数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第3章
「すべての」と「ある」。たった4文字と2文字のこの言葉が、大学入試数学でいちばん差がつくポイントです。この章では、この2つが真理集合の何を要求しているのかを突き止めます。ここが分かると、「示せ」と言われたときに何をすればいいのかが、迷わなくなります。
条件に「すべての」を付けると、命題になる
藤原です。第3章です。
第1章で、条件は命題ではないという話をしました。 は条件です。 が決まらないと真偽が決まらないから。
ところが、次の文はどうでしょう。
「すべての実数 について である」
これは真の命題です。もう に何かを代入する余地がありません。「すべての」という言葉が、 を縛ってしまったのです。
同じことが「ある」でも起きます。
「 を満たす実数 が存在する」
これは偽の命題です。やはり は縛られていて、代入の余地がありません。
条件 +「すべての」 → 命題
条件 +「ある(存在する)」 → 命題
この2つを全称・存在といいます。記号では (全称)、(存在)と書きますが、高校の答案では日本語で書けば十分です。
真理集合で見ると、正体が一発で分かる
第1章で作った道具を使います。条件 の真理集合を 、全体集合を とすると──
「すべての について 」が真 ⟺ (真理集合が全体を埋め尽くす)
「 を満たす がある」が真 ⟺ (真理集合が空っぽではない)
これだけです。「すべての」は埋め尽くせ、「ある」は空にするな。
ここから、証明の作法が自動的に決まります。
- 「すべての」を証明する:全部について確かめないといけない。1つでも例外があったら終わり。
- 「すべての」を否定する:反例を1つ見つければ終わり。
- 「ある」を証明する:1つ具体例を出せば終わり。
- 「ある」を否定する:全部について「ダメだ」と示さないといけない。
この非対称性が、証明問題の難易度をぜんぶ決めています。「すべての〜を示せ」は重く、「〜が存在することを示せ」は軽い。逆に、否定するときは重さが入れ替わる。
否定を作ると、「すべて」と「ある」が入れ替わる
ここは機械的にできるようになってください。
「すべての について 」の否定
→ 「 が成り立たない がある」
「 を満たす がある」の否定
→ 「すべての について が成り立たない」
言葉で覚えるより、真理集合で考えたほうが確実です。「」の否定は「」、つまり「 の中に に入っていないやつがいる」。これはまさに「 を満たさない がある」ですよね。
具体例です。「すべての生徒が数学を得意である」の否定は、「すべての生徒が数学を苦手である」ではありません。「数学が得意でない生徒が1人はいる」です。日常会話でもよく間違えるところなので、意識してみてください。
実戦:最大値・最小値に翻訳する
ここからが入試です。次の書き換えは、そのまま使える形なので覚えるというより導けるようになってください。
すべての について ⟺ の最小値が正
となる がある ⟺ の最大値が正
なぜか。上の行は「 のグラフ全体が 軸より上にある」ということ。いちばん低いところさえ 軸より上なら、全部上ですよね。だから最小値を見ればいい。
下の行は「 のグラフのどこか1か所でも 軸より上にあればいい」。いちばん高いところが 軸より上なら、そこが証拠になる。だから最大値を見ればいい。
注意:最大値・最小値が存在しない場合(たとえば を実数全体で考える)は、この書き換えをそのまま使えません。そのときは「値域」で考えます。値域が に含まれるか、値域が と交わるか、という言い方が正確です。
2つの関数を比べる形もよく出ます。
すべての について ⟺ の最小値が正
引き算して1つの関数にまとめる。これだけで、2つのグラフの上下関係という難しそうな話が、1つのグラフの最小値という単純な話に落ちます。
いちばんの落とし穴:「すべて」と「ある」の順番
ここが、この章の山場です。差がつくのは、ほぼここです。
次の2つの文を、じっくり読み比べてください。
(A) すべての実数 について、ある実数 が存在して となる。
(B) ある実数 が存在して、すべての実数 について となる。
使っている言葉はまったく同じ。順番だけが違います。
(A) は真です。どんな を持ってこられても、 とすれば になります。 ごとに を選び直していいのがポイント。
(B) は偽です。こちらは、 を見る前に を1つ決めてしまわないといけません。そんな は「すべての実数より大きい実数」、つまり最大の実数ということになりますが、そんなものはありません( のほうが大きいので)。
「すべての」と「ある」は、順番を入れ替えると意味が変わる。
後ろに書かれた変数は、前に書かれた変数を見てから選べる。前に書かれた変数は、後ろを見る前に決めないといけない。
問題文を読むときは、どちらが先に書いてあるかを必ず確認してください。「任意の に対して、ある が存在し……」という文の「ある 」は、 に応じて変わってよい です。ここを取り違えると、まったく別の問題を解くことになります。
【原理】この章の芯
① 「すべての」=真理集合が全体を埋め尽くす。「ある」=真理集合が空でない。
② 「すべて」は反例1つで壊れる。「ある」は具体例1つで立つ。
③ 否定すると「すべて」と「ある」が入れ替わる。
④ 「すべて」は最小値、「ある」は最大値に翻訳できる。
⑤ 「すべて」と「ある」の順番を入れ替えてはいけない。
オリジナル問題で確かめる
問題1(否定を作る)
次の命題の否定を、日本語で書け。
- すべての実数 について である。
- を満たす自然数 が存在する。
- すべての実数 について、 かつ である。
問題2(すべて → 最小値)
すべての実数 について が成り立つような実数 の範囲を求めよ。
問題3(ある → 最大値)
を満たす実数 が存在するような実数 の範囲を求めよ。また、問題2の答えとの関係を説明せよ。
問題4(範囲が限られている場合)
すべての について が成り立つような実数 の範囲を求めよ。
問題5(区間上の「すべて」)
すべての ()について が成り立つような実数 の範囲を求めよ。
問題6(2つの関数の上下)
すべての実数 について が成り立つような実数 の範囲を求めよ。
問題7(順番の罠)
次の2つの命題の真偽をそれぞれ判定し、理由を述べよ。
- すべての実数 について、ある実数 が存在して となる。
- ある実数 が存在して、すべての実数 について となる。
問題8(値域として読む)
を満たす実数 が存在するような実数 の範囲を求めよ。
問題9(すべてと、あるの合わせ技)
実数 について、関数 が次の2つをともに満たすとする。
- すべての実数 について
- となる実数 が存在する
このとき、 を を用いて表せ。
問題10(2つの範囲の包含として読む)
、 とする。すべての について が成り立つような実数 の範囲を求めよ。
解答と解説
問題1の解答
- 「 となる実数 が存在する」。「すべて」が「ある」に変わり、中身も否定されます( の否定は )。
ちなみに元の命題は真なので、この否定は偽です。 - 「すべての自然数 について である」。「ある」が「すべて」に変わりました。
- 「 または となる実数 が存在する」。
「すべて」→「ある」に変え、さらに中身「 かつ 」をド・モルガンで否定します。第1章でやったとおり、「かつ」の否定は「または」です。
問題2の解答
「すべての で 」なので、最小値が正であればよい。 は下に凸なので、グラフが 軸と共有点を持たなければよく、判別式が負であればよいことになります。
答え:
平方完成でも同じです。 より最小値は 。これが正、つまり から 、よって 。
問題3の解答
今度は「ある で 」なので、最小値が負であればよい(下に凸の放物線なので、負の値を取るなら最小値のところで取ります)。
すなわち または です。
答え: または
問題2との関係。「 となる が存在する」は、「すべての で 」の否定です。だから答えは、「すべての で 」となる の範囲(これは より )の補集合になります。たしかに または と一致しますね。
問題2は不等号が 、こちらの対応関係では なので境界の扱いが少しずれます。不等号に等号が入るかどうかは、否定を取るときに必ずひっくり返るので、そこだけ丁寧に。
問題4の解答
今度は の範囲が に限られています。だから「実数全体での最小値」ではなく、 での最小値を考えます。
なので、軸は です。軸が定義域の中にあるかどうかで場合分けします。
(i) のとき(軸が定義域の外・左)
では は増加するので、最小値は 。 は常に成り立つので、この場合はすべて適します。
(ii) のとき(軸が定義域の中)
最小値は 。これが 以上であればよいので
いま なので、。
(i) と (ii) を合わせて
答え:
検算: のとき で、 でちょうど0。ぎりぎりセーフです。 のとき なので不適。合っています。
問題5の解答
この問題は、素直に最小値・最大値を考えるより、因数分解してしまうほうが速いです。
の範囲で、これが常に 以下であってほしい。
のときは値が なので、いつでも条件を満たします。問題は のときです。このとき なので、積が 以下になる条件は
つまり 。これが のすべての で成り立ってほしい。
ここで「すべて」の翻訳です。 は より大きくないといけないのだから、 がいちばん大きいときに耐えられればよい。 の最大値は なので
答え:
ここで学んでほしいこと。「すべての について 」は、「 の最大値」に翻訳できます。定数が関数より大きい、という形になったら、関数の最大値だけ見ればいい。これは「定数分離」と呼ばれる強力な型で、第24章でもう一度出てきます。
問題6の解答
2つの式の上下関係なので、引き算して1つにまとめます。
すなわち の最小値が正であればよい。判別式を使うと
答え:
問題4と同じ関数ですが、 の範囲が実数全体で、不等号に等号が入らないので答えが変わりました。「範囲」と「等号の有無」は、毎回確認するクセをつけてください。
問題7の解答
(1) は真。どんな が来ても、 と選べば になります。 は を見てから決めてよいので、これで問題ありません。
(2) は偽。こちらは を先に1つ決めてしまわないといけません。ある を決めたとして、 が成り立つ は のただ1つだけ。「すべての実数 」で成り立つことは絶対にありません。たとえば を取れば です。
言葉は同じ、順番だけ違う。それで真偽が逆になる。この感覚を体に入れてください。
問題8の解答
「 となる が存在する」とは、 が左辺の値域に入っているということです。つまり、 の値域を求めればよい。
絶対値なので場合分けします。
- のとき:。 では 。
- のとき:。ずっと 。
- のとき:。 では 。
よって の最小値は で、いくらでも大きくなれます。値域は 。
答え:
この式には意味があります。 は数直線上の点 と点 の距離、 は点 と点 の距離。つまり は「点 と点 までの距離の和」です。 が と の間にあれば、和は常に と の距離、すなわち 。外に出れば、出た分だけ2倍で増える。絶対値は距離だと思うと、場合分けせずに答えが見えます。
問題9の解答
2つの条件を、それぞれ翻訳します。
- 「すべての で 」 ⟺ 最小値が 以上 ⟺
- 「 となる が存在する」 ⟺ 軸と共有点を持つ ⟺
両方が成り立つので 。ここで
よって
答え:
図で言えば、「グラフが 軸より下に行かない、かつ 軸に触れる」= 軸に接するということです。「接する」の正体は第21章で徹底的にやります。
問題10の解答
「すべての について 」は、第1章でやったとおり そのものです。
は から までの区間、 は から までの区間(長さ2)。
……ここで一度立ち止まってください。 の長さは 、 の長さも です。長さが同じ区間が、もう一方を含むには完全に一致するしかない。
実際、 の条件は「 の左端が の左端以下」かつ「 の右端が の右端以上」なので
および
すなわち かつ 。よって
答え:
「答えが1点しかない」というのは、最初は不安になります。でも長さを比べた時点で予想がついていれば、自信を持って書けます。計算を始める前に、絵で見当をつける。これは検算にもなります。
よくある誤解
誤解1:「すべて」の否定は「すべて〜でない」
違います。「〜でないものが1つある」です。全否定ではなく、一部否定になります。
誤解2:「ある で成り立つ」を判別式 と機械的に書く
不等式の向きと、上に凸か下に凸かで変わります。毎回「最大値か最小値か」に翻訳してから式にしてください。
誤解3: の範囲が限定されているのに、実数全体で判別式を使う
問題4がまさにそれです。定義域が切られていたら、軸の位置で場合分けが必要になります。
誤解4:「すべての に対してある が」を「ある に対してすべての が」と読む
意味がまったく変わります。問題文の語順は、数学では文法です。
よくある質問
Q. 「任意の」と「すべての」は同じ意味ですか?
同じです。入試の問題文では「任意の実数 に対して」という言い方がよく使われますが、「すべての実数 について」と読み替えて構いません。日常語の「任意」(好きに選んでいい)とニュアンスが違うので、最初は戸惑うかもしれませんが、数学では「どれを選んでも」という意味です。
Q. や の記号は答案で使ってもいいですか?
使わないほうが無難です。減点されることは基本的にありませんが、採点者に伝わることが最優先なので、日本語で「すべての」「〜が存在する」と書くのをおすすめします。自分の下書きやメモで使うのは、思考の整理に役立つので大いにアリです。
Q. 「存在する」問題は、具体例を1つ挙げるだけで満点ですか?
はい、原則としてそれで満点です。ただし「その具体例が本当に条件を満たしている」ことは、きちんと書いて確認してください。「 とすると条件は となり成り立つ」まで書けば完璧です。
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「すべて」と「ある」が手に入りました。次の第4章は、多くの高校生が丸暗記で乗り切ろうとして失敗する必要条件と十分条件です。でも、第1章で「ならば=包含」をやり、第3章で「すべて・ある」をやったみなさんなら、もう半分終わっています。大きいほうが必要、小さいほうが十分。それだけの話だと分かるはずです。
◀ 第2章:「かつ」と「または」は絵で見える──条件と領域
▶ 第4章:必要条件と十分条件を、生まれて初めて腹落ちさせる
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