整理,整形,モデル化,可視化,分析,評価,実行,効果検証などの各過程における方法を理解し高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編 情報Ⅱ(3) ※「問題発見・解決行うために」は原文のまま

さらに面白いのは、「効果検証」がこの講の主戦場である情報Ⅱ教材 第2章(コミュニケーションとコンテンツ)には0件だということです。第2章で使われるのは「分析と改善」という素朴な言い方でした。国の資料の中では、データの側(第3章)=「効果検証」/コンテンツの側(第2章)=「分析と改善」と語が分かれています。以下、私は国の語に合わせて書きます。

情報Ⅰは「作って終わり」ではない。ただし測る道具が渡されていない

まず、よくある雑な図式を私は採りません。「情報Ⅰは作って終わり」という言い方は不正確です。学習指導要領解説がこう書いているからです。

例えば,PDCAサイクルにより,コンテンツを制作する活動などを取り上げ,評価と改善を繰り返して情報デザインに配慮したコンテンツの質の向上について扱うことが考えられる。同解説 第1部・情報Ⅰ(2) コミュニケーションと情報デザイン

情報Ⅰの段階で、国はすでに「評価と改善を繰り返せ」と明示しています。だから問題は「回すかどうか」ではありません。「何を見て回すのか」です。

そこで情報Ⅰ教員研修用教材 第2章(コミュニケーションと情報デザイン)を、測るための語で当たるとこうなります。

測るための語 情報Ⅰ教材 第2章 情報Ⅱ教材 第2章
アクセス解析 0 5
コンバージョン 0 6
アクセシビリティ 0 14
ユーザビリティ 0 7
コントラスト比 0 1
プロトコル分析 0 12
タスクシナリオ 0 2
メディアプラン 0 20

情報Ⅰ側は全部ゼロです。「評価と改善を繰り返せ」とは書いてあるのに、何をどう測るかの道具が本文に置かれていない。これが情報Ⅰの正確な姿です。

そして教材自身が、その帰結を正直に書いています。情報Ⅰ教材 第2章の章末「全体を通じた学習活動の進め方」の留意点⑦です。

⑦評価,改善のサイクル……評価,改善のサイクルは,教員の評価をフィードバックして改善に生かすやり方と,生徒同士の相互評価をフィートバックして改善に生かすやり方がある。可能な限り,評価,改善のサイクルを繰り返すことが望ましいが,時間的に難しい場合でも最低限の評価とフィードバックを行うことは必要である。情報Ⅰ教員研修用教材 第2章(p.94) ※「フィートバック」も原文の表記

読み落としてはいけないのは、評価する人が誰かということです。教員と、同じ教室の生徒。つまり情報Ⅰの評価は、作った本人と、作るところを見ていた人によって行われます。

2つの工程図を重ねると、差が1か所に出る

情報Ⅰ教材 第2章と情報Ⅱ教材 第2章には、どちらも章末に「全体を通じた学習活動の進め方」という同じ名前の節があり、どちらも工程図が置かれています。並べます。

情報Ⅰ 教材 第2章 章末 情報Ⅱ 教材 第2章 章末 ① 問題の発見 ② 対象の設定/情報の収集と分析 ③ 要件の定義/デザインの立案 ④ プロトタイプ/評価,改善 ⑤ 運用/振り返り ⑥ 次の問題解決へ ❶ 問題の発見 ❷ 情報の収集と分析 ❸ メディアプランの検討 ❹ コンテンツの制作と改善 ❺ コンテンツの発信 ❻ コンテンツの分析と改善 1つの箱が2つに割れる 振り返るのは作り手 分析されるのはユーザーの反応 評価者=教員・生徒どうし 道具=アクセス解析・SNS分析ツール (測る語は本文に0件) (「定量的に比較できるように」と指定)

図1 情報Ⅰ教材 第2章 章末(p.94)と情報Ⅱ教材 第2章 章末(p.102)の工程図。箱の文言は原文どおり。

差は1か所に集中しています。情報Ⅰの「運用/振り返り」という1つの箱が、情報Ⅱでは「コンテンツの発信」と「コンテンツの分析と改善」という2つの箱に割れている。

これが本講のすべてです。振り返るのは作り手です。主語は「私たち」。分析されるのはユーザーの反応です。主語は「見た人」。

情報Ⅱ教材が❻に付けた留意点はこうです。

◯各種の分析ツールを使用させ,コンテンツごとのユーザーの反応を定量的に比較できるようにすること
◯分析の結果からコンテンツの改善策を考えられるようになること情報Ⅱ教員研修用教材 第2章(p.102)

「振り返り」には道具の指定がありません。「分析」にはツールと、定量的という条件が付いています。箱が割れた瞬間に、道具が要求されるようになった。

なぜ「良い作品ができた」では評価にならないのか

第20講(情報デザインとは何か)で、私は情報デザインの良し悪しは伝わったかどうかでしか判定できない、だから作り手の好みは判定基準にならないと書きました。理由も書きました。作り手は自分が何を伝えたいかを知っているので、自分の作ったものを「初めて見る人」として見ることが原理的にできないからです。

第119講は、その原則が工程になる場所です。

ただし、ここで一段慎重になってください。「伝わったかどうか」は、実は直接は見えません。他人の頭の中は覗けないからです。見えるのは行動の痕跡だけ。見た・押した・戻った・離れた。だから情報Ⅱの教材は、「伝わったか」の代わりに到達してほしい行動を先に決めさせます。

Webサイトにおいて,ユーザーに到達してほしい最終的な成果のことをコンバージョン(Conversion)という。例えば,通販サイトにおけるコンバージョンは商品の購入であり,新製品の広告サイトであれば資料請求である。情報Ⅱ教員研修用教材 第2章 学習10

「良い作品」は測定値ではありません。「資料請求が何件あったか」は測定値です。情報Ⅱは、後者を先に決めさせることで、評価を作り手の外に出します。

測る対象は目的が決める——だから指標を決めることが目的を決めること

学習10の原文が、この講の芯をそのまま書いています。

ユーザーの反応を分析しコンテンツの改善を行うときに、最も大事なことは、コンテンツの発信の目的を明確にすることである。ユーザーの認知を広げたいだけなのか、コンテンツに触れたユーザーに何らかの行動を起こしてほしいのか、自分たちが知らない新たなニーズを掘り起こしたいのかによって、アクセス解析で見なければならない指標も変わってくる。情報Ⅱ教員研修用教材 第2章 学習10「7 分析と改善」

第95講(データの可視化)で私は、情報Ⅰの可視化について「目的が決まると図が決まる」と書きました。情報Ⅱでは、まったく同じ形で「目的が決まると指標が決まる」になります。「目的→図」が「目的→指標」に置き換わる。この対応は偶然ではなく、どちらも「先に問いを決めろ」という同じ一文の言い換えです。

ここから私は一歩踏み込みます。逆も真だということです。

現実の教室では、目的が先に明確になっていることはまずありません。文化祭のWebサイトを作るとき、生徒が最初に持っている目的は「良いサイトを作る」です。これは目的ではありません。何をもって良いのか決まっていないからです。

ところが「訪問者数を見るのか、それとも『行き方』ページに何割が到達したかを見るのか」と問われると、答えるためには「私たちは人を増やしたいのか、迷わせたくないのか」を決めるほかありません。指標を1つ選ぶという作業は、目的を1つに絞るという作業と、実質的に同じ操作です。

だから私は、順序を逆にしてよいと考えています。目的が曖昧なまま止まっているグループには、「目的を決めなさい」ではなく「この中でどの数字を見る?」と聞くほうが速い。指標は、曖昧な目的を強制的に1つに固定する道具でもあるのです。

同じ枠組みが、工程の反対側へ移動する——定量と定性

情報Ⅰ教材 第2章と情報Ⅱ教材 第2章に、ほとんど同じ演習文が置かれています。見つけたとき、私は思わず二度読みました。

【情報Ⅰ教材 第2章 演習2】 自分の学校のWebサイトを改善する際に,定量的な情報として欲しいもの,定性的な情報として欲しいもの,それぞれについて考えてみましょう。
【情報Ⅱ教材 第2章 学習10 演習2】 自分の学校の Web サイトの改善のためにはどのようなデータをもとにユーザーの反応を得たらよいか考えてみましょう。

題材が同じ(自分の学校のWebサイトの改善)、枠組みも同じ(定量/定性)。違うのは工程上の位置だけです。

  • 情報Ⅰの「定量/定性」は、制作の前にあります。原文は「デザインの対象を見つけたら,そこにあるニーズについて情報を収集する。このとき収集される情報には,大きく分けて,定量的な情報と,定性的な情報がある」。定量の代表がアンケート調査、定性の代表がインタビュー。これから作るものの要件を決めるための情報収集です。
  • 情報Ⅱの「定量/定性」は、発信の後にあります。定量はアクセス解析とSNS分析ツールの数値、定性は投稿フォームやSNSの返信。原文は「得られる情報は定性的なものであるため、コンテンツごとの比較をすることは難しいが、ユーザーの感情的な反応を知るためには大事な情報となる」。

同じ物差しが、作る前から作った後へ移されました。物差しは増えていません。当てる場所が変わっただけです。これが情報Ⅰ→情報Ⅱの接続の、たいへん分かりやすい実例です。

測れる形にした瞬間、配慮は工程になる

第23講(ユニバーサルデザイン)が確認したとおり、「ユニバーサルデザイン」は情報Ⅱ教材で17件あり、その全部が第1章にあります。一方「アクセシビリティ」は第2章に14件。つまり第1章=思想(社会をどう作るか)、第2章=検査(作ったものが基準を満たすか)と役割が分かれています。

アクセシビリティとは,JIS X 8341-1(高齢者・障害者等配慮設計指針)において「様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品,サービス,環境又は施設(のインタラクティブシステム)のユーザビリティ」と定義されている。
実際にコンテンツを制作する際には,Webページの代替テキストや配色のコントラスト比など,アクセシビリティをチェックするツールがあるので,それらを活用して改善することができる。
【演習3】作成したコンテンツについて,ツールなどを用いてアクセシビリティのチェックを行い,改善してみましょう。情報Ⅱ教員研修用教材 第2章 学習9

ここが、この講でいちばん重い一文だと私は思っています。

「誰にでも使いやすくしよう」という思想には、誰も反対しません。反対しないということは、合否も出ないということです。賛成しか集まらない主張は、直すべき箇所を1つも特定しません。

ところが「この見出しの色と背景色のコントラスト比は4.5:1以上か」と問いを変えた瞬間、答えはOKかNGの二択になります。しかも計算はツールが一瞬で終える。測れる形にした瞬間に、配慮は「心がけ」から「工程」に変わる。

この二択が本当に機械的に決まることは、この後で実際に計算して確かめます。

数えることだけが測ることではない——プロトコル分析

「効果検証」というと数値だけの話に聞こえますが、情報Ⅱ教材はそこを片側に寄せていません。「プロトコル分析」12件・「タスクシナリオ」2件は、私が調べた範囲では全部が情報Ⅱ教材 第2章にあり、解説 情報編にも情報Ⅰ教材にも0件です。

プロトコル分析とは,Webサイトやアプリケーションなどのユーザビリティを評価する代表的な手法である。ユーザーに実際に使ってもらい,同時にそのときに思ったことや考えたことを話してもらうことで,ユーザーの感覚や認知を言葉で捉えようとするものである。……ユーザーの「あれ?」「何?」といった発言や,操作に迷っている様子などを細かく拾い上げ,ユーザーに迷いを生じさせている部分を洗い出して,改善策を検討していくことになる。情報Ⅱ教員研修用教材 第2章 学習9

教材が挙げるタスクシナリオの例が秀逸なので紹介します。「あなたは学校選択の基準に情報科の学習が充実しているかを考えているとします。○○高校のWebサイトで自由選択科目に専門教科情報科の科目があるかを確認してください」。掲載されている記録シートでは、モニターが14:00にトップページを開き、「学校紹介」→戻る→「授業について」→「教育課程」→1年生→2年生→3年生と回り、14:17に「ここにあったんだ」と言います。17分かかっています。

「サイトの構造が分かりにくい」という感想には反論できますが、「17分かかって3回迷った」には反論できません。数値でなくても、記録は測定になります。

同じ学習9には、インタビュー手法の一覧表(構造化/半構造化/ディプス/非構造化/エスノグラフィック/グループ)も載っており、構造化インタビューは「事前に決められた質問のみを聞くので,複数の人の回答を同じ基準で比較して評価を行うことができる」と説明されます。比較できる形に揃えることが、そもそも測るということだと、教材は言っています。

参考書の定番語は、国の資料にどれだけ在るか

Web解析の入門書に必ず出てくる語を、4つの資料に当ててみました。結果は正直に書きます。

解説 第1部 解説 第2部 情報Ⅰ教材 情報Ⅱ教材 所在
KPI 0 0 0 0
A/Bテスト 0 0 0 0
直帰率 0 0 0 0
離脱(率) 0 0 0 0
PDCA 1 0 2 0 情報Ⅰ側だけ(解説は情報Ⅰ(2)・教材は第1章)
アクセス解析 0 0 0 5 全て第2章
コンバージョン 0 0 0 6 全て第2章
インプレッション 0 0 0 1 第2章 図表5のツール画面の中
エンゲージメント 0 0 0 1 同上
メディアプラン 0 0 0 20 全て第2章
プロトコル分析 0 0 0 12 全て第2章

読み取れることは3つあります。

  1. KPI・A/Bテスト・直帰率・離脱率は、高校の情報科の一次資料には存在しません。覚える価値は、少なくとも受験の文脈では低い。使うなら「一般にこう呼ばれる」と主語を分けるべき語です。
  2. PDCAは情報Ⅰ側にしかありません。解説の1件は情報Ⅰ(2)、情報Ⅰ教材の2件は第1章。情報Ⅱ教材の全7分冊には0件です。これは「情報Ⅱでは回さなくなった」という意味ではまったくありません。情報ⅡはPDCAという略語を使わずに、6つの箱の工程図と道具名で同じことを書いている略語が消えて中身が増えた、という型です。
  3. インプレッションとエンゲージメントの各1件は、本文の説明ではなく図表5「SNS分析ツールのイメージ」の中にあります。用語として教えられているのではなく、画面の見本として置かれている。件数だけを見て「情報Ⅱはエンゲージメントを扱う」と書くと言い過ぎになります。

教材が自分で書いている「オフラインでも測れ」

最後に、私が好きな一節を挙げておきます。学習10の生徒の活動例です。

Webサイトを見た人だけが分かるキーワードを問うコーナーを作り,文化祭の来場者の中でWebサイトを閲覧している人がどのくらいいるのかを測る試みもした。情報Ⅱ教員研修用教材 第2章 学習10

そして演習3は「オフラインでユーザーの反応を得る手段にはどのようなものがあるのか考えてみましょう」です。

アクセス解析はWebの中しか見えません。Webサイトを見て来場した人と、見ずに来場した人を区別できない。だから教材は、会場側に仕掛けを置いて、オンラインとオフラインを橋渡しする方法を生徒に考えさせています。「ツールが出す数字」ではなく「知りたいことに合わせて測り方のほうを設計する」——これが効果検証の本体だと私は思います。

手で確かめる

同じ1ページに、目的を2つ置いてみる

題材は、教材に合わせて文化祭のWebサイトにします。その中の「行き方(アクセス)」ページ1枚を対象にしましょう。このページに、目的を2つ設定します。

同じ1ページ 文化祭サイトの「行き方」 目的A 来場者を増やす =ユーザーの認知を広げたい 目的B 迷わせない =行動を起こしてほしい 見る指標 ・訪問者数/新規訪問の割合 ・流入元(検索・SNS・外部リンク) ・SNSのインプレッション 見る指標 ・トップから「行き方」への到達率 ・最後まで読んだ割合 ・当日「道が分からない」の件数 同じ数字「滞在時間が長い」 良い知らせ 関心が高い 悪い知らせ 地図が読めていない 数字それ自体は何も語らない。目的が数字に意味を与えている。

図2 目的を2つ置くと、見る指標も、同じ数字の読み方も変わる。

最下段が、この図の急所です。まったく同じ「滞在時間が長い」という1つの数字が、目的Aでは成功の証拠に、目的Bでは失敗の証拠になります。数字それ自体は何も語りません。目的が数字に意味を与えている。だから目的を決めずに解析画面を開いても、そこには意味のない数の羅列しかありません。

1周だけ回してみる(架空データ・計算はすべて検算済み)

改善の1周を数字で追ってみます。以下は私が作った架空の例で、実在のサイトのデータではありません。

見た数 改善前(1週間) 改善後(翌週)
トップページの閲覧 840 840
「行き方」ページの閲覧 252 420
「行き方」を最後まで読んだ人 63 168
到達率(=行き方÷トップ) 30.0% 50.0%
読了率(=読了÷行き方) 25.0% 40.0%

計算はこうです。252÷840=0.30、63÷252=0.25、420÷840=0.50、168÷420=0.40。打った手は「トップの目立つ位置に『行き方はこちら』を置く」「地図を作り直す」の2つでした。

さて、この改善は成功でしょうか。

● 目的A(来場者を増やす)の物差しで見れば、失敗です。トップページの閲覧は840のまま1つも増えていません。人は増えていない。

● 目的B(迷わせない)の物差しで見れば、成功です。行き方にたどり着く人が1.67倍(0.50÷0.30=1.666…)、最後まで読む人は 168÷63=2.67倍(正確には3分の8)になりました。

同じ1つの改善が、目的次第で成功にも失敗にもなる。「効果があったか」という問いは、目的を書かないと問いとして成立していないのです。

SNSでも同じことが起きます。架空の2投稿を比べます。

投稿 インプレッション エンゲージメント エンゲージメント率
投稿ア 12,000 240 240÷12,000=2.0%
投稿イ 3,000 210 210÷3,000=7.0%

目的A(認知を広げる)なら投稿アの勝ち。見た人が4倍多い(12,000÷3,000=4)。目的B(行動を起こす)なら投稿イの勝ち。反応率が3.5倍(7.0÷2.0=3.5)。どちらも正しい。正しさは目的の側にあります。

コントラスト比を、式から計算して合否を出す

「測れる形にすると配慮が工程になる」を、実際に手を動かして確かめます。情報Ⅱ教材が名指しした「配色のコントラスト比」の定義は、W3C(World Wide Web Consortium)のWCAGにあります。日本語の規格 JIS X 8341-3:2016 は WCAG 2.0 と一致した内容になっており、達成基準の番号(1.4.3 など)も共通です。

式(W3Cの定義)

コントラスト比 = (L1 + 0.05) ÷ (L2 + 0.05) (L1 は明るいほうの相対輝度、L2 は暗いほうの相対輝度)

相対輝度 L は、sRGB の各成分 C(0–255)について、まず c = C ÷ 255 とし、

c ≤ 0.04045 のとき clin = c ÷ 12.92

c > 0.04045 のとき clin = ((c + 0.055) ÷ 1.055) の 2.4 乗

と直線化してから L = 0.2126×Rlin + 0.7152×Glin + 0.0722×Blin とします。

緑の係数が0.7152と飛び抜けて大きいのは、人の目が緑にいちばん敏感だからです。明るさは物理量ではなく、人間の見え方に寄せた量なのです。

基準(達成基準1.4.3 コントラスト(最低限)/レベルAA)は、通常の文字が4.5:1以上、大きな文字が3:1以上。W3Cの本文では大きな文字を「18ポイント以上、または14ポイント以上の太字。日中韓の文字については同等の大きさとなるフォントサイズ」と定義しています。

実際に計算したコードです(Pythonで実行し、出力を確認しています)。

from decimal import Decimal, getcontext
getcontext().prec = 40
def lin(c8):
    s = Decimal(c8) / Decimal(255)
    if s <= Decimal('0.04045'):
        return s / Decimal('12.92')
    return ((s + Decimal('0.055')) / Decimal('1.055')) ** Decimal('2.4')
def L(hexs):
    h = hexs.lstrip('#')
    r, g, b = int(h[0:2], 16), int(h[2:4], 16), int(h[4:6], 16)
    return Decimal('0.2126')*lin(r) + Decimal('0.7152')*lin(g) + Decimal('0.0722')*lin(b)
def ratio(a, b):
    la, lb = L(a), L(b)
    l1, l2 = (la, lb) if la >= lb else (lb, la)
    return (l1 + Decimal('0.05')) / (l2 + Decimal('0.05'))

白(#FFFFFF)を背景にした結果です。

前景 通常の文字(4.5:1) 大きな文字(3:1)
#000000(黒) 21.00 OK OK
#4A4A4A(濃いグレー) 8.86 OK OK
#6A5ACD(藤色) 5.31 OK OK
#767676(中間グレー) 4.54 OK(ぎりぎり) OK
#7B68EE(明るい藤色) 4.15 NG OK
#999999(薄いグレー) 2.85 NG NG
#FFB300(黄) 1.79 NG NG
比 < 3.0 どの文字もNG 3.0 ≤ 比 < 4.5 4.5 ≤ 比 どの文字もOK あア Aa1.79 #FFB300(黄) あア Aa2.85 #999999(薄いグレー) あア Aa4.15 #7B68EE(明るい藤色) 本文に使えばNG 大見出しに使えばOK 色だけでは決まらない あア Aa4.54 #767676(ぎりぎり通る) あア Aa5.31 #6A5ACD(藤色) あア Aa21.00 #000000(比の最大値) 「薄いけどおしゃれ」は 議論の余地なく不合格 背景はすべて白(#FFFFFF)。好みでも多数決でもなく、式で合否が決まる。 基準:W3C WCAG 達成基準1.4.3(通常の文字 4.5:1 以上/大きな文字 3:1 以上)

図3 同じ計算式が、色の採否を機械的に決める。

検算(別実装と手計算で独立に確認しました)

● 黒 #000000 と白 #FFFFFF:L=0 と L=1 なので (1+0.05)÷(0+0.05)=1.05÷0.05=ぴったり21。これが取りうる最大値です。計算が21から少しでもずれたら実装が間違っている、という検算に使えます。

● グレー #767676(10進で118):118÷255=0.4627450980… で 0.04045 より大きいので ((0.4627450980+0.055)÷1.055) の2.4乗 = 0.1811642442…。R=G=B なので係数の和が 0.2126+0.7152+0.0722=1 となり、L はこの値そのもの。比は (1+0.05)÷(0.1811642442+0.05)=4.5422…4.5をわずかに超えるのでOK。#767676 が「白背景で使える最も薄いグレー」と言われる理由がここにあります。

この表から読むべきことは3つです。

  1. 合否は、好みでも多数決でもなく、機械的に決まります。#999999 は「薄いけどおしゃれ」ではなく、2.85で不合格。議論の余地がありません。
  2. 同じ色でも、文字の大きさで合否がひっくり返ります。#7B68EE は 4.15 なので、本文に使えばNG、18ポイント相当以上の大見出しに使えばOK「この色は使えるか」という問いは、それだけでは答えが出ません。「どの大きさの文字に使うか」まで決めて初めて答えが出ます。測定には条件がいる、という良い実例です。
  3. 4.5という数字にも根拠があります。W3Cの解説文書は、視力0.5(20/40)程度の人ではコントラスト感度がおよそ1.5倍失われるとし、3×1.5=4.5 としています。基準値は天下りではなく、誰を取りこぼさないかの宣言です。

なお日本語の文脈では、「大きな文字」の閾値がCSSピクセルで示されることが多くあります。デジタル庁デザインシステム(β版)は達成基準1.4.3・1.4.11を引きつつ、24 CSS px以上のテキスト、または18 CSS px以上の太字テキストを大きなテキストとし、加えてUIコンポーネントやグラフィカルオブジェクトには3:1以上(達成基準1.4.11 非テキストのコントラスト)を求めています。日本語は漢字の画数が多く、同じポイント数でも線が細くなりやすいので、閾値が上に取られていると理解しておくとよいでしょう。

共通テストではこう出る

重要度 C。この講の内容そのものは共通テストに出ません。情報Ⅱは共通テストの出題範囲外だからです。「コンバージョン」「アクセス解析」「メディアプラン」「プロトコル分析」を覚える必要はありません。

ただし、情報Ⅰの情報デザインは出ます。しかも出方が動いています。大学入試センターが公表している問題作成部会の見解を読むと、それが確認できます。

令和7年度 本試験 第1問 問4は「フィッツの法則を題材に,マウスカーソルの移動やメニュー項目の配置について,示された法則に基づいて情報デザインについて考察できるかを問う問題」でした。部会はこの問について、情報処理学会から「設計のデザインをモデル化し,法則に従って考えさせるタイプの『情報デザイン』の問題になっている」と評価された一方、「常識の範囲で解答できるのではないかという指摘」も受けたと書き、該当箇所の正答率が約9割5分だったことを自ら挙げています。つまりこの年の情報デザインは、易しかった

令和8年度 本試験 第1問 問3は「スマートフォンの入力インタフェースという受験者にとって身近な題材を取り上げ,データを活用したユーザの視点に立った UI 設計を考察できるかを問う問題」です。部会は該当箇所の正答率が約5割とやや低かったとし、「基本統計量の本質的な理解を基に考察する力が不足している」と分析しています。

1年で何が変わったか。令和7年は「与えられた法則に当てはめる」問題、令和8年は「データを見て設計を考える」問題になりました。後者は、この講が扱っている「測ってから直す」そのものの構図です。そして正答率は9割5分から5割に落ちました。

第23講が確認したとおり、大学入試センターの公表文書には「抽象化」「可視化」「構造化」の3語がいずれも0件で、情報デザインは語を覚えて答える形では出ていません。出るのは、その場で示された規則やデータに基づいて設計を判断させる形です。だから情報Ⅱの用語は不要でも、情報Ⅱ的な考え方(測ってから直す)は、情報Ⅰの試験対策として役に立ちます。これがこの講を読む価値です。

情報Ⅱではこうなる

本講そのものが情報Ⅱの内容なので、ここには語数調査の全結果と、調べた範囲の宣言を置きます。第109講(情報Ⅱの全体像)で示した「情報Ⅱは難しくなった情報Ⅰではなく、同じ道具を別の役割で使い直す科目である」という見立てが、この講でも成立します。

当てた範囲(すべて pdftotext -layout で全文抽出し、NFKC正規化のうえ空白と改行をすべて除去してから計数。ヒットは1件ずつ前後を目で見て用法を確認しました)

① 学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編 全文。第1部(共通教科「情報」=情報Ⅰ・情報Ⅱ)と第2部(主として専門学科において開設される教科「情報」)を分離して計数

② 情報Ⅰ教員研修用教材 全6分冊(表紙・はじめに/本教材の使い方/第1章/第2章/第3章/第4章)

③ 情報Ⅱ教員研修用教材 全7分冊(序章/第1章/第2章/第3章前半第3章後半/第4章/第5章)

④ 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」一覧ページ(「コミュニケーションと情報デザイン」は全4本で、いずれも制作の話。発信して測る内容の回はありません

注意:④のスライドPDFの一部はテキスト抽出ができません(画像化されているため)。したがって以下の「0件」は、厳密には「テキスト抽出できた資料の範囲で0件」です。この限界を隠さずに書いておきます。

解説 第1部 解説 第2部 情報Ⅰ教材 情報Ⅱ教材 内訳・用法
効果測定 0 0 0 0
効果検証 1 0 0 2 解説1件は情報Ⅱ(3)。情報Ⅱ教材は序章1・第3章前半1。第2章は0
アクセス解析 0 0 0 5 全て第2章 学習10
コンバージョン 0 0 0 6 全て第2章 学習10
メディアプラン 0 0 0 20 全て第2章
プロトコル分析 0 0 0 12 全て第2章 学習9
タスクシナリオ 0 0 0 2 全て第2章 学習9
構造化インタビュー 0 0 0 5 全て第2章 学習9
インタビュー 1 1 9 33 情報Ⅰの9件は全て第2章(制作前の情報収集)/情報Ⅱは第2章30・第5章3
アクセシビリティ 3 2 1 18 情報Ⅰ教材の1件は第1章の「学習内容の全体像」の一覧の中で本文の説明ではない。第2章は0。情報Ⅱは第1章3・第2章14・第5章1
ユーザビリティ 4 2 1 13 同上(情報Ⅰ教材の1件は第1章の一覧)。情報Ⅱは第1章5・第2章7・第5章1
コントラスト比 0 0 0 1 第2章 学習9
JIS X 8341 0 0 0 1 第2章 学習9(JIS X 8341-1)
定量的 1 1 5 3 情報Ⅰは第2章4(制作前)+第4章1/情報Ⅱは第2章3(発信後)
定性的 0 1 4 1 情報Ⅰは全て第2章/情報Ⅱは第2章1
ペルソナ 0 1 18 16 情報Ⅰは全て第2章。情報Ⅰ側のほうが多い
PDCA 1 0 2 0 解説1件は情報Ⅰ(2)/情報Ⅰ教材2件は第1章。情報Ⅱは全7分冊0件
KPI 0 0 0 0
A/Bテスト 0 0 0 0
直帰率 0 0 0 0
離脱 0 0 0 0
指標 6 1 8 26 情報Ⅰの8件は全て第4章(データ)/情報Ⅱの26件は第3章前半22に集中し、第2章はわずか1件
SEO/検索エンジン最適化 0 0 0 3/1 全て第2章 学習10(参考文献はGoogleの公式ガイドライン3本)
ヒートマップ 0 0 0 2 第3章後半のクラスタリングの図で、アクセス解析のヒートマップではない

この表から立つ結論は3つです。

  1. 情報Ⅰの制作に無いのは「回すこと」ではなく「測る道具」です。PDCAは情報Ⅰ側にあり、情報Ⅱ側にはない。逆に測る道具(アクセス解析・コンバージョン・プロトコル分析・コントラスト比)は情報Ⅱ側にしかない。名前が消えて、中身が入った。
  2. 「指標」という語の分布が、この講の構図を一発で示しています。情報Ⅱ教材の26件のうち22件はデータサイエンスの第3章。コンテンツの第2章にはたった1件しかなく、その1件が「目的によってアクセス解析で見なければならない指標も変わってくる」という、本講の芯そのものの文です。第2章で「指標」という語が使われるのは、目的の話をするときだけなのです。
  3. ペルソナは情報Ⅰ教材のほうが多い(18対16)。「情報Ⅱのほうが必ず厚い」わけではありません。第21講(抽象化・可視化・構造化)でも同じことが起きていました。接続は、量ではなく位置で見る。これが本書の読み方です。

この講の位置づけを1行にまとめておきます。情報Ⅰの「運用/振り返り」が、情報Ⅱでは「発信」と「分析と改善」の2つに割れる。評価者が教室の外へ出た瞬間に、道具が要る。

→ 『藤原進之介の最強120講義』の全講一覧はこちら

この講の一次資料

(すべて2026年8月3日取得。語数は当方が全文抽出のうえ機械計数し、用法を目視確認したものです。)

執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)

オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第119講のWeb版です。

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