【本記事について】本記事は、数強塾グループのプロ講師が実際に行った授業の録音記録をもとに、個人が特定されないよう一部の表現・構成を編集して再構成したものです。数式・指導内容・生徒への語りかけは、実際の授業に基づいています。
こんにちは。株式会社数強塾 代表の藤原進之介です。
「解の配置は、判別式・軸・端点の3つを調べる」──多くの参考書や塾で、こう暗記させられます。実際、私たちの講師自身、授業の中でこう告白しています。
「私も受験生のとき、正直これを覚えていた。有名参考書に“調べるポイントは3つ”と書いてあったから。でもね、その暗記は絶対に良くない。今日は内容をしっかり考えてもらいたい」
今回公開するのは、その「暗記の解体」から始まる授業の記録です。数学Ⅰの定番単元「解の配置」が、必要十分条件という論理の訓練場に変わっていく90分(の後半パート)をご覧ください。
題材:a を含む2次方程式
a を実数の定数とし、x² − 2ax + 3a − 2 = 0 …(*) とする。
(1) (*)が異なる2つの実数解を持つような a の範囲
(2) (*)が正の解と負の解を持つような a の範囲
(3) (*)が異なる2つの正の解を持つような a の範囲
(1)は判別式そのもの。D/4 = a² − 3a + 2 > 0 から a < 1 または a > 2。講師も「ここは教えることはない」と流します。勝負は(2)からです。
(2) 正と負の解──「今回、判別式はいらない」
講師はまず、解の公式で解を求めようとする発想を切り捨てます。「この方程式、因数分解できないし、解の公式で無理やり出しても汚くなるだけで意味がない。2次方程式はグラフを活用できる。左辺を f(x) とおいて、x軸との共有点を考えよう」
そして核心へ。
「正の解と負の解を持つということは、グラフが 0 の右側と左側に1つずつ交点を持つ形。私が受験生でよく分かっていなかった頃は、見た瞬間“まず D > 0”とやっていた。でも今回、D > 0 はいらない」
生徒がざわつくところで、講師は図を描きながら畳みかけます。
「まず、f(0) が正だったら? どう描いても正の解2つか、負の解2つになって、正と負にはならない。f(0) = 0 でもダメ。だから少なくとも f(0) < 0 は必要。──じゃあ逆に聞くよ。f(0) < 0 のとき、正と負の解を持つと言える? 0 を代入した y 座標が負で確定しているんだから、下に凸の放物線をどう描いても、必ず右側と左側で x 軸を突き抜けるよね。f(0) < 0 な放物線で、正と負の解を持たない絵が描けるか? 描けないでしょ」
「“正と負の解を持つ”ならば“f(0) < 0”。“f(0) < 0”ならば“正と負の解を持つ”。行って、戻れる。これが必要十分条件、すなわち同値ということ。条件を言い換えただけ。だからこの問題に判別式は必要ない。答えは f(0) = 3a − 2 < 0 より a < 2/3。──変な暗記、やめましょうね。“3つ調べなきゃいけない”なんて間違っているんだから。条件を見て、自分で判断できればそれでいい」
なぜ判別式が不要なのか。講師は後で理由まで一般化します。「y 座標が負になる点が1つでもあれば、x 軸と2点で交わることは自動的に確定する。だから端点の y 座標が負ならば判別式は不要。端点が正のときは、2点で交わる保証がないから判別式が必要になる」──丸暗記の「3点セット」が、たった1つの原理に圧縮された瞬間です。
(3) 異なる2つの正の解──条件を1つずつ「戻れるか」で検証する
(3)では逆に、条件を積み上げていきます。ここでも進め方は一貫して「その条件だけで元に戻れるか?」です。
- f(0) > 0 は必要。でも戻れない(x 軸と交わらない絵が描けてしまう)→ まだ必要条件
- D > 0 を追加。x 軸と2点で交わることは保証された。でもまだ戻れない(負の側に2解を持つ絵が描ける)
- 軸 x = a > 0 を追加。これで、どう描いても正の解2つ。戻れる。同値になった
3条件 f(0) > 0、D > 0、a > 0 を連立して、答えは 2/3 < a < 1 または a > 2。
さらに講師は、確認問題を即興で2つ出します。「0 と 1 の間に1解、1 より大きい範囲に1解なら? f(0) と f(1) の符号だけで同値になる(判別式・軸は不要)。じゃあ 0 と 1 の間に2解なら? f(0) > 0、f(1) > 0、D ≧ 0、軸が 0 と 1 の間──4条件必要」。同じ「解の配置」でも、必要な条件の個数は問題ごとに違う。だから3点セットの暗記では対応できないのです。
追加問題──入試で狙われる「少なくとも1つ」を、発想で斬る
授業終了15分前、講師は問題を1つ追加しました。
(4) (*)が −1 ≦ x ≦ 0 の範囲に少なくとも1つの解を持つような a の範囲を求めよ。
「入試ではこうなる可能性がめちゃくちゃ高い。特に上位大では“少なくとも”という形で出てくる。経験則を持っていない受験生は、ここでえらい目に遭う」
なぜか。真面目に場合分けすると、「1解だけ持つ」パターンも「2解持つ」パターンも、端点に解が乗る場合・重解の場合まで含めて膨大に分岐します。余事象(範囲に解を持たない)で攻めても場合分けの嵐。どちらから攻めても地獄──講師は黒板に何通りもの放物線を描いて、その絶望を先に見せます。
そのうえで、別解を宣言します。
「これからは、入試問題を見たときに“こうするもんなんだ”と暗記するんじゃなくて、自由な発想で解ける受験生になってほしい。方程式を見たら、まず定数分離できるかを考えることは鉄則だ」
(*)を a を含む項と含まない項に分けると、
x² − 2 = 2a(x − 3/2)
「左辺は放物線 y = x² − 2。右辺は──よく見て。y = 2ax を x 軸方向に 3/2 だけ平行移動した直線。ということは、a の値にかかわらず、常に点 (3/2, 0) を通過する。この定点を軸に、a が大きくなれば傾きが立ち上がり、小さくなれば寝ていく。傾きが動く直線として見えたか?」
あとは図の上で、定点 (3/2, 0) を通る直線が、放物線の −1 ≦ x ≦ 0 の部分(青で示した弧)と交われる範囲を目で追うだけです。限界の2本は、弧の両端を通るとき。
- (0, −2) を通るとき: −2 = 2a(−3/2) より a = 2/3
- (−1, −1) を通るとき: −1 = 2a(−5/2) より a = 1/5
よって答えは 1/5 ≦ a ≦ 2/3(端点を含む)。場合分けは、一切発生しませんでした。
「文字定数分離すると、“少なくとも1つ”みたいな問題がいとも簡単に解けるようになる。もう1つメリットを言うと、“a が 2/3 から 1 まで動くとき、解 x の取り得る範囲を求めよ”というタイプ──a が動いたとき解がどう動くかも、直線の傾きの変化として目に見える。x 軸にぶつける解法では、この動きは見えない」
そして、限界まで正直に教える
感動的なのは、講師がこの武器の使えない場合まで必ず添えることです。
「ただし、文字定数分離ができないときもある。もし式に a² が出てきたら? a について解けないから分離できない。そのときは最初の答案のように f(x) とおいてやるしかない。毎回分離できるとは保証できない。──ちなみに数Ⅲまでやっている人は、両辺を割って完全に a について解き、微分して増減を調べる完全定数分離もできる。ただし計算は重いから、1次の傾きで見える今日のやり方の方が速い」
武器を渡すときは、有効射程と限界をセットで渡す。万能の裏技のように教えない誠実さこそ、私が講師採用で最も重視している資質です。
保護者様へ──「暗記の数学」から「判断の数学」へ
この授業のメッセージは一貫しています。
- 有名参考書の「3点セット」ですら、鵜呑みにせず必要十分条件で検証する
- 「行けるか」だけでなく「戻れるか」を確かめて初めて同値
- 場合分け地獄は、式の見方(定数分離)を変えることで消せる
- どんな武器にも限界があることまで教える
数学の成績が伸び悩むお子様の多くは、能力ではなく「暗記で乗り切る学習法」に原因があります。数強塾のマンツーマン指導では、お子様の答案を見ながら「どこを暗記で処理しているか」を特定し、この記事のような「判断の数学」へ組み替えていきます。
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