指導事例 / 授業ドキュメント

【指導実例】「答えは0。でも、その0を答案にどう書く?」──数Ⅲ・極限とはさみうちの原理、オンラインマンツーマン指導の90分

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今日の一問
今日のメイン問題はこれです。
数列 {aₙ} は初項 a、公比 r の等比数列とし、ar ≠ 0 とする。Sₙ = Σaₖ、Tₙ = Σaₖ² とするとき、lim (n→∞) Sₙ/Tₙ を求めよ。
Kさんが読み上げた瞬間、講師は画面共有の板書に赤で丸をつけました。
「はい、まず1行目のここ。ar ≠ 0 って、言い換えるとどういうこと?
「えっと……a か r が 0 じゃない?」
——さて、どこから手をつける?
続きの小問と、答え・考え方は本文で解説します。

【本記事について】本記事は、数強塾グループのプロ講師による実際の授業記録・指導記録をもとに、オンラインマンツーマン指導の一場面として再構成したものです。生徒の氏名・属性は個人が特定されないよう変更・統合していますが、数式・板書・指導内容・語りかけは実際の記録に基づいています。

こんにちは。株式会社数強塾 代表の藤原進之介です。

数Ⅲの「極限」は、理系受験生が最初にぶつかる壁です。答え自体は「0」や「1/a」と一言で済むのに、その一言をどう答案に書けば減点されないのかが、独学では決定的に見えにくい。今回は、この単元を当塾のプロ講師がオンラインマンツーマンでどう指導しているか、90分の記録をほぼ時系列でご紹介します。

生徒は高3理系のKさん(仮名)。国立理系志望で、数Ⅲの極限を学び始めたばかり。予習では「3番の問題、途中で場合分けが訳わからなくなりました」と事前にチャットで送ってくれていました。

20:00──授業は「1週間の振り返り」と「日程の逆算」から

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画面がつながると、講師はまず雑談でも数式でもなく、こう切り出しました。

「あれから1週間、自分の思うような努力は積み重ねられた? 受験は本当に1日1日との戦い。1月中旬に共通テスト、2月頭から私大、2月25・26に国公立前期。カウントダウンは確実に進んでいる。1日1日をどう過ごすかが合否に直結するからね」

オンライン指導は毎回、この「時間軸の確認」から始まります。目の前の単元を、入試日から逆算した地図の上に置く。これだけで、同じ90分の密度が変わります。

20:05──問題文の1行目「ar ≠ 0」で、いきなり止める

今日のメイン問題はこれです。

数列 {aₙ} は初項 a、公比 r の等比数列とし、ar ≠ 0 とする。Sₙ = Σaₖ、Tₙ = Σaₖ² とするとき、lim (n→∞) Sₙ/Tₙ を求めよ。

Kさんが読み上げた瞬間、講師は画面共有の板書に赤で丸をつけました。

「はい、まず1行目のここ。ar ≠ 0 って、言い換えるとどういうこと?

「えっと……a か r が 0 じゃない?」

「惜しい。それは ar = 0 のときの言い換えね。掛け算して 0 にならないということは、どちらも 0 ではない。つまり『a ≠ 0 かつ r ≠ 0』。もし ar = 0 なら『a = 0 または r = 0』。“かつ”と“または”がひっくり返る。ここ、答案の場合分けの土台になるから、問題文を読んだ瞬間に翻訳しておこう」

マンツーマンの強みは、この最初の1行のつまずきを見逃さないことです。Kさんの「場合分けが訳わからなくなった」原因は、実はこの翻訳の曖昧さにありました。

20:15──「Tₙ の公比、いくつ?」で手が止まる

Sₙ は等比数列の和。ここで講師は公式を書かせる前に確認します。「等比数列の和は、公比が 1 か 1 でないかで式が変わったよね。今 r ≠ 0 は言えているけど、r ≠ 1 は言えていない。だから場合分けが発生する」

  • r = 1 のとき Sₙ = na
  • r ≠ 1 のとき Sₙ = a(1 − rⁿ)/(1 − r)──「この n は項数。黄色でチェックしておいて」

続いて Tₙ。aₖ² = a²·r^(2(k−1)) を板書したところで、講師が問いかけます。

「じゃあ聞くよ。この和の公比はいくつ?

「……r、ですか?」

「見て。初項は r⁰、次は r²、次は r⁴。1つ進むごとに何倍されてる?」

「あ……r² だ」

「そう。公比は r²。ということは、Tₙ の場合分けは『r² が 1 か 1 でないか』で起こる。r² = 1 ってことは r = ±1。──ここが今日の問題の心臓部。Sₙ は r = 1 で式が変わるのに、Tₙ は r = ±1 で式が変わる。だから Sₙ/Tₙ は全部で3パターンに分かれる。r = 1 のとき、r = −1 のとき、r ≠ ±1 のとき」

Kさんの予習ノートには、r = 1 と r ≠ 1 の2択で押し切って崩れた跡がありました。「訳がわからなくなった」のではなく、公比の確認を1回飛ばしただけ。原因が特定されると、Kさんの表情が画面越しに明らかに変わります。

計算を進めると、3パターンはこう整理されました(途中式は授業内で全て確認)。

  1. r = 1:Sₙ/Tₙ = na/(na²) = 1/a(n によらない定数)
  2. r = −1:Sₙ/Tₙ = (1 − (−1)ⁿ)/(2an)
  3. r ≠ ±1:約分と因数分解を経て Sₙ/Tₙ = (1 + r)/(a(1 + rⁿ))

20:35──「勘でもいいよ。r = −1 のとき、極限どうなると思う?」

ここで講師は、あえて計算より先に予想を求めます。

「r = −1 のパターン、極限どうなると思う? 勘でもいい。推測でもいいから」

「……0、ですか? 分子が 2 か 0 しかなくて、分母がどんどん大きくなるから」

「完璧。分子 1 − (−1)ⁿ は 2, 0, 2, 0 を永遠に繰り返す。一定値ではないけれど、2 か 0 のどちらか。分母は無限大にいく。だったら全体は 0 だろう──その感覚は正しい。まず感覚で当ててから、それを答案の言葉にする。この順番でいこう」

最終的に極限は、r の値で3つに分類されます。

  • r = 1 のとき 1/a
  • r ≦ −1 または r > 1 のとき 0
  • −1 < r < 0、0 < r < 1 のとき (1 + r)/a(rⁿ → 0 を使用。r ≠ 0 は前提から除外済み)

20:45──今日の核心。「その0、答案にどう書く?」

答えが出て安心しかけたKさんに、講師は板書の1か所を赤で囲んで見せました。

「ここ、記述として甘いの分かる? 先週、『無限分の定数』の形なら問答無用で 0 としていい、と言ったよね。1/n も (1/2)ⁿ もそれでいい。でも 1 − (−1)ⁿ は定数じゃない。2 と 0 を行き来している。定数でないものを勝手に 0 扱いしたら、大学によっては減点されるかもしれない。──そこで、はさみうちの原理を教えます」

なぜ「定理」ではなく「原理」なのか

講師はまず、名前の話から入りました。

「高校数学で“原理”という言葉を使う公式、はさみうち以外にある? 加法定理、正弦定理──普通は定理でしょ。定理とは証明があるもの。原理は証明はないけれど当たり前に成り立つもの。実はね、はさみうちには証明がある。ただし高校数学の範囲外。君が大学に受かって、大学の授業で証明を学ぶ。だから高校では“原理”と呼んで、証明なしで使ってよいことになっている」

用語の由来まで含めて教えるのは、丸暗記を避けるためです。「なぜそう呼ぶのか」が分かった知識は、忘れません。

はさみうちは「解答に説得力を持たせる」道具

原理の主張(すべての自然数 n で bₙ ≦ aₙ ≦ cₙ が成り立ち、両端が同じ α に収束するなら、真ん中も α に収束する)を、講師は点列の図で見せます。「n = 1 でも 2 でも 3 でも、この序列は絶対に覆らない。両サイドがぎゅーっと α に吸い寄せられていくなら、間に挟まれた真ん中も α に行かざるを得ない。証明はないけど、当たり前でしょ」

そして、存在理由を一言で。

「はさみうちは何のためにあるか。解答に説得力を持たせるため。例えば lim (sin n)/n。答えは 0 だと感覚で分かる。でも答案に『0だよね』とだけ書いたら、フィーリングで出したと勘違いされる。だから −1 ≦ sin n ≦ 1 を n で割って、−1/n ≦ (sin n)/n ≦ 1/n。両端は無限分の定数で 0。よってはさみうちの原理から真ん中も 0──こう書けば、直感ではなく理論で説明したことが採点者に伝わる」

実戦──(−1)ⁿ を挟み、絶対値で割る

では本題の (1 − (−1)ⁿ)/(2an) をどう処理するか。ここに、記述指導の技術が凝縮されていました。

「まず −1 ≦ (−1)ⁿ ≦ 1。(−1)ⁿ は ±1 しか取らないから、この不等式は絶対に満たされる。全辺を −1 倍して向きを反転、1 を足して 0 ≦ 1 − (−1)ⁿ ≦ 2。これで分子が挟めた。──さて、次に 2an で割りたい。でも割っていい?

「あ……a の符号が分からない」

「そう。a が負なら不等号が全部ひっくり返る。正負で場合分けするのは正直めんどくさい。だから──2an の絶対値で割る。絶対値なら必ず正だから、不等号の向きはそのまま。0 ≦ |(1 − (−1)ⁿ)/(2an)| ≦ 1/(|a|n)。右端は無限分の定数で 0。はさみうちの原理から、絶対値が 0 に収束する」

「そして最後にもう一段。絶対値が 0 になるのは、中身が 0 のときしかないよね。だから中身の極限も 0 と言い切れる。これで完全な証明になった」

符号が不明な文字は絶対値で割る。|xₙ| → 0 なら xₙ → 0。この2つの手筋は、数Ⅲの答案全体で使い回せる汎用技術です。

「時間がないときは、どうします?」

仕上げに、講師は現実的な戦略まで話します。

「大学の採点基準は公表されない。だから正直、分からない。もし入試本番で時間がないなら、減点覚悟で 0 と書いて次へ行くのも一つの手。要は合格点を取ればいいんだから。でも時間と解答スペースに余力があるなら、ここまで書いた方が丸をもらえる可能性は高い。──ちなみに、大学で教授をしている友人が何人かいるんだけど、彼らに聞いた限りでは『大学で習う知識を使っても、合っていれば丸をあげる』とのこと。だから今後、少しテクニカルな道具も紹介していくね」

満点答案の書き方と、本番での損切りの判断。両方を教えるのが実戦指導です。

21:10──lim の入った関数のグラフ、そして「共有点がただ1つ」

後半は f(x) = lim (n→∞) (x²ⁿ + 1)/(x²ⁿ + x − 1) のグラフ。x²ⁿ の極限が x の値で変わることを使い、

  • |x| < 1 では x²ⁿ → 0 だから f(x) = 1/(x − 1)(分数関数の一部。x = 1 が漸近線)
  • |x| > 1 では分母分子を x²ⁿ で割って f(x) = 1
  • x = ±1 は直接代入で f(1) = 2、f(−1) = −2

という「継ぎはぎのグラフ」を完成させます。ここで講師は、「不定形(∞/∞)が出たら、無限大にいくもので割って基本極限を作る」という原則を、−2 のような負の値でも同じ結果になることまで含めて確認させました。

最後の設問は「y = f(x) と y = ax がただ1つの共有点を持つ a の範囲」。講師の指示は明快です。

「y = ax は原点を通る直線。傾き a を、猛烈な右下がりから猛烈な右上がりまで、まんべんなく回して、共有点が1個になる瞬間だけ拾っていこう」

画面上で直線がゆっくり回転し、境界となる a が5つ、順に確定していきます。分数関数の枝に接するとき(ax = 1/(x−1) を連立して ax² − ax − 1 = 0。a ≠ 0 を確認してから判別式 D = 0 で a = −4)、端点 (−1, 1)・(−1, −1/2)・(1, 1)・(1, 2) を通るとき(a = −1, −1/2, 1, 2)。白丸(含まれない点)を共有点と数えないよう1つずつ吟味して、答えは

a = −4、−1 < a < 0、0 < a ≦ 1/2、1 ≦ a < 2、a > 2

「分数関数は単体ではほとんど出ないけど、こうやって極限の問題に融合されて出てくる。分数関数と直線が接するとき判別式が使える、という経験則も今日持って帰って」

21:25──無限級数。「どんな小さい数でも、無限に足したら無限では?」

残り時間で、次回への橋渡しとして無限級数の定義に入ります。部分和 Sₙ の n を無限に飛ばしたもの、という定義と3通りの表記(lim Sₙ/lim Σ/Σ n=1 to ∞)を確認し、「無限級数の定義を述べよ、という出題が国公立二次で実際にある」ことまで添えたあと、講師は自分の高校時代の話を始めました。

「私ね、これを初めて習ったとき、違和感があったの。どんなに小さい値でも、無限に足したら無限大に行っちゃうんじゃないの?って。0.1 + 0.1 + 0.1 + …だって、果てしなく足せば無限でしょ。“無限級数が収束する”ってどういうこと?と」

そして、折れ線の間に円を無限に詰めていく図を描きます。「円はどんどん小さくなるけど、スペースは決してなくならないから、理論上は永遠に描き続けられる。でも、この円の面積を全部足しても、この黄色い領域の面積を超えることは絶対にない。だったら、和は何かの値に収束するしかない。そして収束するためには、遥か彼方 n 番目の円──つまり一般項──が 0 に近づいていない限り、ありえない

これが、無限級数の最重要性質「Σaₙ が収束するならば lim aₙ = 0」の直観です。講師はここで論理の注意を重ねます。「逆は成立しない。一般項が 0 に近づいても、収束するとは限らない(この反例は次回)。でも対偶は真。仮定と結論を入れ替えて両方否定──『一般項が 0 に近づかないなら、無限級数は発散する』。命題と対偶の真偽は一致するからね」。証明も aₙ = Sₙ − Sₙ₋₁(n ≧ 2)から α − α = 0、と2行で完結させ、「証明ごと出題される可能性があるから、書ける状態にしておこう」。

21:30──「はさみうちは、私も一番苦手だった」

終了間際、講師はKさんにこう打ち明けました。

「実は私、現役のとき数Ⅲが一番苦手だった。特にはさみうち。パターン学習ができないんだよね、これ。思いつかない問題が多くて。──でも、だからこそ、これからあらゆるパターンを君に話していく。はさみうちは夏も、2学期も、冬も、入試直前まで何度も出てくるテーマだから、焦らず基礎から積もう。来週はゴールデンウィークだけど授業は平常通り。予習は次の3題ね」

「先生も苦手だったんですか」とKさんが笑い、授業後の保護者様への報告には、この日の到達点(等比の和の極限の3分類・はさみうちの記述・lim付き関数のグラフ)と、次回までの課題が共有されました。

保護者様へ──この90分に詰まっていたもの

  • 問題文の論理の翻訳(ar ≠ 0 →「かつ」)という、崩れの根本原因への介入
  • 予習ノートからつまずきの1点(公比 r² の見落とし)を特定する診断
  • 「勘で当てる → 答案の言葉に直す」という、感覚と記述の往復訓練
  • 絶対値で割る・|xₙ|→0 ⇒ xₙ→0 という汎用の答案技術
  • 満点答案と本番の時間戦略、両方を教える現実主義
  • 原理と定理の違い、円の充填モデルなど、丸暗記を消す背景知識
  • 講師自身の苦手の告白による、心理的な伴走

集団授業では、この90分は「全員向けの平均」にしかなりません。マンツーマンだからこそ、Kさんの予習ノートの崩れた1行から出発し、Kさんの理解の速度で、Kさんの志望校の採点を想定した答案指導まで到達できます。


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