古文で最も割に合う勉強は、有名作品を一つ増やすことではありません。「聞いたこともない題名の物語を、初見で読み切る力」を作ることです。そして、その力を試すために大学入試センターが四半世紀以上にわたって使い続けてきたジャンルが、擬古物語です(国強塾のデータで確認できる最も古いセンター出題は1997年です)。
国強塾が管理する実出典データベース(全793件)から、大学入試センター実施分(センター試験・共通テスト・旧「国語Ⅰ」)97件を抜き出してジャンル別に数えると、こうなります。
| ジャンル | 件数 |
|---|---|
| 擬古物語 | 23 |
| 作り物語(『源氏物語』『うつほ物語』など平安期) | 13 |
| 歴史物語 | 7 |
| 歌論 | 6 |
| 随筆 | 6 |
| 日記 | 5 |
| 軍記 | 4 |
| 御伽草子 | 3 |
| 仮名草子 | 3 |
| 説話 | 3 |
| その他(物語・紀行・私家集・仏教説話ほか) | 24 |
単独ジャンルとして最多です。しかも作り物語(13件)を足すと36件、全体の約4割が「王朝物語の文体で書かれた恋の物語」で占められています。この帯を読めるようにしておくことが、共通テスト古文で最も効率のよい投資だというのが、国強塾の結論です。
この記事で分かること
- 擬古物語とは何か。『源氏物語』以後に書かれた物語群が、なぜ入試に選ばれ続けるのか
- 擬古物語に共通する四段構造「垣間見 → 懸想 → 和歌の贈答 → 障害」と、各段で必ず出る語彙・敬語
- 実際の出題作(『小夜衣』『山路の露』『在明の別』『苔の衣』ほか)で、その型がどう現れているか
- 初見の擬古物語を、注釈だけを頼りに読み切る5つの手順
- センター試験・共通テストと国公立・私大での実出題年度(データにある43件を年度降順で全掲載)
- 呼称が切り替わる場所が設問になるという、擬古物語に固有の実戦知識
1. 擬古物語とは何か
📖 大切な定義
大切な定義:擬古物語とは、『源氏物語』をはじめとする平安時代の作り物語の文体と主題を、鎌倉時代以降の作者が意識的に模倣して書いた物語群である。
「擬古」は「古(いにしえ)に擬(なぞら)える」という意味です。何になぞらえたのかといえば、ほぼ一点、『源氏物語』です。平安中期に書かれた『源氏物語』は、その後の日本語の物語にとって手本そのものになりました。鎌倉時代の作者たちは、自分の時代の言葉ではなく、二百年前の平安貴族の言葉づかいで、平安貴族の恋の話を書いた。それが擬古物語です。
ここが重要なところで、成立は中世(鎌倉・南北朝・室町)なのに、文体と世界は平安なのです。中世の物語なのに武士も戦もほとんど出てこず、出てくるのは大将・中納言・宮・姫君・女房です。だから軍記物語(『平家物語』など)の漢文訓読調とはまったく違う顔をしています。
作者が「未詳」なのは偶然ではない
国強塾の作品マスタで擬古物語に分類される作品を見ると、作者欄はほとんどが「未詳」です。名前が残っているのは『松浦宮物語』の藤原定家説くらいで、あとは中世の無名の作者たちの作品です。
これには理由があります。擬古物語は「新しいものを書く」ジャンルではなく、「手本どおりに書く」ジャンルだったからです。誰が書いたかより、『源氏』らしく書けているかが価値でした。結果として、作者名が失われても作品だけが写本で伝わり、近代以降に翻刻されて、いま入試に出ています。
💡 ポイント
ポイント:作者未詳ということは、受験生が作者の人生や成立事情を知っていても得にならないということです。擬古物語の設問は、背景知識ではなく本文だけで解けるように作られています。だから「知らない作品だ」と焦る必要が、原理的にありません。
江戸時代の擬古物語(近世擬古物語)
もう一つ、混同しやすいものがあります。江戸時代にも、国学者や文人が平安の文体を模して物語を書きました。国強塾のデータでは、2004年センター本試の『うつせ貝』(中島広足)、2003年センター本試の『五葉』(荒木田麗女)、2006年センター追試の『竺志船物語』(村田春海)、2020年センター追試の『桃の園生』、2025年早稲田大学の『手枕』(本居宣長)が該当します。
📖 大切な定義
大切な定義:近世擬古物語とは、江戸時代の国学者や文人が平安の文体を模して書いた物語であり、文体は平安風でありながら語彙や発想に近世のものが混じる。
👀 ここに注目
ここに注目:中世の擬古物語より、近世の擬古物語のほうが読みにくいことがあります。 平安風を狙って書いているぶん語法は古めかしいのに、そこに江戸の語彙や、国学者らしい理屈っぽい説明が混ざるからです。中世擬古物語で「平安の型」を体に入れておくと、この違和感を「近世だから」と処理できるようになります。
2. なぜ入試はこのジャンルを選び続けるのか
センター試験・共通テストで擬古物語が23件も選ばれてきたのは、偶然ではありません。国強塾は、出題者側の条件を満たすジャンルがここしかないからだと見ています。以下は国強塾の見立てです。
理由1:確実に初見にできる。 教科書や副教材に載る古文は、『源氏物語』『枕草子』『徒然草』『伊勢物語』『平家物語』にほぼ限られます。『恋路ゆかしき大将』や『松陰中納言物語』を授業で読んだ受験生は、まずいません。「習ったかどうか」で差がつかない素材が必要な試験にとって、これは決定的な条件です。
理由2:初見でも読める。 初見であればいいなら、上代の作品でも難解な歌論でもよいはずです。しかしそれでは読めません。擬古物語は、『源氏物語』の型の反復でできています。型を知っている受験生には読め、知らない受験生には読めない。これは「知識の暗記量」ではなく「読解の技術」を測るという入試の目的に、正確に合致します。
理由3:文法・語彙が標準的。 中世成立でも文体は平安をなぞっているので、助動詞も敬語も、学校で習う体系がそのまま通用します。「き・けり」「なり・たり」「る・らる」「たまふ・きこゆ・はべり」で処理できる。設問を作りやすいわけです。
理由4:場面が切り出しやすい。 擬古物語は長大な『源氏』と違い、短編・中編が多い。試験問題1ページ半に収まる、完結した一場面を取り出しやすいという実務上の利点があります。国強塾の作品マスタが『しのびね』について「短編的で出題しやすい」と記録しているのは、この事情です。
理由5:人物が官職名で書かれる。 これが最大の理由かもしれません。擬古物語の人物は、固有名詞ではなく「大将」「中納言」「姫君」「女君」「上」といった呼称で書かれます。主語が省略され、呼称が場面ごとに変わる。ここに設問が作れます。詳しくは第7節で扱います。
💡 ポイント
ポイント:予備校が「擬古物語対策」を強調するのは、ヤマを張れという意味ではありません。同じ作品が二度出る可能性はきわめて低いからです。実際、下の一覧で二度以上登場する作品は、『松浦宮物語』(4回)、『石清水物語』『別本八重葎』『しのびね』『在明の別』(各3回)、『苔の衣』『しぐれ』『山路の露』『木幡の時雨』(各2回)だけで、しかもその多くは「センターで出た年と大学で出た年が別」というかたちです。なお『木草物語』も名前だけは2回出ていますが、2017年センター本試は中世の作品、2026年京都大学は近世の同名別作品で、同じ作品の再出題ではありません。作品を覚えるのではなく、型を覚えてください。
3. 擬古物語の四段構造
ここからが本題です。擬古物語の本文は、ほぼ例外なく次の四つの段階のどこかを切り取っています。
📖 大切な定義
大切な定義:擬古物語の四段構造とは、「垣間見 → 懸想 → 和歌の贈答 → 障害」という順序で恋の一巡が進む物語の型である(国強塾の呼称)。
第1段:垣間見(かいまみ)— 恋が始まる
📖 大切な定義
大切な定義:垣間見とは、男君が垣・簾・几帳などの隔てを通して女君の姿を見てしまう場面のことであり、王朝物語では恋の始まりを告げる定型の場面である。
当時、貴族の女性は家族以外の男性に姿を見せません。だから「見えてしまった」こと自体が事件です。物語はここから動きます。
この段に出る語:垣間見る/のぞく/立ち聞く/透垣(すいがい)/簀子(すのこ)/簾(すだれ)/几帳/御簾(みす)/隙(ひま)/あな(感動詞)/めづらし/らうたし/なまめかし/匂ひやかなり
読み方:見ている側が男君、見られている側が女君です。視点の主が誰かを最初に確定すること。「見ゆ」(自然と見える・見られる)と「見る」(意志的に見る)の使い分けが、そのまま誰の視点かを教えてくれます。
第2段:懸想(けそう)— 思いを寄せる
男君が女君を忘れられなくなり、手紙を出す段です。ここには必ず取次ぎの人物(乳母・女房・侍女)が挟まります。当時、男君が女君に直接話しかけることはできないからです。
この段に出る語:けさう(懸想)/心にかかる/思ひわづらふ/忘れがたし/言ひ寄る/御文(おんふみ)/消息(せうそこ)/人づて/乳母(めのと)/御達(ごたち)/うちつけなり(=突然で不躾だ)
👀 ここに注目
ここに注目:取次ぎの人物を「その他大勢」として読み飛ばすと、主語が必ず崩れます。 「〜と聞こゆ」の主語は多くの場合、男君ではなく女房です。女房は男君に対しては謙譲、女君に対しても謙譲を使うので、敬語だけでは決まりません。「誰が誰に伝えているのか」を人物カードに書き込みながら読むのが唯一の対処法です。
第3段:和歌の贈答 — 関係が言語化される
擬古物語の設問がもっとも集中するのがここです。和歌が贈られ、返歌が返る。あるいは返らない。この一往復に、二人の関係の現在地がすべて出ます。
この段に出る語:奉る/聞こゆ/たてまつる/返し/御返り/かへし聞こゆ/とばかりありて/筆をとる/うち泣く
読み方の原則:
- 贈歌の直前3行に「誰が・何を受けて」詠んだかが必ず書いてある。
- 「返し」「御返り」と書かれていれば、直前に歌を受け取った人物が詠者。
- 返歌がない・遅い・短いことは、拒絶や躊躇の表現である。
- 代詠(女房が女君に代わって詠む)がありうる。「〜に代はりて」「〜がもとより」の一語で詠者が変わります。
💡 ポイント
ポイント:和歌の掛詞や縁語を先に探してはいけません。順序は逆です。まず散文で「誰から誰へ、何の返事か」を確定してから、歌を読む。 関係が分かっていれば、掛詞は自然に見えてきます。「松=待つ」「秋=飽き」「露/涙」「煙/火」「藻塩/思ひ」といった定番も、文脈が決まってはじめて機能します。
第4段:障害 — 恋が成就しない
そして擬古物語は、ほぼ確実にうまくいきません。障害の型は三つです。
| 障害の型 | 典型的な語 | 場面の帰結 |
|---|---|---|
| 身分差 | 数ならぬ身/はしたなし/人並みならず/かたじけなし/御ゆるし | 結婚できない/正妻になれない/親が許さない |
| 出家 | かたち(御ぐし)をおろす/様(さま)変ふ/世を背く/世を厭ふ/法師になる/尼になる/入道 | 女君が世を捨て、恋が終わる |
| 死別 | はかなくなる/むなしくなる/消え失せ/露/煙/後の世/野辺の送り | 一方が死に、残された側が回想する |
👀 ここに注目
ここに注目:「露」と「煙」が出てきたら、死または無常の場面である可能性が非常に高い。 露は消えやすいもの、煙は火葬の煙です。和歌にこの語があれば、その和歌は追悼か、死の予感を詠んでいます。国強塾の作品マスタが『苔の衣』を「出家譚」、『松陰中納言物語』『しぐれ』を「源氏型の恋と出家」と記録しているのは、この第4段が作品全体の主題になっている例です。
4. 実出題作で型を確認する
ここからは、実際に出題された擬古物語を、型に照らして見ていきます。作品の性格については、国強塾の作品マスタに記録のあるものだけを記します。記録のない作品について物語の内容を推測で補うことはしません。
4-1. 型がそのまま出る「王道」の作品群
| 作品 | マスタの記録 | 主な出題 |
|---|---|---|
| 苔の衣『苔の衣』 | 出家譚 | 2016 センター追試/2012 京都大学(理系) |
| 松陰中納言物語『松陰中納言物語』 | 源氏型の恋と出家 | 2013 センター本試 |
| 『しぐれ』 | 源氏型の恋と出家 | 2015 センター追試/2001 センター国語Ⅰ本試 |
| 『海人の刈藻』 | 『源氏』型の恋愛譚 | 2017 センター追試 |
| 『しら露』 | 源氏型の恋 | 2004 センター追試 |
| 『風につれなき』 | 源氏型の恋物語 | 2000 センター追試 |
| 別本八重葎『別本八重葎』 | 源氏型の恋。異本の系統 | 2026 九州大学(文学部)/2012 広島大学/2011 お茶の水女子大学 |
| 『いはでしのぶ』 | 秘密の恋 | 2011 センター追試 |
| しのびね『しのびね』 | 短編的で出題しやすい | 2010 北海道大学(文系)/2004 同志社大学(法)/2003 京都大学(前期) |
この9作品は、四段構造がそのまま当てはまります。とくに『苔の衣』『松陰中納言物語』『しぐれ』は、第4段の「出家」が作品の核です。女君が髪を下ろす場面が来たら、その直後に必ず男君の慟哭と和歌が来ると予測して読んでよい。
4-2. 記録が「出題実績のみ」の作品群
国強塾のデータでは、次の作品は出題年度は確定しているものの、内容についての記録欄が空です。
| 作品 | 出題 |
|---|---|
| 小夜衣『小夜衣』 | 2020 センター本試 |
| 『木草物語』(中世) | 2017 センター本試 |
| 『夢の通ひ路物語』 | 2015 センター本試 |
| 『恋路ゆかしき大将』 | 2010 センター本試 |
| 兵部卿物語『兵部卿物語』 | 2007 センター本試 |
内容を知らなくても構いません、というのがこの記事の主張です。この5作品はすべてセンター本試の出典であり、受験生は全員、初見でこれを読み切ることを求められました。四段構造と、第6節の読解手順があれば足ります。作品名を暗記しても一点にもなりませんが、型は毎年使えます。
4-3. 型が変奏される4つのパターン
型どおりでない作品もあります。しかし「型のどこが崩れているか」を見れば、その作品の勘所が分かります。これも国強塾の作品マスタに記録のあるものだけを挙げます。
変奏A:補作・続編型 山路の露『山路の露』は、マスタに「『源氏』宇治十帖の続編。浮舟の後日談」と記録があります。『雲隠六帖』は「源氏の補作。雲隠巻を補う」、本居宣長の『手枕』は「『源氏』六条御息所の物語を宣長が補作」。『源氏物語』の空白を埋めるという発想の作品群です。2021年共通テスト本試第2日程で『山路の露』が出たとき、源氏物語『源氏物語』の宇治十帖を知っている受験生が有利だったのは間違いありません。
変奏B:異性装型 在明の別(有明の別れ)『在明の別(有明の別れ)』は、マスタに「男装の姫君。呼称の切り替わり」と記録があります。2025年共通テスト本試の出典で、このときは『源氏物語』(若菜)と併用されました。女君が男君として振る舞うため、呼称と敬語が通常の型から外れます。同じ発想の作品に、平安末成立のとりかへばや物語『とりかへばや物語』があります。
変奏C:舞台移動型 松浦宮物語『松浦宮物語』(藤原定家説)は、マスタに「唐土が舞台、漢文的発想」と記録があります。日本の邸宅ではなく中国が舞台になるため、垣間見の場面設定そのものが変わります。1997年センター本試のほか、2007年名古屋大学、2006年南山大学、2005年関西学院大学(文)で出題されています。
変奏D:身分移動型 石清水物語『石清水物語』は、マスタに「武士を主人公にした王朝物語」と記録があります。貴族の恋の型に武士を入れるという中世的な変形です。2023年共通テスト追試、2019年早稲田大学(法ほか)、2008年京都大学(文系)と、繰り返し選ばれています。
そして『我が身にたどる姫君』(2006年東北大学・文系)は「複雑な人物関係」とだけ記録があります。人物が多すぎて呼称の追跡が難しいタイプで、第6節の手順がそのまま試される作品です。
5. センター試験・共通テスト・大学別の実出題一覧
国強塾の実出典データベース(793件)から、擬古物語に分類される出題を全件、年度降順で掲載します。データにある事実のみです。
5-1. 大学入試センター実施分(23件)
| 年度 | 区分 | 作品 |
|---|---|---|
| 2025 | 共通テスト 本試 | 『在明の別』(『源氏物語』と併用) |
| 2023 | 共通テスト 追試 | 『石清水物語』 |
| 2021 | 共通テスト 本試第2日程 | 『山路の露』 |
| 2020 | センター 本試 | 『小夜衣』 |
| 2020 | センター 追試 | 『桃の園生』(江戸期) |
| 2017 | センター 本試 | 『木草物語』(中世) |
| 2017 | センター 追試 | 『海人の刈藻』 |
| 2016 | センター 追試 | 『苔の衣』 |
| 2015 | センター 本試 | 『夢の通ひ路物語』 |
| 2015 | センター 追試 | 『しぐれ』 |
| 2013 | センター 本試 | 『松陰中納言物語』 |
| 2011 | センター 追試 | 『いはでしのぶ』 |
| 2010 | センター 本試 | 『恋路ゆかしき大将』 |
| 2008 | センター 追試 | 『雲隠六帖』(室町) |
| 2007 | センター 本試 | 『兵部卿物語』 |
| 2006 | センター 追試 | 『竺志船物語』/村田春海(江戸後期) |
| 2004 | センター 本試 | 『うつせ貝』/中島広足(江戸後期) |
| 2004 | センター 追試 | 『しら露』 |
| 2004 | センター(国語Ⅰ) 本試 | 『木幡の時雨』 |
| 2003 | センター 本試 | 『五葉』/荒木田麗女(江戸中期) |
| 2001 | センター(国語Ⅰ) 本試 | 『しぐれ』 |
| 2000 | センター 追試 | 『風につれなき』 |
| 1997 | センター 本試 | 『松浦宮物語』/藤原定家説 |
👀 ここに注目
ここに注目:内訳は本試10件・追試10件・本試第2日程1件・旧「国語Ⅰ」本試2件です。 本試と追試が同数、つまり擬古物語は追試験でも本試と変わらない厚さで使われてきました。過去問演習を本試だけで済ませている受験生は、このジャンルの練習量が半分になっているということです。追試を回してください。→ kyotsu-kobun-shutten
5-2. 国公立大学・私立大学(20件)
| 年度 | 大学(学部) | 作品 |
|---|---|---|
| 2026 | 九州大学(文学部) | 『別本八重葎』 |
| 2026 | 京都大学(文系) | 『木草物語』/宮部万女 ※近世擬古物語。中世の同名作とは別 |
| 2025 | 早稲田大学(教育ほか) | 『手枕』/本居宣長 |
| 2019 | 早稲田大学(法ほか) | 『石清水物語』 |
| 2017 | お茶の水女子大学 | 『山路の露』 |
| 2016 | 東京大学(文科・理科共通) | 『あさぎり』 ※『あきぎり』とは別作品 |
| 2016 | 九州大学(共通) | 『在明の別』 |
| 2012 | 広島大学 | 『別本八重葎』 |
| 2012 | 京都大学(理系) | 『苔の衣』 |
| 2011 | お茶の水女子大学 | 『別本八重葎』 |
| 2010 | 北海道大学(文系) | 『しのびね』 ※「しのびね物語」表記 |
| 2008 | 京都大学(文系) | 『石清水物語』 |
| 2007 | 名古屋大学(文系・理系共通) | 『松浦宮物語』 |
| 2006 | 立教大学(文) | 『在明の別』 |
| 2006 | 東北大学(文系) | 『我が身にたどる姫君』 |
| 2006 | 南山大学 | 『松浦宮物語』 |
| 2005 | 早稲田大学(第一文) | 『木幡の時雨』 |
| 2005 | 関西学院大学(文) | 『松浦宮物語』 |
| 2004 | 同志社大学(法) | 『しのびね』 |
| 2003 | 京都大学(前期) | 『しのびね』 |
(早稲田大学の2019年『石清水物語』・2025年『手枕』、九州大学の2016年、立教大学の2006年は、学部無記載の記録と学部記載の記録が別行になっているため、上表ではそれぞれ1件に統合して示しています。データベース上の行数は24行、統合後は20件です。)
💡 ポイント
ポイント:京都大学が4回(2026・2012・2008・2003)と、センター以外では最多です。 京大の古文は長文一題の記述式で、傍線部の主語と心情を自分の言葉で書かせます。呼称と敬語で人物関係を確定する擬古物語は、京大の設問形式と相性が良い。次いで早稲田大学が3回(2025・2019・2005)、お茶の水女子大学と九州大学が各2回です。→ kyodai-kobun
6. 初見の擬古物語を読む5つの手順
ここが本記事の中心です。内容を知らない物語を、20分で読み切って解くための手順を示します。
手順0:リード文と注を「本文の一部」として読む(30秒)
擬古物語の問題には必ずリード文(前書き)が付きます。ここに登場人物・関係・場面が書いてあります。注は、出題者が「これがないと読めない」と判断した情報です。 注に人名や官職が出てきたら、それは本文で必ず主語になります。
手順1:人物を「呼称」で束ねる(2分)
📖 大切な定義
大切な定義:呼称とは、王朝物語で登場人物を固有名ではなく官職・住居・続柄・状況によって指す言い方であり、人物の身分と場面が変われば同じ人物でも呼び方が変わる。
本文を通読する前に、呼称を見つけたら丸で囲み、余白に人物カードを作ります。カードは3行で足ります。
“ ①中将(=男君) … 二条の家、宮の甥 ②姫君 → 上(かみ) … ①の思い人、大納言の娘 ③乳母 … ②の取次ぎ “
呼称は次の4系統に整理できます。
| 系統 | 例 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 官職 | 中将・中納言・大将・大納言・兵部卿・宮 | 男性の身分と、その高低 |
| 住居・方角 | 対の上・北の方・東の御方・二条の君 | 女性の住まいと、正妻か否か |
| 続柄 | 姫君・若君・母君・御子 | 家族内の位置 |
| 状況 | 女君・男君・尼君・法師・老人 | 現在の立場(出家後か否か) |
手順2:敬語の高さで身分の階段を作る(2分)
📖 大切な定義
大切な定義:二方面敬語とは、一つの動作について、その動作の受け手に対する謙譲語と、動作の主体に対する尊敬語を重ねて用いる敬語法である。
擬古物語では、敬語の高さがそのまま身分の高さです。三段に分けるだけで十分機能します。
| 段 | 使われる敬語 | 該当する人物 |
|---|---|---|
| 最上段 | 二重尊敬(せたまふ・させたまふ・おはします)、最高敬語 | 帝・院・后・宮 |
| 中段 | たまふ・おはす・のたまふ/受け手として「聞こゆ」「奉る」を受ける | 大臣・大将・中納言・姫君 |
| 下段 | 敬語が付かない/自分が「聞こゆ」「侍り」を使う | 女房・乳母・従者 |
使い方はこうです。 主語のない一文が出てきたら、その文の敬語の段を見る。「せたまふ」なら最上段の人物、敬語ゼロなら下段の人物。これで候補が3分の1に絞れます。次に「聞こゆ」(謙譲)があれば、その動作の受け手が主語より上だと分かる。この2手で、擬古物語の主語判定はほぼ片付きます。
手順3:和歌の贈答で関係線を引く(3分)
人物カードの間に、和歌のやりとりを矢印で書き込みます。
“ ①中将 ──贈歌→ ②姫君 ①中将 ←返し── ②姫君(乳母を介して) “
返歌が返っていれば関係は成立、返っていなければ拒絶か躊躇。 これだけで物語の現在地が決まります。返歌がない場合、その理由(身分差・親の反対・出家の決意)が直後に書かれているはずで、そこが設問になります。
手順4:第4段の語を探す(2分)
本文の後半に「かたち変ふ」「様変ふ」「世を背く」「御ぐしおろす」「はかなくなる」「露」「煙」があれば、そこが結末です。障害の型(身分差/出家/死別)を確定してから設問に行くと、心情説明問題の選択肢が一気に切れます。
手順5:設問に戻る
ここまでで9分前後。残り時間で設問を処理します。傍線部は、手順1〜4で書き込んだ場所にほぼ重なっているはずです。重なっていなければ、どこかで読み違えています。
7. 呼称が変わる場所が設問になる
擬古物語に固有の、最も実戦的な知識がこれです。
👀 ここに注目
ここに注目:同じ人物の呼び方が本文の途中で変わったら、そこは必ず設問になります。 呼称が変わるということは、その人物の身分・立場・状況が変わったということだからです。
呼称が変わるのは、次の5つの場面です。
| 変化のパターン | 呼称の例 | 本文で起きたこと |
|---|---|---|
| 昇進 | 中将 → 中納言 → 大将 | 時間が経過し、男君が官位を上げた |
| 結婚・移住 | 姫君 → 上・北の方・対の上 | 女君が正妻格として迎えられた |
| 出家 | 女君 → 尼君/中納言 → 入道 | 世を捨てた(=恋の終わり) |
| 視点の移動 | 大将 → 男君/父大臣 → 殿 | 語り手が寄り添う人物が変わった |
| 死 | 上 → 故上・亡き人 | 死別した |
なぜこれが設問になるのか。 選択肢問題では、「Aは中将である」と「Aは大納言である」を並べて、本文のどの時点の話かを問えます。記述問題では「傍線部の『上』とは誰を指すか」と直接聞けます。つまり、呼称の追跡ができているかどうかが、そのまま得点になる設計です。
国強塾の作品マスタが『在明の別』の読解キーとして「男装の姫君。呼称の切り替わり」と記録しているのは、まさにこの点です。2025年共通テスト本試でこの作品が『源氏物語』と併用されたとき、二つの本文にまたがって人物を追跡する必要がありました。
💡 ポイント
ポイント:演習のときは、呼称が変わった行に必ず線を引き、余白に「=①(昇進)」と書き込む習慣をつけてください。読み終わってから見返すと、線を引いた場所と傍線部の位置がほとんど一致していることに気づくはずです。それが分かった瞬間から、擬古物語は「怖い初見文」ではなく「型の確認作業」になります。
8. 国強塾の読み方 — 擬古物語をどう鍛えるか
抽象論ではなく、実際にやることを書きます。8週間で擬古物語を得点源にする手順です。
第1〜2週:型の原本を1冊分だけ入れる。 源氏物語『源氏物語』の有名巻(桐壺・若紫・葵・夕霧・宇治十帖のいずれか)を、現代語訳で構いませんので通しで読みます。目的は内容の暗記ではなく、四段構造を体で覚えることです。「垣間見の場面はこういう書き出しか」「出家の場面はこういう語彙か」を1回体験しておけば、擬古物語は全部その反復として読めます。
第3〜4週:センター追試を「擬古物語だけ」抜き出して連続で解く。 上の一覧表から、追試の擬古物語(2016『苔の衣』、2015『しぐれ』、2011『いはでしのぶ』、2008『雲隠六帖』、2004『しら露』、2000『風につれなき』など)を集め、1日1題で回します。連続で解くことに意味があります。3題目あたりで「また出家か」「また取次ぎの女房か」と気づく。その気づきが型の獲得です。
第5〜6週:人物カードと呼称の書き込みを義務化する。 第6節の手順1〜4を、時間を計って必ず実行します。最初は20分かかって構いません。 手順を飛ばして速く解くより、手順を守って遅く解くほうが、8週後に速くなります。本試の擬古物語(2020『小夜衣』、2017『木草物語』、2015『夢の通ひ路物語』、2013『松陰中納言物語』、2010『恋路ゆかしき大将』、2007『兵部卿物語』)をここで使います。
第7週:変奏に当てる。 在明の別(有明の別れ)『在明の別』(2025共テ本試)、石清水物語『石清水物語』(2023共テ追試)、山路の露『山路の露』(2021共テ本試第2日程)の3題を続けて解きます。型が崩れる作品でも、崩れ方に名前がついていれば怖くないことを確認する週です。
第8週:復習を「型カード」に還元する。 解いた作品ごとに、次の一行だけを書き溜めます。
“ 苔の衣(2016センター追試):鎌倉・擬古。出家譚。女君が尼になる直前の逡巡が傍線部。 “
これを15枚作ってください。15枚あれば、初見の擬古物語は3行目で「あの型だ」と分かるようになります。 国強塾が古文で最終的に作らせたいのは、出典の暗記リストではなく、この型カードの束です。
9. よくある質問
Q. 擬古物語は、どの作品を読んでおけばいいですか。 A. 作品を読む必要はありません。 上の一覧43件のうち、二度以上出た作品はごくわずかで、しかも間隔が10年前後あります。読むべきは『源氏物語』1作だけで、あとは過去問を型の練習台として使ってください。
Q. 『源氏物語』を全部読む時間はありません。 A. 全部読む必要はありません。第8節に書いたとおり、有名巻を1つで足ります。四段構造を体験するのが目的だからです。
Q. 中世の作品なのに、なぜ武士や戦が出てこないのですか。 A. それが擬古物語というジャンルの定義だからです。作者たちは自分の時代を書こうとしたのではなく、滅びた平安の宮廷世界を再現しようとしたのです。例外が石清水物語『石清水物語』で、武士を王朝物語の主人公に据えています。
Q. 「作り物語」と「擬古物語」はどう違うのですか。 A. 成立時期です。平安時代に書かれたものが作り物語(源氏物語『源氏物語』、狭衣物語『狭衣物語』、とりかへばや物語『とりかへばや物語』など)、それを手本に鎌倉時代以降に書かれたものが擬古物語です。住吉物語『住吉物語』のように、平安期の原作が鎌倉期に大きく改作された作品もあり、境界は連続的です。
Q. 擬古物語が出たら不利ですか。 A. 逆です。全受験生が初見なので、型を持っている人だけが有利になります。教科書に載っている作品が出たときのほうが、暗記型の受験生と差がつきません。
関連ページ
- 源氏物語 — 型の原本。擬古物語対策はここから始まります
- 山路の露 — 2021年共通テスト本試第2日程。『源氏』宇治十帖の続編という変奏
- 在明の別(有明の別れ) — 2025年共通テスト本試。男装の姫君と呼称の切り替わり
- 石清水物語 — 2023年共通テスト追試ほか。武士を主人公にした王朝物語
- 松浦宮物語 — 1997年センター本試ほか。舞台が唐土に移る変奏
- 苔の衣 — 2016年センター追試/2012年京都大学。出家譚の代表
- しのびね — 京都大学・北海道大学・同志社大学で出題。短編型の擬古物語
- 松陰中納言物語 — 2013年センター本試。恋と出家の四段構造がそのまま出る作品
- 別本八重葎 — 2026年九州大学ほか3回。異本系統という厄介さ
- 兵部卿物語 — 2007年センター本試。内容を知らずに読み切る訓練の題材
- 狭衣物語 / とりかへばや物語 / 住吉物語 — 擬古物語が手本にした平安期の作り物語
- kyotsu-kobun-shutten — 共通テスト・センター試験 古文 出典一覧(全97件)
- kyodai-kobun — 擬古物語をセンター以外で最も多く出している京都大学の古文
- kobun-pillar — 古文の学習全体の設計図
本文・データの出所と、確度の限界
このページの出題データは、国強塾が管理する実出典データベース exam_evidence.csv(全793件)から、作品マスタ kobun_master.csv(395作品)で「擬古物語」に分類される作品の出題を全件抽出したものです(データベース上47行、同一出題の重複記録を統合して43件)。ジャンル・成立時期・作者・読解キーの記述は、同マスタに基づきます。
出所の内訳
- 大学入試センター公表資料および3ソース一致 — センター試験本試・追試の大部分。東進WIKI、国語入試資料@ウィキ(w.atwiki.jp/kobun)、受験生向け出典一覧サイトの3ソースで記述が一致したものです。本ページで最も確度が高い区分です。
- 予備校の解答速報・分析PDFによる個別確認 — 2023〜2026年分。河合塾・代々木ゼミナールの解答速報および分析PDFの「出典」欄で確認しました。2026年京都大学(文系)の『木草物語』が近世擬古物語(宮部万女)であり、2017年センター本試の中世『木草物語』とは別作品であることも、この資料で確認しています。
- 国語入試資料@ウィキの大学別ページ — 国公立・私立大学分の多く。二次資料であり、学部表記の粒度が行ごとに異なります。
- 2ソース一致 — 旧「国語Ⅰ」(2001年『しぐれ』、2004年『木幡の時雨』)。国語Ⅰは公表・保存されている二次資料が乏しく、センター本体より確認の厚みが薄いことを明記します。
- 単一ソース(要再確認) — 2020年センター本試『小夜衣』・追試『桃の園生』は、現時点で東進WIKI由来の単一ソースです。
確度についての注記
- 上記5の区分、および2018〜2022年の追試験全般については、一次資料での再確認が望ましいというのが国強塾の見解です。追試験は問題冊子の公開・保存が限られており、二次情報に頼らざるを得ない年があります。
- データベース上は45件ですが、早稲田大学の2019年『石清水物語』・2025年『手枕』は、学部無記載の行と学部記載の行が別々に記録されており、同一の出題を二重に数えている可能性があります。 本ページの一覧表ではこれを統合して示しました。
- 作品名の表記ゆれがあります。『在明の別』は「有明の別れ」、『しのびね』は「しのびね物語」の表記でも扱われます。『あさぎり』(2016年東京大学)と『あきぎり』は別作品としてマスタに登録しています。
- 「鎌倉」「中世」「江戸中期」等の時代区分は、成立時期についての代表的な見解を採っています。『松浦宮物語』の藤原定家説のように、諸説あるものは説であることを示しました。
- 第1節・第3節・第6節・第7節の「四段構造」「呼称の5パターン」「敬語の三段」は、国強塾が指導のために整理した読解の枠組みであり、学術的な定説として提示するものではありません。作品ごとの内容についての記述は、作品マスタの「読解キー」欄に記録があるものに限っています。記録のない作品について、物語の筋を推測で補うことはしていません。
- 本ページは古文の原文を一切引用していません。 原文を扱う各作品ページでは、パブリックドメインの本文のみを、出所を明記して用いています。
誤りを発見された方はご指摘いただければ、確認のうえ修正し、更新日を改めます。
監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ
監修:藤原進之介(数強塾グループ代表)/執筆:国語専門塾「国強塾」by数強塾グループ
本記事の現代語訳・解説は国強塾のオリジナルです。学校の課題・定期テストでは、担任の先生・担当講師の指示を優先してください。
