関関同立の古文|関西大・関西学院・同志社・立命館+國學院大學の出典一覧と傾向

「関関同立の古文対策」という言葉は、実はかなり乱暴なくくり方です。

国強塾が保有する実出典データで4大学を並べると、同じ枠でまとめて語れるほど似ていません。関西学院大学は同じ年度のなかで学部ごとにジャンルを撒き分けます。同志社大学は物語ではないテキストを好んで出します。立命館大学は確認できる範囲で日記と随筆にほぼ全振りしています。関西大学は件数そのものが少なく、その6件が6ジャンルに散っています。

そこで本記事では、この4大学に國學院大學を加えて扱います。國學院を並べる理由は単純で、『源氏物語』と鏡物(四鏡)だけで出題の大半が説明できてしまう、他大とは明確に別系統の大学だからです。関関同立の「散らし方」と國學院の「固め方」を並べると、私大の古文がどう設計されているかがよく見えます。

以下、推測は混ぜません。データにある事実と、そこから国強塾がどう読むかを、はっきり分けて書きます。

この記事で分かること

  • 関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学・國學院大學の古文出典(本記事のデータで確認できる計80件)を、大学別・年度降順で一覧できます
  • 関西学院大学が、同一年度の学部ごとに物語・歌論・俳文・浮世草子といった離れたジャンルを配置していること、その学部別マトリクスが分かります
  • 同志社大学の出題21件のうち13件が「物語ではないテキスト」であること、法学部・政策学部でその傾向が強いことが分かります
  • 立命館大学の確認できる8件に物語ジャンルが1件も含まれないこと、國學院大學が13件中6件で『源氏物語』を出し、しかも巻名が毎年変わっていることが分かります
  • 5大学の実データが2001〜2013年に強く偏っているという限界と、そのうえで直近をどう補うかという国強塾の具体的な手順が分かります

前提:このデータで言えること、言えないこと

先に限界を書きます。ここを飛ばして数字だけ受け取ると、必ず誤読します。

本記事が扱う5大学の実出典は計80件です。年度の内訳は次のとおりです。

年度帯 件数
2001〜2006年 70
2007〜2013年 7
1976年 3

つまり、8割以上が2001〜2006年に集中しています。これは「その6年間に集中して出題された」という意味ではまったくありません。本記事が依拠する資料の側で、その年代の記録が厚く、それ以降が薄いというだけのことです。私大は学部・日程が多く、年間の出題数そのものが多いため、資料化が追いついていない領域が広く残ります。

したがって、この記事で断定できるのは次の2つだけです。

  1. この年度・この大学・この学部で、この作品が出たという個別の事実
  2. その事実を集計した結果としての傾向の輪郭

言えないのは、「今年も出る」「最近はこうなっている」という類の話です。直近5年ほどの出題は、必ず各大学の赤本(教学社)や大学が公表する入試問題で確認してください。本記事は、直近を調べるときの「見取り図」として使っていただくのが正しい使い方です。

💡 ポイント

古文の大学別対策で最も危険なのは、古いデータを最新の傾向だと思い込むことです。本記事の数字は「この大学はどういう思想で出典を選ぶ大学なのか」を知るために使い、「今年何が出るか」の予想には使わないでください。設計思想は年度が変わっても残りますが、具体的な作品名は残りません。

関西学院大学の古文|学部ごとにジャンルを撒く出題設計

5大学のなかで最も件数が多く、最も特徴がはっきりしているのが関西学院大学です。確認できるのは32件、作品数は27、ジャンルは16種類にのぼります。

実出典一覧(年度降順)

年度 学部・方式 作品 章段・巻 ジャンル・成立 作者
2011 F方式 大和物語 148段 歌物語/平安中期 未詳
2011 全学 長六文 連歌論/室町後期 宗長
2010 F方式 撰集抄 仏教説話/鎌倉 未詳(西行仮託)
2010 全学 竹取物語 作り物語/平安前期 未詳
2008 唐物語 第十七 翻案説話物語/平安後期 藤原成範説
2007 排蘆小船 歌論/江戸中期 本居宣長
2006 玉くしげ 資料に「浮世草子・要確認」の注記 政論/江戸中期 本居宣長
2006 うつほ物語 資料は「宇津保物語」表記 作り物語/平安中期 未詳
2006 社会 堤中納言物語 ほどほどの懸想 短編物語集/平安後期 未詳
2006 経済 堤中納言物語 花桜折る少将 短編物語集/平安後期 未詳
2005 松浦宮物語 擬古物語/鎌倉初期 藤原定家説
2005 紫式部日記 日記/平安中期 紫式部
2005 社会 おらが春 俳文/江戸後期 小林一茶
2005 経済 今昔物語集 説話/平安後期 未詳
2004 源氏物語 若菜上 作り物語/平安中期 紫式部
2004 篁物語 歌物語/平安中期 未詳
2004 社会 堤中納言物語 短編物語集/平安後期 未詳
2004 経済 武家義理物語 浮世草子/江戸前期 井原西鶴
2003 大鏡 歴史物語/平安後期 未詳
2003 落窪物語 作り物語/平安中期 未詳
2003 猫の草子 仮名草子/江戸前期 未詳
2003 社会 狭衣物語 作り物語/平安後期 六条斎院宣旨
2003 経済 宝物集 仏教説話/平安末 平康頼
2002 閑居友 仏教説話/鎌倉 慶政説
2002 国歌八論 歌論/江戸中期 荷田在満
2002 社会 新花摘 俳文/江戸中期 与謝蕪村
2002 経済 栄花物語 歴史物語/平安後期 赤染衛門ほか
2001 古本説話集 説話/平安末 未詳
2001 源氏物語 手習 作り物語/平安中期 紫式部
2001 社会 竹取物語 作り物語/平安前期 未詳
2001 経済 保元物語 軍記/鎌倉 未詳
1976 経済 源氏物語 帚木 作り物語/平安中期 紫式部

学部×年度で見ると設計が見える

同じデータを、縦に年度、横に学部で並べ直します。カッコ内はジャンルです。

年度 社会 経済
2006 うつほ物語(作り物語) 堤中納言物語(短編物語集) 堤中納言物語(短編物語集) 玉くしげ(政論)
2005 松浦宮物語(擬古物語) 紫式部日記(日記) おらが春(俳文) 今昔物語集(説話)
2004 源氏物語(作り物語) 篁物語(歌物語) 堤中納言物語(短編物語集) 武家義理物語(浮世草子)
2003 落窪物語(作り物語) 猫の草子(仮名草子) 狭衣物語(作り物語) 宝物集(仏教説話) 大鏡(歴史物語)
2002 閑居友(仏教説話) 国歌八論(歌論) 新花摘(俳文) 栄花物語(歴史物語)
2001 古本説話集(説話) 源氏物語(作り物語) 竹取物語(作り物語) 保元物語(軍記)

👀 ここに注目

2002年度の横一列を見てください。仏教説話・歌論・俳文・歴史物語。この4つは、成立年代も文体も読み方もまったく違います。鎌倉期の仏教説話(閑居友)、江戸中期の歌論(国歌八論)、江戸中期の俳文(新花摘)、平安後期の歴史物語(栄花物語)が、同じ年に4学部へ1つずつ配られている。2004年度も同じで、作り物語・歌物語・短編物語集・浮世草子と、重なりがありません。2005年度も擬古物語・日記・俳文・説話です。

📖 大切な定義

📖 大切な定義

ジャンル分散型出題とは、同一年度の複数学部・複数日程に対して、互いに離れたジャンルの古典を1作品ずつ配置する出題設計のことである。

一方で、すべての年度で完全に散っているわけではありません。2001年度は法学部『源氏物語』手習と社会学部『竹取物語』がどちらも作り物語で重なり、2003年度も文学部『落窪物語』と社会学部『狭衣物語』が重なっています。さらに2006年度は、社会学部が『堤中納言物語』の「ほどほどの懸想」、経済学部が同じ『堤中納言物語』の「花桜折る少将」と、同じ作品の別の章段を2学部で使っています。

『堤中納言物語』は短編集なので、章段を変えれば別の文章として成立します。関学がこの作品を2004年・2006年(2学部)と3回使っているのは、その扱いやすさゆえだと国強塾では見ています。

江戸のテキストが普通に出る

関学のもう一つの顔は、近世です。確認できる32件のうち、成立が江戸期の作品は、玉くしげ(2006商)・排蘆小船(2007文)・おらが春(2005社会)・武家義理物語(2004経済)・猫の草子(2003法)・国歌八論(2002法)・新花摘(2002社会)の7件あります。室町の連歌論『長六文』(2011全学)を加えれば8件です。

📖 大切な定義

📖 大切な定義

俳文とは、俳諧の発想で書かれた散文であり、地の文の途中や末尾に発句が置かれる形式をとる文章のことである。

📖 大切な定義

📖 大切な定義

浮世草子とは、井原西鶴に始まる江戸前期の小説群であり、町人や武家の現実的な題材を短編の形で描いた散文文学のことである。

俳文(おらが春・新花摘)が出るという事実は、対策上かなり重要です。俳文は、散文の途中に発句が挟まる形式なので、「地の文と句のどちらを主として読むか」を切り替えないと意味が取れません。平安の物語しか読んでいない受験生が、初見でいちばん崩れる文体の一つです。

なお、社会学部は2002年『新花摘』、2005年『おらが春』と、確認できる範囲で俳文を2回出しています。文学部は8件のうち、物語(うつほ・松浦宮・源氏・落窪)と説話(閑居友・古本説話集)と翻案説話物語(唐物語)で7件を占め、例外が2007年の歌論『排蘆小船』です。学部ごとの好みも、うっすらと存在します。

同志社大学の古文|「物語ではないもの」を出す大学

同志社大学は21件、19作品、12ジャンルです。件数あたりのジャンル数は関学より高く、散らし方はむしろ同志社のほうが激しいとも言えます。ただし、散らし方の中身が違います。

実出典一覧(年度降順)

年度 学部 作品 章段・巻 ジャンル・成立 作者
2006 政策 和歌童蒙抄 歌学書/平安後期 藤原範兼
2006 蜻蛉日記 日記/平安中期 藤原道綱母
2006 堤中納言物語 短編物語集/平安後期 未詳
2006 社会 我春集 資料に「要確認」の注記 私家集/要確認 未詳
2006 経済 徒然草 167・180段 随筆/鎌倉末 兼好法師
2005 四条宮下野集 私家集/平安後期 四条宮下野
2005 枕草子 138段 随筆/平安中期 清少納言
2005 経済 弁内侍日記 日記/鎌倉 弁内侍
2004 源氏物語 若菜上 作り物語/平安中期 紫式部
2004 しのびね 擬古物語/鎌倉 未詳
2004 経済 古事談 説話/鎌倉 源顕兼
2003 西行物語 伝記物語/鎌倉 未詳
2003 狭衣物語 作り物語/平安後期 六条斎院宣旨
2003 枕草子 99段 随筆/平安中期 清少納言
2003 経済 源氏物語 作り物語/平安中期 紫式部
2002 窓の教 資料に「要確認」の注記 教訓書/江戸期 未詳
2002 うつほ物語 資料は「宇津保物語」表記 作り物語/平安中期 未詳
2002 戴恩記 随筆(聞書)/江戸前期 松永貞徳
2001 住吉物語 作り物語/平安〜鎌倉改作 未詳
2001 玉勝間 随筆/江戸中期 本居宣長
2001 増鏡 歴史物語/南北朝 未詳

21件中13件が「非物語」

ジャンルで分けると、こうなります。

区分 件数 内訳
物語系 8 作り物語5(源氏物語×2・狭衣物語・うつほ物語・住吉物語)、短編物語集1、擬古物語1、伝記物語1
非物語 13 随筆4(枕草子×2・徒然草・玉勝間)、日記2、私家集2、歌学書1、随筆=聞書1、教訓書1、歴史物語1、説話1

確認できる21件のうち、13件は物語ではありません。同志社は、和歌の解説書、個人の歌集、歌壇の回想、教訓書といった、ストーリーの筋を追えないテキストを平然と出します。

📖 大切な定義

📖 大切な定義

歌学書とは、和歌の語句・故事・作法を後進に説明するために編まれた解説書のことである。

📖 大切な定義

📖 大切な定義

私家集とは、一人の歌人の和歌を集めた個人歌集のことであり、各歌の前に置かれた詞書が散文として読まれる。

2006年政策学部の『和歌童蒙抄』は、平安後期に藤原範兼が初学者向けにまとめた歌学書です。2005年文学部の『四条宮下野集』は、女房・四条宮下野の家集で、詞書が物語のように長いことで知られます。2002年法学部の『戴恩記』は、松永貞徳が歌壇の見聞を語った聞書体の文章です。

👀 ここに注目

法学部と政策学部という、一見して古典から遠そうな学部でこそ、非物語が出ています。法学部6件のうち、増鏡(歴史物語)・戴恩記(聞書)・枕草子99段・枕草子138段の4件が非物語です。政策学部は記録に残る1件が歌学書『和歌童蒙抄』。文学部が源氏・狭衣・うつほと作り物語を並べているのと、見事に対照的です。

これは対策としてかなり厄介です。物語なら、人物が誰で、誰が誰に何をしたかを追えば筋が立ちます。ところが歌学書や私家集は筋がありません。「言いたいこと」は和歌そのものと、その歌が詠まれた事情の説明のなかにしかない。主語を追うだけの読み方では、読めた気がしても設問に答えられません。

💡 ポイント

同志社対策で最初に切り替えるべきは、「筋を追う読み」から「主張と根拠を追う読み」への転換です。歌学書・歌論・聞書は、実質的に評論文です。筆者が何を良いとし、何を悪いとしているのか。その判断の根拠として、どの和歌や故事を持ち出しているのか。現代文の評論と同じ骨組みで読んでください。

立命館大学の古文|日記と随筆に寄る

立命館大学は、本記事のデータで確認できるのが8件と少数です。ただし、その8件の偏り方が際立っています。

年度 学部 作品 ジャンル・成立 作者
2006 枕草子 随筆/平安中期 清少納言
2006 更級日記 日記/平安中期 菅原孝標女
2006 蜻蛉日記 日記/平安中期 藤原道綱母
2003 俊頼髄脳 歌論/平安後期 源俊頼
2003 うたたね 日記/鎌倉 阿仏尼
2003 和泉式部日記 日記/平安中期 和泉式部
1976 法・経営 笈の小文 俳諧紀行/江戸前期 松尾芭蕉
1976 経済 増鏡 歴史物語/南北朝 未詳

内訳は、日記4件、随筆1件、俳諧紀行1件、歌論1件、歴史物語1件です。

確認できる8件に、作り物語・歌物語・擬古物語が1件もありません。日記・随筆・紀行という「一人称で書かれた文章」が6件を占めます。件数が少ないので断定はできませんが、少なくともこのデータの範囲では、立命館は物語よりも一人称の文章に寄っています。

📖 大切な定義

📖 大切な定義

日記文学とは、書き手自身の体験を一人称の視点から回想して綴った散文であり、和歌の贈答がその中心に置かれることが多い文学形式である。

日記文学が難しいのは、主語が書かれないからです。物語なら「〜たまふ」の敬語で人物を絞れますが、日記の書き手は自分自身に敬語を使いません。「敬語がない主体=書き手」という判定が、日記読解の入口になります。逆に言えば、この一手を持っているかどうかで立命館の古文は難易度が変わります。

『うたたね』(阿仏尼)と『和泉式部日記』は、いずれも恋愛の経緯を和歌の贈答でつないでいく文章です。『和泉式部日記』にいたっては、書き手が自分を「女」と三人称的に呼ぶ箇所があるという特殊な性質を持ちます。地の文と会話文と和歌の切れ目が、そのまま設問になります。

👀 ここに注目

2003年の3件は、俊頼髄脳・うたたね・和泉式部日記です。歌論と日記2つ。この年の立命館は、和歌を軸にした文章だけで構成されていたことになります。『俊頼髄脳』は源俊頼が歌の詠み方を説きながら歌語り(歌の詠まれた事情の説話)を挟んでいく文章で、歌論であると同時に説話でもあります。和歌を飛ばして読む癖のある受験生は、この年の問題ではほぼ何も取れません。

関西大学の古文|6件が6ジャンルに散っている

関西大学は確認できるのが6件です。傾向を論じるには少なすぎるので、事実の提示にとどめます。

年度 学部 作品 章段・巻 ジャンル・成立 作者
2006 蜻蛉日記 日記/平安中期 藤原道綱母
2006 社会 源氏物語 玉鬘 作り物語/平安中期 紫式部
2006 総合情報 撰集抄 仏教説話/鎌倉 未詳(西行仮託)
2003 唐物語 翻案説話物語/平安後期 藤原成範説
2003 社会 大和物語 歌物語/平安中期 未詳
2003 経済 御伽物語 仮名草子(怪談)/江戸前期 未詳

6件が6ジャンルに散っている、という点だけは関学・同志社と共通しています。2003年の商学部『唐物語』は中国の故事を和歌つきの物語に翻案した作品、経済学部『御伽物語』は江戸前期の怪異譚を集めた仮名草子です。平安の物語だけを想定していると届かない範囲まで、関西大も普通に取りにいきます。

なお『唐物語』は2008年に関西学院大学文学部でも、『大和物語』は2011年に関西学院大学F方式でも、『撰集抄』は2010年に関西学院大学F方式でも出ています。関西の私大は、似た方向を向いている場面があります。この点は後の章で扱います。

國學院大學の古文|『源氏物語』+鏡物という別系統

ここまでの4大学が「散らす」大学だとすれば、國學院大學は正反対です。

確認できるのは13件。ところが作品数はわずか7、ジャンルは5種類しかありません。本記事のデータで件数8件以上の全大学のうち、出題件数に対する作品の種類がもっとも少ないのが國學院大學です(13件で7作品)。

年度 学部 作品 章段・巻 ジャンル・成立 作者
2013 大鏡 歴史物語/平安後期 未詳
2006 源氏物語 若紫 作り物語/平安中期 紫式部
2006 平治物語 軍記/鎌倉 未詳
2005 源氏物語 紅葉賀 作り物語/平安中期 紫式部
2005 増鏡 歴史物語/南北朝 未詳
2004 源氏物語 作り物語/平安中期 紫式部
2004 今鏡 歴史物語/平安末 藤原為経説
2003 源氏物語 関屋 作り物語/平安中期 紫式部
2003 大鏡 歴史物語/平安後期 未詳
2002 源氏物語 御法 作り物語/平安中期 紫式部
2002 古今著聞集 説話/鎌倉 橘成季
2001 源氏物語 澪標 作り物語/平安中期 紫式部
2001 更級日記 日記/平安中期 菅原孝標女

『源氏物語』が6年連続、しかも巻が毎年変わる

左の列を上から追ってください。2001年から2006年まで、6年連続で『源氏物語』が出ています。そして巻名は、澪標・御法・関屋・葵・紅葉賀・若紫と、1つも重なりません。

本記事のデータ全体で『源氏物語』の出題は39件確認できますが、そのうち6件が國學院大學で、これは全大学中で最多です。13件中6件、およそ半数が源氏という比率は、他大学には見られません。

👀 ここに注目

巻が毎年変わるということは、「有名な巻だけ読んでおけばよい」という対策が通用しないということです。若紫・葵・紅葉賀は教科書や便覧でよく扱われますが、関屋・御法・澪標は相対的に手薄になりがちです。関屋は光源氏と空蝉の再会、澪標は明石の君と住吉での行き違い、御法は紫の上の死。いずれも人物関係を知らないと、地の文の一行目から誰の話か分かりません。

鏡物が13件中4件

もう一つの柱が鏡物です。2003年(法)と2013年の『大鏡』、2004年の『今鏡』、2005年の『増鏡』。2003年から2005年にかけて、大鏡・今鏡・増鏡が3年連続で出ています。

📖 大切な定義

📖 大切な定義

鏡物とは、老人の昔語りという枠を用いて歴史を語る『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』の四作品を指す、歴史物語の一群のことである。

本記事のデータ全体で鏡物(大鏡・今鏡・水鏡・増鏡)は29件確認できます。大学別では早稲田大学の7件に次いで國學院大學が4件ですが、出題件数に占める比率では國學院が突出しています(13件中4件)。

鏡物に共通するのは、「語り手が設定されている」という構造です。『増鏡』の冒頭では、嵯峨の清涼寺に参詣した語り手が、百歳を超えるという老尼に出会い、昔語りを乞います。

かゝる人こそ昔物語もすなれと、思ひ出でられて、まめやかに語らひつゝ、「昔の事の聞かまほしきまゝに、年のつもりたらん人もがなと思ひ給ふるに、嬉しきわざかな。少しの給はせよ」といへば

(原文は『増鏡』序、校註増鏡・ja.wikisource.org 所収のパブリックドメイン本文より引用)

国強塾の訳:「こういう人こそ昔語りをするものだ、と思い出されて、まじめに話しかけながら、『昔のことが聞きたくてたまらず、年を重ねた方がいてくれたらと思っておりましたのに、うれしいことです。少しお話しください』と言うと」

ここで押さえるべきは、内容ではなく構造です。この一節以降の本文は、すべて「老尼が語ったこと」になります。つまり地の文の敬語は、老尼から見た敬意です。『大鏡』の大宅世継・夏山繁樹、『今鏡』の老女も同じ枠を持ちます。鏡物で主語判定を誤る受験生の多くは、この「誰が語っているか」の層を意識せずに、地の文を作者の言葉として読んでしまっています。

💡 ポイント

國學院大學の対策は、他の4大学とは別立てで組んでください。関関同立の対策は「知らないジャンルに出会っても崩れない汎用力」を作る作業ですが、國學院の対策は「源氏物語の巻ごとの人物相関」と「鏡物の語りの枠」という、2つの具体的な知識を厚く積む作業です。方向が逆です。

5大学をまたぐ「同じ年に同じ作品」現象

もう一つ、5大学を並べたからこそ見えることがあります。別々の大学が、同じ年に同じ作品を出している例が複数あります。

年度 作品 出題した大学・学部
2006 蜻蛉日記 同志社(文)/立命館/関西大(商)
2006 堤中納言物語 同志社(法)/関西学院(社会)/関西学院(経済)
2004 源氏物語「若菜上」 関西学院(文)/同志社(文)
2003 狭衣物語 同志社(文)/関西学院(社会)
2003 大鏡 國學院(法)/関西学院(商)

とくに2004年です。関西学院大学文学部と同志社大学文学部が、同じ年に『源氏物語』の同じ「若菜上」を出しています。資料の記載どおりに読めばそうなります(同一の本文範囲だったかどうかまでは、本記事のデータからは分かりません)。

2006年の『蜻蛉日記』は3大学、2003年は『狭衣物語』と『大鏡』の2組が重なっています。

👀 ここに注目

これは「示し合わせている」という話ではありません。各大学が独立に選んでいるのに結果が重なるということは、選ばれる母集団そのものが共有されているということです。おそらくは、注釈が整備され、適度な長さで切り出せて、設問が作りやすい章段の集合が、事実上決まっている。関西の私大を複数受ける受験生にとって、この事実には実用的な意味があります。

💡 ポイント

関関同立を併願するなら、過去問は「志望校のぶんだけ」ではなく「4大学を横断して」解いてください。同志社で出た『狭衣物語』が関学で出ている、関西大で出た『唐物語』が5年後に関学で出ている、関西大の『撰集抄』が関学で出ている。他大の過去問が、そのまま自分の志望校の演習材料になります。併願校の赤本は、志望校対策の教材でもあります。

国強塾の読み方|5大学それぞれへの具体的な手順

ここからは、抽象論ではなく手順として書きます。

手順1:まず「ジャンル別の初動」を体に入れる(全大学共通・最優先)

関学と同志社と関西大に共通するのは、ジャンルが読めないと初動で崩れるという点です。そこで、本文の1行目を読んだ瞬間に何をするかを、ジャンルごとに決めておきます。

ジャンル 1行目で確認すること 最初に印をつけるもの
作り物語・擬古物語 敬語の有無と種類 「たまふ」「おはす」などの尊敬語
歌物語・私家集 和歌の位置 和歌と、その直前の詞書
日記 敬語のない主体 敬語が付かない動作=書き手
説話 冒頭の定型句 「今は昔」「〜といふ人ありけり」
歴史物語・鏡物 語り手の設定 会話の開始位置(かぎ括弧)
歌論・歌学書 筆者の主張 「〜べし」「〜あしき」などの評価語
俳文・俳諧紀行 発句の位置 五七五の切れ目
浮世草子・仮名草子 場面と登場人物の職業 地名・身分を表す語

この表を暗記する必要はありません。過去問を解くたびに、自分でこの表を埋め直してください。埋められないジャンルが、そのまま弱点です。

手順2:関西学院志望なら「近世」を1か月だけ集中する

関学は江戸のテキストを普通に出します。俳文・浮世草子・仮名草子・歌論。ここは多くの受験生が手つかずのまま本番を迎える領域です。逆に言えば、ここだけは短期間で相対的な優位を作れます。

やることは3つです。

  1. 近世の文章を10題、ジャンルを散らして解く(俳文2・浮世草子2・仮名草子2・歌論2・近世随筆2)
  2. 解いたあと、その文章の「読みにくかった原因」を1行で言語化する(例:句と地の文の切れ目が分からなかった/町人の職業名が読めなかった)
  3. 原因の列を眺めて、繰り返し出てくる原因を3つに絞り、それだけを潰す

近世が読みにくい原因は、実はそれほど多くありません。多くは「漢語まじりの語彙」「当時の生活・制度の常識」「和文と俳諧の文体の混在」の3つに収束します。10題解けば、自分がどれで詰まるかは分かります。

手順3:同志社志望なら「筋のない文章」を評論として読む練習をする

同志社の非物語対策は、演習の選び方が9割です。歌論・歌学書・私家集・聞書だけを集めて、連続で5題解いてください。そのうえで、各題について次の3つを書き出します。

  1. 筆者は何を良いと言っているか(1文)
  2. その根拠として何を挙げているか(和歌/故事/自分の見聞のどれか)
  3. 筆者が批判している対象は何か(あれば)

この3点が書ければ、設問の大半は取れます。逆に、「誰が誰に何をしたか」だけを追ってこの3点が書けないなら、読み方がまだ物語モードのままです。

なお、同志社は『枕草子』を2003年(99段)・2005年(138段)と2回出しています。随筆は同志社の柱の一つなので、『徒然草』『枕草子』『玉勝間』は段単位で読み慣れておく価値があります。

手順4:立命館志望なら「敬語のない主体」を1週間で確定させる

日記文学の主語判定は、技術です。次の順で確認します。

  1. 尊敬語(たまふ・おはす・のたまふ)が付いている動作 → 書き手より上位の人物
  2. 謙譲語(きこゆ・たてまつる・侍り)が付いている動作 → 目的語側が上位
  3. 敬語が付いていない動作 → 書き手自身の可能性が高い
  4. 和歌の直前直後 → 誰が誰に贈ったのかを必ず確定させる

この4手を、『和泉式部日記』『更級日記』『蜻蛉日記』『うたたね』の本文で反復してください。立命館のデータで確認できる日記4件は、すべてこの4作品です。

手順5:國學院志望なら「源氏の巻」と「鏡物の枠」を先に固める

國學院は、対策の方向がはっきりしています。

  • 『源氏物語』の巻ごとの人物相関を、巻名単位でノートにする。桐壺から夢浮橋まで、誰が誰の子で、誰が誰と関係を持ち、誰がいつ死ぬか。データで出ている澪標・御法・関屋・葵・紅葉賀・若紫は当然として、巻名は毎年変わっているので、範囲は絞らないでください。
  • 鏡物は「語り手が誰か」を先に読む。『大鏡』なら大宅世継と夏山繁樹の対話、『今鏡』『増鏡』なら老女・老尼の語り。地の文の敬語が誰の敬意なのかを、語り手から逆算します。
  • 四鏡の時代範囲を1枚に書く。大鏡=藤原道長中心、今鏡=大鏡の続編にあたる後一条から高倉まで、水鏡=神武から仁明までの通史、増鏡=後鳥羽から後醍醐まで。時代が分かれば、本文に出る人物の見当がつきます。

手順6:直近5年は必ず自分で埋める

繰り返しますが、本記事のデータは2001〜2013年に偏っています。志望校が決まったら、赤本で直近5年分の出典を自分で書き出してください。大学名・年度・学部・日程・作品名・ジャンル・成立年代の7項目です。

その表を、本記事の表の上に足す。すると、「本記事が示した設計思想が今も続いているか」が自分で判定できます。続いていれば方針はそのまま、変わっていればそちらを優先する。これが、古いデータの正しい使い方です。

よくある誤解

「関関同立は難関国公立より易しいから、古文も簡単だろう」 — 出典の性格から言えば、そうとは限りません。本記事のデータで見るかぎり、関学は江戸の俳文や浮世草子を、同志社は歌学書や私家集を出しています。これらは、有名作品を丁寧に読ませる型の国公立とは、要求する能力が違います。設問形式が選択式であることと、本文が易しいことは別の話です。

「國學院は源氏さえやれば受かる」 — データで確認できるのは13件中6件が源氏だという事実だけで、それは残り7件が源氏以外だということでもあります。鏡物4件、軍記1件、説話1件、日記1件。源氏に厚みを作るのは正しいですが、それだけで足りるとは本記事のデータからは言えません。

「立命館は日記しか出ない」 — 手元にある記録が8件しかないので、そう断定はできません。その8件に物語が含まれていない、というだけです。準備範囲を狭める根拠にはなりません。

関連ページ

  • 源氏物語 — 國學院大學が6年連続で出した作品。巻ごとの人物相関を整理しています
  • 大鏡 — 鏡物の代表。対話形式と最高敬語による人物特定を扱います
  • 今鏡 — 『大鏡』の続編。國學院2004年出題
  • 増鏡 — 後鳥羽から後醍醐まで。國學院2005年・同志社2001年・立命館1976年出題
  • 堤中納言物語 — 関学が3回、同志社が1回。短編ゆえ章段単位で出題されます
  • 枕草子 — 同志社が2回出した随筆。三分類と「をかし」の読み
  • 蜻蛉日記 — 2006年に同志社・立命館・関西大の3大学が同時に出した日記
  • 俊頼髄脳 — 立命館2003年の歌論。歌語りとしても読める文章です
  • 排蘆小船 — 関学2007年、本居宣長の歌論。問答体の読み方
  • 武家義理物語 — 関学2004年、井原西鶴の浮世草子
  • おらが春 — 関学2005年、小林一茶の俳文
  • 和歌童蒙抄 — 同志社2006年政策学部、平安後期の歌学書
  • genre-karon — 歌論・歌学書というジャンルの読み方をまとめたページ
  • genre-nikki — 日記・紀行のジャンル別対策
  • genre-kinsei — 近世(江戸)の文章をどう読むか
  • waseda-kobun — 私大最大の出題数を持つ早稲田大学の傾向
  • march-kobun — 首都圏私大(MARCH)の出典傾向との比較
  • kobe-kobun — 有名作品に寄る国公立の例として
  • keigo-soron — 敬語による主語判定の総論
  • kobun-dokkai-tejun — ジャンルを問わない読解の初動手順
  • kobun-pillar — 古文アーカイブのトップページ

本文・データの出所

出典データ:本記事の出典一覧は、国強塾が保有する実出典データベース(exam_evidence.csv、全793件)から、関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学・國學院大學の記録80件を抽出したものです。ジャンル・成立年代・作者の記載は、同じく作品マスタ(kobun_master.csv、395作品)に基づきます。

一次の情報源:出典データの収集元は、国語入試資料@ウィキ(大学別ページ)です。同ウィキは有志による集積であり、大学が公表した一次資料ではありません。補助的に、河合塾・代々木ゼミナールの解答速報、大学入試センターの公表資料、東進の入試データ等の公開情報を照合に用いています。

確度の限界:正直に書きます。

  1. 年度の偏り:80件のうち70件が2001〜2006年です。直近の出題はほとんど含まれていません。本記事の傾向分析は、その年代の設計思想を示すものであり、最新年度の予測ではありません。
  2. 学部・日程の欠落:立命館大学と國學院大學の記録には学部・日程の情報が含まれていないものが大半です。学部別の傾向を論じられるのは、関西学院大学・同志社大学・関西大学に限られます。
  3. 作品同定の未確定:資料上「要確認」と注記されているものが3件あります(関学2006商『玉くしげ』、同志社2006社会『我春集』、同志社2002商『窓の教』)。本記事では注記をそのまま残しました。『玉くしげ』については、本居宣長の政論と同名の別作品の可能性が資料側で示唆されています。
  4. 章段情報の粒度:巻名・段数が記録されているものと、いないものがあります。記録がないものは空欄としており、「章段の指定がなかった」という意味ではありません。
  5. 1976年のデータ:関西学院大学・立命館大学に1976年の記録がありますが、現在の傾向を語る材料にはなりません。参考として掲載しています。

原文の扱い:本記事に引用した『増鏡』の本文は、ja.wikisource.org 所収「増鏡(校註増鏡)」のパブリックドメイン本文から取得したものです。現代語訳は国強塾が独自に作成しました。現代の校訂本文(新編日本古典文学全集・新潮日本古典集成・岩波新日本古典文学大系・角川ソフィア文庫等)の本文および訳文は使用していません。

確認のお願い:受験に際しては、必ず各大学が公表する募集要項・入試要項で、志望学部の国語の有無・配点・試験時間・出題範囲をご確認ください。本記事のデータには、配点・試験時間・設問形式は含まれていません。直近の出典は、教学社の赤本など各大学の過去問集でご確認ください。

監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ


監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ
本記事の現代語訳・解説は国強塾のオリジナルです。学校の課題・定期テストでは、担任の先生・担当講師の指示を優先してください。

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