整数問題の第三の方針が「不等式で絞る」です。原理はごく単純で、ある範囲に入る整数は有限個。 と言えた瞬間に、候補は4個になります。
ところがこの方針は、3つの中でいちばん「思いつくかどうか」に見えてしまうものでもあります。どこから不等式を持ってくるのか。この記事では、数強塾の独自研究として、不等式の作り方を4つの型に分類し、それぞれ「なぜその不等式が出てくるのか」まで言語化します。
この記事は 整数問題の3つの方針 の③にあたります。①は 積の形に持ち込む、②は 余りで分類する です。
1.原理 ―― 範囲が有限なら勝ち
不等式で絞る原理
実数なら を満たす は無限にある。しかし整数なら の4個だけ。
「整数である」という条件が、不等式の世界で有限個の候補に翻訳される。これが積の形(約数)・余りで分類(剰余)と並ぶ、3つ目の翻訳です。
不等式で絞る方針の難しさは、原理ではなく「不等式をどこから持ってくるか」にあります。以下、その供給源を4つの型に分けます。
2.型A ―― 対称式なら、大小を仮定してよい
いちばん強力な型です。式が を入れ替えても変わらない(=対称式)なら、 と仮定して構いません。
なぜ仮定してよいのか
どんな解 も、並べ替えれば を満たす形にできる。式は並べ替えで変わらないので、並べ替えた組もまた解。だから の解をすべて求めてから、最後に並べ替えを戻せば全部の解が得られる。
答案には「対称式だから、一般性を失うことなく としてよい」と書きます。この一言を省くと論理の飛びになります。
大小を仮定すると、何が起きるか
大小が決まると、いちばん大きい項で全体を押さえられるようになります。これが絞り込みの本体です。
【例題1】
を満たす自然数の組 をすべて求めよ。
対称式なので としてよい。すると なので、3つの中で がいちばん大きい。3つとも に置き換えれば、和は増えるか等しいので
逆に だと となり自然数では不可能なので 。 の候補は と の2つだけになりました。
図1:絞り込みの流れ。大小を仮定 → いちばん大きい項で押さえる → 先頭の文字に上限が出る。同じことを についても繰り返す。
のとき 。同じ論法で より 。また だが では となり不可なので 。、。
のとき 。 より 。 と合わせて 、このとき 。
【答】
として 。並べ替えを許すなら、 の 通り、 の 通り、 の 通りで合計 組。
【検算】、、。全数探索でも の範囲でこの3組だけでした。
3.型B ―― 分数の和が定数(上下から挟む)
型Aの考え方を2文字にすると、非常にきれいな範囲が出ます。
型Bの絞り込み
(自然数、)のとき、。
下限: より 。 上限: より 。
【例題2】
を満たす自然数の組 ()をすべて求めよ。
なので 、つまり の6通りだけ調べれば十分です。
| 整数でない |
【答】
の5組( も含めれば9組)
【積の形と比べる】同じ問題は 積の形で としても解けます。どちらが速いかは場合によりますが、不等式のほうは「調べる範囲」が先に見えるので、数え落としに気づきやすいという利点があります。 が脱落することまで含めて、6通り調べれば必ず終わる、と分かるのは大きい。
4.型C ―― 大きさの評価で候補を潰す
不等式は「文字の範囲」だけでなく、候補そのものを潰すのにも使えます。積の形で出した約数の候補が多すぎるときの定石です。
【例題3】2005年 京都大学 文系 第4問
を満たす整数の組 をすべて求めよ。
積の形にすると で、 は の約数。負も含めて8通りあり、そのまま解くのは大変です。ここで次の恒等式を使います。
右辺の第2項は のとき 以上なので、。したがって 。 の約数のうち 以下なのは と だけです。8通りが2通りに落ちました。
【答】
この恒等式の導出と、残る を落とす方法(余りで分類)は a³−b³=65 の整数解【2005年 京都大学 文系 第4問】 にまとめました。3つの方針を全部使う好例です。
5.型D ―― 増え方の差で追い越す
指数・階乗は、多項式よりはるかに速く増えます。この増え方の差そのものが不等式の供給源になります。
【例題4】
を満たす自然数 をすべて求めよ。
小さい方から調べます。
| 大小 |
では が続きそうです。これは数学的帰納法で示せます。 で成立。 を仮定すると 。ここで なら なので 。よって 。
【答】
【この型の合図】・・ のように爆発的に増える量と、多項式が等式で結ばれていたら、この型です。「ある から先は一方が必ず勝つ」を示せば、調べるべき は有限個になります。増え方の比較は 、 のように、逆転が起きる場所を見つけるのがコツです。
6.答案の書き方
「大小を仮定してよい」の正しい書き方
良い例:「与式は について対称であるから、一般性を失うことなく としてよい。」
悪い例:「 とする。」(なぜそう仮定できるのか不明)
そして最後に必ず戻すこと。「以上より、求める組は上記および、それらを並べ替えたものすべてである」と書きます。ここを忘れると、答えの個数が足りません。
【答案例(骨格):例題1】
与式は について対称であるから、一般性を失うことなく としてよい。
このとき であるから 、すなわち 。また とすると となり自然数解をもたないので 。よって 。
(以下、各場合について同様に を絞る)
逆に得られた組は与式を満たす。よって求める組は およびそれらを並べ替えたものである。
7.よくあるミス
1並べ替えを戻し忘れる
で3組出したのに、答えを3組と書いてしまう。問題が「すべて求めよ」なら、並べ替えた 組が答えです。問題文が順序を区別しているかを必ず確認してください。
2対称式でないのに大小を仮定する
は対称ではありません。係数が違えば入れ替えで式が変わるので、大小の仮定はできません。
3下限を忘れる
だけ出して を調べてしまう。上限と下限はセットです。自然数条件から自動的に出る下限(、分数なら )を必ず添えてください。
4不等号の向きを間違える
から 。正の数では逆数を取ると向きが変わります。ここを間違えると絞り込みが逆になり、範囲が出ません。
8.練習問題
【練習1】
を満たす自然数の組 をすべて求めよ。
【練習2】
を満たす自然数の組 ()を、不等式で範囲を絞ってから求めよ。
【練習3】
が成り立つ自然数 の範囲を求めよ。
【答】
練習1 対称式なので としてよい。右辺は なので 、両辺を で割って 。 と合わせて 。
: となり不可。: より ( を満たす)。: より だが に反する。
よって と、その並べ替え6通り。検算:。
練習2 なので 、つまり の4通り。、、 で整数でない、。よって の3組( も含めれば5組)。
練習3 :、:、:、:。 で成立を帰納法で示す。 を仮定すると ( より)。よって 。
9.まとめ
この記事の要点
- 原理は「範囲が有限なら、整数の候補も有限」。難しいのは不等式の作り方。
- 型A:対称式なら大小を仮定 → いちばん大きい項で押さえると先頭の文字に上限が出る。
- 型B:()なら 。調べる範囲が先に見える。
- 型C:積の形で出した候補が多すぎるとき、大きさの評価で潰す(京大2005文系4番)。
- 型D:指数・階乗と多項式が結ばれていたら、増え方の差で有限化する。
- 答案では「対称式だから一般性を失わない」と書き、最後に並べ替えを戻す。
10.よくある質問
Q. 「一般性を失わない」は英語の WLOG と同じですか?
A. 同じ意味です。日本語の答案では「一般性を失うことなく」または「一般性を失わないので」と書きます。大事なのは表現よりも、なぜ失わないのかの根拠(対称式であること)を書いているかです。
Q. 不等式を作っても範囲が広すぎるときは?
A. もう一段絞れないかを探します。例題1では を出したあと、各 について同じ論法を に適用しました。同じ手を繰り返すのがこの方針の骨格です。それでも広ければ、余りで分類して候補を落とすのが定石です。
Q. 型Bの は覚えるべきですか?
A. 覚えなくても、その場で1行ずつ出せます。下限は「 だけでは足りない」、上限は「 が2つあれば十分」という当たり前の観察です。ただし結果を知っていると、調べる個数( 通り)が先に見えるので、時間配分の判断が楽になります。
Q. 3つの方針のうち、どれから練習すべきですか?
A. 積の形 → 余りで分類 → 不等式で絞るの順をおすすめします。積の形は手順が固定されていて最も再現性が高く、不等式は「どこから持ってくるか」の判断が入るぶん最後です。ただし不等式は他の2つと併用する形で出ることが多いので、単独で完璧にする必要はありません。
11.関連ページ
- 整数問題の3つの方針|総論・判断基準(まずはこちら)
- ① 積の形に持ち込む整数問題|変形の3つの型と約数の数え方
- ② 余りで分類する整数問題|法をいくつに取るかは式が教えてくれる
- 実戦例:a³−b³=65 の整数解【2005年 京都大学 文系 第4問】
- 整数の性質|約数・倍数・互除法・不定方程式・n進法【数学A】
- 解法テクニック一覧
「その不等式は、どこから出てきたのか」
不等式で絞る問題は、模範解答を読むと自然に見えて、白紙からは書けない典型です。数強塾では、不等式の供給源を型として渡したうえで、答案の書き方まで完全1対1で指導します。

