大学入試の古文は「暗記」では届かない — 実出典793件から設計した古文アーカイブ

古文の勉強法として、いまだにいちばん多く見かけるのは「有名作品のあらすじを覚える」「教科書に出てくる章段を暗記する」という方針です。国語専門塾「国強塾」by数強塾グループでは、この方針を採りません。理由は精神論ではなく、実際の出題データがそれを否定しているからです。

このページは、国強塾が保有する 実出典データ793件(1963〜2026年/38の大学・試験区分/異なり313作品) を集計し、そこから逆算して古文の学習設計を組み直したものです。以下すべての数字は、このデータに実際に記録されている行だけを根拠にしています。推定値・概算・「出題率◯%」の類は一切書きません。

この記事で分かること

  • 実出典793件のうち、180作品はこのデータの中で一度しか登場しません。古文は「覚えた作品が出る」試験ではないという事実
  • 共通テスト・センター試験の本試験が、1997年以降どんな作品を選んできたか(本試験の出典35件の全一覧
  • 東大・京大・阪大・早稲田・一橋が、それぞれ何を選び続けてきたか(大学別の実出典表)
  • 古文作品マスタ395作品のランク分布(S・A・B・C)が何を意味しているか
  • ジャンル別の6つの「型」と、初見の文章を7分で立ち上げる国強塾の具体手順

1. まず数字を見てください — 793件が語っていること

国強塾の古文アーカイブは、次の2つのデータを土台にしています。

データ 内容 規模
実出典データ 年度・大学・学部・出典作品・章段を1行1件で記録 793件
作品マスタ ジャンル・成立・作者・頻度ランク・読解キー 395作品(集計時点)

793件を作品名で集計すると、次のようになります。

指標 数値
のべ出題件数 793件
異なり作品数 313作品
2回以上登場した作品 133作品(613件)
1回しか登場しなかった作品 180作品
出題回数トップ20作品の合計 224件(全体の28.2%)
データの年度レンジ 1963年〜2026年
大学・試験区分の数 38

異なり313作品のうち、180作品(57.5%)はこのデータの中でたった一度しか現れません。 逆に、最頻出の20作品をすべて完璧に仕上げたとしても、カバーできるのは全体の28.2%です。残りの7割は「見たことのない文章」として試験場に現れます。

📖大切な定義 大学入試の古文とは、既知の作品を思い出す試験ではなく、初見の文章から人物関係と論理を復元する試験である。

これは価値判断ではなく、データの形がそう言っています。「頻出作品を覚える」という戦略は、7割の場面で機能しません。では何を鍛えるのか。その答えが、このページの後半で説明する ジャンルごとの「型」 です。

👀 ここに注目

最頻出は『源氏物語』の39件で、2位の『俊頼髄脳』14件を大きく引き離しています。しかし39件でも全体の4.9%です。「源氏物語をやれば古文ができる」という言い方が成り立たないことも、同じ集計から読み取れます。


2. 共通テスト・センター試験は、30年前から「無名作品」に舵を切っていた

大学入試センターの出典は公表されているため、断定できる数少ない領域です。1997年から2026年までの 本試験の出典35件 を、年度降順ですべて挙げます。「他での出題」の列は、この793件のデータの中で、その作品が他の大学・年度に登場した回数を含めた総件数です。

年度 試験 出典 ジャンル・成立 本データ内の総出題
2026 共通テスト うつほ物語(蔵開・上) 作り物語/平安中期 13
2025 共通テスト 源氏物語(若菜) 作り物語/平安中期 39
2025 共通テスト 在明の別(源氏物語と併用) 擬古物語/鎌倉 3
2024 共通テスト 草縁集 擬古文集/江戸後期 1
2023 共通テスト 俊頼髄脳 歌論/平安後期 14
2023 共通テスト 散木奇歌集(俊頼髄脳と併用) 私家集/平安後期 1
2022 共通テスト 増鏡 歴史物語/南北朝 9
2022 共通テスト とはずがたり(増鏡と併用) 日記/鎌倉後期 5
2021 共通テスト(第1日程) 栄花物語 歴史物語/平安後期 10
2021 共通テスト(第1日程) 千載和歌集(栄花物語と併用) 勅撰集/平安末 1
2021 共通テスト(第2日程) 山路の露 擬古物語/鎌倉 2
2020 センター試験 小夜衣 擬古物語/鎌倉 1
2019 センター試験 玉水物語 御伽草子/室町 1
2018 センター試験 石上私淑言(本居宣長) 歌論/江戸中期 1
2017 センター試験 木草物語 擬古物語/中世 2
2016 センター試験 今昔物語集 説話/平安後期 7
2015 センター試験 夢の通ひ路物語 擬古物語/鎌倉 1
2014 センター試験 源氏物語(夕霧) 作り物語/平安中期 39
2013 センター試験 松陰中納言物語 擬古物語/鎌倉 1
2012 センター試験 真葛がはら(只野真葛) 作品集/江戸後期 1
2011 センター試験 保元物語 軍記/鎌倉 2
2010 センター試験 恋路ゆかしき大将 擬古物語/鎌倉 1
2009 センター試験 一本菊 御伽草子/室町 1
2008 センター試験 狗張子(浅井了意) 仮名草子/江戸前期 1
2007 センター試験 兵部卿物語 擬古物語/中世 1
2006 センター試験 うなゐ松(木下長嘯子) 随筆/江戸前期 1
2005 センター試験 日光山縁起 寺社縁起/中世 1
2004 センター試験 うつせ貝(中島広足) 擬古物語/江戸後期 1
2003 センター試験 五葉(荒木田麗女) 擬古物語/江戸中期 1
2002 センター試験 松しま日記(嘉恵女) 日記・紀行/江戸中期 1
2001 センター試験 和歌庭訓(二条為世) 歌論/鎌倉後期 1
2000 センター試験 うつほ物語(俊蔭) 作り物語/平安中期 13
1999 センター試験 井関隆子日記 日記/江戸後期 2
1998 センター試験 西鶴名残の友(井原西鶴) 浮世草子/江戸前期 1
1997 センター試験 松浦宮物語 擬古物語/鎌倉初期 4

👀 ここに注目

この35件のうち、20件は「総出題1」 です。つまり、793件のうち残る792件のどこにも現れない作品が、本試験の出典として選ばれています。『小夜衣』『夢の通ひ路物語』『恋路ゆかしき大将』『一本菊』『うなゐ松』『五葉』——名前を聞いたことがない受験生がほとんどでしょう。それでいいのです。出題者は、受験生が知らないことを前提に文章を選んでいます。

ジャンルで割ると、傾向はさらにはっきりします。

ジャンル 1997年以降の本試験での件数
擬古物語 11
作り物語 4
歌論 3
御伽草子 2
日記 2
歴史物語 2
その他(説話・軍記・仮名草子・浮世草子・寺社縁起・私家集・勅撰集・随筆ほか) 各1

35件のうち18件、およそ半分が「物語(作り物語・擬古物語・御伽草子・擬古文集)」です。そして最多は、教科書にまず載らない 擬古物語 の11件でした。

📖大切な定義 擬古物語とは、『源氏物語』の設定・語彙・場面構成を意図的に踏襲して書かれた、鎌倉時代以降の物語群である。

擬古物語が選ばれ続ける理由は、国強塾の見立てでは単純です。『源氏物語』の型を知っていれば読めるが、作品そのものを暗記していても意味がない——出題者が測りたい能力を、いちばん素直に測れる素材だからです。継子いじめ、身分違いの恋、垣間見、出家、夢告。骨組みは同じで、名前だけが違う。だから初見でも読める人には読め、暗記に頼る人には読めない。

💡 ポイント

2021年(第1日程)・2022年・2023年・2025年の本試験は、同一年に2作品が併用される複数テクスト構成 でした(栄花物語+千載和歌集、増鏡+とはずがたり、俊頼髄脳+散木奇歌集、源氏物語+在明の別)。一方で2021年第2日程『山路の露』、2024年『草縁集』、2026年『うつほ物語』は単独です。「必ず2つ出る」わけではなく、「2つ出ても崩れない読み方」を準備しておくのが正解です。データに現れている組み合わせは、歴史物語+勅撰集、歴史物語+当事者の日記、歌論+その作者の家集、作り物語+その系譜を引く擬古物語の4通り。国強塾では、いずれも 片方がもう片方を読み解く手がかりになる関係 で選ばれていると見ています。

年度ごとの全訳と設問分析は kobun-exam-kyotsu にまとめています。


3. 難関大は何を選んできたか

私大・国公立には公式の出典集計がありません。国強塾では、赤本・予備校の分析資料・受験情報サイトを突き合わせて確認できた行だけをデータ化しています。以下は、そのデータに実在する記録です。

3-1. 東京大学 — 説話と物語を半々で、必ず「短い文章」を出す

東大の記録は28件。データ上、2002年以降は「文科・理科共通」の1題として記録されています(2001年のみ文科・理科で別出典)。

年度 出典 章段・注記
2026 狭衣物語 飛鳥井の女君の一周忌
2025 撰集抄 巻三第六話
2024 讃岐典侍日記
2023 沙石集 耳売りたること
2022 浜松中納言物語
2021 落窪物語
2020 春日権現験記 興福寺の壱和僧都
2019 誹諧世説 嵐雪が妻、猫を愛する説/闌更編
2018 太平記 巻二十一 兼好と高師直
2017 源氏物語 真木柱
2016 あさぎり
2015 夜の寝覚
2014 世間胸算用
2013 吾妻鏡 平仮名本・静の舞
2012 俊頼髄脳 岩橋の歌
2011 十訓抄 忠直を存すべき事 序
2010 古今著聞集 白河院の御時
2009 うつほ物語 嵯峨の院
2008 古本説話集
2007 続古事談 堀河院
2006 堤中納言物語 はいずみ
2005 住吉物語
2004 庚子道の記
2003 古本説話集 下・五十三
2002 神道集
2001(文科) 栄花物語 巻二七
2001(理科) 十訓抄 七ノ二八
2000 成尋阿闍梨母集

ジャンルを数えると、作り物語7・説話6・仏教説話2が上位で、ここに説話絵巻の詞書と中世説話が各1件加わります。物語系と説話系だけで28件中19件 という構成です。国強塾では、東大の古文は短い文章を精密に読ませる方向で安定していると見ており、対策の核は 一文の主語を自力で確定できるかどうか に置いています。詳しくは kobun-univ-todai へ。

3-2. 京都大学 — 文系と理系で別問題、近世の考証・歌論が多い

京大の記録は52件。2007年以降は文系・理系で別の出典を用いる形が続いています。直近10年を挙げます。

年度 文系 理系
2026 木草物語(宮部万女/近世の同名作) 一言芳談
2025 義経記 玉勝間
2024 とはずがたり 草庵集玉箒(本居宣長)
2023 駿台雑話(室鳩巣/漢詩を含む) 後松日記(松岡行義)
2022 国歌八論余言(田安宗武) 建礼門院右京大夫集
2021 栄花物語(筑紫の場面) 正徹物語
2020 和泉式部日記 北辺随筆(富士谷御杖)
2019 三のしるべ(藤井高尚) 落窪物語
2018 風雅和歌集(仮名序) 肥後道記(西山宗因)
2017 夜航余話(津坂東陽) 海人のくぐつ(中島広足)

ジャンルの偏りは明確で、52件の内訳は 随筆8・日記6・擬古物語4・作り物語4・歴史物語3・歌論3。とくに江戸中後期の国学者・歌人による考証随筆と歌論が繰り返し現れます。『玉勝間』は京大だけで3件(2025年理系・2013年理系・2006年後期。本データ全体では9件)、ほかに本居宣長『草庵集玉箒』、香川景樹『百首異見』なども記録されています。京大の古文は、物語の情緒よりも 論者が何を主張し、どこで反対意見を退けているか を追う力を試す設計だと、国強塾では見ています。kobun-univ-kyodai に全記録を置いています。

3-3. 大阪大学 — 「文学部」と「文学部以外」の二本立て、紀行と説話に厚い

阪大の記録は59行(学部の重複記録を整理すると実質43件)。文学部と文学部以外で別問題を出す構成が続いています。

年度 文学部 文学部以外
2026 雲上歌訓(萩原宗固) 年々随筆(石原正明)
2025 東関紀行 玉勝間(五の巻 枯野のすゝき)
2024 鴉鷺物語 古今著聞集
2023 都のつと 秋香歌かたり(中村秋香)
2022 大和物語 西遊記(橘南谿)
2021 八雲御抄(順徳院) 紫式部日記
2020 狭衣物語 発心集
2019 沙石集 増鏡
2018 蜻蛉日記 和泉式部日記
2017 発心集 浜松中納言物語

重複を除いた43件で数えると、ジャンルは紀行6・説話6・日記4が上位です。旅の記録と、旅先の伝承譚 という組み合わせが阪大の色だと、国強塾は読んでいます。kobun-univ-handai を参照してください。

3-4. 早稲田大学 — 学部ごとに別世界、紀行と歴史物語が強い

早稲田は本データ最多の105件・62作品。学部別に問題が独立しているため、「早稲田対策」という単一の対策は存在しません。 学部を特定して初めて対策になります。2026年度は次のとおりでした。

学部 出典
昭憲皇太后御集
文化構想 二十四孝(現古漢融合)
枕草子(堺本)
教育 今鏡
飛弾匠物語(石川雅望)

複数回記録されている作品は『今鏡』5行、『うつほ物語』『宝物集』『建礼門院右京大夫集』各4行、『伊勢集』『花鏡』各3行(いずれも学部欄の重複記録を含む行数です)。年度と作品名で重複を除いた71件で数えると、ジャンルは紀行8・歴史物語6・日記6が上位でした。文化構想学部の「現古漢融合」は、2025年『今昔物語集』・2026年『二十四孝』と2年続けて記録されており、古文単独の学習では対応できません。 学部別の分析は kobun-univ-waseda に分けています。

3-5. 一橋大学 — そもそも「古文」が出ていない年が多い

一橋の記録23件(重複記録を含む)のうち、第二問が近代文語文と記録された年は15年(2007・2009・2011・2013・2014・2015・2017・2018・2019・2020・2021・2023・2024・2025・2026)。福沢諭吉「学問之独立」「古書画流行」「人の説を咎む可らざるの論」、陸羯南「近時政論考」、三宅雪嶺「試験を論じ運命に及ぶ」、清沢満之「科学と宗教」といった明治期の論説が並びます。古典的な古文が出たのは2012年『排蘆小船』、2022年『続近世畸人伝』など少数です。

👀 ここに注目

一橋志望者が『源氏物語』の敬語を詰めても、第二問には届きません。志望校のデータを見ないまま一般論の古文対策をすると、こういう空振りが起きます。 kobun-univ-hitotsubashi に近代文語文の読み方を独立させています。

3-6. その他の難関大(直近の実記録)

大学 直近の出典(年度降順)
名古屋大学 2026 源氏物語(葵)/2025 増鏡/2024 信生法師日記/2023 怪世談(荒木田麗女)/2022 俊頼髄脳(歌の八病・後悔の病)/2021 蜻蛉日記(中巻)/2020 和泉式部日記
九州大学 2026 訳文童喩(伴蒿蹊)・別本八重葎(文学部)/2025 うたたね・九州の道の記(文学部)/2024 宇治拾遺物語・俊頼髄脳(文学部)/2023 狭衣物語・癇癖談(文学部)
神戸大学 2026 唐物語/2025 更級日記/2024 俊頼髄脳/2023 発心集/2022 伊勢物語/2021 平家物語/2020 讃岐典侍日記
東北大学 2026 排蘆小船(本居宣長)/2025 源氏物語/2023 花月草紙(松平定信)/2022 俵藤太物語/2021 かなめいし(浅井了意)/2020 続古事談
北海道大学 2026 許六離別詞(松尾芭蕉・俳文)/2025 海道記/2024 土佐日記/2023 源平盛衰記/2022 古本説話集/2021 文照聞書(古今集仮名序・真名序と併用)

九州大学が「共通問題+文学部独自問題」の二本立てであること、神戸大学の記録には『伊勢物語』『更級日記』『平家物語』のような定番作品が並ぶこと、北海道大学の記録に俳文・芸道書・歌学書(『許六離別詞』『抛入花伝書』『也哉抄』『奥義抄』『文机談』)が含まれること——いずれも、データを並べて初めて見えてくる特徴です。


4. 395作品のランク分布 — S・A・B・Cが意味するもの

国強塾の作品マスタは、集計時点で395作品を収録し、それぞれに頻度ランクを付けています。ランクの内訳と、実出典データとの対応は次のとおりです。

ランク 作品数 実出典の合計件数 1作品あたり平均 実出典0件の作品
S 59 309 5.24 2
A 91 262 2.88 5
B 195 214 1.10 29
C 50 0 0.00 50

📖大切な定義 国強塾の頻度ランクとは、確認できた実出典件数を主軸に、文学史上の位置づけを加味して作品を4段階に分けた指標である。

この表の読み方を説明します。

Sランク(59作品) は、平均5.24件の実出典を持つ層です。『源氏物語』39件を筆頭に、『俊頼髄脳』14件、『うつほ物語』13件、『住吉物語』『古本説話集』各12件、『古今著聞集』11件と続きます。ここには「共通テストで一度だけ出た近世作品」も含まれます。共通テストの出典になった時点で、その作品には全国の受験生が触れるからです。

Aランク(91作品) は平均2.88件。『伊勢物語』『大和物語』『堤中納言物語』『夜の寝覚』『浜松中納言物語』といった物語群に加え、『石清水物語』『苔の衣』『いはでしのぶ』『しのびね』といった擬古物語が厚く含まれます。入試で差がつくのはこの層です。 Sは誰でもやる、Bは出ない可能性が高い、Aは「出たときに読めるかどうか」で明暗が分かれます。

Bランク(195作品) は平均1.10件。最大の母集団で、195作品のうち29作品はまだ実出典が確認できていません。ここは「読み方を身につけた人が初見で処理する対象」であって、暗記の対象ではありません。

Cランク(50作品) は、現時点で実出典が1件も確認できていない層です。『明月記』『玉葉』『将門記』『陸奥話記』『承久記』『江談抄』など、文学史用語としては重要でも、入試の読解素材としては現れていないものが並びます。国強塾ではこの50作品について個別の読解記事を作らず、文学史ハブ(文学史ハブ)に成立年表とジャンル系統図の形で集約しています。

💡 ポイント

ランクは「やる順番」であって「やる/やらない」の線引きではありません。S→Aまでを型として通し、B以下は初見演習の素材として使う。 これが395作品を扱う唯一現実的な設計です。全作品の一覧は 作品一覧 にあります。


5. ジャンル別の「型」— 6つだけ覚えれば、初見でも骨組みが立つ

ここがこのアーカイブの中心です。793件の出典を分解すると、文章の作られ方は驚くほど少数の型に収束します。国強塾では次の6つを扱います。

ジャンル 骨組み 設問が狙う場所
源氏の型 擬古物語・作り物語 垣間見→懸想→身分の壁→出家か死 主語の省略、二方面敬語
教訓の型 説話・仏教説話 事件→顛末→編者の評言 評言と本文の対応、因果
一人称の型 日記・紀行 出来事→そのときの心情→回想する現在の私 時制の層、心内語の範囲
問答の型 歌論・注釈・能楽論 問い→通説→反論→自説 誰の意見か、接続語
和漢混淆の型 軍記・歴史物語 名乗り→合戦/政変→無常の詠嘆 漢語の語義、故事の引用
考証の型 近世随筆・国学 疑問→古典の引用→現行説の否定→結論 引用と地の文の境界

5-1. 源氏の型(擬古物語=最頻出)

『源氏物語』の場面構成を借りた物語群です。共通テスト・センター試験の本試験について、1997年以降の出典35件のうち11件がこの型でした。

読解キーは主語の省略と敬語です。マスタの読解キー欄には、『源氏物語』に「主語省略+二方面敬語。巻ごとの人物相関。引き歌」、『狭衣物語』に「『源氏』の強い影響。心内語が長い」、『在明の別(有明の別れ)』に「男装の姫君。呼称の切り替わり」、『とりかへばや物語』に「男女入れ替え。呼称の混乱に注意」と記録しています。

具体的な手順は、登場人物を「身分の上下」で縦に並べること です。「奉る」「聞こゆ」が誰から誰へ向いているかは、身分の序列が決まった瞬間にほぼ確定します。人物名ではなく「上・中・下」の3段でいいので、リード文を読んだ直後に紙の隅に書く。これだけで主語の取り違えは激減します。→ kobun-genre-gikobutsugatari

5-2. 教訓の型(説話)

事件を語り、最後に編者が評言をつける構造です。東大は説話系を6件+仏教説話2件出しており、『十訓抄』(「十の教訓に分類。教訓の明示」)、『沙石集』(「笑話+説法。論理的な締め」)、『古本説話集』(「和歌説話」)がその中心です。

手順は逆から読むこと。末尾の評言(「〜こそあはれなれ」「〜べきなり」)を先に見つけて、それが本文のどの行為を指しているかを遡る。 説話は結論が明示される稀有なジャンルなので、この一手で全体の骨が立ちます。→ kobun-genre-setsuwa

5-3. 一人称の型(日記・紀行)

書き手=主人公で、しかも「体験した時点の私」と「書いている現在の私」が二重になります。『讃岐典侍日記』の読解キーは「堀河天皇の死。敬語密度が高い」、『とはずがたり』は「宮廷の内実。長大な回想」、『うたたね』は「失恋と出家」です。

手順は 時制の層に線を引くこと。「〜き」(直接体験の過去)と「〜けり」(気づき・伝聞的な回想)が切り替わる箇所が、そのまま視点の切り替わりです。紀行では、地名が出るたびに「移動したのか、思い出しているのか」を確認します。→ kobun-genre-nikki

5-4. 問答の型(歌論)

俊頼髄脳』は本データ14件で全作品中2位、しかも2023年共通テスト本試、2024年九大文学部、2022年名大、2012年東大、2009年阪大と、難関大が繰り返し選んでいます。読解キーは「歌の詠み方+歌語り」。『正徹物語』は「定家崇拝。問答体」、『排蘆小船』は「問答体」です。

手順は 話者の切り替えを記号で管理すること。「問ふ」「答ふ」「いはく」「〜とぞ」の直後で、意見の持ち主が変わります。歌論の設問は例外なく「誰の主張か」を聞くので、話者が変わる位置に印をつけるだけで、選択肢の半分が消えます。→ kobun-genre-karon

5-5. 和漢混淆の型(軍記・歴史物語)

『平家物語』の読解キーは「和漢混淆文。会話の応酬。無常観」、『太平記』は「長大・漢語多用。故事引用」、『増鏡』は「後鳥羽〜後醍醐。史実知識が効く」。歴史物語だけは、例外的に 背景知識が直接効くジャンル です。

手順は、漢語を音で流さず意味を確定させること。そして名乗りの場面では「誰が・どの家の・何代目か」を押さえること。→ kobun-genre-gunki

5-6. 考証の型(近世随筆・国学)

京大理系が繰り返し選ぶ層です。『玉勝間』の読解キーは「考証的論述。漢意批判」。江戸期の国学者は、古典を引用してから通説を否定する という一定の運びで書きます。

手順は引用と地の文の境界を切ること。「〜と(ぞ)いへる」「〜とあり」で閉じる範囲が引用で、その外側が筆者の判断です。ここを混ぜると、筆者が肯定しているのか否定しているのかが逆になります。→ kobun-genre-kinsei-zuihitsu

📖大切な定義 古文における「型」とは、ジャンルごとに共通する文章の骨組み(場面の運び・話者の切り替わり方・結論の置き場所)のことであり、作品が未知でも適用できる読解の枠組みである。


6. 学習の順路 — 型 → 頻出作品 → 大学別 → 年度演習

国強塾が生徒に示している順路です。逆順にすると必ず失敗します。

第1段階:ジャンルの型(目安2〜4週間) 上の6つの型を、それぞれ短い文章3本ずつで確認します。この段階では作品名を覚える必要はありません。「これは問答の型だから話者を追う」と判断できれば合格です。並行して kobun-grammar の助動詞・敬語・識別を通します。

第2段階:Sランク59作品(目安2〜3か月) 作品一覧 のSランクを、あらすじではなく 「どの型に属し、何が読みにくいか」 で押さえます。『うつほ物語』なら「古い語法・注釈依存。琴の伝授と求婚の二軸」、『住吉物語』なら「継子譚。落窪との比較で問われる」。この一行が言えれば十分です。

第3段階:志望校の実出典(目安1か月) kobun-univ-todai kobun-univ-kyodai kobun-univ-handai kobun-univ-waseda kobun-univ-hitotsubashi などの大学別ページで、志望校が過去に何を選んだかを一覧で見ます。ここで初めて「自分の大学に必要な型」が確定します。 一橋なら近代文語文、京大理系なら考証の型、東大なら説話と物語、というように、この段階から偏らせてよいのです。

第4段階:年度別演習(直前期) kobun-exam-kyotsu の年度別ページで、複数テクスト構成と設問の作られ方に慣れます。

💡 ポイント

第2段階で「Sランクを全部暗記しよう」としてはいけません。Sランク59作品をすべて完璧にしても、793件のデータのうちカバーできるのは309件(39%)です。 残り6割は型で処理するしかない。だから第1段階を飛ばした学習は、どれだけ時間をかけても上限が決まってしまいます。


7. 国強塾の読み方 — 初見の古文を7分で立ち上げる手順

抽象論ではなく、実際に手を動かす順番を書きます。試験場でこの通りにやってください。

1分目:リード文と注を先に読む(本文はまだ読まない) リード文には人物の関係と場面設定が書かれています。注には固有名詞と難語が並びます。本文より先に、この2つで舞台を作ります。 出題者がリード文を付けたということは、それなしでは読めないと認めたということです。

2分目:人物カードを3段で書く 余白に横線を2本引き、上段=最も身分の高い人、中段=主人公級、下段=従者・子ども、と人物を配置します。呼称(「大将」「女君」「宮」)はそのまま書き写します。ここで型を判定します——物語か、説話か、日記か、歌論か。

3〜4分目:本文を通読し、述語の主語だけを確定する 訳そうとしないでください。動詞・形容詞を見つけたら、その主語が上段・中段・下段のどれかを記号で振るだけ。 敬語が付いていれば下から上へ、付いていなければ同格か上から下へ。ここで人物カードに矛盾が出たら、カードのほうを直します。

5分目:和歌と心内語を囲む 和歌は必ず設問になります。そして和歌の前後1文は、必ず状況説明です。心内語(「〜と思ふ」「〜とおぼゆ」の直前)を括弧で囲むと、地の文と混ざらなくなります。

6分目:転換点を1つだけ選ぶ 物語なら「事態が動いた瞬間」、説話なら「評言の直前」、歌論なら「反論が始まる接続語」、随筆なら「通説を否定する語」。文章全体で1か所だけ印をつける。 設問はここに集中します。

7分目:設問を読み、傍線部の主語をカードで確認してから解く 選択肢を先に読まない。傍線部の主語と敬語の方向を自分で確定してから、選択肢を見ます。

👀 ここに注目

この手順のどこにも「作品を知っているか」は入っていません。知らない作品でも同じ手順が回ること が、この読み方の要件です。180作品が一度しか出ていないというデータに対して、国強塾が出した答えがこれです。


8. 古文アーカイブの歩き方

入口 内容
作品一覧 全作品一覧。ランク・ジャンル・成立年代で並べ替え
文学史ハブ 文学史ハブ。成立年表とジャンル系統図。Cランク50作品を収容
kobun-grammar 文法ハブ。助動詞の識別、敬語の方向、和歌の修辞
kobun-exam-kyotsu 共通テスト・センター試験 年度別 出典解説
kobun-genre-gikobutsugatari 擬古物語ハブ(源氏の型)
kobun-genre-setsuwa 説話ハブ(教訓の型)
kobun-genre-nikki 日記・紀行ハブ(一人称の型)
kobun-genre-karon 歌論ハブ(問答の型)
kobun-genre-gunki 軍記・歴史物語ハブ(和漢混淆の型)
kobun-genre-kinsei-zuihitsu 近世随筆・国学ハブ(考証の型)

関連ページ


本文・データの出所

本ページの数値は、国強塾が管理する2つのデータファイルの実データのみを集計したものです。推計値・按分・外挿は使用していません。

実出典データ(793件)の出所内訳

出所 件数
国語入試資料@ウィキ(大学別ページ含む) 522
国語入試資料@ウィキ/河合塾分析PDF 138
大学入試センター公表/東進WIKI・国語入試資料@ウィキ・jukennsei.com の3ソース一致 63
河合塾 本試分析PDF「出典」欄 19
jukennsei.com・武蔵野学習塾の2ソース一致 18
敬天塾・河合塾速報で個別確認 10
東進WIKI(単一ソース) 6
立教大学 公式出題意図・問題PDF 6
代々木ゼミナール解答速報 5
河合塾解答速報 分析PDF 5
その他(個人ブログ) 1

確度の限界(正直に書きます)

  1. 共通テスト・センター試験の出典は、大学入試センターの公表資料に基づくため確度が高いと考えています。3ソース一致で確認した63件がこれに当たります。本ページの第2章の表は、この層のデータです。
  2. 私大・国公立の出典には公式の集計が存在しません。 赤本・予備校の分析資料・受験情報サイトを突き合わせて確認できた行のみを記録しています。単一ソース(東進WIKI)に依拠する6件は再確認が必要な状態です。
  3. 網羅性は保証していません。 早稲田大学105件は同大学の全学部・全日程を尽くしたものではなく、確認できた範囲です。1990年以前の記録は断片的(最古は1963年の1件)で、年度別の比較には使えません。したがって「◯大学で最も多い出典は〜」という表現は、あくまで 本データ内での最多 を意味します。
  4. 表記ゆれが残っています。 「在明の別/有明の別れ」「小島のくちずさみ/小島のすさみ」「奥義抄/奥儀抄」「鳥辺山物語/鳥部山物語」など、資料によって表記が異なる作品があります。第2章で「総出題1」とした20件は、この表記ゆれを既出扱いに寄せて数えた保守的な数字です。
  5. 同一年・同一大学の重複記録があります。 学部欄が空欄の行と学部名入りの行が同じ出題を指している場合があるため、大学別のジャンル集計では年度と作品名で重複を除いた「実質件数」を用いています(例:大阪大学59行→実質43件)。
  6. 作品マスタは更新中です。 本ページの集計時点で395作品(通し番号は396まで採番、1件欠番)。ランク・読解キーは随時見直しています。

原文(古文本文)を引用する記事では、パブリックドメインのテキスト(ja.wikisource.org 等)のみを用い、各記事末に取得元を明記しています。現代の校訂本文の転載は行いません。現代語訳・解説はすべて国強塾が自前で作成したものです。

誤りを見つけられた場合はご指摘ください。データは訂正のたびに更新し、更新日を記載します。


監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ


監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ
本記事の現代語訳・解説は国強塾のオリジナルです。学校の課題・定期テストでは、担任の先生・担当講師の指示を優先してください。

国語は、答案を見せてもらうと原因が分かります

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