数学の勉強法 / 数学の原理(無料講座)

【第5章】同値変形①──式を変えても答えが変わらない一本の線

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数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第5章
ここから3章にわたって、この講座のいちばんの目玉である同値変形をやります。「方程式を解く」とは何をしていることなのか。なぜ移項していいのか。なぜ両辺を割ってはいけない場面があるのか。中学1年生から使ってきた操作の正体に、ここで決着をつけます。

そもそも「方程式を解く」とは、何をしているのか

藤原です。第5章です。

いきなりですが、質問です。

「方程式 を解け」と言われたとき、あなたは何を求めているのでしょうか。

を求めている」。それはそうなんですが、もう少し正確に言えます。

第1章を思い出してください。条件でした。条件には真理集合がありました。つまり──

方程式を解く = その条件の真理集合を求めること
」という答えは、じつは「真理集合は です」という報告なのです。

この見方に立つと、「解く」という作業の意味が変わって見えてきます。

私たちは に変え、さらに に変えました。式の見た目はどんどん変わっています。でも、真理集合はずっと のままだったはずです。もし途中で真理集合が変わってしまっていたら、最後に出た は元の方程式の答えではなくなってしまう。

「解く」とは、真理集合を変えずに、式の見た目だけを簡単にしていく作業である。
この「真理集合を変えない変形」のことを同値変形といい、 で結びます。

そして、あなたが今まで感じてきた「なんとなく気持ち悪い」の正体は、ここにあります。真理集合を変えてしまう変形が、混ざっていたからです。

やっていい変形、ダメな変形

まず、いつでも安全な変形を確認します。

【いつでも同値】
① 両辺に同じ数(同じ式)を足す・引く
② 両辺に 0でない 同じ数を掛ける・割る
③ 左辺と右辺を入れ替える

①が、みなさんが「移項」と呼んでいるものの正体です。 の両辺から を引くと 「符号を変えて反対側へ動かす」という魔法ではなく、両辺に同じ操作をしているだけです。

なぜ①が同値なのか。 ならば は当たり前です。そして逆に ならば両辺に を足して 行って帰ってこられる。だから同値なのです。

そして、ここが山場です。

【同値でない変形】
④ 両辺に 0かもしれないもの を掛ける → 解が増える
⑤ 両辺を 0かもしれないもの で割る → 解が消える

⑤から見ましょう。中学生でも解ける、この方程式です。

両辺を で割ってしまうと が出ます。……本当にそれだけでしょうか。

を元の式に入れてみてください。。成り立ちますよね。 も答えなのに、消えてしまったのです。

なぜ消えたか。私たちは「 で割る」という操作をしました。でも かもしれない。 で割ることはできないので、この操作はこっそり「」という条件を付け加えていたのです。条件を付け加えたら、真理集合は小さくなります。だから解が消えた。

正しくは、こうです。

ここで、実数についての大切な性質を使います。

または
(実数では、掛けて0になるのは、少なくとも一方が0のときだけ)

したがって または 答え:

因数分解して の形にするのは、暗記した手順ではありません。「割ると解が消える」という事故を避けるための、唯一安全な道なのです。だから数学の先生は「移項して0にしてから因数分解」と口を酸っぱくして言うわけです。

逆に、解が「増える」パターン

今度は④です。分母を払うときによく起きます。

両辺に を掛けると 、整理して 、つまり より

ところが、 を元の式に代入すると、分母が になってしまいます。元の式では、 はそもそも考えられない値だったのです。

何が起きたか。元の条件には、書かれていないけれど」という前提が隠れていました(分母は0にできないので)。両辺に を掛けたとき、その前提が消えてしまった。だから、本来ありえない解が紛れ込んだのです。

正しくは、隠れていた条件を表に出してから変形します。

元の条件 ⟺ 「」かつ「

この形にしておけば事故りません。答案ではこう書きます。

分母より 。このもとで両辺に を掛けると
整理して より 。しかしこれは に反する。
よって解なし

「解なし」という答えに驚いたかもしれません。でも、これが正しい答えです。分母を払ったら、必ず分母が0でないという条件を書き添える。これを習慣にしてください。

同値でない変形をしてしまったら、どうするか

ここで、第4章とつながります。

変形が の一方通行になってしまったとき、出てきた答えは「答えの候補」にすぎません。つまり、必要条件を満たしているだけ。

だから、最後に十分性の確認をします。出てきた候補を元の式に代入して、本当に成り立つかを見る。成り立たないものは捨てる。

道は2つしかない。
(A)最初から最後まで でつなぐ(同値変形を貫く)
(B) で候補を出して、最後に代入して確かめる
どちらでも正解にたどり着けます。危険なのは、 で進んだのに (B) の確認をしないことです。

入試の答案では、(A) のほうが美しく、記述量も少なくて済むことが多い。でも複雑な問題では (A) が難しいこともあります。そのときは迷わず (B) にしてください。大事なのは、自分が今どちらの道を歩いているかを自覚していることです。

答案での の書き方

実際の答案では、こう書くのがおすすめです。

  


または

を各行の左端に書く。こうすると、どの変形が同値なのかが一目で分かり、自分でも間違いに気づきやすくなります。採点者にも「この生徒は分かっている」と伝わります。

もし途中に同値でない変形が入ったら、そこだけ にして、最後に確認を書く。この書き分けができる高校生は、実はかなり少数派です。だからこそ差がつきます。

【原理】この章の芯

① 方程式を解くとは、真理集合を求めること。
② 同値変形とは、真理集合を変えずに見た目を変えること。
③ 0かもしれないもので割ると、解が消える。
④ 0かもしれないものを掛けると、解が増える。
または 。だから「=0 にして因数分解」が安全。
で進んだら、最後に必ず代入して確かめる。

オリジナル問題で確かめる

問題1(変形の誤りを見つける)

次の各変形について、同値であるかどうかを判定せよ。同値でないものは、どこがおかしいかを指摘せよ。ただし は実数とする。

  1. から を導いた
  2. から を導いた
  3. から「 または 」を導いた
  4. から を導いた
  5. から を導いた

問題2(割ってはいけない)

次の方程式を解け。

問題3(分母を払う)

次の方程式を解け。分母が0にならない条件に注意すること。

問題4(絶対値を同値変形で外す)

方程式 を解け。

問題5(連立方程式の同値変形)

連立方程式

を満たす実数の組 をすべて求めよ。

問題6(因数分解して=0にする)

方程式 を解け。

問題7(「または」と「かつ」を正しく使う)

次の条件を、 についての「または」「かつ」を使った形に書き直せ。

  1. は実数)

問題8(隠れた条件を見抜く)

方程式 を解け。

問題9(同値変形で解く不等式)

不等式 を解け。

解答と解説

問題1の解答

  1. 同値でない。両辺を で割っているが、 は0かもしれない。実際 も解なので、解が1つ消えている。正しくは より
  2. 同値でない。 は真だが、逆は偽( を満たすのに ではない)。一方通行なので は書けても は書けない。
  3. 同値。 または をそのまま使っている。
  4. 同値。元の式には が隠れているが、答えの はそれを満たす。より丁寧に書けば「 のもとで 」となり、結局
  5. 同値。両辺に を足しただけ。いつでも安全な変形。

問題2の解答

(1)

よって

(2) 両辺に という共通因数がありますが、割ってはいけません。左辺に集めます。



よって または

もし両辺を で割っていたら、 から だけが出て、 を落としていました。

(3)

よって

ここで両辺を で割ると となり だけ。やはり が消えます。

問題3の解答

(1) 分母より かつ 。このもとで両辺に を掛けると


これは矛盾なので、条件を満たす はありません。解なし

分数の形のまま見ても分かります。 が等しくなるには分母が等しくなければならず、 は起こりえないからです。

(2) 分母より 。このもとで



より 。しかしこれは に反します。解なし

実は (ただし )なので、方程式は 、つまり 。やはり除外されます。約分できるからといって、 という条件まで消えるわけではありません。

(3) 分母より 。このもとで両辺に を掛けて



より 。これは を満たすのでOK。

(2) と (3) は同じ手順ですが、結果が違いました。条件を満たすかどうかは、毎回確かめないと分からないということです。

問題4の解答

絶対値の同値変形には、次の形を使います。

 ⟺  かつ( または

なぜ が要るか。左辺の絶対値は必ず0以上なので、右辺も0以上でなければ等号は成立しないからです。

これを使います。

かつ( または )」

と同値です。それぞれ計算すると

  •  → 
  •  →  → 

そして 、つまり を満たすのは だけ。

答え:

確認:。一致します。

場合分けで解いても構いませんが、この同値変形の形を覚えておくと、場合分けの書き忘れが起きません

問題5の解答

和と積が分かっているので、 は2次方程式の2解として表せます。これは解と係数の関係の逆向きの使い方です。

を解にもつ2次方程式は

すなわち


より

答え:

組は2つあることに注意してください。 を区別する問題なので、入れ替えたものも別の答えです。

この変形が同値である理由も押さえておきましょう。「 かつ 」は「 の2解である」と同じことを言っています。行きも帰りも成り立つので、同値変形です。

問題6の解答

すでに右辺が なので、左辺を因数分解するだけです。

よって から

答え:

3つの数の積が0になるのは、どれか1つが0のとき。因数が増えても考え方は同じです。

問題7の解答

  1. または または 。積が0なので「または」です。
  2. これはが0の形です。2乗はどちらも0以上なので、和が0になるのは両方とも0のとき。よって「 かつ 」。しかしそんな は存在しません。解なし(条件を満たす はない)
  3. 同じく「 かつ 」。こちらは実際に存在します。 かつ

ここが決定的に大事です。「積が0」ならまたは、「0以上のものの和が0」ならかつ。この2つを取り違えると、答えが根本から変わります。式の形を見て、瞬時に判断できるようにしてください。

問題8の解答

分母より 。分数が0になるのは分子が0のときなので


より または 。しかし は分母を0にするので除外します。

答え:

「分子=0」だけを見て と答えてしまう事故が非常に多い問題です。分数を見たら、まず分母に印をつける。これを癖にしてください。

問題9の解答

不等式で分母を払うときは、掛ける数の符号で不等号の向きが変わるので、方程式よりさらに慎重になる必要があります。両辺に を掛けるのは危険です。

そこで、符号で場合分けします。

(i) のとき

両辺に正の数 を掛けても不等号の向きは変わらないので


との共通部分は

(ii) のとき

は負なので、 は自動的に成り立ちます。よって はすべて解。

(iii) のとき:分母が0なので考えません。

(i)(ii) を合わせて

答え: または

検算: のとき  ○。 のとき  ○。 のとき は偽 ×。合っています。

別解として、両辺に (これは なら必ず正)を掛ける手もあります。 より 。よって または 「必ず正のものを掛ける」なら符号の心配が要らないので、こちらのほうが速いことも多いです。

よくある誤解

誤解1:共通因数があったら割ってよい
その因数が0でないと分かっているときだけです。文字を含む式で割るのは、原則として禁止だと思ってください。

誤解2:約分したら分母の条件も消える
消えません。 は「 のとき」という但し書き付きの等式です。

誤解3:不等式でも自由に分母を払える
掛ける数が負だと不等号がひっくり返ります。場合分けするか、必ず正のもの( など)を掛けてください。

誤解4:「積が0」と「和が0」を同じように扱う
積が0なら「または」、0以上のものの和が0なら「かつ」。まったく別物です。

よくある質問

Q. 答案に をいちいち書かないといけませんか?

義務ではありません。ただし書いたほうが自分のミスに気づきやすいのは確かです。とくに同値でない変形をしたときに「あ、ここは矢印が片方向だ」と自覚できるので、確認の一行を書き忘れなくなります。慣れるまでは書くことをおすすめします。

Q. 「解なし」という答えは本当にあるんですか?

あります。真理集合が空集合だった、というだけのことです。ただし入試では「解なし」が答えになる問題は多くないので、出たときは計算ミスを一度疑ってから書いてください。

Q. 毎回「分母≠0」を書くのは面倒です。

面倒ですが、これは省略できません。ただし、答えが最初から分母を0にしないことが明らかなら、最後に「これは分母を0にしないので適する」と一行書けば十分です。書くのは1行、落とすのは1問分の点数だと思ってください。

次の章へ

同値変形の基本ができました。次の第6章では、多くの人が最後まで気持ち悪いままにしている「両辺を2乗する」を扱います。ルートの入った方程式、絶対値の不等式。「なぜか答えが増える」あの現象の正体を、完全に説明します。

第4章:必要条件と十分条件を、生まれて初めて腹落ちさせる
第6章:同値変形②──2乗する・分母を払う・場合分けする
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