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【第6章】同値変形②──2乗する・分母を払う・場合分けする

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数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第6章
「両辺を2乗する」。この操作で、なぜか答えが増える。増えた答えを「無縁解」と呼んで捨てる、と習ったけれど、なぜ増えるのかは教わらなかった。この章で、その謎を完全に解体します。2乗は、情報を捨てる操作です。

2乗すると、何が失われるのか

藤原です。第6章です。

まず、いちばん簡単な例から。

 の両辺を2乗すると 

この2つは同値でしょうか。違いますよね。 の答えは の2つ。 という、元にはなかった答えが増えています

なぜ増えたか。答えはシンプルです。

2乗するとき、私たちは「符号」という情報を捨てている。
も、2乗すれば同じ になる。だから2乗した後の式からは、元がプラスだったのかマイナスだったのかが読み取れない。

情報を捨てれば、条件はゆるくなります。ゆるくなれば、真理集合は大きくなる。だから解が増えるのです。第4章の言葉で言えば、2乗した式は元の式の「必要条件」ということになります。

では、いつなら2乗していいのか

情報が捨てられるのが問題なら、もともと捨てる情報がなければいいわけです。つまり、両辺の符号が最初から分かっていればいい。

かつ のとき、 
かつ のとき、 

これが2乗の正しい使い方です。両辺が0以上だと分かっていれば、2乗は完全に安全な同値変形になります。

第2章で、 という変形をこっそり使いましたが、あれが成り立っていたのは も0以上だったからです。

大事なのは「2乗してはいけない」ではありません。「両辺が0以上かどうかを確認してから2乗する」です。確認さえすれば、2乗は最強の道具になります。

ルートの方程式を、同値変形で片づける

いよいよ本題です。

まず、この式が意味を持つために必要なことを、全部書き出します。

  1. ルートの中は0以上
  2. ルートの値は0以上なので、右辺も0以上でなければならない:

この2つのもとでは、両辺とも0以上です。だから2乗しても同値。

そして、②の があれば①の は自動的に成り立ちます。だから条件は だけで足ります。

 ⟺ 「」かつ「

あとは計算です。


より または 。ここで を思い出すと、 は失格。

答え:

確認しておきます。。たしかに右辺と一致。一方 なら ですが、右辺は 。一致しませんね。

【ルートの方程式の型】
 ⟺ 「」かつ「

から自動的に従うので、書かなくてよい。

この型を覚えておくと、「無縁解を捨てる」という後始末が要らなくなります。最初から捨てないで済む道を通るのが、同値変形の思想です。

絶対値も、まったく同じ構造をしている

じつは絶対値とルートは、ほとんど同じものです。なぜなら

だからです(ルートは0以上の値を返すので、)。

だから、絶対値の方程式・不等式も同じ型で処理できます。

【絶対値の型】
 ⟺ 「」かつ「 または
 ⟺ 
 ⟺ 「 または

2つ目と3つ目に が要らない理由も、考えてみると面白いです。

で、もし だったら? 左辺は0以上なので、この不等式は成り立ちません。一方、右辺の「」も のときは となって成り立ちません。どちらも成り立たないので、結果的に同値なんです。うまくできていますね。

のほうも同様に、 ならどちらも常に成り立つので同値です。

場合分けは「同値変形の一種」である

絶対値を見ると「場合分けだ」と反射的に思う人が多いと思います。それも正しい。ただ、場合分けが何をしているのかを正確に理解しておきましょう。

を考えます。中身の符号で分けると

  • のとき 
  • のとき 

これは、全体集合を の部分と の部分に分割し、それぞれの上で別の式に置き換えている、ということです。

元の条件 ⟺ 「 かつ( で書き直した条件)」または かつ( で書き直した条件)」

場合分けの答えを最後に「または」でつなぐのは、これが理由です。真理集合を2つに割って調べ、最後に合体させている。だから和集合になる。

よくある事故:場合分けの中で出した答えが、その場合の前提条件を満たしているかを確認し忘れる。
のとき」で計算した結果が だったら、それはこの場合の答えではありません。前提と照らして捨ててください。

不等式で2乗するときの、もう一段の注意

不等式では、さらに気をつけることがあります。

方程式のときと同じように考えます。

  1. ルートの中:
  2. 左辺は0以上。それより大きい右辺は正でなければならない:
  3. 両辺とも0以上なので、2乗して

②があれば①は自動的なので、条件は「 かつ 」。

より または と合わせて

答え:

もし のように不等号が逆向きだったら、話はもっと複雑になります。右辺 が負のときは、左辺が0以上なので自動的に成立してしまうからです。この場合は次のように分けます。

 ⟺ 「 かつ または かつ

覚える必要はありません。「右辺が負なら自動的に成立、右辺が0以上なら2乗して比較」と、そのつど考えれば導けます。

【原理】この章の芯

① 2乗は「符号という情報を捨てる」操作。だから解が増える。
② 両辺が0以上と分かっていれば、2乗は同値変形になる。
」かつ「」。
。絶対値とルートは同じ構造。
⑤ 場合分けとは、全体集合を分割して調べ、最後に「または」で合体すること。
⑥ 場合分けの答えは、その場合の前提を満たすかを必ず確認する。

オリジナル問題で確かめる

問題1(同値かどうかの判定)

次の各変形は同値か。同値でないものは理由を述べよ。 は実数とする。

  1. から
  2. のもとで、 から
  3. から
  4. から

問題2(ルートの方程式)

次の方程式を解け。

問題3(絶対値の方程式)

次の方程式を解け。

問題4(絶対値の不等式)

次の不等式を解け。

問題5(ルートの不等式)

不等式 を解け。

問題6(不等号が逆向きの場合)

不等式 を解け。

問題7(2乗が有効に使える場面)

を正の実数とする。 の大小を比較せよ。

問題8(同値変形で証明する)

実数 について、次の不等式を示せ。

問題9(総合)

方程式 について、次の問いに答えよ。

  1. この方程式を解け。
  2. 「両辺を2乗して を解いた」だけでは、なぜ不十分なのかを説明せよ。

解答と解説

問題1の解答

  1. 同値でない。 には も含まれる。一方通行( のみ)。
  2. 同値。 という前提があるので、 から が確定する。前提が1つ加わるだけで、同値になるという好例。
  3. 同値。 も0以上なので2乗してよい。逆に からは が従う( より)。
  4. 同値でない。 を満たすが より大きい。負の数が混ざると、2乗で大小がひっくり返るため。

問題2の解答

(1)

型どおり、「」かつ「」。


より より

確認: ○

(2)

」かつ「」。


より より

(3)

」かつ「」。



より を満たすのは

確認: ○

問題3の解答

(1)

右辺 なのでOK。 または

よって

(2)

」かつ「 または 」。

  •  → 
  •  →  → 

を満たすのは

(3)

両辺とも絶対値なので、どちらも0以上です。だからそのまま2乗してよい


ここで を使うと計算が速いです。


より

確認: のとき  ○。 のとき  ○

両辺が絶対値のときは、場合分けせず2乗が最速です。覚えておく価値があります。

問題4の解答

(1)


答え:

意味も確認しておきます。 は「 の距離」。それが 未満ということは、 から3以内の範囲。たしかに から までです。

(2)

または

  •  → 
  •  → 

答え: または

(3)

絶対値が2つあるので、場合分けします。区切りは

  •  →  → 。この場合の前提と合わせて
  •  → 。常に成立。よって すべて。
  •  →  → 。合わせて

3つを「または」で合体して

答え:

第3章の問題8でやったのと同じ構造です。 は「 までの距離の和」。間にいれば常に 、外に出ると2倍で増える。だから 以下になるのは、両端から1ずつはみ出したところまで。意味が分かっていれば、場合分けせずに答えが見えます。

問題5の解答

。左辺は0以上なので、右辺は正でなければなりません。

条件は「」かつ「」(両辺0以上なので2乗して同値)。

ただし、ルートの中も0以上である必要があります:

2つ目の不等式を計算します。



より または

これと「」「」を合わせると

答え:

検算: のとき  ○。 のとき は偽 ×。合っています。

問題6の解答

今度は不等号が逆です。ルートの中の条件 、つまり はまず必要。そのうえで右辺の符号で分けます。

(i) 、つまり のとき

左辺は0以上、右辺は負なので、不等式は自動的に成立します。よってこの範囲はすべて解。

(ii) 、つまり のとき

両辺とも0以上なので2乗して



より と合わせて

(i)(ii) を合体して

答え:

問題5と6を並べてみてください。不等号の向きが変わっただけで、場合分けの必要性が変わりました。「左辺が0以上である」という事実が、片方では自動成立を生み、もう片方では条件を強めている。この非対称性を、機械的な暗記ではなく理屈で処理できるようになってください。

問題7の解答

なので、 も正です。両辺が正なら2乗して比較してよい


差を取ると

より

よって 。両辺とも正なので、2乗を外しても大小は変わりません。

答え:

この「両辺が正なら、2乗して比べる」は、ルートを含む大小比較の定番です。ルートを直接比べるのは難しいが、2乗すればただの多項式になる。これが2乗の正しい使い道です。

問題8の解答

両辺とも0以上です(絶対値なので)。だから2乗して比較すれば同値です。

右辺の2乗から左辺の2乗を引きます。

ここで を使いました。展開を続けます。

ここで、どんな実数 についても が成り立ちます( なら等号、 なら左辺は正で右辺は負)。したがって なので

両辺とも0以上だったので、2乗を外して

が示されました。等号成立は 、つまり のとき( が同符号か、少なくとも一方が0のとき)です。

この不等式は三角不等式と呼ばれ、数学のあらゆる場面で顔を出します。証明の骨格が「両辺0以上 → 2乗して比較」であることを、しっかり味わってください。

問題9の解答

(1) 型どおり、「」かつ「」。



より を満たすのは

確認: ○

(2) 2乗した式 は、元の方程式の必要条件にすぎないからです。

2乗すると符号の情報が失われるので、この式は元の だけでなく、 の解も拾ってしまいます。実際 を入れると で、右辺 とは一致しませんが、符号を無視すれば絶対値が同じです。

したがって、2乗して出た は「答えの候補」であり、」という捨てた情報を最後に取り戻す(または元の式に代入して確かめる)まで、答えとは言えません。

よくある誤解

誤解1:2乗は絶対にやってはいけない
そんなことはありません。両辺が0以上なら完全に安全です。むしろ強力な武器です。

誤解2:ルートの中が0以上、だけ確認すればよい
足りません。右辺(ルートでない側)の符号のほうが本質です。 では が主役。

誤解3: だと思っている
正しくは です。 が負のときに差が出ます。この誤解は積分や極限でも事故を起こします。

誤解4:場合分けの結果をそのまま全部答えにする
各場合の前提条件と照らして、はみ出したものを捨ててから合体してください。

よくある質問

Q. 「無縁解」という言葉を使ってもいいですか?

使っても構いませんが、この講座ではあまり使いません。「無縁解が出た」という言い方は、なぜ出たのかを説明していないからです。「2乗で符号の情報を捨てたから、候補が増えた」と理解しているほうが、応用が利きます。

Q. 同値変形で解くのと、最後に代入で確認するのと、どちらがいいですか?

どちらでも正解になります。ただ、解の個数が多いときは同値変形のほうがラクで、式が複雑なときは代入確認のほうが安全です。両方できるようにしておいて、その場で軽いほうを選んでください。

Q. 絶対値が3つ以上あったらどうしますか?

中身が0になる点で数直線を区切って、区間ごとに場合分けします。絶対値が 個なら区間は最大 個。増えても手順は同じです。ただ、問題7・問題4(3) のように「距離の和」という意味で読むと、場合分けせずに済むことも多いので、まず意味を考えてみてください。

次の章へ

2乗と絶対値に決着がつきました。次の第7章では、同値変形の最後の山場、連立方程式と「文字を消す」を扱います。「代入して を消す」という操作は、いつでも安全なのか。加減法で式を足し引きすると、なぜ答えが変わらないのか。ここまで来ると、入試の「文字消去」で迷うことがなくなります。

第5章:同値変形①──式を変えても答えが変わらない一本の線
第7章:同値変形③──連立方程式と「文字を消す」の正体
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