数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第4章
必要条件と十分条件。「どっちがどっちだっけ?」と一生迷い続ける人がとても多いところです。でも第1章で「ならば=包含」をやったみなさんは、実はもう答えを持っています。大きいほうが必要、小さいほうが十分。この章では、それがなぜかを腹落ちさせ、さらに入試で実際にどう武器として使うかまでやります。
まず言葉の定義を、正確に
藤原です。第4章です。
命題「」が真であるとき、こう呼びます。
は であるための十分条件
は であるための必要条件
この2行を読んで「はい覚えました」となる人はいません。私も高校生のとき、これを3回は忘れました。だから、覚えるのではなく理由を作りましょう。
なぜ「必要」で、なぜ「十分」なのか
言葉の意味そのままで考えると、実はとても自然です。
例として、こんな命題を考えます。
「東大生である 大学生である」
これは真ですよね。では、それぞれの立場から見てみます。
「大学生である」は、東大生であるために必要。
だって、大学生じゃなかったら、東大生であるはずがない。これが無いと成立しないから「必要」です。
「東大生である」は、大学生であるために十分。
だって、東大生だと分かった時点で、大学生かどうかを確かめる必要はもうない。これさえあれば言い切れるから「十分」です。
必要条件=それが無いと成り立たない条件(ゆるい・広い)
十分条件=それさえあれば成り立つ条件(きつい・狭い)
そして、ここで第1章の絵が効いてきます。
絵で見れば、二度と迷わない
「 が真」は「」でした。つまり、 という小さい丸が、 という大きい丸の中に入っている絵です。
中に入っている小さいほう = 十分条件
外側の大きいほう = 必要条件
なぜそうなるか、絵で確認します。
小さいほう()が十分: に入っていると分かれば、自動的に にも入っています。だから の情報だけで が言えてしまう。十分ですね。
大きいほう()が必要: に入っていなければ、 にも絶対に入れません( は の中にあるので)。だから は の前提条件になっている。必要ですね。
矢印で覚えたい人は、こうです。
矢印の先が「必要」。 なら、先っぽの が必要条件。
「矢が刺さるほうが必要」と覚えるとよいでしょう。ただし、絵のほうが確実です。困ったら丸を2つ描いてください。
必要十分条件とは、丸がぴったり重なること
も も両方真であるとき、 と は同値であるといい、 と書きます。このとき は であるための必要十分条件です。
集合で言えば かつ 、つまり
丸がぴったり重なる。これが同値の正体です。
第5章から第7章でみっちりやる「同値変形」というのは、要するに真理集合をまったく変えずに式の見た目だけを変えていく操作のことです。ここで定義がつながっていることを、頭の片隅に置いておいてください。
入試での本当の使い道:「絞ってから確かめる」
ここからが、この章のいちばん価値のある部分です。
必要条件・十分条件は、判定問題(「〜は〜であるための何条件か」)のために存在するのではありません。難しい問題を解くための、実戦的な戦略なんです。
【必要条件による絞り込み】
① まず、答えが満たすべき必要条件を見つけて、候補を有限個に絞る。
② 次に、絞った候補を1つずつ元の問題に当てはめて、十分性を確認する。
なぜこれが強いのか。必要条件は「ゆるい」ので、見つけやすいんです。ゆるい条件でいいから、とにかく候補を減らす。減らしてから、1個ずつ丁寧に確かめる。
具体例を見ましょう。
例題 を自然数とし、 とする。 を満たす組 をすべて求めよ。
まともに解こうとすると、自然数は無限にあるので途方に暮れます。そこで絞り込みです。
ステップ1:必要条件を見つける。
なので です。したがって
これより 、つまり 。
もう一方も。 なので 、つまり 。
合わせて 。自然数なので か の2択にまで絞れました。無限個が2個になった。これが絞り込みの威力です。
ステップ2:十分性を確認する。
- のとき: より 。 を満たすのでOK。
- のとき: より 。 を満たすのでOK。
答え:
この「絞る → 確かめる」の2段構えは、整数問題ではほぼ必ず使います。絞った段階ではまだ答えではないことを、絶対に忘れないでください。
十分性の確認を忘れると、答案は落ちる
「必要条件で絞った」だけで答えを書いてしまう。これが、この単元でいちばん多い失点です。
なぜダメなのか。必要条件は「ゆるい」ので、本当は答えではないニセモノが紛れ込んでいる可能性があるからです。網を粗くして魚を集めたら、石ころも一緒に入ってきている。石ころを取り除く作業が「十分性の確認」です。
もう1つ、有名な例を挙げます。
例題 すべての実数 について が成り立つとき、 であることを示せ。
「すべての で成り立つ」のだから、好きな を代入していい。これが必要条件の作り方です。
- を代入:
- を代入:
- を代入:
この3つを連立すると が出ます。
でも、ここで終わりではありません。私たちがやったのは「3つの について成り立つ」というゆるい条件から導いただけ。逆に なら本当にすべての で成り立つのかを確認しないといけません。
この場合は、 のとき左辺は恒等的に なので、たしかにすべての で成立します。よって十分性もOK。この一行を書くかどうかが、答案の質を分けます。
【原理】この章の芯
① のとき、小さい が十分条件、大きい が必要条件。
② 必要条件は「ゆるい・広い」、十分条件は「きつい・狭い」。
③ 必要十分条件とは 、つまり丸がぴったり重なること。
④ 実戦では「必要条件で候補を絞り、十分性を確認する」。
⑤ 絞っただけでは答えではない。確認の一行を必ず書く。
オリジナル問題で確かめる
問題1(基本の判定)
次の各組について、 は であるための「十分条件だが必要条件でない」「必要条件だが十分条件でない」「必要十分条件」「どちらでもない」のどれか答えよ。ただし は実数とする。
- : :
- : :
- : :
- : :
- : : または
問題2(図形で判定)
四角形について、次の各組の関係を答えよ。
- :正方形である :ひし形である
- :長方形である :平行四辺形である
- :ひし形である :対角線が直交する平行四辺形である
問題3(式で判定)
実数 について、次の各組の関係を答えよ。
- : : かつ
- : : かつ
- : :
問題4(範囲の包含として)
を実数の定数とする。「」が「」であるための十分条件となるような の範囲を求めよ。また、必要条件となるような の範囲を求めよ。
問題5(無理数のわな)
実数 について、次の は であるための何条件か。
: と がともに有理数である
: と がともに有理数である
問題6(絞り込みの練習・その1)
自然数 が を満たすとき、組 をすべて求めよ。
問題7(絞り込みの練習・その2)
自然数 が かつ を満たすとき、組 をすべて求めよ。
問題8(恒等式と十分性の確認)
すべての実数 について
が成り立つような定数 を求めよ。
問題9(必要条件の作り方を考える)
整数 について、 を で割った余りは または であることを示せ。またこれを使って、 が の倍数となる整数 がどのようなものかを述べよ。
解答と解説
問題1の解答
- 、 なので で、逆は成り立たない( が反例)。十分条件だが必要条件でない。
- 、 で 。逆は が反例。十分条件だが必要条件でない。
- と は、どちらも を表します。真理集合が一致するので必要十分条件。
- と は無関係です。 は を満たすが を満たさない。 は逆。どちらでもない。
- 実数の性質として、積が0になるのは少なくとも一方が0のとき、かつそのときに限ります。必要十分条件。
問題2の解答
- 正方形は必ずひし形(4辺が等しい)ですが、ひし形が正方形とは限りません。十分条件だが必要条件でない。
- 長方形は必ず平行四辺形ですが、逆は成り立ちません。十分条件だが必要条件でない。
- 「ひし形」=「4辺が等しい四角形」。平行四辺形で対角線が直交すれば4辺が等しくなり、逆にひし形の対角線は直交します。必要十分条件。
図形の包含関係は、集合の絵とまったく同じです。「正方形 ⊂ 長方形 ⊂ 平行四辺形」「正方形 ⊂ ひし形 ⊂ 平行四辺形」という包含図を一度自分で描いておくと、この手の問題は全部瞬殺できます。
問題3の解答
- 実数の2乗は0以上なので、 となるのは かつ のときだけ。逆も明らかです。必要十分条件。
これは「0以上のものの和が0なら、全部0」という、証明問題で頻繁に使う道具です。 - は真(正の数どうしの和は正)ですが、 は偽( が反例)。したがって は の必要条件だが十分条件でない。
- は または を意味します。 は真ですが、 は偽()。必要条件だが十分条件でない。
問題4の解答
、 とおきます。
十分条件になるとは のこと。数直線で考えると、 より左の部分が丸ごと より左に入っていればよいので
必要条件になるとは のこと。同様に
答え:十分条件となるのは 、必要条件となるのは
境界の では両方に入っていますね。そのとき なので必要十分条件になります。「十分条件になる 」と「必要条件になる 」の共通部分が、必要十分になる という構造です。
問題5の解答
まず を確認します。 がともに有理数なら、和も積も有理数です(有理数どうしの和・積は有理数)。よって真。
次に 。これは偽です。反例を作ります。
とすると
で、和も積も有理数。でも は無理数です。
答え: は であるための必要条件だが十分条件でない
この反例は、2次方程式 の2解です。「和と積が有理数」=「有理数係数の2次方程式の解」であって、解そのものが有理数とは限らない。解と係数の関係を知っていると、この手の反例は自分で作れるようになります。
問題6の解答
を移項して
ここで両辺に を足すと、左辺が因数分解できます。
は自然数なので は 以上の整数です。積が になる 以上の整数の組は しかありません。
よって 、つまり
確認:、。成り立っています。
答え:
この「両辺に1を足して積の形にする」テクニックは、整数問題の超定番です。整数問題は、積の形に持ち込めば勝ち。なぜなら、整数の積が決まった値になる組み合わせは有限個しかないからです。ここでも「有限個に絞る」が起きていますね。
問題7の解答
なので です。
ステップ1: を絞る。
より 。また が必要( だと残りが0になり、自然数では不可能)なので 。よって または 。
ステップ2: のとき。
。同じ論法で より 、また より 。よって か 。
- : より 。 でOK。
- : より 。 でOK。
ステップ3: のとき。
。 より 。また なので 。このとき より 。 でOK。
答え:
「大小関係を仮定して、いちばん小さい文字から絞る」。これが分数の整数問題の王道です。 という条件が最初から与えられているのは、出題者が「絞り込みで解け」と言っているのと同じ意味です。
問題8の解答
「すべての で成り立つ」ので、都合のよい を代入して必要条件を作ります。ここでは因数がゼロになる を選ぶのが賢いやり方です。
- を代入:左辺は 。右辺は 。よって 。
- を代入:左辺は 。右辺は 。よって 。
- を代入:左辺は 。右辺は 。よって 。
十分性の確認。いま出た を左辺に入れて展開します。
たしかに右辺と一致しました。
答え:
3つの値を代入しただけでは「その3点で一致する」ことしか言えません。展開して恒等的に一致することを確かめる一行を書いて、初めて答案が完成します。なお、この「3点で一致する2次式は完全に一致する」という事実自体には深い理由があり、第21章「一致の定理」で正面から扱います。
問題9の解答
前半。整数 を で割った余りで分類します。整数は必ず 、、( は整数)のどれかです。
- : → 余り
- : → 余り
- : → 余り
よって を で割った余りは または です。
後半。 が の倍数になるのは、 を で割った余りが のとき( だから)。前半より、それは が の倍数でないときです。
答え: が の倍数でないとき、そのときに限り は の倍数になる
ここでやったのは、「 の余りは0か1しかありえない」という必要条件を先に作っておくという戦略です。無限にある整数を、余りという物差しで3種類に分類してしまえば、あとは3通り調べるだけ。「無限を有限にする」という発想は、この講座で何度も出てきます。
よくある誤解
誤解1:必要条件のほうが「厳しい」と思っている
逆です。必要条件はゆるくて広い。厳しいのは十分条件のほうです。日常語の「必要」は厳しそうに聞こえるので、ここで混乱する人が多い。絵を描けば一発です。
誤解2:絞り込んだら答えが出たと思う
必要条件で絞った候補は「答えかもしれないもの」です。十分性を確認して初めて答えになります。
誤解3:「 は の何条件か」の主語を取り違える
「 は であるための」と書いてあれば、判定するのは の立場です。矢印を と の両方向で調べてから答えてください。
誤解4:反例を探さずに「必要十分」と即答する
片方向だけ確かめて「同値だ」と決めつける事故が多発します。必ず両方向を確認してください。
よくある質問
Q. 必要条件と十分条件、結局どうやって覚えればいいですか?
覚えないでください。丸を2つ描くのが唯一の正解です。 の絵を描いて、「中が十分、外が必要」。3秒で描けます。試験本番でも、この3秒を惜しまないでください。
Q. 「絞り込み」はどんな問題で使えますか?
いちばん多いのは整数問題です。次に多いのが恒等式・係数決定。あとは「〜を満たす関数をすべて求めよ」といった、答えの候補が無限にある問題全般です。「候補が無限にあって困った」と思ったら、絞り込みを疑ってください。
Q. 十分性の確認って、毎回書かないとダメですか?
変形が同値であることが明らかな場合は不要です。逆に、代入や不等式評価で候補を絞ったときは必ず必要です。判断が難しければ書いておけば損はありません。次の第5章から、この「同値かどうか」を見分ける力を鍛えていきます。
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第1部の前半、論理の言葉はこれで揃いました。ここから第5章〜第7章では、この講座のいちばんの目玉である同値変形に入ります。「式を変形しても答えが変わらないのは、なぜか」。両辺を2乗していい場面とダメな場面、分母を払っていい場面とダメな場面。あの気持ち悪さに、全部決着をつけます。
◀ 第3章:「すべて」と「ある」──全称と存在
▶ 第5章:同値変形①──式を変えても答えが変わらない一本の線
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