中高一貫の数学 / 数学単元ガイド

高1の夏休み課題|三角比を本質から理解する(正弦定理と余弦定理の使い分け・円に内接する四角形)

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中高一貫校の高1に配られる夏休みの数学課題は、2次関数の次に三角比へ進みます。ここで多くの人が同じ壁にぶつかります。公式は3つしかないのに、どれを使えばいいか分からない——正弦定理か、余弦定理か、面積公式か。手が止まるのはいつもその瞬間です。

結論から言うと、使い分けは「いま何が分かっているか」だけで機械的に決まります。センスでも慣れでもありません。この記事では、三角比が何をしている装置なのかという根っこから始めて、定理を選ぶ判断が自動化されるところまで持っていきます。

この記事で身につくこと

  • 三角比が「角度を長さの比に翻訳する装置」だと言葉で説明できる
  • 鈍角の が負になる理由を、図で示せる
  • 正弦定理と余弦定理を、与えられた情報から即座に選べる
  • 円に内接する四角形のような複合問題で、方針を自分で立てられる

1.三角比とは何をする道具なのか

三角比の定義は、直角三角形の辺の比から始まります。しかし高校ではすぐに半径1の円(単位円)を使う定義に切り替わります。なぜでしょうか。

理由ははっきりしています。直角三角形の中には、鈍角が入らないからです。三角形の内角には を超えるものがあり得ますし、実際 の角をもつ三角形は普通に出てきます。直角三角形の比のままでは、そういう角の を定義できません。

単位円による三角比の拡張半径1の円周上の点の x 座標が cos、y 座標が sin。鈍角では x 座標が負になるので cos が負になる。xyO-111P(cos120°, sin120°)sin120° = √3/2cos120° = -1/2120°半径1の半円上の点の座標が、そのまま cos と sin

図1:半径1の円周上に、 軸から測って の位置に点Pをとる。Pの 座標が 座標が 。左側に来るので 座標は負、つまり となる。

三角比の正体

三角比とは、角度という「回転の量」を、長さの比という「計算できる数」に翻訳する装置。

図形の問題は本来、角度と長さという別種類の量が混ざっています。三角比を通すと角度が数に変わるので、図形の問題が方程式の問題になる。これが三角比の存在理由です。

【なぜ だけ負になるのか】三角形の内角は より大きく より小さいので、点Pはつねに上半分の半円にあります。 座標は必ず正なので は正のまま。しかし 座標は、鈍角になると左側に来るので負になります。「鋭角か鈍角かは の符号だけで判定できる」のは、このためです。

2.定理の使い分けは、情報の形で決まる

三角形について使う道具は、実質3つだけです。

道具 扱えるもの
正弦定理 辺と、その向かいの角のペア/外接円の半径
余弦定理 3辺と1つの角
面積公式 2辺とその間の角

選び方は1行で決まる

「辺とその対角」がペアで見えているなら正弦定理。見えていないなら余弦定理。

正弦定理は のように辺と向かいの角がセットでしか使えません。だから「2辺と挟角」のように向かい合っていない情報では手が出ず、そのときは余弦定理の出番になります。逆に「外接円の半径」が出てきたら、それを含む式は正弦定理しかありません。

与えられた情報 使う道具 求まるもの
2辺とその間の角(例: 余弦定理 残りの辺
3辺 余弦定理を について解く
1辺とその対角+もう1つの角 正弦定理 他の辺
外接円の半径 が絡む 正弦定理 辺または
2辺とその間の角で面積 面積公式 面積

3.例題1|2辺と挟角から、すべてを出す

【例題1】

において であるとき、次を求めよ。

(1) 辺  (2) 面積  (3) 外接円の半径

【答えだけ先に】

(1)  (2)  (3)

2辺と挟角から残りの辺を出すb=3, c=5, A=120度 の三角形。余弦定理 a^2 = b^2 + c^2 – 2bc cosA で a を求める。ABCc = 5b = 3a = ?120°2辺とその間の角 → 余弦定理a² = b² + c² – 2bc cos A

図2:、その間の角が 2辺とその間の角という形なので、まず余弦定理を選ぶ。

(1) 辺

与えられているのは「2辺とその間の角」。辺 の対角 も、 の対角 も分かっていないので、正弦定理は使えません。余弦定理一択です。

ここで 符号を落とさないことが最大の注意点です。

より

【なぜ足し算になるのか】 が負なので、全体としてはプラスになります。感覚的にも、間の角が広がるほど向かいの辺は長くなるので、 より大きければ より大きくなる——これは三平方の定理の拡張として自然です。余弦定理は「直角でないときの三平方の定理」だと思ってください。

(2) 面積

2辺とその間の角がそろっているので、面積公式がそのまま使えます。

なので、

【ミスの温床】面積公式は 、余弦定理は は正、 は負なので、取り違えると面積が負になるという起こり得ない答えが出ます。答えが負になったら、まずここを疑ってください。

(3) 外接円の半径

が出てきたら正弦定理です。(1)で が分かり、その対角 も分かっているので、辺と対角のペアが完成しました。

【検算】3辺 がそろったので、逆に余弦定理で を出し直します。。確かに 行きと帰りで一致するかを見るのが、三角比のいちばん確実な検算です。

4.例題2|円に内接する四角形(複合問題の入口)

【例題2】

円に内接する四角形 において、 である。次を求めよ。

(1) と角  (2) 対角線  (3) 四角形 の面積

【答えだけ先に】

(1)  (2)  (3) 面積

円に内接する四角形と対角の関係円に内接する四角形 ABCD。対角の和が180度なので cosC = -cosA となり、対角線 BD を2通りに表して連立できる。ABCD3523BD(共通の辺)60°120°円に内接 → A + C = 180°→ cos C = -cos A

図3:円に内接する四角形。対角線BD(赤い破線)を引くと、三角形ABDと三角形BCDの2つに分かれる。BDは両方に共通——ここが突破口。

方針を立てる

四角形のままでは使える定理がありません。三角形に分けるために対角線を引く——これが最初の一手です。そして引いた瞬間、次の2つが手に入ります。

この問題の2本の柱

柱1:BDは共通の辺。だから2通りに表せて、等式が作れる。
柱2:円に内接する四角形の対角の和は だから となり、

「同じものを2通りに表して等式を作る」——これは数学全体で最も使われる考え方の1つです。ここで体験しておいてください。

(1) を求める

三角形ABDで余弦定理(、間の角が ):

三角形BCDで余弦定理(、間の角が ):

ここで を代入します。

同じ なので、2つを等号で結びます。

より (このとき )。

(2) 対角線 BD

どちらの式に戻しても構いません。

【検算】もう一方の式でも確かめます。一致。2通りで同じ値になることを毎回確認してください。

(3) 面積

四角形の面積は、2つの三角形の面積の和です。

合計して、

【気づいてほしいこと】どちらも で同じ値です。図1に戻ると、 の点は 軸について対称な位置にあるので、 座標(=)が等しい。 という公式は、図から見れば当たり前の事実です。公式として覚えるのではなく、図で思い出せるようにしてください。

5.この単元で落としやすい3か所

ミス1  の値から角を1つに決めてしまう

を満たす角は 2つあります。正弦定理で角を求めたときは、鈍角の可能性が消えているかを必ず確認する。一方 の値からは角が1つに決まるので、角を確定させたいときは を使うのが安全です。

ミス2  の符号を落とす

鈍角の は負。 に負の値を入れると全体はプラスになります。符号を2回間違えて答えが合ってしまうこともあるので、値を代入する前に「この角は鋭角か鈍角か」を口に出す習慣を。

ミス3 どの定理を使うか迷って手が止まる

迷ったら「辺とその対角のペアが見えるか?」だけを見る。見えれば正弦定理、見えなければ余弦定理。判断に5秒以上かけないでください。

6.確認問題(解答つき)

【確認1】

において であるとき、角 、面積 、外接円の半径 を求めよ。

【解答1】

3辺が分かっているので余弦定理を について使います。

よって 。面積は

外接円は正弦定理から より

【確認2】

円に内接する四角形 のとき、、四角形の面積を求めよ。

【解答2】

三角形ABD:

三角形BCD:

等号で結んで より )。

より (検算: で一致)。

面積は

今回は が負になり、 のほうが鈍角でした。図を描く前に符号で判断できるのが の強みです。

7.夏の課題を、入試の得点に変えるために

中高一貫校では高1の夏に三角比を終え、秋以降は図形と計量の応用に進みます。そして大学入試では、三角比は単独ではなくベクトル・図形・三角関数と組み合わさって出題されます。土台がぐらついていると、そこで一気に崩れます。

答えが合っていても、ここで止まったら「まだ理解していない」

  • なぜその定理を選んだのか、与えられた情報の形で説明できるか
  • が負になる意味を、図で示せるか
  • 行きと帰り(辺→角、角→辺)で検算したか

8.「聞ける相手がいない」だけで止まっているなら

三角比は、図が描けないと解けない単元です。そして「どう図を描けばいいか分からない」は、解答を読んでも解決しません。解答には完成した図しか載っていないからです。

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9.よくある質問

Q. 正弦定理と余弦定理、どちらを使うか一瞬で決める方法はありますか?

A. 「辺と、その向かい合う角」がペアで分かっているかだけを見てください。分かっていれば正弦定理、分かっていなければ余弦定理です。外接円の半径が絡む場合は必ず正弦定理になります。

Q. 角を求めるとき、 のどちらを使うべきですか?

A. です。 から の範囲では、 の値が決まれば角が1つに決まります。 だと鋭角と鈍角の2通りが残るため、追加の判断が必要になります。

Q. 円に内接する四角形の問題は、いつも対角線を引くのですか?

A. ほぼいつもです。四角形のままでは定理が使えないので、三角形に分解するのが定石。そのうえで「共通の辺を2通りに表す」と「対角の和が 」の2本柱で式を作ります。

Q. 夏休みの課題が三角比まで終わりません。間に合いますか?

A. 間に合います。三角比は2次関数と違い、使い分けの判断さえ固まれば一気に進む単元です。止まっている原因が定理の選択なら、修正は1回の授業で済むことも多いです。

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この記事を書いた人

藤原 進之介(ふじわら しんのすけ)/オンライン数学専門塾「数強塾」代表

中高一貫校生を中心に、累計3,500名以上を指導。東進ハイスクール・東進衛星予備校・代々木ゼミナールなど出講実績あり。自身も高校時代は数学が苦手で2浪を経験し、「なぜそうするのか」から積み上げ直した経験を指導の原点にしている。数強塾グループでは学生アルバイトを採用せず、プロ講師のみで完全1対1のオンライン指導を行っている。

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