なぜ?から始める、段階別解説
このページの到達目標:この単元の出来事を前後関係で並べ、変化の理由を本文の具体的な事実を使って説明する。
最初は上から順に読みましょう。復習では、説明できなかったステップへ戻れます。
世界史|ヨーロッパ統合
ヨーロッパ統合——「仲良くしよう」ではなく「戦争ができない状態」から始まった
歴史上はじめて、武力によらない統合が試みられた
何百年も戦い続けた地域が、20世紀の後半に統合へ向かいました。理想を掲げたからではありません。
出発点はきわめて具体的でした。兵器の材料になるものを共同で管理する——つまり、互いに隠れて軍備を進められない状態を作ることです。相手を信頼することを前提にしない設計から始まりました。
STEP 1 信頼を前提にしない設計
最初の共同体が対象としたのは、石炭と鉄鋼でした。なぜこの2つだったのかを考えてください。
| 性質 | 共同管理すると何が起きるか |
|---|---|
| 兵器と軍艦の材料である | 密かに大量生産すれば必ず分かる |
| 産地が国境をまたいで隣接している | もともと争いの種だった資源が、共同の資産になる |
| どの国も復興に必要としている | 参加する具体的な利益がある。理念に賛同しなくてよい |
3例目の「人を信頼せず仕組みで防ぐ」
啓蒙思想の権力分立は、人は権力を握れば濫用するという不信を前提にしていました。古代中国で法と賞罰による統治を説いた立場も、人は利益で動くから仕組みで縛るという考え方でした。
ここでも同じです。「もう戦争はやめよう」という約束ではなく、戦争の準備が物理的に隠せない状態を作った。約束は破れますが、構造は破りにくい。
制度設計を問われたら、何を信頼し、何を信頼していないかを見てください。
STEP 2 なぜこの時期だったのか
統合の構想自体は以前からありました。実現したのは条件がそろったからです。——宗教改革前夜で書いた「先駆者は失敗し、後続が成功する」と同じ読み方をします。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 自力で安全を守れないと分かった | 二度の大戦で、単独の国では自国さえ守れないことが証明された |
| まとまる必要があった | 冷戦のもとで、西側として結束する政治的な要請があった |
| 市場と資源が足りなくなった | 植民地を失い、単独では帝国主義の時代のような供給源を持てない |
| 外から後押しがあった | 復興を支援する側も、まとまってくれたほうが効率がよい |
統合は、力を失ったから選ばれた
3つとも「もう単独ではやっていけない」という認識です。強かったから統合したのではありません。
イタリアとドイツの統一で、1848年の挫折が統一の方法を決めたと書きました。ここでも同じで、失敗の経験が方法を決めています。ただし今回は「上から軍事力で」ではなく「下から利害で」という方法でした。
STEP 3 経済から始めて、政治へ広げる
この統合の進め方には、はっきりした戦略があります。いきなり政治的な統一を目指さないことです。
| 順序 | 統合の範囲 | なぜ次が必要になるか |
|---|---|---|
| 1 | 特定の資源の共同管理 | 成功すれば、他の分野にも広げたくなる |
| 2 | 域内の関税を撤廃する | 関税がなくなると、規格や基準の違いが障害になる |
| 3 | 人・物・資本の移動を自由にする | 移動が自由になると、為替の変動が取引の妨げになる |
| 4 | 共通の通貨を導入する | 通貨が同じなら、財政の規律も共通にしないと成り立たない |
| 5 | 政治的な調整へ | ——ここから先が難しくなる |
ひとつ統合すると、次が必要になる
右の列に注目してください。各段階が、次の段階を必要とする理由を自分で作り出しています。だから統合は止まりにくい。
中国の近代で、失敗のたびに変えるべき範囲が広がったと書きました。形は似ていますが中身は逆です。あちらはうまくいかないから範囲が広がった。こちらはうまくいくから範囲が広がった。
同じ「範囲の拡大」でも、原因が成功か失敗かで意味がまったく違います。
STEP 4 なぜ難しいのか——主権と民意
統合が進むほど、避けられない問題が出てきます。批判の中身を構造として理解してください。
| 問題 | なぜ生じるか |
|---|---|
| 決定が遠い場所で行われる | 自国の選挙で選んでいない人が決める場面が増える |
| 必要な政策が国ごとに違う | 通貨が同じだと、不況の国と好況の国に同じ金融政策が適用される |
| 負担の分かち合いに合意しにくい | ある国の困難を他国が支えることへの反発が生じる |
| 人の移動が争点になる | 労働力として必要でも、不況期には摩擦が起きる |
多様な集団を束ねる問題の、自発的な版
オスマン帝国で、近代国家の前提であるひとつの国民という発想は、多民族の帝国と両立しないと書きました。統合はその逆を目指しています。複数の国民国家を、上位の枠組みで束ねようとしているのです。
4行目は西部開拓で見た形です。人手が足りないときは歓迎され、足りているときは負担と見なされる。ここでも景気が態度を決めます。
統合への反発を「感情的な反対」で片づけないでください。構造から生じる問題として説明できます。
STEP 5 世界史の中でどう位置づけるか
この地域を政治的にまとめようとした試みは、これが初めてではありません。むしろ何度もありました。
| 試み | 方法 | 結果 |
|---|---|---|
| ローマ帝国 | 征服と統治 | 数百年続いたが分裂し消滅した |
| カールの戴冠 | 征服と、宗教的な権威の裏づけ | 一代で分割された |
| ナポレオン | 軍事的な制圧と制度の輸出 | 各地のナショナリズムを刺激し、崩壊した |
| 20世紀前半の試み | 武力による支配 | 大戦を招き、完全に否定された |
| 戦後の統合 | 利害の一致と自発的な参加 | 進行中。困難を抱えながら継続している |
方法が違えば、結果も違う
上の4つはすべて武力でした。そしてすべて、まとめられた側の反発によって崩れています。ナポレオンの単元で、支配された側にナショナリズムが芽生えたと書いたとおりです。
ただし4つとも同じ理由で崩れたわけではありません。カールの帝国が割れた直接の原因はフランク人の分割相続の慣行と相続争いで、843年と870年の条約によって分割されました。崩れ方の違いも見てください。
この行は補正が要ります。カールの帝国は、その死(814年)後も子のルートヴィヒ1世の治世を通じて維持されました。分割されたのは孫の世代のヴェルダン条約(843年)です。「一代で」ではなく「二代で」が正確です。
最後のひとつだけが違います。参加するかどうかを各国が選べる形をとりました。だから離脱も起こりえます。強制されない統合は、脱退もできる統合です。これが強みでもあり、弱みでもある。
論述では、方法の違いを結果の違いに結びつけて書いてください。
STEP 6 因果の鎖を1本にする
この鎖の要点は、統合を進めた力と、統合を難しくする力が同じ場所から出ていることです。一つ統一すると次の統一が必要になる——その連鎖そのものが、決定を国民から遠ざけました
ヨーロッパ統合の因果の鎖
二度の大戦で単独では自国を守れないと判明する → 植民地を失い市場と資源も単独では不足する → 冷戦のもとで結束の政治的な要請が生まれる → 兵器の材料を共同管理するという、信頼を前提にしない仕組みから始める → 参加する具体的な利益があるため理念への賛同が不要 → 関税撤廃が規格の統一を、移動の自由が通貨の統一を、通貨の統一が財政の規律を次々に必要とする → 統合が深まるほど決定が国民から遠くなる → 経済状況の違う国に同じ政策が適用される矛盾が生じる → 反発が現れ、離脱という選択肢も生じる
この鎖の要点は、統合を進めた力と、統合を難しくする力が同じ場所から出ていることです。深めるほど利益が増え、同時に摩擦も増えます。
STEP 7 確認問題(オリジナル)
過去問の引き写しではなく、この単元の考え方を試すために作った問題です。
問1ヨーロッパ統合が石炭と鉄鋼の共同管理から始められた理由を説明せよ。
解答例石炭と鉄鋼は兵器や軍艦の材料であり、共同で管理すれば、いずれかの国が密かに軍備を拡張することが事実上できなくなる。すなわち相互の信頼を前提とする約束ではなく、戦争の準備が隠せない状態を仕組みとして作り出す点に意義があった。また産地が国境をまたいで隣接し従来から争いの種であったこと、どの国も復興のために必要としていたため理念に賛同せずとも参加する具体的な利益があったことも理由である。
問2統合が経済の分野から段階的に進められた理由を、60字程度で説明せよ。
解答例利益が具体的で反対が生じにくく、ひとつ統合すると隣接する分野の統合も必要になったから。(42字)
問3この統合を、過去にヨーロッパを統一しようとした試みと比較して説明せよ。
解答例ローマ帝国、カールの戴冠、ナポレオン、そして二十世紀前半の試みは、いずれも征服や軍事的な制圧という武力による統一であった。そのため統合された側に反発が生じ、とくにナポレオンの支配は各地のナショナリズムを刺激して崩壊を招いた。これに対し戦後の統合は、参加するかどうかを各国が選択できる自発的な形をとった点が決定的に異なる。ただし強制によらない以上、離脱という選択肢も同時に存在する。
よくある質問
Q. ヨーロッパ統合はなぜ石炭と鉄鋼から始まったのですか?
A. 相手への信頼を前提にしない設計だからです。石炭と鉄鋼は兵器の材料で、共同管理すれば密かな大量軍備が必ず分かる。産地が国境をまたいで隣接し、争いの種だった資源が共同の資産になる。どの国も復興に必要としているため、理念に賛同しなくても参加する利益がある。約束は破れますが、構造は破りにくいのです。
Q. 統合の構想は昔からあったのに、なぜこの時期に実現したのですか?
A. 力を失ったからです。二度の大戦で単独では自国も守れないと分かり、冷戦下で西側として結束する要請があり、植民地を失って単独では供給源を持てず、復興を支援する側もまとまりを望みました。強かったから統合したのではありません。
Q. なぜ経済の統合が政治へ広がっていくのですか?
A. 各段階が、次の段階を必要とする理由を自分で作り出すからです。資源の共同管理が成功すると関税撤廃へ、関税がなくなると規格の違いが障害になり、移動が自由になると為替変動が妨げになり、通貨が同じなら財政の規律も共通にする必要が生じる——だから統合は止まりにくいのです。
この続きは、世界史のプロ講師と。数強塾グループの世界史は伊藤敏先生が担当しています。
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