確率分布と統計的な推測の解法パターン全12型|期待値の線形性・二項分布・信頼区間と入試実例(東北大・神戸大・岡山大・横国大)


確率分布と統計的な推測は、「確率」を数の世界に翻訳しなおす単元です。確率の単元では「〜となる確率は」と個別に問いますが、ここでは結果に数を対応させて、その平均(期待値)と散らばり(分散)を扱う。この視点の転換が理解できると、複雑な試行でも「和の期待値は期待値の和」という一行で片づくようになります。そして標本調査・推定・検定は、その延長で「一部を見て全体を言う」ための道具です。このページは、この一群の解法を12の型に分けて並べた辞典です。型は当てはめるための箱ではなく、「この試行を、どんな確率変数で表すと楽か」を決めるための道具として並べています。

この単元がどこで問われるか

数学Bの「統計的な推測」(標本調査・区間推定・仮説検定)は、大学ごとの個別試験(二次試験)ではほとんど出題されず、共通テストが主戦場です。一方、その土台である確率変数と期待値は、確率の大問の中に組みこまれる形で頻繁に出題されます。本ページの実例は、その形のものです。

共通テストの過去問については過去問の全問解説をご覧ください。

このページの12型

  1. 確率変数と確率分布表
  2. 期待値の計算
  3. 期待値の線形性
  4. 指示確率変数に分ける
  5. 分散と標準偏差
  6. 変量の変換
  7. 独立な確率変数の和
  8. 二項分布
  9. 連続型確率変数
  10. 正規分布と標準化
  11. 標本平均と母平均の推定
  12. 仮説検定

1. 背骨——期待値は「値 × 確率」の総和

定義を1か所にまとめる

期待値 

分散 

標準偏差 

変換 

 つねに成立)、独立なときのみ

この単元で最も強力な事実は「期待値の線形性」です。 は、 が独立でなくても成り立ちます。一方、分散の加法性は独立性が必要。この非対称性が、期待値を圧倒的に扱いやすくしています。

だから期待値を求めるときは、複雑な変数をいくつかの単純な変数の和に分解するのが定石です。東北大学の「取り出された赤玉の個数」も、「1個目の赤玉が取り出されたか(0か1)」という3つの変数の和と見れば、複雑な確率計算なしに期待値が出ます。

確率の総和が1になるか、必ず確かめる

確率分布を求めたら、 を検算する――これだけで多くのミスが防げます。

神戸大学の問題で が出たら、 と確認します。

2. 期待値を求める2つの道

1正攻法 確率分布表を作り、 を計算する。分布そのものが問われているときはこちら。

2分解法  と分け、分布を求めずに期待値だけが出る

「期待値だけ聞かれているなら、分布を求めなくてよい」――これが分解法の値打ちです。とくに が「起きたら1、起きなかったら0」という指示確率変数なら、 はその事象が起こる確率そのものなので、確率を1つ計算するだけで済みます。

ただし分散を求めるときは、独立性がないと分解できません。「期待値は分解、分散は慎重に」と覚えてください。

3. 解法パターン全12型

型01 確率変数と確率分布表

01とりうる値を全部書き出し、それぞれの確率を求める

顔つき 「 となる確率 を求めよ」。

中身  のとりうる値の範囲をまず確定し、各値の確率を の式で書く。総和が1になることを検算

「範囲の端」で必ず確かめる  といった端の場合を、求めた式に代入して直接計算と一致するかを見る。式は正しそうなのに端だけ合わない、というのはよくある失敗で、たいてい場合分けの見落としです。

型02 期待値の計算

02 をシグマ計算で処理する

顔つき 「 の期待値を求めよ」。

中身  の多項式なら の公式で計算できる。

シグマ計算に落とせるかが勝負 神戸大学の問題では なので

となり、 の公式だけで という簡潔な答えが出ます。答えがきれいになったら、それは正しさの傍証です。

型03 期待値の線形性

03 は独立でなくても成立

顔つき 「複数の得点の合計の期待値」。

中身  どうしが影響し合っていても使える

これが分解法の根拠 「くじを引く」「玉を取り出す」のように試行が独立でない場合でも、期待値だけは足し算できます。だから非復元抽出の期待値は、復元抽出のときと同じ値になる――東北大学の問題で となるのは、この事実の帰結です。直感に反しますが、線形性から確実に従います。

型04 指示確率変数に分ける

04「起きたら1、起きなければ0」に分解する

顔つき 「〜の個数の期待値」「〜が起こる回数の期待値」。

中身 事象 が起これば 、起こらなければ と定めると

「個数」と書いてあったら、まずこれを疑う 個数は「1個ずつ数えたものの和」なので、必ず指示確率変数の和に分解できます。そして なので、確率を1つ求めるだけで期待値が出る 個の対象それぞれについて同じ確率なら、答えは です。複雑な分布を求める必要がまったくありません。

型05 分散と標準偏差

052乗の期待値から期待値の2乗を引く

顔つき 「分散を求めよ」。

中身 

データの分析の分散と、まったく同じ式  と見比べてください。データの相対度数を確率と読みかえれば、両者は同一の概念です(データの分析の型02)。用語が変わるだけで、計算はまったく同じ。

型06 変量の変換

06

顔つき 「得点が 点になるとき」「保有ポイントの倍率」。

中身 期待値は同じ1次式で変換、分散は 倍( は効かない)。

「期待値の積」は「積の期待値」ではない 独立なときだけ成り立ちます。岡山大学の問題は、この点を突いた良問です。1回あたりの倍率の期待値が1より大きくても、実際に何回か参加した後の保有ポイントの期待値が最大になる とは限らない――積の期待値と期待値の積の違いが、そのまま結論の違いになります。

型07 独立な確率変数の和

07分散も足せるのは独立なときだけ

顔つき 「独立に 回試行したときの合計の分散」。

中身 独立なら

独立でないときは共分散が加わる 一般には 。高校では独立な場合しか扱いませんが、「独立だから足せる」と根拠を意識しておくと、非復元抽出などで誤用しません。

型08 二項分布

08

顔つき 「独立に 回行い、各回の成功確率が 」。

中身 

公式の導出は、指示確率変数の和 各回の成功を とすると で各回が独立なので、期待値も分散も 倍。型04と型07を組み合わせただけです。だから を丸暗記する必要はありません。

型09 連続型確率変数

09和を積分に置きかえる

顔つき 確率密度関数 が与えられ、期待値や確率を求める。

中身 

離散型の になっただけ  という対応です。「全体の確率が1」=「全積分が1」という条件から、未知の定数を決める問題が典型的。連続型では1点の確率は0なので、 であり、不等号に等号がついてもつかなくても同じです。

型10 正規分布と標準化

10 で標準正規分布に直す

顔つき 「 に従うとき を求めよ」。

中身  に従う。あとは正規分布表を引く。

標準化は型06そのもの 「平均を引いて標準偏差で割る」という操作で、どんな正規分布も1つの表で扱えるようになる――これが標準化の目的です。二項分布も が大きければ正規分布で近似できます()。

型11 標本平均と母平均の推定

11標本平均の標準偏差は

顔つき 「母平均に対する信頼度95%の信頼区間を求めよ」。

中身 。信頼区間は

が分母に来る理由  で、各 が独立なら 。標準偏差はその平方根で 型06と型07から導けます。だから精度を2倍にするには標本を4倍にする必要がある――この感覚が、統計の実務でも効いてきます。

型12 仮説検定

12主張の逆を仮定して、確率が小さければ捨てる

顔つき 「有意水準5%で、偏りがあるといえるか」。

中身 ①帰無仮説(偏りがない)を立てる ②その下で観測値以上に極端なことが起こる確率を求める ③5%未満なら仮説を棄却

棄却できなくても「正しい」とは言えない ここが最大の注意点です。確率が5%以上だったとき、結論は「偏りがあるとはいえない」であって「偏りがない」ではありません。背理法(集合と論理の型08)が「矛盾」で終わるのに対し、検定は「起こりにくい」で止まるので、結論も一段弱くなります。この言い回しまでが答案の一部です。

4. 実際の入試で確かめる

全12型のうち、入試の実例がついているのは5型1マスが1つの型です。青いマスは、下にある入試の実例で確かめている型です白いマスは、下にある入試の実例では扱っていない型です010203040506070809101112解法パターン12型入試の実例で確かめる5型下の実例にない7型5 + 7 = 12型。この図は下にある入試の実例が扱う型を数えたものです入試の実例は6問。実例の数と型の数は必ずしも一致しません

この単元の解法パターンは全12型で、下にある入試の実例6問で確かめているのは5型です。残りの7型は、下にある実例では扱っていません。1問が複数の型にまたがることも、同じ型を複数の実例で扱うこともあるため、実例の数と型の数は必ずしも一致しません。

ここからは実際に出題された問題で型を確かめます。問題文は各大学が公表した入試問題を、解説のために引用したものです。解答・解説は数強塾が独自に作成したもので、大学公表の解答ではありません。掲載しているすべての数値は、当塾で独立に解いたうえで Python(sympy による厳密計算・全事象の数え上げ・乱数40万回のシミュレーションとの照合)で検算しています。

東北大学 2009年度 ―― 型04。個数の期待値は、分解すれば一瞬

【問題】東北大学 2009年度 前期日程

袋の中に青玉が7個、赤玉が3個入っている。袋から1回につき1個ずつ玉を取り出す。一度取り出した玉は袋に戻さないとして、以下の問いに答えよ。

(1) 4回目に初めて赤玉が取り出される確率を求めよ。

(2) 8回目が終わった時点で赤玉がすべて取り出されている確率を求めよ。

(3) 赤玉がちょうど8回目ですべて取り出される確率を求めよ。

(4) 4回目が終わった時点で取り出されている赤玉の個数の期待値を求めよ。

【解答】

(1)  (2)  (3)  (4)

全部を「3個の赤玉の位置」で考える

10個の玉を1列に並べたと考えると、赤玉3個がどの位置に来るかで全事象が決まります。

場合の数は 通りで、どれも同様に確からしい。この見方に統一すると (1)〜(3) がすべて数え上げになります。

(1) 「4回目に初めて赤」=最初の赤玉が4番目。残り2個の赤玉は5〜10番目の6か所から選ぶので 通り。

(順に確率を掛けても同じです:。)

(2) 「8回目終了時点ですべて出ている」=3個とも1〜8番目 通り。

(3) 「ちょうど8回目ですべて」=3個目の赤玉が8番目。残り2個は1〜7番目から 通り。

(4) ここが型04の出番です。3個の赤玉に番号をつけ、それぞれについて指示確率変数を作ります。

個数を「1個ずつ」に分解する

赤玉 が4回目までに出れば 、出なければ と定めます()。

求める個数は

赤玉 が10個のうち何番目に来るかは、1〜10のどこも同様に確からしい。したがって「4回目までに出る」確率は

期待値の線形性(型03)から

正攻法でも確認しておく

となる確率は

場合の数

一致します。ただし分解法なら分布表を作る必要がありません。

非復元なのに、答えが「復元のとき」と同じ。4回引いて各回の赤の確率が なら期待値は 玉を戻さないのに、戻す場合と同じ答えになるのです。

理由は期待値の線形性が独立性を要求しないから。1回目の結果が2回目の確率を変えても、それぞれの回で赤が出る確率(周辺確率)は のままです。「期待値は足せる、分散は足せない」――この違いを実感できる、教材として非常に価値のある問題です。(分散は非復元のほうが小さくなります。)

神戸大学 2010年度 ―― 型01・型02。分布を求めてシグマで平均する

【問題】神戸大学 2010年度 前期日程 理科系

を自然数とする。赤いカード2枚と白いカード 枚が入っている袋から無作為にカードを1枚ずつ取り出して並べていくゲームをする。2枚目の赤いカードが取り出された時点でゲームは終了する。赤いカードが最初に取り出されるまでに取り出された白いカードの枚数を とし、ゲーム終了時までに取り出された白いカードの総数を とする。このとき、以下の問に答えよ。

(1)  に対して、 となる確率 を求めよ。

(2)  の期待値を求めよ。

(3)  に対して、 となる確率 を求めよ。

【解答】

(1)  (2)  (3)

「赤2枚の位置」だけを見る

枚をすべて並べたと考え、赤いカード2枚がどの位置に来るかだけに注目します。

場合の数は 通りで、どれも同様に確からしい。

  1枚目の赤が 番目  2枚目の赤が 番目

(1) 1枚目の赤が 番目なら、もう1枚は 番目から 番目までの か所のどこか。

検算します。

。)たしかに1です。

(2) 

シグマを2つに分けます。

でくくると

したがって

(3) 2枚目の赤が 番目なら、1枚目は1番目から 番目までの か所

という結果には、はっきりした意味があります。 枚と赤2枚を並べると、2枚の赤が白の列を3つの区間に分ける。対称性から、3つの区間に入る白の枚数の期待値はすべて等しく は最初の区間の枚数なので、まさに です。

計算で得た答えを、対称性で説明し直せると強い。この見方ができれば、(最初の2区間の合計)が であることも、計算せずに分かります。答えの意味を考える習慣が、検算と発展の両方を生みます。

神戸大学 2009年度 ―― 型01・型02。表を作ってから差をとる

【問題】神戸大学 2009年度 前期日程 理科系

大小2つのサイコロを同時に1回投げて、大きいサイコロの出た目の数 、および小さいサイコロの出た目の数 に応じて得点を競うゲームを考える。ただし、このゲームには6種類の得点 があって、それぞれ、次の規則で定められているとする:

のとき)、 かつ のとき)、 かつ のとき)

ここで、 は実数の定数である。また、得点 の期待値を とする。このとき、以下の問に答えよ。

(1)  のとり得る値に対する得点 および の値を、表に記入せよ。

(2)  を求めよ。

(3)  となるような はあるか。あれば求めよ。なければ、そのことを示せ。

【解答】

(2)  (3) ある。

(1) 規則を読み解きます。 なら得点は 、そうでなければ (ただし のときだけ )。

の表(行が 、列が ): の行はすべて の行は 、ただし対角成分()は

すべて

では、 の行も「」に該当するので (対角は )に変わります。それ以外の行は と同じです。

(2)  が違うのは の行だけ。ここが差を生みます。

差が出る6マスだけを見る

の行(6マス)で

:すべて 。合計

の5マスは )、。合計

正確には

したがって36マスの総和の差は

(3) 同じ議論を一般の について行います。 の行だけで決まり

なので 。また 側は6マスすべて で合計 。)

これが のすべてで0になる条件は

についての恒等式なので、係数を比較して

検算:。たしかに0です。このとき がつねに成り立つので単に の期待値)。

「隣どうしの差」だけを見るのが、この問題の設計。 を6つとも計算するのは大変ですが、 は表のうち1行(6マス)しか違わないので、差なら簡単に出ます。

そして「すべて等しい」という条件は「隣どうしの差がすべて0」と同値。差の式が の1次式になったので、恒等式の係数比較で が一意に決まりました。(2) は (3) のための予行演習だったわけです。誘導の設問が「一般化の型紙」になっているパターンで、 の場合を丁寧にやっておけば、一般の は書き写すだけになります。

岡山大学 2014年度 ―― 型02。試合数の期待値

【問題】岡山大学 2014年度 前期日程

が続けて試合を行い、先に3勝した方が優勝するというゲームを考える。1試合ごとに が勝つ確率を が勝つ確率を 、引き分ける確率を とする。

(1) 3試合目で優勝が決まる確率を求めよ。

(2) 5試合目で優勝が決まる確率を求めよ。

(3)  としたとき、5試合目が終了した時点でまだ優勝が決まらない確率を求めよ。

(4)  としたとき、優勝が決まるまでに行われる試合数の期待値を求めよ。

【解答】

(1)  (4) 試合

(1) 3試合目で決まるのは、3連勝したときだけ。

(4)  なら引き分けがないので、ちょうど5試合以内で必ず決まります。試合数 は3,4,5のいずれか。

試合目で決まる」=「 試合で2勝、 試合目に3勝目」

 3連勝。

 最初の3試合で2勝1敗、4試合目に勝つ。

 最初の4試合で2勝2敗、5試合目に勝つ。

(先頭の は「A が優勝」「B が優勝」の2通り。)

検算:総和が1なので分布は正しいです。

試合目に決まる」の数え方を固定する。この型で最も多い誤りは、最後の試合が勝ちであることを条件に入れ忘れることです。「5試合で3勝2敗」を と数えると、4試合目で既に3勝している場合まで含んでしまいます

正しくは「最初の 試合で2勝、最後に勝つ」と分けること。この形にすれば重複も漏れもありません。「最後の1回を固定する」は、この種の数え上げの普遍的な定石です(確率の型07)。

横浜国立大学 2010年度 ―― 型03。二項係数の和が になる

【問題】横浜国立大学 2010年度 前期日程

1個のいびつなさいころがある。1, 2, 3, 4 の目が出る確率はそれぞれ であり、5, 6 の目が出る確率はそれぞれ である。ただし とする。このさいころを投げて、 平面上の点 Q を次のように動かす。

(i) 1または2の目が出たときには、Q を 軸の正の方向に1だけ動かす。

(ii) 3または4の目が出たときには、Q を 軸の正の方向に1だけ動かす。

(iii) 5または6の目が出たときには、Q を動かさない。

Q は最初原点 にある。このさいころを 回投げ、Q が通った点(原点および Q の最終位置の点を含む)の集合を とする。ただし は自然数とする。次の問いに答えよ。

(1) さいころを 回投げたとき、 が点 を含む確率を求めよ。

(2) さいころを 回投げたとき、 が領域 に含まれる確率を求めよ。

(3) さいころを 回投げたとき、 が点 を含むならば得点 点()が与えられ、 が領域 に含まれるならば得点0点が与えられるとする。得点の期待値を求めよ。

【解答】

(1)

(2)

(3)

まず「1回あたり」を整理する

方向に動く確率は 方向も 、動かない確率は

1回で0か1しか増えないので、Q は直線 から順に、各直線上のちょうど1点だけ通ります。

したがって を含む  最初の 回の「動き」のうち 回が 方向(かつ動きが 回以上ある)。

(1)(3) の共通部分。 を含む確率を求めます。 回のうち「動いた回数」を とすると、条件は 、すなわち止まったのが0回か1回

止まりが1回( 止まる回は 通り。動く 回のうち 回が 方向で 通り。各動きの確率は

止まりが0回( 最初の 回で 回が 方向、 回目はどちらでもよい。

合わせて

。)

(1)  を代入して

(2)  に含まれる 。余事象で計算します。

二項分布 回、成功確率 )に従うので(型08)

(3) 得点の期待値は、各 について「得点 × その確率」を足したもの。

二項定理で和が閉じる

期待値の計算が、二項定理1本で閉じる。この問題の設計の妙は得点を にしたことです。もし得点が なら となって別の工夫が要りますが、 なら二項定理がそのまま使えます。

そして に依存する部分()と依存しない部分()が完全に分離していることが、この計算を可能にしています。期待値の和を計算する前に「 を含む因子はどれか」を見極める――シグマ計算の基本ですが、確率でも同じです。

岡山大学 2008年度 ―― 型06。期待値の積と積の期待値

【問題】岡山大学 2008年度 前期日程

勝つ確率が のゲームに、保有ポイントの一部を賭けて参加する。このゲームには引き分けはなく、勝てば賭けたポイントがもどり、さらに賭けたポイントの2倍を得るが、負ければ賭けたポイントを失う。ポイントは正の実数であるとする。例えば10ポイント保有しているときに1.5ポイントを賭けると、勝てば保有ポイントは13となり、負ければ8.5となる。

このゲームに繰り返し参加するものとし、毎回その時点での保有ポイントの を賭ける。

(1) 1回の参加で勝った場合、負けた場合、それぞれの保有ポイントが何倍になるかを を用いて表せ。

(2) (1) で求めた倍率の期待値を、 を用いて表せ。

(3)  とする。このゲームに2回参加した時点で、2勝、1勝、0勝の中でどの場合の確率が最も高いか。またその場合に保有ポイントが最大になる の値を求めよ。

【解答】

(1) 勝ち 倍、負け 倍 (2)

(3) 1勝1敗の確率が最大()。そのとき

(1) 保有ポイントを とすると、賭けるのは

勝ち:賭けたポイントが戻り、さらに を得るので

負け を失うので

(問題文の例で確認: なら 。勝ち 、負け 一致します。

(2) 倍率を とすると

(3)  で2回参加。二項分布(型08)から

結果 2勝 1勝1敗 0勝
確率

1勝1敗が最も高い()。このとき保有ポイントは、順序によらず

倍になります。これを最大にする を求めます。

の範囲にあり、上に凸なので最大。倍率は です。

(2) の答えと (3) の答えは別のことを言っている

(2) より、 なら なので、1回あたりの倍率の期待値は が大きいほど大きい で最大)。

しかし (3) では1勝1敗という具体的な結果に対して最適な を聞いており、答えは

「期待値を最大にする戦略」と「最も起こりやすい結果を最良にする戦略」は違う――ここがこの問題の核心です。

ではない、が落とし穴の本体ではない。実は各回が独立なので は成り立ちます。それでも「期待値が最大の 」と「最頻の結果が最良になる 」は一致しません

理由は、期待値がめったに起こらない大勝ちに引っ張られるから。 を1に近づけると2連勝したときの倍率は跳ね上がりますが、その確率は しかなく、 で起こる1勝1敗では が小さくなってしまう。期待値だけを見て意思決定してはいけないという、実務にも通じる教訓を含んだ良問です。

5. よくある質問

Q1. 期待値を求めるのに、いつも分布表を作るべきですか。

A. いいえ。期待値だけが問われているなら、指示確率変数の和に分解するほうが速いことが多いです。分布そのものを問われたときだけ表を作ってください。

Q2. 期待値は独立でなくても足せるのですか。

A. はい、期待値の加法性は独立性を必要としません。一方、分散の加法性と積の期待値は独立性が必要です。この違いが、この単元でいちばん重要な事実です。

Q3. 確率分布を求めたあと、何を確認すればよいですか。

A. すべての確率の和が1になるかを必ず検算してください。加えて、範囲の端(最小・最大の値)で直接計算と一致するかも確認すると安全です。

Q4. 信頼区間の はどこから来るのですか。

A. 標本平均の分散が になるからです。標準偏差はその平方根で 。精度を2倍にするには標本数を4倍にする必要があります。

Q5. 型を覚えれば初見の問題も解けますか。

A. 型は考えなくて済ませる道具ではなく、「この試行をどんな確率変数で表すか」を決めるための道具です。決めたあとは自分で考える必要があります。実際、本ページの横浜国立大学の問題は「得点が だから二項定理が使える」と気づく必要がありました。

6. 次に読むページ

期待値の計算で止まってしまう人へ

この単元でつまずく生徒のほとんどは、公式を知らないのではなく「複雑な確率変数を、単純なものの和に分解する」発想を持っていないだけです。数強塾では、期待値の問題を見たらまず「これは何個かの0か1の和として書けないか」を考えさせる訓練をしています。オンラインの完全1対1で、プロ講師のみが担当します。

数強塾オリジナル演習|12の型を1問ずつ

上の12型を、数値と設定だけ変えた自作問題で1問ずつ確認します。この分野は「分布表を作るか、作らずに済ませるか」で解答時間が何倍も変わります。解答を開く前に、期待値だけでよいのか、分散まで要るのかを確かめてください。

型01 確率変数と確率分布表
赤玉3個・白玉2個の入った袋から同時に2個取り出す。取り出した赤玉の個数を とするとき、 の確率分布表を作れ。

解答・解説を見る

全体は 通り。

0 1 2
1

確率の合計が1になることを必ず確認する。ここが合わなければ数え落としがある。

型02 期待値の計算
(1) 型01 の の期待値を求めよ。(2) さいころ1個の出る目 について を求めよ。

解答・解説を見る

(1) (=1.2)
(検算:赤玉の割合 の2個ぶんで ✓)
(2)

に対し 。この差が分散になる。

型03 期待値の線形性
2個のさいころの目を とする。
(1)  (2)  (3) (1) を求めるのに、和の分布表は必要か。

解答・解説を見る

(1)
(2)
(3) 必要ない。期待値の線形性 独立でなくても成り立つ
和の分布(2〜12 の11通り)を作って を計算しても になるが、遠回り。
期待値だけなら分布表は要らない——これがこの分野最大の時短。

型04 指示確率変数に分ける
5人がそれぞれ自分の帽子を預け、返却時に無作為に1つずつ受け取る。自分の帽子を受け取る人数の期待値を求めよ。

解答・解説を見る

番目の人が自分の帽子を受け取るとき 、そうでないとき とする(指示確率変数)。
なので
求める人数は なので、線形性から

(検算: で全6通りを数えると、自分の帽子を取る人数は で合計6、平均 ✓)
どうしは独立でないが、線形性は独立を要求しない。だから使える。
(人数 がいくつでも答えは常に 。)

型05 分散と標準偏差
型01 の (赤玉の個数)について、分散と標準偏差を求めよ。

解答・解説を見る



 (

が定石。偏差の2乗を1つずつ計算するより速い。
(参考:さいころ1個なら 。)

型06 変量の変換
型05 の )について、 の期待値・分散・標準偏差を求めよ。

解答・解説を見る




定数 は分散に効かない(全体が平行移動しても散らばりは同じ)。
掛けた数は分散に2乗、標準偏差に1乗(絶対値)で効く。

型07 独立な確率変数の和
2個のさいころの目を (独立)とする。
(1)  (2)  (3)

解答・解説を見る

(1) 独立なら分散も足せる。
(2)
引いても分散は足す。符号は2乗で消える。
(3) 独立なら (=12.25)
期待値の和は無条件、期待値の積と分散の和は「独立」が必要。この区別が最重要。

型08 二項分布
さいころを180回投げ、1の目が出る回数を とする。 の期待値・分散・標準偏差を求めよ。

解答・解説を見る





公式を忘れても型04で出せる:各回の指示変数 。独立なので 倍して 。)
二項分布は「指示変数 個の和」。そう見れば公式は導ける。

型09 連続型確率変数
確率密度関数が 、それ以外で である。
(1)  (2)  (3)

解答・解説を見る

(1) 全確率が1: より
(2)
右半分のほうが確率が高い。密度が右上がりなので当然)
(3)

に、確率が「面積」に変わるだけで、やることは離散と同じ。

型10 正規分布と標準化
が正規分布 に従うとき、 を求めよ。 とする。

解答・解説を見る

標準化



正規分布は左右対称なので 。この対称性を使って2つに割る)
標準化は「平均を引いて標準偏差で割る」。どんな正規分布も1つの表で処理できるようになる。

型11 標本平均と母平均の推定
母標準偏差が であることが分かっている母集団から、大きさ の標本を取ったところ標本平均は であった。母平均 の95%信頼区間を求めよ( を用いる)。

解答・解説を見る

標本平均の標準偏差(標準誤差)は
95%信頼区間は
(小数第1位まで)
で割るのが急所。標本を4倍にしても区間の幅は半分にしかならない。
(意味:「この区間に が入る確率が95%」ではなく、「同じやり方を100回繰り返せば、95回はこの作り方の区間が を含む」。)

型12 仮説検定
ある種子の従来の発芽率は である。新しい処理をした400粒のうち264粒が発芽した。発芽率は上がったといえるか。有意水準5%(片側、棄却域は )で判定せよ。

解答・解説を見る

帰無仮説「発芽率は のまま」を立てる。
このとき発芽数


なので棄却域に入る。
よって
「上がったか」だけを問うているので片側検定。「変わったか」なら両側で と比べる(この場合も で結論は同じ)。
「証明した」のではない——従来のままでも約0.7%の確率でこうなる。

独立が要るのか、要らないのか

この分野で最も差がつくのは、この一点です。

公式 独立
不要
不要
必要
必要

期待値の線形性が無条件で成り立つことが、型04(指示確率変数)の威力の源です。帽子の問題で どうしは明らかに独立でない(誰かが自分の帽子を取ると他の人の確率が変わる)のに、期待値だけは足せてしまう。

逆に、分散を足すときは必ず独立を確認してください。ここを見落とすと、型07・型08 で誤った値が出ます。

「なぜそうなるのか」へ

公式の暗記だけでは、少し設定が変わると止まります。土台にある考え方を確かめてください。

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高校数学・独立演習|推測統計

信頼区間と仮説検定を数値で確かめる4問

正規近似を用いる95%信頼区間、母比率、片側検定、必要標本サイズを、前提と丸め方を明示して計算します。

推測統計の95%信頼区間、母比率の区間推定、仮説検定の棄却判断、誤差幅からの標本サイズ設計を高校数学の記号で確認します。

図は左右にスクロールして全体を確認できます。

標準正規密度曲線の中央95%区間標準化変量zの標準正規密度曲線と、近似的な中央95%区間である−1.96から1.96を示した図です。曲線の標本座標は密度関数 exp(−z²/2)/√(2π) から生成しています。標準正規密度−1.961.96中央 約95%z
標準化変量zの標準正規密度曲線と、近似的な中央95%区間である−1.96から1.96を示した図です。曲線の標本座標は密度関数 exp(−z²/2)/√(2π) から生成しています。

問1|母平均の95%信頼区間

難度:標準学習点:既知の母標準偏差から平均の標準誤差を計算する

母標準偏差σ=12の正規母集団から大きさ36の無作為標本を取り、標本平均74を得た。標準正規分布の中央95%点として1.96を用い、母平均μの95%信頼区間を求めよ。端点は小数第2位まで示せ。

問1「母平均の95%信頼区間」の解答・詳しい考え方を開く

答え:70.08≦μ≦77.92

  1. 標本平均の標準誤差はσ/√n=12/√36=2である。
  2. 95%信頼区間の誤差幅は1.96×2=3.92である。
  3. 下端は74−3.92=70.08である。
  4. 上端は74+3.92=77.92である。
  5. したがって指定した方法による95%信頼区間は[70.08,77.92]である。

誤答分析:標準偏差12をそのまま1.96倍すると標本数36の効果を無視する。平均のばらつきにはσではなくσ/√nを用いる。

別計算による検算:区間の中心は(70.08+77.92)/2=74、半幅は(77.92−70.08)/2=3.92である。半幅を標準誤差2で割ると1.96に戻るため計算条件と一致する。

問2|母比率の95%信頼区間

難度:標準学習点:標本比率から正規近似の標準誤差を求める

400人を無作為抽出して調べたところ96人がある選択肢を選んだ。標本比率p̂を用いる正規近似 p̂±1.96√(p̂(1−p̂)/n) により、母比率pの95%信頼区間を求めよ。端点は小数第3位に丸めよ。

問2「母比率の95%信頼区間」の解答・詳しい考え方を開く

答え:0.198≦p≦0.282(小数第3位)

  1. 標本比率はp̂=96/400=0.24である。
  2. 標準誤差は√(0.24×0.76/400)=√0.000456≈0.021354である。
  3. 誤差幅は1.96×0.021354≈0.041854である。
  4. 丸める前の端点は0.24−0.041854≈0.198146と0.24+0.041854≈0.281854である。
  5. 小数第3位に丸めると[0.198,0.282]となる。

誤答分析:標本比率24%を人数96で割り直したり、分母に√400をもう一度掛けたりすると標準誤差を二重に縮める。公式内のnは既に平方根の内側にある。

別計算による検算:区間の中心は(0.198146+0.281854)/2=0.24である。未丸めの半幅約0.041854を1.96で割ると約0.021354となり、√(0.1824/400)と一致する。

問3|母比率の片側仮説検定

難度:標準学習点:帰無仮説の下の標準誤差で検定統計量を作る

あるコインを100回投げて表が60回出た。帰無仮説H₀:p=0.5、対立仮説H₁:p>0.5を有意水準5%で検定する。H₀の下での正規近似を用い、片側5%の臨界値を1.645、連続補正は用いないとして結論を述べよ。

問3「母比率の片側仮説検定」の解答・詳しい考え方を開く

答え:z=2.00>1.645なのでH₀を棄却する。表の確率が0.5より大きいと判断する側の有意な証拠がある。

  1. 標本比率はp̂=60/100=0.60である。
  2. H₀の下での標準誤差は√(0.5×0.5/100)=0.05である。
  3. 検定統計量はz=(0.60−0.50)/0.05=2.00である。
  4. 対立仮説がp>0.5なので上側片側検定とし、臨界値1.645と比較する。
  5. 2.00>1.645だからH₀を棄却し、指定した有意水準ではp>0.5を支持する側の証拠があると結論する。

誤答分析:標準誤差へ観測値0.60を代入する区間推定の式と、帰無仮説0.50を使う検定の式を混同しない。また棄却はH₀が絶対に偽だと証明する意味ではない。

別計算による検算:回数で計算するとH₀の下の期待値は50回、標準偏差は√(100×0.5×0.5)=5回である。観測60回は(60−50)/5=2標準偏差上で、比率によるzと一致する。

問4|母比率推定に必要な標本サイズ

難度:発展学習点:最悪の場合の分散上限から必要標本数を切り上げる

母比率を95%信頼区間で推定するとき、正規近似の誤差幅1.96√(p(1−p)/n)を0.03以下にしたい。事前にpが不明なのでp(1−p)≦1/4を用いる。必要な標本サイズnの最小整数を求めよ。

問4「母比率推定に必要な標本サイズ」の解答・詳しい考え方を開く

答え:n=1068

  1. pが不明なときp(1−p)の最大値1/4を使えば、誤差幅は高々1.96√((1/4)/n)である。
  2. 条件は1.96/(2√n)≦0.03となる。
  3. 両辺が正なので変形し、√n≧1.96/(0.06)=32.666…を得る。
  4. 平方してn≧(32.666…)^2=1067.111…となる。
  5. 標本数は整数で条件を満たす側へ切り上げるため、最小は1068である。

誤答分析:1067.111…を四捨五入して1067にすると、誤差幅が0.03をわずかに超える。必要数の問題では条件を確実に満たすよう必ず切り上げる。

別計算による検算:n=1068では1.96/(2√1068)≈0.029988で0.03以下、直前のn=1067では約0.030002で0.03を超える。境界の前後を直接比較して最小性を確認できる。


📝 この型が実際に出た入試問題(11問)

「確率分布と統計的な推測」の型が実際の入試でどう出たかを、数強塾が全問解説を公開している年度から拾いました。各行の「解説を読む」から、その問題の解説へ直接移動できます。型を読んだあとに実出題で当てると、どこまで通用する判断なのかがはっきりします。

大学・年度 出題テーマ 難易度 解説
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同志社大学 2025年度 〔Ⅲ〕【記述式】昇順と降順の「平均」と「差」——分散が直交分解される やや難 解説を読む
青山学院大学 2025年度 母比率・母平均の信頼区間と標本数、確率変数の標準化 標準 解説を読む
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難易度は数強塾の見立てです(「—」は難易度を掲載していない年度)。大学別の年度一覧と出題傾向は過去問解説の総索引から、この型の全体像は解法パターン事典のハブから確認できます。

要点辞典この単元の公式・定石・つまずきやすい所は 数学II・B・Cの要点辞典:統計的な推測 にまとめてあります。

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