情報Ⅰ 最強120講義

ニューラルネットワークと画像認識|情報Ⅰ 最強120講義 第115講

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ニューロン1個がやっているのは「(入力)×(重み付け)+(バイアス)」という、掛けて足すだけの計算です。これは論理回路のゲート1個と同じ構造で、単体では XOR すら作れません。ところが同じ素子を層の方向に重ねると、単体では出せない機能が出ます。加算器を桁の方向に重ねたのと、まったく同じ理屈です。この講では、それを手で計算して確かめます。

こんにちは、数強塾グループ代表の藤原進之介です。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第115講のWeb版で、第6部「情報Ⅱへの橋」にあたります。共通テスト重要度はCです。情報Ⅱは共通テストの出題範囲ではありません。それでもこの講を置くのは、入口がすべて情報Ⅰだからです。論理演算・論理回路・加算器・画像のデジタル化・配列・誤差——共通テストに出るのは、こちら側です。

1. この講の問い

なぜ、足し算しかできない素子を積み重ねただけのものが、手書き文字を読めるようになるのか。

2. 結論

ニューロン1個の中身は「(入力)×(重み付け)+(バイアス)」を活性化関数に通すだけです。これは論理ゲート1個と同じ構造で、単体では XOR すら作れません。

ところが同じ素子を層の方向に重ねると、単体では出せない機能が現れます。第45講で半加算器を桁の方向に数珠つなぎにしたのと、まったく同じ操作です。

3. なぜそうなるのか

3-1 国の教材が、活性化関数を「論理演算」から説明し始めている

これは私の解釈ではありません。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章後半 学習17「ニューラルネットワークとその仕組み」の「(2) 活性化関数」は、こう書き出します。

各ニューロンの出力に作用させる関数を活性化関数という。活性化関数は各ニューロンの結果の正確さを確率で表したものである。論理演算のように入力に対して0か1を返すような2値に分類ができる場合はステップ関数を用いる。はっきりとした分類ができる分類器をパーセプトロンという。ニューラルネットワークでは論理演算のように2値に分けられるとは限らない。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章後半 p.163(令和2年3月発行/2026年8月3日取得)

国の教材は、活性化関数を機械学習の道具として天下り式に与えていません。まず論理演算を置き、そこから出発しています。論理演算は情報Ⅰの範囲です(第44講 論理回路)。つまりニューラルネットワークの入口は、すでに情報Ⅰで通り過ぎているのです。

同じ学習17は、ニューロン1個の計算を1行で定義します。

各ニューロンでは下記のように計算を行っている。(入力)×(重み付け)+(バイアス)
その後,各ニューロンの結果を活性化関数に入れて(発火という)出力とする。同上 p.161

論理ゲートは「入力の重み付き和がしきい値を超えたら1」という素子です。ニューロンも同じです。違いは、返す値が0か1の階段(ステップ関数)か、なめらかな曲線(シグモイド関数)か、だけです。

3-2 単純な素子を重ねると、単体では出せない機能が出る

第45講 半加算器・全加算器で、半加算器を桁の方向に数珠つなぎにすると4ビットでも32ビットでも足せるようになる、という話をしました。ゲート1個は「掛けて足してしきい値と比べる」しかできないのに、並べ方だけで整数の加算という別次元の機能が現れます。

学習17は、同じことを層の方向で言っています。

隠れ層を次の入力として別の隠れ層に渡していくことを繰り返すと,複数の層の隠れ層をもつ深層学習(Deep Learning)となり,より複雑な出力に対応できる。一般に隠れ層と出力層を合わせてネットワークの層の数を表す。同上 p.161

「桁上がりを次の桁に渡していく」と「隠れ層の出力を次の隠れ層に渡していく」は、同じ形の文です。単純な素子+つなぎ方=複雑な機能という、この本で何度も出てくる型がここにもあります。そしてこの主張は、4節で手で確かめられます

3-3 「入力」の正体は、情報Ⅰで習った階調そのもの

学習17は、入力が何かをはっきり書いています。

例えば手書き文字が4か9か認識したいとする。入力は手書き文字画像のピクセルごとのグレースケールの階調を値にして表した配列である。同上 p.162

第34講 画像のデジタル化で、画像は画素に分けられ、各画素の明るさが数値(階調)になる、と学びました。その配列が、そっくりそのままニューラルネットワークの入力ベクトルになります。28×28画素の手書き数字なら 28×28 = 784 個の数が並びます。教材の学習15はこれを「784次元のユークリッド距離」と書き、第52講 配列で見たとおり配列の要素数がそのまま次元数になります。

情報Ⅰの「1画素あたり8ビット=256階調」という暗記事項が、情報Ⅱでは入力層の成分の値域(0〜255)という、実際に使う数字に化けるわけです。

学習指導要領解説も、情報Ⅱ(3)の解説でこう書いています。

更に進んだ学習として,ある程度の数の簡単な手書き文字を収集し,定形の数字やアルファベットなどの単純な文字について画像やピクセルデータ等に変換し,それらの文字を認識する処理について考え,実際に実習や体験を行うことによって,人工知能やロボットの反応や判断についての理解を深める学習活動をすることが考えられる。高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編 平成30年7月、情報Ⅱ(3)(2026年8月3日取得)

「画像 → ピクセルデータへの変換」を、告示の解説そのものが名指ししています。

3-4 なぜ「誤差」を0にしてはいけないのか——情報Ⅰとの役割の反転

第42講 小数の表現と誤差で、情報Ⅰの「誤差」は潰す対象だと書きました。浮動小数点の丸め誤差は、桁数を増やしたり計算順序を変えたりして小さくすべきものです。実際、情報Ⅰ教員研修用教材の「誤差」27件のうち26件は第3章(計算誤差)にあります。

ところが情報Ⅱ教材の「誤差」16件には、浮動小数点誤差が1件もありません。出てくるのは2乗和誤差・交差エントロピー誤差・誤差逆伝播法です。学習17はこう書きます。

ニューラルネットワークの性能の良し悪しを測る指標を損失関数という。損失関数では予測データと教師データとの誤差を表し,この値が0に近いほど性能がよい。……2乗和誤差とは学習結果と教師データの差分を2乗した合計を2で割ったものである。同上 p.163

つまり情報Ⅱの「誤差」は、測って、減らす方向を知るための量です。計算の失敗ではなく、学習の燃料です。

そして重要なのは、これを0にしてはいけないことです。教材は続けて書きます。

「オーバーフィッティング(過学習)とは学習の際に特定のデータにだけ過剰に対応し,学習に用いていない他のデータでは正しくならない状態のことである」

訓練データの誤差を0まで追い込むと、そのデータの「たまたま」まで覚えてしまい、初めて見るデータで外します。だから訓練データとは別にテストデータを用意して、そちらで測ります。語数がこれを裏づけます。「テストデータ」は学習指導要領解説の共通教科側に1件、情報Ⅰ教材に0件、情報Ⅱ教材に21件です。

同じ「誤差」という語が、情報Ⅰでは敵、情報Ⅱでは味方になります。本書が繰り返し追いかけている「語の役割が反転する」型の、もっともきれいな例です。

3-5 同じ「バイアス」が、同じ章の中で2つの意味に割れている

調べていて見つけた、かなり厄介な事実です。情報Ⅱ教員研修用教材の「バイアス」は全24件。ところが第3章前半の13件と後半の11件は、まったく別の意味でした。

出てくる場所 件数 意味 教材の言い方
情報Ⅱ教材 第3章前半(学習11〜12) 13 統計の偏り 選択バイアス/生存バイアス/母集団の取り違え
情報Ⅱ教材 第3章後半(学習17) 11 ニューロンの定数項 (入力)×(重み付け)+(バイアス)
学習指導要領解説(共通教科・情報Ⅱ(3)) 4 統計の偏りのみ 選択バイアス/情報バイアス

解説の原文はこうです。「ここでいうバイアスとは,データを収集する際に生じる偏りのことであり,対象となるデータを選択する際に生じる偏りである選択バイアスや,データを測定する際に生じる情報バイアスといわれるものがある」。

ニューラルネットワークのバイアスは、解説には1件も出てきません。同じ章の中で同じ語が別の意味に割れているのですから、読む側は文脈で判断するしかありません。「バイアスは偏りのこと」と丸暗記していると、学習17で必ず詰まります。

3-6 なぜ「人が特徴量を決める」段階から変わったのか

学習17は、冬の時代のあいだ何が使われていたかを書いています。

その間,人が特徴量を指定して行う機械学習が活用されるようになったが,人によるコンピュータの学習であり,限界が見られていた同上 p.161

「どこを見れば見分けられるか」を人間が決めて教える方式です。手書きの4と9なら「上が閉じているか」といった具合に。これは一見合理的ですが、人間が言葉にできる特徴しか使えません

ニューラルネットワークが変えたのは、そこです。教材は「重み付けの調整が人の手から離れ,コンピュータが計算を繰り返すことで最適解を探すこと(自律学習)が可能となった」と書きます。何を見るかまで機械が決めるようになったのです。「特徴量」という語が学習指導要領解説に0件・情報Ⅰ教材に0件・情報Ⅱ教材に14件しかないのは、これが情報Ⅱで初めて必要になる概念だからです。

3-7 なぜ「冬の時代」があったのか——理論ではなく計算資源が律速だった

このモデルを使ったネットワークの原形が1943年に発表された。ニューラルネットワークは,膨大な計算量とその計算時間が大量であること,隠れ層の重み付けを決めるアルゴリズムの難しさから長らく非現実的とされた(冬の時代)。……その後,計算処理を分散して実行できるGPUの登場と,コンピュータの計算処理速度の向上により……同上 p.161

アイデアは1943年からありました。足りなかったのは計算資源です。「原理的にできる」と「現実的な時間でできる」は別物だ、という話がそのままここに効いています。

面白いのは、この「冬の時代」が情報Ⅱ教材の別の章にもあることです。「冬の時代」6件のうち5件は第1章(情報社会の進展と情報技術)にあり、そこには総務省「平成28年版情報通信白書」を出典とするAIの歴史年表が載っています。年表には「ニューラルネットワークのパーセプトロン開発(1958年)」「誤差逆伝播法の発表(1986年)」「ディープラーニングの提唱(2006年)」「ディープラーニング技術を画像認識コンテストに適用(2012年)」が並びます。

第1章は「社会の出来事としての冬の時代」、第3章は「技術的理由としての冬の時代」を書いています。同じ語で章が分業しているわけです。

4. 手で確かめる

この節の数値・出力はすべて Python で実行し、独立に検算しました。読者の環境でも再現できます(追加のライブラリは不要です)。

4-1 まず教材の演習を検算する

学習17の演習3は「入力(0.3, 0.8, 1.2, 0.7)、重み付け(1, 2, 1, 1)、バイアス 0.2 のときの出力結果を求めましょう」で、教材の答えは 4 です。

0.3×1 + 0.8×2 + 1.2×1 + 0.7×1 = 0.3 + 1.6 + 1.2 + 0.7 = 3.8
3.8 + 0.2 = 4.0   ← 教材の答え「4」と一致
 
教材 図表8 の計算例: 2×1 + 4×3 + 0.5×2 = 2 + 12 + 1 = 15   ← 一致

ここまでは中学の計算です。ニューロン1個の中身は、本当にこれしかありません。

4-2 素子1個で AND・OR・NAND を作る

ステップ関数を「合計が0以上なら1、そうでなければ0」と決めます。入力は2つ、重みを w1・w2、バイアスを b とします。

ゲート w1 w2 b (0,0) (0,1) (1,0) (1,1)
AND 1 1 −1.5 0 0 0 1
OR 1 1 −0.5 0 1 1 1
NAND −1 −1 +1.5 1 1 1 0

AND の4行目だけ確かめます。1×1 + 1×1 + (−1.5) = +0.5 で 0 以上なので 1。3行目は 1×1 + 1×0 + (−1.5) = −0.5 で 0 未満なので 0。バイアスは「どこまで足せば発火するか」というハードルの高さです。ハードルを −1.5 にすれば「両方1でないと越えられない」、−0.5 にすれば「片方1で越えられる」。

重みとバイアスを変えるだけで、同じ素子が別のゲートになります。

4-3 XOR は素子1個では絶対に作れない

XOR(異なるとき1)を同じやり方で作ろうとすると、できません。2通りの方法で確かめました。

(a) 総当たり。 w1・w2・b をそれぞれ −10.0 から +10.0 まで 0.5 刻みで動かし、41×41×41 = 68,921通りすべてを試しました。

作りたいもの 真理値表 68,921通り中で実現できた組合せ
XOR 0, 1, 1, 0 0個
AND(対照) 0, 0, 0, 1 1,330個
OR(対照) 0, 1, 1, 1 2,870個
NAND(対照) 1, 1, 1, 0 1,540個

対照群は見つかっているので、探索が壊れているわけではありません。XOR だけが0個です。

(b) 背理法。刻みが粗いだけかもしれないので、不等式でも確かめます。

(0,0) → 0 より          b < 0
(1,0) → 1 より   w1 + b ≧ 0  すなわち w1 ≧ -b > 0
(0,1) → 1 より   w2 + b ≧ 0  すなわち w2 ≧ -b > 0
 
よって  w1 + w2 + b ≧ (-b) + (-b) + b = -b > 0
つまり (1,1) の出力は必ず 1 になり、XOR の 0 と矛盾する

実数をどう選んでも不可能です。刻みの粗さの問題ではありません。

4-4 2層にすると作れる

第44講で「NAND だけで XOR も作れる」と書きました。ニューラルネットワークで同じことをします。隠れ層に NAND と OR を1個ずつ置き、出力層に AND を置きます。

2層にすると XOR が作れる(素子は1個も変えていない)入力隠れ層出力層w=-1w=+1w=-1w=+1w=+1w=+1x1x2h1b=+1.5h2b=-0.5yb=-1.5h1 は NAND になるh2 は OR になるy は AND になる各ノードの中身は(入力)×(重み付け)+(バイアス)→ ステップ関数、それだけ

図:隠れ層を1つ足すだけで XOR ができる。素子(掛けて足してしきい値と比べる)は1個も変えていない。

x1 x2 | h1(NAND) h2(OR) | y(AND)
 0  0 |    1        0   |   0
 0  1 |    1        1   |   1
 1  0 |    1        1   |   1
 1  1 |    0        1   |   0
 
出力 = [0, 1, 1, 0]  ← XOR の真理値表と一致

素子は1個も変えていません。層を1つ足しただけです。これが「隠れ層を次の入力として別の隠れ層に渡していく」が意味することであり、加算器で桁を1つ足したのと同じ操作です。

4-5 「学習」を回して、誤差が減る様子を見る

ここまでは重みを私が与えていました。今度は与えずに探させます。活性化関数をシグモイド関数に変え(階段だと微分できないため)、損失関数は教材どおり2乗和誤差、勾配は数値微分で求め、勾配降下法で更新します。AND を学習させた実行結果です。

回数 | 損失関数 |    w1      w2       b   | 出力(00,01,10,11)
   0 | 0.50000 | +0.000  +0.000  +0.000 | [0.5, 0.5, 0.5, 0.5]
 400 | 0.00315 | +6.025  +6.025  -9.129 | [0.0, 0.043, 0.043, 0.949]
 800 | 0.00150 | +6.798  +6.798 -10.285 | [0.0, 0.030, 0.030, 0.965]
1200 | 0.00098 | +7.238  +7.238 -10.945 | [0.0, 0.024, 0.024, 0.972]
1600 | 0.00072 | +7.547  +7.547 -11.407 | [0.0, 0.021, 0.021, 0.976]
2000 | 0.00057 | +7.784  +7.784 -11.763 | [0.0, 0.018, 0.018, 0.978]

全部0から出発して、w1 と w2 が正の同じ値へ、バイアスがその2倍近い負の値へ動いていきます。4-2 の表で私が手で入れた「1, 1, −1.5」と同じ形です。人間が設計したものを、機械が自力で見つけています。

そして損失は0になりません。0.00057 まで下がって、まだ0ではない。シグモイド関数は0にも1にも到達しないからです。「誤差を0にする」ことは目標ではないという 3-4 の話が、そのまま出力に出ています。

実際に動かしたコードはこれだけです。

import math
 
def sigmoid(u): return 1.0 / (1.0 + math.exp(-u))
def forward(p, x1, x2): return sigmoid(p[0]*x1 + p[1]*x2 + p[2])
 
TRAIN = [((0,0),0), ((0,1),0), ((1,0),0), ((1,1),1)]   # AND の教師データ
 
def loss(p):   # 教材の定義:差分を2乗した合計を2で割る
    return sum((forward(p,a,b) - t)**2 for (a,b), t in TRAIN) / 2
 
p = [0.0, 0.0, 0.0]      # 重み2つとバイアス。すべて0から出発
h, lr = 1e-5, 4.0
for i in range(2001):
    g = []
    for k in range(3):                       # 数値微分で勾配を出す
        q1 = list(p); q1[k] += h
        q2 = list(p); q2[k] -= h
        g.append((loss(q1) - loss(q2)) / (2*h))
    for k in range(3):
        p[k] -= lr * g[k]                    # 勾配降下法

4-6 同じ学習を XOR でやると、失敗する

同じプログラムのデータだけ XOR に替えて、20,000回回しました。

20000回学習した後の損失関数 = 0.50000
出力 = [0.5, 0.5, 0.5, 0.5]

1回目とまったく同じです。4個すべてが 0.5 で、どちらとも決められない。損失は 0.5 から1ミリも下がりません。

これが 4-3 の証明の「実感版」です。解が存在しない問題は、どれだけ学習を回しても解けません。必要なのは学習時間ではなく、層をもう1つ足すことでした。冬の時代の後に起きたのが、まさにこれです。

5. 共通テストではこう出る(重要度 C)

この講は共通テストに接続しません。情報Ⅱは共通テストの出題範囲ではないからです。

一次資料で確認しておきます。大学入試センター「令和8年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト 出題教科・科目の出題方法等」では、教科「情報」の出題科目は『情報Ⅰ』のみ(60分・100点)で、出題方法欄に特記はありません。冒頭の共通ルールは「出題範囲について特記がない場合,出題科目名に含まれる学習指導要領の科目の内容を総合した出題範囲とする」。つまり出題範囲は「情報Ⅰ」の内容だけです(2026年8月時点)。

実際に本試験を数えてみました。令和7年度本試験・令和7年度追再試験・令和8年度本試験・令和8年度追再試験の「情報Ⅰ」問題冊子(大学入試センター公表PDFのテキスト抽出)で、「AI」「人工知能」「機械学習」「ニューラルネットワーク」「画像認識」「ディープラーニング」はいずれも0件でした。

それでもこの講に意味があるのは、入口が全部情報Ⅰだからです。共通テストに出るのは、こちら側です。

情報Ⅰで習うこと 本講のどこに効くか
論理演算・論理回路(第43・44講) ニューロンの計算とステップ関数の原型
半加算器・全加算器(第45講) 素子を重ねると機能が現れるという構造そのもの
画像のデジタル化・階調(第34講) 入力ベクトルの成分そのもの(784次元)
配列(第52講) 入力の入れ物。要素数がそのまま次元数
誤差(第42講) 同じ語だが意味は反転する(3-4節)

ニューラルネットワークを一度手で組んでおくと、論理回路の問題を「暗記した真理値表」ではなく「重みとハードルの調整」として見られるようになります。私はこの効果のほうが大きいと思っています。

6. 情報Ⅱではこうなる

本講そのものが情報Ⅱの内容ですので、ここでは情報Ⅰと情報Ⅱで「AIの扱い」がどう違うかを、一次資料の言葉で示します。

6-1 情報Ⅰは「使う」、情報Ⅱは「作る」

学習指導要領解説の「画像認識」は全部で3件。内訳が決定的でした。

どちら側か 箇所 原文
情報Ⅰ側 1件 (3) プログラミング 画像認識や音声認識及び人工知能などの既存のライブラリを組み込んだり,APIを用いたりすることなどが考えられる」
情報Ⅱ側 2件 (3) データサイエンス/(4) 情報システム 「人工知能による画像認識,翻訳など,機械学習を活用した様々な製品やサービスが開発され…」ほか

情報Ⅰでは「既存のライブラリを組み込む」。中身は開けません。

この読みは、文部科学省の授業・研修用コンテンツでも裏が取れました。情報Ⅰ「コンピュータとプログラミング」の授業動画には「オリジナルAIをつくろう!」という回がありますが、スライドPDFの中身は Alexa スキルの作成で、「ニューラルネットワーク」「機械学習」「人工知能」の語はいずれも0件です。タイトルは「つくろう」ですが、作っているのは AI ではなく AI を呼び出すアプリです。

対して情報Ⅱでは、教員研修用教材の演習解答にこう書かれています。ブロックプログラミングでAIを体験させる教材を紹介したうえで——

ただし,上記はあくまで“AIのトレーニングとその利用の体験”である。本文で扱ってきたような仕組みの理解のための教材ではない点に注意し,「情報II」ではぜひ仕組みの理解とニューラルネットワークの構築まで演習していただきたい。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材 第3章 演習解答(学習17 演習5の解答)

国が「使う体験で終わらせるな、仕組みの理解と構築までやれ」と明言しています。これが情報Ⅰと情報Ⅱの分かれ目です。

6-2 語数で見る分水嶺

同じ方法で数えました。対象は①学習指導要領解説 情報編(第1部=共通教科と第2部=専門教科を分けて計数)②情報Ⅰ教員研修用教材 第1〜4章 ③情報Ⅱ教員研修用教材 序章+第1〜5章の全7分冊(第3章は前半・後半の2分冊)。いずれも pdftotext -layout でテキスト化し、空白と改行を全部除去してから部分文字列を数えています(語の途中で改行が入って過小計数されるのを防ぐため)。2026年8月3日実施。

解説(共通教科) 解説(専門教科) 情報Ⅰ教材 情報Ⅱ教材
ニューラルネットワーク 0 0 1 63
隠れ層 0 0 0 17
活性化関数 0 0 0 14
特徴量 0 0 0 14
損失関数 0 0 0 11
勾配降下法 0 0 0 6
バックプロパゲーション 0 0 0 6
手書き文字 4(全部 情報Ⅱ側) 0 0 12
MNIST 0 0 0 7
論理回路 0 0 8 0

最後の行が本講の要点です。情報Ⅱに出てくる語は情報Ⅰ教材にほぼ0件、情報Ⅰの「論理回路」は情報Ⅱ教材に0件。語は乗り換わるのに、構造は引き継がれています。

なお情報Ⅱ教材の「ニューラルネットワーク」63件のうち55件が第3章後半、情報Ⅰ教材の1件は第1章のAI紹介コラム(外部の図の転載に付いた説明文)です。

6-3 教材が「深追いするな」と書いている場所

学習17の「指導上の留意点」には、こうあります。

バックプロパゲーションについては概念的に扱い,数式やプログラムを深追いさせない。同教材 学習17「学習活動と展開」展開2

国が明示的にブレーキを踏んでいます。高校の情報Ⅱで求められているのは、誤差逆伝播法を微分で導出することではなく、「出力の誤差を、次の重みとバイアスを決める計算に使う」という向きを理解することです。本講の 4-5 で数値微分を使ったのも同じ理由で、あれは偏微分を知らなくても書けます。

6-4 学習18=再び「使う」へ戻る

第3章の最後、学習18「テキストマイニングと画像認識」では、物体検出アルゴリズム YOLO を扱います。使用言語は R で、ライブラリを呼ぶだけ。そして教材はこう書きます。

アルゴリズムの詳細は,ここでは説明しないが,これを利用して,写真上の物体の検出を行ってみたい。同教材 第3章後半 学習18

学習17で中身を開け、学習18で再び蓋を閉じます。一度中を見た人が使うのと、見ないまま使うのとでは、同じ「ライブラリを呼ぶ」でも意味が違う——という構成です。情報Ⅰ(使う)→ 情報Ⅱ 学習17(作る)→ 情報Ⅱ 学習18(分かったうえで使う)という3段になっています。

6-5 MNIST の規模が、章の間で変わる

同じ MNIST を、学習15 と学習17 は違う規模で使います。

学習15(k-近傍法・R) 学習17(ニューラルネット・Python)
訓練データ 1,000個 60,000件
テストデータ 100個 10,000件
教材が示す正答率 (演習で各自が算出) 4と9の2値分類 95.2%/10種類の分類 0.9338

学習15は「このままでは,大きすぎて処理の時間がかかることから,一部のみを利用する」と書いて 1,000 に減らしています。近傍法はテストデータ1個ごとに訓練データ全部との距離を計算するので、データを増やすと素直に重くなるからです。対してニューラルネットワークは、学習が終わってしまえば予測は掛けて足すだけ。同じデータで手法を変えると計算量の性質が変わります。

6-6 情報Ⅱの先には、国家試験がある

情報Ⅱは共通テストに出ません。では無駄かというと、そうではありません。IPA(情報処理推進機構)のITパスポート試験シラバス Ver.6.5 の「AI(人工知能)の技術」の用語例には、こう並んでいます。

ルールベース,特徴量,機械学習(教師あり学習,教師なし学習,強化学習),ニューラルネットワークバックプロパゲーション活性化関数過学習ディープラーニング,事前学習,ファインチューニング,転移学習,畳み込みニューラルネットワーク(CNN),リカレントニューラルネットワーク(RNN),敵対的生成ネットワーク(GAN),大規模言語モデル(LLM),プロンプトエンジニアリングIPA「ITパスポート試験 シラバス Ver.6.5」(2026年8月3日取得)

太字はすべて情報Ⅱ 学習17 に出てくる語です。ITパスポートは情報処理技術者試験のもっとも入門の級です。つまり情報Ⅱ 学習17 は、国家試験の入門級の語彙とほぼ重なっています。

7. 本講で確認できなかったこと(正直に書きます)

「排他的論理和」「XOR」は、学習指導要領解説(共通教科側・専門教科側とも)/情報Ⅰ教員研修用教材 本編 第1〜4章/情報Ⅱ教員研修用教材 全7分冊+演習解答5分冊のいずれにも0件でした。名指しされるのは情報Ⅰ教員研修用教材の演習解答PDFの注記1行だけです。パーセプトロンの限界としてXORを挙げるのは一般的な説明ですが、国の資料はこの説明をしていません。ですから本講の 4-3 は歴史の引用ではなく、私が自分で証明した結果として書いています。

「NAND」も上記すべてに0件です。第44講が NAND を扱ったのは IPA のシラバスに用語例があるためで、高校の一次資料にはありません。

なお文部科学省の授業・研修用スライドPDFにはテキスト抽出できない画像化されたものがあり、本記事の「0件」はテキスト抽出できた資料の範囲での0件です。ただし「オリジナルAIをつくろう!」のスライドは抽出可能(7,181字)で、6-1 の判定はその実文に基づいています。

まとめ

1. ニューロン1個は「(入力)×(重み付け)+(バイアス)」を活性化関数に通すだけ。論理ゲートと同じ構造です。

2. 1層では XOR が作れない(68,921通りの総当たりでも0個、背理法でも矛盾)。2層にすると作れる。加算器で桁を重ねたのと同じ理屈です。

3. 入力は画像の階調の配列そのもの。情報Ⅰの「256階調」が情報Ⅱの「入力層の値域」に化けます。

4. 情報Ⅰの「誤差」は潰す対象、情報Ⅱの「誤差」は0にしてはいけない調整の対象。同じ語の役割が反転します。

5. 情報Ⅰは「既存のライブラリを組み込む」、情報Ⅱは「仕組みの理解とニューラルネットワークの構築まで」。これが国の一次資料に書かれた分かれ目です。

この講で見た「計算量が理論の足を引っ張る」という話は、次の第116講「アルゴリズムの選択と計算量」で正面から扱います。シリーズの全体像は『藤原進之介の最強120講義』一覧から、第6部の入口は第109講 情報Ⅱの全体像第110講 データサイエンスのワークフローからどうぞ。過去の講はカテゴリ一覧にまとまっています。

参考資料(すべて一次資料)

執筆:藤原進之介(数強塾グループ代表)

オンライン数学専門塾「数強塾」代表。累計3,500名以上の中高一貫校生を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。情報Ⅰの参考書を複数執筆しており、KADOKAWA『ゼロから始める情報I』、Gakken『きめる!共通テスト 情報Ⅰ』などがあります。本記事は参考書『藤原進之介の最強120講義』第115講のWeb版です。

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