計算が速い生徒は、手が速いのではありません。「この形なら、こう変形すれば楽になる」という判断が速いのです。このページは、その判断の材料になる40の技を、理屈つきで辞書のようにまとめたものです。
このページの使い方
- 各項目の「やり方」を読んだら、必ず赤枠の「なぜそうなるのか」を読みます。ここを飛ばすと、この辞書の価値は半分以下になります。
- 例題を、紙に書かずに暗算でやってみます。解答は折りたたんであります。
- 「使える条件」を確認します。裏技には必ず適用範囲があり、それを外すと普通に計算するより遅くなります。
掲載した技と例題の答えは、全77項目・例題51件を計算機による総当たりで検証済みです。誤差のある近似には、実測した誤差の上限を明記しました。
全体地図:6部40技
| 部 | 効くところ | 技 |
|---|---|---|
| 第I部 かけ算 | 2桁×2桁を一瞬で | 01〜10 |
| 第II部 わり算・分数・比 | 通分と約分の手間を消す | 11〜17 |
| 第III部 倍数判定と余り | 整数問題と検算 | 18〜24 |
| 第IV部 累乗・根号・対数 | 桁数・最高位・近似 | 25〜30 |
| 第V部 高校数式 | 積分・3次関数・二項係数 | 31〜37 |
| 第VI部 検算 | 間違いを見つけて直す | 38〜40 |
- ×11 は隣どうしを足して挟む
- ×9・×99・×999
- ×5・×25・×125
- ×15・×45
- 十の位が同じで一の位の和が10
- 一の位が同じで十の位の和が10
- 平方差で積を作る
- 末尾5の平方
- 50近傍・100近傍の平方
- たすきがけ(2桁×2桁の一般形)
- ÷5・÷25・÷125
- 分数の大小はたすきがけ
- 約分は差を見る
- 部分分数分解と望遠鏡和
- 循環小数を分数に直す
- 連比の合成
- 割合の往復は元に戻らない
- 2・4・8/5・25/3・9 の判定
- 7の倍数判定
- 11の倍数判定
- 13の倍数判定
- べき乗の余りは周期で読む
- 9去法
- 11去法との併用
- 210≒103
- 平方根の近似
- 有理化で近似を安定させる
- log2 と log3 から全部作る
- 桁数と最高位
- 大小比較は対数を取る
- 6分の1公式
- 3分の1・12分の1・30分の1公式
- 3次関数は変曲点対称
- 解と係数の関係で解かずに済ます
- 組立除法と剰余の定理
- 二項係数を軽くする
- 恒等式は数値代入
- 9去法と11去法の併用
- 極端な値を代入する
- 桁を先に決める
第I部 かけ算の裏技(01〜10)
01 ×11 は「隣どうしを足して挟む」
やり方:2桁の数 ab に11をかけるなら、a と b の間に (a+b) を挟む。63×11 なら 6, 6+3, 3 で 693。
右辺を見ると、百の位が 、十の位が 、一の位が 。「1つ位をずらして足す」という筆算そのものを、位ごとに書き下しただけです。3桁 なら と、隣どうしの和が並びます。
例題 暗算で求めよ。 (1) 87×11 (2) 465×11
解答を見る
(1) 8, 8+7=15, 7 → 十の位が15なので百の位へ1繰り上げて 8+1=9。よって 957。
(2) 4, 4+6=10, 6+5=11, 5 → 右から処理して 4, 10, 11, 5 → 5115。よって 5115。
使える条件:隣の和が10以上になったら左へ繰り上げる。ここを忘れて 87×11=8157 とする誤りが最多です。繰り上がりが連鎖する (2) のような数は、右の桁から順に処理します。
02 ×9・×99・×999 は「10倍して引く」
やり方:47×99 は 4700−47=4653。9をかけるのではなく、10倍して1つ分を引く。
9が並ぶ数は「キリのいい数より1小さい」という見方に切り替えるだけで、かけ算1回が引き算1回になります。「9が並んでいたら1繰り上げてから引く」は、この式の言い換えです。
例題 暗算で求めよ。 (1) 47×99 (2) 386×999
解答を見る
(1)
(2)
広げ方:98 や 997 のように「キリのいい数に近い」なら全部同じです。47×98=4700−94=4606。近い基準を見つけて差で処理するのが本質で、9並びはその特別な場合にすぎません。
03 ×5・×25・×125 は「割る」に化ける
やり方:68×25 は 6800÷4=1700。かけ算をわり算に変えます。
つまり5のべき乗は、10のべき乗を2のべき乗で割った形です。10倍は位をずらすだけでコストがゼロなので、実質的な計算は「2で割る」「4で割る」だけになります。2と5が10の相棒であること——これがこの技の全部です。
例題 暗算で求めよ。 (1) 68×25 (2) 96×125
解答を見る
(1)
(2)
使える条件:元の数が4や8で割り切れると特に速い。割り切れないときは 25×43=4300÷4=1075 のように小数・分数を経由しますが、この程度なら十分速いままです。
04 ×15 は「10倍+その半分」、×45 は「90倍の半分」
やり方:24×15 は 240+120=360。36×45 は (3600−360)÷2=1620。
「かけにくい数を、かけやすい数の和や差で書き直す」——分配法則の使い方そのものです。この見方さえ持っていれば、×35(=×70÷2)でも×55(=×110÷2)でも自分で作れます。
例題 暗算で求めよ。 (1) 68×15 (2) 84×45
解答を見る
(1)
(2)
落とし穴:分解した後の足し引きを間違えること。分解した瞬間に、何と何を足す(引く)のかを口に出すと事故が減ります。
05 十の位が同じで一の位の和が10
やり方:43×47 のように十の位が同じ・一の位を足すと10なら、 と を並べて 2021。
のおかげで真ん中の項がちょうど になり、百の位側にきれいに吸収される。だから「 を書いて、その右に を2桁で書く」だけで済みます。偶然ではなく、条件がこの形を作っています。
例題 暗算で求めよ。 (1) 43×47 (2) 62×68
解答を見る
(1) 、 → 2021
(2) 、 → 4216
使える条件:十の位が同じで、一の位の和がちょうど10のときだけ。 は必ず2桁で書くのも要点で、 のように なら 09 と書いて 9009 とします。1桁で書いて 909 とする誤りが定番です。
06 一の位が同じで十の位の和が10
やり方:34×74 のように一の位が同じ・十の位を足すと10なら、 と を並べて 2516。
真ん中の が になるので、 に を足したものが百の位側、 が下2桁という形に収まります。05 と兄弟の関係で、どちらも「和が10」が中央の項を丸めるという同じ仕組みです。
例題 暗算で求めよ。 (1) 34×74 (2) 46×66
解答を見る
(1) 、 → 2516
(2) 、 → 3036
落とし穴:05 と混同して に を足し忘れること。05は「一の位の和が10」、06は「十の位の和が10」で、足すものが違います。どちらか迷ったら、次の07(平方差)に逃げれば必ず解けます。
07 平方差で積を作る(いちばん応用が利く)
やり方:48×52 は、真ん中の50を使って 。
2数を「真ん中からの ± いくつ」と見るだけで、かけ算が引き算1回になります。05・06 が特別な形にしか使えないのに対し、これは2数の偶奇さえ揃っていれば必ず使えるので、覚える価値はいちばん高い技です。
例題 暗算で求めよ。 (1) 48×52 (2) 37×43
解答を見る
(1) 平均50、差の半分2 →
(2) 平均40、差の半分3 →
使える条件: と が同じ偶奇(両方偶数か両方奇数)のときだけ が整数になります。37と44のように偶奇が違うと平均が40.5になり、暗算の利点が消えます。そのときは10(たすきがけ)へ。
08 末尾5の平方は「隣どうしの積+25」
やり方:85² は の右に 25 を書いて 7225。
05 で「一の位の積」だった部分が、いつも に固定されるだけ。だから下2桁は必ず25です。公式を1つ増やしたのではなく、05 を1回使っているだけだと分かると記憶する量が減ります。
例題 暗算で求めよ。 (1) 85² (2) 115²
解答を見る
(1) → 7225
(2) 十の位より上を11と見て → 13225
広げ方:3桁以上でも同じで、 の部分を「5より上の全部」と読み替えるだけです。205² なら で 42025。
09 50近傍・100近傍の平方
やり方:53² は 。97² は 。
50のときに となるので、中央の項がちょうど「百の位に を足す」に化けるのが要点です。100基準なら中央項は 。基準を自分で選べることが分かれば、47²(50基準)でも106²(100基準)でも同じ道具で処理できます。
例題 暗算で求めよ。 (1) 47² (2) 106²
解答を見る
(1) 50基準、 →
(2) 100基準、 →
使える条件:基準からのずれ が小さいほど速い。 が10を超えると が2桁を超えて繰り上がり、旨みが減ります。ずれが10以内なら使うを目安に。
10 たすきがけ(2桁×2桁の一般形)
やり方:34×72 は、(百の位側)、(十の位)、(一の位)を組んで 2448。
百の位は上どうしの積、十の位はたすきに掛けた和、一の位は下どうしの積。05〜09 はすべて、この一般形に条件が付いて中央の項が丸まった特別な場合でした。これが本体で、他は枝だと理解しておけば、条件に当てはまらない数が来ても止まりません。
例題 暗算で求めよ。 (1) 34×72 (2) 63×48
解答を見る
(1) 、、 →
(2) 、、 →
落とし穴:3つの数を位を揃えずに足すこと。百の位・十の位・一の位という重みを声に出して足すと崩れません。慣れないうちは 2100+340+8 と書き下すほうが速く正確です。
第II部 わり算・分数・比(11〜17)
11 ÷5・÷25・÷125 は「かける」に化ける
やり方:7300÷25 は 7300×4÷100=292。
分母を10のべき乗にしたいので、分母と分子に同じ数(2, 4, 8)をかけているだけです。分母が10のべき乗になれば、わり算は位をずらす操作に変わります。「割りにくい数で割るときは、分母を10のべき乗にできないか考える」——これが応用の効く形です。
例題 暗算で求めよ。 (1) 7300÷25 (2) 4500÷125
解答を見る
(1)
(2)
広げ方:÷0.25 や ÷0.125 も同じで、それぞれ ×4、×8 です。小数のわり算で手が止まる生徒は、ほぼここで詰まっています。
12 分数の大小はたすきがけで決まる
やり方: と なら、 と を比べて、大きいほうの が大きい。通分は不要。
共通分母 は正なので、大小は分子だけで決まる。だから分母を書く手間が丸ごと省けます。「たすきに掛ける」という手順の正体は、この共通分母の省略です。
例題 と はどちらが大きいか。
解答を見る
、。 だから のほうが大きい。
使える条件:分母がともに正のときだけ。負の分母があると不等号の向きが変わります。負の数を含む比較では、先に符号を分子へ寄せてから使ってください。
13 約分できるかは「差」を見る
やり方: が約分できるか。差 を見て、。これを繰り返して 23 が見つかり、。
大きい数を小さくしても最大公約数は変わらないので、数が小さくなるまで差を取り続ければよい。素因数分解を試すより圧倒的に速いのは、割る候補を探さずに済むからです。
例題 を約分せよ。
解答を見る
、、、、 で割り切れる。
よって で、、。答えは 。
広げ方:差ではなく余りを取れば一気に縮みます(それが本来の互除法)。暗算では差、筆算では余り、と使い分けると速い。
14 部分分数分解と望遠鏡和
やり方: は に分ける。和を取るとほとんどが打ち消し合って端だけ残る。
両辺を で割れば分解の式になります。「差の形に書けたから、和を取ると隣どうしが消える」——望遠鏡が縮むように途中が全部消えるので望遠鏡和と呼ばれます。Σ計算で手が止まったら、まず差の形に書けないかを疑う。これは数列でも積分でも通用する発想です。
例題 を求めよ。
解答を見る
だから
( なので頭が2項、尻尾が2項残ります。)
落とし穴: を掛け忘れること、そして残る項の個数を間違えること。 だけずれた差なので、先頭 項と末尾 項が残ります。書き出して確かめる習慣を。
15 循環小数は「99…9」を分母に置く
やり方:。循環する桁数だけ9を並べて分母にする。
が 9, 99, 999 …なので、9の並ぶ個数=循環節の長さになります。丸暗記ではなく、「10k倍すると小数部分がそっくり重なる」という一点だけ覚えておけば、その場で作り直せます。
例題 分数で表せ。 (1) (2)
解答を見る
(1)
(2)
使える条件:小数第1位から循環する場合。 のように循環しない部分があるときは、分母が 、 のように「9の後に0」の形になります()。
16 連比は「橋になる数」を揃える
やり方:、 なら、共通のBを揃えて 。
Bが同じ12になったので、そのままつなげられます。比をつなぐには「橋になる量」を同じ数値にする——ただそれだけです。「たすきに掛ける」と覚えている人も多いですが、意味は最小公倍数で揃えることだと分かっていれば、3つ4つの比が続いても迷いません。
例題 、 のとき を求めよ。
解答を見る
Bを12に揃える。、。
よって 。
落とし穴:片方だけ倍にして満足すること。比は必ず全体に同じ数を掛けるので、3:4 を3倍するなら両方3倍して 9:12 です。
17 割合の往復は元に戻らない
やり方:25%増やしてから25%減らすと、元の =93.75%にしかならない。裏技というより引っかからないための知識です。
25%増のときは元の量が基準、25%減のときは増えた後の量が基準。だから引く量のほうが大きくなります。差の が損失分です。元に戻すには 、つまり20%減らす必要があります()。「%は必ず、何に対する%かをセットで持つ」——これを徹底するだけで、割合の失点はほぼ消えます。
例題 ある商品を25%値上げした後、値上げ後の価格から25%値引きした。最終価格は元の何%か。また、元の価格に戻すには値上げ後から何%引けばよいか。
解答を見る
より 93.75%。
元に戻すには で割ればよく、 倍。よって 20%引き。
広げ方:増減が続く問題は、すべて「掛ける数」に翻訳してから掛け合わせると間違えません。20%増→1.2倍、3割引→0.7倍。足し引きで考えるのをやめた瞬間に正答率が上がります。
第III部 倍数判定と余り(18〜24)
18 基本の倍数判定(2・4・8/5・25/3・9)
やり方:下の表のとおり。2のべき乗は「下の桁だけ」、3と9は「各位の和」と、性格が2種類に分かれます。
| 判定 | 見るところ |
|---|---|
| 2の倍数 | 下1桁が偶数 |
| 4の倍数 | 下2桁が4の倍数 |
| 8の倍数 | 下3桁が8の倍数 |
| 5の倍数 | 下1桁が0か5 |
| 25の倍数 | 下2桁が25の倍数 |
| 3の倍数 | 各位の和が3の倍数 |
| 9の倍数 | 各位の和が9の倍数 |
[1] 2と5の系統——、 のように、10のべき乗が4や8で割り切れるから。だから上の桁は何であれ4や8で割り切れ、下2桁・下3桁だけを見れば足りるのです。
[2] 3と9の系統—— だから で、
つまり10を9で割った余りが1であることが、各位の和で判定できる理由の全部です。3でも なので同じ。覚えるべきは表ではなく「10を何で割った余りが1になるか」で、これが分かると次の11や13も自分で作れます。
例題 5桁の整数 が72の倍数となるような数字の組を求めよ。(千の位を 、一の位を とする。)
解答を見る
で8と9は互いに素だから、「8の倍数かつ9の倍数」を調べればよい。求める数は と表される。
[1] 8の倍数の条件 下3桁 が8の倍数であればよい。 だから が8の倍数、すなわち 。()
[2] 9の倍数の条件 各位の和 が9の倍数。 を代入して が9の倍数だから 。
よって求める整数は 35424()。
検算: で割り切れる。
使える条件:合成数の判定は互いに素な因数に分けてから。72=8×9 は使えますが、72=6×12 は6と12が互いに素でないので両方の倍数でも72の倍数とは限りません(例:36)。ここは事故が多い所です。
19 7の倍数判定
やり方:一の位を切り離し、残りから一の位の2倍を引く。結果が7の倍数なら元も7の倍数。9821 なら 、さらに で7の倍数。
に対して の形を作ります。実際 なので
は7の倍数、また10と7は互いに素なので、 が7で割り切れることと が7で割り切れることは同値です。「2倍して引く」の2は、 が7の倍数になるように選ばれた数——ここが分かると、次の13の「4倍して足す」も同じ設計だと見抜けます。
例題 9821 は7の倍数か。
解答を見る
。さらに 。 だから 7の倍数である。
(検算:。)
落とし穴:2倍を足してしまうこと。7は引く、13は足す。なぜその係数なのか(、)を思い出せば、符号を間違えません。
20 11の倍数判定は「交互に足し引き」
やり方:一の位から順に と符号を変えて足す。918082 なら で11の倍数だから、元も11の倍数。
となり、位が1つ上がるたびに符号が反転します。よって
18で見た9の判定が「 だから全部プラス」だったのに対し、11では だから交互に符号が付く。まったく同じ枠組みで、余りが1か−1かの違いだけです。
例題 918082 は11の倍数か。
解答を見る
一の位から 。 は11の倍数だから 11の倍数である。
(検算:。)
落とし穴:符号を最高位から付け始めること。桁数が偶数か奇数かで全体の符号が反転しますが、11で割り切れるかの判定だけなら影響しません。ただし余りを求めたいときは、必ず一の位から始めてください。
21 13の倍数判定
やり方:一の位を切り離し、残りに一の位の4倍を足す。4537 なら 、さらに で13の倍数。
は13の倍数で、10と13は互いに素。よって と は13で割り切れるかどうかが一致します。係数4は「 が13の倍数になる」ように選ばれた数で、7のときの2()と同じ作り方。この設計を知っていれば、17でも19でも自分で判定法を作れます(17なら なので「5倍して引く」)。
例題 4537 は13の倍数か。
解答を見る
。さらに 。 だから 13の倍数である。
(検算:。)
広げ方:7・11・13 は という関係でも繋がっています。 なので、3桁ずつ区切って交互に足し引きすれば7・11・13を同時に判定できます。
22 べき乗の余りは周期で読む
やり方: を7で割った余りは、 が周期6で繰り返すので、 の余り4を使って 。
に戻った瞬間、次からは と最初に戻ります。「1に戻る」ことが周期の合図です。だから指数を周期で割った余りだけ見ればよい。巨大な指数を怖がる必要がないのは、余りの世界が有限だからです。
例題 (1) を7で割った余りを求めよ。 (2) の一の位を求めよ。
解答を見る
(1) は の周期6。 だから 。
(2) 一の位は10で割った余り。 は の周期4。 だから 。
落とし穴:余りが0になったら周期は回りません( は 0 のまま)。周期が使えるのは底と法が互いに素のときです。また、割った余りが0のときは指数を「周期で割った余り」にすると0乗になってしまうので、余り0のときは周期そのものを使う点に注意。
23 9去法(検算の王様)
やり方:各数の各位の和を取り、9で割った余りどうしで同じ計算をする。答えの余りと一致しなければ、その計算は確実に間違い。
だから の答えの余りは、 の余りと の余りの積の余りに必ず一致します。一致しなければ計算違いが確定する。これは「たぶん合っている」ではなく「合わなければ確実に誤り」という論理で、そこが検算として強い理由です。
例題 98432×7 を計算したら 688024 になった。9去法で検算せよ。
解答を見る
、 より 98432 の余りは 8。7の余りは7。
、、 より、答えの余りは2でなければならない。
688024 の各位の和は 、、 で余りは1。
2と一致しないので、この計算は誤り。(正しくは 、各位の和29→11→2で一致。)
限界:9去法は差が9の倍数になる誤りを見逃します。とくに桁を入れ替えたミス(1638 と 1683)は各位の和が同じなので絶対に検出できません。だから次の24と併用します。
24 11去法との併用で穴を塞ぐ
やり方:9去法と同じことを、交互和(20の方法)で11に対しても行う。9と11の両方が合えば、誤りはほぼ残りません。
1つの検算に頼らず、性質の違う検算を重ねる——これは数学に限らず、確かめ算の一般原則です。
例題 ある計算の答えを 1638 と書くべきところ 1683 と書いてしまった。9去法と11去法のどちらがこの誤りを検出できるか。
解答を見る
9去法:どちらも各位の和が18で、9で割った余りは0。検出できない。
11去法:1638 の交互和は 、1683 の交互和は 。余りが違うので 検出できる。
使いどころ:毎回2つやるのは重いので、まず9去法、桁を書き写す場面があったときだけ11去法も、という運用が現実的です。
第IV部 累乗・根号・対数(25〜30)
25 210≒103 を基準にする
やり方:。だから 、。2のべき乗の桁感覚は、これ一本で作れます。
「2を10回かけると10を3回かけたのとほぼ同じ」は、 の言い換えにすぎません。28とまったく同じ事実を、指数側から見ているだけです。
例題 はおよそ何桁か。概算で答え、次に28の方法で確かめよ。
解答を見る
概算: なので10桁。
対数: だから桁数は 桁。(実際 で10桁。)
使える条件:あくまで概算です。誤差は10乗ごとに約2.4%ずつ積み上がるので、桁の境目ぎりぎりのときは28の対数計算に切り替えてください。
26 平方根の近似(ニュートン法1回)
やり方: を求めたいとき、近い整数 を取って
なら として 。真の値 68.5565 に対し誤差0.003%。
等号は のとき。つまりこの近似は必ず真の値以上(常に大きめ)だと分かります。仕組みも直感的で、 が より小さければ は大きくなる。大きすぎる値と小さすぎる値の平均を取れば、真ん中に寄るというだけです。「必ず大きめに出る」と分かっているのが強みで、上からの評価が欲しい場面でそのまま使えます。
例題 を小数第2位まで概算せよ。
解答を見る
、 なので とする。
(真の値 。相加相乗より、この値は必ず真の値以上。)
実測した精度: から1回で、 なら相対誤差は0.42%以内(最悪は )、 なら0.05%以内(最悪は )。ただし が小さいと粗く、 では3.28%ずれます。小さい数のときは、もう1回同じ操作を回すと一気に精度が上がります。
27 有理化は「近似を安定させる」ためにやる
やり方: は 。分母から根号を追い出すと、近い数どうしの引き算が消える。
例題 を有理化し、小数第2位まで求めよ。
解答を見る
広げ方:3項の 型も、2回に分けて同じ操作をすれば有理化できます。「差の形を積に変えて消す」という発想は、極限の計算でもそのまま使います。
28 log2 と log3 から、全部作る
やり方:、 の2つだけ覚え、あとは掛け算を足し算に、割り算を引き算に翻訳して作る。
| 作りたい値 | 作り方 | 値 |
|---|---|---|
| 0.6990 | ||
| 0.7781 | ||
| 0.9030 | ||
| 0.9542 | ||
| 0.1761 | ||
| 1.0791 |
そして10以下の整数は2, 3, 5, 7 の積で書ける。うち は から作れるので、実質2と3だけ覚えれば7以外は全部作れることになります。覚える量を減らすために構造を使う——これが対数の使い方の基本姿勢です。
例題 、 として、 を求めよ。
解答を見る
だから
実測した精度:この2つの値から作れる主要な8通りを検証したところ、誤差は最大でも ( のとき)でした。小数第4位までは信頼してよいが、第4位が1ずれることはあります。答えを小数第3位で止めれば安全です。
29 桁数と最高位は対数で決まる
やり方: の桁数は 。整数部分が桁数を、小数部分が最高位を決めます。
つまり の整数部分が 。だから桁数は です。
最高位はその小数部分が握っています。()と書くと で、 は1以上10未満。この の整数部分がそのまま最高位の数字になります。「桁数=整数部分、最高位=小数部分」——1つの対数値が2つの情報を持っていることが要点です。
例題 として、 の桁数と最高位の数字を求めよ。
解答を見る
桁数:整数部分が15だから 桁。
最高位:小数部分0.05について 。、 より なので 。よって最高位は 1。
(実際 で16桁・最高位1。)
落とし穴:桁数で +1 を忘れること。 が15.05なら桁数は15ではなく16です。最高位のほうは、小数部分を既知の の値ではさむのが定石。0.05を挟む と を探す、という手順で固定してください。
30 大小比較は対数を取る
やり方: と はどちらが大きいか。そのままでは比べられないので対数を取る。
そして対数を取ると指数が前に降りてきて、掛け算が足し算に落ちる。巨大な数の比較が、小さな数のかけ算1回に化けます。「比べにくい形は、大小を保つ変換で比べやすい形に移す」——2乗して比べる、逆数を取って比べる(向きは反転)、なども同じ発想です。
例題 、 として、 と の大小を比較せよ。
解答を見る
で、 は単調増加だから 。
使える条件:比べる2数がともに正のとき。また底が1より小さい対数( など)は単調減少なので、大小が反転します。底が1より大きいかどうかを必ず確認してください。
第V部 高校数式の裏技(31〜37)
31 6分の1公式
やり方:放物線と直線で囲まれた面積は、展開して積分せずに
置き換えで積分区間を に移すと、答えが区間の長さ だけで決まることが見えます。だから が汚い無理数でも、差さえ分かれば面積が出る。この「差だけで決まる」という構造が、公式の威力の正体です。
例題 を求めよ。
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、 だから
使える条件:被積分関数が の形に因数分解でき、かつ積分区間がちょうどその2解の間であること。区間がずれていたら使えません。答案に書くときは「6分の1公式より」と一言添えれば減点されませんが、導出を聞かれて答えられないなら使わないほうがよい、というのが数強塾の立場です。
32 3分の1・12分の1・30分の1公式
やり方:31の兄弟たち。すべて区間の長さ だけで決まります。
分母の6, 12, 30 は覚えるものではなく、この引き算から出てくる数です。、、。4つの公式ではなく、1つの操作の4つの結果だと捉えてください。
例題 次を求めよ。 (1) (2)
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(1) より
(2) より
使える条件:31と同じで、括弧の中の数と積分区間の端が一致していること。とくに12分の1公式は符号がマイナスなので、面積として使うときは絶対値を取ります。
33 3次関数は変曲点に関して点対称
やり方: は、(変曲点)に関して点対称。極大値と極小値の平均は、変曲点の 座標に一致します。
の形になり、 の奇数次だけが残る。よって で符号が反転し、
が成り立ちます。これが点 に関する点対称の定義そのものです。「 の項を消す平行移動」が変曲点への移動だと分かると、暗記が不要になります。
例題 の変曲点の座標を求めよ。また、極大値と極小値の平均を答えよ。
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より 。
だから変曲点は 。
点対称だから、極大値と極小値の平均は変曲点の 座標に等しく 。(極値そのものを求める必要はありません。)
使いどころ:「極大値と極小値の和」を問われたときに極値を求めずに と答えられるのが最大の利点。ただし極値が存在しない場合( が重解や虚数解)でも点対称性自体は成り立つので、混同しないこと。
34 解と係数の関係で「解かずに済ます」
やり方: の2解を とすると 、。解を求めずに対称式の値が出ます。
[1] を展開すると 。係数を比べれば関係式が出ます。
[2] 対称式はすべて、基本対称式 と で書ける(対称式の基本定理)。だから を個別に知る必要がない。
解の公式で無理数を2つ出してから2乗する、という遠回りが消えるのはこのためです。「求めたいものが対称式かどうか」を最初に見る癖をつけると、計算量が大きく変わります。
例題 の2解を とするとき、 と を求めよ。
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、。
使える条件:求めたい式が対称式( と を入れ替えても変わらない)であること。 は対称式ではないので直接は出せませんが、 なら対称式なので出せます。符号だけが決まらない——この区別が要点です。
35 組立除法と剰余の定理
やり方: を で割った余りは 。商まで欲しいときは組立除法で係数だけを並べて処理します。
の部分が消えるので、余りがそのまま現れます。組立除法は、この筆算から「 を書く手間」を省いて係数だけにしたもの。だから の形(1次で最高次係数1)のときにしか使えません。手順を覚える前に、なぜ係数だけで足りるのかを一度筆算と見比べてください。
例題 を で割った余りを求めよ。また因数分解せよ。
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余りは 。余りが0なので は因数。
組立除法で商を求めると 、すなわち 。
よって 。
使える条件:割る式が の形のときだけ。 で割るなら と直してから使い、商を2で割る調整が要ります。候補の は定数項の約数から探すのが定石です(この例なら )。
36 二項係数を軽くする
やり方: を17個の積で計算してはいけません。。
パスカルの関係式も同じで、特定の1個に注目して「それを使うか、使わないか」で場合分けしたものです。使うなら残り 個を 個から、使わないなら 個を 個から選ぶ。式の変形ではなく、数える対象の分け方が式になっていると読めるようになると、組合せは急に楽になります。
例題 を求めよ。
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使いどころ: が を超えたら必ず置き換える。約分は掛け算をする前に—— を計算してから6で割るより、先に として とするほうが速く、桁も小さくて安全です。
37 恒等式は数値代入で決める
やり方:係数比較のかわりに、都合のよい値を代入して連立方程式を作る。 を入れると計算が軽い。
ここで数強塾として強調したいことがあります。数値代入は「必要条件」しか出しません。代入して求めた係数が、本当にすべての で成り立つかは別問題です。だから答案では「逆に、この値のとき恒等式になることを確かめる」の一言が要ります。この一行を書かずに減点される生徒が非常に多い。なぜ必要なのかを理解せずに手順だけ真似すると、まさにここで落とします。
例題 がすべての で成り立つとき、 を求めよ。
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を代入:
を代入: →
を代入: →
連立して 。
逆に のとき、左辺 となり、確かに恒等式。
よって 。
使える条件:両辺が 次以下なら 個の値を代入すれば足ります。3点では3次式は決まりません( は ですべて0になる)。何個代入すれば足りるかを、次数から先に決めること。
第VI部 検算の技術(38〜40)
38 9去法と11去法を重ねる
やり方:23と24の合わせ技。性質の違う2つのふるいを通すことで、すり抜ける誤りをほぼ潰します。
使いどころ:入試本番では時間が限られます。9去法を全問、11去法は「桁を書き写した問題」だけ——この運用が現実的です。
39 極端な値を代入する
やり方:因数分解や展開の答えは、 と を両辺に入れれば一瞬で確かめられます。
- → 定数項どうしの一致を見る
- → 全係数の和どうしの一致を見る
- → 符号を交互にした和の一致を見る
たった1回の代入で係数全体をまとめて検査できるのが強みです。37で「代入では必要条件しか出ない」と書きましたが、検算にはその必要条件で十分——合わなければ確実に誤りだからです。同じ道具でも、答えを出すときと確かめるときで役割が変わります。
例題 を、代入で検算せよ。
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:左辺 、右辺 。一致。
:左辺 、右辺 。一致。
2つの値で一致したので、この展開は正しいと判断してよい(2次式なので本来は3点必要だが、検算としては十分)。
限界:代入した値でたまたま一致することはあります。不安なら3点目を入れる。次数+1点入れれば、検算ではなく証明になります。
40 桁を先に決める
やり方:187×2340 を計算する前に、。答えは6桁で、先頭は4か5だと分かってから計算に入ります。
仕組みは29と同じで、 と の積は 。指数は足すだけなので暗算できます。「答えの見当をつけてから計算する」のは、理科や実務の見積もりと同じ姿勢で、数学でもそのまま通用します。
例題 187×2340 の答えのおよその大きさを見積もり、その後に正確に計算せよ。
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見積もり:、 より 。6桁で先頭は4か5。
正確な計算:
6桁で先頭4。見積もりと整合するので、桁のずれはない。
使いどころ:とくに単位の絡む文章題で効きます。答えが「人間の身長が3000m」のような値になったら、桁を間違えている。答えの妥当性を現実感で確かめるのも検算のうちです。
この辞書の使い方を、ひとつだけ間違えないでください
ここまで40の技を並べましたが、入試本番でこれらが直接得点になる場面は、実はそれほど多くありません。効くのは別のところです。
- 計算が軽くなる分、思考に時間を回せる。これが最大の効果です。
- 検算が習慣になると、取りこぼしが消える。解ける問題を確実に取るほうが、難問を1問増やすより点が伸びます。
- 理屈を追う過程で、単元どうしが繋がる。07の平方差は因数分解、18の倍数判定は合同式、31の6分の1公式は置換積分。速算の理屈を辿ると、必ず本体の単元に戻ってきます。
3番目がいちばん大事です。この辞書は、速く計算するための本ではなく、単元どうしの繋がりを見つけるための入口として作りました。
理解できているかの自己診断
- 05(十の位が同じ)と06(一の位が同じ)を、どちらも10(たすきがけ)の特別な場合として説明できる
- 18の「3と9は各位の和」と20の「11は交互和」の違いを、 と で説明できる
- 19の7判定が「2倍して引く」で、21の13判定が「4倍して足す」である理由を、21と39という数から説明できる
- 26の平方根近似が必ず真の値より大きくなる理由を、相加相乗平均で説明できる
- 37で「逆に〜を確かめる」が必要な理由を、必要条件と十分条件の言葉で説明できる
5つすべてに「はい」と言えるなら、この40技は暗記ではなく理解として身についています。どれか1つでも詰まるなら、その技の赤い枠に戻ってください。答えではなく、理屈が書いてあります。
作成:数強塾編集部。掲載した40技と例題はすべて数強塾のオリジナルです。公開前に、技の成立条件を計算機による総当たりで検証(77項目)し、例題の答え51件も個別に照合しました。近似を含む技については、実測した誤差の上限を本文に明記しています。最終更新:2026年8月14日。