数学ができる人は、問題を見た瞬間に「ひらめいて」いるわけではありません。過去に何百回も使われてきた「型」から予想して、思考する量を減らすことで、手際よく解法を思い付いている場合もあるのです。その型のことを、昔から 定石(じょうせき) と呼びます。囲碁や将棋で「この形が来たら、まずこのあたりから考える」という指針があるのと似ています。指針があるからといって、考えずに打てるわけではありません。考える場所を絞れるから、そのぶん深く考えられるのです。
このページは、大学入試の数学で使われている定石を、数学が苦手な中学生でも最初から読めるように、順番を踏んで全部書き直したものです。高校数学の言葉が出てくる場面でも、まず中学校の内容で意味を説明してから先に進みます。式が読めなくても、日本語の部分だけ追えば「何をやろうとしているのか」は必ず伝わるように書きました。
先に、この記事の立場をはっきりさせておきます
数学は暗記科目ではありません。解法を覚えた数だけ点が伸びる科目なら、分厚い解法集を丸暗記した人が全員合格しているはずですが、実際にはそうなっていません。入試問題は、覚えた解法をそのまま貼りつけられる形では出題されないからです。
それでも、よくある解法の流れを事前に理解しておくことには、はっきりした意味があります。入試が制限時間つきの試験だからです。序盤の「何から手をつけるか」で悩まずに済む人は、その分の時間をその問題にしかない難しい部分に使えます。難関大学に受かっていく人は、頭の回転が特別に速いのではなく、考えなくていいところで考えていないのだと思います。
ですからこのページに並んでいるのは、覚えるべき答えの一覧ではありません。考えるべき場所へ早くたどり着くための道順です。この考え方については第1章でくわしく書きました。
このページの使い方(大事です)
この記事は一度読んで終わりにする読み物ではありません。ノートに見出しだけを写して、自分が問題を解いていて「あ、これはあの定石だ」と思った例を、そのノートに書き足していってください。定石は、自分が出会った具体例とセットになって初めて武器になります。人から渡された一覧表のままでは、試験中に出てきません。
また、ここに書いてあることを全部いっぺんに覚える必要はまったくありません。今の自分に関係のある章だけを読み、残りは「そういう考え方があるらしい」とだけ知っておけば十分です。数学IIIをまだ習っていない中学生なら、第1部〜第3部だけで大きな効果があります。
免責:この記事は学習の助けになるように書かれた「まとめ」であり、正確さを保証するものではありません。インターネット上にある受験情報と同じ程度の信頼性だと思って読んでください。この記事を読んだことで生じた不利益について、数強塾は責任を負いません。最終的な判断は、必ず教科書・学校の先生・信頼できる問題集で確認してください。
目次
第1部 どの問題にも共通する型 (末尾に確認問題3問)
- 定石とは何か──「ひらめき」の正体
- 問題を「見る」──解き始める前の3分
- ゴールから逆算する
- 和文数訳──日本語を数式に翻訳する
- 未知数の数だけ式を作る
- わからないときは実験する
- 手が止まったときの引き出し8つ
- 答えが出たら必ずやる4つの確認
- 答案の書き方──点をもらうための技術
第2部 ミスの正体をつかむ (末尾に確認問題3問)
第3部 式の顔つきで方針を決める (末尾に確認問題3問)
第4部 分野別の定石 (末尾に確認問題3問)
第5部 まとめ
この記事と一緒に使うと効果が出るページ
定石は、読むだけでは身につきません。読みながら手を動かす場所を、先に用意しておいてください。
- 無料学習プリント・映像授業の一覧 単元別のプリントを無料で公開しています。読んだ定石を、その場で試せます。
- 無料の授業動画まとめ 文章だけではわかりにくいところは、動画で見たほうが早いことがあります。
- 大学入試の過去問 全問解説 実際の入試問題で、どの定石がどう使われているかを確かめられます。
第1部 どの問題にも共通する型
1. 定石とは何か──「ひらめき」の正体
数学のテストを返してもらったとき、こんなふうに思ったことはありませんか。
「解説を読めばわかる。でも、自分ではあの一行目が思いつかなかった」
この「解説を読めばわかる。でも、自分では思いつかなかった」という気持ちは、数学が苦手な人が必ず通る場所です。多くの人は、ここで「自分には数学のセンスがない」と結論を出してしまうかもしれません。けれども、その結論を出すのは、少し早いように思います。
解説の一行目は、書いた人が天から降ってきたひらめきで書いた、とはかぎりません。問題文には必ず、動ける範囲を縛っている条件が書かれています。「x は整数」「a > 0」「点Pは円周上にある」といったものです。数学では、こういう条件のことを 拘束条件(こうそくじょうけん) と呼びます。そして、その条件を見た瞬間に「この拘束条件があるなら、まずこれを試してみようか」という手順が、その人の頭の中にある場合もあるのです。
だから、その人は白紙から考え始めているのではありません。持っている型から「たぶんこの方向だろう」と当たりをつけ、考える範囲をぐっと狭めたうえで、そこから先を自分の頭で確かめています。うまくいかなかったものは答案に残りません。つまり私たちが読んでいる解説は、試行錯誤を消したあとの、きれいな結果だけなのです。ひらめきに見えていたものの正体は、多くの場合、消された側にあります。
もちろん、本当に非凡な発想でしか解けない問題も存在します。ただ、入試で出題される問題の大半は、そこまでのものではありません。「この条件が来たら、まずこれを試す」を知っているかどうかで最初の一行が書けるかどうかが決まってしまう問題が、実際にはとても多いのです。
言い換えると
解ける人:問題を見る → 拘束条件を確かめる → 型から当たりをつける → 狭めた範囲を自分の頭で確かめる → 通ったものを書く
苦手な人:問題を見る → 手がかりがない → 白紙のまま全部を考えようとする → 固まる → 「センスがない」と思う
この差が、生まれつきの才能だけで決まっているとは思いません。少なくとも引き出しの数と、引き出しを開ける順番は、あとから増やしたり、並べ替えたりできます。この記事がやろうとしているのは、その部分です。
定石は「暗記」ではありません
ここでひとつ、いちばん大事な注意をします。数学は暗記科目ではありません。そして定石は、公式や解法の暗記とは別のものです。
公式の暗記は「三角形の面積は底辺×高さ÷2」のように、知っていれば使える知識です。一方、定石は「面積を求めたいなら、まず底辺と高さにあたるものを探せ」という行動の指示です。知識ではなく、動き方のルールなのです。
この違いは、そのまま「丸暗記が通用しない理由」になります。解法をまるごと覚える勉強は、覚えた問題とほぼ同じ形で出題されたときにしか働きません。ところが入試問題は、そういう形では出てくれません。とくに難関大学ほど、見たことのある問題そのものが出る割合は下がり、見たことのある考え方が、見たことのない形に埋め込まれて出ます。
ですから、覚えるべきなのは解答の手順そのものではありません。「なぜ、その一手を選んだのか」という理由のほうです。理由は、問題の形が変わっても持っていけます。手順だけを覚えていると、形が変わった瞬間に使えなくなります。
ありがちな失敗
「この問題は、まず両辺を2乗する」と手順だけ覚えた人は、少し形を変えられると手が止まります。
「ルートが邪魔だから2乗して消したい。ただし2乗は同値な変形ではないので、あとで条件を確認する」と理由まで理解した人は、初めて見る形でも同じ判断ができます。
覚えている量は同じでも、使える範囲がまったく違います。この記事では、できるかぎり「なぜそうするのか」を一緒に書くようにしています。
そして定石は、覚えるだけでは意味がありません。問題を解いているときに、実際に手を動かす形で使ってはじめて身につきます。 このページを読みながら「なるほど」と思ったら、そのあと必ず、手元の問題集で1問でいいので試してください。
なぜ難関大ほど効くのか──「考える時間」を残すための道具
ここまで読んで、「難しい問題は、結局その場で考えるしかないのでは?」と思った人がいるはずです。そのとおりです。入試の合否を分ける問題は、必ず「その場で考える部分」を含んでいます。定石をいくつ持っていても、そこは自分で考えるしかありません。
だからこそ、よくある解法の流れを先に理解しておくことが効いてきます。理由は単純で、入試が制限時間つきの試験だからです。
難関大学の数学は、おおよそ90〜150分で4〜6題。1題あたり20〜30分ほどしかありません。その中で、方針を決め、計算し、答案の形にするところまで終わらせる必要があります。ここで差がつくのは計算の速さではなく、「方針が決まるまでの時間」です。
よくある流れを持っている人は、序盤の「何から手をつけるか」を数分で通過できます。そして残った時間を、その問題にしかない難しい部分——つまり本当に考えるべき場所に使えます。流れを持っていない人は、方針探しで時間を使い切り、考えるべき場所にたどり着く前に試験が終わります。同じ実力でも、点数が違ってしまう理由の多くはここにあります。
定石は、考えなくて済むようにするための道具ではありません。考えるべきところに、時間と気力を残すための道具です。問題が難しくなるほど、また試験時間が厳しくなるほど、この差は大きくなります。難関大学の数学で高得点を取っている人は、全部をその場でひらめいているのではなく、考えなくていいところで考えていないのです。
だからこの記事の目標は、こうなります
解法を覚えて、覚えた問題を解けるようにすること——ではありません。初めて見る難しい問題に出会ったときに、序盤で止まらず、制限時間の中で自分の頭を使いきれる状態を作ることです。27章ありますが、全部この一点のために書いています。
定石には「上から順」がある
もうひとつ重要なのは、定石には試す順番があるということです。たとえば図形の問題では、
- まず、中学校で習った図形の性質(初等幾何)で解けないか考える
- ダメなら、ベクトルを使う(ベクトルとは「向きと長さを持った矢印」のことで、高校の後半(数学C)で習います。点の位置や辺の関係を、矢印の足し算・引き算で計算できるようにした道具だと思ってください)
- それでもダメなら、座標を置く(図の上に方眼紙をかぶせて、点に (x, y) という番地をつけることです。中学で習った座標と同じ考え方です)
という順番があります。この順番には理由があって、上にあるものほど計算量が少なく、ミスが起きにくいのです。いきなり座標を置いて計算地獄にはまる人は、才能がないのではなく、順番を知らないだけです。
この記事では、分野ごとに「まず何を試すか」の順番も一緒に書いていきます。
2. 問題を「見る」──解き始める前の3分
数学が苦手な人の多くは、問題文を読み終わった瞬間にシャーペンを動かし始めます。これが遠回りの原因です。
できる人は、読み終わってからすぐには書き始めません。数十秒から数分、問題を「見て」います。この時間に何をしているのかを、はっきり言葉にします。
(1) 条件に印をつける
問題文に出てくる条件、たとえば「x は正の整数」「三角形 ABC は鋭角三角形」「a ≠ 0」といった文には、その場で丸をつけるか下線を引いてください。
理由は単純で、入試の数学では、与えられた条件はほぼ全部使うからです。裏を返すと、使っていない条件が残っていたら、その解答はまだ完成していない可能性が高いということです。これは行き詰まったときの強力なヒントになります(第7章でもう一度出てきます)。
また、条件の見落としは、そのまま失点になります。「正の整数」を見落として負の数まで答えに入れてしまう、というミスは、実力に関係なく起こります。印をつけるだけで、この種の失点はかなり減ります。
(2) 対称性があるかを見る
対称性というのは、入れかえても同じになる性質のことです。難しく聞こえますが、中学生でもすぐわかります。
例:x + y = 5、xy = 6
この2つの式で、x と y を入れかえてみてください。y + x = 5、yx = 6 となり、まったく同じ式に戻ります。これが「対称性がある」という状態です。
対称性があると、答えも対称になります。実際この答えは (x, y) = (2, 3) と (3, 2) で、きれいに入れかわった形になっています。
対称性が見つかると、計算量が半分以下になることがよくあります。図形なら「左右対称だから右半分だけ調べればいい」、式なら「入れかえても同じだから、まとめて扱える」となるからです。第14章でくわしく扱います。
(3) 図は大きく、正確に、そして一般的に描く
図形の問題で図を描くとき、次の3つを守ってください。
- 大きく描く:小さい図は、線が重なって見えなくなり、そこからミスが生まれます。ノートの4分の1くらいは使ってください。
- できるだけ正確に描く:正確な図は、それ自体がヒントになります。「この2点が重なって見える」「この角がだいたい直角に見える」といった発見は、正確な図からしか出てきません。
- 一般的な形で描く:これが意外と知られていません。三角形を描くとき、つい正三角形や直角三角形のようなきれいな形を描いてしまう人がいますが、これは危険です。特殊な図を描くと、その図でだけ成り立つ「たまたまの性質」を、いつでも成り立つと勘違いしてしまいます。辺の長さも角度もバラバラな、いびつな三角形を描いてください。
そして、わかったことは全部図に書き込みます。長さ、角度、直角の印、等しい辺の印。頭の中に置いておこうとすると必ず忘れます。図は「考えるための紙」です。
(4) 気づいたことは、すぐメモする
「これ、なんか合同っぽいな」「この式、二乗の和になってる」といった直感は、数秒で消えます。消えたあと、二度と戻ってこないこともあります。思いついたら、余白に一言でいいので書いてください。あとでその一言に救われることがあります。
(5) 複雑な書かれ方は、自分の言葉に書き直す
問題文が回りくどい場合、そのまま扱おうとすると混乱します。たとえば「2つの数の差が3以下である」なら、その場で |a − b| ≤ 3 と書き直してしまう。この「日本語を数式に直す作業」を、この記事では 和文数訳(わぶんすうやく) と呼びます。英語の和文英訳と同じ発想です。第4章でくわしくやります。
3. ゴールから逆算する
問題を見たら、次にやることは「何を求めればいいのか」をはっきりさせることです。当たり前に聞こえますが、行き詰まっている人の大半は、ここが曖昧なまま手を動かしています。
ゴールから必要なものをさかのぼる
数学の問題は、迷路と同じで出口から逆にたどると解きやすいことが多いです。
例:三角形 ABC の面積を求めたい。
面積を求めるには何が必要か? → 底辺と高さ、あるいは2辺とその間の角。
では、底辺と高さはわかるか? → 底辺 BC の長さはわかる。高さは?
高さを出すには? → A から BC に垂線を下ろした長さ。それは三平方の定理で出せそうだ。
三平方を使うには? → 直角三角形が必要。垂線を引けば作れる。
ここまでさかのぼって、はじめて「よし、垂線を引こう」という一行目が決まります。
この「ゴールから逆算する」やり方には、大きな利点があります。やることが一本道になるのです。前から順に「とりあえず何か計算しよう」とすると、使わない値をたくさん計算して時間を失います。
類題を思い出す
逆算のときに強力なのが、「この分野で、似た問題をどう解いたか」を思い出すことです。数学の問題は、完全な新作はほとんどありません。たいていは、過去に見たことのある問題の変形です。
だから、問題を解いたあとに「この問題は、どういう形の問題で、何をしたら解けたのか」を一行でメモしておくと、次に似た問題が来たときに引き出しが開きます。これが、いわゆる「解き直し」の本当の目的です。答えを覚えるためではなく、手順のラベルを作るためにやるのです。
複数分野の合体問題は、分解する
入試には「図形とベクトルと数列が混ざった問題」のような、いくつかの分野が合体した問題が出ます。これを丸ごと相手にすると手が出ません。
やることは分解です。「ここまでは図形の話」「ここからはベクトルの計算」「最後は数列」と、区切りを入れて、それぞれの分野の定石を当てます。分解できた瞬間、それぞれの部分は見たことのある問題になります。
本当に見たことのない問題は、実験する
それでも、まったく知らない設定の問題は出ます。そのときは実験です。小さい数を入れてみる、具体的に並べてみる、図を何枚か描いてみる。これは第6章でくわしく扱います。
幾何が先、計算はあと
最後にもうひとつ、順番のルールを言っておきます。図形が絡む問題では、まず図形として考えられないかを試し、無理なら計算に持ち込む。この順番を守ってください。
たとえば「点Pから直線ℓまでの距離が最小になるのはどこか」という問題。計算でやろうとすると、距離を式で表して、二乗して、平方完成して……となります。でも図形として見れば、「Pから ℓ に下ろした垂線の足」で一瞬です。
計算は、図形的に考えられなかったときの最後の手段だと思っておいてください。計算は必ず答えにたどり着きますが、その途中でミスをする確率も高いのです。
4. 和文数訳──日本語を数式に翻訳する
数学の問題文は日本語で書かれています。でも、数学の計算は数式でしかできません。つまり、問題を解くという行為の半分は、日本語を数式に翻訳する作業なのです。
英語の勉強で「和文英訳」をやりますよね。あれと同じで、数学には和文数訳があります。そして、これが苦手な人は、公式をいくら覚えても点が伸びません。翻訳できなければ、公式を使う場所にたどり着けないからです。
翻訳の練習:基本編
| 日本語 | 数式 |
|---|---|
| 2つの数の和が10、積が21 | x + y = 10 かつ xy = 21 |
| 連続する3つの整数 | n − 1, n, n + 1 |
| 3の倍数である | 3k(k は整数)と書ける |
| 3で割ると2余る | 3k + 2(k は整数)と書ける |
| 偶数である | 2k と書ける |
| 点 P が直線 ℓ 上にある | P の座標を ℓ の式に代入すると成り立つ |
| 2点 A, B から等距離にある | AP = BP(多くは二乗して AP2 = BP2) |
| 2直線が垂直 | 傾きの積が −1(ただし縦の直線は傾きを持たないので、この判定は使えません。第18章の形を使います)、またはベクトルの内積が0(内積とは、2本の矢印〈ベクトル〉の「向きの合い具合」を表す数です。同じ向きに近いほど大きく、直角のときちょうど0、逆向きならマイナスになります。高校の後半で習います) |
| a と b の差が3以下 | |a − b| ≤ 3 |
| すべての x で成り立つ | 最小値や最大値の条件に言いかえる |
| そのような x が存在する | 方程式が解をもつ条件に言いかえる |
この表を眺めて「そんなの当たり前じゃないか」と思った人もいるでしょう。でも、試験中に手が止まる場面の多くは、この当たり前の翻訳ができていないことが原因です。「条件を式にする」という一手間を飛ばして、いきなり計算を始めてしまうのです。
翻訳のコツ:「連続する3つの整数」を例に
ここで、翻訳にはうまい訳と下手な訳があることを見ておきます。
問題:連続する3つの整数の和は、3の倍数であることを示せ。
下手な訳:3つの整数を n, n + 1, n + 2 とおく。
和は n + (n + 1) + (n + 2) = 3n + 3 = 3(n + 1)。これでも解けます。
うまい訳:3つの整数を n − 1, n, n + 1 とおく。
和は (n − 1) + n + (n + 1) = 3n。一瞬で終わりました。
なぜ後者が速いのか。真ん中を基準にしたことで、左右が対称になり、−1 と +1 が打ち消し合ったからです。これが第2章で出てきた「対称性を使う」ということの、いちばん小さな例です。
つまり、翻訳の段階でどう文字をおくかによって、そのあとの計算量が何倍も変わります。「とりあえず x とおく」ではなく、「どうおけばラクになるか」を数秒考える価値があります。
難しい言葉の翻訳(高校範囲)
高校になると、翻訳すべき日本語が抽象的になります。代表的なものを挙げておきます。今すぐ理解できなくてかまいません。「こういう対応表があるんだ」と知っておくだけで、高校に入ってからの伸びが変わります。
- 「グラフが x 軸と接する」 → その点で重解をもつ。つまり (x − α)2 という因数をもつ(重解とは、2つあるはずの解がぴったり重なって1つになった状態のことです。α〈アルファ〉はその重なった解の値だと思ってください)
- 「2次方程式が実数解をもつ」 → 判別式 D ≥ 0(判別式とは、ax2 + bx + c = 0 に対する D = b2 − 4ac のことです。中学で習った解の公式の、√の中身そのものだと思ってください。中身が0より大きければ解が2つ、ちょうど0なら重解で1つ、負なら√が計算できないので実数の解はない、と判定できます。この記事でこのあと何度も出てくるので、ここだけ覚えておいてください)
- 「直線と線分が交わる」 → 直線の式を ax + by + c = 0 の形(右辺を0)に直してから、線分の両端の座標を左辺に代入する。その2つの値が異符号(またはどちらかが0)。2x + 3y = 6 のような形のまま代入すると判定を誤る
- 「円に接する」 → 円の中心から直線までの距離が、半径と等しい
- 「4点が同じ円周上にある」 → 向かい合う角の和が180°、または円周角が等しい、または方べきの定理
- 「すべての x で f(x) ≥ a」 → f(x) の最小値が a 以上
- 「ある x で f(x) ≥ a」 → f(x) の最大値が a 以上
最後の2つは特に重要です。「すべての」と「ある」は日本語では1文字しか違いませんが、数学では最小値と最大値というまったく逆のものに翻訳されます。ここを取り違えると、問題全体が別物になります。試験で「すべての」「ある」「任意の」「少なくとも1つの」という言葉を見たら、必ず丸をつけてください。
5. 未知数の数だけ式を作る
ここで、中学校で習った連立方程式の話をします。実はこれが、入試数学全体を貫く原則になっています。
原則:わからないもの(未知数)が n 個あるなら、式が n 個必要。
連立方程式で、x と y の2つがわからないときは、式が2本必要でしたね。1本では決まりません。これは中学で習ったとおりです。
この原則は、そのまま入試で使えます。行き詰まったとき、次の2つを数えてください。
- 未知数はいくつあるか
- 式はいくつ作れているか
式が足りないなら、まだ使っていない条件がどこかにあります。問題文に戻って、印をつけた条件を見直す。逆に式が多すぎるなら、どこかで同じことを2回式にしている可能性があります。
例:ある2次関数 y = ax2 + bx + c が、3点 (0, 1), (1, 4), (2, 11) を通る。この関数を求めよ。
未知数は a, b, c の3つ。だから式が3本必要。
そして「通る点」が3つ与えられている。1点につき1本の式が作れるので、ちょうど3本。
つまり、この問題は解ける形になっているとわかります。あとは代入して連立を解くだけです。
この「解けるかどうかを先に確認する」という感覚が持てると、途中で不安にならずに済みます。
未知数が減らせないか考える
未知数は少ないほどラクです。だから、立式のあとに「減らせないか」を必ず考えます。減らし方は主に2つ。
- 条件式で消す:x + y = 5 があるなら、y = 5 − x として y を消せば、未知数は1つになります。
- 置きかえでまとめる:x + y と xy だけで書けている式なら、x + y = u, xy = v とおくことで、x と y の2文字が u と v の2文字に変わります。文字の数は同じですが、扱いやすさがまったく違います(これが第14章の対称式の話です)。
ここで最重要の注意:文字を消したり置きかえたりしたとき、消えた文字が持っていた条件も一緒に消えてしまうことがあります。これが高校数学で最も多い失点原因です。
たとえば y = 5 − x で y を消したとき、もし問題文に「y は正の数」と書いてあったなら、その条件は 5 − x > 0、つまり x < 5 という形で残さなければいけません。消した文字の遺言を、残った文字に書き換えて引き継ぐ、というイメージです。第10章でくわしくやります。
6. わからないときは実験する
問題の意味そのものがわからない。何を聞かれているのかピンとこない。そんなときにやることは決まっています。実験です。
実験というのは、小さい数や簡単な場合を、実際に手で書き出してみることです。これは低レベルな行為ではありません。プロの数学者も同じことをします。むしろ、実験をせずに一般論から入ろうとするほうが、はるかに難しいことをやろうとしています。
実験の例1:規則を見つける
問題:1 + 3 + 5 + … + (2n − 1) はいくつになるか。
いきなり公式を思い出そうとせず、書き出します。
n = 1 のとき:1
n = 2 のとき:1 + 3 = 4
n = 3 のとき:1 + 3 + 5 = 9
n = 4 のとき:1 + 3 + 5 + 7 = 16
1, 4, 9, 16。……これは n2 ですね。
予想が立ちました。あとは「本当にいつでも n2 になるのか」を証明すればいい。証明の道具は、第19章で扱う数学的帰納法です。
ここで大事なのは、実験は「答えを予想するため」にやるということです。予想が立つと、証明はぐっとラクになります。ゴールがわからないまま歩くのと、ゴールの場所を知って歩くのとでは、まったく違うからです。
実験の例2:問題の意味をつかむ
確率の問題で「何を数えればいいのかわからない」というときは、樹形図を描く。これも実験です。全部は描けなくても、最初の2〜3段だけ描けば、構造が見えてきます。
整数の問題で「どんな数が条件を満たすのかわからない」というときは、1, 2, 3, 4, 5 と順に代入してみる。これも実験です。たいてい、3つか4つ試したところで規則が見えます。
実験の作法
- 小さい数から:n = 1, 2, 3 と順に。いきなり n = 10 でやると、計算に埋もれて規則が見えません。
- 表にする:バラバラに書くと比べられません。縦に並べて表にすると、差や比がひと目でわかります。
- 極端な場合も見る:n = 0 や n = 1 のような「ギリギリの場合」を見ると、問題の性質がよく見えます。ここは場合分けが必要になる場所でもあります。
- 実験結果は消さない:答案の余白に残しておけば、あとで見返せます。
7. 手が止まったときの引き出し8つ
ここがこの記事のいちばん実用的な部分かもしれません。試験中、手が止まったときにやることを、順番に並べます。上から順に見ていってください。全部を機械的に試すための一覧ではありません。いまの問題に効きそうなものに当たりをつけて、考える範囲を狭めるための一覧です。
引き出し1:求めるものを、もう一度読む
まずこれです。冗談ではなく、行き詰まりの何割かは「何を求めるのか忘れている」ことが原因です。途中計算に集中していると、ゴールを見失います。問題文の最後の一文をもう一度読んでください。それだけで「あ、これはもう出てる」となることがあります。
引き出し2:使っていない条件を探す
第2章で条件に印をつけましたね。その印を見直して、まだ使っていない条件がないか確認します。入試問題では、与えられた条件はほぼ確実に全部使います。使っていない条件があるなら、それが次の一手です。
「なぜこの条件がわざわざ書いてあるのか?」と自問してください。出題者は無駄なことを書きません。
引き出し3:前の小問を使う
大問が (1) (2) (3) と分かれているとき、(1) は (2) のヒントです。これはほぼ例外がありません。(2) で詰まったら、(1) の答えをじっと見てください。
「(1) でこれを求めさせたということは、(2) でこれを使ってほしいということだ」と考える。これは推理ではなく、出題者との会話です。
もし (1) が解けていなくても、(1) の結果を「与えられたもの」として (2) を解いてかまいません。答案には「(1) の結果より」と書けばよく、部分点がもらえます。
引き出し4:難しくしている原因を取り除く
「何がこの問題を難しくしているのか」を1つだけ特定します。文字が多い、根号がある、絶対値がある、場合分けが多い……。原因がわかったら、それを消しにいきます。
- 文字が多い → 置きかえ、対称性の利用、条件式で消す
- 根号がある → まるごと置きかえる、または二乗する
- 絶対値がある → 中身の正負で場合分け、またはグラフで考える
- 条件が複雑 → まず必要条件だけで攻めて、あとで確かめる
引き出し5:必要条件で攻める
これは高校数学の重要テクニックなので、少していねいに説明します。
「条件を全部同時に満たすもの」を一気に探すのは大変です。そこで、まず条件の一部だけを使って候補を絞り、あとでその候補が本当に全部の条件を満たすかを確かめるという手を使います。
例:すべての実数 x で ax2 + bx + c = 0 が成り立つとき、a, b, c を求めよ。
「すべての x で」を一気に扱うのは大変です。そこで、x に都合のいい値を入れてしまいます。
x = 0 を入れると c = 0。
x = 1 を入れると a + b + c = 0。
x = −1 を入れると a − b + c = 0。
この3本を解いて a = b = c = 0。
ただし、ここで終わってはいけません。今やったのは「もし成り立つなら、a = b = c = 0 でなければならない」という必要条件の話だけです。必要条件とは、「答えであるためには、少なくともこれだけは満たしていないといけない」という条件のこと。容疑者リストだと思ってください。本物は必ずこのリストの中にいますが、リストに載っている人が全員犯人とはかぎりませんね。
だから最後に「逆に a = b = c = 0 のとき、確かにすべての x で成り立つ」と一言書いて、十分性を確認します。十分性の確認とは、候補を元の問題に戻して、本当に条件を全部満たすか確かめる作業のことです。これで完成です。(この「行き」と「帰り」の考え方は、第11章の ⇒ と ⇔ のところでもう一度きちんと扱います。今は「絞ってから確かめる」の2段階だと思っておいてください。)
「必要条件で絞る → 十分性を確認する」。この2段階は、答案の型として覚えてしまってください。
引き出し6:特殊な場合を考えて、そこから広げる
一般の場合が難しければ、まず特別な場合を解いてみます。三角形の問題なら、まず正三角形で考える。n が絡む問題なら、n = 2 で考える。
特別な場合で解けると、その解き方が一般の場合でも通用することがよくあります。少なくとも、答えの形の予想はつきます。
引き出し7:背理法を使う
「複雑な条件 ⇒ 単純な結論」を示すとき、背理法が有効です。
背理法とは、「結論が成り立たないと仮定すると、おかしなことになる。だから結論は成り立つ」という論法です。中学生でも追える例で言うと、こうです。席が30個しかない教室に、31人が入りました。 ここで「どの席にも、座っているのは多くて1人だ」と仮定してみます。すると座れるのは多くても30人。ところが実際は31人いるのですから、話が合いません。おかしくなったのは仮定のせいなので、「2人以上が座っている席が必ずある」と言えるのです。これが背理法です。(有名な「√2 が無理数であることの証明」も背理法で行いますが、あれは高校で習うものなので、いまは名前だけ知っておけば十分です。)
なぜ有効かというと、使える条件が1つ増えるからです。もともとの条件に加えて「結論の否定」という条件が手に入るので、材料が豊富になります。行き詰まったとき、材料が増えるのはありがたいことです。
引き出し8:とにかく実験する
全部ダメだったら、第6章に戻って実験です。手を動かしていれば、必ず何か見えます。何も書かずに10分考えるより、5個実験したほうが早く進みます。
引き出しの順番(丸暗記するものではありませんが、この順番だけは手が止まったときに効きます)
① 求めるものを再確認 ② 未使用の条件 ③ 前の小問 ④ 難しさの原因を除く ⑤ 必要条件で攻める ⑥ 特殊な場合から ⑦ 背理法 ⑧ 実験
8. 答えが出たら必ずやる4つの確認
答えが出た瞬間、うれしくなって次の問題に行きたくなります。そこをこらえて、30秒だけ確認に使ってください。 ここで拾える点数は、新しい問題を1問解くより多いことがあります。
確認1:具体的な値を代入する
いちばん強力な確認です。求めた答えを、元の式や元の条件に入れてみる。合わなければ、どこかで間違えています。
連立方程式なら、答えを両方の式に代入する。関数を求めたなら、通るはずの点を入れてみる。数列の一般項を求めたなら、n = 1 と n = 2 を入れて、最初に書き出した値と一致するか見る。
確認2:対称性が崩れていないか
問題の条件が対称だったのに、答えが対称でなかったら、ほぼ確実にミスです。たとえば「a と b を入れかえても同じ問題」なのに、答えが a について複雑で b について単純だったら、計算のどこかが狂っています。
これは、計算をやり直さなくても見た目だけで異常が検知できるので、非常にコスパの良い確認です。
確認3:常識・直感と合っているか
- 確率が1を超えていないか、負になっていないか
- 長さや面積が負になっていないか
- 人数や個数が整数になっているか
- 図から見て、明らかにおかしい位置に点が来ていないか
- 「だいたいこのくらい」という感覚と、桁が違っていないか
数学が得意な人ほど、この「常識チェック」を大事にしています。計算は間違えるものだという前提に立っているからです。
確認4:問題文をもう一度読む
これを怠る人が本当に多いです。 最後にもう一度、問題文を読んでください。見るポイントは3つ。
- 全部に答えたか:「a と b を求めよ」なのに a しか答えていない、というミスは驚くほど多いです。
- 条件を落としていないか:「正の整数」「実数」「鋭角三角形」といった条件に照らして、答えが範囲内か。
- 場合分けを忘れていないか:答えが1つだけになっているが、本当は2つあるのでは?
複雑な計算は、間違っている前提で扱う。 長い計算をしたあとは、その結果を使う前に必ず見直してください。途中で間違えた式を使って、そのあと10行計算しても、全部無駄になります。2〜3行ごとに軽く見返すくらいの頻度がちょうどいいです。
9. 答案の書き方──点をもらうための技術
記述式の試験では、答えが合っているかどうかだけで点が決まるわけではありません。書き方で点が変わります。ここは中学の定期テストでも使えるので、今日から実行してください。
(1) 書いたものを消さない
計算をやり直したくなったとき、書いたものを消しゴムで消していませんか。やめてください。
理由は2つ。ひとつは、消したあとで「やっぱり最初の方針が正しかった」と気づくことがあるからです。消してしまうと復元できません。もうひとつは、途中まで正しい方針が書いてあれば、部分点がもらえる可能性があるからです。消したら0点、残せば数点。この差は大きいです。
いらなくなった部分は、四角で囲んで大きくバツをつけ、「これは答案ではありません」とわかるようにしておけば十分です。本当にスペースが足りなくなったときだけ、そこを消して新しい解答を書けばいい。答案は上から順に書かなければならない、というルールはありません。 順番がわかるように矢印や番号を振っておけば、採点者は読んでくれます。
(2) 日本語の説明を省かない
式だけを並べた答案は、読み手に何をしているのか伝わりません。「〜より」「〜とおくと」「よって」「ここで」といった言葉を入れてください。
最大の理由は、計算ミスをしたときに救われるからです。「点 A から直線 BC に垂線を下ろし、その足を H とする。△ABH に三平方の定理を用いると」と書いてあれば、そのあとの計算が間違っていても、方針が正しいことは伝わります。方針点がもらえます。
逆に、式しか書かず、最後の答えが間違っていたら、その答案は0点です。日本語は保険です。
(3) 図や表に番号をつける
図を描いたら「図1」、増減表を書いたら「表1」と名前をつけてください。そうすると、答案の中で「図1より」「表1より」と書けます。
これには3つの利点があります。採点者にわかりやすいこと、自分が書く量が減って時間が短縮できること、そして「右図より」のような曖昧な表現を避けられることです。「右図」と書いても、答案の途中で図が別の場所に移動したら意味が通じなくなります。
(4) 場合分けは見出しをつける
場合分けをするときは、「(i) a > 0 のとき」「(ii) a = 0 のとき」「(iii) a < 0 のとき」のように、見出しをはっきり書きます。だらだら続けて書くと、自分でもどこまでが何の話かわからなくなり、場合分けの抜けにつながります。
(5) 最後に結論をもう一度書く
計算の一番下に、答えだけをもう一度書いてください。「よって、求める面積は 12」のように。採点者が答えを探さなくて済みますし、自分でも「何を答えたか」を確認できます。
確認問題(第1部)
第1部はここまでです──「読むだけでは身につかない」と何度も書いてきたので、ここで3問だけ手を動かしてもらいます。
3問とも、聞いているのは計算力ではありません。「どの定石を使う場面か」に気づけるかどうかです。紙とえんぴつを用意して、1問5分まででかまいません。
問1 和が12になる2つの正の整数の組(同じ数どうしでもかまいません)のうち、積がいちばん大きくなるのはどの組ですか。あわせて、この問題で最初にやることは第1部のどの定石か答えてください。
問2 次のような大問があります。
(1) (a + b)2 − (a − b)2 を展開して整理せよ。
(2) a + b = 7、a − b = 3 のとき、ab の値を求めよ。
(2) で手が止まったとします。次の一手は第1部のどの定石ですか。その定石に従って、実際に (2) を解いてください。
問3 「ある数を2乗して1を引くと24になります。ある数を求めなさい」という問題に、5 とだけ答えた答案があります。この答案の取りこぼしは、第8章の4つの確認のうちどれを使えば見つかりますか。また、正しい答えは何ですか。
確認問題の解答と、使った定石
問1 答えは 6 と 6(積は36)。使った定石は 第6章の「わからないときは実験する」です。
組は6通りしかないので、全部書き出せます。
1と11 → 11 / 2と10 → 20 / 3と9 → 27 / 4と8 → 32 / 5と7 → 35 / 6と6 → 36
書き出しさえすれば、迷う場所がありません。「公式を思い出せないから解けない」ではなく、手を動かせば終わる問題だった、というのがこの問題の正体です。
また、書き出す前に「たぶん半分ずつのあたりが大きいのでは」と当たりをつけられた人は、第2章の対称性を使っています。2つの数を入れかえても問題文が同じだからです。ただし、ここは大事なので注意しておきます。「対称だから必ず同じ数が答え」というルールではありません。 第2章に出てきた x + y = 5、xy = 6 の答えは (2, 3) と (3, 2) で、2つの数は違いました。対称性は答えを決めてくれるのではなく、当たりをつけてくれるだけです。最後は必ず実験か計算で確かめてください。
(高校範囲の予告編) 高校で「平方完成」という変形を習うと、一方を x として積は x(12 − x) = −(x − 6)2 + 36 と書き直せて、x = 6 のとき最大36だとわかります。いまは x が1から11までの整数に限られていますが、最大を与える x = 6 がちょうど整数なので、書き出したときと同じ答えになります。意味がわからなくてまったくかまいませんし、覚える必要もありません。実験でやったことを一発で済ませる道具が高校にある、とだけ知っておいてください。
問2 次の一手は 第7章の引き出し3「前の小問を使う」です。答えは (1) が 4ab、(2) が ab = 10。
(2) で求めたいのは ab。そして (1) では 4ab が出ています。ということは、4ab を作れば ab にたどり着ける。この「ほしいものから逆にたどる」動きが 第3章の「ゴールから逆算する」です。
4ab = (a + b)2 − (a − b)2 = 72 − 32 = 49 − 9 = 40 よって ab = 10。
もちろん、連立方程式を解いて a = 5、b = 2 を出してから ab = 10 としても正解です。ただ、(1) がわざわざ置いてあるのは「これを使ってください」という出題者からの合図でした。a と b を1つずつ求めなくても答えが出る、というところがこの定石のうまみです。
最後に 第8章の確認1(代入して確かめる)もやっておきます。a = 5、b = 2 は確かに a + b = 7、a − b = 3 を満たし、ab = 10 になっています。
問3 使うのは 第8章の確認4「問題文をもう一度読む」、その3つ目の「場合分けを忘れていないか」です。正しい答えは 5 と −5 の2つ。
2乗して1を引くと24になるのだから、2乗すると25になる数を探しています。25になるのは 5 だけではなく −5 もあります。実際 (−5)2 − 1 = 25 − 1 = 24 です。
ここでいちばん覚えてほしいのは、確認1(代入して確かめる)では、この取りこぼしは見つからないということです。5 を代入すれば、ちゃんと24になってしまうからです。代入は「書いた答えが正しいか」を調べる道具であって、「ほかにも答えがないか」は教えてくれません。答えの取りこぼしを見つける係は、確認4なのです。4つの確認を全部やる意味は、ここにあります。
3問とも、聞いていたのは計算力ではなく「どの引き出しを開けるか」でした。答えが合っていたかどうかより、解き始める前に定石の名前が頭に浮かんだかを振り返ってください。浮かばなかった問題があれば、その章だけもう一度読めば十分です。
第2部 ミスの正体をつかむ
ここからは、数学の失点の中で最も多く、そして最も直しやすい部分を扱います。計算力の問題ではありません。ルールを知らないだけで落としている点を、拾いにいきます。
10. 「条件を落とす」という最大のミス
高校数学でいちばん多い失点は、計算ミスではありません。条件を落とすことです。もっと具体的に言うと、文字が動ける範囲を忘れることです。
なぜ範囲を忘れると間違うのか
例:x + y = 4、x ≥ 0、y ≥ 0 のとき、xy の最小値を求めよ。
まちがった解き方:y = 4 − x を代入して xy = x(4 − x) = −x2 + 4x。これは上に凸の放物線だから、最小値は存在しない(いくらでも小さくなる)……?
何が起きたか:y を消した瞬間に、y ≥ 0 という条件が消えてしまいました。本当は y = 4 − x ≥ 0、つまり x ≤ 4 という条件が残るはずです。x ≥ 0 と合わせて 0 ≤ x ≤ 4。この範囲で −x2 + 4x の最小値は、両端の x = 0 または x = 4 で 0 です。
この失敗は、実力のある人でも普通に起こします。だから対策は、実力を上げることではなくルールを決めておくことです。
ルール:文字を消したら、その文字の条件を残った文字の言葉で書き直す。
「文字は死んでも、条件は死なない」と覚えてください。消した文字の遺言を、生き残った文字が引き継ぐイメージです。
忘れやすい条件の一覧
次にあげるものは、書いていなくても勝手についてくる条件です。問題文に書かれていないので、意識していないと必ず落とします。
| 場面 | 隠れている条件 |
|---|---|
| 分数が出てきた | 分母 ≠ 0 |
| √ が出てきた(実数の範囲で) | 中身 ≥ 0 |
| 対数 loga x が出てきた(高校2年で習います。loga x は「a を何乗すると x になるか」を表す数で、たとえば log2 8 = 3。小さく書く a を底(てい)、右の x を真数(しんすう)といいます) | x > 0、a > 0、a ≠ 1 |
| 長さ・面積・体積を文字でおいた | その文字 > 0 |
| 人数・個数・回数を文字でおいた | 正の整数(0を含むかは要確認) |
| 確率を文字でおいた | 0 ≤ p ≤ 1 |
| tan θ を使った | θ が90°、270°…でない |
| 三角形の3辺を a, b, c とおいた | 三角形の成立条件(どの2辺の和も残りの辺より大きい) |
| 自分で「x ≤ y」と大小を仮定した | 最後にその仮定を外して答えを完成させる必要あり |
「自分でつけた条件」を忘れる
特に注意してほしいのが、最後の行です。整数問題などで「対称だから x ≤ y ≤ z としてよい」と仮定して解くことがあります(第20章で扱います)。これは正しい作戦ですが、最後にその仮定を外して、入れかえたものも全部答えに含める必要があります。これを忘れると、答えが3分の1になったりします。
「今見ているものは本当に実数か」
高校数学の後半では、複素数が出てきます。ここでも条件落としが起きます。
- 判別式で解の個数を判定できるのは、係数が実数のときだけです。
- 「虚数解をもつなら、その共役も解になる」というのも、係数が実数のときだけです。
今はピンとこなくてかまいません。「便利な性質には、必ず前提条件がついている」ということだけ覚えておいてください。
11. 同値変形入門──「⇔」ってなんですか
高校数学の教科書やチャート式に、⇔ という記号が出てきます。これが読めるかどうかで、数学の理解の深さがはっきり変わります。中学生にもわかるように、ゼロから説明します。
「⇒」と「⇔」の違い
- A ⇒ B:「A ならば B」。A が成り立てば、B も成り立つ。逆は保証しない。
- A ⇔ B:「A と B は同じこと」。A から B が言えて、B から A も言える。行きも帰りもOK。
例:「正方形である ⇒ 長方形である」 これは正しい。
でも「長方形である ⇒ 正方形である」は間違い。
だから「正方形 ⇔ 長方形」ではありません。片道だけの関係です。
方程式を解くというのは、「⇔ でつながった変形を繰り返して、答えの形にたどり着くこと」です。ここで、うっかり「片道だけ」の変形をしてしまうと、答えが増えたり減ったりします。
やってはいけない変形1:両辺を二乗する(答えが増える)
x = 3 の両辺を二乗すると x2 = 9。
ところが x2 = 9 を解くと x = 3 または x = −3。−3 が増えました。
つまり「x = 3 ⇒ x2 = 9」は正しいけれど、逆は正しくない。二乗は片道の変形です。
√ を含む方程式を解くときに二乗するのは定番のやり方ですが、二乗した瞬間に「本物ではない答え」が混ざり込みます。だから最後に、出てきた答えを元の式に代入して、本当に成り立つかを確かめる必要があります。これを解の吟味といいます。
やってはいけない変形2:文字で割る(答えが減る)
x2 = 3x という方程式。両辺を x で割ると x = 3。
でも本当の答えは、x2 − 3x = 0 ⇔ x(x − 3) = 0 ⇔ x = 0 または x = 3。
x = 0 が消えました。 なぜかというと、x で割る操作は「x ≠ 0」をこっそり前提にしているからです。
鉄則:文字で割るときは、必ず「その文字が0の場合」と「0でない場合」に場合分けする。
あるいは、割らずに移項して因数分解する。こちらのほうが安全で、実際に上手な人は割らずに因数分解します。
やってはいけない変形3:不等式に負の数をかける
これは中学で習いますが、高校でもミスの元になります。
2 < 3 の両辺に −1 をかけると −2 > −3。不等号の向きが変わります。
怖いのは、文字をかけたり文字で割ったりする場合です。a の符号がわからないまま a で割ると、不等号の向きが正しいかどうか決まりません。だから、文字で割る前には必ず符号を確認するか、場合分けをします。
不等号の等号は、理由がなければ付ける
小さなコツですが効きます。a < b が成り立つなら、a ≤ b も成り立ちます(「より小さい」なら「以下」でもある)。逆に、本当は等号が成り立つ場合があるのに a < b と書いてしまうと、それは誤りになります。
つまり、迷ったら等号を付けておくほうが安全です。「≤ と書いておけば、少なくとも誤りにはならない」という性質を覚えておいてください。
絶対値の同値変形
よく使うものを1つだけ挙げます。
|a| < b ⇔ −b < a < b
これは絶対値を「0からの距離」と考えれば当たり前です。0からの距離が b 未満ということは、数直線上で −b と b の間にいるということですから。絶対値は、場合分けする前に、まず図(数直線)で考えるのがコツです。
連立方程式の同値変形
中学で習った加減法・代入法にも、実はルールがあります。
- 代入法:y = f(x) を別の式に代入するとき、代入元の式 y = f(x) を消してはいけません。残しておかないと、y の情報が失われます。
- 加減法:2つの式を足したり引いたりするときは、元に戻せる形にしておく必要があります。片方の式はそのまま残しておくのが安全です。
中学ではあまり意識せずにやっていたと思いますが、高校で複雑な連立を扱うようになると、この「残しておく」が効いてきます。
「かつ」と「または」の切りかえ
同値変形でもうひとつ、知っておくと強い型があります。「かつ」と「または」が入れかわる場面です。記号を1つだけ用意します。min{a, b} は「a と b のうち小さいほう」、max{a, b} は「a と b のうち大きいほう」という意味です。たとえば min{3, 5} = 3、max{3, 5} = 5。それだけです。
この記号を使うと、次の4つが成り立ちます。覚える必要はありません。声に出して読めば、当たり前だと気づけます。
min{a, b} ≥ c ⇔「a ≥ c かつ b ≥ c」
声に出すと:いちばん小さいほうが c 以上なら、もう片方はそれ以上なのだから、当然 c 以上。つまり両方が c 以上。
min{a, b} ≤ c ⇔「a ≤ c または b ≤ c」
声に出すと:小さいほうが c 以下になるのは、どちらか片方でも c 以下のとき。両方そろう必要はありません。
max{a, b} ≥ c ⇔「a ≥ c または b ≥ c」
声に出すと:大きいほうが c 以上になるのは、どちらか片方でも c 以上のとき。
max{a, b} ≤ c ⇔「a ≤ c かつ b ≤ c」
声に出すと:いちばん大きいほうが c 以下なら、全員そろって c 以下。
並べて見比べてください。min のほうは「≥ ならかつ、≤ ならまたは」。max のほうはちょうどその逆です。min と max を取りちがえると、「かつ」と「または」が丸ごと入れかわってしまいます。
数を入れて確かめてみましょう:a = 2、b = 5、c = 3 とします。
min{2, 5} = 2 なので、min{a, b} ≥ 3 は成り立ちません。右側は「2 ≥ 3 かつ 5 ≥ 3」で、前半がウソだから成り立ちません。ちゃんと一致しています。
いっぽう min{a, b} ≤ 3 は 2 ≤ 3 なので成り立ちます。右側は「2 ≤ 3 または 5 ≤ 3」で、前半が本当だから成り立ちます。これも一致します。
同じことを max でもやってみてください。max{2, 5} = 5 です。自分の手で一度確かめておくと、試験中に迷いません。
これが効く場面──「すべての」と「ある」
ここからは高校範囲の予告編です。いま意味がわからなくてかまいません。こういう道具があると知っておくだけで十分で、公式として覚える必要はまったくありません。
第4章の和文数訳のところで、「すべての x で成り立つ」「ある x で成り立つ」という日本語を扱いました。実はあれが、いま見た min と max の話そのものです。
- 「すべての x で f(x) ≥ a」 → どの x でも成り立ってほしいのだから、いちばん小さい値が a 以上であればよい。これはかつの仲間です。
- 「ある x で f(x) ≥ a」 → どれか1つで成り立てばよいのだから、いちばん大きい値が a 以上であればよい。これはまたはの仲間です。
2つの数 a, b でやっていたことを、たくさんの値に広げただけです。つまり、不等号が ≥ のときは「すべて」が最小値、「ある」が最大値。この対応が頭にあるだけで、和文数訳の精度が上がります。
向きに注意:さきほどの min・max の4つと同じで、不等号が ≤ になると、最小値と最大値がそっくり入れかわります。「すべての x で f(x) ≤ a」は最大値が a 以下、「ある x で f(x) ≤ a」は最小値が a 以下です。「すべて=最小値」と丸暗記すると、ここで必ず事故ります。暗記ではなく、毎回「どの x でも成り立ってほしいのか、1つでもあればいいのか」と声に出して考えてください。
もうひとつ、この言いかえが使えるのはその最小値・最大値がちゃんと存在するときです。「いつも M 以下だから最大値は M」とは言えない、という話は第13章で扱います。最大・最小の定義そのものが、ここでも効いてきます。
おまけ:分数の符号は、かけ算に直せる
同値変形の小技をもう1つだけ。b ≠ 0 のとき、a/b と ab は必ず符号が同じになります(どちらも0になる場合も含めて、正・負・0が一致します)。理由は簡単で、a/b = ab ÷ b2 と書きかえられて、b2 > 0 だからです。正の数で割っても符号は変わりません。だから
a/b > 0 ⇔ ab > 0
分母を「払う」のではなく、分母をかけて分数を消すと思ってください。たとえば a = −2、b = −3 なら a/b = 2/3 > 0、ab = 6 > 0。たしかに一致しています。
ここだけは注意:等号が入ると話が変わります。正しくは
a/b ≥ 0 ⇔「ab ≥ 0 かつ b ≠ 0」
です。b ≠ 0 を書き落とすと誤りになります。たとえば a = 5、b = 0 は ab = 0 なので ab ≥ 0 を満たしてしまいますが、5 ÷ 0 は計算できないので、もとの式はそもそも意味を持ちません。> のときは ab > 0 から自動的に b ≠ 0 が出るので、書かなくても平気なのです。第10章で見た「分母 ≠ 0」という隠れた条件が、ここでも顔を出しています。
12. 場合分けの作法
場合分けは、多くの人が苦手にしています。でも、ルールは2つしかありません。
ルール1:漏れがないこと(全部を言い尽くしていること)
ルール2:漏れさえなければ、重なっていてもよい
2つめは意外に思うかもしれません。学校では「重ならないように分けなさい」と習ったかもしれません。でも実際には、重なりを避けようとして漏れが出るほうが、はるかに危険です。
たとえば x ≥ 0 と x < 0 に分けるところを、x ≥ 0 と x ≤ 0 に分けても、x = 0 が両方に入るだけで、答えは変わりません(式変形に支障がない場合)。それより、x > 0 と x < 0 に分けて x = 0 を落とすほうがずっと怖いのです。
場合分けが必要になる典型パターン
- 絶対値:中身が正のときと負のとき。
- 文字で割るとき:0のときと0でないとき。
- 係数が0になりうるとき:ax2 + bx + c は、a = 0 なら2次式ではありません。これは非常によく狙われます。「2次方程式」と書いてあれば a ≠ 0 が保証されますが、ただ「方程式」と書いてあるだけなら、a = 0 の場合を考える必要があります。
- 等比数列:公比が1のときと1でないとき。和の公式が使えるのは公比が1でないときだけです。
- 数列の一般項:n = 1 のときと n ≥ 2 のとき。階差数列を使ったときは特に注意。
- 図が変わるとき:辺の長さの大小によって、垂線の足が線分の内側に来るか外側に来るかが変わる、といった場合です。自分が描いた図が、本当にすべての場合を表しているかを疑ってください。
- 角が鋭角か鈍角か:これによって点の位置が変わることがあります。
図の場合分けを見落とさないために
図形問題で最も見落としやすいのが、最後の項目です。自分が描いた1枚の図で考えていると、「別の配置」の存在に気づきません。
対策は、極端な図をもう1枚描いてみることです。「この辺をうんと長くしたらどうなる?」「この角をうんと小さくしたらどうなる?」と動かしてみると、配置が変わる瞬間が見つかります。その瞬間が、場合分けの境目です。
13. 最大・最小の本当の意味と「等号成立」
この章は短いですが、非常に重要です。大人でも間違えている人がいる話です。
最大値の定義
f(x) の最大値が M であるとは、次の2つが両方成り立つことです。
(1) どんな x に対しても f(x) ≤ M である(いつも M 以下)
(2) f(x) = M となる x が実際に存在する(M になる瞬間がある)
(2) が抜けている人が本当に多いです。「M 以下だから最大値は M」は間違いです。M になる瞬間がなければ、M は最大値ではありません。
まちがいの例:x2 ≥ −10 は、どんな実数 x でも正しい式です。では x2 の最小値は −10 でしょうか?
もちろん違います。x2 = −10 になる実数 x は存在しないからです。正しい最小値は 0(x = 0 のとき)です。
「不等式が成り立つ」ことと「それが最大値・最小値である」ことは、まったく別のことです。
だから「等号成立」を確かめる
不等式を使って最大値や最小値を求めたときは、必ず「等号が成立するのはどんなときか」を書いてください。それが (2) の確認になります。
高校で習う相加平均・相乗平均の関係を例にします。まず言葉から説明します。相加平均とは、みなさんがふだん「平均」と呼んでいるもの、つまり (a + b) ÷ 2 のことです。相乗平均とは、足すかわりにかけてから√をとったもの、つまり √(ab) のことです。
たとえば a = 2、b = 8 なら、相加平均は (2 + 8) ÷ 2 = 5、相乗平均は √(2 × 8) = √16 = 4。相乗平均のほうが小さいですね。これがいつでも成り立つ、というのがこの関係の中身です。
a > 0、b > 0 のとき、a + b ≥ 2√(ab)(両辺を2で割ると (a + b) ÷ 2 ≥ √(ab) となり、たしかに「相加平均 ≥ 相乗平均」の形になっています)。等号が成立するのは a = b のとき。
使い方の例:x > 0 のとき、x + 1/x の最小値を求めよ。
x > 0 かつ 1/x > 0 なので、相加相乗の関係より
x + 1/x ≥ 2√(x · 1/x) = 2√1 = 2
ここで終わってはいけません。等号成立を確認します。
等号は x = 1/x のとき、つまり x2 = 1、x > 0 より x = 1 のとき。
このとき確かに 1 + 1 = 2 になっています。よって最小値は 2(x = 1 のとき)。
「等号成立するのは x = 1 のとき」という一行がなければ、この答案は減点されます。そして、その一行があるかどうかは、あなたが定義を理解しているかどうかを、採点者にそのまま伝えます。
逆に、等号を確かめなくていい場合
関連して、こんな話もあります。「a ≤ b を示せ」と言われたとき、等号が成立する場合を探す必要は必ずしもありません。a < b を示せば、a ≤ b は自動的に成り立つからです。
そもそも、その不等式では等号が成立しないかもしれません。「等号はいつ成り立つんだろう」と悩む時間が無駄になることもあります。等号成立を調べるのは、最大値・最小値を主張したいときと、問題文で求められたときだと整理しておいてください。
確認問題(第2部)
この4つの章は、読んだだけでは身につきません。次の3問は計算力を聞いていません。「どの定石を使う場面かに気づけるか」だけを聞いています。5分だけ手を動かしてから、解答を見てください。
問1 周の長さが 20cm の長方形について、縦の長さを x cm とおいて面積 S を表したところ、S = x(10 − x) となりました。この答案には書き忘れているものが1つあります。それは何でしょう。
問2 方程式 (x − 3)(x + 2) = (x − 3)(2x − 5) を、ある人が次のように解きました。
「両辺を x − 3 で割ると x + 2 = 2x − 5。よって x = 7」
この解答は不完全です。どこがまずいかを指摘して、正しい答えを書いてください。
問3 x は 3 以上の実数とします。ある人が次のように答えました。
「(x − 1)2 ≥ 0 だから x2 − 2x ≥ −1。よって x2 − 2x の最小値は −1」
この答えは正しいでしょうか。正しくないなら、その理由と正しい最小値を答えてください。
解答と解説
問1:書き忘れているのは x の範囲、0 < x < 10 です。
長方形の周の長さは(縦+横)×2 ですから、横の長さを y cm とおくと 2(x + y) = 20、つまり x + y = 10。y = 10 − x として y を消したわけですが、y には「長さだから y > 0」という条件がついていました。x の言葉に翻訳すると 10 − x > 0、つまり x < 10。x > 0 と合わせて 0 < x < 10 です。範囲を書かないと x = 12 を入れて S = −24 と計算できてしまいます。面積が負の長方形はありません。
使った定石は第10章の「文字を消したら、その文字の条件を残った文字の言葉で書き直す」です。
問2:まずいのは「両辺を x − 3 で割る」ところです。x − 3 = 0 の場合、つまり x = 3 を捨ててしまっています。正しい答えは x = 3 と x = 7 の2つです。
安全なやり方は、割らずに移項して因数分解することです。
(x − 3){(x + 2) − (2x − 5)} = 0
(x − 3)(7 − x) = 0
よって x = 3 または x = 7。x = 3 のとき両辺とも 0、x = 7 のとき両辺とも 36 で、たしかに両方が答えです。
使った定石は第11章「文字で割ると答えが減る」と第12章「文字で割るときは0のときと0でないときに分ける」です。上手な人はそもそも割らずに因数分解します。
問3:正しくありません。正しい最小値は 3(x = 3 のとき)です。
x2 − 2x ≥ −1 という不等式そのものは正しいです。おかしいのは「だから最小値は −1」と言ったところ。−1 になるのは x = 1 のときですが、それは「3 以上」という条件を満たしていません。−1 になる瞬間が存在しないのですから、最小値ではないのです。
では本当の最小値は何か。x2 − 2x = x(x − 2) と因数分解すると、x ≥ 3 では x も x − 2 も正で、x を大きくすると両方とも大きくなります。だからいちばん小さいのは端の x = 3 のときで 3 × 1 = 3。x = 4 なら 4 × 2 = 8 で、たしかに大きくなっていますね。
使った定石は第13章の「最小値だと言うには、その値に実際になる瞬間が必要」です。等号成立が範囲の外だと気づけたのは、第10章のとおり x ≥ 3 を落とさなかったからです。
第3部 式の顔つきで方針を決める
ここからは、式を見た瞬間に方針を決めるための知識を扱います。「この形が来たら、これをやる」という対応表です。数学ができる人が一瞬で方針を決められるのは、この対応表を持っているからです。
14. 対称性──ラクをするための最大の武器
第2章で少し触れた対称性を、ここできちんと扱います。対称性は、入試数学で最も見返りの大きい着眼点です。
対称式とは
文字を入れかえても変わらない式を、対称式といいます。
- x + y → 入れかえると y + x。同じ。対称式。
- x2 + y2 → 入れかえても同じ。対称式。
- x − y → 入れかえると y − x。符号が反転。これは交代式といいます。
対称式の大定理
2文字の対称式は、必ず x + y と xy だけで表せます。
この x + y と xy を基本対称式といいます。
これは、覚える価値のある強力な事実です。実際にやってみましょう。
x2 + y2 = (x + y)2 − 2xy
x3 + y3 = (x + y)3 − 3xy(x + y)
(x − y)2 = (x + y)2 − 4xy
どれも右辺は x + y と xy だけでできています。
何がうれしいのか。x と y を個別に求めなくても答えが出せるということです。
問題:x + y = 5、xy = 3 のとき、x2 + y2 を求めよ。
x と y を実際に求めようとすると、2次方程式 t2 − 5t + 3 = 0 を解くことになり、(5 ± √13)/2 というきれいでない数が出てきます。それを二乗して足すのは大変です。
でも x2 + y2 = (x + y)2 − 2xy = 25 − 6 = 19。1行で終わりました。
和と積から2数を求める(解と係数の関係)
逆に、x + y と xy がわかっているとき、x と y そのものを求めることもできます。
x + y = u、xy = v のとき、x と y は
2次方程式 t2 − ut + v = 0 の2つの解である。
これは中学生でも確かめられます。(t − x)(t − y) = t2 − (x + y)t + xy を展開してみてください。そのとおりになっていますね。
そして高校では、ここに重要な条件がつきます。x と y が実数であるためには、この2次方程式が実数解をもつ必要があります。 つまり判別式が0以上、u2 − 4v ≥ 0。この条件を忘れると、第10章で扱った「条件落とし」になります。
対称性を使う4つの場面
(1) 計算量を半分にする
グラフが y 軸について対称なら、x ≥ 0 の部分だけ調べれば十分です。残りは折り返せばいい。図形も同じで、対称な図形は半分だけ考えます。
(2) 大小を仮定してよい
条件が x, y, z について対称なら、x ≤ y ≤ z と仮定して解いてよいのです。なぜなら、どれをxと呼ぶかは自由だから。ただし最後に仮定を外して、入れかえたものも答えに含めることを忘れないでください。整数問題で大活躍します(第20章)。
(3) 連立式をまとめて扱う
対称な形の連立方程式(たとえば x2 = y + 2, y2 = x + 2)が出たら、全部足す・全部引く・全部かけるを試してください。引き算をすると x2 − y2 = y − x、つまり (x − y)(x + y) + (x − y) = 0、(x − y)(x + y + 1) = 0 と因数分解でき、一気に話が進みます。
(4) 答えの検算に使う
第8章でも書きましたが、条件が対称なら答えも対称になるはずです。崩れていたらミスです。
交代式の性質
入れかえると符号が変わる式(交代式)にも、便利な性質があります。交代式は必ず (x − y) で割り切れます。
理由は簡単で、x = y を代入すると、交代式は「自分自身と符号違いの自分自身が等しい」ことになり、0にならざるを得ないからです。
ここでもう1ステップだけ入れます。x = y を入れると0になる式は、必ず (x − y) で割り切れます。 なぜかというと、割り算をして「もとの式 = (x − y) × 商 + 余り」と書いたとき、この式に x = y を入れると (x − y) × 商 が0になり、残った余りも0だとわかるからです。余りが0ということは、割り切れたということですね。(この考え方は、高校で因数定理という名前で習います。)だから交代式は (x − y) を因数にもつのです。
これを使うと、たとえば xn − yn が (x − y) で割り切れることがすぐわかります。実際、
xn − yn = (x − y)(xn−1 + xn−2y + … + yn−1)
という公式になります。この形は整数問題でも数列でもよく出てきます。
15. 式の形から解法を引き出す
ここは辞書のように使ってください。「この形を見たら、これを試す」の一覧です。今すぐ全部理解する必要はありません。高校で該当する式に出会ったときに戻ってきてください。
次数を見る
式を見たら、まず何次式かを確認します。そして最高次の係数を見ます。係数の符号でグラフの向きが変わり、係数が0になりうるなら次数そのものが変わるからです(第12章の場合分け)。
同次式(すべての項の次数が同じ)
x2 + 3xy + 2y2 のように、どの項も次数が2という式を同次式といいます。
同次式が出たら、片方の文字で割ります。上の式を y2 で割ると、(x/y)2 + 3(x/y) + 2 となり、t = x/y とおけば t2 + 3t + 2 という1文字の式になります。2文字が1文字になるのですから、大幅にラクになります。
複二次式(x4 と x2 と定数だけ)
x4 − 5x2 + 4 のような式。X = x2 とおくのが定石です。X2 − 5X + 4 = (X − 1)(X − 4) となり、戻せば (x2 − 1)(x2 − 4) = (x + 1)(x − 1)(x + 2)(x − 2)。
置きかえたときは、X の範囲を忘れないこと。 X = x2 なら X ≥ 0 です。第10章の「文字は死んでも条件は死なない」がここでも効きます。
相反方程式(係数が左右対称)
2x4 + 3x3 − x2 + 3x + 2 = 0 のように、係数が真ん中を軸に左右対称な方程式。
定石は、x2 で割ってから X = x + 1/x とおくことです。すると次数が半分になります。奇数次の場合は x = −1 が必ず解になるので、(x + 1) をくくり出してから同じことをします。
分数式(分子の次数 ≥ 分母の次数)
割り算をして次数を下げます。たとえば (2n + 1)/n = 2 + 1/n。この形にすると、n が大きくなったときの様子がすぐ見えますし、整数問題では「1/n が整数になるのは n が1の約数のとき」という強い情報が得られます。
根号(√)が出てきたら
- √ を孤立させて二乗する:x = 1 + √5 なら、x − 1 = √5 と√だけを片側に寄せてから二乗して x2 − 2x + 1 = 5。これで√の消えた2次方程式になります。ただし二乗は片道変形なので、最後に確認が必要です。
- √ ごと置きかえる:t = √x とおく。このとき t ≥ 0 という条件が付きます。
- 中身を置きかえる:中身が複雑なときはこちら。
絶対値が出てきたら
選択肢は5つあります。上から順に検討してください。
- 図形的な意味で考える:数直線上の距離。これがいちばんラク。
- グラフを描く:y = |x| のようなV字形を思い浮かべる。
- 中身の正負で場合分け:確実だが、絶対値が2つあると4通りになって大変。
- まるごと置きかえる:t = |x|(t ≥ 0)
- 二乗する:|a|2 = a2 なので絶対値が外れます。ただし次数が上がるのが欠点で、項が多いときは向きません。
特別な式の見方(式を「図形の言葉」に翻訳する)
これは知っていると差がつく視点です。式を、図形的な意味に読みかえると、一気に見通しが良くなることがあります。
| 式の形 | 図形的な意味 |
|---|---|
| a2 + b2 | 距離の二乗(三平方の定理) |
| (c − d)/(a − b) | 2点 (a, c) と (b, d) を結ぶ直線の傾き |
| ax + by | ベクトルの内積 |
| |a − b| | 数直線上の2点間の距離 |
| √(a2 + b2) | 原点から点 (a, b) までの距離 |
例:√(x2 + 1) + √((x − 3)2 + 4) の最小値を求めよ。
計算で解こうとすると悪夢です。でも、これを距離の和と読むとどうでしょう。
前半は点 (x, 0) と点 (0, 1) の距離。後半は点 (x, 0) と点 (3, 2) の距離。つまり「x 軸上の点から、2つの定点までの距離の和」です。
こうなれば中学レベルの問題です。片方の点を x 軸について折り返して、2点を直線で結べばいい。答えは折り返した点ともう一方の点の距離になります。
この「式を図形に翻訳する」感覚は、身につけると強力です。二乗の和を見たら距離を疑う。これだけでも覚えて帰ってください。
覚えておきたい因数分解
忘れやすいものを2つだけ挙げます。
a3 + b3 + c3 − 3abc = (a + b + c)(a2 + b2 + c2 − ab − bc − ca)
xn − yn = (x − y)(xn−1 + xn−2y + … + yn−1)
2つめは、さきほど交代式のところで説明したものです。丸暗記しなくても、「x = y を入れると0になるから (x − y) でくくれる」と理解しておけば、その場で作れます。
指数・対数が出てきたら(高校範囲の予告編)
ここは高校2年で習う分野なので、いま意味がわからなくてまったくかまいません。「こういう道具があるらしい」と知っておくだけで十分です。公式を覚えて帰る必要はありません。持ち帰ってほしいのは、次の1行だけです。
定石:指数や対数が出てきたら、まず底をそろえる。
言葉に身構えないでください。log28 = 3 というのは、2を3回かけると8になる、というだけの意味です。実際 2 × 2 × 2 = 8 ですね。「何回かけたか」という数に名前をつけただけで、それ以上のものではありません。(この 2 を底、8 を真数と呼ぶことは第10章で触れました。)
では「底をそろえる」とは何か。たとえば 2x+1 = 8 を解くとき、右辺の8を 23 と書きかえます。これで両辺とも「2を何回かかけた形」になりましたから、あとはかけた回数どうしを比べるだけです。x + 1 = 3、つまり x = 2。底がバラバラのままでは何ひとつ比べられないのに、そろえた瞬間にただの1次方程式に化けました。指数や対数で手が止まったら、まず底をそろえられないかを疑う。これが最上位の定石です。(底の違う対数どうしをそろえるための道具も、高校できちんと用意されています。)
そのうえで、対数には強力な性質が2つあります。どちらも中学生の計算で確かめられますから、暗記する前に自分で確かめてみてください。
(1) 指数を前に下ろせる
logaxk = k logax(x > 0)。右肩に乗っている数を、前に引っぱり出せるという意味です。試してみましょう。log28 = log223 = 3 log22 = 3(2を1回かけると2なので log22 = 1)。最初に見た log28 = 3 と、ちゃんと一致しました。つまり対数は、指数を消すための道具なのです。
(2) かけ算を足し算に変えられる
log2(4 × 8) = log24 + log28 = 2 + 3 = 5。確かめると 4 × 8 = 32 で、25 = 32。合っています。「2を2回かけたもの」と「2を3回かけたもの」をかけたのだから合計5回、というだけの当たり前の話です。
この(2)が効いてくるのは、根号や累乗が混じったかけ算を相手にするときです。そのままでは手のつけようがない積でも、log をとった瞬間にかけ算が足し算に変わり、さらに(1)で累乗が前に下りてきて、見通しが一気によくなります。「2を100回かけた数は何けたの数か」というような問題が扱えるようになるのは、底を10にとった対数で(1)を使い、右肩の100を前に下ろせるからです。
定義そのものも書いておきます。logax は「a を何回かけると x になるか」でしたから、a をその回数だけかければ x に戻ります。式で書くと alogax = x。いかめしい見た目ですが、言っているのは「戻せば戻る」ということだけです。同じ理由で、a を1回もかけていない状態が1なので loga1 = 0 となります。
もう1つ。指数と対数は、行きと帰りの関係です。2x = y と x = log2y は、同じことを別の向きから書いただけの式です(高校ではこれを逆関数といいます)。だからグラフも、y = 2x と y = log2x は直線 y = x を鏡にした鏡像になります。指数の式で行きづまったら対数の目で見る、対数で行きづまったら指数に戻す。同じものが2つの顔を持っていると知っておいてください。
ここでも条件を落とさないこと。 logax と書いた瞬間に、x > 0(真数は正)、a > 0、a ≠ 1 という条件が勝手についてきます。第10章の「隠れている条件」の表にあったとおりです。上の(1)にわざわざ x > 0 と書き添えたのも同じ理由で、真数が正でない形に公式を当てはめると成り立ちません。
置きかえのときも同じです。t = 2x とおいたら、t > 0 と必ず書き添えてください。2は何乗しても、0や負の数になることはないからです。ここを落として、ありえない答えを拾ってしまう人が本当に多いところです。「文字は死んでも条件は死なない」(第10章)は、指数・対数でもそのまま効きます。
三角関数が出てきたら(高校範囲の予告編)
最後に、高校で多くの人がつまずく三角関数の予告編を置いておきます。いま意味がわからなくてかまいません。公式を覚える必要もありません。「こういう道具があるらしい」と知っておくだけで十分です。
まず cosθ と sinθ の正体を。原点を中心とする半径1の円(単位円)の上に点をとります。x 軸の右向きから反時計回りに θ だけ回った位置にある点の、x 座標が cosθ、y 座標が sinθです。それだけです。この点は原点から距離1にあるので、三平方の定理から x2 + y2 = 1。つまり──
cos2θ + sin2θ = 1
これが三角関数の土台です。正体は三平方の定理そのものです。
この土台は、割るだけで別の顔になります。tanθ は sinθ/cosθ のことなので、両辺を cos2θ で割れば 1 + tan2θ = 1/cos2θ(cosθ ≠ 0 のとき)。sin2θ で割れば cos2θ/sin2θ + 1 = 1/sin2θ(sinθ ≠ 0 のとき)で、こちらは tanθ が使える(cosθ ≠ 0 の)ところでは 1/tan2θ + 1 = 1/sin2θ と書けます。新しい公式を覚えたのではなく、1本の式を割っただけです。
三角関数の最上位の定石は、たった2つです。
(1) 種類をそろえる cos と sin が混ざったら、どちらか一方に統一する。
(2) 引数をそろえる θ と 2θ のように角度が混ざったら、どちらか一方に寄せる。
教科書に公式がずらりと並ぶのを見ると暗記地獄に思えますが、あれはこの2つをやるための道具が並んでいるだけです。
種類をそろえる例。2cos2θ + sinθ は、cos2θ = 1 − sin2θ を使えば −2sin2θ + sinθ + 2 になります。t = sinθ とおけば、ただの2次関数です。このとき −1 ≤ t ≤ 1 が付いてきます(第10章)。単位円の y 座標なのですから、1を超えられません。
引数をそろえるための道具が加法定理です。sin と cos については、次の4本がすべてです。覚えなくてよいので、「残りはここから作れる」という一点だけ見てください。
sin(α + β) = sinα cosβ + cosα sinβ
sin(α − β) = sinα cosβ − cosα sinβ
cos(α + β) = cosα cosβ − sinα sinβ
cos(α − β) = cosα cosβ + sinα sinβ
α = β = θ と置くだけで sin2θ = 2sinθcosθ、cos2θ = cos2θ − sin2θ が出ます。これが「2θ を θ に寄せる」道具です。
例:積を和にする公式を、その場で作る
上の1本目と2本目を足すと、cosα sinβ が符号違いで消えて sin(α + β) + sin(α − β) = 2 sinα cosβ。2で割れば sinα cosβ = {sin(α + β) + sin(α − β)}/2。消したい項が消えるように足し引きすれば、その場で作れます。
検算しましょう。α = 60°、β = 30° なら、左辺は sin60° cos30° = (√3/2) × (√3/2) = 3/4。右辺は (sin90° + sin30°)/2 = (1 + 1/2)/2 = 3/4。合っています。
例:和を積にする公式も、同じ道具で作る
sin80° + sin20° を積にしたいなら、いま作った式の α + β と α − β が 80° と 20° になるよう α と β を決めるだけです。連立して解くと α = 50°、β = 30°。だから sin80° + sin20° = 2 sin50° cos30° = √3 sin50°。ばらばらだった2項が、1つのかたまりになりました。
もうひとつ。少し前に「二乗の和を見たら距離を疑う」と書きました。その距離が1に固定されているなら、点は単位円の上にいます。だから──
二乗の和が1になったら、cos と sin に置きかえる。
x2 + y2 = 1 という条件つきの2文字(実数)の問題は、x = cosθ、y = sinθ とおけば文字が1つになります。同次式を割って1文字にしたのと、ねらいは同じです。
覚えて帰ってほしいのは「種類をそろえる」「引数をそろえる」の2つだけです。公式は、必要になったときに開ければいい引き出しにすぎません。
16. 文字定数は分離する
最後に、第3部でいちばん実用的な定石を紹介します。
「解の個数」を聞かれたら
問題:x2 − 4x + k = 0 の実数解の個数を、k の値によって調べよ。
やりがちな方法:判別式 D = 16 − 4k を計算して場合分け。これでも解けます。
定石:k を片側に分離します。
x2 − 4x = −k
そして、左辺を y = x2 − 4x(放物線)、右辺を y = −k(横一直線)と見ます。すると問題は、「放物線と横線の交点はいくつか」という、絵で答えられる問題に変わります。
放物線の頂点は (2, −4)。横線 y = −k を上下に動かすと、
−k > −4 なら2個、−k = −4 なら1個、−k < −4 なら0個。
なぜこちらが良いのか。絵で見えるので、答えの検算が同時にできるからです。判別式は計算ミスをしても気づけませんが、グラフはおかしければ見た目でわかります。また、この方法は2次式以外(3次式や指数・対数など、判別式が使えない式)でもそのまま通用します。汎用性が段違いなのです。
定石:文字定数を含む方程式・不等式は、文字定数だけを片側に分離して、「グラフと横線の関係」に読みかえる。
注意:分離できるのは、文字定数が1次までのときです。k2 や kx2 のような形だと、分離してもかえって複雑になります。その場合は素直に場合分けして調べます。
同じ発想の応用
この「一方をグラフ、一方を動く線と見る」という発想は、高校数学のあちこちに顔を出します。
- 領域の問題:「点 (x, y) が領域 D を動くとき、x + y の最大値」→ 直線 x + y = k を平行移動して、領域と共有点をもつ k の範囲を調べる(線形計画法)。
- 接線の本数:「点 A から曲線に引ける接線の本数」→ 接点を文字でおいて、その文字の方程式の解の個数に読みかえる。
- 不等式の証明:「f(x) > g(x) を示せ」→ f(x) − g(x) > 0 の形にして、1つの関数のグラフが x 軸より上にあることを示す。
共通しているのは、「2つのものの関係」を「1つのものと基準線の関係」に言いかえていることです。この言いかえができると、視覚的に処理できるようになります。
確認問題(第3部)
第3部はここまでです。ここでいったん手を止めて、3問だけ解いてみてください。聞いているのは計算の速さではなく、「どの定石を使う場面か」に気づけるかどうかです。まず5分、自分で考えてから答えを見てください。
問1 x + y = 6、x2 + y2 = 22 のとき、x3 + y3 の値を求めよ。
(ヒント:x と y をそれぞれ求めにいく必要はありません。求めにいくと、きれいでない数が出てきます。)
問2 x がすべての実数を動くとき、次の式の最小値を求めよ。
√(x2 + 4) + √((8 − x)2 + 16)
(ヒント:計算で押し切ろうとしないこと。この式は「あるものの長さ」に読みかえられます。使う道具は中学校で習う三平方の定理だけです。)
問3 次の (ア)(イ)(ウ) のうち、「文字定数 k を片側に分離する」定石がそのまま使えるのはどれですか。記号で答え、使えないものについてはその理由も答えてください。
(ア) x2 − 5x + k = 0 の実数解の個数を調べたい
(イ) x2 + kx + k2 = 0 の実数解の個数を調べたい
(ウ) x3 − 3x + k = 0 の実数解の個数を調べたい
(グラフを描く必要はありません。式の顔つきを見るだけの問題です。)
解答と、使った定石
問1 答え:90
使ったのは第14章の「2文字の対称式は、x + y と xy だけで表せる」です。まず xy を出します。x2 + y2 = (x + y)2 − 2xy なので 22 = 36 − 2xy、よって xy = 7。あとは x3 + y3 = (x + y)3 − 3xy(x + y) = 216 − 3 × 7 × 6 = 216 − 126 = 90。
気づきのポイントは、「x と y を求めよ」と言われていないのに求めにいかないことです。実際に求めると 3 + √2 と 3 − √2 になり(第14章 の「和と積から2数を求める」を使えば出せます)、これを三乗して足すのは大仕事です。
問2 答え:10(x = 8/3 のとき)
使ったのは 第15章 の「二乗の和を見たら距離を疑う」です。√(x2 + 4) = √((x − 0)2 + (0 − 2)2) は、点 (x, 0) と点 (0, 2) の距離。√((8 − x)2 + 16) は、点 (x, 0) と点 (8, 4) の距離。つまりこの式は、x 軸上を動く点 P から、2つの定点 A(0, 2) と B(8, 4) までの距離の和です。
A も B も x 軸より上にあるので、A を x 軸について折り返して A′(0, −2) とします。P は x 軸上にあるので AP = A′P。よって求める和は A′P + PB となり、これが最小になるのは P が線分 A′B 上にあるときです。最小値は A′B の長さそのもので、三平方の定理より √(82 + 62) = √100 = 10。
検算しておきます。A′(0, −2) と B(8, 4) を結ぶ直線が x 軸と交わるのは x = 8/3 で、これは0と8の間にあるので確かに P として使えます。このとき前半は √(64/9 + 4) = 10/3、後半は √(256/9 + 16) = 20/3、合計 10/3 + 20/3 = 10。合っていますね。
問3 答え:(ア) と (ウ)
使ったのは 第16章 の「文字定数は分離する」です。
(ア) は x2 − 5x = −k と書けます。k が1次なので、きれいに分離できます(k が2か所以上に出てきても、1次でありさえすれば k でくくり出して分離できます)。
(イ) は k が k2 という2乗の形で出てくるため、「k =(x の式)」の形に書き直せません。第16章 の注意に書いたとおり、分離が向かない形です。この場合は2次方程式ですから、素直に判別式で調べます。D = k2 − 4k2 = −3k2 となり、実数解をもつのは k = 0 のときだけ(このとき x = 0 の重解で1個)だとすぐわかります。
(ウ) は x3 − 3x = −k と書けるので分離できます。しかも3次方程式には、高校で習う判別式(2次方程式のためのもの)がそのまま使えません。つまり分離こそが本命になる場面です。
((ウ) について一言。y = x3 − 3x のグラフは高校で習うので、いま描ける必要はまったくありません。この問題で確かめたかったのは、グラフを描く前の段階で「分離できる形かどうか」を見分けられるかだけです。高校で3次関数のグラフを習ったら、ここに戻ってきてください。そのとき (ウ) は数分で片づく問題になっています。)
3問に共通しているのは、式の顔つきを見て、引き出しを1つ選んだだけだということです。新しい公式は1つも使っていません。当たった人も外した人も、第1章で書いたとおり、定石は実際に手を動かして使ってはじめて身につきます。気づいた定石は、自分のノートに具体例つきで書き足しておいてください。
第4部 分野別の定石
ここからは分野ごとの定石です。高校の内容が中心になりますが、できるだけ中学の知識から積み上げて説明します。今の自分に必要な章だけ読んでください。
17. 図形問題──使う道具には順番がある
図形問題には、5つの道具があります。そして使う順番が決まっています。
図形問題の道具、試す順番
- 初等幾何(中学で習う図形の性質:相似、合同、円周角、三平方など)
- ベクトル
- 三角比・三角関数(角度か長さのどちらかに絞って攻める。使い方は第15章の「三角関数が出てきたら」にまとめました)
- 複素数平面
- 座標を設定する
上にあるものほど計算量が少なく、ミスが起きにくいです。1番で解けるなら、それが最善です。
「座標を置けば必ず解ける」と思っている人は多いのですが、それは「必ず時間がかかり、必ずミスの危険がある」ことと同じ意味です。座標は最後の手段です。
初等幾何の武器(中学の復習でもあります)
この章の道具のうち、中学生がいま使えるのはここだけです。そして入試でも、これで足りる問題がいちばん多い。以下の予告編より先に、まずこの節を自分のものにしてください。
- 相似:これが最強です。長さの比を次々に求められます。図形問題で困ったら、まず相似な三角形を探してください。
- 三平方の定理:直角三角形を作れば使えます。逆に「三平方を使いたいから垂線を引く」という発想も大事です。
- 円周角の定理:同じ弧に対する円周角は等しい。角度を移動させる道具です。
- 直角と直径:半円の弧に対する円周角は90°。ここで重要なのは逆向きの使い方です。 「直角を見たら直径を思い出す」。ある線分を90°で見込みながら動く点は、その線分を直径とする円をえがきます。これは軌跡の問題で一瞬で答えが出る定石です。
- 方べきの定理:定理そのものは「同一円周上にある ⇒ 積が等しい」で、判定に使うのはその逆(積が等しい ⇒ 同一円周上にある)です。どちらの向きも成り立ちます。
- 角の二等分線の性質:三角形の角の二等分線は、対辺を隣の2辺の比に分けます。
- メネラウスの定理・チェバの定理:直線が三角形を切るときの長さの比を、機械的に出せます。ベクトルで計算するより速いことがよくあります。
- 中線定理:三角形の中線に関する長さの関係式。
重要なのは、ベクトルや座標で解いている途中でも、初等幾何が使える瞬間が来るということです。「長さの比が知りたい」となったとき、メネラウスで一発で出ることがあります。初等幾何の道具は、常に頭の隅に置いておいてください。
三角形の基本事項
- 三角形の成立条件:3辺が a, b, c のとき、|a − b| < c < a + b。言いかえると「どの2辺の和も、残りの1辺より大きい」。3辺を文字でおいたら、この条件が自動的に付いてきます(第10章)。
- 角と対辺は対応する:大きい角の向かいには長い辺がある。∠A < ∠B ⇔ a < b。
- 鈍角三角形の判定:最大辺を a とすると、a2 > b2 + c2。三平方の定理の「はみ出した版」だと思えば覚えられます。
- 当たり前だが強い事実:三角形には、60°以下の角が少なくとも1つあり、60°以上の角も少なくとも1つある。鈍角は多くても1つしかない。この「当たり前」が証明の決め手になることがあります。
- 角の和が180°:A + B + C = 180° を使うと、3つあった角の文字が2つに減ります。文字を減らす手段として意識してください。
五心の定義(言葉で覚える)
三角形の中心にはいくつか種類があります。定義を「何の交点か」で覚えるのがコツです。
- 外心=各辺の垂直二等分線の交点。3頂点から等距離にある点。外接円の中心。
- 内心=各角の二等分線の交点。3辺から等距離にある点。内接円の中心。
- 重心=各中線の交点。中線を2:1に分けます。
- 垂心=各頂点から対辺に下ろした垂線の交点。
- 傍心(ぼうしん)=1つの内角の二等分線と、ほかの2つの外角の二等分線の交点。1辺と、ほかの2辺を延長した直線に接する円(傍接円)の中心で、三角形の外側に3つあります。ここまでの5つをまとめて「五心」と呼びます。
問題文に「外心」と出てきたら、頭の中で自動的に「垂直二等分線の交点」「3頂点から等距離」に翻訳する。これが第4章の和文数訳です。
円がからむ問題の定石
- 円と直線の位置関係 → 「中心から直線までの距離」と「半径」を比べる。接するなら等しい。
- 円と円の位置関係 → 「中心と中心の距離」と「2つの半径の和・差」を比べる。
- 円に接する条件 → ①中心と直線の距離=半径 ②接点における法線(接線に垂直な線)は円の中心を通る ③使う向きは「最大最小 ⇒ 接する」。定点 O から曲線上の点までの距離が最小(または最大)になる点では、O を中心とする円がその曲線に接します。逆は成り立ちません(接点だからといって最小とはかぎらず、わかるのは「距離の変化がそこで止まる」ことだけです)
- 4点が同一円周上 → ①向かい合う角の和が180° ②円周角が等しい ③方べきの定理
- 円は対称性が良い → 中心を通る線について必ず対称。この対称性が使えないか常に考える。
空間図形は、平面に落とす
空間の問題を空間のまま考えるのは大変です。定石は平面に帰着させることです。
- 断面を取る:ある平面で切って、その切り口だけを平面図形として考える。
- 射影する:真上から見た図(影)を考える。
切る平面の選び方には、コツがあります。対称面で切るのです。立体の対称性が最もよく現れる平面で切ると、切り口が二等辺三角形などのきれいな形になります。
ベクトルの定石(高校範囲の予告編)
道具の順番でいうと、初等幾何の次に来るのがベクトルです。ここからは高校2年で習う内容なので、中学生のみなさんはいま意味がわからなくてかまいません。公式を覚える必要もありません。「図形には、こういう道具があるらしい」と知っておくだけで十分です。持っておいてほしいのは、第1章に出てきた「ベクトル=向きと長さを持った矢印」という一行だけです。
以下では、点 A から点 B へ向かう矢印を AB→ と書きます(高校の教科書では文字の上に矢印を書きますが、ここでは読みやすいように横に書いておきます)。
ベクトルの定石、5つ
- 始点をそろえる。しかも、そろえる先は対称性のよい場所にとる
- 直接表しにくい点は、表しやすい点を経由して表す
- 2通りに表して、係数を比べる
- 一直線上・同じ平面上は、係数の和が1
- 内積で、垂直と長さを扱う
① 始点をそろえる。 矢印があちこちバラバラの点から出ていると、比べようがありません。まず全部の矢印を同じ1点から出すように書き直す。これがベクトル計算の第一歩です。
そして、そろえる先の点はどこでもよいわけではありません。対称性のよい場所を選ぶと、あとの計算が見違えるほど短くなります。この記事で何度も出てくる「対称性を使え」が、ここでも効きます。
- 円の中心:中心から円周上の点へ向かう矢印は、どれも長さが半径で同じです。長さが全部そろうので、式がそろいます。
- 三角形の重心:重心 G を始点にすると、GA→ + GB→ + GC→ がちょうど零ベクトル(長さ0の矢印)になります。3本足すと消えてくれるので、3頂点が対等に出てくる問題が一気に片づきます。
② 経由して表す。 「A から C へ向かう矢印」が直接わからないときは、途中に点 B をはさみます。AC→ = AB→ + BC→。回り道をしても、出発点と到着点が同じなら同じ矢印です。これがベクトルの足し算の意味です。図形の問題では「わかっている矢印を乗り継いで、わからない矢印にたどり着く」という使い方をずっとします。
③ 2通りに表して、係数を比べる。 ベクトルで最も強力な型です。1つの点を、違うルートで2通りに表してみる。同じ点なのだから、2つの式は等しい。そこから「この係数とこの係数が等しい」という式が取り出せます。連立方程式が自動的に生まれると思ってください。「2直線の交点を求めよ」という問題は、ほとんどこの型で解けます。
係数を比べてよいのは、基準にした矢印が「一次独立」のときだけです。
一次独立とは、ざっくり言えば基準の矢印たちにむだがないということです。むだがないから表し方が一通りに決まり、だからこそ係数どうしを比べられます。
平面では基準は2本です。この場合にかぎり、「どちらも零ベクトルでなく、2本が平行でない」と言いかえてかまいません。
ところが空間では基準が3本になり、この言いかえが通用しなくなります。3本がどの2本も平行でなくても、一次独立とはかぎりません。 机の上に、鉛筆を向きを変えて3本置いてみてください。どの2本も平行ではありませんが、3本とも「机」という同じ平面の上に乗っています。これでは机から浮いた点を表すことができず、係数を比べることもできません。空間で必要な条件は「平行でない」ではなく、3本が同じ平面上にないことです。
④ 一直線上・同じ平面上は、係数の和が1。 判定の形がとてもきれいなので、予告編として見ておく価値があります。
基準の点 O を、直線 AB 上ではない場所にとります。このとき
OP→ = s·OA→ + t·OB→ と表せた点 P について、
P が直線 AB 上にある ⇔ s + t = 1
空間では、基準の点 O を平面 ABC 上ではない場所にとります。このとき
OP→ = s·OA→ + t·OB→ + u·OC→ と表せた点 P について、
P が平面 ABC 上にある ⇔ s + t + u = 1
本当かどうか、知っている点で確かめてみましょう。線分 AB の中点 M は OM→ = (1/2)·OA→ + (1/2)·OB→ で、係数の和は 1/2 + 1/2 = 1。三角形 ABC の重心 G は OG→ = (1/3)·OA→ + (1/3)·OB→ + (1/3)·OC→ で、和は 1/3 + 1/3 + 1/3 = 1。どちらもちゃんと1になっています。公式を疑ったら、知っている場合で試す——これも定石です。
⑤ 内積で、垂直と長さを扱う。 内積とは、第4章で触れたとおり、2本の矢印の「向きの合い具合」を表す数でした。垂直の条件も、長さの計算も、どちらも内積が担当します。式の中では a→·b→ のように、点(ドット)ではさんで書きます。矢印どうしをドットでつないだら内積、s·OA→ のように数と矢印をつないだものは、ふつうのかけ算です。見分けは「両側が矢印かどうか」だけです。
「内積が0だから垂直」と書く前に、確認することがあります。
零ベクトル(長さ0の矢印)は、どんな矢印との内積も0になります。でも零ベクトルには向きがないので、「垂直」とは言えません。ですから正しくは、2本とも零ベクトルでないことを確かめたうえで「内積が0 ⇔ 垂直」です。文字でおいた矢印が、ある値のときだけ零ベクトルになってしまう——そこが落とし穴です。第10章の「文字をおいたら条件がついてくる」と同じ話です。
正射影ベクトル──矢印を「影」として落とす
ここも高校範囲の予告編です。いま意味がわからなくてかまいません。 ベクトルの中で、意味を知らないまま丸暗記されがちな代表が正射影ベクトルです。じつは、意味さえわかれば毎回その場で作れます。
やりたいことは単純です。a→ という矢印に真上から光を当てて、b→ の向きの直線の上に影として落とす。その影も1本の矢印なので、それを式で書きたい、というだけの話です。
正射影ベクトル = (影の長さ)×(その向きの単位ベクトル)
・向きは b→ の向きの直線に沿います(b→ と同じ向きになるか、ちょうど逆向きになるかのどちらかです。どちらになるかは、この箱のすぐ下で説明します)。ここで b→ は零ベクトルでないとしておきます(零ベクトルには向きがなく、そもそも |b→| で割れないからです。すぐ上の警告と同じ話です)。長さを1にそろえた矢印を単位ベクトルといい、b→ ÷ |b→| と書けます。自分の長さで割れば長さ1になる、というだけです。
・影の長さは、高校で習う内積の定義から (a→·b→) ÷ |b→| になります。
あとは、この2つをかけるだけです。
{ (a→·b→) ÷ |b→| } × { b→ ÷ |b→| } = { (a→·b→) ÷ |b→|2 } × b→
覚えるべきなのは、右端の「分母が2乗」という見た目ではありません。「影の長さ × その向きの単位ベクトル」という組み立て方のほうです。組み立て方さえ言葉で言えれば、式は毎回その場で作れます。分母が2乗になったのは、向きをそろえるために |b→| でもう一度割ったから、ただそれだけです。
なお、a→ と b→ の間の角が90°より大きいときは、影は b→ と逆向きに落ちます。このとき「影の長さ」はマイナスの数になり、上の式はそのまま逆向きの矢印を返してくれます。式のほうが賢いので、向きで場合分けする必要はありません。
ここまでがベクトルの骨格です。もう一度書きますが、中学生のみなさんはいま覚える必要はありません。第1章で書いたとおり、定石は公式の暗記ではなく行動の指示です。ベクトルなら「始点をそろえろ」「経由しろ」「2通りに表せ」——この3つの短い言葉で持っておけば、高校で習ったときに一瞬で立ち上がります。
複素数平面(道具④)──かけ算が「回転」になる(高校範囲の予告編)
ここは高校範囲の予告編です。いま意味がわからなくて、まったくかまいません。 覚えることも一つもありません。「そういう道具が用意されているらしい」と知っておくだけで十分です。
高校では、2乗すると −1 になる数を考えます。これを i と書きます。そして、ふつうの数と i を組み合わせた x + yi という数を、座標平面の点 (x, y) と対応させます。この平面を複素数平面といいます。ねらいは単純で、平面上の点を1文字で書けるようにすることです。
そして、この道具の強みはたった一つです。
複素数平面の正体:かけ算が「回転と拡大」になる。
2つの複素数をかけると、原点からの距離はかけ算され、角度は足し算される。だから「回してから何倍かに伸ばす」という2つの操作が、たった1回のかけ算で書けてしまいます。
本当にそうなるのか、i をかける場合だけ確かめてみましょう。
i × (x + yi) = xi + yi2 = −y + xi
つまり点 (x, y) が点 (−y, x) に移ります。たとえば (3, 1) は (−1, 3) へ。方眼紙にこの2点をかいてみてください。原点を中心に、反時計回りにちょうど90°回っています。(1, 0) なら (0, 1) へ、もう一度 i をかけると (−1, 0) へ。90°ずつ回っていくのがわかります。i を2回かけると180°回る、それが i2 = −1(符号がひっくり返る)ということです。ここまでは中学の知識だけで確かめられます。いま持ち帰ってほしいのは、この「かけ算が回す」の一点だけです。
複素数がからむ問題、方針の順番
- z を1文字のまま処理できないか 文字が1つで済むなら、それがいちばんラクです。まずここを試します。
- 大きさと角度が主役なら、z = r(cosθ + i sinθ) の形に書きかえる この形にすると、かけ算のときに「大きさはかけ算・角度は足し算」がそのまま読み取れます。とくに n が正の整数のとき、n 乗すると大きさは n 乗・角度は n 倍になり、これをド・モアブルの定理といいます。
- それでもダメなら z = x + yi と成分に落とす 最後の手段です。落とした瞬間に文字が2倍になります。
この順番は、この章のいちばん上に置いた「道具の順番」とまったく同じ考え方です。成分に落とすのは最後。そしてその前に、まず初等幾何で考えるという原則も変わりません。「複素数平面の問題だから複素数で計算する」ではなく、先に図をかいて、正三角形・直角・相似が見えないかを探します。見えてしまえば、複素数の計算はほとんど要らなくなります。
もう一つだけ。回転と拡大をひとまとめに表す複素数は、1つのかたまりとして一文字で置くのが定石です。「60°回して2倍する」という操作をまるごと w とおいてしまえば、あとの式が短くなり、書き写しミスも減ります。この記事で何度も出てくる「かたまりは一文字におく」と同じ発想です。
二次曲線──式より先に、「距離の言葉」で覚える(高校範囲の予告編)
これも高校範囲の予告編です。楕円・双曲線・放物線という曲線が出てきますが、式を覚える必要はありません。覚える価値があるのは、次の3行の言葉のほうです。式は後からついてきます。
二次曲線の定義(ここが定石の入口)
楕円=2つの定点からの距離の和が一定である点の集まり
双曲線=2つの定点からの距離の差が一定である点の集まり
放物線=1つの定点と1本の定直線から等距離にある点の集まり
この定点を焦点、放物線のほうの定直線を準線といいます。和なら楕円、差なら双曲線。ここだけ取りちがえなければ大丈夫です。
楕円は、この定義がそのまま作図の方法になっています。画びょう2本に糸の両端をとめ、鉛筆で糸をぴんと張ったまま一周させると楕円がかけます。糸の長さは変わらない、つまり2点からの距離の和が一定だからです。
ですから問題文に「焦点」と出てきたら、頭の中で「距離の和(または差)が一定」に翻訳する。式を思い出すより先に、この翻訳をします。第4章の和文数訳です。
確かめてみる:中学で習った y = x2 のグラフも、ちゃんと放物線の定義どおりになっています。焦点を (0, 1/4)、準線を直線 y = −1/4 としてみます。
グラフ上の点 (1, 1) で確かめます。
・焦点までの距離:三平方の定理から √(12 + (1 − 1/4)2) = √(1 + 9/16) = √(25/16) = 5/4
・準線までの距離:1 − (−1/4) = 5/4
ぴったり一致しました。点 (2, 4) でも試してみてください(どちらも 17/4 になります)。三平方の定理だけで確かめられる話です。
もう一つ、楕円について知っておくと強い性質があります。
楕円は、一方向に伸ばし縮みさせると円になる。
たとえば楕円 x2/4 + y2 = 1(横に2、縦に1の楕円)は、縦方向だけを2倍に引きのばすと、半径2の円 x2 + y2 = 4 になります。逆に、円を一方向に押しつぶしたものが楕円です。
確かめてみます。楕円上の点 (x, y) の縦だけを2倍にした点を (X, Y) とすると X = x、Y = 2y、つまり x = X、y = Y/2。これをもとの式に入れると X2/4 + Y2/4 = 1、両辺を4倍して X2 + Y2 = 4。たしかに半径2の円になりました。
これが定石として効くのは、楕円の面積の問題を、円の面積の問題に取りかえられるからです。図全体を縦2倍に引きのばすと、その中のどの面積も同じように2倍になります。だから面積どうしの比だけは変わりません。円のほうで比を出して、そのまま答えにできる、というわけです。
ただし、保存されるものとされないものがあります。 「縦だけ2倍」で保たれるのは、面積どうしの比と、同じ直線上での長さの比・平行であること・中点であることくらいです。長さそのものと角度は保存されません。
実際に見てみます。点 (2, 0) は動かないので原点からの距離は 2 のまま。ところが点 (0, 1) は (0, 2) に移り、距離が 1 から 2 に変わります。向きによって伸び方がちがうのです。角度も同じで、原点から「右へ1・上へ1」の向き(45°)は「右へ1・上へ2」の向きに変わってしまい、もう45°ではありません。
ですから「楕円を円に直す」が使えるのは面積の話のときです。面積の比はそのまま答えにできますし、面積そのものを聞かれたときも、円のほうで求めた面積を2で割ればもとの図の面積に戻せます(縦を2倍したぶん、面積も2倍になっているからです)。一方、長さや角度そのものを聞かれたときには使えません。ここは間違えやすいので、覚えるなら「面積ならOK、長さと角度はダメ」とセットで覚えてください。
道具④と、その周辺の話は以上です。くり返しますが、いま覚えることはありません。「かけ算で図形を回せる道具がある」「楕円は距離の和、双曲線は距離の差」――この2行だけ頭の隅に置いて、高校で出てきたときに「ああ、これか」と思い出せれば十分です。
座標を置くときの作法
最後の手段として座標を置くときも、置き方で計算量が何倍も変わります。
座標設定の原則:対称性が活きるように置く。
・対称軸を y 軸に乗せる(または対称面を xy 平面に乗せる)
・直角がある場所を原点にして、2辺を x 軸・y 軸に乗せる
・0 が多くなるように置く(0が多いほど計算がラク)
たとえば二等辺三角形なら、底辺の中点を原点にして、底辺を x 軸に乗せる。すると頂点は (0, h)、底辺の両端は (−a, 0) と (a, 0) となり、対称性がそのまま座標に現れます。下手な置き方をすると、同じ問題が泥沼になります。
図形をもっと練習したい人へ
この章の「初等幾何が先」という順番は、中学の図形が体に入っていないと使えません。手を動かす場所として、次のページを用意しています。
- 図形問題100本ノック 平面・立体・比・相似・合同を、小学生の内容から順に復習できます。まずはここからで大丈夫です。
- 図形問題特訓 中高一貫校の進度に合わせた、図形の演習ページです。
- 正五角形と黄金比|cos36°の求め方3通り 同じ値を3通りの方法で求める例です。「道具には順番がある」を実感できます。
18. 座標平面・軌跡・領域
直線の式は、傾きだけではない
中学では直線を y = ax + b と書きました。でもこの形には弱点があります。x = 3 のような縦の直線を表せないのです(縦の直線には傾きが存在しません)。
だから、縦になる可能性がある直線を扱うときは、次の形を使います。
点 (x1, y1) を通り、ベクトル (a, b)(これは点ではなく、原点から点 (a, b) へ向かう矢印のことです)に垂直な直線:
a(x − x1) + b(y − y1) = 0
この「直線に垂直な向きを指す矢印」を法線ベクトルといいます。たとえば (a, b) = (1, 2) なら、「右に1・上に2 の向きの矢印に垂直な直線」という意味になります。傾きを使っていないので、縦の直線もこの形で書けるわけです。
(空間の平面なら a(x − x1) + b(y − y1) + c(z − z1) = 0)
この形なら、縦の直線も含めてすべての直線を表せます。「傾きで表せない場合がある」と気づけるかどうかが、場合分けの抜けを防ぎます。
共有点を通る図形(束)
2つの図形 f(x, y) = 0 と g(x, y) = 0 があるとき、
k·f(x, y) + l·g(x, y) = 0
は、この2つの図形の共有点すべてを通る図形になります。理由は簡単で、共有点では f = 0 かつ g = 0 なので、どんな k, l に対しても左辺が0になるからです。
これを使うと、「2円の交点を通る直線」や「2つの交点を通る円」を、交点を求めずに書けます。交点の座標が汚い数になる問題では絶大な効果があります。
軌跡の問題の考え方
軌跡とは、条件を満たす点が動いてできる図形のことです。中学でも「2点から等距離にある点の集まりは垂直二等分線」を習いましたね。あれが軌跡です。
定石は2段階です。
第1段階:幾何的に考える。
「2点 A, B を90°で見込む点」→ AB を直径とする円(の一部)。
「2点から等距離」→ 垂直二等分線。
こうした知っている図形に当てはまらないかを、まず考えます。当てはまれば一瞬で終わります。
第2段階:それが無理なら、式で処理する。
動く点の座標を (x, y) とおき、条件を式にして、余分な文字(パラメータ)を消していきます。このとき絶対にやってはいけないのが、消した文字の条件を落とすことです(第10章)。軌跡の問題で「答えの図形が正しいのに、一部分を除かなければいけなかった」という減点は、ここから生まれます。
軌跡の答えには「除く点」がつくことがある。 たとえば「AB を直径とする円。ただし2点 A, B を除く」のように。A や B では角度が定義できない、といった理由です。答えを出したあと、端っこや特別な点で本当に条件を満たすかを確認してください。
領域と最大最小(線形計画法)
「点 (x, y) が領域 D の中を動くとき、x + y の最大値を求めよ」という問題。
やることは第16章と同じです。x + y = k とおくと、これは傾き −1 の直線です。この直線を平行移動させて、領域 D と共有点をもつような k の範囲を調べます。その最大が答えです。
ここで理解しておくべきなのは、これが「そのような点が存在する条件」を調べているだけだということです。「x + y が k という値を取れる」=「領域内に、x + y = k を満たす点が存在する」=「直線と領域が共有点をもつ」。この3つは同じことを言いかえているだけです。この言いかえの感覚が、高校数学の後半をずっと支えます。
2次関数の解の配置
「2次方程式の2つの解が、ともに1より大きい」といった問題。定石は3点セットで考えることです。
- 判別式(実数解をもつか)
- 軸の位置(頂点の x 座標がどこにあるか)
- 端点の値(境目の x を代入した値の符号)
この3つを調べれば、解の位置が決まります。グラフを描いて、必要な条件を絵から読み取るのが正しい進め方です。公式として覚えるのではなく、毎回グラフを描いてください。
2次関数をやり直したい人へ
「解の配置」でつまずく人の多くは、じつは平方完成と最大最小のところが曖昧なままです。先にそこを直したほうが、結果的に速いです。
- 二次関数|グラフ・平方完成・最大最小・二次不等式 数学Iの2次関数を、はじめから順に確認できます。
- 2次関数 最大最小の5つの型 軸と定義域の位置で場合分けする型を、5パターンに整理しています。
19. 数列と数学的帰納法
先に、言葉と記号の準備をします(ここだけ読めば、この章は最後まで追えます)
数列とは、数を順番に並べたものです。たとえば 2, 4, 6, 8, … という並びです。1番目の数を a1、2番目を a2、n番目を an と書きます。右下の小さい数字を添字(そえじ)といい、「何番目か」を表しているだけです。an を n の式で書き表したものを一般項といいます。上の例なら an = 2n です。
漸化式(ぜんかしき)とは、前の項から次の項を決める式のことです。たとえば an+1 = an + 3 は「次の数は、前の数に3を足したもの」という意味で、a1 = 2 から始めれば 2, 5, 8, 11, … という並びになります。等比数列は「前の数に毎回同じ数をかけていく」並びで、そのかける数を公比といいます。
また Sn と書いたら「1番目からn番目までを全部足した合計」のことです。この4つだけ頭に入れておいてください。
数学的帰納法は「ドミノ倒し」
数学的帰納法は、高校で最初につまずく人が多い場所です。でも、仕組みはドミノ倒しそのものです。
ドミノを全部倒すには、次の2つを確認すればいい。
(1) 1枚目が倒れる(n = 1 のとき成り立つ)
(2) どの1枚が倒れても、次の1枚が倒れる(n = k で成り立つと仮定すると n = k + 1 でも成り立つ)
この2つが言えれば、すべてのドミノが倒れる。つまりすべての自然数で成り立つ。
よくある疑問が「成り立つと仮定して証明するのは、ズルではないか」というものです。ズルではありません。仮定しているのは「特定の1枚が倒れた状態」であって、「全部倒れたこと」ではないのです。1枚目が実際に倒れることは (1) で確認済みなので、そこから連鎖が始まります。
帰納法の型は、漸化式の形で決まる
- 2項間(前の1つで決まる) → n = k を仮定して n = k + 1 を示す。基本形。
- 3項間(前の2つで決まる) → n = k − 1 と n = k の2つを仮定する。出発点も n = 1, 2 の2つを確認する。
- それ以前の全部が絡む → n = 1 から n = k まで全部成り立つと仮定する(全数学的帰納法)。
ドミノで考えれば当然です。「次の1枚を倒すのに2枚分の力が必要」なら、最初に2枚倒しておかなければなりません。
漸化式のゴールは2つだけ
漸化式(前の項から次の項を決める式)を解くとき、目標はたった2つです。
等比型(an+1 = r·an)か、階差型(an+1 = an + (n の式))に持ち込む。
教科書に出てくるさまざまな変形は、すべてこの2つに帰着させるための工夫です。「何のためにこの変形をしているのか」がわかると、暗記が激減します。
数列で必ず気をつけること
- 初項は仲間はずれ:an+1 = an + 3 のような式は、「前の項」がある項にしか使えません。a1 は別に与えられます。
- 添字の範囲:an−1 という式を使うとき、n = 1 を入れると a0 になってしまいます。n ≥ 2 でしか使えないことに注意。
- 和と一般項の関係:Sn を第n項までの和とすると、an = Sn − Sn−1(ただし n ≥ 2)。n = 1 のときは a1 = S1 を別に計算し、両者が一致するかどうかを確認します。一致しなければ場合分けして答えます。
- 等比数列の和:公比が1のときは公式が使えません(分母が0になる)。公比1の場合を場合分けしてください。
和を求める定石
- 差の形に分解する:ak = bk+1 − bk という形に書ければ、足し合わせたときに次々に打ち消し合って bn+1 − b1 だけが残ります。これが和を求める最も本質的な方法です。部分分数分解もこの仲間です。
- 連続する整数の積は、差に分解できる:たとえば k(k+1) = [k(k+1)(k+2) − (k−1)k(k+1)] / 3。左辺は2個の積、右辺は3個の積の差になっています。これを使うと Σk(k+1) が一瞬で出ます。
- 「等差×等比」の和:全体を S とおき、公比 r をかけた rS を作って、S − rS を計算します。ずらして引くと、ほとんどの項が消えます。
- かたまりは1文字におく:長い式のまま計算すると、書き写しミスが起きます。
20. 整数問題の3定石
整数問題は「才能が要る」と思われがちですが、入口になる型は、大きく3つに整理できます。この3つを知っていると、「どれで攻めるか」の見当がつくので、白紙の前で止まる時間がぐっと短くなります。中学生でも追える例で説明します。
整数問題の3定石
① 積の形を作る(因数分解)
② 余りで分類する
③ 不等式で範囲を絞る
定石① 積の形を作る
整数の世界では、「かけて◯◯になる整数の組」は有限個しかありません。だから積の形にできれば、あとは候補を全部書き出すだけになります。
問題:xy = x + y を満たす自然数 x, y をすべて求めよ。
移項して xy − x − y = 0。ここで強引に因数分解の形を作ります。
xy − x − y + 1 = 1 (両辺に1を足した)
(x − 1)(y − 1) = 1
x, y は自然数なので、x − 1 と y − 1 は0以上の整数。かけて1になるのは 1 × 1 だけ。
よって x − 1 = 1, y − 1 = 1、つまり x = y = 2。これだけです。
ここで使った技術が重要です。定数項は無視して、文字の部分だけが合うように因数分解し、あとから定数のズレを調整する。 上の例では (x−1)(y−1) を展開すると xy − x − y + 1 になるので、余分な +1 の分を右辺に足して帳尻を合わせました。
もう一つ例を出します。xy + 2x + 3y = 1 なら、(x + 3)(y + 2) を展開すると xy + 2x + 3y + 6 なので、(x + 3)(y + 2) = 1 + 6 = 7 となります。7は素数なので、候補は非常に少なくなります。
積の形と一緒に使う知識
- (積)=(素数)の形は最高:素数は1とその数自身でしか作れないので、候補が一気に絞れます。
- 連続する2つの整数は互いに素:n と n + 1 は、1以外の共通の約数を持ちません(1より大きい共通の約数があれば、その差である1もその数で割り切れることになり、矛盾)。
- 連続する n 個の整数の積は n! の倍数:たとえば連続する3つの整数の積は必ず6の倍数です。
- 素因数分解の一意性:整数の素因数分解のしかたは1通りしかない。左辺と右辺の素因数を比べる、という論法が使えます。
定石② 余りで分類する
「余り」で分けると、無限にある整数が有限個のグループに整理できます。これが強力なのです。
問題:n2 + 1 が3の倍数になる整数 n は存在するか。
整数 n は、3で割った余りで3つのグループに分けられます。
・n = 3k のとき n2 = 9k2 → 3で割った余りは 0
・n = 3k + 1 のとき n2 = 9k2 + 6k + 1 → 余りは 1
・n = 3k + 2 のとき n2 = 9k2 + 12k + 4 → 余りは 1
つまり n2 を3で割った余りは、0か1しかありえません。すると n2 + 1 の余りは1か2で、0にはなりません。よって、そのような n は存在しません。
これは非常に典型的な議論です。「平方数を◯で割った余りは限られている」という事実は、整数問題の頻出ツールです。
余りで分類するときのコツ
- どの数で割るか:小さいほうから順に、2, 3, 4, 5, 7, 8, 9, 11, 13 …と試します。問題に出てくる数(係数や、示したい倍数)がヒントになります。
- 偶数と奇数で分ける:これは「2で割った余り」による分類です。いちばん手軽で、意外とよく効きます。
- 周期性:2n を5で割った余りは 2, 4, 3, 1, 2, 4, 3, 1 …と4つごとに繰り返します。累乗の余りは必ず周期的になるので、実験して周期を見つけるのが定石です。
- 5以上の素数は、6で割ると余りが1か5:6で割った余りが 0, 2, 4 なら偶数、3なら3の倍数なので、素数になりようがないからです。
定石③ 不等式で範囲を絞る
整数には「間がない」という性質があります。1 ≤ x ≤ 3 なら、x の候補は 1, 2, 3 の3つだけです。だから、範囲さえ絞れれば、あとは全部調べれば終わります。
問題:1/x + 1/y + 1/z = 1 を満たす自然数 x, y, z を求めよ。
手順1:対称性を使って大小を仮定する。
条件は x, y, z について対称なので、x ≤ y ≤ z としてよい。
手順2:不等式で絞る。
x ≤ y ≤ z なら、分母が大きいほど分数は小さくなるので 1/x ≥ 1/y ≥ 1/z です。つまり 1/x がいちばん大きい。だから3つとも 1/x に置きかえれば合計は増えるか同じで、1 = 1/x + 1/y + 1/z ≤ 3/x。
両辺に x をかけると x ≤ 3。
次は下からも絞ります。もし x = 1 だとすると 1/x = 1 なので、残りの 1/y + 1/z は0でなければなりません。でも y と z は自然数ですから 1/y も 1/z も正の数で、足して0になることはありえません。だから x ≥ 2。
つまり x は2か3。候補が2つに絞れました。
手順3:それぞれ調べる。
x = 2 のとき 1/y + 1/z = 1/2。同じ論法で 1/2 ≤ 2/y より y ≤ 4、また y > 2 なので y は3か4。
y = 3 → z = 6/y = 4 → z = 4
x = 3 のとき 1/y + 1/z = 2/3。同様に調べて y = z = 3。
手順4:仮定を外す。
求めた組は (2,3,6), (2,4,4), (3,3,3)。大小の仮定を外すので、これらを並べかえたものもすべて答えです。
この問題には、整数問題の定石がほぼ全部入っています。対称性で大小を仮定 → 不等式で絞る → 全部調べる → 仮定を外す。この流れを覚えてください。
その他の整数の道具
- 2次式なら判別式:整数解は実数解でもあるので、D ≥ 0 が使えます。さらに、整数解は有理数解でもあるので、判別式が平方数である必要があります。これは強い条件です。
- 平方完成:n2 − 4n + m2 − 6m + 8 = 0 なら (n − 2)2 + (m − 3)2 = 5 と変形でき、「二乗の和が5」という強い条件になります。二乗の和は、候補が非常に少ないのです。
- 自然数の分類:自然数は「1」「素数」「合成数」の3つに分けられます。素数がらみの問題では、まず実験して規則を探し、たいていは倍数に注目します。素数は「2」だけが偶数なので、2とそれ以外で場合分けすると進むことがあります。
最後の落とし穴
「n を m の式で表せ」という問題で n = f(m) という式が出たとき、それで終わりではありません。n が自然数(整数)であることを確認する必要があります。f(m) が分数になってしまうなら、その m は答えではありません。整数問題では、「式が出た」と「答えが出た」は別です。
ここから先は高校範囲の予告編
ここまでの3定石だけで、整数問題の入口はかなり歩けます。ここから先は、高校で出てくる道具を2つ、先に見せておくだけのコーナーです。いま意味がわからなくてかまいませんし、覚える必要もありません。「そういう道具があるらしい」と知っておくだけで十分です。
ガウス記号 ― x を超えない最大の整数
[x] と書いたら、それはx を超えない最大の整数のことです。x が正の数のうちは「小数点以下を切り捨てた数」と思ってかまいません。
たとえば [3.7] = 3、[5] = 5。ここまでは素直です。ところが負の数で引っかかります。[−2.5] は −2 ではなく −3 です。「−2.5 を超えない整数」は …, −5, −4, −3 で、そのうちいちばん大きいのが −3 だからです。−2 は −2.5 より大きいので、そもそも失格なのです。つまり負の数では、単純に小数点以下を消すのではありません。数直線を思いうかべて、その数より左(または同じ位置)にある整数のうち、いちばん右のものと考えると間違えません。
ガウス記号の扱い方は3つ
① 整数だと宣言する:[x] = k(k は整数)と置く
② 不等式で挟む:[x] ≤ x < [x] + 1
③ 整数部分と小数部分に分ける:x = [x] + c(0 ≤ c < 1)
②の不等式は、言葉にすれば「[x] は元の数 x 以下だけれど、それに1を足すと x を追いこす」と言っているだけです。この形に持ちこめれば、あとは定石③の「不等式で範囲を絞る」がそのまま使えます。③も同じで、c が 0 ≤ c < 1 の中にしか入れない、という強い条件になります。ガウス記号が出てきたら、記号のままにらまず、整数か不等式に翻訳する。それが行動の指示です。
ユークリッドの互除法 ― 最大公約数を機械的に求める
原理は、たった1行です。
ユークリッドの互除法
自然数 a を自然数 b で割った余りを r とすると、
a と b の最大公約数は、b と r の最大公約数に等しい。
なぜそうなるのか、片方の向きだけ見ておきます。割り算のしくみから a = bq + r(q は商)と書けます。いま d が a と b の公約数だとすると、a も b も d で割り切れます。すると r = a − bq の右辺は「d で割り切れる数どうしの引き算」ですから、r も d で割り切れます。つまり a と b の公約数は、そのまま b と r の公約数でもあるわけです。逆向きも同じ式から言えて(b と r が d で割り切れるなら a = bq + r も d で割り切れる)、結局公約数の顔ぶれがそっくり同じになります。顔ぶれが同じなら、そのうちいちばん大きいものも当然同じ、というわけです。
例:1071 と 1029 の最大公約数を求める。
1071 ÷ 1029 = 1 余り 42
1029 ÷ 42 = 24 余り 21
42 ÷ 21 = 2 余り 0
余りが0になったときに割った数が答えです。よって最大公約数は 21。
確かめます。1071 = 21 × 51、1029 = 21 × 49。そして 51 = 3 × 17、49 = 7 × 7 なので、51 と 49 には1以外の共通の約数がありません。だから21で止まりです。
この方法のいいところは、素因数分解をしなくていいことです。1071 を素因数分解しようとすると少し手間ですが、割り算を3回するだけで答えが出ました。数が大きくなるほど、この差は開きます。
- 大きい2数の最大公約数を求めるとき:割って余りを取る、をひたすら繰り返すだけです。相手の数が必ず小さくなっていくので、いつかは必ず終わります。
- 互いに素であることの証明:互除法を進めていって余りが1になれば、最大公約数は1、つまり互いに素だと言えます。
互除法は高校(数学A)で正式に習います。ガウス記号のほうは教科書では発展扱いのことが多く、入試問題で出会う記号です。いまここで公式として覚える必要はまったくありません。大事なのは、ガウス記号は「不等式に翻訳するための道具」、互除法は「割り算を繰り返して問題を小さくするための道具」だと知っておくことです。どちらも結局は、3定石の②(余りで分類する)と③(不等式で絞る)に持ちこむための入口にすぎません。暗記が増えたのではなく、いつもの道への入り口が増えただけです。
21. 場合の数と確率
大原則:図式化する
場合の数と確率は、頭の中だけで数えようとすると必ず失敗します。定石は「書く」ことです。
- 樹形図:最初の2〜3段だけでも描くと、構造が見えます。
- 辞書式に並べる:小さい順に、規則正しく書き出す。これで数え漏れと重複を防ぎます。文字の並べかえなら、A, A, E, L, P を 1, 1, 2, 3, 4 と数字に置きかえると、順序がはっきりして数えやすくなります。
- ベン図・表:条件が2つ3つあるときは、表に整理します。
数え方の翻訳(言いかえの技術)
場合の数の問題は、「数えやすい別のものに言いかえる」ことで解けるようになります。
- 道順の問題 → 「↑」と「→」の並べ方の総数。右に3、上に2進むなら、↑↑→→→ の並べ方を数えればいい。
- x + y + z = 10 の非負整数解の個数 → ○と仕切りの並べ方。○を10個並べ、そこに仕切り「|」を2本入れる。仕切りで区切られた3つの区画の○の個数が x, y, z に対応します。並べ方は12個の場所から仕切り2本の位置を選ぶ組合せ。
- x, y, z が自然数(1以上)なら、仕切りは○と○の間にしか置けず、隣り合えません。
- x, y, z が0以上なら、仕切りは端でも隣どうしでもOK。
- 「x ≥ 3」という条件があるなら、X = x − 3 と置きかえて、X ≥ 0 の問題に直します。
- 「x + y + z ≤ 10」なら、w = 10 − (x + y + z) という4人目を作って x + y + z + w = 10 に直します。
確率の大原則:すべてを区別する
確率でいちばん多い間違いは、同じに見えるものを区別しないことです。
例:赤玉2個、白玉1個が入った袋から2個取り出すとき、赤玉2個である確率は?
まちがい:取り出し方は「赤赤」「赤白」の2通りだから、確率は 1/2。
正しい考え方:赤玉を赤1、赤2と区別します。すると取り出し方は {赤1, 赤2}, {赤1, 白}, {赤2, 白} の3通りで、どれも同じ確からしさ。よって求める確率は 1/3。
なぜ区別するのか。確率の計算は「同じ起こりやすさのものが何通りあるか」で行うからです。区別しないと、起こりやすさの違うものを同列に数えてしまいます。迷ったら全部区別する。 これが安全です。
サイコロを2個振るときも同じで、(1, 2) と (2, 1) は別のものとして数えます。
確率の解き方は2通り
- 数え上げて比を取る:全部で何通りか、条件を満たすのは何通りかを数えて、割る。区別を徹底することが前提です。
- 事象に名前をつけて式にする:「n回目に A の状態にある確率を Pn とする」のように記号化して、式を立てる。すべての確率の合計が1であることは、しょっちゅう使います。
余事象を使う場面
「求めたいものの反対側」を数えるほうがラクな場面があります。合図は次の言葉です。
- 「少なくとも1つ」 → 反対は「1つもない」。こちらは1通りの計算で済むことが多い。
- 「◯回以内に」「◯までに」
- 「n個の積が◯の倍数」 → 反対は「倍数にならない」=特定の数を1つも引かない
確率漸化式の型
「n回目の確率」を求める問題は、次の手順で機械的に処理できます。
- 起こりうる状態を全部書き出して分類する(状態A、状態B、…)
- 各状態になる確率を数列として記号化する(Pn, Qn, …)
- n + 1 回目の状態を、n 回目の状態で分類する
- 樹形図を描いて、各枝の確率を書き込み、漸化式を作る
- 漸化式を解く(Pn + Qn = 1 をよく使います)
ポイントは3番です。「最初の一手」か「最後の一手」で分類すると、うまくいくことがほとんどです。
確率の最大値を求めるとき
Pn が最大になる n を求める問題では、微分は使えません(n が整数だから)。定石は隣どうしを比べることです。
- 比を取る:Pn+1 / Pn が1以上か1未満かを調べる。かけ算やコンビネーションが多い式では、約分できてラクです。
- 差を取る:Pn+1 − Pn が0以上か0未満かを調べる。足し算中心の式ならこちら。
「増えているうちは増え続け、減り始めたらそこが頂点」という考え方です。
22. 関数と最大最小
第13章で定義を確認しました。ここでは解き方の順番を整理します。
最大最小の攻め方、試す順番
- 図形的に考えられないか(距離、傾き、内積などに読みかえる)
- 不等式が使えないか(相加相乗など。等号成立の確認を忘れずに)
- グラフを描いて調べる(平方完成、微分)
変数が2つ以上あるとき
文字が2つ以上あると、一気に難しくなります。まず「独立か従属か」を判定してください。
- 従属(x + y = 5 のような等式の条件がある) → 条件式で文字を減らす。ただし範囲の引き継ぎを忘れずに。
- 独立(それぞれが自由に動ける) → 予選決勝法を使います。
予選決勝法とは、次のやり方です。
- 予選:まず y を定数だと思って固定し、x だけを動かして最大値を求める。答えは y の式になります。
- 決勝:次に y を動かして、その式の最大値を求める。
「2つ同時に動かすのは無理だから、1つずつ動かす」という発想です。3文字以上でも、同じことを繰り返せば処理できます。
式の形別の初手
- 同次式 → 文字で割って1文字にする(第15章)
- 分数関数 → f(x) = k とおいて、それを満たす x が存在する条件を調べる(この考え方が「値域を求める」ということの正体です)
- 無理式(√つき) → √ごと置きかえるか、中身を置きかえる。範囲の引き継ぎに注意
- 絶対値 → グラフを描く
不等式で最大最小を求めるときの警告
不等式は、値の範囲そのものではありません。
相加相乗平均などで f(x) ≥ 2 がわかったとしても、それだけでは「f(x) の取りうる値が2以上のすべて」とは言えません。2以上の値を全部取るとは限らないからです。「最小値が2」と言うためには、f(x) = 2 になる x が存在することを確認しなければなりません。第13章で扱った等号成立の話が、ここでも効いてきます。
23. 極限・微分・積分の心構え
この章は、中学生や高1の人にとっては「予告編」です。細かい計算は扱わず、何を考えている分野なのかと、定石の骨格だけを伝えます。
極限は「近づけたらどうなるか」
極限とは、ある値に限りなく近づけたとき、式の値がどこに近づくかを調べるものです。
難しさの正体は不定形です。「0を0で割る形」「∞から∞を引く形」など、そのままでは答えが決まらない形が出てきます。定石は、その形を崩すことです。
- 多項式 → 最高次でくくる
- 分数 → 分母分子を最高次で割る
- √ がある → 有理化する(分子を有理化することもあります)
- 収束する部分は無視できる → 全体の大きさを決めているのはどこか、を見極める
また、はさみうちの原理という重要な道具があります。「求めたいものを、上と下から挟む。挟んだ両方が同じ値に近づくなら、真ん中もその値に近づく」という考え方です。直接計算できないものを、間接的に決める技術です。
はさみうちでよくある誤解:「不等式に極限をつければいい」というものです。これは間違いです。まず極限が存在することを、上下の評価から示すのが、はさみうちの本質です。極限が存在するかどうかわからないものに、いきなり lim を書いてはいけません。
微分は「変化の勢い」
微分は、グラフの各点での傾きを求める道具です。傾きがわかると、そのグラフが上がっているのか下がっているのかがわかり、グラフの形が描けます。だから最大最小が求められるのです。
微分がらみの定石を挙げておきます。
- グラフを描く前に:定義域の両端でどうなるか、軸との交点はどこか、対称性や周期性はあるか。これらを先に調べると、描くべき形の見当がつきます。
- 接線:接点を文字でおいて、そこでの接線の式を書くのが基本形。「接する」=「重解をもつ」という言いかえも使います。
- 接線の本数 ≠ 接点の個数:4次関数では、1本の接線が2か所で接することがあります。数える対象を間違えないでください。
- f′(α) = 0 でも極値とは限らない:y = x3 は x = 0 で傾き0ですが、極値ではありません。前後で傾きの符号が変わるかを必ず確認してください。
積分は「積み重ね」
積分は、細かく切ったものを足し合わせる操作です。だから面積や体積が求まります。
- 面積を求める前に、上下関係を確認:どちらのグラフが上にあるかを、グラフか符号で確かめてから引き算します。ここを間違えると符号が逆になります。
- 体積は「回す前に切る」:回転体の体積を求めるとき、いきなり回そうとしてはいけません。まず断面を考えるのが定石です。「動かす前に切る」と覚えてください。
- 断面は積分する方向に垂直:体積は薄い板を積み重ねたものなので、板は積分の向きに対して垂直でなければなりません。
- 動くものが複数あるとき:1つだけ動かして、他は止める。次に別のものを動かす。予選決勝法と同じ発想です。
- 回転軸の両側に図形があるとき:片側に折り返してまとめてから回します。そうしないと二重に数えます。
これらは高校3年で扱う内容ですが、共通しているのは「複雑なものを、単純なものの積み重ねに分解する」という発想です。この発想自体は、中学生でも理解できますし、他の分野でもずっと使います。
確認問題(第4部)
第4部はここで終わりです。この記事は「読むだけでは身につかない、手を動かせ」と何度も書いてきましたので、ここで実際に手を動かしてください。計算力ではなく「どの定石を使う場面かに気づけるか」を確かめる3問で、3問とも中学の知識だけで解けます。紙とえんぴつを用意して、5分だけ考えてから解答を見てください。
問1 平面上に、長さ 6cm の線分 AB があります。次の(ア)(イ)それぞれについて、点 P が動いてできる図形の名前と大きさを答えてください。また、その図形から除かなければならない点があるかも答えてください。
(ア) ∠APB = 90° を保ちながら動くとき
(イ) AP = BP を保ちながら動くとき
問2 xy − 2x − 3y = 0 を満たす自然数 x, y の組を、すべて求めてください。
問3 大小2つのサイコロを同時に投げるとき、出た目の積が偶数になる確率を求めてください。(36通りを全部書き出すのは、いちばん遅いやり方です。)
解答と、そこで使った定石
問1の答え:(ア) AB を直径とする円(中心は AB の中点、半径 3cm)。ただし2点 A, B は除きます。/(イ) 線分 AB の垂直二等分線(除く点はありません)。
大事なのは、(ア)と(イ)で使う定石がまったく違うことです。「直角」と来たら円、「等距離」と来たら垂直二等分線。どちらも中学で習っています。
P が A や B に重なると、三角形 APB が作れず、∠APB という角そのものが決まらないからです。
使ったのは 第17章の「直角を見たら直径を思い出す」と、第18章の「軌跡は、まず幾何的に考える」「軌跡の答えには除く点がつくことがある」です。座標を置いて計算しても出せますが、それは第17章の道具の順番でいちばん下、つまり最後の手段でした。中学で習った円周角の定理(とその逆)だけで終わる問題です。「除く点」に気づけたかどうかが、この問題のいちばんの見どころです。
問2の答え:(x, y) = (4, 8), (5, 5), (6, 4), (9, 3) の4組。
「= 0」の形をにらんでいても手は出ません。積の形を作ります。 (x − 3)(y − 2) を展開すると xy − 2x − 3y + 6 になるので、余分な +6 の分を右辺に足して
(x − 3)(y − 2) = 6。
x, y は自然数(1以上の整数)なので、x − 3 は −2 以上、y − 2 は −1 以上です。もし両方とも負だとすると、積は大きくても (−2) × (−1) = 2 にしかならず、6 にはなりません。また、どちらかが 0 なら積は 0 になり、符号が違えば積は負になるので、これらも 6 にはなりません。だから両方とも正で、かけて6になる正の整数の組は 1 × 6, 2 × 3, 3 × 2, 6 × 1 の4通り。順に (x, y) = (4, 8), (5, 5), (6, 4), (9, 3) となります。4組とも元の式に代入して確かめてください(たとえば x = 9, y = 3 なら 27 − 18 − 9 = 0)。
使った定石は 第20章の定石①「積の形を作る」と、定石③「不等式で範囲を絞る」(両方が負になる場合を消したところ)です。最後に代入して確かめるのは第8章の作業です。
問3の答え:3/4
「積が偶数」を正面から数えると27通りもあって大変です。反対側を見ます。 積が奇数になるのは2つとも奇数の目のときだけ。奇数の目は 1, 3, 5 の3つなので 3 × 3 = 9 通り。全部で 6 × 6 = 36 通りですから、積が奇数になる確率は 9/36 = 1/4。よって求める確率は 1 − 1/4 = 3/4 です。
使った定石は 第21章の余事象(「積が◯の倍数」ときたら反対側を数える)と、2つのサイコロを区別して36通りと数えることです。区別を忘れて「1と2」「2と1」を同じものとして21通りで計算すると、答えが合いません。
3問とも、必要だったのは難しい計算ではなく「どの定石を使う場面かに気づくこと」でした。手が止まった問題があったなら、その章をもう一度読み直すよりも、その章の定石を1行だけノートに書き写して、手元の問題集で1問試すほうが、はるかに早く身につきます。
第5部 まとめ
24. 実演──「流れを知っている人」の頭の中
ここまで23章ぶん、定石を並べてきました。でも、並べただけでは「で、実際どう使うの?」がわからないと思います。そこでこの章では、1問を最初から最後まで、頭の中で起きていることを全部書き出します。
使うのは、私が作った練習用の問題です。難関大学でよく見る形をしています。
例題
x, y は実数で、x2 + y2 = 1 を満たす。
このとき x + y + xy の最大値を求めよ。
まず正直に言うと、この問題は何の手がかりもなしに眺めていても、なかなか一行目が書けません。逆に、型を持っていれば「たぶんこの方向だろう」という見当が30秒でつきます。その30秒の中身を、ひとつずつ開いていきます。
0分〜0分30秒:見る(第2章)
解き始める前に、式の顔つきを見ます。見るポイントは決まっています。
- 条件は x2 + y2 = 1。これが拘束条件です。x, y は自由には動けません。
- 条件も、求めたい式も、x と y を入れかえても変わりません。つまり対称式です(第14章)。
- 文字は2つ。式は1本。だから自由に動ける変数は実質1つです(第5章)。
この3つが見えた時点で、引き出しが1つ開きます。
開いた引き出し
対称式なら、和と積に置きかえる。
s = x + y、t = xy とおく。
これは、何もないところから急に「思いついた」のではありません。「対称式なら、まず和と積で見てみる価値がある」と知っているので、そこに見当をつけられた、ということです。うまくいくかどうかは、このあと実際に手を動かして確かめます。
0分30秒〜3分:変数を減らす(第14章・第16章)
置いたら、条件と目的の両方を s, t で書き直します。
条件:x2 + y2 = (x + y)2 − 2xy = s2 − 2t なので、s2 − 2t = 1。
つまり t = (s2 − 1) / 2 です。t が s だけで書けました。
目的:x + y + xy = s + t = s + (s2 − 1) / 2 = (s2 + 2s − 1) / 2。
文字が2つから1つに減りました。あとは1変数関数の最大値問題です(第22章)。ここまでは、型に沿って考える範囲を狭めてきただけで、まだこの問題ならではの難しさには触れていません。本番はこの先です。
3分〜6分:いちばん差がつくところ(第10章・第13章)
ここで、多くの人が事故を起こします。(s2 + 2s − 1) / 2 は下に凸の放物線なので、s をどこまでも大きくすれば、いくらでも大きくなってしまいます。「最大値なし」と答えたくなる。
ここで思い出すべき定石
置きかえたら、置きかえた文字の動ける範囲を必ず調べる。
s は勝手な実数ではありません。x, y が実数として存在するという条件が、まだ使われずに残っています。第10章で書いた「使っていない条件はないか」が、ここで効きます。
x, y は「和が s、積が t」の2数なので、u2 − su + t = 0 の2つの解です。これが実数であるためには、判別式が0以上でなければなりません。
s2 − 4t ≥ 0 に t = (s2 − 1) / 2 を代入して、
s2 − 2(s2 − 1) ≥ 0 → −s2 + 2 ≥ 0 → s2 ≤ 2 → −√2 ≤ s ≤ √2。
ここが、この問題の本当の急所です。そして、ここに気づけるかどうかを分けているのは、才能ではなく「置きかえたら範囲を調べる」という1行の定石です。
6分〜8分:仕上げる(第22章)
f(s) = (s2 + 2s − 1) / 2 を −√2 ≤ s ≤ √2 で考えます。頂点は s = −1 で、そこから右は増えていくだけなので、最大は右端 s = √2 のときです。
f(√2) = (2 + 2√2 − 1) / 2 = (1 + 2√2) / 2
8分〜10分:確認する(第8章・第13章)
答えが出ても、まだ終わりません。その最大値を実際に取る x, y が存在するかを確かめます(等号成立の確認)。
s = √2 のとき t = (2 − 1) / 2 = 1/2。u2 − √2 u + 1/2 = 0 の判別式は 2 − 2 = 0 なので x = y = √2 / 2。
検算すると x2 + y2 = 1/2 + 1/2 = 1 でちゃんと条件を満たし、x + y + xy = √2 + 1/2 = (1 + 2√2) / 2 で一致します。ここまでやって、はじめて答案として完成です。
別ルートでも、同じ場所に着きます
x2 + y2 = 1 は単位円なので、x = cos θ、y = sin θ と置く手もあります。すると u = cos θ + sin θ の範囲が −√2 ≤ u ≤ √2 であること(三角関数の合成)から、まったく同じ式にたどり着きます。
これも「ひらめき」ではなく、「x2 + y2 = 定数 を見たら三角関数で置く」という別の引き出しです。引き出しが複数あると、片方が詰まってももう片方から入れます。
この10分で、何をしていたか
| 場面 | やったこと | 使った定石 |
|---|---|---|
| 0:00〜0:30 | 式の顔つきを見た | 対称式・拘束条件・変数の数を数える |
| 0:30〜3:00 | s, t に置きかえて1変数にした | 対称式は和と積で表す |
| 3:00〜6:00 | s の範囲を判別式で求めた | 置きかえたら範囲を調べる/未使用の条件を探す |
| 6:00〜8:00 | 2次関数の最大を求めた | 定義域つきの最大最小はグラフで |
| 8:00〜10:00 | 等号成立を確認した | 最大値は「到達できて」はじめて最大値 |
気づいてほしいのは、この10分のうち、「何をすればいいか分からずに止まっていた時間」がほぼゼロだったことです。考えていないわけではありません。むしろ、置きかえた文字の範囲を出すところでは、しっかり頭を使っています。ただ、型があるおかげで、考える場所をそこに絞れたのです。
一方、解法を丸暗記している人はどうなるか。「x2 + y2 = 1 のときの x + y の最大値」なら覚えているので解けます。でも xy が足されただけで、覚えた形と一致しなくなり、手が止まります。覚えていたのが「答え」であって「理由」ではなかったからです。
そして、これが時間の話につながります
この問題を10分で終えられた人は、残りの時間をもっと難しい大問に使えます。方針探しで20分さまよった人は、その大問に触ることすらできません。同じ実力でも、点差はここで生まれます。
くり返しになりますが、定石は考えなくて済ませるためのものではありません。この10分を圧縮して、本当に難しい1問に30分を残すためのものです。次の第25章のチェックリストと第26章の時間の使い方は、そのために用意しました。
25. 定石チェックリスト
試験直前や、問題を解いていて手が止まったときに、ここだけ見返せば済むようにまとめました。ノートに書き写して、自分の例を書き足していってください。
解き始める前
| やること | 中身 |
|---|---|
| 条件に印 | 与えられた条件は、ほぼ全部使う。印をつけて見落としを防ぐ |
| 対称性を探す | 入れかえても同じ形か。あれば計算量が激減する |
| 図を描く | 大きく・正確に・一般的な形で。わかったことは全部書き込む |
| 和文数訳 | 日本語の条件を、その場で数式に翻訳する |
| 未知数を数える | 未知数 n 個なら式が n 本必要。足りなければ未使用の条件を探す |
| ゴールから逆算 | 「求めるものを出すには何が必要か」を先にたどる |
手が止まったとき(上から順に)
| 引き出し | 中身 |
|---|---|
| ① 求めるものを再確認 | ゴールを見失っていないか |
| ② 未使用の条件 | まだ使っていない条件はどこで効くか |
| ③ 前の小問 | (1) は (2) のヒント。ほぼ例外なし |
| ④ 難しさの原因を除く | 文字が多い/根号/絶対値/複雑な条件、を1つ潰す |
| ⑤ 必要条件で攻める | 一部の条件で絞ってから、十分性を確認 |
| ⑥ 特殊な場合から | まず簡単な場合を解いて、一般に広げる |
| ⑦ 背理法 | 「複雑 ⇒ 単純」の証明に強い。使える条件が1つ増える |
| ⑧ 実験 | 小さい数で書き出す。表にする。極端な場合を見る |
答えが出たあと
| 確認 | 中身 |
|---|---|
| 代入する | 元の式・元の条件に戻して確かめる |
| 対称性は崩れていないか | 条件が対称なら答えも対称になるはず |
| 常識と合っているか | 確率が1超/長さが負/個数が分数、になっていないか |
| 問題文を読み直す | 全部に答えたか。条件を落としていないか。場合分けの漏れはないか |
ミスの発生源(自分がやったものに印をつけて使う)
| 分類 | 中身 |
|---|---|
| 文字の範囲 | 消した文字の条件/分母≠0/√の中身≥0/真数>0/底の条件 |
| 同値性の崩れ | 二乗すると増える/文字で割ると減る/不等式に負の数をかけると向きが変わる |
| 隠れた条件 | 長さ・面積>0/個数は整数/三角形の成立条件 |
| 自分でつけた条件 | 大小を仮定したなら、最後に外す |
| 場合分けの漏れ | 係数が0/図の配置が変わる/鋭角か鈍角か/公比が1 |
| 数列特有 | 初項は仲間はずれ/添字の範囲/和と一般項の n=1 の確認 |
| 最大最小 | 等号成立を確かめたか。不等式は値域ではない |
分野別の第一手
| 分野 | まず試すこと |
|---|---|
| 図形 | 初等幾何 → ベクトル → 三角比 → 複素数平面 → 座標(この順) |
| 座標設定 | 対称性が活きるように置く。0が多くなるように置く |
| 軌跡 | まず幾何的に(直角なら円、等距離なら垂直二等分線)。無理なら式で |
| 領域の最大最小 | 直線を平行移動して、共有点をもつ範囲を調べる |
| 数列 | 等比型か階差型に持ち込む。証明は帰納法(ドミノ倒し) |
| 整数 | ①積を作る ②余りで分類 ③不等式で絞る |
| 場合の数 | 図式化。数えやすいものに言いかえる(○と仕切り、↑と→) |
| 確率 | すべて区別する。余事象。状態で分類して漸化式 |
| 最大最小 | 図形的 → 不等式 → グラフ。多変数なら独立か従属かを判定 |
| 文字定数入りの方程式 | 定数を分離して「グラフと横線」に読みかえる |
| 極限 | 不定形を崩す。はさみうち |
| 体積 | 回す前に切る。断面は積分方向に垂直 |
26. 試験時間の中で点を最大化する
ここまでは「どう解くか」の話でした。最後にもうひとつ、難関大学に合格するうえで実際にいちばん効くのに、ほとんど練習されていないことを書きます。試験時間の使い方です。
入試は「解けるかどうか」を問う場ではありません。決められた時間の中で、何点取れたかだけで決まります。同じ実力の2人でも、時間の使い方が違えば点数は簡単に20点、30点変わります。そして時間の使い方は、才能ではなく事前に決めておける手順です。
(1) 最初の5分は、解かずに全部読む
試験が始まったら、いきなり第1問を解き始めないでください。まず全問に目を通して、各問題に印をつけます。
3段階の印
◎ 方針が見えている。定石がそのまま使えそう
○ 方針は見えないが、手をつければ何か出そう
△ まったく見えない
この印をつけられること自体が、定石を持っていることの効果です。引き出しがない人は全部が△に見えるので、そもそも順番を決められません。
そして◎から順に解きます。第1問から順に解く決まりはどこにもありません。大問1が最難問という年度は普通にあります。難しい問題に最初の30分を吸われて、確実に取れたはずの大問3に手をつけないまま終わる——これが、実力より点数が低く出る最大の原因です。
(2) 1題あたりの持ち時間を、始まる前に決めておく
試験時間と問題数から、1題あたりの持ち時間はすぐ出ます。目安はこうなります。
| 試験時間と問題数 | 1題あたり | 配分の考え方 |
|---|---|---|
| 120分・4題 | 25分 | 25分×4=100分、残り20分を見直しと粘りに回す |
| 90分・4題 | 20分 | 20分×4=80分、残り10分。捨てる判断が必要になりやすい |
| 150分・6題 | 23分 | 23分×6=138分。◎の問題を早く終えて時間を作る |
数字そのものより大事なのは、「この問題にあと何分使えるか」を試験中に把握していることです。時計は5分おきに見る必要はありません。1題を解き終わるたびに1回見て、予定より早いか遅いかだけ確認してください。
(3) 撤退の基準を決めておく
もっとも損をするのは、解けない問題に粘り続けることです。粘る・粘らないをその場の気分で決めると、必ず粘りすぎます。だから基準を先に決めます。
撤退の目安
・第7章の引き出し8つをひととおり試して、どれも刺さらない
・持ち時間の半分を使ったのに、答案に書ける行が1行も増えていない
・計算が3回続けて破綻した(方針が間違っている可能性が高い)
このどれかに当てはまったら、いったん離れて次の問題へ移ります。「捨てる」のではなく「保留する」です。他の問題を解いている間に、頭の別の場所が勝手に考えてくれることが実際によくあります。戻ってきたときに解けた、という経験は多くの人がしています。
(4) △の問題でも、点は取りに行ける
まったく方針が見えない問題でも、0点で出す必要はありません。難関大学の記述式では、途中まででも点がつきます。
- (1)だけ取る 大問は誘導になっていることが多く、(1)は定義や具体例の確認で終わることがよくあります。(2)以降が無理でも(1)は取れます。
- 方針を日本語で書く 「軌跡なので、点Pの座標を (x, y) とおき、条件から媒介変数を消去する」と書いてあれば、その方針が正しいかぎり、白紙より確実に上です。
- 場合分けの枠だけ書く 「a < 0 のとき/a = 0 のとき/a > 0 のとき」と分けたところまでで力尽きても、その分類が的確なら評価されます。
- 実験の結果を書く n = 1, 2, 3 を代入して規則を見つけたところまで書き、「よって一般に〜と予想される」まで到達していれば、そこまでは仕事をしています。
答案の書き方そのものは第9章にまとめました。白紙で出す0点と、方針3行の部分点は、合否の場面では別物です。
(5) 最後の10分は、新しい問題に手をつけない
残り10分で△の問題に飛びついても、まず間に合いません。その10分はすでに解いた問題の確認に使ってください。確認する内容は第8章のとおりです。
- 問題文の条件を全部使ったか(第10章の「条件の落とし」がないか)
- 求めたものが、聞かれたものと一致しているか
- 範囲・端点・分母0・向きなど、書き忘れやすい条件を書いたか
- 答えの形が不自然でないか(確率が1を超えていないか、長さが負でないか)
この確認で拾える点は、新しい問題に挑んで取れる点より、たいてい多いです。取りこぼしを拾うほうが、難問を1問増やすより確実に速いのです。
そして、ここが第1章とつながります
ここまでの(1)〜(5)は、定石を持っていなければ実行できません。◎○△の印はつけられないし、撤退の判断もできないし、方針を3行書くこともできません。
逆に言えば、よくある解法の流れを事前に理解しておくことの価値は、「その問題が解けるようになる」ことだけではありません。試験時間という限られた資源を、自分の意思で配れるようになることのほうが大きいのです。難関大学の数学で高得点を取る人は、ここを事前に設計しています。
この時間の使い方は、実際の過去問を本番と同じ時間で解いてみないと身につきません。1年分でいいので、時計を置いて通しで解いてみてください。
27. この記事を「自分のもの」にする方法
最後に、いちばん大事な話をします。
この記事を最初から最後まで読んだだけでは、点数は1点も上がりません。
厳しい言い方ですが、これは事実です。定石は「知識」ではなく「行動のルール」だからです。ルールを読んだだけでスポーツがうまくならないのと同じで、実際に問題を解く場面で使わなければ意味がありません。
やってほしいこと
(1) 見出しだけをノートに書き写す
本文を全部写す必要はありません。「未使用の条件を探す」「積を作る」「余りで分類」といった見出しだけを、余白をたっぷり取って書き写してください。
(2) 問題を解いていて「これだ」と思ったら、その余白に例を書く
「余りで分類」の下に、実際に自分が解いた問題を1行で書く。「◯◯大の第2問。n2 を4で割った余りが0か1しかないことを使った」のように。
これを繰り返すと、あなたのノートは「あなた専用の定石集」になります。他人が作った一覧表は試験中に出てきませんが、自分が書いた例は出てきます。定石は、具体例とセットになって初めて武器になるのです。
(3) 解けなかった問題では、「どの定石を使えばよかったか」を書く
解き直しをするとき、答えを覚え直すのではなく、「この問題は、どの引き出しを開ければよかったのか」を一行で書く。これが最も効率のいい復習です。答えは忘れますが、引き出しのラベルは残ります。
(4) 抽象化する・再編集する
慣れてきたら、この記事から重要なものだけを抜き出して、自分なりにまとめ直してください。「自分にとっては、この5つだけあればいい」という形になるはずです。まとめ直す作業そのものが、最高の勉強になります。
それでも解けない問題はあります
正直に書きます。定石を全部そろえても、解けない問題はあります。入試には、その場で考えるしかない問題が必ず含まれています。
でも、定石をそろえた人とそうでない人では、「考える」の中身が変わります。手がかりのない状態で「考える」は、白紙をながめたまま止まってしまいがちです。型を持っている人の「考える」は、まず当たりをつけて考える範囲を狭め、そこから先に自分の頭を使うという形になります。
考える量そのものが減るわけではありません。考える場所が変わるのです。方針を探すことに時間を使い切ってしまう人と、その問題にしかない難しさに時間を使える人。この差が、試験時間の中で効いてきます。
最後に、この記事全体で言いたかったこと
もう一度書きます。数学は暗記科目ではありません。解法を覚えた数で合否が決まるなら、受験勉強はもっと単純だったはずです。難関大学の入試で問われているのは、初めて見る問題に対して、限られた時間の中で自分の頭を最後まで使いきれるかどうかです。
そのために、よくある解法の流れを先に理解しておく。序盤の「何から手をつけるか」で止まらないようにしておく。そうして空いた時間と気力を、その問題にしかない難しい部分にぶつける。この記事の27章は、全部そのために書きました。
覚えるために読むのではなく、考える場所を確保するために使ってください。
もう一度、免責について
この記事は学習の助けとして書かれたまとめです。内容の正確さを保証するものではなく、この記事を読んだことで生じた不利益について、数強塾は責任を負いません。インターネット上の受験情報と同程度の信頼性だと考えて、必ず教科書・学校の先生・信頼できる問題集で確認しながら使ってください。
また、当然ながら、このまとめを読んだだけでは理解できない箇所もあるはずです。それは正常です。 問題演習を通じて具体例に出会い、その都度ここに戻ってきてください。理解は、往復することで深まります。
よくある質問
この記事について、よく届く質問をまとめました。
Q1. 数学が苦手でも読めますか。中学生でも大丈夫ですか。
大丈夫です。この記事は中学校の内容から積み上げる形で書いてあります。高校数学の言葉が出てくるところでも、まず中学の知識で意味を説明してから先に進みます。数学IIIをまだ習っていない人は、第1部〜第3部だけでも十分に効果があります。式が読めないところは飛ばして、日本語の部分だけ追ってください。
Q2. 27章もあります。全部覚えないといけませんか。
いいえ。全部いっぺんに覚える必要はまったくありません。いま自分に関係のある章だけ読んで、残りは「そういう考え方があるらしい」と知っておくだけで十分です。急ぐなら、まず第25章の定石チェックリストだけをノートに写して、問題を解きながら自分の例を書き足していく使い方をおすすめします。
Q3. 「数学は暗記ではない」と言われます。この記事は解法の暗記になりませんか。
なりません。むしろ逆の立場で書いています。数学は暗記科目ではありません。解法をまるごと覚える勉強は、覚えた問題とほぼ同じ形で出たときにしか働かず、難関大学の入試ではほとんど通用しません。この記事に並べているのは答えの一覧ではなく、「この条件が来たら、まず何を試すか」という考え方の順番と、その理由です。理由まで理解しておけば、初めて見る形の問題でも同じ判断ができます。ねらいは考えなくて済むようにすることではなく、限られた試験時間の中で、本当に考えるべき場所に時間を残すことです。くわしくは第1章をご覧ください。
Q4. 読んだのに、テストで思い出せません。
それが普通です。定石は知識ではなく行動のルールなので、読んだだけでは試験中に出てきません。出てくるようにするには、自分が解いた具体例とセットにするしかありません。「余りで分類」という見出しの下に、実際に自分が使った問題を1行書く。これを何度か繰り返すと、自分から出てくるようになります。くわしいやり方は第27章に書きました。
Q5. 練習する問題は、どこで手に入りますか。
まずは手元の学校の問題集で十分です。追加で使うなら、数強塾が無料で公開している単元別の学習プリントと授業動画、それから大学入試の過去問の全問解説があります。志望校が決まっているなら、たとえば明治大学の過去問解説のように大学別にまとまったページで、実際にどの定石が使われているかを見てみてください。
Q6. 学校の進度が速くて追いつけません。ほかの塾にも通っています。
中高一貫校の進度に合わせた進め方は学校別 数学対策に、いま通っている塾と併用する場合の考え方は難関塾との併用サポートにまとめてあります。定石は学校の進度とは別に積み上げられるものなので、遅れている人ほど先に整理する価値があります。
Q7. 体験授業は無料ですか。
いいえ、体験授業は有料(3,000円・税込)です。実際の指導をそのまま受けていただき、合うかどうかをご自身で判断してもらうためのものです。くわしくは体験授業・入塾相談と料金・指導システムをご覧ください。
数強塾からのご案内
数強塾は、オンライン専門の数学個別指導塾です。中高一貫校生を中心に、累計3,500名以上を指導してきました。プロ講師のみが在籍し、完全1対1で指導しています。
この記事で書いた「定石」は、本来は問題を一緒に解きながら、その場で身につけていくものです。「この問題では、どの引き出しを開けるべきだったのか」を毎回言語化していくのが、私たちの授業でやっていることでもあります。
- 無料プリント・映像授業のページ 単元別の問題プリントと解説を無料で公開しています。この記事の定石を試す場所として使ってください。
- 無料の授業動画まとめ 文章だけではわかりにくいところは、動画で見たほうが早いことがあります。
- 大学入試の過去問 全問解説 実際の入試問題で、どの定石がどう使われているかを見ることができます。
- 学校別 数学対策 中高一貫校の進度に合わせて、どの順番で進めるかをまとめたページです。
- 難関塾との併用サポート いま通っている塾をやめずに、数学だけを補強したい方への案内です。
- プロ講師の紹介 数強塾はプロ講師のみが在籍しています(60名以上)。誰に習うのかを先に見ておいてください。
- 体験授業について 体験授業は有料(3,000円・税込)です。実際の指導をそのまま受けていただき、合うかどうかを判断してもらうためのものです。
「解説を読めばわかるのに、自分では思いつかない」という状態が続いているなら、それは才能の問題ではなく、引き出しの整理がまだ終わっていないだけです。一緒に整理していきましょう。


