数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第1章
この章を読み終えると、「命題」「条件」「集合」という3つの言葉がぜんぶ同じものの別名だとわかります。ここが分かると、必要条件・十分条件も、同値変形も、「すべての」「ある」も、あとで全部ラクになります。中学1年生の言葉だけで書いてあるので、安心して読み進めてください。
「数学ができない」の正体は、たいてい計算力じゃない
こんにちは、藤原進之介です。
数学が苦手な人に「どこでつまずいた?」と聞くと、多くの人が「計算が遅いから」「公式を覚えられないから」と答えます。でも、実際にその人のノートを見せてもらうと、計算はだいたい合っているんです。じゃあ何が起きているのか。
問題文の日本語を、数式に翻訳するところで止まっている。
これがほとんどです。「〜となるような \(a\) の値の範囲を求めよ」「〜を満たす \(x\) が存在するための条件を求めよ」「すべての \(x\) について〜が成り立つことを示せ」。この手の文章を読んだ瞬間、頭の中が白くなる。式は書けるのに、何を式にすればいいのかが分からない。
これは頭が悪いからではありません。数学の言葉を、誰もきちんと教えてくれなかっただけです。英語を習うときは最初に文法をやるのに、数学では「計算のやり方」からいきなり始めてしまう。だから、文章題になると急に迷子になる。
この講座は、そこから始めます。第1章は、数学という言語の「主語と述語」にあたる部分です。
まず「命題」とは何か
数学の教科書には、こう書いてあります。
命題とは、正しいか正しくないかがはっきり決まる主張のこと。
短いですが、実はこの「はっきり決まる」が全部です。例を並べてみましょう。
- 「7 は素数である」──これは正しい。だから命題です。
- 「2 は 3 より大きい」──これは正しくない。でも、正しくないと決まるので、これも命題です。
- 「この問題集は難しい」──人によって違います。決まりません。だから命題ではない。
ここで大事なのは、命題は「正しい」ものだけを指すのではないということ。正しくてもいいし、間違っていてもいい。白黒がつくかどうかだけが問題です。正しい命題を「真」、正しくない命題を「偽」と呼びます。
では、これはどうでしょう。
「 \(x + 3 = 5\) 」
正しい? 正しくない? ……決まりませんよね。\(x\) が 2 なら正しいし、\(x\) が 7 なら正しくない。\(x\) が何なのか分からないと、白黒がつかない。
こういうものを、数学では命題と区別して条件と呼びます。
「条件」とは、文字を入れると命題になる文
条件とは、文字(変数)を含んでいて、その文字に具体的な値を入れると命題になる主張のこと。
\(x + 3 = 5\) は条件です。\(x\) に 2 を入れると「\(2+3=5\)」という真の命題になり、7 を入れると「\(7+3=5\)」という偽の命題になる。
条件には名前を付けます。「条件 \(p\)」とか「条件 \(p(x)\)」のように書きます。\(p(x)\) と書くと「\(x\) が入っている条件だぞ」というのが見た目で分かるので便利です。
ここまでは教科書と同じです。ここからが本題です。
条件には、必ず「文字が動く範囲」がセットでついてくる
ここ、教科書だとサラッと流されるのですが、入試数学ではここが一番効きます。落ち着いて読んでください。
次の主張を見てください。
「 \(x^2 = 2\) を満たす \(x\) が存在する」
これは正しいでしょうか。
……「正しいに決まってる、\(x = \sqrt{2}\) じゃん」と思った人。半分正解です。
もし \(x\) が「実数」の中から選ばれるなら、たしかに \(x=\sqrt{2}\) があるので真です。でも、もし \(x\) が「分数(有理数)」の中からしか選べないと決まっていたら? \(\sqrt{2}\) は分数では書けないことが証明されています。だから、この主張は偽になります。
同じ文なのに、文字が動く範囲を変えると真偽がひっくり返った。
つまり、条件というのは「文だけ」では未完成なんです。
条件 = 文 + 文字が動く範囲
この「範囲」を全体集合といい、ふつう \(U\) と書きます。高校数学では、断りがなければ「実数全体」だと思ってよい場面が多いですが、問題文が「整数 \(n\) について」と書いていたら全体集合は整数全体です。ここを読み飛ばすと必ず事故ります。
入試の問題文にある「実数 \(x\) に対して」「自然数 \(n\) について」「\(0 \le \theta \lt 2\pi\) のとき」といった一文は、飾りではありません。あれが全体集合の指定です。
条件は、じつは「集合」である
さあ、この章のいちばん大事なところに来ました。
全体集合 \(U\) が決まっていて、条件 \(p(x)\) があるとします。このとき、\(U\) の中の要素をひとつずつ取ってきて、\(p(x)\) が真になるものだけを集めることができます。
その集まりを、条件 \(p\) の真理集合といい、\(P\) と書きます。
\[P = \{\, x \in U \mid p(x) \, \}\](\(U\) の中で \(p(x)\) が成り立つ \(x\) を全部集めた集合)
たとえば全体集合を実数全体として、条件 \(p(x)\) を「\(-1 \lt x \lt 3\)」とすると、真理集合 \(P\) は数直線上の \(-1\) から \(3\) までの区間そのものです。
ここで発想を切り替えてください。
条件を見たら、集合を思い浮かべる。
「\(-1 \lt x \lt 3\)」という文字の並びではなく、数直線の上に横たわっている線分を思い浮かべる。この切り替えができた瞬間から、数学は急に見えるようになります。
「かつ」「または」「でない」の正体
条件が集合だと分かると、条件をつなぐ言葉の意味も一瞬で分かります。
- 「 \(p\) かつ \(q\) 」の真理集合は \(P \cap Q\)(共通部分)
- 「 \(p\) または \(q\) 」の真理集合は \(P \cup Q\)(和集合)
- 「 \(p\) でない」の真理集合は \(\overline{P}\)(補集合)
ここで1つだけ注意。日常の「または」と数学の「または」は違います。
「コーヒーまたは紅茶」と言われたら、ふつうは「どっちか片方」ですよね。でも数学の「または」は両方でもよい。「\(x\gt 0\) または \(x\gt 1\)」を満たす \(x\) には、\(x=5\) のように両方を満たすものも含まれます。
そして「でない」は、集合で考えると間違えようがなくなります。
「\(x\gt 2\) かつ \(y \le 3\)」の否定は何でしょうか。文字だけで考えると「\(x \le 2\) かつ \(y \gt 3\)」とやってしまう人が本当に多い。でも集合で考えれば、\(\overline{P \cap Q} = \overline{P} \cup \overline{Q}\) なので、
「\(x \le 2\) または \(y \gt 3\)」
が正解です。「かつ」の否定は「または」に化ける。これをド・モルガンの法則といいますが、名前を覚える必要はありません。ベン図を描けば、当たり前に見えます。
「 \(p\) ならば \(q\) 」の意味を、一生忘れない形にする
いよいよ、この章の到達点です。
「\(p \Rightarrow q\)(\(p\) ならば \(q\))が真である」とは、どういう意味でしょうか。
正確に書くと、こうです。
全体集合 \(U\) のどの \(x\) についても、「\(p(x)\) が真ならば \(q(x)\) も真」が成り立つ。
これを集合の言葉に翻訳します。「\(p\) を満たすものは、もれなく \(q\) も満たす」。つまり──
\(p \Rightarrow q\) が真 ⟺ \[P \subset Q\]
矢印は、包含です。これだけです。
「\(p\) ならば \(q\)」を見たら、\(P\) という小さい丸が \(Q\) という大きい丸の中にすっぽり入っている絵を描いてください。矢印の向きと包含の向きが同じ(\(p\) から \(q\) へ、\(P\) の中から \(Q\) の外へ)なので、迷いません。
具体例で確かめます。全体集合を実数全体として、
- \(p(x)\):\(x \gt 1\) → \(P = \{x \mid x\gt 1\}\)
- \(q(x)\):\(x^2 \gt 1\) → \(Q = \{x \mid x\lt -1 \, \} \cup \{x \mid x\gt 1\}\)
数直線を描くと、\(P\) は \(1\) より右の部分。\(Q\) は \(-1\) より左と \(1\) より右の2つの部分。たしかに \(P\) は \(Q\) にすっぽり入っています。だから \(p \Rightarrow q\) は真。
逆に \(q \Rightarrow p\) はどうか。\(Q\) の中には \(x = -2\) がいますが、これは \(P\) には入っていません。だから \(Q \subset P\) ではない。よって \(q \Rightarrow p\) は偽です。
このとき出てきた \(x=-2\) のことを反例といいます。
反例とは、\(Q\) には入っているのに \(P\) には入っていない要素(つまり \(Q\) から \(P\) をくり抜いた部分の元)。
「反例を1つ挙げよ」と言われたら、はみ出している場所を1つ指させばよい。1つでいいんです。1000個挙げる必要はありません。
なぜここが「入試で効く」のか
ここまでは、正直かなり地味な話です。「で、これが何の役に立つの?」と思いますよね。実は、こういう問題がすべてこの話です。
- 「すべての実数 \(x\) について \(x^2 + 2ax + 3a \gt 0\) が成り立つような \(a\) の範囲」
→ 条件の真理集合が実数全体になるような \(a\) を探している - 「\(x^2 – (a+1)x + a \le 0\) を満たす \(x\) が存在するような \(a\) の条件」
→ 真理集合が空集合ではないような \(a\) を探している - 「\(A \subset B\) となるような \(a\) の値」
→ 集合の包含がそのまま出ている - 「\(p\) は \(q\) であるための何条件か」
→ \(P\) と \(Q\) のどちらがどちらに入っているかを聞いているだけ
全部、「条件=集合」「ならば=包含」という1本の線の上に乗っています。第4章で必要条件・十分条件をやるとき、この章の絵がそのまま使えます。
【原理】この章の芯
① 条件は、文だけでは未完成。「文 + 文字が動く範囲」でひとつ。
② 条件を見たら、真理集合という「図形」を思い浮かべる。
③ 「ならば」は矢印ではなく、包含(\(P \subset Q\))である。
④ 反例とは、はみ出している要素を1つ指すこと。
オリジナル問題で確かめる
ここからは書き下ろしの練習問題です。手を動かさないと絶対に身につかないので、必ず自分で考えてから解答を見てください。紙とペンを用意してください。
問題1(命題と条件の区別)
次の(1)〜(6)のうち、命題であるものをすべて選び、それが真か偽かを答えよ。命題でないものは、その理由も述べよ。
- \(7\) は素数である。
- \(x + 3 = 5\)
- すべての実数 \(x\) について \(x^2 \ge 0\) である。
- この問題は難しい。
- \(2 \gt 3\)
- \(100\) 以下の素数はちょうど \(25\) 個ある。
問題2(全体集合で真偽が変わる)
主張「\(2x = 1\) を満たす \(x\) が存在する」について、次の各場合に真偽を答えよ。
- \(x\) が整数全体を動くとき
- \(x\) が有理数全体を動くとき
問題3(真理集合と包含)
全体集合を実数全体とする。条件 \(p(x)\):\(-1 \lt x \lt 3\)、条件 \(q(x)\):\(x \lt 5\) について、
- \(p \Rightarrow q\) の真偽を、真理集合の包含で説明せよ。
- \(q \Rightarrow p\) の真偽を答え、偽ならば反例を1つ挙げよ。
問題4(反例)
次の命題は偽である。それぞれ反例を1つ挙げよ。
- 実数 \(x\) について、\(x^2 = 4\) ならば \(x = 2\) である。
- 実数 \(x, y\) について、\(x + y \gt 0\) ならば \(x \gt 0\) かつ \(y \gt 0\) である。
- 自然数 \(n\) について、\(n^2\) が \(4\) の倍数ならば \(n\) は \(4\) の倍数である。
問題5(否定を作る)
次の条件の否定を、「かつ」「または」を正しく使って書け。
- \(x \gt 2\) かつ \(y \le 3\)
- \(x = 0\) または \(y = 0\)
- \(1 \le x \le 4\)
問題6(集合で書き直す)
条件「\(x \gt 1\) または \(x \lt -1\)」を、絶対値を使った1つの不等式で表せ。また、それが \(x^2 \gt 1\) と同じ条件であることを説明せよ。
問題7(包含から係数を決める・入試の入口)
\(a\) を実数とする。集合 \(A\)、\(B\) を
\[A = \{\, x \mid x^2 – 3x + 2 = 0 \,\}, \qquad B = \{\, x \mid x^2 – (a+1)x + a = 0 \,\}\]
で定める。
- \(A \subset B\) となる \(a\) の値を求めよ。
- \(B \subset A\) となる \(a\) の値をすべて求めよ。
問題8(「すべての」を集合で読む)
実数 \(a\) に対し、すべての実数 \(x\) について \(x^2 + 2ax + 3a \gt 0\) が成り立つとする。このような \(a\) の値の範囲を求めよ。
問題9(「存在する」を集合で読む)
実数 \(a\) に対し、\(x^2 – (a+1)x + a \le 0\) を満たす実数 \(x\) が存在するような \(a\) の条件を求めよ。
解答と解説
問題1の解答
命題であるもの:(1)、(3)、(5)、(6)
- (1) \(7\) は \(1\) と \(7\) 以外に約数を持たないので素数。真。
- (3) 実数を2乗すると必ず \(0\) 以上なので真。(この文には \(x\) が入っていますが、「すべての実数 \(x\) について」がついているので、もう \(x\) に何を入れるかという自由が残っていません。だからこれは条件ではなく命題です。ここは第3章で詳しくやります。)
- (5) \(2\) は \(3\) より小さいので偽。偽でも命題です。
- (6) \(100\) 以下の素数は \(2, 3, 5, 7, 11, \ldots, 97\) の \(25\) 個。真。
命題でないもの
- (2):\(x\) の値が決まらないと真偽が決まらないので条件です。
- (4):「難しい」は人によって判断が違い、真偽が客観的に定まりません。
問題2の解答
\(2x = 1\) を解くと \(x = \dfrac{1}{2}\) です。
- 整数全体では、\(\dfrac{1}{2}\) は整数ではないので、条件を満たす \(x\) は1つも存在しません。よって偽。
- 有理数全体では \(\dfrac{1}{2}\) が存在します。よって真。
同じ式なのに、動く範囲を変えただけで真偽が逆になりました。「全体集合を確認する」のがどれだけ大事かが分かると思います。
問題3の解答
真理集合は \(P = \{x \mid -1 \lt x \lt 3\}\)、\(Q = \{x \mid x \lt 5\}\) です。
- 数直線で考えます。\(P\) は \(-1\) と \(3\) の間の区間、\(Q\) は \(5\) より左の半直線。\(P\) の要素はどれも \(3\) 未満、つまり \(5\) 未満なので、\(P\) は \(Q\) に完全に含まれます。\(P \subset Q\) なので \(p \Rightarrow q\) は真。
- \(Q \subset P\) ではありません。たとえば \(x = 4\) は \(Q\) に入っていますが(\(4 \lt 5\))、\(P\) には入っていません(\(4 \gt 3\))。よって \(q \Rightarrow p\) は偽で、反例は \(x = 4\)(\(3 \le x \lt 5\) ならどれでもよい)。
問題4の解答
- \(x = -2\)。たしかに \((-2)^2 = 4\) ですが \(-2 \ne 2\) です。
- \(x = 5, \ y = -1\) など。\(x+y = 4 \gt 0\) ですが \(y \gt 0\) ではありません。
- \(n = 2\)。\(n^2 = 4\) は \(4\) の倍数ですが、\(n = 2\) は \(4\) の倍数ではありません。
反例は1つ見つければ十分です。「\(x=-2\) のときダメでした」の一言で、その命題は崩れます。逆に、命題が真であることを示したいときは全部について確かめないといけない。この非対称性が、証明問題の難しさの正体です。
問題5の解答
- \(\overline{P \cap Q} = \overline{P} \cup \overline{Q}\) なので、「\(x \le 2\) または \(y \gt 3\)」。
- \(\overline{P \cup Q} = \overline{P} \cap \overline{Q}\) なので、「\(x \ne 0\) かつ \(y \ne 0\)」。
- \(1 \le x \le 4\) は「\(x \ge 1\) かつ \(x \le 4\)」なので、否定は「\(x \lt 1\) または \(x \gt 4\)」。答え:\(x \lt 1\) または \(x \gt 4\)。
(3) で「\(1 \gt x \gt 4\)」と書いてしまう人がいますが、これはそんな \(x\) は存在しないという意味の式になってしまいます。否定したら区間が2つに割れる、と絵で覚えてください。
問題6の解答
「\(x \gt 1\) または \(x \lt -1\)」は、数直線上で「原点から距離が \(1\) より大きい点」の集まりです。原点からの距離は \(|x|\) なので、
\[|x| \gt 1\]
と書けます。さらに、\(|x|\) と \(1\) はどちらも \(0\) 以上なので、2乗しても大小関係は変わりません。\(|x|^2 = x^2\) だから
\[|x| \gt 1 \iff x^2 \gt 1\]
となり、たしかに同じ条件です。
ここで使った「両辺が \(0\) 以上のときに限り、2乗しても同値」という事実は、第6章で徹底的に扱います。いまは「勝手に2乗してはいけない場面がある」とだけ覚えておいてください。
問題7の解答
まず \(A\) を求めます。\(x^2 – 3x + 2 = (x-1)(x-2) = 0\) より
\[A = \{\, 1,\ 2 \,\}\]
次に \(B\) です。\(x^2 – (a+1)x + a = (x-1)(x-a) = 0\) なので
\[B = \{\, 1,\ a \,\}\]
ただし \(a = 1\) のときは要素が重なって \(B = \{1\}\) になることに注意します。
(1) \(A \subset B\) となる場合
\(A = \{1, 2\}\) の要素がすべて \(B\) に入る必要があります。\(1\) はもともと \(B\) に入っています。あとは \(2 \in B\) が必要で、\(B = \{1, a\}\) なので \(a = 2\) でなければなりません。
逆に \(a = 2\) のとき \(B = \{1, 2\} = A\) となり、たしかに \(A \subset B\) が成り立ちます。
答え:\(a = 2\)
(2) \(B \subset A\) となる場合
\(B = \{1, a\}\) の要素がすべて \(A = \{1,2\}\) に入る必要があります。\(1 \in A\) は大丈夫なので、条件は \(a \in A\)、つまり \(a = 1\) または \(a = 2\) です。
- \(a = 1\) のとき \(B = \{1\} \subset A\) ○
- \(a = 2\) のとき \(B = \{1,2\} \subset A\) ○
答え:\(a = 1, \ 2\)
(1) と (2) で答えが違うことに注目してください。包含には向きがある。矢印と同じで、向きを取り違えると答えが変わります。
問題8の解答
「すべての実数 \(x\) について \(x^2 + 2ax + 3a \gt 0\)」とは、真理集合が実数全体になってほしいということです。
\(y = x^2 + 2ax + 3a\) は下に凸の放物線です。この放物線が \(x\) 軸より完全に上にあればよい。つまり \(x\) 軸と共有点を持たなければよいので、判別式が負であればよいことになります。
\[\frac{D}{4} = a^2 – 3a \lt 0\]
\[a(a-3) \lt 0\]
よって
\[0 \lt a \lt 3\]
答え:\(0 \lt a \lt 3\)
念のため確認しましょう。\(a = 1\) とすると \(x^2 + 2x + 3 = (x+1)^2 + 2 \ge 2 \gt 0\) となり、たしかにすべての \(x\) で成り立ちます。\(a = 0\) とすると \(x^2 \gt 0\) ですが、\(x = 0\) のとき \(0 \gt 0\) は偽なので不適。境界が入らない理由もこれで納得できます。
問題9の解答
今度は「存在する」です。真理集合が空でなければよい、ということになります。
左辺を因数分解します。
\[x^2 – (a+1)x + a = (x-1)(x-a)\]
ここで \(x = 1\) を代入してみると、値は \(0\) です。\(0 \le 0\) は成り立つので、\(a\) が何であっても \(x = 1\) が条件を満たします。
よって、条件を満たす \(x\) は必ず存在します。
答え:すべての実数 \(a\)
この問題、真面目に場合分けして「\(a \gt 1\) のとき \(1 \le x \le a\)、\(a \lt 1\) のとき \(a \le x \le 1\)、\(a = 1\) のとき \(x = 1\)」と全部書き出しても、もちろん正解にたどり着きます。でも「1個でいいから見つければ勝ち」というのが「存在する」の本質でした。だから \(x=1\) を1個出せば終わりです。
「すべての」は全部調べないと言えない。「ある(存在する)」は1個見つければ言える。この非対称性が第3章の主役になります。
よくある誤解
誤解1:「命題=正しいこと」
違います。偽の命題も立派な命題です。命題かどうかは「白黒がつくか」であって、「白か」ではありません。
誤解2:「または」は片方だけ
数学の「または」は両方でも構いません。日常語に引っ張られないでください。
誤解3:「かつ」の否定は「かつ」のまま
否定すると「または」に変わります。ベン図を描けば一目で分かります。式だけで考えると必ず間違えます。
誤解4:「反例はたくさん挙げないといけない」
1個で十分です。反例1個で命題は崩れます。
誤解5:全体集合を確認しない
「整数 \(n\) について」と書いてあるのに実数として処理すると、答えが変わります。問題文の最初の一文を必ず読んでください。
よくある質問
Q. 中学生ですが、この章は読んでも大丈夫ですか?
大丈夫です。この章で使っている数学は、中学2年生までに習う不等式と因数分解だけです(問題7〜9だけは二次方程式・二次関数を使うので、まだ習っていなければ飛ばして構いません)。むしろ早く読んだ人ほど得をする内容です。高校数学の全単元がこの上に建っています。
Q. 「命題と条件」は入試で直接出ますか?
単独で出ることは多くありませんが、入試問題の8割はこの上に乗っています。「〜となるような \(a\) の範囲」「〜を満たす \(x\) が存在する条件」「〜が成り立つことを示せ」は全部この話です。単独で出ないからこそ、誰も勉強せず、差がつきます。
Q. ベン図はいつも描かないといけませんか?
慣れるまでは描いてください。慣れると頭の中に勝手に浮かぶようになります。数直線に線を引くだけでも十分な場面が多いので、まずは数直線から始めるのがおすすめです。
Q. この講座はどう進めればいいですか?
第1章から順番に読むのがいちばん効きます。第1部(第1〜8章)が土台で、ここを飛ばすと第2部以降の「なぜそうするのか」が分からなくなります。1章あたり30分〜1時間、問題を自分で解きながら進めてください。
次の章へ
第1章では「条件は集合である」「ならばは包含である」という土台を作りました。次の第2章では、この考え方を2つの文字(\(x\) と \(y\))に広げます。条件が数直線上の区間から平面上の領域に変わるだけで、やることは何ひとつ変わりません。「かつ」は重なった部分、「または」は合わせた部分。それだけです。
要点辞典この単元の公式・定石・つまずきやすい所は 論理と証明の要点辞典:命題と条件 にまとめてあります。

