関数方程式と恒等式の解法パターン全10型|恒等式と方程式の違いと入試実例(神戸大・千葉大・大阪大)


についての恒等式である」――この一行があるかどうかで、見た目のまったく同じ等式が別ものに変わります。方程式は「この等式が成り立つ を探せ」という命令、恒等式は「どの でも成り立っている」という報告です。未定係数法も、割り算の余りも、因数定理も、関数方程式も手触りが似ているのは、すべてが「恒等式という無限個の情報から、有限個の関係式を取り出す」という一つの作業だからです。取り出し方は二通りしかありません。係数を比べるか、値を代入するか。前者は同値な変形、後者は必要条件どまり。この差が、答案の最後に「逆に」を書くかどうかを決めます。このページは関数方程式と恒等式の解法を10の型に分けて並べた辞典です。型は当てはめる箱ではなく、「いま自分は等式のどちらの顔を相手にしているのか」を見失わないための道具として並べています。

このページの位置づけ——概観は第1層、深掘りはここ

恒等式・未定係数法・割り算の余りは式と証明の解法パターン全16型でも扱っています。あちらが「単元を一望する地図」なら、こちらは「関数方程式と恒等式だけを掘り下げる坑道」です。このページでは、係数比較がなぜ正しいのかという根拠のところまで降りていきます。

このページの10型

  1. 恒等式と方程式の違い
  2. 係数比較
  3. 数値代入(必要条件から)
  4. 特定の値を代入する( など)
  5. 多項式の次数を決める
  6. 未定係数法
  7. 割り算の余りを求める
  8. 因数定理
  9. 対称性から形を絞る
  10. 逆の確認(十分性)

1. 背骨——恒等式とは「無限個の等式が、まとめて手に入っている」状態のこと

このテーマの問題がどれも同じ骨格に見えるのは、条件が例外なく次の二つのどちらかだからです。

等式には二種類しかない

方程式  のような等式。成り立つ があるという主張で、手に入る情報は一本だけ。だから未知の文字は基本的に一つしか決まりません。

恒等式  のような等式。すべての で成り立つという主張で、手に入る情報は無限本。だから未知の文字がいくつあっても決められます。

この違いを飲み込むと、バラバラに見えていた解法がつながります。恒等式が「無限本の等式」だということは、そこから好きなだけ等式を引き出してよいということ。引き出し方は二通りです。

ひとつめは値を代入すること。すべての で成り立っているのだから、こちらが選んだ都合のよい でも当然成り立ちます。ふたつめは係数を比べること。中学以来おなじみの操作ですが、これが正しい理由は意外と語られません。

係数比較が許される、たった一つの理由

両辺の差を と書くと、恒等式であるとは「すべての 」ということ。ここで整式についての事実が効きます。

でない 次の整式は、相異なる根を高々 個しかもたない。 なら因数定理より と書けて次数が 減る。繰り返せば根の個数は次数を超えられません。)

ところが は無限個の になっています。無限は「高々 個」を超えているので、 は整式として 、すなわちすべての係数が 。これが係数比較の正体です。

ここが分かると、二つの引き出し方の違いも見えてきます。係数比較は、恒等式であることと完全に同じ内容で、逆にたどれば等式は復活するので同値変形です。ところが値の代入は、無限本のうち有限本を抜き取っただけ。抜き取った数本を満たす係数が、残りの無限本まで満たすとは限りません。「逆に」を書くかどうかは、几帳面さではなく、どちらの道を通ったかで決まります。

恒等式を、方程式のつもりで読んでしまう事故

「すべての実数 に対して」と書いてあるのに について解こうとして手が止まる。恒等式では は求めるものではなく、こちらが自由に動かせる道具。求めるのは式のなかに紛れている係数や関数のほうです。

もう一つの入口が「未知の関数」の扱いです。関数は無限にあるので、そのままでは手が出ません。そこで次数を決める一手が要ります。「2次以下の多項式」とあれば と置けて、未知の関数が未知の数3つに化ける。次数を決めるとは、未知数の個数を決めることです。

整式の割り算も、同じ枠組みの中にいます。 で割った商が 、余りが であるとは

ということですが、この等式は方程式ではなく恒等式です(ただし の次数は より小さい)。だからこそ となる を入れれば、見たくない が丸ごと消えます。剰余の定理も因数定理も、この一行から出てきます。

積分がからむ関数方程式も同じ話で、気をつけるのは二種類の積分の区別だけ。ただの定数 の関数です。前者は と置いて未知数を増やし、後者は計算して多項式に直す。この仕分けさえできれば、あとはいつもの係数比較に戻ります。

最後に、型そのものについて一言だけ。恒等式の問題を見た瞬間に「次数を決めて、置いて、比べて、逆を見る」と手が動く人は、頭の回転が速いのではありません。過去に何百回も使われてきた「型」から予想して、思考する量を減らすことで、手際よく解法を思い付いている場合もあるのです。型は考えなくて済ませるための道具ではなく、考える範囲を狭めるための道具。狭めたあとに何を考えるかは、その問題ごとに自分で決めることになります。

2. 手順——型を選ぶまでの判断の流れ

1その等式が、どこまでの範囲で成り立つと言われているのかを読む。「すべての実数 に対して」「割り切れる」「割った余りが」――どれも恒等式の合図です(型01)。合図が無ければ方程式で、係数を比べてはいけません。

2未知のものの形を決める。次数の指定があればそのまま、無ければ両辺の最高次を比べて確定させる(型05)。決まった次数のぶんだけ文字を置きます(型06)。余りなら、次数の上限が未知数の個数です(型07)。

3情報の取り出し方を選ぶ。素直に展開できるなら係数比較(型02)。展開が重い、分母がある、 の中身が のような形なら値の代入(型03・型04)。割り切れる条件なら因数定理(型08)、対称性があればそれ自体を恒等式として書く(型09)。

4どの道を通ったかを思い出して、逆を確認する。係数比較だけなら同値なので不要。代入を使ったなら必ず逆を書く(型10)。途中で両辺を割った箇所も遡って確認します。

3. 解法パターン全10型

型01 恒等式と方程式の違い

01「探す」のか「使う」のかを決める

顔つき 「すべての実数 に対して」「 についての恒等式であるとき」「 を求めよ」。逆に「 の値を求めよ」なら方程式。

中身 方程式なら が答え。恒等式なら は道具で、答えは係数や関数のほう。恒等式だと読めたら、代入してよい係数を比べてよいの二つの権利が同時に手に入ります。

なぜ効くか 恒等式は無限本の等式をまとめて渡されている状態です。未知数が3つあろうと5つあろうと、必要なだけ抜き取れば足ります。「情報が一本しかない」と「情報が無限本ある」の差が、そのまま方程式と恒等式の差。この判定を最初にやらないと、解き方が選べません。

型02 係数比較

02降べきの順にそろえて、同じ次数どうしを見る

顔つき 両辺が の多項式に整理できる。展開してもさほど重くならない。

中身 両辺を同じ文字について降べきの順に整理し、対応する次数の係数を等しいとおく。整理の途中で次数がそろわなければ、足りない次数の係数を とみなします。

なぜ効くか 差の整式が無限個の になるので、整式として 、つまり全係数が 。この推論は逆向きにもそのまま戻せるので、係数比較は同値変形です。係数比較だけで解いた答案には「逆に」が要りません。

型03 数値代入(必要条件から)

03必要な本数だけ抜き取って、連立する

顔つき 展開が重い。分母がある。未知数の個数がはっきりしている。

中身 未知数の個数だけ の値を選んで代入し、連立方程式を解く。ここで得られるのは必要条件なので、最後に逆を確認します(型10)。

なぜ効くか 都合のよい数本だけを抜き取る操作なので、展開の手間を丸ごと省けます。未知数が 個なら相異なる 個の値で連立は一意に解けます。ただし抜き取ったのは有限本。「これしかありえない」までは言えても「これでよい」はまだ言えていません。

型04 特定の値を代入する( など)

04消したい項が消える値を、狙って撃つ

顔つき  のような関数方程式。分母が の形。三角関数が混ざった等式。

中身 やみくもに代入せず、邪魔な項が になる値を選ぶ。 を消す)、 を消す)など。

なぜ効くか 代入とは「無限本から一本を選ぶ」操作でした。どの一本かは完全に自由なので、いちばん短くなる一本を選べばよいのです。関数方程式で を入れると だけの等式が残る、という現象がその典型。代入する値を探すことそのものが考えどころです。

型05 多項式の次数を決める

05次数を決めることは、未知数の個数を決めること

顔つき 「2次以下の多項式」「整式 が…をみたす」「 を求めよ」。

中身 指定があればそのまま使う。無ければ と置いて両辺の最高次の項を比べ、 についての等式を作って確定させる。

なぜ効くか 関数は無限にあるので、そのままでは未知数の個数が定まらず未定係数法に入れません。次数の上限は、無限次元の世界を有限次元に切り取る枷です。「3点を通る曲線」は無数にありますが、「2次以下」という枷が加わった瞬間に一つに決まります。

型06 未定係数法

06未知の関数を、未知の数に翻訳する

顔つき 「 を求めよ」「余りを求めよ」「 の値を定めよ」。

中身  のように文字で置き、条件を係数についての連立方程式に翻訳する。定積分が定数として現れるなら、それも と置いて未知数に加える。

なぜ効くか 私たちが解けるのは数についての連立方程式だけ。未定係数法は、関数の問題を数の問題へ両替する窓口です。手数料が「未知数がいくつ必要か」で、それを決めるのが型05。次数の確認を飛ばして置くと、文字が足りない・多すぎるという事故が起きます。

型07 割り算の余りを求める

07 は恒等式だから、代入してよい

顔つき 「 で割った余りを求めよ」「割り切れるように を定めよ」。

中身  と書き、余りは割る式より次数が低いので のように置く。次に となる を代入して を消す。

なぜ効くか この等式が恒等式であること――ここが全部です。 の根を入れれば正体不明の が丸ごと消えます。知らなくてよいものを消す値を選ぶという点で中身は型04と同じ。余りの次数の上限が未知数の個数を決めるところは型05と同じです。

型08 因数定理

08「割り切れる」と「値が 」は同じことの言い換え

顔つき 「 で割り切れる」「」「因数分解せよ」。

中身  で割り切れる。相異なる根 をもつ最高次係数 の3次式なら、それだけで 恒等式として確定します。

なぜ効くか 型07で余りが定数になった場合にすぎませんが、破壊力は別格です。有限個の点で一致するという弱い情報が、次数の上限と組み合わさると恒等式に格上げされる――この昇格を起こせるのが因数定理。神戸大学 2013年度では、3点を通る条件だけで2曲線の差が決まってしまいます。

型09 対称性から形を絞る

09対称性は、それ自体が恒等式

顔つき 係数が左右対称( など)。 を入れ替えても同じ式。

中身 気づいた対称性を式として書き下す。係数が左右対称な4次式なら が恒等式として成り立ち、そこへ具体的な値を代入して情報を取り出します。

なぜ効くか 対称性があると、一つ何かが見つかったとき相棒が自動でついてきます が根なら も根、というように。調べる対象が半分になり、 のような新しい文字で書き直す道も開けます。

型10 逆の確認(十分性)

10どの道を通ったかで、書くべきことが決まる

顔つき 代入して係数を決めたとき。両辺を何かで割ったとき。「〜をみたす をすべて求めよ」。

中身 求めた値を元の式に戻して、本当に恒等式になるかを確かめる。係数比較だけで進んだ場合は同値なので不要、代入を使った場合は必須。

なぜ効くか 代入で得られるのは「もし成り立つならこの値しかない」という必要条件だけ。存在するかどうかはまだ言えていません。逆をたどるのは儀式ではなく、答えを完成させる最後の計算です。大阪大学 2018年度では、確かめる過程で具体的な因数分解までついてきます。

4. 実際の入試で確かめる

全10型のうち、入試の実例がついているのは9型1マスが1つの型です。青いマスは、下にある入試の実例で確かめている型です白いマスは、下にある入試の実例では扱っていない型です01020304050607080910解法パターン10型入試の実例で確かめる9型下の実例にない1型9 + 1 = 10型。この図は下にある入試の実例が扱う型を数えたものです入試の実例は6問。実例の数と型の数は必ずしも一致しません

この単元の解法パターンは全10型で、下にある入試の実例6問で確かめているのは9型です。残りの1型は、下にある実例では扱っていません。1問が複数の型にまたがることも、同じ型を複数の実例で扱うこともあるため、実例の数と型の数は必ずしも一致しません。

ここからは実際に出題された問題で型を確かめます。問題文は各大学が公表した入試問題を、解説のために引用したものです。解答・解説は数強塾が独自に作成したもので、大学公表の解答ではありません。掲載した数値は当塾で独立に解いたうえで Python で検算し、さらに別の担当者が別ルートで解き直して照合しています。

神戸大学 2013年度 ―― 型05・型06・型08。3点を通るだけの条件が、恒等式に格上げされる

【問題】神戸大学 2013年度(理科系 第3問)

をみたす実数とする。 を2次以下の多項式とし、曲線 が3点 を通るとする。次の問いに答えよ。
(1)  を求めよ。
(2) 曲線 と曲線 で囲まれた部分の面積 を用いて表せ。
(3) (2) で求めた を最小にするような の値を求めよ。

【解答】

(1)  (2)  (3) (このとき

(1) まっすぐ行く道(未定係数法)。 は2次以下だと言われているので、未知数は3つだと確定します。そこで と置き、3点を通る条件を書くと

いちばん軽い条件から片づけるのが要領です。 を入れると定数項以外が消えて が即決。第2式から として第3式に入れると

ここで なので 、割ってよく

(1) 見通しよく行く道(因数定理)。与えられた3点をよく見ると、 に対して ですから、3点はすべて曲線 の上の点です。そこで差をとります。

は2次以下なので 最高次の係数が の3次式で、しかも は相異なるので、因数定理から

についての恒等式として確定します。ここがこの問題の芯です。「たった3点で一致する」という弱い情報が、「2次以下」という枷と組み合わさった瞬間に、すべての についての等式に格上げされたのです。あとは移項するだけで

(2) いま作った恒等式をそのまま使えます。2曲線の差は

で、交点は の3つ。上下は因数の符号だけで決まります。 より

の原始関数を とすると

(3)  で微分して因数分解します。

では なので、 の符号は と一致。よって の前で減少、後で増加します。

の他の解 はどちらも範囲の外。また なので は対称の中心でもあります。)

この問題で使った型

型05・型06 「2次以下」の一言があるから と置けます。次数の指定が、未知数を3つに固定してくれているのです。

型08 別解の因数定理が本命です。3点で一致するという有限個の情報が、次数の上限と合わさって恒等式になる――この昇格の瞬間が、このテーマ最大の見どころです。

検算のしかた

係数の一意性 3点の条件から作った連立の係数行列の行列式は で、 では になりません。だから解はただ一つです。

恒等式であること  を厳密に簡約すると 。3点を通ることも で残差 以内(倍精度の丸め誤差の範囲)でした。

面積は公式を信じずに  を分点にして数値積分し、7通りの で閉じた式との差が 以下(例: でどちらも )。

最小値は全数走査で  刻みで走査した最小は と一致します。

神戸大学 2015年度 ―― 型01・型02・型10。「すべての実数 に対して」が、そのまま解法の指示になっている

【問題】神戸大学 2015年度(文科系 第2問)

数列 をみたし、さらにすべての実数 とすべての自然数 に対して

をみたすとする。
(1) 数列 の一般項を求めよ。
(2)  のとき、数列 の一般項を求めよ。
(3)  のとき、数列 の一般項を求めよ。

【解答】

(1)  (2)  (3)

方針。問題文の一行目に「すべての実数 すべての自然数 に対して」とあります。これは について解くべき方程式ではなく恒等式。そう読めた瞬間に「両辺を の多項式に整理して係数を比べる」という一本道が開けます。

共通準備:右辺を の多項式に直す。 を固定します。積分変数は で、 は定数、積分区間の端にだけ現れます。

ここではじめて右辺が「 の2次式」の姿になりました。一方、左辺は です。

係数比較。両辺とも定数項が の2次以下の多項式で、これがすべての実数 で一致します。係数を比べて

逆の確認。逆に ①② が成り立てば、上の変形を逆にたどって等式はすべての で成り立ちます。よって与えられた条件と ①② は同値係数比較は同値変形という型02の話が、ここで実際に効いています。

(1) ① より は公比 の等比数列。 なので

(①には が現れないので、この結果は (2)(3) 共通で使えます。)

(2) ② に (1) を代入すると

これは階差数列です。 のとき

のときも となるので、この式でまとめられます。

(3) ② に (1) を代入すると

(等差)×(等比)の和が必要になるので、 で処理します。

のとき として

のときも となり、この式でまとめられます。

に近づきます。)

この問題で使った型

型01 「すべての実数 に対して」を恒等式と読む。ここを読み違えると何も始まらず、正しく読めた瞬間にやることが一つに決まります。問題文の日本語が、そのまま解法の指示になっているのがこの問題のよさです。

型02  の係数から を含まない等比の漸化式が、 の係数から階差型の漸化式が出ます。係数比較は「一本の等式から二本の情報を取り出す」操作だと分かる場面です。

型10 同値であることを一行で確認しておくと、以降は漸化式だけを見ていられます。逆の確認は面倒な後始末ではなく、「もう元の式に戻らなくてよい」という許可証です。

検算のしかた

係数の取り出し 右辺の定積分を文字のまま計算して展開すると 。定数項が であることまで機械的に確認できます。

逆向きの検証 得た一般項を代入した状態で を展開すると、 から まですべて恒等的に これが答案での「逆の確認」に対応します。

千葉大学 2008年度 ―― 型06・型02・型10。二種類の積分を仕分けてから、係数を比べる

【問題】千葉大学 2008年度 前期日程(第6問)

2次関数

を満たすとする。
(1)  を求めよ。
(2) 関数 における最小値を求めよ。

【解答】

(1)  (2) 最小値 のとき)

最初の関門は、二種類の積分を見分けること。この式には積分が2つ入っていますが、性格がまったく違います。

は上端も下端も数なので、積分し終わればただの定数。ところが は上端に がいるので の関数です。前者は と置いて未知数に加え、後者は計算して多項式に直す。この仕分けさえできれば、あとは係数比較の作業です。

(1) (定数)とおき、 は2次関数なので と置きます(型05・型06)。

左辺は 。右辺は を使って

これは についての恒等式なので、係数を比較します。比べる順番を選ぶと、文字が一つずつ落ちていきます。

ここまでで と分かりました。最後に置いた の定義に戻ります。これを忘れると が決まりません。

なので、確かに2次関数です。逆の確認。左辺は 、右辺は で一致します。

(2)  とおくと

では 。よって で最小となり

したがって、 における の最小値は です。

この問題で使った型

型06 未知数は の3つ……ではなく、 を加えて4つです。定積分を「定数」として置いた瞬間に未知数が一つ増える――ここを数え損ねると、式が足りなくなります。

型02  から から から が順に落ちます。次数の高い順に比べる必要はありません。いちばん短い式が出るところから比べるのが早道です。

型10 最後に の定義式へ戻る一手が、実は十分性の確認そのものになっています。 は係数比較から出た結果ですが、 が本当に の積分と一致していなければ答えになりません。置いた文字は、必ず定義に返す。

検算のしかた

係数を機械的に  を代入して(左辺 右辺)を整理すると、係数は 。すべて とおくと 唯一解でした。

最小値  点で走査した数値最小は 付近)。 と8桁一致しました。

大阪大学 2018年度 ―― 型08・型09・型02・型10。対称性を恒等式として書き下すと、道が開ける

【問題】大阪大学 2018年度 前期日程(理系 第2問)

を正の実数とし、 とする。
(1)  を実数とし、 で割り切れるとする。このとき であり、 で割り切れることを示せ。
(2)  がある実数 を用いて と因数分解できるとき、 が成り立つことを示せ。
(3)  とする。 がある実数 を用いて と因数分解できるような自然数 の値をすべて求めよ。

【解答】

(1)(2) 証明(下記) (3)

まず係数を眺める。 の係数は 左右対称。これを「気づいた」で終わらせず式として書き下すのが急所です(型09)。

(1) 因数定理より「 で割り切れる」ことは と同じです(型08)。

(i)(ii) であること。 なので 。また だとすると、 より

となり 。これは に反します。よって

(iii) も根であること。ここで係数の対称性を恒等式として書きます。

これは をみたすすべての について成り立つ恒等式です。恒等式なのだから、好きな値を入れてよい。 を入れると

つまり も根です。一つ根が見つかると、相棒が自動でついてくる――型09の御利益がそのまま出ました。

(iv) 積で割り切れること。 のとき、 と置けば なので

かつ より の解で、もう一方の解を とすると

ここで は和が 、積が なので に等しい。よって はこれで割り切れます。( のときも で割り切れる形で同じ結論。) (証明終)

(2)  と実数で書けたとします。各根は (1) よりすべて正で、根 に対して も根。したがって4つの根は

の形にまとめられます(定数項が4根の積で の係数が4根の和に を掛けたもの)。展開して の係数を比べると

相加平均・相乗平均の関係より

したがって 。等号は 、すなわち )のときに限ります。 (証明終)

(3) (1) の分解により、実数 を用いて と書けます。右辺を展開すると

となるので、 についての恒等式として係数を比べて(型02)

「4つとも実数の根をもつ」ことは かつ と同値です。根の積が で根が正なので 、よって かつ となります。

より なので 。このとき

で、 における値域は で最小 で最大 。したがって

この範囲にある自然数は のみです。

逆の確認。 のとき より

となり、確かに4つの実数で因数分解できます。

この問題で使った型

型08 「割り切れる」を に翻訳するところから全部が始まります。言い換えができないと、そもそも計算に入れません。

型09 係数の左右対称を という恒等式として書いたのが決め手でした。恒等式にすれば を代入する権利が手に入り、相棒の根が一行で出ます。

型02 (3) は係数比較が主役。展開して を取り出すと、問題が についてのやさしい話に変わります。

型10 範囲から を拾っただけでは「その で本当に4実数に分かれるか」が未確認。逆をたどると、具体的な因数分解までおまけでついてきます。

検算のしかた

相反性の恒等式  を厳密に簡約すると でした。

数値解の落とし穴 はじめ数値的に根を求めて虚部の大きさで実数判定したところ、 を拾えませんでした。 が2重根なので数値解に 規模の虚部が乗るのが原因です。重複度こみの厳密な実根計算に切り替えると、 の中で のみでした。

大阪大学 2006年度 ―― 型02と型03の対決。同じ答えに、二つの道が用意されている

【問題】大阪大学 2006年度 前期日程(理系 第3問)

を変数とする。
(1)  を自然数とする。次の等式が成り立つように定数 を定めよ。

(2) すべての自然数 について、次の等式が成り立つことを証明せよ。

【解答】

(1)  (2) 数学的帰納法による証明(下記)

(1) 右辺を通分すると

で、分母が左辺とぴたり一致します。だから求める条件は、分子の等式

についての恒等式になることです(型01)。成り立ってほしいのは特定の ではなく、変数として動く すべてについて――ここを読み切れるかが最初の分かれ道です。

道その一:係数比較(型02)。右辺を について整理すると なので、 の係数から 、定数項から

より 、よって 係数比較は同値変形なので、これで話は終わりです。

道その二:数値代入(型03・型04)。恒等式なら好きな値を入れてよいので、項が消える値を狙って撃ちます

展開が要らないぶん、こちらが速い。ただしこれは必要条件でしかありません。二つの値で成り立つ を見つけただけだからです。そこで逆の確認(型10)を書きます。

のとき となり、確かにすべての で成り立ちます。同じ答えでも、通った道によって最後の一行が変わる――型02と型03の違いが並べて見られます。以上より

(2) 数学的帰納法で示します。(1) で作った等式が、 をつなぐ橋になります。

[i] 左辺は 、右辺は で成立。

[ii] で成立と仮定する。すなわち

(1) で とし、両辺を 倍すると

第1項は仮定より 第2項は、仮定の に置き換えたものそのものです。恒等式は文字に何を入れてもよいので、一段ずらした等式がタダで手に入ります。よって

添字を つずらして足し合わせると

と約束し、最後にパスカルの法則 を使いました。)ゆえに でも成立します。

[i][ii] より、すべての自然数 について成立します。(両辺とも での有理式としての恒等式です。) (証明終)

この問題で使った型

型02と型03の並走 (1) は同じ結論に二本の道が用意された小問です。係数比較は同値だから終わり、数値代入は必要条件だから逆を書く。どちらが正しいかではなく、どちらを通ったかで答案が変わります。

型04  は、いずれも「片方の項を消す」値です。やみくもに と入れて連立するより、はるかに短く済みます。

型10  という一行が十分性の確認。たった一行ですが、これが無いと数値代入の答案は完成しません。

検算のしかた

必要条件どまりの確認  などを乱数 5点に入れると全点で不一致、 だけが常に一致しました。

(2) の全体  から まで、左辺と右辺の差を通分・簡約してすべて厳密に (例: で両辺 )。

大阪大学 2003年度 ―― 型01・型04の総仕上げ。係数比較の土台を、自分で証明する

【問題】大阪大学 2003年度 前期日程(理系 第3問)

(1)  の整式とし、 および をみたす数列とする。このとき ならば は整式として0であることを示せ。
(2)  の整式とし はすべての実数 に対して0であるとする。このとき はいずれも整式として0であることを示せ。

【解答】

(1) 背理法と因数定理による証明 (2) を順に代入して (1) を3回使う(下記)

(1)  が整式として でないと仮定します(背理法)。このとき次数 が定まります。

(i) のとき。 は定数なので となり、 に矛盾します。

(ii) のとき。 でない 次の整式について、 の相異なる実数解は高々 個です。 なら因数定理より次数が 減り、繰り返せば解の個数は次数を超えられません。

ところが はすべて相異なる実数で、そのすべてが の解。解が無限個あることになり、「高々 個」に矛盾します。

(i)(ii) いずれも矛盾するので、 は整式として です。 (証明終)

(2) 道具ができたので、あとは邪魔な項が消える値を狙って代入するだけです(型04)。

第1段: であること。 を代入します。 なので

数列 は狭義単調増加で に発散するので、(1) より は整式として

第2段: であること。これで、すべての実数 に対して

なので

は整数)のとき なので ここで一行を惜しまないでください。左辺は連続関数なので、 の極限を考えればこの等式はすべての実数 で成り立ちます。第3段で代入する がまさにいま除外した点だから必要なのです。

そのうえで を代入すると なので

この数列も狭義単調増加で に発散するので、(1) より は整式として

第3段: であること。すべての実数 を代入すると なので 。よって (1) より は整式として

以上より はいずれも整式として です。 (証明終)

この問題で使った型

型01の根っこ (1) の主張は「無限個の点で なら、整式として 」。これは方程式が恒等式に格上げされる条件であり、係数比較が許される理由でもあります。当たり前に使う操作の下を掘ると、因数定理が一本通っています。

型04 (2) は代入する値の選び方がすべてです。 を消したいから を消したいから にしたいから 「何を消したいか」から代入値が決まります。

型08 (1) の証明の心臓は因数定理です。根が一つ見つかるたびに次数が 減る――この単純な事実が、無限個の根という状況と衝突して矛盾を生みます。

検算のしかた

(2) を1次独立性として検証  を高々5次(未知係数 個)とし、 から まで 点とって を並べた行列の階数は 18 でフルランク。係数がすべて のとき以外 は恒等的に になりません。

非自明な組み合わせの走査  を1次以下とし、係数を から の整数にした 通り(零ベクトルを除く全通り)について の最大値を測ると、最小でも のとき)。係数がすべて でない限り、 は恒等的に になりません。

5. よくある質問

Q1. 恒等式と方程式は、どうやって見分けるのですか。

A. 問題文が、すべての実数について成り立つと言っているかどうかだけで決まります。言っているなら恒等式で、そのときの文字は求めるものではなく、こちらが自由に動かせる道具です。言っていないなら方程式で、その文字が答えになります。割り切れる、割った余りが、という言い方も恒等式の合図です。

Q2. 係数を比べるのと、値を代入するのと、どちらを使えばよいですか。

A. 展開してもさほど重くならないなら係数比較、分母があったり展開が大変だったりするなら数値代入が速いです。ただし係数比較はそれだけで同値な変形ですが、数値代入は必要条件しか作りません。速いぶんだけ後始末が要る、という交換だと考えてください。

Q3. 最後の逆の確認は、書き忘れると減点されますか。

A. 値を代入して係数を決めた答案では、逆の確認まで書いて初めて解答が完成します。選んだ何個かの値で成り立つことしか示していないからです。一方、係数を比べるだけで進んだ場合は同値な変形なので、改めて書く必要はありません。どちらの道を通ったかで決まります。

Q4. 割った余りを求める問題で、余りをどう置けばよいのか分かりません。

A. 余りは割る式より次数が低い、という決まりから置きます。二次式で割るなら余りは一次以下なので文字を二つ置きます。そのうえで、割る式がゼロになる値を代入してください。正体の分からない商が丸ごと消えて、余りだけが残ります。

Q5. 型を覚えれば、初見の恒等式の問題も解けますか。

A. 型は考えなくて済ませる道具ではなく、考える範囲を狭めるための道具です。過去に何百回も使われてきた型から予想して、思考する量を減らすことで、手際よく解法を思い付いている場合もあるのです。狭めたあとに何を考えるかは、その問題ごとに自分で決めることになります。

6. 次に読むページ

恒等式の問題で、手が止まってしまう人へ

恒等式が苦手な生徒の答案を見ていると、計算力の不足ではなく「いま相手にしている等式が、どこまでの範囲で成り立つと言われているのか」を確認しないまま式をいじっていることがほとんどです。数強塾では、式を書く前に「これは恒等式か方程式か」を口に出させ、係数を比べたのか値を代入したのかを毎回記録させます。オンラインの完全1対1で、プロ講師のみが担当します。

数強塾オリジナル演習 追加5題|型07を中心に埋める

上の入試実例では型01〜06・08〜10 を扱いました。残るのは型07(割り算の余り)ひとつです。ここでは型07を4問(1次式の積・重解・高次・条件からの復元)で掘り下げ、落としやすい型03・型10(数値代入と逆の確認)を1問加えます。すべて自作問題で、答えは別解や代入で検算してあります。

型07 割り算の余り(1次式の積で割る)
で割った余りを求めよ。

解答・解説を見る

余りの次数は、割る式より低い。ここが出発点です。 は2次なので、余りは1次以下
 …①
①は恒等式なので、どんな を入れても成り立ちます。 が消える値を選ぶのがコツ。
なので を入れます。


辺々引くと 、よって
【答】余りは
(検算: と見て二項定理で展開すると、 を含まない項は だけ ✓)
【なぜ代入してよいのか】①が恒等式——つまりすべての で成り立つから。方程式なら特定の でしか成り立たず、好きな値を代入できません。
「恒等式だから代入できる」——この一言が、型07 のすべてを支えています(型01)。
【代入する値の選び方】割る式が になる値を選びます。そうすれば がどんな式でも消えるからです。因数分解できない場合は、次の手が要ります。

型07 割り算の余り(重解の場合)
で割った余りを求めよ。

解答・解説を見る

代入だけでは足りない型です。 を満たすのは だけなので、式が1本しか作れません
 …①
 …②
ここで両辺を微分します。①は恒等式なので、微分しても恒等式のままです。

を入れると右辺の前2項が消えて

②より
【答】余りは
(検算: を入れると と一致 ✓)
【なぜ微分してよいのか】恒等式は無限個の等式がまとめて手に入っている状態でした。両辺が関数として一致しているので、微分しても一致します
方程式では、この操作はできません。 を微分して とするのは誤りです。
【別解:置きかえる】 と置くと。二項定理で展開して 以上を捨てる

どちらの道でも同じです。置きかえのほうが仕組みは見えますが、微分のほうが速い。

型07 次数の高い割り算(周期を使う)
で割った余りを求めよ。

解答・解説を見る

で割るときは、 と見なせます。
正確には なので、 に置きかえても余りは変わりません
で割ると

よって

【答】余りは
(検算: の零点は1の3乗根)。 ✓。3つの値すべてで一致するので、2次以下の余りとして正しい)
【手順は2行】指数を、割る式の次数で割った余りにする ②残った形を書く。
で割るなら、 で割った余り を使って 。これだけです。
だと符号がつく】 と見なすので、符号の管理を忘れないでください。
【整数の合同式と同じ】 で割った余りを求めるとき、 を使うのとまったく同じ発想です。「1になるところを見つけて、指数を圧縮する」——式でも数でも変わりません。

型07・型08 余りの情報から余りを作る
多項式 で割ると余りが で割ると余りが である。 で割った余りを求めよ。

解答・解説を見る

因数定理を、条件の翻訳に使います。
で割った余りが  → 
で割った余りが  → 
求める余りは1次以下なので と置きます。



辺々引いて 、よって
【答】余りは
(検算: ✓、 ✓。たとえば 自身が条件を満たす具体例です)
が分からなくても解ける】これがこの型の面白いところです。 の次数も係数も未知のまま、余りだけが決まります
必要な情報は の値だけ。それ以外はすべて に吸い込まれて消えます。
【3つに増えたら】 で割るなら余りは2次以下で 3つの値を代入して3本の式「割る式の次数=必要な条件の本数」と覚えておくと、情報が足りているか判断できます。

型03・型10 数値代入と、逆の確認
等式 についての恒等式となるように、定数 の値を定めよ。

解答・解説を見る

数値代入は速いが、必要条件しか出ません。最後に逆の確認が要ります(型10)。
【数値代入】左辺の項が消える値を選びます。
より
より
より
【逆の確認(十分性)】ここで終わってはいけません。いま示したのは「恒等式ならこの値」という一方向だけです。
この値を代入して、本当に恒等式になるかを確かめます。
の係数:
の係数:
定数項:
すべて右辺 と一致するので、たしかに恒等式。
【答】
【なぜ逆の確認が要るのか】数値代入で分かるのは「その3点で等しい」ことだけ。ほかの点でどうかは、まだ言えていません。
今回は両辺とも2次以下なので、3点で一致すれば恒等式だと言えます(2次関数は3点で決まる)。この理由を書けば、代入計算だけで済ませられます。
【係数比較なら一発】最初から展開して係数を比べれば、必要十分な条件がそのまま出ます(型02)。速いが計算量が多い代入法と、遅いが確実な係数比較——問題に応じて選んでください。

10の型は「恒等式をどう使うか」で分かれる

本文の背骨のとおり、恒等式とは無限個の等式がまとめて手に入っている状態でした。その使い道で型を並べ直すと、こうなります。

使い道 やること 該当する型
好きな値を代入する 式が消える値を選ぶ 型03・04・07・08
係数を比べる 展開して次数ごとに 型02・06
形を絞る 次数・対称性から候補を減らす 型05・09
両辺を微分する 重解のときの追加の1本 型07(演習2)

そして型01(恒等式と方程式の違い)と型10(逆の確認)は、どの道でも必要な作法です。

割り算の余りを求める3つの道(型07)

割る式 方法
相異なる1次式の積 零点を代入(演習1・4)
重解を含む 代入+微分(演習2)
の形 指数を で圧縮(演習3)

余りの次数は、割る式より必ず低い——ここから未知数の個数が決まります。2次で割るなら で未知数2つ、だから条件も2本必要。

条件が1本足りないときが重解の場合で、そこで微分がもう1本を作ります。「本数が足りない」と気づくことが、微分を思いつく合図です。

数値代入と係数比較の使い分け(型02・03)

数値代入 係数比較
速さ 速い 遅い
得られる条件 必要条件のみ 必要十分
逆の確認 必要 不要

代入法で逆の確認を省ける場合もあります。両辺が 次以下で、 個の値で一致していれば、恒等式だと言い切れるからです。

ただしその理由を答案に書くこと。「3点で一致し、両辺とも2次以下だから恒等式」——この一文があるかないかで、答案の完成度が変わります

検算の型

  1. 余りに零点を代入する ── もとの値と一致するか(演習1・2・4)
  2. 別の道でも解く ── 置きかえ・二項定理・合同式(演習2・3)
  3. 具体的な を1つ作る ── 条件を満たす簡単な例で確かめる(演習4)

3つ目が有効です。演習4なら 自身が条件を満たすので、答えが正しいことがすぐ分かります。

「なぜそうなるのか」へ

恒等式は、式の構造を見る土台です。次の記事とつながっています。

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