情報Ⅰ 最強120講義

データサイエンスのワークフロー|情報Ⅰ 最強120講義 第110講

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データサイエンスの工程は「収集 → 前処理 → 分析 → 可視化」の一直線ではありません。問いから始まり、問いに戻る円環です。この講では、国の教員研修用教材が情報Ⅰ・情報Ⅱの両方で工程図の終点を「次の問題解決へ」と書いていることを原文で確かめ、e-Statの国勢調査データで実際に一周してみます。途中で2回、前の工程に戻ります。

こんにちは、数強塾グループ代表の藤原進之介です。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第110講のWeb版で、第6部「情報Ⅱへの橋」の2本目にあたります。共通テスト重要度はC──情報Ⅱは出題範囲外だからです。情報Ⅱの全体像は第109講に置きました。本講はその続きで、では実際にどう進めるのかという手順の話です。

1. この講の問い

データサイエンスは、どういう順番で進めるのか。

2. 結論

工程は一直線ではなく、問いから始まり、問いに戻る円環である。

国の一次資料も、情報Ⅰ・情報Ⅱの両方で工程図の終点を「次の問題解決へ」と書いている。

そして最初に置かれるのは分析ではなく「問題の発見」である。ここを飛ばすと、自分で自分を騙す。

3. なぜそうなるのか

3-1 国の教材は、工程を「円」として描いている

まず、想像で語らずに原文を見ます。文部科学省の教員研修用教材は、章末に「全体を通じた学習活動の進め方」という節を置き、そこに工程図を載せています。データを扱う章はこの2つです。

情報Ⅰ 第4章 章末 p.210 の工程図 問題の発見 データの収集と 問題の明確化 データの整理と変換 データの分析と可視化 分析結果の 発表と解釈 分析の評価 次の問題解決へ 情報Ⅱ 第3章 章末 p.176 の工程図 問題の発見 データの収集と 問題の明確化 データの整理・整形 データを処理する モデルの検討 データの 処理・分析・可視化 データ処理の 検証・評価・改善 次の問題解決へ

情報Ⅰ 教員研修用教材 第4章 章末(p.210)と、情報Ⅱ 教員研修用教材 第3章 章末(p.176)の工程図を、当方で並べて描き起こしたもの。箱の文言はいずれも原文どおり。

どちらも最後の箱が「次の問題解決へ」です。つまり国の教材は、最初から工程を1本の線ではなくとして描いています。情報Ⅱ側の本文はこう書きます。

「情報Ⅰ」の (4) 情報通信ネットワークとデータの活用と同様に,自然現象や社会現象についてデータを用いた解決について検討し,データの収集,整理・整形,モデル化,処理,分析,評価,改善という一連の学習活動を行う。文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材(本編)」第3章 章末(p.176)

そして図のすぐ下に、授業設計の観点として5つが並びます。❶データの収集 ❷データの整理・整形 ❸データのモデル化・処理・分析・可視化 ❹データ処理の検証・評価・改善 ❺発展的な学習

ここで2つの図の差に目を留めてください。情報Ⅰの図にあって情報Ⅱの図に無い箱が1つあります。「分析結果の発表と解釈」です。逆に情報Ⅱの図にあって情報Ⅰに無いのは「モデルの検討」と「検証」。

情報Ⅰは「分析して、人に説明する」までを1周とし、情報Ⅱは「モデルを立てて、その正しさを検証する」までを1周とする。同じ円でも、力点が置かれている場所が違います。(誤解のないように補うと、情報Ⅱで伝達が要らなくなるわけではありません。学習指導要領解説の情報Ⅱ(3)は内容項目のイ(イ)に「解釈・表現を行うこと」を残していますし、次に見る9語の最後は「効果検証」です。図から消えたのは「発表」という教室の活動としての箱であって、伝えるという工程ではありません。)

3-2 工程の語数を数えると、情報Ⅰと情報Ⅱの差が数字で出る

学習指導要領解説 情報編(平成30年7月)の本文も、工程を名詞で並べています。ただし情報Ⅰと情報Ⅱで並ぶ語の数が違います。まず情報Ⅰ (4) イ(ウ)。

データの収集,整理,分析及び結果の表現の方法を適切に選択し,実行し,評価し改善すること学習指導要領解説 情報編 情報Ⅰ (4) イ(ウ)

4語です。ところが情報Ⅱ (3) の解説にはこう書かれています。

不確実な事象を予測するなどの問題発見・解決行うために,データの収集,整理,整形,モデル化,可視化,分析,評価,実行,効果検証などの各過程における方法を理解し学習指導要領解説 情報編 情報Ⅱ (3)(「問題発見・解決行うために」は原文のまま)

9語。情報Ⅰの4語に対して、情報Ⅱでは「整形」「モデル化」「実行」「効果検証」が足されます。同じ節はさらに、こうも書いています。

ここでは,情報の科学的な見方・考え方を働かせて,問題を明確にし,分析方針を立て,社会の様々なデータ…について,整理,整形,分析などを行う。同上 情報Ⅱ (3)

「問題を明確にし、分析方針を立て」が先に来ている。データを触る前です。これが本講の芯になります。

なお「分析方針」も「効果検証」も、解説 情報編の共通教科側(第1部)にそれぞれ1件しかなく、その1件が情報Ⅱ(3)です。専門教科側(第2部)には0件。工程を細かく刻んで名前を付けるという発想そのものが、情報Ⅱで初めて明示されます。

3-3 なぜ最初が「問い」でなければならないのか

順番の話に見えて、これは誠実さの話です。

データを先に見てから問いを立てると、何が起きるか。手元のデータには、偶然の凸凹が必ずあります。47個の数字を並べれば、たまたま高い県とたまたま低い県が出る。そこから問いを作れば、その問いは必ず「答えが出る」。なぜなら、答えを見てから問題を作ったからです。

これは相関と因果の講で扱ったたくさん比べれば、どれかは偶然当たるという話と、標本調査で扱った標本の偏りの、実務版の顔です。統計の教科書は「有意水準5%なら20回に1回は偶然当たる」と書きますが、現場でこれが起きる経路はもっと素朴で、データを眺めているうちに、目に付いたものを結論にしてしまうだけです。

だから問いを先に紙に書く。これは倫理の要請ではなく、手続きによる自己防衛です。先に書いておけば、後から「そんなつもりではなかった」と自分に言えなくなる。

情報Ⅱの教材が図の1番目に「問題の発見」を置き、2番目を「データの収集」ではなく「データの収集と問題の明確化」としているのは、たまたまではありません。データを集める作業と、問いを研ぐ作業は、同じ箱に入っています。

3-4 なぜ前処理が最も時間を食うのか

工程の中で、実際にいちばん時間を食うのは分析ではなく整理・整形です。理由は単純で、現実のデータは分析されるために作られていないから。統計は行政の仕事のために設計され、Webのデータは表示のために設計されています。分析はその副産物を借りているにすぎません。

情報Ⅰ 教員研修用教材 第4章の章末も、実習の設計についてこう釘を刺しています。

使用するデータはきれいに整形したデータではなく,多少加工が必要なデータを用いて,実際のデータがどのようなものであるか,理解させることも必要である。(中略)数十件程度のデータではなく,少なくとも数千件あり単にデータを眺めただけでは傾向が読み取れないものに関して,問題や結果を発見するような実習を設定することが望ましい。文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」第4章 章末(p.210)

「眺めただけでは分からない量」を扱えと国が書いている。眺めて分かる量なら、そもそもデータサイエンスは要りません。

前処理の具体的な手口(欠損値・外れ値・ワイドフォーマットとロングフォーマット・重複除去)はデータの整理・整形の講に譲ります。本講で押さえるのは、前処理は工程の中で唯一「戻ってくる先」になるということです。可視化して初めて汚れに気づく。分析して初めて単位のずれに気づく。だから前処理は一度で終わりません。

3-4補 同じものを、情報Ⅰと情報Ⅱは違う名前で呼んでいる

ここで、本書が今回見つけた事実を1つ置きます。記録の無いデータを、一次資料は2つの語で呼び分けています。

解説 第1部
(共通教科)
解説 第2部
(専門教科)
情報Ⅰ
教員研修用教材
情報Ⅱ
教員研修用教材
欠損値 2 0 0 17
欠測値 0 0 6(すべて第4章) 0

当方で2026年8月3日に計数。PDFをテキスト化し、空白と改行を全部除いてから数えた(除かないと「欠損 値」のように語が分断されて少なく出ます)。

見事に分かれています。学習指導要領解説と情報Ⅱの教材は「欠損値」、情報Ⅰの教員研修用教材だけが「欠測値」と書く。同じものです。検索して0件でも「扱っていない」と判断してはいけない、という実例でもあります。

そして情報Ⅰ 教員研修用教材 第4章の「欠測値」の説明は、実は本講の主題に直結します。

欠測値は分析に際して,(ア)欠測値を含む対象全体の行(レコード)を削除する,(イ)欠測値を近いと思われる値で埋める等の処理を行うが,分析結果を提示する際にはその処理を明記する同 第4章

前処理でやったことを、結果を出すときに明記せよ。つまり工程は「前処理」で閉じていません。前処理の判断が、最後の伝達までずっと引きずられる。ここが「一直線の図」では絶対に表現できない部分です。

3-5 なぜ「分析して終わり」ではないのか

情報Ⅰの工程図には「分析結果の発表と解釈」という箱がありました。ここが落ちると、工程は成立しません。

理由は身も蓋もない。誰かの判断を変えなければ、分析は何も生んでいないからです。相関係数を出しただけでは世界は1ミリも動かない。動くのは、それを読んだ誰かが「じゃあこうしよう」と決めたときです。だから伝達は工程の外側の付録ではなく、工程そのものの最後の1区画です。

そして解説 情報Ⅱ(3) が9語の最後に置いた語を思い出してください。「効果検証」です。伝えて、相手が動いて、その結果どうなったかを測る。ここまで来て初めて円が閉じ、「次の問題解決へ」に繋がります。

3-6 「PPDAC」「CRISP-DM」を、国が言っていることにしない

データ分析の手順には有名な枠組みの名前がいくつかあります。ただし主語を間違えると嘘になるので、ここは丁寧に切り分けます。

私は次の資料を全文テキスト化し、空白と改行を除去したうえで検索しました(2026年8月3日実施)。

  • 学習指導要領解説 情報編(第1部=共通教科/第2部=専門教科 に分けて計数
  • 情報Ⅰ 教員研修用教材(表紙・序章+第1〜4章の全分冊)
  • 情報Ⅱ 教員研修用教材(序章+第1〜5章の全7分冊。第3章は前半・後半の2分冊とも
  • 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」一覧ページ
解説 第1部 解説 第2部 情報Ⅰ教材 情報Ⅱ教材
PPDAC 0 0 0 0
CRISP(CRISP-DM) 0 0 0 0
ワークフロー 0 0 0 0

高校情報科の一次資料には、この3語はどれも一度も出てきません。「情報ⅡではPPDACサイクルを学びます」と書いてある解説を見かけたら、それは教科書会社か著者の言葉であって、国の文書の言葉ではありません。

ただし「PPDAC」という語自体が怪しいわけではまったくありません。総務省統計局の統計教育サイト「なるほど統計学園」には実在します。同サイトは PPDAC を「Problem(問題)、Plan(調査の計画)、Data(データ)、Analysis(分析)、Conclusion(結論)に分割した考え方」と説明しています。つまり統計教育の系譜には確かに在り、情報科の一次資料には無い、というのが正確な状態です。

私が本講で「一直線ではない」と言うときの根拠は、PPDACでもCRISP-DMでもなく、3-1で見た国の工程図が「次の問題解決へ」で閉じていることです。名前を借りなくても、原典だけで言い切れます。

3-7 一直線の図は、やはり嘘である

入門書はたいてい「収集 → 前処理 → 分析 → 可視化 → 報告」と一直線に描きます。教える側としては、あの図が便利なのは分かる。だがあの図のとおりに進んだ分析を、私は一度も見たことがありません

実際に起きるのはこうです。

  • 可視化して初めて、データの汚れに気づく → 前処理へ戻る
  • 分析して初めて、問いが的外れだったと分かる → 問いへ戻る
  • 人に説明していて初めて、比べてはいけないものを比べていたと気づく → 収集へ戻る

そして重要なのは、この「戻る」は失敗ではないということです。戻れる工程は正しく動いています。戻らないまま一直線に出てきた結論のほうが、はるかに危ない。国の図が輪になっているのは、そういう意味です。

次の節で、実際に一周してみます。途中で2回、はっきり戻ります。

4. 手で確かめる──小さな問いを立てて、工程を一周する

小さくてよいので、問いから限界の明示まで全部やってみます。使うのは政府統計の一次データだけです。

工程0 問いを立てる(データを見る前に書く)

東京都に人が集まっていったのは、いつからか。

先に書きました。この時点で私はまだ1バイトもデータを見ていません。指標も先に決めます。東京都の人口が、全国の人口に占める割合(%)の推移を見ます。

工程1 データを取得する

政府統計の総合窓口 e-Stat から、国勢調査の時系列表を取ります。オープンデータの講で扱った窓口そのものです。

  • 政府統計名:国勢調査/提供統計名:時系列データ/提供分類:CSV形式による主要時系列データ
  • 表番号1「男女別人口-全国,都道府県(大正9年~平成27年)
  • 公開(更新)日:2017-01-30
  • 一覧ページ: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001083104
  • 直接ダウンロード: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031524010&fileKind=1

情報Ⅱの教材が学習12で「インターネット上に掲載されたWebページよりデータを収集する(利用規約を確認してから行う)」と書いているとおり、先に規約を見ます。e-Statの利用規約は政府標準利用規約(第2.0版)に準拠し、CC BY 4.0と互換で、商用利用を含めて自由に利用でき、「出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)」の表示と、加工した場合の加工事実の明記を求めています。

工程2 ファイルの素性を確かめる(開く前に、形を見る)

import csv, io, urllib.request
URL = ("https://www.e-stat.go.jp/stat-search/"
       "file-download?statInfId=000031524010&fileKind=1")
raw = urllib.request.urlopen(URL).read().decode("shift_jis")
rows = list(csv.reader(io.StringIO(raw)))
print("行数", len(rows))
print("見出し", rows[0])
print("列数が9でない行", [r for r in rows if len(r) != 9])

出力:

行数 983
見出し ['都道府県コード', '都道府県名', '元号', '和暦(年)', '西暦(年)',
        '注', '人口(総数)', '人口(男)', '人口(女)']
列数が9でない行 [
  ['1) 沖縄県は調査されなかったため,含まれていない。'],
  ['2) 長野県西筑摩群山口村と岐阜県中津川市の境界紛争地域人口(男39人,女34人)は
      全国に含まれているが,長野県及び岐阜県のいずれにも含まれていない。']]

いきなり3つ学べます。

  1. 文字コードが Shift-JIS。 UTF-8 のつもりで開くと文字化けします。
  2. 最後の2行が脚注で、表のデータではありません。列数が9でない行を探すだけで機械的に見つかります。
  3. その脚注2)が、この後で必ず効いてくる警告になっています。

脚注行を落とします。

工程3 可視化して、確認する(1回目)

年ごとに人口が多い上位3つを出してみます。これが最初の「可視化」です。

データ行数 980
調査年の数 20
行数 ÷ 調査年数 = 49.0
(年ごとの人口 上位3件)
1920 [('全国', 55963053), ('東京都', 3699428), ('大阪府', 2587847)]
1970 [('全国', 104665171), ('人口集中地区', 55996885), ('人口集中地区以外の地区', 48668286)]
2015 [('全国', 127094745), ('人口集中地区', 86868176), ('人口集中地区以外の地区', 40226569)]

ここで手が止まります。

1つ目の異変は分かりやすい。「全国」という行が都道府県と同じ表に混ざっています。都道府県別のつもりで最大値を取ると、必ず全国が勝ちます。

2つ目が厄介です。「人口集中地区」「人口集中地区以外の地区」という、都道府県ではない行が混ざっています。これらはファイルの末尾(沖縄県の後ろ)に置かれているので、先頭を眺めただけでは絶対に気づきません。

そしてこの罠の一番いやらしいところは、980 ÷ 20 = 49 ときれいに割り切れてしまうことです。「48地域(全国+47都道府県)×20回のはずが49で割り切れた、まあいいか」で通り過ぎてしまう。実際は 48地域×20回 + 2地域×10回 = 980 で、たまたま整数になっただけです。割り切れたことは、正しさの証明ではありません。

工程4 ★ここで前処理に戻る★

可視化して初めて分かったので、前処理へ戻ります。これが本講で見せたかった往復です。地域の一覧を出します。

地域名の総数 50
  コード00  全国                  1920〜2015  20回
  コード0A  人口集中地区           1970〜2015  10回
  コード0B  人口集中地区以外の地区  1970〜2015  10回

都道府県コードが 0147 の行だけを残す、と決められます。1回目の可視化がなければ、この判断はできませんでした。

工程5 ★もう一度戻る★──欠損値

都道府県だけにして割合を計算しようとすると、今度は数値変換で落ちます。数値にできないセルを探します。

[('1945', '沖縄県', '-')]

1945年の沖縄県だけが -空欄ではなくハイフンです。空欄だけを欠損値として扱う処理だと、ここをすり抜けて後段で壊れます。そして脚注1) が「沖縄県は調査されなかったため,含まれていない」と教えてくれていました。脚注を落としたときに、この情報も一緒に落としていた。もう一度戻ります。

工程6 分析する

ここまで来てようやく計算に入ります。東京都の人口 ÷ 全国の人口 × 100。

調査年 東京都 全国 シェア 前回比
1920 3,699,428 55,963,053 6.61%
1930 5,408,678 64,450,005 8.39% +0.88
1940 7,354,971 73,114,308 10.06% +0.86
1945 3,488,284 71,998,104 4.84% −5.21
1950 6,277,500 84,114,574 7.46% +2.62
1955 8,037,084 90,076,594 8.92% +1.46
1960 9,683,802 94,301,623 10.27% +1.35
1965 10,869,244 99,209,137 10.96% +0.69
1970 11,408,071 104,665,171 10.90% −0.06
1980 11,618,281 117,060,396 9.93% −0.50
1995 11,773,605 125,570,246 9.38% −0.21
2005 12,576,601 127,767,994 9.84% +0.34
2015 13,515,271 127,094,745 10.63% +0.36

全20回のうち代表的な年を抜いたもの。全数値は e-Stat の表番号1から直接計算し、別の方法で独立に再計算して一致を確認しています。

工程7 解釈する

問いは「いつからか」でした。答えはこうです。

東京への集中が最も激しかったのは、戦後の20年間、1945年から1965年である。シェアは 4.84% → 10.96%、+6.11ポイント。この間、東京都の人口は 3.12倍になった。全国は 1.38倍である。桁が違う。

そしてもう1つ、直感に反する事実が出ます。

東京のシェアのピークは1965年(10.96%)で、2015年(10.63%)はまだそこに届いていません。差は0.32ポイント。「東京一極集中は年々進んでいる」という素朴なイメージとは違い、シェアで見ると1965年をピークに1995年(9.38%)まで30年下がり続け、そこから再び上がっています。「一極集中」という言葉が指しているものは、単調な増加ではなく、下げてから上げ直したV字です。

工程8 限界を明示する(ここまでが工程である)

数字を出したら、その数字で言えないことを書く。これをやらない分析は未完成です。

  1. 1945年は例外的な年です。沖縄県が調査されておらず(脚注1)、分母そのものが他の年と揃っていません。この年の 4.84% を他年と同列に並べてはいけない。疎開と戦災の影響も当然大きい。
  2. 「全国」は47都道府県の合計と一致しない年があります。1960年は 全国 94,301,623 に対し47都道府県の合計が 94,301,550 で、差は73人。脚注2)の「境界紛争地域人口(男39人,女34人)」= 39+34 = 73 とぴったり一致します。分母をどちらで取るかで数字が変わる(この規模なら結論は動きませんが、動かないことを確認してから採用するのが手続きです)。
  3. 国勢調査は「常住地」で数えます。総務省統計局は「住民票などの届出場所に関係なく,10月1日現在,ふだん住んでいる場所」で記入し、「ふだん住んでいる場所」とは「3か月以上住んでいる場所か,3か月以上にわたって住むことになっている場所」と説明しています。つまり東京に毎日通っている人は、東京では数えられません。「東京に人が集まる」を昼間の人の量として捉えたいなら、この指標は答えていません。
  4. この時系列表は平成27年(2015年)までです。令和2年・令和7年の国勢調査は別の表を当たる必要があります。一次データにも「いつまでのものか」があります。
  5. 都道府県の境界も、市域も、この95年間で変わっています。同じ「東京都」という名前が、同じ範囲を指し続けている保証はありません。

この5行を書けることが、割合を計算できることより価値があります。そして限界を書いた瞬間に「では昼間人口ならどうか」という次の問いが立ち上がる。図の最後の箱、「次の問題解決へ」です。円が閉じました。

5. 共通テストではこう出る

この講は共通テストへの接続がありません。情報Ⅱは出題範囲外です第109講で一次資料により確認済み)。

ただし、情報Ⅰの第4問(データ分析)が、この工程のどこを切り出したものかは説明できます。しかも推測ではなく、大学入試センター自身の文章で説明できます。

大学入試センターは毎年「問題評価・分析委員会報告書」を公表しており、その中で問題作成部会が出題意図を自分の言葉で書いています。令和8年度『情報Ⅰ』本試験 第4問についてはこうです。

気象庁のオープンデータから,経験則として知られている開花日を予測する仮説への当てはまりを確認するとともに,補正により精度が向上するかを検証する,といった一連のデータ分析を行う学習過程を模して,基礎的なデータの集計と前処理,データの可視化と正確な読み取り,分析が正しく進められるかを問う問題とした。大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』」問題作成部会の見解

前年の令和7年度も、書き出しは同じ形です。

旅行・観光消費動向調査のデータを基に,探索的なデータ分析を行う学習過程を模して,基礎的なデータの集計・可視化とその正確な読み取り,及びそれに基づく仮説の下で分析の方法を問う問題とした。同 令和7年度

2年連続で「データ分析を行う学習過程を模して」と書いています。第4問は統計の知識を問う問題ではなく、工程を1周させる問題なのです。同報告書によれば、令和8年度の設問の役割分担はこうなっています。

設問 問うている工程 報告書の記述(要旨)
問1 収集と前処理 オープンデータに関する基本的な知識、欠損値や目的に応じた可視化方法
問2 整形 予測値と実測値との誤差の定義を理解し、散布図の作成に必要なデータを適切に作成できるか
問3 可視化と読み取り 散布図から読み取れること・読み取れないこと、観測点を分割した箱ひげ図の関係性
問4 評価・改善 回帰直線を利用して予測値を補正できるか、その補正方法の特徴を正しく理解できるか

問1から問4が、そのまま工程の順番です。学会からも「『データ処理』の学習内容を凝縮したような出題である」(情報処理学会)、「数学としてではなく『情報Ⅰ』について別途教科・科目を設置して共通テストを実施する意義を示す問題であった」(日本情報科教育学会)という評価が付いています。

正答率も報告書が公表しています(令和8年度 本試験・第4問)。

  • 全体としてはおおむね高め
  • オープンデータの特性を問う空欄と、回帰直線を用いた補正日を問う空欄が 5割程度(識別力が高い)
  • 箱ひげ図の特性を問う空欄が 5割強
  • 補正方法の精度を問う空欄が 3割弱と非常に低い

読み取り方ははっきりしています。落とすのは「計算」ではなく「評価」です。補正方法の精度、つまり「その処理をやって本当に良くなったのか」を判断する設問が、群を抜いて取れていない。工程の最後、円が閉じる直前が最大の弱点になっています。

なお令和7年度は、正答率が2割台と非常に低かったのが問1(尺度水準)と問3(指標化のための変換)でした。年によって落ちる場所は違いますが、どちらも工程のどこかであることは変わりません。尺度水準はデータの種類と尺度、回帰直線は回帰直線の講で扱っています。

対策としてやるべきことは1つ。参考書で「相関係数の求め方」を覚えるのではなく、小さなデータで1周してみることです。本講の第4節が、そのまま練習になります。

6. 情報Ⅱではこうなる──第111〜120講の予告と、工程の地図

本講そのものが情報Ⅱの話なので、このブロックは第6部の残りの予告に充てます。

情報Ⅱ 教員研修用教材 第3章の学習11〜18が、3-1で見た工程図のどこに当たるかを対応させると、これから扱う手法の位置が一目で分かります。

工程(教材の図) 学習 主題と道具
❶ データの収集 11 データと関係データベース(RDB・SQL・NoSQL・データの信憑性)
❷ データの整理・整形 12 大量のデータの収集と整理・整形(pandas・欠損値・基準化・ワイドとロング)
❸ モデル化・処理・分析・可視化 13 重回帰分析とモデルの決定(自由度調整済み決定係数・変数選択)
14 主成分分析による次元削減(相関行列・累積寄与率)
15 分類による予測(決定木・近傍法)
16 クラスタリングによる分類(k-means・SSE)
17 ニューラルネットワークとその仕組み(ステップ関数・隠れ層・計算量)
18 テキストマイニングと画像認識(MeCab・Word2vec・YOLO)
❹ 検証・評価・改善 章末
15〜17
訓練データとテストデータ、正答率の比較、適合不足と過剰適合
❺ 発展的な学習 第5章 探究(データを活用するための情報技術の活用)

この表の読み方が大事です。重回帰・主成分分析・クラスタリング・ニューラルネットは、ばらばらの手法ではなく、全部が❸という同じ1つの箱の中身です。工程全体から見れば、あれだけ難しそうな手法群が占めているのは5つの箱のうち1つにすぎません。

そして教材は❹について、章末でこう書いています。

複数のモデルを用いて,その正答率(正確度)を比較するなど,適切なモデルを選択する活動を行う。/テストデータを用いて正答率を求めることなどにより評価し,適合不足や過剰適合(過学習)が生じることを体験的に理解できる活動を行う。情報Ⅱ 教員研修用教材 第3章 章末

手法を1つ選んで終わりではなく、複数作って比べるのが情報Ⅱの標準です。情報Ⅰの「回帰直線を1本引く」との最大の差はここにあります。語数で見ても、評価のための語は情報Ⅱ側にしかありません。

解説 第1部 情報Ⅰ教材 情報Ⅱ教材
訓練データ 6 0 12
テストデータ 1 0 21
正答率 0 0 12
過学習 0 0 4
基準化 0 0 16
ワイドフォーマット 0 0 16
ロングフォーマット 0 0 16
データサイエンス 10 6 73

解説 第1部=共通教科側のみ(専門教科側は別に数えています)。当方で2026年8月3日に計数。

第111講以降を、本講の工程図に重ねるとこうなります。

  • 第111講(匿名加工とデータ利活用)= ❶収集の手前、そもそも使ってよいのかの判断
  • 第112〜115講(重回帰・主成分分析・クラスタリング・ニューラルネット)= ❸の中身
  • 第116講(計算量)= ❸を実行できるかどうかの制約条件
  • 第117講(システム開発)= この工程全体を繰り返し回る仕組みにする
  • 第118講(DB設計とSQL)= ❶と❷の土台
  • 第119講(コンテンツ制作と効果測定)= 別の円(情報Ⅱ第2章)だが、やはり円である
  • 第120講(情報Ⅱと進路)= ❺

まとめ

  • 国の教員研修用教材は、情報Ⅰ・情報Ⅱの両方で工程図の最後を「次の問題解決へ」と書いている。最初から円である
  • 解説の工程の語は、情報Ⅰが4語(収集・整理・分析・結果の表現)、情報Ⅱが9語(+整形・モデル化・実行・効果検証)
  • 問いを先に立てるのは、自分を騙さないための手続き。データを見てから問いを作ると、答えは必ず出てしまう
  • 「PPDAC」「CRISP-DM」「ワークフロー」は高校情報科の一次資料に0件。PPDACは総務省統計局の統計教育サイトの語である。主語を分けて書くこと
  • 記録の無いデータを、情報Ⅰ教材だけが「欠測値」、解説と情報Ⅱ教材は「欠損値」と呼ぶ。0件でも「扱っていない」とは限らない
  • e-Statの国勢調査時系列表で一周してみると、可視化して初めて「人口集中地区」の行に気づき、前処理へ戻る。戻るのが正常である
  • 共通テスト『情報Ⅰ』第4問は、大学入試センター自身が2年連続で「データ分析を行う学習過程を模して」と書いている
  • 令和8年度 第4問で最も取れていないのは「補正方法の精度」=評価の工程(正答率3割弱)

基礎からの積み上げは第40講 基数変換から、シリーズ全体は『藤原進之介の最強120講義』目次およびカテゴリ一覧から読めます。

出典(すべて2026年8月3日に取得)

執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)

オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第110講のWeb版です。

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