データサイエンスの工程は「収集 → 前処理 → 分析 → 可視化」の一直線ではありません。問いから始まり、問いに戻る円環です。この講では、国の教員研修用教材が情報Ⅰ・情報Ⅱの両方で工程図の終点を「次の問題解決へ」と書いていることを原文で確かめ、e-Statの国勢調査データで実際に一周してみます。途中で2回、前の工程に戻ります。
こんにちは、数強塾グループ代表の藤原進之介です。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第110講のWeb版で、第6部「情報Ⅱへの橋」の2本目にあたります。共通テスト重要度はC──情報Ⅱは出題範囲外だからです。情報Ⅱの全体像は第109講に置きました。本講はその続きで、では実際にどう進めるのかという手順の話です。
1. この講の問い
データサイエンスは、どういう順番で進めるのか。
2. 結論
工程は一直線ではなく、問いから始まり、問いに戻る円環である。
国の一次資料も、情報Ⅰ・情報Ⅱの両方で工程図の終点を「次の問題解決へ」と書いている。
そして最初に置かれるのは分析ではなく「問題の発見」である。ここを飛ばすと、自分で自分を騙す。
3. なぜそうなるのか
3-1 国の教材は、工程を「円」として描いている
まず、想像で語らずに原文を見ます。文部科学省の教員研修用教材は、章末に「全体を通じた学習活動の進め方」という節を置き、そこに工程図を載せています。データを扱う章はこの2つです。
情報Ⅰ 教員研修用教材 第4章 章末(p.210)と、情報Ⅱ 教員研修用教材 第3章 章末(p.176)の工程図を、当方で並べて描き起こしたもの。箱の文言はいずれも原文どおり。
どちらも最後の箱が「次の問題解決へ」です。つまり国の教材は、最初から工程を1本の線ではなく輪として描いています。情報Ⅱ側の本文はこう書きます。
そして図のすぐ下に、授業設計の観点として5つが並びます。❶データの収集 ❷データの整理・整形 ❸データのモデル化・処理・分析・可視化 ❹データ処理の検証・評価・改善 ❺発展的な学習。
ここで2つの図の差に目を留めてください。情報Ⅰの図にあって情報Ⅱの図に無い箱が1つあります。「分析結果の発表と解釈」です。逆に情報Ⅱの図にあって情報Ⅰに無いのは「モデルの検討」と「検証」。
情報Ⅰは「分析して、人に説明する」までを1周とし、情報Ⅱは「モデルを立てて、その正しさを検証する」までを1周とする。同じ円でも、力点が置かれている場所が違います。(誤解のないように補うと、情報Ⅱで伝達が要らなくなるわけではありません。学習指導要領解説の情報Ⅱ(3)は内容項目のイ(イ)に「解釈・表現を行うこと」を残していますし、次に見る9語の最後は「効果検証」です。図から消えたのは「発表」という教室の活動としての箱であって、伝えるという工程ではありません。)
3-2 工程の語数を数えると、情報Ⅰと情報Ⅱの差が数字で出る
学習指導要領解説 情報編(平成30年7月)の本文も、工程を名詞で並べています。ただし情報Ⅰと情報Ⅱで並ぶ語の数が違います。まず情報Ⅰ (4) イ(ウ)。
4語です。ところが情報Ⅱ (3) の解説にはこう書かれています。
9語。情報Ⅰの4語に対して、情報Ⅱでは「整形」「モデル化」「実行」「効果検証」が足されます。同じ節はさらに、こうも書いています。
「問題を明確にし、分析方針を立て」が先に来ている。データを触る前です。これが本講の芯になります。
なお「分析方針」も「効果検証」も、解説 情報編の共通教科側(第1部)にそれぞれ1件しかなく、その1件が情報Ⅱ(3)です。専門教科側(第2部)には0件。工程を細かく刻んで名前を付けるという発想そのものが、情報Ⅱで初めて明示されます。
3-3 なぜ最初が「問い」でなければならないのか
順番の話に見えて、これは誠実さの話です。
データを先に見てから問いを立てると、何が起きるか。手元のデータには、偶然の凸凹が必ずあります。47個の数字を並べれば、たまたま高い県とたまたま低い県が出る。そこから問いを作れば、その問いは必ず「答えが出る」。なぜなら、答えを見てから問題を作ったからです。
これは相関と因果の講で扱ったたくさん比べれば、どれかは偶然当たるという話と、標本調査で扱った標本の偏りの、実務版の顔です。統計の教科書は「有意水準5%なら20回に1回は偶然当たる」と書きますが、現場でこれが起きる経路はもっと素朴で、データを眺めているうちに、目に付いたものを結論にしてしまうだけです。
だから問いを先に紙に書く。これは倫理の要請ではなく、手続きによる自己防衛です。先に書いておけば、後から「そんなつもりではなかった」と自分に言えなくなる。
情報Ⅱの教材が図の1番目に「問題の発見」を置き、2番目を「データの収集」ではなく「データの収集と問題の明確化」としているのは、たまたまではありません。データを集める作業と、問いを研ぐ作業は、同じ箱に入っています。
3-4 なぜ前処理が最も時間を食うのか
工程の中で、実際にいちばん時間を食うのは分析ではなく整理・整形です。理由は単純で、現実のデータは分析されるために作られていないから。統計は行政の仕事のために設計され、Webのデータは表示のために設計されています。分析はその副産物を借りているにすぎません。
情報Ⅰ 教員研修用教材 第4章の章末も、実習の設計についてこう釘を刺しています。
「眺めただけでは分からない量」を扱えと国が書いている。眺めて分かる量なら、そもそもデータサイエンスは要りません。
前処理の具体的な手口(欠損値・外れ値・ワイドフォーマットとロングフォーマット・重複除去)はデータの整理・整形の講に譲ります。本講で押さえるのは、前処理は工程の中で唯一「戻ってくる先」になるということです。可視化して初めて汚れに気づく。分析して初めて単位のずれに気づく。だから前処理は一度で終わりません。
3-4補 同じものを、情報Ⅰと情報Ⅱは違う名前で呼んでいる
ここで、本書が今回見つけた事実を1つ置きます。記録の無いデータを、一次資料は2つの語で呼び分けています。
| 語 | 解説 第1部 (共通教科) |
解説 第2部 (専門教科) |
情報Ⅰ 教員研修用教材 |
情報Ⅱ 教員研修用教材 |
|---|---|---|---|---|
| 欠損値 | 2 | 0 | 0 | 17 |
| 欠測値 | 0 | 0 | 6(すべて第4章) | 0 |
当方で2026年8月3日に計数。PDFをテキスト化し、空白と改行を全部除いてから数えた(除かないと「欠損 値」のように語が分断されて少なく出ます)。
見事に分かれています。学習指導要領解説と情報Ⅱの教材は「欠損値」、情報Ⅰの教員研修用教材だけが「欠測値」と書く。同じものです。検索して0件でも「扱っていない」と判断してはいけない、という実例でもあります。
そして情報Ⅰ 教員研修用教材 第4章の「欠測値」の説明は、実は本講の主題に直結します。
前処理でやったことを、結果を出すときに明記せよ。つまり工程は「前処理」で閉じていません。前処理の判断が、最後の伝達までずっと引きずられる。ここが「一直線の図」では絶対に表現できない部分です。
3-5 なぜ「分析して終わり」ではないのか
情報Ⅰの工程図には「分析結果の発表と解釈」という箱がありました。ここが落ちると、工程は成立しません。
理由は身も蓋もない。誰かの判断を変えなければ、分析は何も生んでいないからです。相関係数を出しただけでは世界は1ミリも動かない。動くのは、それを読んだ誰かが「じゃあこうしよう」と決めたときです。だから伝達は工程の外側の付録ではなく、工程そのものの最後の1区画です。
そして解説 情報Ⅱ(3) が9語の最後に置いた語を思い出してください。「効果検証」です。伝えて、相手が動いて、その結果どうなったかを測る。ここまで来て初めて円が閉じ、「次の問題解決へ」に繋がります。
3-6 「PPDAC」「CRISP-DM」を、国が言っていることにしない
データ分析の手順には有名な枠組みの名前がいくつかあります。ただし主語を間違えると嘘になるので、ここは丁寧に切り分けます。
私は次の資料を全文テキスト化し、空白と改行を除去したうえで検索しました(2026年8月3日実施)。
- 学習指導要領解説 情報編(第1部=共通教科/第2部=専門教科 に分けて計数)
- 情報Ⅰ 教員研修用教材(表紙・序章+第1〜4章の全分冊)
- 情報Ⅱ 教員研修用教材(序章+第1〜5章の全7分冊。第3章は前半・後半の2分冊とも)
- 文部科学省「授業・研修用コンテンツ」一覧ページ
| 語 | 解説 第1部 | 解説 第2部 | 情報Ⅰ教材 | 情報Ⅱ教材 |
|---|---|---|---|---|
| PPDAC | 0 | 0 | 0 | 0 |
| CRISP(CRISP-DM) | 0 | 0 | 0 | 0 |
| ワークフロー | 0 | 0 | 0 | 0 |
高校情報科の一次資料には、この3語はどれも一度も出てきません。「情報ⅡではPPDACサイクルを学びます」と書いてある解説を見かけたら、それは教科書会社か著者の言葉であって、国の文書の言葉ではありません。
ただし「PPDAC」という語自体が怪しいわけではまったくありません。総務省統計局の統計教育サイト「なるほど統計学園」には実在します。同サイトは PPDAC を「Problem(問題)、Plan(調査の計画)、Data(データ)、Analysis(分析)、Conclusion(結論)に分割した考え方」と説明しています。つまり統計教育の系譜には確かに在り、情報科の一次資料には無い、というのが正確な状態です。
私が本講で「一直線ではない」と言うときの根拠は、PPDACでもCRISP-DMでもなく、3-1で見た国の工程図が「次の問題解決へ」で閉じていることです。名前を借りなくても、原典だけで言い切れます。
3-7 一直線の図は、やはり嘘である
入門書はたいてい「収集 → 前処理 → 分析 → 可視化 → 報告」と一直線に描きます。教える側としては、あの図が便利なのは分かる。だがあの図のとおりに進んだ分析を、私は一度も見たことがありません。
実際に起きるのはこうです。
- 可視化して初めて、データの汚れに気づく → 前処理へ戻る
- 分析して初めて、問いが的外れだったと分かる → 問いへ戻る
- 人に説明していて初めて、比べてはいけないものを比べていたと気づく → 収集へ戻る
そして重要なのは、この「戻る」は失敗ではないということです。戻れる工程は正しく動いています。戻らないまま一直線に出てきた結論のほうが、はるかに危ない。国の図が輪になっているのは、そういう意味です。
次の節で、実際に一周してみます。途中で2回、はっきり戻ります。
4. 手で確かめる──小さな問いを立てて、工程を一周する
小さくてよいので、問いから限界の明示まで全部やってみます。使うのは政府統計の一次データだけです。
工程0 問いを立てる(データを見る前に書く)
東京都に人が集まっていったのは、いつからか。
先に書きました。この時点で私はまだ1バイトもデータを見ていません。指標も先に決めます。東京都の人口が、全国の人口に占める割合(%)の推移を見ます。
工程1 データを取得する
政府統計の総合窓口 e-Stat から、国勢調査の時系列表を取ります。オープンデータの講で扱った窓口そのものです。
- 政府統計名:国勢調査/提供統計名:時系列データ/提供分類:CSV形式による主要時系列データ
- 表番号1「男女別人口-全国,都道府県(大正9年~平成27年)」
- 公開(更新)日:2017-01-30
- 一覧ページ: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001083104
- 直接ダウンロード: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031524010&fileKind=1
情報Ⅱの教材が学習12で「インターネット上に掲載されたWebページよりデータを収集する(利用規約を確認してから行う)」と書いているとおり、先に規約を見ます。e-Statの利用規約は政府標準利用規約(第2.0版)に準拠し、CC BY 4.0と互換で、商用利用を含めて自由に利用でき、「出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)」の表示と、加工した場合の加工事実の明記を求めています。
工程2 ファイルの素性を確かめる(開く前に、形を見る)
import csv, io, urllib.request
URL = ("https://www.e-stat.go.jp/stat-search/"
"file-download?statInfId=000031524010&fileKind=1")
raw = urllib.request.urlopen(URL).read().decode("shift_jis")
rows = list(csv.reader(io.StringIO(raw)))
print("行数", len(rows))
print("見出し", rows[0])
print("列数が9でない行", [r for r in rows if len(r) != 9])
出力:
行数 983
見出し ['都道府県コード', '都道府県名', '元号', '和暦(年)', '西暦(年)',
'注', '人口(総数)', '人口(男)', '人口(女)']
列数が9でない行 [
['1) 沖縄県は調査されなかったため,含まれていない。'],
['2) 長野県西筑摩群山口村と岐阜県中津川市の境界紛争地域人口(男39人,女34人)は
全国に含まれているが,長野県及び岐阜県のいずれにも含まれていない。']]
いきなり3つ学べます。
- 文字コードが Shift-JIS。 UTF-8 のつもりで開くと文字化けします。
- 最後の2行が脚注で、表のデータではありません。列数が9でない行を探すだけで機械的に見つかります。
- その脚注2)が、この後で必ず効いてくる警告になっています。
脚注行を落とします。
工程3 可視化して、確認する(1回目)
年ごとに人口が多い上位3つを出してみます。これが最初の「可視化」です。
データ行数 980
調査年の数 20
行数 ÷ 調査年数 = 49.0
(年ごとの人口 上位3件)
1920 [('全国', 55963053), ('東京都', 3699428), ('大阪府', 2587847)]
1970 [('全国', 104665171), ('人口集中地区', 55996885), ('人口集中地区以外の地区', 48668286)]
2015 [('全国', 127094745), ('人口集中地区', 86868176), ('人口集中地区以外の地区', 40226569)]
ここで手が止まります。
1つ目の異変は分かりやすい。「全国」という行が都道府県と同じ表に混ざっています。都道府県別のつもりで最大値を取ると、必ず全国が勝ちます。
2つ目が厄介です。「人口集中地区」「人口集中地区以外の地区」という、都道府県ではない行が混ざっています。これらはファイルの末尾(沖縄県の後ろ)に置かれているので、先頭を眺めただけでは絶対に気づきません。
そしてこの罠の一番いやらしいところは、980 ÷ 20 = 49 ときれいに割り切れてしまうことです。「48地域(全国+47都道府県)×20回のはずが49で割り切れた、まあいいか」で通り過ぎてしまう。実際は 48地域×20回 + 2地域×10回 = 980 で、たまたま整数になっただけです。割り切れたことは、正しさの証明ではありません。
工程4 ★ここで前処理に戻る★
可視化して初めて分かったので、前処理へ戻ります。これが本講で見せたかった往復です。地域の一覧を出します。
地域名の総数 50
コード00 全国 1920〜2015 20回
コード0A 人口集中地区 1970〜2015 10回
コード0B 人口集中地区以外の地区 1970〜2015 10回
都道府県コードが 01〜47 の行だけを残す、と決められます。1回目の可視化がなければ、この判断はできませんでした。
工程5 ★もう一度戻る★──欠損値
都道府県だけにして割合を計算しようとすると、今度は数値変換で落ちます。数値にできないセルを探します。
[('1945', '沖縄県', '-')]
1945年の沖縄県だけが -。空欄ではなくハイフンです。空欄だけを欠損値として扱う処理だと、ここをすり抜けて後段で壊れます。そして脚注1) が「沖縄県は調査されなかったため,含まれていない」と教えてくれていました。脚注を落としたときに、この情報も一緒に落としていた。もう一度戻ります。
工程6 分析する
ここまで来てようやく計算に入ります。東京都の人口 ÷ 全国の人口 × 100。
| 調査年 | 東京都 | 全国 | シェア | 前回比 |
|---|---|---|---|---|
| 1920 | 3,699,428 | 55,963,053 | 6.61% | — |
| 1930 | 5,408,678 | 64,450,005 | 8.39% | +0.88 |
| 1940 | 7,354,971 | 73,114,308 | 10.06% | +0.86 |
| 1945 | 3,488,284 | 71,998,104 | 4.84% | −5.21 |
| 1950 | 6,277,500 | 84,114,574 | 7.46% | +2.62 |
| 1955 | 8,037,084 | 90,076,594 | 8.92% | +1.46 |
| 1960 | 9,683,802 | 94,301,623 | 10.27% | +1.35 |
| 1965 | 10,869,244 | 99,209,137 | 10.96% | +0.69 |
| 1970 | 11,408,071 | 104,665,171 | 10.90% | −0.06 |
| 1980 | 11,618,281 | 117,060,396 | 9.93% | −0.50 |
| 1995 | 11,773,605 | 125,570,246 | 9.38% | −0.21 |
| 2005 | 12,576,601 | 127,767,994 | 9.84% | +0.34 |
| 2015 | 13,515,271 | 127,094,745 | 10.63% | +0.36 |
全20回のうち代表的な年を抜いたもの。全数値は e-Stat の表番号1から直接計算し、別の方法で独立に再計算して一致を確認しています。
工程7 解釈する
問いは「いつからか」でした。答えはこうです。
東京への集中が最も激しかったのは、戦後の20年間、1945年から1965年である。シェアは 4.84% → 10.96%、+6.11ポイント。この間、東京都の人口は 3.12倍になった。全国は 1.38倍である。桁が違う。
そしてもう1つ、直感に反する事実が出ます。
東京のシェアのピークは1965年(10.96%)で、2015年(10.63%)はまだそこに届いていません。差は0.32ポイント。「東京一極集中は年々進んでいる」という素朴なイメージとは違い、シェアで見ると1965年をピークに1995年(9.38%)まで30年下がり続け、そこから再び上がっています。「一極集中」という言葉が指しているものは、単調な増加ではなく、下げてから上げ直したV字です。
工程8 限界を明示する(ここまでが工程である)
数字を出したら、その数字で言えないことを書く。これをやらない分析は未完成です。
- 1945年は例外的な年です。沖縄県が調査されておらず(脚注1)、分母そのものが他の年と揃っていません。この年の 4.84% を他年と同列に並べてはいけない。疎開と戦災の影響も当然大きい。
- 「全国」は47都道府県の合計と一致しない年があります。1960年は 全国 94,301,623 に対し47都道府県の合計が 94,301,550 で、差は73人。脚注2)の「境界紛争地域人口(男39人,女34人)」= 39+34 = 73 とぴったり一致します。分母をどちらで取るかで数字が変わる(この規模なら結論は動きませんが、動かないことを確認してから採用するのが手続きです)。
- 国勢調査は「常住地」で数えます。総務省統計局は「住民票などの届出場所に関係なく,10月1日現在,ふだん住んでいる場所」で記入し、「ふだん住んでいる場所」とは「3か月以上住んでいる場所か,3か月以上にわたって住むことになっている場所」と説明しています。つまり東京に毎日通っている人は、東京では数えられません。「東京に人が集まる」を昼間の人の量として捉えたいなら、この指標は答えていません。
- この時系列表は平成27年(2015年)までです。令和2年・令和7年の国勢調査は別の表を当たる必要があります。一次データにも「いつまでのものか」があります。
- 都道府県の境界も、市域も、この95年間で変わっています。同じ「東京都」という名前が、同じ範囲を指し続けている保証はありません。
この5行を書けることが、割合を計算できることより価値があります。そして限界を書いた瞬間に「では昼間人口ならどうか」という次の問いが立ち上がる。図の最後の箱、「次の問題解決へ」です。円が閉じました。
5. 共通テストではこう出る
この講は共通テストへの接続がありません。情報Ⅱは出題範囲外です(第109講で一次資料により確認済み)。
ただし、情報Ⅰの第4問(データ分析)が、この工程のどこを切り出したものかは説明できます。しかも推測ではなく、大学入試センター自身の文章で説明できます。
大学入試センターは毎年「問題評価・分析委員会報告書」を公表しており、その中で問題作成部会が出題意図を自分の言葉で書いています。令和8年度『情報Ⅰ』本試験 第4問についてはこうです。
前年の令和7年度も、書き出しは同じ形です。
2年連続で「データ分析を行う学習過程を模して」と書いています。第4問は統計の知識を問う問題ではなく、工程を1周させる問題なのです。同報告書によれば、令和8年度の設問の役割分担はこうなっています。
| 設問 | 問うている工程 | 報告書の記述(要旨) |
|---|---|---|
| 問1 | 収集と前処理 | オープンデータに関する基本的な知識、欠損値や目的に応じた可視化方法 |
| 問2 | 整形 | 予測値と実測値との誤差の定義を理解し、散布図の作成に必要なデータを適切に作成できるか |
| 問3 | 可視化と読み取り | 散布図から読み取れること・読み取れないこと、観測点を分割した箱ひげ図の関係性 |
| 問4 | 評価・改善 | 回帰直線を利用して予測値を補正できるか、その補正方法の特徴を正しく理解できるか |
問1から問4が、そのまま工程の順番です。学会からも「『データ処理』の学習内容を凝縮したような出題である」(情報処理学会)、「数学としてではなく『情報Ⅰ』について別途教科・科目を設置して共通テストを実施する意義を示す問題であった」(日本情報科教育学会)という評価が付いています。
正答率も報告書が公表しています(令和8年度 本試験・第4問)。
- 全体としてはおおむね高め
- オープンデータの特性を問う空欄と、回帰直線を用いた補正日を問う空欄が 5割程度(識別力が高い)
- 箱ひげ図の特性を問う空欄が 5割強
- 補正方法の精度を問う空欄が 3割弱と非常に低い
読み取り方ははっきりしています。落とすのは「計算」ではなく「評価」です。補正方法の精度、つまり「その処理をやって本当に良くなったのか」を判断する設問が、群を抜いて取れていない。工程の最後、円が閉じる直前が最大の弱点になっています。
なお令和7年度は、正答率が2割台と非常に低かったのが問1(尺度水準)と問3(指標化のための変換)でした。年によって落ちる場所は違いますが、どちらも工程のどこかであることは変わりません。尺度水準はデータの種類と尺度、回帰直線は回帰直線の講で扱っています。
対策としてやるべきことは1つ。参考書で「相関係数の求め方」を覚えるのではなく、小さなデータで1周してみることです。本講の第4節が、そのまま練習になります。
6. 情報Ⅱではこうなる──第111〜120講の予告と、工程の地図
本講そのものが情報Ⅱの話なので、このブロックは第6部の残りの予告に充てます。
情報Ⅱ 教員研修用教材 第3章の学習11〜18が、3-1で見た工程図のどこに当たるかを対応させると、これから扱う手法の位置が一目で分かります。
| 工程(教材の図) | 学習 | 主題と道具 |
|---|---|---|
| ❶ データの収集 | 11 | データと関係データベース(RDB・SQL・NoSQL・データの信憑性) |
| ❷ データの整理・整形 | 12 | 大量のデータの収集と整理・整形(pandas・欠損値・基準化・ワイドとロング) |
| ❸ モデル化・処理・分析・可視化 | 13 | 重回帰分析とモデルの決定(自由度調整済み決定係数・変数選択) |
| 〃 | 14 | 主成分分析による次元削減(相関行列・累積寄与率) |
| 〃 | 15 | 分類による予測(決定木・近傍法) |
| 〃 | 16 | クラスタリングによる分類(k-means・SSE) |
| 〃 | 17 | ニューラルネットワークとその仕組み(ステップ関数・隠れ層・計算量) |
| 〃 | 18 | テキストマイニングと画像認識(MeCab・Word2vec・YOLO) |
| ❹ 検証・評価・改善 | 章末 15〜17 |
訓練データとテストデータ、正答率の比較、適合不足と過剰適合 |
| ❺ 発展的な学習 | 第5章 | 探究(データを活用するための情報技術の活用) |
この表の読み方が大事です。重回帰・主成分分析・クラスタリング・ニューラルネットは、ばらばらの手法ではなく、全部が❸という同じ1つの箱の中身です。工程全体から見れば、あれだけ難しそうな手法群が占めているのは5つの箱のうち1つにすぎません。
そして教材は❹について、章末でこう書いています。
手法を1つ選んで終わりではなく、複数作って比べるのが情報Ⅱの標準です。情報Ⅰの「回帰直線を1本引く」との最大の差はここにあります。語数で見ても、評価のための語は情報Ⅱ側にしかありません。
| 語 | 解説 第1部 | 情報Ⅰ教材 | 情報Ⅱ教材 |
|---|---|---|---|
| 訓練データ | 6 | 0 | 12 |
| テストデータ | 1 | 0 | 21 |
| 正答率 | 0 | 0 | 12 |
| 過学習 | 0 | 0 | 4 |
| 基準化 | 0 | 0 | 16 |
| ワイドフォーマット | 0 | 0 | 16 |
| ロングフォーマット | 0 | 0 | 16 |
| データサイエンス | 10 | 6 | 73 |
解説 第1部=共通教科側のみ(専門教科側は別に数えています)。当方で2026年8月3日に計数。
第111講以降を、本講の工程図に重ねるとこうなります。
- 第111講(匿名加工とデータ利活用)= ❶収集の手前、そもそも使ってよいのかの判断
- 第112〜115講(重回帰・主成分分析・クラスタリング・ニューラルネット)= ❸の中身
- 第116講(計算量)= ❸を実行できるかどうかの制約条件
- 第117講(システム開発)= この工程全体を繰り返し回る仕組みにする話
- 第118講(DB設計とSQL)= ❶と❷の土台
- 第119講(コンテンツ制作と効果測定)= 別の円(情報Ⅱ第2章)だが、やはり円である
- 第120講(情報Ⅱと進路)= ❺
まとめ
- 国の教員研修用教材は、情報Ⅰ・情報Ⅱの両方で工程図の最後を「次の問題解決へ」と書いている。最初から円である
- 解説の工程の語は、情報Ⅰが4語(収集・整理・分析・結果の表現)、情報Ⅱが9語(+整形・モデル化・実行・効果検証)
- 問いを先に立てるのは、自分を騙さないための手続き。データを見てから問いを作ると、答えは必ず出てしまう
- 「PPDAC」「CRISP-DM」「ワークフロー」は高校情報科の一次資料に0件。PPDACは総務省統計局の統計教育サイトの語である。主語を分けて書くこと
- 記録の無いデータを、情報Ⅰ教材だけが「欠測値」、解説と情報Ⅱ教材は「欠損値」と呼ぶ。0件でも「扱っていない」とは限らない
- e-Statの国勢調査時系列表で一周してみると、可視化して初めて「人口集中地区」の行に気づき、前処理へ戻る。戻るのが正常である
- 共通テスト『情報Ⅰ』第4問は、大学入試センター自身が2年連続で「データ分析を行う学習過程を模して」と書いている
- 令和8年度 第4問で最も取れていないのは「補正方法の精度」=評価の工程(正答率3割弱)
基礎からの積み上げは第40講 基数変換から、シリーズ全体は『藤原進之介の最強120講義』目次およびカテゴリ一覧から読めます。
出典(すべて2026年8月3日に取得)
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月 https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅱ』教員研修用教材(本編)」令和2年3月発行 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00742.html
- 文部科学省「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」令和2年 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416756.htm
- 文部科学省「情報教育の充実(授業・研修用コンテンツ)」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01832.html
- 大学入試センター「令和8年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書『情報Ⅰ』」 https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=2151&f=abm00017684.pdf
- 大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 問題評価・分析委員会報告書」 https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r7_hyouka/index.html
- 総務省統計局・e-Stat「国勢調査 時系列データ 表番号1 男女別人口-全国,都道府県(大正9年~平成27年)」公開(更新)日 2017-01-30 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001083104
- 総務省統計局「平成27年国勢調査の基本に関するQ&A(回答)3.調査の対象と場所」 https://www.stat.go.jp/data/kokusei/qa-4.html
- 総務省統計局「なるほど統計学園 12 問題の解決」 https://www.stat.go.jp/naruhodo/12_ppdac/index.html
- e-Stat「利用規約」 https://www.e-stat.go.jp/terms-of-use
執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)
オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第110講のWeb版です。
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