2005年(平成17年度)京都大学の入試数学は、文系と理系の両方で 第4問 にほとんど同じ顔の整数問題を置きました。文系は 、理系は 。どちらも「整数の組をすべて求めよ」の一行問題です。
この問題は、素直に解くと8通りの連立方程式が出てきます。標準的な解答は、そこから符号と3の倍数を使って場合を減らしていきます。この記事では、数強塾の独自研究として、たった1つの恒等式で符号・サイズ・3の剰余を同時に片付けてしまう整理の仕方を示します。結論だけ先に言うと、8通りの場合分けは実質1通りまで落ち、同じ道具が理系の にも、その他の にもそのまま効きます。
この記事の着想元
数強塾のプロ講師である由依先生(X:@yui_mymelodyy)が2026年8月1日に投稿された、この問題の手書き解法メモに着想を得ています。「8個の連立方程式を全部解いた」という思い出話から、符号で絞る/3の倍数で絞るという2つの絞り込みが提示されていました。本記事はその絞り込みをさらに押し進め、1本の恒等式に統合できないかを検討したものです。
問題文は京都大学が公表した入試問題を、解説のために引用しています。解答・解説は数強塾が独自に作成したもので、大学公表の正解ではありません。
整数問題の解き方を、体系から知りたい方へ
この記事は1問の深掘りです。整数問題全体の解き方(積の形にする・余りで分類する・不等式で絞るの3方針と、その選び方)は、次のシリーズにまとめました。本記事はその3つすべてを使う実戦例にあたります。
1.問題 ―― 文系と理系が、同じ形で出題された
【問題】2005年 京都大学 文系数学 第4問(30点)
を満たす整数の組 をすべて求めよ。
【問題】2005年 京都大学 理系数学 第4問(35点)
を満たす整数の組 をすべて求めよ。
同じ年の、同じ番号に、同じ形。違うのは右辺の数だけです。ところが答えの個数は文系が2組、理系が4組と食い違います。この差がどこから来るのかも、記事の後半で説明します。
【解答】
文系():
理系():
2.素直に解くと、なぜ8通りになるのか
整数問題の基本方針は3つ。因数分解する・余りで分類する・不等式で絞る。この問題は左辺がきれいに因数分解できるので、まず1つ目を選びます。
整数どうしの積が なので、 は の約数です。 なので、負も含めた約数は
の 8個
したがって、次の8通りの連立方程式が生まれます。
| 番号 | 番号 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| (1) | (5) | ||||
| (2) | (6) | ||||
| (3) | (7) | ||||
| (4) | (8) |
2元2次の連立方程式が8組。全部解けば必ず答えは出ますが、試験時間を考えると現実的ではありません。京大がこの一行問題に30点を配ったのは、8通りを解く計算力ではなく、8通りを減らす発想を見たかったからだと考えるのが自然です。
3.標準的な解答が使う「2本のナイフ」
ナイフ1:符号 ―― は負にならない
を について平方完成します。
2乗の和なので、実数 に対してつねに0以上です。上の表で右側の列((5)〜(8))は が負なので、これで4通りが一瞬で消えます。
ナイフ2:3の倍数 ―― が整数であること
もう1つ、次の変形が使えます。
つまり と の差は、必ず の倍数です。これを各ケースで確かめると、
| ケース | 差 | 判定 | ||
|---|---|---|---|---|
| (1) | は3の倍数でない → 消える | |||
| (2) | 。生き残る | |||
| (3) | 3の倍数でない → 消える | |||
| (4) | 。生き残る |
ここまでで残りは(2)と(4)。(2)は から となり 。これが答えです。
問題は(4)です。 かつ 。ここから先が地味に重い。 の約数の組を調べるか、 を代入して の判別式 を計算するか。どちらにせよ、4桁の計算が1回入ります。
ここまでの整理
符号のナイフは(5)〜(8)を、3の倍数のナイフは(1)(3)を落とす。残った(2)(4)のうち(4)だけが、最後まで手計算を要求してくる。
では、(4)を計算せずに落とす道具はないのか。これが本記事の出発点です。
4.【本題】1本の恒等式で、符号もサイズも同時に片付く
結論から書きます。次の恒等式が、この問題のすべてを引き受けます。
立方差の恒等式
右辺を展開すれば、そのまま確かめられます。
実際に展開してみます。
足すと と の項が打ち消し合って、。確かに成立します。
2つの文字を置き換える
ここで と を新しい文字にします。
、、
すると恒等式はこうなります。
この記事の主役
逆に が決まれば で元に戻せます( と の偶奇が一致するときに限り、 は整数)。
この1本の式から、必要な情報が3つとも自動的に出てきます。
系1(符号): である
と書き直します。 であり、 なので左辺は正。したがって 、すなわち が確定します。
【ここが効いている】平方完成をして「 だから4通り消える」と論じるのと同じことを、この式は置き換えた瞬間に済ませています。負の約数4個は、そもそも候補に上がりません。
系2(サイズ):
( なので)ですから、
これが本記事でいちばん言いたいことです。 は の約数であるだけでなく、 以下という上限を持ちます。 なら で、。つまり
は の正の約数で、かつ → か だけ
約数 と は、この時点で消えます。先ほど手計算を要求してきたケース(4)は、 が を超えるという一言で終わりです。
図1: のグラフと の壁。 は壁の下にあるが、 では となり壁をはるかに超える。 は「 の約数」であると同時に「 以下」でなければならない。
系3(3の剰余): は3で割り切れる
の両辺を で割ると 。移項して
左辺は3の倍数なので、右辺も3の倍数でなければなりません。これは第3節の「 が整数」という条件と同じことを別の顔で書いたものです。3本目のナイフも、同じ式から出てきました。
5.3行で終わる解答(文系4番)
ステップ1 の候補を出す。 は の正の約数で 。よって 。
ステップ2 各 で を計算する。
ステップ3 が整数で、 と偶奇が一致するものだけ採用する。
| 判定 | ||||
|---|---|---|---|---|
| ― | は3の倍数でない → 不適 | |||
| ( も も奇数)→ 適 |
あとは戻すだけです。
【答】
【検算】。。どちらも成立します。さらに の全数探索でも、解はこの2組しか現れないことを確認しました。
図2:曲線 と、その上にある2つの格子点。2点は破線 について互いに鏡像になっている。次の節で、この対称性が偶然でないことを示す。
6.なぜ解は必ずペアで現れるのか
図2を見ると、2つの解が直線 について対称に並んでいることに気づきます。これは偶然ではありません。
解の入れ替え
が の解ならば、 もまた解である。
なぜなら だから。
この操作を2回行うと元に戻ります()。つまり解の集合は2つずつペアになっているのです。実際 に施すと 。まさにもう一方の解です。
の言葉で見るともっと明快です。 のとき
は不変、 は符号が反転
だからこそ、第5節の表で と符号2つが同時に出てきたのです。 の が、そのままペアの正体でした。
ペアが1つにつぶれる例外
ペアの2つが一致するのは 、すなわち 、つまり のときだけです。このとき 。
が「立方数の2倍」でないかぎり、解の個数は必ず偶数
は の形ではないので、解の個数は偶数。実際に2組でした。一方 なら が唯一の解で、確かに奇数個(1組)になります。
7.「3で割った余り」の正体
第3節で使った「 が整数」という条件、第4節の系3で出てきた「 が3の倍数」という条件。この2つの背後には、次の事実があります。
補題
整数 に対し、 を で割った余りは か であり、 になることはない。
証明。 なので、 で割った余りは の余りに等しい。整数の2乗を で割った余りは か しかない( を2乗して確かめられる)。よって の余りも か 。■
この補題を使うと、ケース(1)が消える理由が一段深く見えます。 なので を で割った余りは 。そもそも という数は の形に書けないのです。同じ理由でケース(3)の (余り )も不可能。
【なぜこうするか】「 で割った余り」を選ぶ必然性は、 と の差がちょうど だからです。差が の倍数なら、 を法にすれば2つは同じ顔になる。余りで分類するときは「何で割るか」を式が教えてくれる——ここが、闇雲に や を試すのとの決定的な違いです。
8.同じ年の理系4番 も、同じ3行で解ける
道具が本物かどうかは、別の問題に当てて確かめるのが一番です。理系の でやってみます。、。
は の正の約数で 。、 は論外。よって 。
| 、 | |||||
| 、 |
【検算】。。。。4組すべて成立。全数探索でもこの4組だけでした。
文系は2組、理系は4組。この差はどこから来たか
両者を分けたのは、 のケースが生き残るかどうかでした。
| 素因数分解 | のとき | 結果 | ||
|---|---|---|---|---|
| 文系 | は3の倍数でない | 消える → 2組 | ||
| 理系 | 生き残る → 4組 |
第7節の補題で言えば、 は で割った余りが なので の形に書けず、(すなわち )は最初から不可能。一方 は で割った余りが で、実際に と書けてしまう。文系と理系の難易度差は、右辺の数を で割った余りに仕込まれていたわけです。
より深く見ると、 の形に表せる整数は、 で割って 余る素因数を偶数個しか含まないもの、という古典的な事実(アイゼンシュタイン整数のノルムの理論)に行き着きます。 の がまさに「 で割って 余る素数」で、しかも1個。ここが文系版の急所でした。高校範囲では第7節の補題までで十分です。
9.一般化 ―― を解くアルゴリズム
ここまでの議論は にも にも依存していません。正の整数 について、そのまま次のようにまとめられます。
立方差の方程式を解く3ステップ
① の正の約数のうち を満たすものを列挙する( だけなので、ふつう2〜3個)。
② 各 について を計算し、これが3で割り切れて、商が平方数になるものだけ残す。
③ と の偶奇が一致するものについて、。
【落とし穴】③の偶奇のチェックを飛ばしてはいけません。たとえば で は を満たしますが、 となり整数解ではありません( は の約数でもない)。式を満たすことと、整数解であることは別です。
実際に回してみると、 がどれだけ大きくても調べる は数個で済みます。以下はすべて、 の全数探索と一致することを確認した結果です。
| 調べる | 解 | 個数 | |
|---|---|---|---|
| 2 | |||
| 1 | |||
| なし | 0 | ||
| 2 | |||
| 2 | |||
| なし | 0 | ||
| 2 | |||
| 2 | |||
| 4 | |||
| 4 | |||
| 2 |
だけ解が1組なのは、第6節で見たとおり が「立方数の2倍」だからです。理論どおりに例外が出ています。
10.答案での書き方 ―― 減点されないために
採点基準は公表されていないので断定はできませんが、論理の飛びを埋めておくという原則は変わりません。この解法で書くときに、埋めるべき穴は3つです。
答案に必ず書く3行
- 恒等式は「展開すれば確かめられる」と一言添える。天下りに見えるのを防げます。
- の根拠を式で示す。「 で 、 より 」の1行で足ります。
- 最後に必要十分を確認する。候補として出した を実際に代入し、 になることを書く。
【答案例(骨格)】
恒等式 (両辺を展開して確認できる)において、 とおくと 。
と より 。また より 。一方 より は の約数。ゆえに または 。
のとき となるが、 は の倍数でないので不適。
のとき より 。 より 。
逆にこれらは 、 を満たす。よって求める組は 。
もちろん、標準的な「8通り→符号で4通り→ で2通り→判別式」の道筋でも完答できます。試験本番で恒等式が思い出せなければ、迷わず標準ルートで走ってください。本記事の狙いは「速い別解を暗記する」ことではなく、「なぜ場合分けが減るのか」を1つの式で見通すことです。
11.練習問題
【練習1】
を満たす整数の組 をすべて求めよ。
【練習2】
を満たす整数の組が存在しないことを示せ。
【練習3】
が整数解をもつとき、その解の個数が奇数になるのはどのような のときか。
【答】
練習1 。 の約数で を満たすのは 。 では より 。 では より 。よって の4組。
練習2 。 の正の約数は で、 より のみ。このとき となり、 は の倍数でないから不適。よって解は存在しない。
練習3 第6節より、解は で2つずつ組になり、組がつぶれるのは のとき、すなわち のとき。したがって が立方数の2倍のとき()に限り、解の個数は奇数になる。
12.この記事の独自研究について
誠実に書いておきます。恒等式 そのものは、 という二次形式(アイゼンシュタイン整数のノルム)を平方完成した形と本質的に同じもので、数学的に新しい発見ではありません。
数強塾の独自研究として提示しているのは、次の3点です。
- この恒等式を「場合分けを機械的に減らす道具」として一本化し、符号・サイズ・3の剰余という3種類の絞り込みが1つの式から順に導かれることを整理したこと。
- そこから という上限を取り出し、標準解法で最後まで残る のケースを計算せずに落とせることを示したこと。
- 同じ枠組みで、同年の理系4番 との難易度差を「 を で割った余り」として説明したこと。
本文中の解・個数・表の値は、すべて全数探索による独立検証を行っています。誤りにお気づきの方は、お問い合わせフォームからご指摘いただけると助かります。
13.よくある質問
Q. この恒等式は、試験中に思いつけるものですか?
A. ゼロから閃くというより、「対称式は和と差で書き直す」という定石から自然に出てきます。 は を入れ替えても変わらない式(対称式)です。そこで とおくと 、 なので、
分母を払えば 。これに を掛け合わせたものが本文の恒等式です。覚えるより、その場で作れるようにしておくのが実戦的です。
Q. 整数問題で「不等式で絞る」の使いどころが分かりません。
A. 候補が有限個だと分かっているのに、その個数が多いときが出番です。この問題なら、約数だから候補は有限(8個)と分かっている。そこに という上限を足すと2個に減る。「有限だが多い」を「有限で少ない」に変えるのが不等式の役割だと覚えてください。
Q. 文系数学でも、ここまで踏み込む必要がありますか?
A. 合格答案としては、標準的な8通りルートで十分です。ただし京大文系の整数問題は「 の倍数で絞る」「不等式で絞る」がほぼ毎回顔を出します。1問を深く掘って道具の由来まで理解しておくと、初見の問題での再現率が上がります。
Q. の形でも同じ手が使えますか?
A. 使えます。 なので、 を に置き換えるだけで本文の枠組みにそのまま乗ります。このとき 、 の役回りが入れ替わります。
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