定積分の評価は、積分の計算が得意な人ほど戸惑う分野です。「値を求めよ」と言われていないのに、値について答えなければならないからです。原始関数が書けない積分を前にして、それでも「 より小さい」「極限は 」と言い切る。そんな芸当ができるのは、この分野の問題が例外なく「計算できない量を、計算できる量ではさむ」という一つの動作でできているからです。しかも道具は驚くほど少ない。区間のどの点でも なら積分にもその大小が伝わる——本当にこれだけです。区分求積も、級数を積分ではさむ話も、絶対値つきの積分も、すべてこの一行の言い換えにすぎません。このページは定積分の評価と不等式を12の型に分けて並べた辞典です。型は当てはめる箱ではなく、「いま何と何を比べようとしているのか」を見失わないための道具として並べています。
このページの位置づけ——概観は第1層、深掘りはここ
定積分の評価は積分法(数III・計算)の解法パターン全18型でも扱っています(型15・型17・型18)。あちらが「積分という単元を一望する地図」なら、こちらは「評価と不等式だけを掘り下げる坑道」です。積分の計算そのものに不安がある方は、第1層からご覧ください。
このページの12型
- 被積分関数の大小から積分の大小
- 区分求積法
- 面積で級数を評価する
- 部分積分で漸化式を作る
- 置換積分の定石
- 偶関数・奇関数の利用
- 周期性の利用
- King property(区間の対称性)
- 絶対値つきの定積分
- 広義積分の扱い
- 積分と極限
- 積分方程式との違い
1. 背骨——評価とは、計算できない量を計算できる量ではさむこと
高校で扱う定積分のうち、原始関数がきれいな式で書けるものはごく一部です。 も も、「値を求めよ」と言われたら手が止まります。ところが入試はそれを承知で、求めよではなく「 より小さいことを示せ」「極限を求めよ」と聞いてきます。評価の問題とは、値を出す道が塞がれた状態で、それでも答えを確定させる問題です。使える道具は、ほとんど一つしかありません。
定積分の評価を支えるたった一つの原理
区間 のすべての について ならば
点ごとの大小が、積分という「足し合わせ」を通ったあとも保たれる。この一行から、このページの12型すべてが出てきます。
この原理がなぜ強いのか。不等式を「各点で」作ればよいからです。積分どうしを直接くらべるのは難しくても、関数どうしなら微分する・相加相乗を使う・既知の不等式にあてはめると手はいくらでもある。一度くらべれば、あとは両辺を積分するだけで大小関係が積分の世界へ運ばれます。局所の情報を大域の情報に翻訳する装置です。
逆に言えば、この原理を使うには「くらべる相手」を自分で用意しなければなりません。相手は積分できるものでなければ意味がなく、粗すぎても細かすぎても目的に届かない。以下の12型は、その相手の選び方を場合ごとに整理したものです。
この見方をすると、ばらばらに見えていた型が一列に並びます。区分求積法は小区間の中で を定数関数とくらべた話で、 が単調なら左端と右端の値がそのまま下の壁と上の壁になる。面積で級数をはさむのも同じ絵で、違うのは短冊の幅だけ。幅を に近づければ区分求積、幅を に固定したまま項数を増やせば級数の評価です。
もう一本、柱があります。値を求めずに、積分どうしの関係式を作るという発想です。置換積分は値を変えません。だから同じ積分を2通りに書き、等号で結ぶと、計算しないまま値が決まってしまうことがあります。 がその代表例で、後で扱う横浜国立大学の問題そのものです。偶奇、周期性、部分積分の漸化式も同じ仲間です。
そしてもう一つ、どこまで粗く評価してよいかという感覚も要ります。甘すぎれば目標の数値を越えて証明にならず、厳しくしすぎれば押さえた側が計算できない。この加減は問題文が教えてくれます。信州大学の問題では上から押さえた値が となり、 を入れるとぴたりと 。目標の数値は出題者が逆算して決めているのです。
評価でいちばん多い事故は「向き」と「等号」
向き 両辺に何かを掛けるとき、掛けるものが負なら向きが変わります。逆に、掛けるものが非負であることさえ確認すれば向きは変わらない。東京都立大学の問題で をわざわざ断るのは、この一点のためです。
等号 が区間の内部で成り立てば、積分後も と真の不等号で書けます。答案には「区間の内部では真に成り立つから」と一言添えてください。
最後に、型そのものについて一言。この分野の問題を見た瞬間に「単調だから短冊ではさむ」「区間が左右対称だから だ」と手が動く人は、頭の回転が速いのではありません。過去に何百回も使われてきた「型」から予想して、思考する量を減らすことで、手際よく解法を思い付いている場合もあるのです。型は考えなくて済ませるための道具ではなく、考える範囲を狭めるための道具です。狭めたあと何と何をくらべるかは、その問題ごとに自分で決めることになります。
2. 手順——型を選ぶまでの4つの問い
1ゴールは何かを先に確認する。値を求めるのか、不等式を示すのか、極限を出すのか。値なら第1層の計算の型へ、不等式なら壁を作りにいき、極限ならはさみうちの材料を集めにいきます。ゴールが決まる前に手を動かすと必ず遠回りになります。
2その積分は本当に計算できないのかを確かめる。置換(型05)、偶奇(型06)、周期性(型07)、区間の対称性(型08)、部分積分の漸化式(型04)——この5つを試して初めて「計算できない」と判断してください。評価は最後の手段です。
3くらべる相手を探す。相手の作り方は3通り。①区間での最大値・最小値という定数 ②単調性を使った小区間の端点の値(型02・型03) ③問題文が前半で作らせている既製の不等式(型01)。誘導つきなら、ほぼ確実に③です。
4積分して、仕上げる。上下の壁が同じ値に近づくならはさみうち(型11)、数値目標があるなら最後に のような近似値を入れて決着させます。押さえ方が甘かったかどうかは、ここで初めて判明します。
3. 解法パターン全12型
型01 被積分関数の大小から積分の大小
01関数でくらべてから、積分する
顔つき 「 を示せ」。前半の設問で不等式を作らせている。
中身 ①区間のすべての で を示す ②両辺を積分する ③右側の積分だけを計算する。
なぜ効くか 積分は「足し合わせ」なので各点での大小はそのまま保たれます。だから難しい積分を扱う必要がなくなり、やさしい積分ひとつを計算すれば済む。前半に不等式の証明が置かれていたら「この壁を使え」という指示です。
型02 区分求積法
02 を括り出して を見つける
顔つき の形。和の中に がある。
中身 。幅 を先に括り出す。
なぜ効くか これは型01の完成品です。 が単調なら、左端と右端の高さで作った短冊の和が本当の面積をはさみ、差は だけ。
型03 面積で級数を評価する
03幅
顔つき
中身
なぜ効くか 足し合わせると中央の積分がひとつながりにまとまり、両側には和が残ります。区分求積は幅を
型04 部分積分で漸化式を作る
04どちらを微分し、どちらを積分するかを選ぶ
顔つき
中身 1つだけ分離して部分積分する。境界項が消えるように分け方を選ぶのが要領。
なぜ効くか 値を求めずに
型05 置換積分の定石
05置換は「値」ではなく「見た目」を変える
顔つき 根号の中に1次式、
中身
なぜ効くか 置換しても値は変わりません。だから同じ積分に2通りの表示が与えられ、等号で結べば関係式が生まれます。型06・型07・型08はすべて置換の特別な場合です。「何をひとかたまりと見るか」を決めるのが本体で、計算はあとからついてきます。
型06 偶関数・奇関数の利用
06区間が
顔つき 積分区間が
中身 奇関数の積分は
なぜ効くか
型07 周期性の利用
071周期分の積分は、どこから始めても同じ
顔つき
中身 周期
なぜ効くか
型08 King property(区間の対称性)
08
顔つき
中身
なぜ効くか 置換で値は変わらないのに見た目だけが変わる。この差を使うと同じ
型09 絶対値つきの定積分
09中身の符号が変わる点で、区間を切る
顔つき
中身
なぜ効くか 絶対値は場合分けを1文字に圧縮した記号なので、積分の前に必ず解凍が要ります。逆に、切る点さえ見つかれば残りはただの計算。「どこで切るか」が急所そのものになっている出題がとても多い型です。
型10 広義積分の扱い
10高校では「有限で計算してから極限」
顔つき 区間の端で被積分関数が発散する、または区間が無限に延びる。
中身 有限区間で計算してから
なぜ効くか
型11 積分と極限
11上下の壁を
顔つき
中身
なぜ効くか 極限は「詰める」操作で、評価はその材料です。「収束することを示せ」なら値がわからなくても上下の壁さえ作れれば勝ち。収束を示す問題のほうがやさしいことすらあります。
型12 積分方程式との違い
12定積分は「数」、変数を含む積分は「関数」
顔つき
中身 区間が定数なら積分を
なぜ効くか 評価と見た目は似ていますがやることは正反対です。評価は「値がわからないまま大小を言う」、積分方程式は「値を文字で置いて等式から確定させる」。この区別がつかないまま手を動かすのが最も多い迷子の原因です。詳しくは定積分で表された関数の解法パターン全12型へ。
4. 実際の入試で確かめる
この単元の解法パターンは全12型で、下にある入試の実例6問で確かめているのは9型です。このページの追加演習が3型を埋めています。1問が複数の型にまたがることも、同じ型を複数の実例で扱うこともあるため、実例の数と型の数は必ずしも一致しません。
ここからは実際に出題された問題で型を確かめます。問題文は各大学が公表した入試問題を、解説のために引用したものです。解答・解説は数強塾が独自に作成したもので、大学公表の解答ではありません。掲載した数値は当塾で独立に解いたうえで Python(sympy と mpmath)で検算し、別の担当者が解き直して照合しています。
横浜国立大学 2010年度 ―― 型08・型05。積分を計算せずに、積分の値を決める
【問題】横浜国立大学 2010年度 前期日程(A2 冊子)
次の問いに答えよ。
(1)
が成り立つことを示せ。
(2) 定積分
【解答】
(1)
(1) 同じ積分を、もう一度出す。
最後の積分は、積分変数の名前を
両辺を
(2)
いちばん厄介だった
次数が同じときは分子を分母で作り直すのが基本。
よって
この問題で使った型
型08 対称なもの(
型05
検算のしかた
(1) は
(2) は数値と閉じた式を突き合わせる 数値積分は
信州大学 2019年度 ―― 型01・型05。押さえ方の粗さは、目標の数値が教えてくれる
【問題】信州大学 2019年度 前期日程(理学部数学科・医学科・工学部 共通問題)
(1)
(2)
【解答】
(1)
(1) 「すべての
と同値です。これがすべての
目星をつけるだけなら
分子で
端でも越えません(
(2) 原始関数が書けない積分を、書ける積分に取り替える。
右辺はただの三角関数の多項式で、これなら積分できます。型01の一手——両辺を
あとは
最後に
(証明終) ここで目を留めてほしいのは、
この問題で使った型
型01 積分できない関数を、積分できる関数で上から押さえる。誘導 (1) は「この壁を使え」という指示でした。前半で不等式を作らせる問題は、後半でそれを積分に流し込みます。
型05 置換の本体は「何をひとかたまりと見るか」を決めること。
検算のしかた
(1) は
3つの数がこの順に並ぶか
神戸大学 2011年度 ―― 型03・型11。項数が爆発しても、和は に収まる
【問題】神戸大学 2011年度 前期日程(理科系)
とおく。以下の問に答えよ。
(1)
(2)
を示せ。
(3)
【解答】
(1)
(1)
(2) 幅
これを
(証明終) 絵で言えば、本当の面積を、右端と左端の高さの長方形ではさんでいるだけです。等号がつかないのは区間の内部で
(3) 足し合わせると、中央がひとつながりになる。(2) を
右側の和はそのまま
以上をまとめると
すなわち
この問題で使った型
型03
型11 (3) で上下の壁の差が
検算のしかた
(1)(2) は総当たりで
(3) ははさみうちを使わずに直接足す
東北大学 2009年度 ―― 型09・型01。大小を決めない限り、積分に一歩も入れない
【問題】東北大学 2009年度 前期日程(理系)
(1) 実数
(2)
【解答】
(1)
まず、この
(1) 差をとって、符号を見る。和積の公式
足して
別解——絶対値ひとつで場合分けを消す。大きいほうを取る操作は
(2)
頂点の
この問題で使った型
型09
型01 大小を決める作業そのものが本体でした。「積分の前に、関数どうしをくらべる」という順序は変わりません。
型07 別解の決め手は
検算のしかた
場合分けを使わずに積分する
最大値と端点
千葉大学 2014年度 ―― 型04・型05。漸化式を作り、同じ積分を2通りに計算する
【問題】千葉大学 2014年度 前期日程
とおく。このとき、以下の問いに答えよ。
(1)
(2) 次の式を示せ。
(3) 次の式を示せ。ただし
【解答】
(1)
(1) 「
着目すべきは、
境界項は消えます。
(2)
と分けると、余った
(3) 同じ積分を2通りに計算して、等号で結ぶ。目標は二項係数の交代和の等式ですが、その正体は「ひとつの定積分に2通りの計算法がある」という、ただそれだけのことです。
[I]漸化式で下ろしきる道。(1) を繰り返し使うと、第1添字は2ずつ下がり第2添字は2ずつ上がるので
係数の積は、分母と分子から
たどり着いた先の
ですから
(
[II]二項定理で展開する道。
[I]と[II]は同じ積分の値ですから、等号で結んで
よくあるつまずき
(1) の漸化式を「
この問題で使った型
型04 分け方は「境界項が消えるように」「次数が動いてほしい方向に」選びます。
型05
検算のしかた
(1)(2) は組を総当たり sympy で
(3) は分数のまま441組 交代和は桁落ちしやすいので有理数のまま計算し、
東京都立大学 2019年度 ―― 型02・型07。区分求積を、自分の手で組み立てる
【問題】東京都立大学 2019年度 前期日程(理学部数理科学科)
関数
(1) 自然数
(2) 自然数
(3)
【解答】
(1) 各小区間で単調性から
この問題は、区分求積法の「中身」を自分の手で組み立てさせる出題です。ふつうは短冊の高さ
(1) 単調性で定数ではさみ、非負のものを掛ける。小区間
ここで両辺に
これを
最後に
(2) 周期性で、重みが
(3) 重みが定数になれば、ただの区分求積。この一点が (3) を一気に片づけます。(2) を (1) に代入すると
左辺を
右辺も同じく右端型の区分和で、同じ極限をもちます(実際、左端型と右端型の差は
この問題で使った型
型02 公式として使うのではなく単調性で上下からはさんで自分で作る。(1) がその手順そのものです。
型07 周期性のおかげで重みが
型01・型11 出発点は型01の一行、決着は型11。このページの2本の柱が、(1) と (3) に分かれて出題されています。
検算のしかた
(2) は
(1)(3) は関数を5種類用意して 単調増加な
5. よくある質問
Q1. 定積分の評価で、くらべる相手はどうやって見つけるのですか。
A. 誘導つきの問題なら、前半の設問で作らせている不等式がそのまま相手です。誘導がないときは、区間での最大値や最小値という定数、単調性を使った小区間の端点の値、教科書レベルの既知の不等式、この三つを順に試してください。相手は必ず積分できるものでなければ意味がありません。
Q2. 区分求積法と、和を積分ではさむ方法は何が違うのですか。
A. 短冊の幅が違うだけです。幅をゼロに近づけるのが区分求積、幅を1に固定したまま項数を増やすのが級数の評価です。分母がkのままの和のように幅がゼロに行かないものは区分求積では扱えないので、後者を使います。絵は同じで縮尺が違うだけだと考えてください。
Q3. 不等式で押さえたのに、目標の数値を越えてしまいました。
A. 押さえ方が甘すぎます。途中で大きく捨てた場所を探して、そこを丁寧に評価し直してください。目標の数値は出題者が正しい評価から逆算して決めているので、想定どおりに押さえればぴたりと収まります。越えたという事実そのものが、道を間違えたという合図です。
Q4. 絶対値のついた定積分や、最大値で定義された関数の積分が苦手です。
A. 絶対値は場合分けを一文字に圧縮した記号なので、積分する前に必ず解凍します。中身がゼロになる点を求めて区間を切り、各区間で符号を確かめてから外してください。二つの関数の大きいほうという定義も同じで、差をとって符号を調べるのが定石です。
Q5. 型を覚えれば、初見の評価の問題も解けますか。
A. 型は考えなくて済ませる道具ではなく、考える範囲を狭めるための道具です。過去に何百回も使われてきた型から予想して、思考する量を減らすことで、手際よく解法を思い付いている場合もあるのです。狭めたあとに何と何をくらべるかを決めるのは、その問題ごとに自分でやることになります。それでも、白紙のまま全部を考えずに済むという差はとても大きいです。
東大の良問 007
定積分の評価を望遠和へつなぐ|東大2010年理科第2問
積分を計算して終わる問題ではありません。まず分母を端点で挟み、次に対数と調和和の差を同じ1区間の誤差へ分解します。最後に分母を隣り合う整数の積へ整えると、長い和が端だけを残す望遠和になります。
問題
(1) すべての自然数 \(k\) に対して,次の不等式を示せ。
(2) \(m>n\) であるようなすべての自然数 \(m\) と \(n\) に対して,次の不等式を示せ。
出典:東京大学2010年度第2次学力試験(前期日程)数学(理科)第2問。問題文の表記はウェブ表示用に一部調整しています。
段階別ヒント
ヒント1|\(k+x\) を端点の値で挟む
\(0<x<1\) なら \(k<k+x<k+1\) です。全て正なので、逆数を取ると不等号の向きが反対になります。
ヒント2|積分を対数へ変形する
ヒント3|\(log(m/n)\) を隣接比に分ける
\(\frac{m}{n}=\frac{n+1}{n}\frac{n+2}{n+1}\cdots\frac{m}{m-1}\) です。対数を取れば、\(k=n,\ldots,m-1\) の和になります。
ヒント4|調和和も同じ添字にそろえる
\(\sum_{j=n+1}^{m}\frac1j\) を \(\sum_{k=n}^{m-1}\frac1{k+1}\) と書き直します。すると1項ごとの差が \(I_k/(k+1)\) になります。
ヒント5|平方分母を「隣接積」へ弱める
上側の \(\frac1{k(k+1)}\) はそのまま望遠和です。下側では \(\frac1{(k+1)^2}>\frac1{(k+1)(k+2)}\) と少し弱めると、こちらも望遠和になります。
解答・解説
(1) 分母を端点で挟む
自然数 \(k\) を固定する。\(0<x<1\) では
全て正なので、逆数を取ると
さらに \(1-x>0\) を掛け、(0) から (1) まで積分する。
\(int_0^1(1-x),dx=\frac12\) だから、
(1)の結論:
点 \(x=0,1\) だけでは等号になり得るが、区間内部 \(0<x<1\) では真の不等式が成り立つため、積分後も狭義不等号のままである。
(2) まず1項分の誤差を \(I_k\) で表す
次の積分を置く。
\(1-x=(k+1)-(k+x)\) より、
両辺を \(k+1\) で割ると、
対数と調和和の添字をそろえる
隣り合う整数の比を掛けると \(\frac{m}{n}\) になるので、
また、調和和は添字を1つずらして
(2)(3)(4)から、問題の中央の量を \(D_{m,n}\) と書けば
上からの評価|そのまま望遠和
(1)の右側を \(k+1\) で割ると、
よって(5)から
下からの評価|平方分母を隣接積へ変える
(1)の左側を \(k+1\) で割ると
このままでは和が消えない。そこで \(k+1<k+2\) より
と少し弱め、望遠和の形を作る。(5)から
(2)の結論:
ただし
別解|右端長方形の面積誤差を直接評価する
中央の差は
1区間の誤差を \(E_k\) と置き、\(t=k+x\) と変数を移す。
\(0<x<1\) では
積分して \(int_0^1(1-x)dx=\frac12\) を使えば
\(k=n,\ldots,m-1\) で足すと、両側がそれぞれ(7)(6)と同じ望遠和になり、求める不等式を得る。この見方では、小問(1)が「減少関数と右端長方形の誤差評価」だったことが直接見える。
解法を思いつくための再現手順
- 目標の中央量を読む。 対数と逆数和が並んだら、(log(\(k+1\)/k)) と \(1/(k+1)\) の1項差へ分ける。
- 小問(1)の積分を計算する。 値を出すためではなく、中央量の1項差と結び付く形を探す。
- 全ての添字を同じ範囲へそろえる。 \(k=n,\ldots,m-1\) に統一すると、差がそのまま足せる。
- 答えの分母から望遠和を逆算する。 \(mn\) なら \(k(k+1)\)、\((m+1)(n+1)\) なら \((k+1)(k+2)\) を予想する。
- 厳しさを一度だけ確認する。 区間内部で不等式が真なので、和を取った後も狭義不等号が保たれる。
よくある誤り
- 逆数を取っても不等号を反転しない: \(k<k+x<k+1\) は \(\frac1{k+1}<\frac1{k+x}<\frac1k\) になります。
- \(1-x\) の符号を確認しない: \(0<x<1\) で正だから、掛けても不等号の向きは変わりません。
- 端点で等号があるため \(\leqq\) と書く: 内部の正の長さの区間で真に小さいため、積分後は \(<\) です。
- \(I_k\) の定数項を \(+1\) にする: \(\frac{1-x}{k+x}=\frac{k+1}{k+x}-1\) なので、積分後は \(-1\) です。
- 和の添字をずらす: 対数側も調和和側も \(k=n,\ldots,m-1\) にそろえてから引きます。
- \(I_k\) を \(k+1\) で割り忘れる: 対数差は \(I_k\) ではなく \(I_k/(k+1)\) です。
- \(\sum1/(k+1)^2\) が望遠和だと思う: \(\frac1{(k+1)^2}>\frac1{(k+1)(k+2)}\) と弱めて隣接積を作ります。
- \(m=n\) も含める: その場合は中央も両端も0となり、狭義不等式は成立しません。原問は \(m>n\) です。
この問題で押さえること:定積分の評価は「被積分関数を端点の値で挟む」が出発点。挟んだあと、分母を隣り合う整数の積に整えて望遠和で途中を消す流れを押さえよう。
前提単元と次に解く問題
教材について:解答・解説・ヒント・図は数強塾が独自に作成した非公式教材で、東京大学が公表した公式解答・公式見解ではありません。問題の著作権は東京大学に帰属し、出典を明示して掲載しています。
6. 次に読むページ
- 積分法(数III・計算)の解法パターン全18型 ―― このページの親。積分そのものの計算を一望できます。
- 極限の計算の解法パターン全14型 ―― 型02・型11の詳細。はさみうちをもっと深く。
- 不等式の証明の解法パターン全14型 ―― 型01の「壁」を作る側の道具箱。
- 定積分で表された関数の解法パターン全12型 ―― 型12の積分方程式は、こちらが本拠地です。
- 面積(数III)の解法パターン全12型 ―― 短冊の絵が、そのまま面積の計算に。
- 解法パターン事典(総索引)
「評価」で手が止まってしまう人へ
定積分の評価が苦手な生徒の答案を見ていると、計算力が足りないのではなく「いま何と何をくらべようとしているのか」を言葉にできないまま式をいじっていることがほとんどです。数強塾では手を動かす前に「押さえたいのは上か下か」「くらべる相手は何で、それは積分できるのか」を必ず口に出させます。オンラインの完全1対1で、プロ講師のみが担当します。
数強塾オリジナル演習 追加5題|型06・10・12を埋める
上の入試実例と「東大の良問007」では型01〜05・07〜09・11 を扱いました。ここでは実例が手薄な型06(偶関数・奇関数)・型10(広義積分)・型12(積分方程式との違い)を5問で埋めます。この見出し以下の5問はすべて数強塾の自作問題で、前掲の実在入試問題「東大の良問007」は含みません。答えは別解や数値で検算してあります。
型06 偶関数・奇関数で項を落とす
定積分
解答・解説を見る
区間が原点対称なら、まず偶奇で分けます。
奇関数(
偶関数(
よって
【答】
(検算:直接計算しても
【なぜ奇関数は消えるのか】グラフが原点について点対称なので、左半分と右半分の面積が符号込みで打ち消し合います。
式で書けば
【判定は指数を見るだけ】多項式なら奇数次が奇関数、偶数次(定数を含む)が偶関数。
【区間が対称でないと使えない】
型06 偶関数と置換の合わせ技
定積分
解答・解説を見る
被積分関数は偶関数です(
ルートを外すため三角置換(
2倍角で次数を下げます。
【答】
(検算:
【偶関数を先に使う利点】区間が
順番は「偶奇 → 置換」。先に区間を半分にしてから置換するのが定石です。
型10 広義積分(端で発散する場合)
次の2つの定積分について、値が定まるかどうかを調べ、定まる場合はその値を求めよ。
(1)
解答・解説を見る
どちらも
【(1)】
【(2)】
【答】(1)
【同じ「無限に高い」のに差が出る】どちらもグラフは
分かれ目は発散の速さです。
【判定の目安】
【高校での扱い】教科書では広義積分を正面から扱いませんが、「はさみうち」の問題ではこの判断が必要になります。
型10 広義積分(無限に長い区間)
次の2つについて、値が定まるかどうかを調べ、定まる場合はその値を求めよ。
(1)
解答・解説を見る
今度は区間が無限に長いほうです。手順は同じで、有限で切ってから限りなく伸ばします。
【(1)】
【(2)】
【答】(1)
【面積が有限、という不思議】(1) の図形は右へ無限に伸びているのに、面積は
【判定の目安(前問と逆になる)】
前問の
【級数との対応】
型12 積分方程式——定数か、関数か
次の条件を満たす関数
(1)
(2)
解答・解説を見る
この2つは、まったく違う型です。見分けるのは積分の上端だけ。
【(1) 上端が定数 → 積分は「ただの数」】
この形を、
【答(1)】
(検算:
【(2) 上端が変数 → 微分する】
こちらは
また、もとの式に
この微分方程式を解くと
【答(2)】
(検算:
【見分け方は1点だけ】積分の中に
上端が定数(
上端が
(2) では初期条件をもとの式から拾うのを忘れないでください。微分すると情報が消えるので、
12の型は「計算するか、しないか」で分かれる
本文の背骨のとおり、評価とは計算できない量をはさむことでした。その手前で、まず計算せずに済ませられないかを考えます。
| 方針 | やること | 該当する型 |
|---|---|---|
| 計算せずに値を出す | 対称性を使う | 型06・07・08 |
| 計算して値を出す | 置換・部分積分 | 型04・05・09 |
| はさんで評価する | 大小・面積・区分求積 | 型01・02・03・11 |
| そもそも定まるか調べる | 極限を取って確かめる | 型10 |
最初に見るのは対称性です。区間が
偶関数・奇関数の使い方(型06)
| 条件 | 結論 |
|---|---|
| 奇関数を |
|
| 偶関数を |
|
| 区間が非対称 | 使えない |
判定は掛け算の符号と同じです。偶×偶=偶、奇×奇=偶、偶×奇=奇。
広義積分の判定(型10)
手順は「切って、近づける」の1つだけ。結果は
| 積分 | 収束する条件 |
|---|---|
条件が裏返っているのが面白いところです。
そして級数とまったく同じ境目です。
積分方程式の見分け(型12)
| 形 | 正体 | 手順 |
|---|---|---|
| ただの数 | ||
| 両辺を微分 |
後者では初期条件を拾うのを忘れないでください。
検算の型
- 求めた関数を、もとの式に戻す ── 演習5はこれで確認しました
- 数値の大きさが妥当か見る ── 「最大値×幅」より小さいか(演習2)
- 別の道でも計算する ── 偶奇を使わず直接計算(演習1)
とくに1つ目。積分方程式は「戻して確かめる」のが簡単なので、必ず検算してください。
「なぜそうなるのか」へ
定積分の評価は、積分の意味と道具を押さえると型が減ります。
- なぜ積分で面積が求まるのか ── 型01・03。大小関係が面積の大小になる土台。
- なぜ区分求積法で面積が求まるのか ── 型02・03・11。和を積分に変える道具です。
- なぜ置換積分が成り立つのか ── 型05・06・08。偶奇の性質も King property も、置換の一種です。
- なぜ部分積分は積の微分の裏返しなのか ── 型04。積分漸化式を作る唯一の道具。
- なぜ微分と積分は逆の操作なのか ── 型12。上端が変数の積分を微分する根拠です。
- なぜ不定積分には+Cが必要なのか ── 型12。微分で消えた情報を初期条件で取り戻す話。
- なぜ数列の和は「離散的な積分」と言えるのか ── 型03・10。級数と広義積分が同じ境目をもつ理由。
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📝 この型が実際に出た入試問題(5問)
「定積分の評価と不等式」の型が実際の入試でどう出たかを、数強塾が全問解説を公開している年度から拾いました。各行の「解説を読む」から、その問題の解説へ直接移動できます。型を読んだあとに実出題で当てると、どこまで通用する判断なのかがはっきりします。
| 大学・年度 | 出題テーマ | 難易度 | 解説 |
|---|---|---|---|
| 大阪大学 2015年度 | 理系第1問 定積分で表された数列の極限 | 標準 | 解説を読む |
| 北里大学(数学) 2024年度 | 第2問(定積分による調和数と対数の比較・不等式証明) | — | 解説を読む |
| 北里大学(数学) 2022年度 | 第2問(定積分・不等式の証明) | — | 解説を読む |
| 滋賀医科大学 2019年度 | の最大と積分不等式 | — | 解説を読む |
| 横浜国立大学 2015年度 | 定積分と不等式 | — | 解説を読む |
難易度は数強塾の見立てです(「—」は難易度を掲載していない年度)。大学別の年度一覧と出題傾向は過去問解説の総索引から、この型の全体像は解法パターン事典のハブから確認できます。
