【本記事について】本記事は、数強塾グループのプロ講師による実際の授業録画・書き起こしをもとに、個人が特定されないよう一部の表現を編集して再構成したものです。
こんにちは。株式会社数強塾 代表の藤原進之介です。
「小論文はセンス」「現代文は生まれつきの読解力」──そう思い込んでいる受験生・保護者の方は少なくありません。しかし、今回お届けする授業のこだわり実例を読めば、その印象は変わるはずです。題材は、慶應義塾大学商学部の「論文テスト」。2025年度対策講座の実際の授業録画から、プロ講師が問題をどう「解体」していくのかを再構成してお伝えします。
「論文テスト」は作文ではない──まず形式の説明から
授業の冒頭、講師がまず時間を割いたのは、問題形式の説明でした。慶應商学部の「論文テスト」は、原稿用紙に意見を書く一般的な作文型の小論文ではありません。長い課題文の論理を正確に追いながら、空欄補充や選択式の設問に答えていく形式です。つまり、必要なのは「うまい文章を書く力」以前に、「筆者の論理を機械のように正確にたどる力」。だからこそ、センスではなく手順で攻略できるのだ、というのが講座全体を貫く方針です。
この回の課題文のテーマは「いかに分配するか」──いわゆる分配の正義です。ベンサムの功利主義、「最大多数の最大幸福」という考え方を軸に、有限の資源をどう分けるべきかを問う文章でした。具体例として、災害医療のトリアージ(赤・黄・緑・黒のタグで治療の優先順位を決める仕組み)や、食料輸送のジレンマ──全員に行き渡るよう配ると輸送の過程で4割が腐ってしまう、一方で7割の住民に全量を渡せば損失はゼロになる──が挙げられ、「限られた資源を誰に、どう分けるのが正しいのか」を読者に考えさせる構成です。
問いの形を見た瞬間に、答えの場所は決まっている
講師の指導には、明確な「型」があります。たとえば課題文を読み始めてすぐ、こんな解説が入りました。
「『〜でしょうか』という文は問題提起です。筆者が読者に考えてほしいテーマの印。ここに印をつけておけば、文章全体が何の話なのか見失いません」
さらに特徴的なのは、読む前に「処理の計画」を立てさせることです。空欄補充の問題では、「この空欄が2回目に出てくる位置まで読んでから解く」と先に決めてから読み始める。行き当たりばったりに読んで、その場その場で解くのではなく、設問の構造から逆算して読み方を設計するのです。
空欄補充の実演も鮮やかでした。課題文には「資源が③④にあるなら全員にまんべんなく分けられる」という趣旨の箇所と、「①②の資源の分配」を論じる箇所が対比されています。この対比構造に気づけば、③④に入るのは「無限」、①②に入るのは「有限」と、反対語のペアで機械的に確定します。「優先的に」といった語句も、前後の文脈の言い換え関係から一意に決まる。講師は「なんとなくこれが合いそう」という解き方を徹底的に排除していきます。
接続語の問題も同様です。「常識的に考えれば驚きはない」という内容と「経済人モデルからすれば驚きだ」という内容が前後にあれば、両者は逆接の関係。だから入るのは「しかし」。感覚で選ぶのではなく、前後の論理関係を言葉にしてから決める──この手順が一問ごとに繰り返されます。
最後通告ゲーム──理論と現実のズレこそが出題の核心
課題文の後半で登場したのが、「最後通告ゲーム」と呼ばれる有名な実験です。1万円をXがどう分けるか提案し、Yが受諾すればその通りに分配、拒否すれば双方とも0円になる、というルールのゲームです。
講師はここで、ホモ・エコノミクス──自分の利得の最大化だけを考える人間、という経済学上の仮定──を前提にすると何が起こるかを、条件を一つずつ積み上げて導いていきます。ゲームは1回限りで、匿名で、評判を気にする必要もない。ならばYは、1円でももらえるなら拒否するより得なので受諾するはず。それを見越したXの理論解は「相手に1円、自分に9,999円」になる。ところが実際の実験では、人間は相手に40〜50%を提案することが知られています。
「理論ではこうなるはずなのに、現実の人間はそうしない。この『理論と現実のズレ』こそが筆者の言いたいことで、出題の核心です。ズレに線を引きながら読んでください」
また、設問文の指示を読み分ける戦略も示されました。「本文の論旨から見て」とある設問は、部分的な読解では答えられないので、全体を読み終えてから処理する。設問文の言葉づかいひとつで、解く順番そのものを変えるのです。
小論文も「センスではなく手順」で解ける
この日の授業を通して一貫していたのは、「読解のすべての判断に理由をつける」という姿勢です。問題提起の文型、対比構造、反対語ペア、逆接の論理関係、設問文の指示語──どれも、知っていれば誰でも使える「手順」です。慶應の論文テストのような一見特殊な試験も、手順に分解してしまえば、訓練で確実に伸ばせる領域になります。
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