共通テスト・センター試験の古文は、「何が出るか当てる試験」ではありません。むしろ「当てさせない」ように設計されてきた試験です。それは印象論ではなく、37年分の出典を一枚の表に並べると、はっきり数字として現れます。
このページは、大学入試センターが実施してきた古文の出典を、共通テスト(2021〜2026年)・センター試験(1990〜2020年)・旧「国語Ⅰ」(1997〜2005年)の本試験・追試験すべて、国強塾が集計したデータベース(全97件)から一覧にしたものです。そのうえで、この試験が30年以上かけて何をしてきたのかを読み解きます。
この記事で分かること
- 共通テスト・センター試験・旧「国語Ⅰ」の古文出典が、本試・追試まで年度降順で全部わかる
- 1997年の『松浦宮物語』を境に、出典が「有名作」から「無名作」へ舵を切ったこと
- 2006年以降の15年間で、中世の擬古物語が事実上の最頻出ジャンルになったこと
- 追試験が本試験より攻めた「実験場」であり、上代(奈良期)の作品は37年でたった1回しか出ていないこと
- 2021年以降の「複数素材化」と、教科書定番作品が本文出典としては出ないという結論
1. 出典一覧:共通テスト(2021〜2026年)
年度降順。同一年に二つの本文が並んだ回は「+」でつないでいます。
| 年度 | 区分 | 古文の出典 |
|---|---|---|
| 2026 | 本試 | 『うつほ物語』(作り物語/平安中期)〔蔵開・上〕 |
| 2026 | 追試 | 『正徹物語』(歌論/室町)/正徹 |
| 2025 | 本試 | 『在明の別』(擬古物語/鎌倉) + 『源氏物語』(作り物語/平安中期)/紫式部〔若菜〕 |
| 2025 | 追試 | 『とりかへばや物語』(作り物語/平安末) |
| 2024 | 本試 | 『草縁集』(擬古文集/江戸後期) |
| 2024 | 追試 | 幸若舞『景清』 + 浄瑠璃『出世景清』(古典芸能/室町・江戸)/未詳・近松門左衛門 |
| 2023 | 本試 | 『俊頼髄脳』(歌論/平安後期)/源俊頼 + 『散木奇歌集』(私家集/平安後期)/源俊頼 |
| 2023 | 追試 | 『石清水物語』(擬古物語/鎌倉) |
| 2022 | 本試 | 『増鏡』(歴史物語/南北朝) + 『とはずがたり』(日記/鎌倉後期)/後深草院二条 |
| 2022 | 追試 | 『蜻蛉日記』(日記/平安中期)/藤原道綱母 |
| 2021 | 本試第1日程 | 『栄花物語』(歴史物語/平安後期)/赤染衛門ほか + 『千載和歌集』(勅撰集/平安末)/藤原俊成 |
| 2021 | 本試第2日程 | 『山路の露』(擬古物語/鎌倉) |
| 2021 | 特例追試 | 『今鏡』(歴史物語/平安末)/藤原為経説 |
📖 大切な定義
大切な定義:擬古物語とは、平安時代の作り物語(『源氏物語』など)の文体と型を、後の時代の作者が意識的に模倣して書いた物語である。
2. 出典一覧:センター試験(1990〜2020年・31回)
センター試験の古文は31年で本試31回・追試31回、計62回。すべて掲載します。
| 年度 | 本試 | 追試 |
|---|---|---|
| 2020 | 『小夜衣』(擬古物語/鎌倉) | 『桃の園生』(擬古物語/江戸期) |
| 2019 | 『玉水物語』(御伽草子/室町) | 『恨の介』(仮名草子/江戸前期) |
| 2018 | 『石上私淑言』(歌論/江戸中期)/本居宣長 | 『鳥辺山物語』(物語/室町)※「鳥部山物語」表記 |
| 2017 | 『木草物語』(擬古物語/中世) | 『海人の刈藻』(擬古物語/鎌倉) |
| 2016 | 『今昔物語集』(説話/平安後期) | 『苔の衣』(擬古物語/鎌倉) |
| 2015 | 『夢の通ひ路物語』(擬古物語/鎌倉) | 『しぐれ』(擬古物語/中世) |
| 2014 | 『源氏物語』(作り物語/平安中期)/紫式部〔夕霧〕 | 『うつほ物語』(作り物語/平安中期) |
| 2013 | 『松陰中納言物語』(擬古物語/鎌倉) | 『折々草』(随筆・紀行/江戸中期)/建部綾足 |
| 2012 | 『真葛がはら』(作品集/江戸後期)/只野真葛 | 『住吉物語』(作り物語/平安〜鎌倉改作) |
| 2011 | 『保元物語』(軍記/鎌倉) | 『いはでしのぶ』(擬古物語/鎌倉) |
| 2010 | 『恋路ゆかしき大将』(擬古物語/鎌倉) | 『怪しの世がたり』(物語/江戸中期)/荒木田麗女 |
| 2009 | 『一本菊』(御伽草子/室町) | 『野守鏡』(歌論/鎌倉)/六条有房説 |
| 2008 | 『狗張子』(仮名草子/江戸前期)/浅井了意 | 『雲隠六帖』(擬古物語/室町) |
| 2007 | 『兵部卿物語』(擬古物語/中世) | 『伊勢源氏十二人女合』(評論/中世) |
| 2006 | 『うなゐ松』(随筆/江戸前期)/木下長嘯子 | 『竺志船物語』(擬古物語/江戸後期)/村田春海 |
| 2005 | 『日光山縁起』(寺社縁起/中世) | 『太平記』(軍記/南北朝) |
| 2004 | 『うつせ貝』(擬古物語/江戸後期)/中島広足 | 『しら露』(擬古物語/中世) |
| 2003 | 『五葉』(擬古物語/江戸中期)/荒木田麗女 | 『源氏物語』(作り物語/平安中期)/紫式部〔手習〕 |
| 2002 | 『松しま日記』(日記・紀行/江戸中期)/嘉恵女 | 『歌の大むね』(歌論/江戸後期)/長野義言 |
| 2001 | 『和歌庭訓』(歌論/鎌倉後期)/二条為世 | 『浜松中納言物語』(作り物語/平安後期)/菅原孝標女説 |
| 2000 | 『うつほ物語』(作り物語/平安中期)〔俊蔭〕※「宇津保物語」表記 | 『風につれなき』(擬古物語/中世) |
| 1999 | 『井関隆子日記』(日記/江戸後期)/井関隆子 | 『源氏物語』(作り物語/平安中期)/紫式部〔薄雲〕 |
| 1998 | 『西鶴名残の友』(浮世草子/江戸前期)/井原西鶴 | 『落窪物語』(作り物語/平安中期) |
| 1997 | 『松浦宮物語』(擬古物語/鎌倉初期)/藤原定家説 | 『五代帝王物語』(歴史物語/鎌倉) |
| 1996 | 『栄花物語』(歴史物語/平安後期)/赤染衛門ほか | 『三国伝記』(説話/室町)/玄棟 |
| 1995 | 『桂園遺文』(随筆・文集/江戸後期)/香川景樹 | 『榻鴫暁筆』(類書・説話/室町期)/一条兼良説 |
| 1994 | 『狭衣物語』(作り物語/平安後期)/六条斎院宣旨 | 『弁内侍日記』(日記/鎌倉)/弁内侍 |
| 1993 | 『今鏡』(歴史物語/平安末)/藤原為経説 | 『風土記』(地誌/奈良)/各国編纂 |
| 1992 | 『来目路の橋』(紀行/江戸中期)/菅江真澄 | 『栄花物語』(歴史物語/平安後期)/赤染衛門ほか |
| 1991 | 『とりかへばや物語』(作り物語/平安末) | 『閑居友』(仏教説話/鎌倉)/慶政説 |
| 1990 | 『菅笠日記』(紀行/江戸中期)/本居宣長 | 『中務内侍日記』(日記/鎌倉)/藤原経子 |
3. 出典一覧:旧「国語Ⅰ」(1997〜2005年)
センター試験には、かつて「国語Ⅰ」(現代文+古文+漢文の旧課程科目)という別枠が並走していました。実施は1997〜2005年の9年間、本試・追試で計18回です。忘れられがちですが、この18回は同じ出題チームが同時期に別の受験者層へ向けて作った問題であり、傾向を読むうえで貴重な材料になります。
| 年度 | 本試 | 追試 |
|---|---|---|
| 2005 | 『ねさめの記』(随筆/中世) | 『本朝美人鑑』(仮名草子/江戸前期) |
| 2004 | 『木幡の時雨』(擬古物語/中世) | 『西行上人談抄』(歌論・説話/鎌倉)/蓮阿 |
| 2003 | 『平家物語』(軍記/鎌倉) | 『閑田文草』(随筆・文集/江戸後期)/伴蒿蹊 |
| 2002 | 『盗人入りし後』(随筆/江戸後期)/上田秋成 | 『俵藤太物語』(御伽草子/室町) |
| 2001 | 『しぐれ』(擬古物語/中世) | 『三宝絵(三宝絵詞)』(仏教説話/平安中期)/源為憲 |
| 2000 | 『花月草紙』(随筆/江戸後期)/松平定信 | 『平治物語』(軍記/鎌倉) |
| 1999 | 『夢中問答集』(仏教問答/南北朝)/夢窓疎石 | 『六帖詠草』(私家集/江戸中期)/小沢蘆庵 |
| 1998 | 『窓のすさみ』(随筆/江戸中期)/松崎観瀾 | 『曽呂利物語』(咄本/江戸前期) |
| 1997 | 『今昔物語集』(説話/平安後期) | 『しみのすみか物語』(随筆/江戸後期)/石川雅望 |
4. 転換点は1997年『松浦宮物語』だった
表を上から下へ、ではなく下から上へ読んでください。景色が変わります。
1990年から1996年までの本試の出典は、『菅笠日記』(本居宣長)、『とりかへばや物語』、『来目路の橋』(菅江真澄)、『今鏡』、『狭衣物語』、『桂園遺文』(香川景樹)、『栄花物語』。作者名が付き、文学史の教科書に項目として立っている作品が並びます。受験生が名前を聞いたことのある作品で戦えた時代です。
ところが1997年、本試の出典は『松浦宮物語』になります。藤原定家作とされる鎌倉初期の擬古物語で、当時の受験生の大半は名前すら知らなかったはずです。国強塾が集計したこの97件のデータの中で、1997年の『松浦宮物語』はセンター試験本試に登場した最初の擬古物語です。1990〜1996年の7年間には、本試・追試とも擬古物語が1件もありません。
そしてこの年を境に、風景が一変します。1998〜2020年のセンター本試23回のジャンルを数えると、擬古物語が8回で最多。1990〜1997年の本試8回では擬古物語1回(=松浦宮)に対し、歴史物語2回・作り物語2回・紀行2回と割れていたのとは、構成が明確に違います。
👀 ここに注目
ここに注目:1997年は、追試も『五代帝王物語』という無名の歴史物語でした。本試・追試そろって「名前で身構えられない本」へ振ったのが、この年です。国強塾では、1997年を「知名度で受かる古文」の終わりの年として指導しています。
なぜ舵を切ったのか。出題者の意図が公表されているわけではないので断定はしません。ただ、結果として起きたことは明白です。あらすじを覚えてきた受験生の優位が消え、初見の文章をその場で構造から読める受験生だけが残る設計になりました。
5. 2006〜2020年:擬古物語が事実上の最頻出ジャンルになった
もっとも数字が効く区間です。2006年から2020年までの15年、本試15回・追試15回の計30回のうち、13回が擬古物語でした。3回に1回以上のペースです。
| 年 | 回 | 擬古物語の出典 |
|---|---|---|
| 2020 | 本試/追試 | 『小夜衣』/『桃の園生』 |
| 2017 | 本試/追試 | 『木草物語』/『海人の刈藻』 |
| 2016 | 追試 | 『苔の衣』 |
| 2015 | 本試/追試 | 『夢の通ひ路物語』/『しぐれ』 |
| 2013 | 本試 | 『松陰中納言物語』 |
| 2011 | 追試 | 『いはでしのぶ』 |
| 2010 | 本試 | 『恋路ゆかしき大将』 |
| 2008 | 追試 | 『雲隠六帖』 |
| 2007 | 本試 | 『兵部卿物語』 |
| 2006 | 追試 | 『竺志船物語』 |
37年全体で見ても、擬古物語は97件中23件で単独首位。2位は作り物語の13件です。
ここが大事なところです。擬古物語とは、要するに『源氏物語』の型の反復です。 データ上、この23件のうち19件が中世(鎌倉〜室町)成立、4件が近世(江戸期)の作です。時代も作者もばらばらですが、書かれているものはよく似ています。
- 高貴な男君が、身分差や事情のある女君に思いを寄せる
- 恋は成就せず、あるいは成就しても長続きしない
- 女君が世を厭い、出家(あるいは失踪・死)に向かう
- 語りは主語を省き、敬語の方向で人物の格を示す
- 場面の転換点に和歌が置かれ、和歌が心情の要約になる
『山路の露』は『源氏物語』宇治十帖の続編(浮舟の後日談)ですし、『雲隠六帖』は『源氏物語』の失われた「雲隠」巻を補おうとした作です。出典名は毎年変わるのに、読むべき型は変わっていない。これが2006〜2020年の実態です。
💡 ポイント
ポイント:擬古物語対策の本体は、擬古物語を読むことではなく『源氏物語』の型を身体に入れることです。作品名を100個覚えるより、源氏物語 の主語省略と二方面敬語を1年かけて崩さないほうが、はるかに得点になります。
📖 大切な定義
大切な定義:二方面敬語とは、一つの動作について、動作を受ける側への敬意(謙譲語)と動作をする側への敬意(尊敬語)を同時に示す表現である。
6. 追試験は「実験場」である
追試験の出典は、本試験より明確に幅が広いです。国強塾の集計では、追試46件に21ジャンル、本試51件に20ジャンル。本試のほうが件数は多いのにジャンル数は追試が上回る、という逆転が起きています(件数で数えているのは、本試に二素材の回が4回あるためです。回数でいえば本試47回・追試46回でほぼ同数です)。
「追試にしか現れなかったジャンル」は9つあります。並べると、この試験の“振れ幅”がよく見えます。
| ジャンル | 年度・出典 |
|---|---|
| 地誌 | 1993年 追試『風土記』 |
| 類書・説話 | 1995年 追試『榻鴫暁筆』(一条兼良説) |
| 仏教説話 | 1991年 追試『閑居友』/2001年 国語Ⅰ追試『三宝絵』 |
| 咄本 | 1998年 国語Ⅰ追試『曽呂利物語』 |
| 評論 | 2007年 追試『伊勢源氏十二人女合』 |
| 歌論・説話 | 2004年 国語Ⅰ追試『西行上人談抄』 |
| 随筆・紀行 | 2013年 追試『折々草』(建部綾足) |
| 物語(細分類なし) | 2010年 追試『怪しの世がたり』(荒木田麗女)/2018年 追試『鳥辺山物語』 |
| 古典芸能 | 2024年 追試 幸若舞『景清』+浄瑠璃『出世景清』 |
『伊勢源氏十二人女合』は『伊勢物語』と『源氏物語』の女性たちを番わせて優劣を論じる評論、2024年追試は幸若舞と浄瑠璃という同一素材の芸能テキストを二つ並べて比較させるという、本試でもまだ見ない形式でした。歌論も追試の常連で、2002年『歌の大むね』、2009年『野守鏡』、そして2026年追試『正徹物語』と続いています。
一方で、公平のために書いておくべき事実もあります。寺社縁起は追試ではなく2005年の本試に出ました(『日光山縁起』)。本試だけに現れたジャンルも8つあります。この寺社縁起に、紀行(1990年『菅笠日記』・1992年『来目路の橋』)、日記・紀行(2002年『松しま日記』)、作品集(2012年『真葛がはら』)、浮世草子(1998年『西鶴名残の友』)、仏教問答(1999年国語Ⅰ『夢中問答集』)、勅撰集(2021年『千載和歌集』)、擬古文集(2024年『草縁集』)が加わります。つまり「追試は変な問題、本試は無難」ではありません。追試のほうが振れ幅は広い。しかし本試も、時期が来れば縁起でも芸能でも出してくる。国強塾ではこれを「追試は実験場、本試はその実験の採用先」と説明しています。
💡 ポイント
ポイント:過去問演習で追試を捨てるのは、いちばんもったいない捨て方です。追試には、本試がまだ採用していない形式の原型が入っています。とくに歌論・評論・比較形式は、共通テストになってから本試に上がってきました。
7. 上代は37年で1回だけ
もう一つ、対策の優先順位を決める数字を出します。この97件の中で、上代(奈良時代まで)に成立した作品は、1993年追試の『風土記』ただ1件です。
📖 大切な定義
大切な定義:上代とは、奈良時代までを指す日本文学史上の時代区分であり、『古事記』『日本書紀』『万葉集』『風土記』などが属する。
『万葉集』『古事記』が本文出典として問われた回は、集計上ゼロです。時代別に成立年代を数えると、鎌倉が19件、江戸後期11件、中世(時期特定なし)10件、平安中期10件、江戸中期9件、平安後期9件——中心は圧倒的に平安中期〜鎌倉、そして江戸期の擬古文です。
👀 ここに注目
ここに注目:これは「上代を勉強しなくていい」という意味ではありません。上代特有の語法(已然形+「ば」の古い用法、上代特殊仮名遣、上代の助動詞「ゆ」「らゆ」など)を、共通テスト対策として優先的に詰める必要はない、という意味です。同じ時間を、鎌倉期の擬古物語の敬語と主語判定に投じたほうが期待値が高い。優先順位の話です。
8. 2021年以降の「複数素材化」
共通テストになって最も大きく変わったのは、ジャンルではなく素材の数です。
| 年度 | 区分 | 素材の組み合わせ |
|---|---|---|
| 2025 | 本試 | 『在明の別』+『源氏物語』〔若菜〕 |
| 2023 | 本試 | 『俊頼髄脳』+『散木奇歌集』 |
| 2022 | 本試 | 『増鏡』+『とはずがたり』 |
| 2021 | 本試第1日程 | 『栄花物語』+『千載和歌集』 |
国強塾の集計では、共通テスト本試7セット(2021年は第1・第2日程を別に数える)のうち4セットが複数素材でした。しかもその組み方に、はっきりした思想があります。
- 2021年:歴史物語(『栄花物語』)+勅撰集(『千載和歌集』)= 出来事の記述と、その場で詠まれた歌
- 2022年:歴史物語(『増鏡』)+日記(『とはずがたり』)= 同じ宮廷を、外から書いた文と内から書いた文
- 2023年:歌論(『俊頼髄脳』)+私家集(『散木奇歌集』)= 同じ源俊頼の、理論と実作
- 2025年:擬古物語(『在明の別』)+作り物語(『源氏物語』)= 型を借りた側と、型の本家
📖 大切な定義
大切な定義:複数素材問題とは、性格の異なる二つ以上のテキストを並べ、その一致点・相違点・依存関係を問う設問形式である。
つまり共通テストが問うているのは、同じ出来事・同じ人物・同じ主題が、ジャンルを変えるとどう書き換わるかです。片方だけ完璧に訳せても勝てません。追試も同じ方向で、2024年追試は幸若舞と浄瑠璃という芸能同士の比較でした。
なお2024年本試『草縁集』、2026年本試『うつほ物語』〔蔵開・上〕は、国強塾の集計上は単一素材として記録しています。複数素材は「毎年必ず」ではなく「本試の過半」、というのが現時点で言える正確なところです。
9. 教科書定番は、本文出典としては出ない
ここまでの表を通して見ると、ある不在に気づきます。集計した97件の中に、次の作品は1回も登場しません。
『伊勢物語』/『徒然草』/『枕草子』/『大鏡』/『更級日記』/『土佐日記』/『竹取物語』/『方丈記』/『古今和歌集』/『宇治拾遺物語』/『十訓抄』/『紫式部日記』/『和泉式部日記』/『奥の細道』/『無名抄』
いずれも高校の教科書に必ず載る、いわゆる定番です。一方で登場した「有名作」は、『源氏物語』4回(1999年追試〔薄雲〕・2003年追試〔手習〕・2014年本試〔夕霧〕・2025年本試〔若菜、併用〕)、『今昔物語集』2回(1997年国語Ⅰ本試・2016年本試)、『平家物語』1回(2003年国語Ⅰ本試)、『落窪物語』1回(1998年追試)、『蜻蛉日記』1回(2022年追試)程度。37年で数えるほどしかありません。
では、教科書を読む意味はないのでしょうか。逆です。国強塾の答えははっきりしています。
教科書の定番作品は「出題される本文」ではなく「型の原本」だから読むのです。
- 源氏物語(作り物語)を読む理由 → 擬古物語23件すべての設計図がここにあるから。主語省略、二方面敬語、女君の出家という帰結。
- 『伊勢物語』(歌物語)を読む理由 → 和歌を軸に地の文が状況説明に徹する構造は、千載和歌集 や 散木奇歌集 のような和歌素材を読むときの土台になる。
- 『大鏡』(歴史物語)を読む理由 → 2021年 栄花物語、2022年 増鏡、2021年特例追試『今鏡』と、歴史物語は共通テストでも現役ジャンル。「誰の視点で語られた歴史か」を疑う癖はここで作る。
- 今昔物語集(説話)を読む理由 → 「今は昔」で始まり教訓で閉じる型を知っていれば、初見の説話でも段落の役割が予測できる。
👀 ここに注目
ここに注目:出典は当てられないが、型は当たります。 出典名の暗記に費やす時間はゼロでよく、型の習熟に費やす時間は上限なしでよい。これが37年分のデータから出る唯一の実践的結論です。
10. 国強塾の読み方:初見の古文を30分で仕上げる手順
抽象論では点になりません。国強塾が実際に指導している手順を、そのまま書きます。過去問1回分を解いたあとの復習として使ってください。
手順1:リード文と注を先に読む(2分) 共通テスト・センター試験の古文は、本文の前後に必ず「出典の説明」と「注」が付きます。無名作を出す試験である以上、理解に必要な前提は出題者が渡してくれる契約になっています。人物名・関係・場面の時点をここで確定させます。注に人名が3つ載っていたら、その3人の相関図を余白に書く。ここを飛ばして本文に入るのが、最も多い失点原因です。
手順2:敬語で身分の階段を作る(5分) 「たまふ」「おはす」が付く人物を上、「聞こゆ」「奉る」の向かう先を上、「侍り」「候ふ」を使う人物を下に置きます。擬古物語では、この階段がそのまま主語の判定表になります。 主語が書かれていないのではなく、敬語の高さで書かれている、と考えてください。
手順3:和歌の前後3行を精読する(5分) 和歌は場面の要約です。和歌の直前には詠むきっかけ、直後には受け取った側の反応が必ず書かれます。掛詞・縁語を探す前に、「誰が誰に、何を受けて詠み、相手はどう応じたか」を一文でメモする。設問の傍線部は、この3行に集中して引かれます。
手順4:素材が二つなら「差」だけをメモする(5分) 2021年以降の本試スタイルです。二つの本文の一致点は設問になりにくく、ズレが設問になります。「Aでは称賛、Bでは同情」「Aは第三者の語り、Bは本人の回想」のように、対立軸を2〜3個だけ書き出す。2022年の『増鏡』と『とはずがたり』は、まさに「外から書いた宮廷」と「内から書いた宮廷」の差が問われました。
手順5:復習で「型」に還元する(10分) ここが本丸です。解き終わったら、その本文をジャンルの型として一行で要約します。「鎌倉の擬古物語。身分違いの恋→女君の出家。二方面敬語で主語判定」。この一行を作品ごとに貯めていくと、初見の文章に当たったとき「これはあの型だ」と3行目で分かるようになります。出典を覚えるのではなく、型のカタログを作る。これが国強塾の古文の中心です。
💡 ポイント
ポイント:過去問は「本試だけ」ではなく「本試+追試」で回してください。31年分のセンターに追試を足せば62回分、共通テストと国語Ⅰを含めれば90回分以上の初見素材が手に入ります。市販の予想問題より、この90回のほうが確実に本物です。
11. よくある質問
Q. 2026年に出た『うつほ物語』は、また出ますか。 A. 同じ作品が再登場した例はあります。『うつほ物語』は2000年本試〔俊蔭〕・2014年追試・2026年本試〔蔵開・上〕の3回、『栄花物語』は1992年追試・1996年本試・2021年本試の3回、『今鏡』は1993年本試・2021年特例追試の2回、『とりかへばや物語』は1991年本試・2025年追試の2回、『しぐれ』は2001年国語Ⅰ本試・2015年追試の2回です。ただし間隔は10年以上あくのが普通で、「翌年また出る」という予測に意味はありません。→ うつほ物語
Q. 江戸時代の文章は捨てていいですか。 A. だめです。江戸後期成立の作品は97件中11件、江戸中期9件、江戸前期6件で、合計すると鎌倉(19件)を上回ります。とくに近世の擬古文(草縁集『草縁集』2024年本試、『うつせ貝』2004年本試など)は、平安風の文体に新しい語彙が混ざるため、平安の文章より読みにくいことすらあります。
Q. 出典の予想はできますか。 A. できません。国強塾は予想をしません。97件の内訳は86作品で、そのうち79作品は一度きりの登場です。9割以上が「二度と出ていない本」だということになります。当てにいく戦略が最初から成立しないように設計された試験です。
関連ページ
- 源氏物語 — 全出典の「型の原本」。擬古物語対策はここから始まります
- 在明の別(有明の別れ) — 2025年本試の出典。男装の姫君と、呼称が切り替わる読みにくさ
- 山路の露 — 2021年本試第2日程。『源氏物語』宇治十帖の続編としての読み方
- 松浦宮物語 — 1997年本試。無名作路線への転換点となった作品
- うつほ物語 — 2026年本試〔蔵開・上〕。古い語法と注への依存
- 俊頼髄脳 — 2023年本試。歌論という「読み方の説明書」ジャンル
- 増鏡 / とはずがたり — 2022年本試。同じ宮廷を外から/内から書いた二本
- 草縁集 — 2024年本試。近世擬古文の読みにくさの正体
- 正徹物語 — 2026年追試。追試に多い歌論の代表
- 今昔物語集 — 説話の型。1997年国語Ⅰ本試・2016年本試
- とりかへばや物語 / 狭衣物語 — 作り物語の主要2作
- 蜻蛉日記 — 2022年追試。一人称の心理と贈答歌
データの出所と、確度の限界
このページの出典データは、国強塾が管理する exam_evidence.csv(全793件の実出典データベース)から、大学入試センター実施分97件を抽出したものです。各行には出所の区分を記録しています。
出所の内訳
- 大学入試センター公表資料および複数ソース一致(3ソース)— 63件 — センター試験本体の1990〜2017年(56件)と、共通テスト2021〜2022年(7件)です。東進WIKI・国語入試資料@ウィキ・受験生向け出典一覧サイトの3ソースで記述が一致しました。この区分が最も確度が高いと考えています。
- 2ソース一致 — 18件 — 旧「国語Ⅰ」1997〜2005年の全件。受験生向け出典一覧サイトと学習塾公開資料の2ソース一致です。国語Ⅰは公表・保存されている二次資料が少なく、センター本体より確認の厚みが薄いことを明記しておきます。
- 受験指導機関の解答速報による個別確認 — 10件 — 共通テスト2023〜2026年です。敬天塾および河合塾の解答速報・分析記事で個別に確認しました。
- 単一ソース(要再確認)— 6件 — 2018年・2019年・2020年の本試・追試は、現時点で東進WIKI由来の単一ソースです。
確度についての注記:上記4の6件は、単一の二次資料に依拠しています。作品名の表記ゆれ(例:「鳥辺山物語/鳥部山物語」「うつほ物語/宇津保物語」)も含め、大学入試センターの公表する一次資料での再確認が望ましいというのが国強塾の見解です。追試験は本試験に比べて問題冊子の公開・保存が限られており、二次情報に頼らざるを得ない年があります。本ページに誤りを発見された方はご指摘いただければ、確認のうえ修正し更新日を改めます。
本試・追試の区別について:センター試験および共通テストの本試/追試(2021年の第1日程・第2日程・特例追試を含む)の別は、国強塾の作品マスタに作品ごとの実績として記録されている値をそのまま用いています。一方、旧「国語Ⅰ」18件の本試/追試の別はマスタに未記録で、上記2の二次資料の記載に拠ります。この18件については、本試・追試の振り分けの確度が他より一段低いものとしてお読みください。
なお、ジャンル・成立時期・作者の記述は、国強塾の作品マスタ(395作品)に基づきます。『在明の別』は「有明の別れ」の表記でも扱われる同一作品です。「中世」「江戸中期」等の時代区分は、作品の成立時期についての一般的な見解を採っており、諸説あるものについては代表的な説を示しています(例:『松浦宮物語』の藤原定家説、『今鏡』の藤原為経説、『浜松中納言物語』の菅原孝標女説)。
本ページは古文原文を引用していません。原文を扱う各作品ページでは、パブリックドメインの本文のみを、出所を明記して用いています。
監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ
監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ
本記事の現代語訳・解説は国強塾のオリジナルです。学校の課題・定期テストでは、担任の先生・担当講師の指示を優先してください。