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【第8章】対偶と背理法──「証明」の型はこの2つで足りる

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数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第8章
第1部の最終章です。「証明せよ」と言われて手が止まる人へ。証明の型は、実はほとんど「そのまま示す」「対偶を示す」「背理法」の3つしかありません。しかも後ろの2つは、第1章から第3章でやったことの言い換えです。ここまで読んだあなたなら、もう半分持っています。

なぜ「証明」で手が止まるのか

藤原です。第8章です。

計算問題なら手が動くのに、「示せ」と言われた瞬間に固まる。よくある話です。理由はハッキリしています。

計算問題には「次にやること」が決まっているけれど、証明問題には決まっていないと思い込んでいるからです。

でも実際には、証明にも型があります。しかも、驚くほど少ない。

① そのまま示す(直接証明) 仮定から出発して、結論まで論理的につなぐ
② 対偶を示す 結論を否定したところから、仮定の否定を導く
③ 背理法 結論を否定して、矛盾が起きることを示す

この章では②と③を扱います。①は、ここまでの章でずっとやってきた同値変形そのものです。

対偶とは何か──集合の絵で見る

命題「」に対して、「」( でないならば でない)をその対偶といいます。

もとの命題と対偶は、必ず真偽が一致する。

なぜでしょうか。第1章の絵を思い出してください。

が真」とは「」でした。つまり小さい丸 が大きい丸 の中にある。

では「 の外」と「 の外」の関係はどうでしょう。 の中にあるということは、 の外にあるものは、当然 の外にもあるということです。

全体集合 U P Q ここは Q の外 = P の外でもある P ⊂ Q ならば (Q の補集合)⊂(P の補集合)

集合の記号で書けば

右側はまさに「」です。同じ絵を、内側から見るか外側から見るかの違いでしかない。だから真偽が一致するのは当たり前なのです。

対偶を使うと、どう楽になるのか

真偽が同じなら、証明しやすいほうを示せばいい。これが対偶法です。

典型例を見ましょう。

例題 整数 について、 が偶数ならば は偶数であることを示せ。

そのまま示そうとすると困ります。「 が偶数」から出発するので、 と書けます。でも、ここから の形を導くのは簡単ではありません。ルートを取ることになって、整数の話から外れてしまう。

対偶を考えます。

対偶:奇数ならば、奇数である

こちらは簡単です。 が奇数なら は整数)と書けるので

は整数なので、 は奇数です。示せました。

対偶が真なので、もとの命題も真。証明終わり。

対偶を使うべきサイン
・仮定に「〜でない」「〜は無理数」など、否定形が入っているとき
・仮定から出発しても、書ける式が思いつかないとき
・結論のほうが「」のように具体的に書ける形のとき
この3つのどれかに当てはまったら、対偶を書いてみてください。

背理法──「そうでないとしたら、おかしなことになる」

背理法は、こういう論法です。

示したい主張を否定して、話を進める。すると矛盾にぶつかる。
矛盾が出たということは、最初の否定がおかしかったということ。
よって、もとの主張は正しい。

日常でも使っています。「もし犯人がAさんだとしたら、あの時間に現場にいたことになる。でもAさんはそのとき別の街にいた。矛盾。だから犯人はAさんではない」。これが背理法です。

数学でいちばん有名な例をやりましょう。

例題  は無理数であることを示せ。

「無理数である」=「有理数ではない」。否定形です。だから直接示すのは難しい。背理法の出番です。

【証明】

が有理数であると仮定する。すると、互いに素な自然数 を用いて

と書ける。(「互いに素」=これ以上約分できない、という意味。どんな分数も約分し切ればこの形になります。)

両辺とも正なので、2乗しても同値(第6章)。

両辺に を掛けて

右辺は偶数なので は偶数。さきほど対偶法で示したとおり、 が偶数なら も偶数です。そこで は自然数)と書けます。代入すると



今度は が偶数、したがって も偶数。

すると も偶数、つまりどちらも2で割れることになります。これは「 が互いに素」という仮定に矛盾します。

よって、 が有理数であるという仮定が誤り。 は無理数である。(証明終)

この証明で、対偶法( 偶数 → 偶数)が部品として使われていることに注目してください。証明の型は、組み合わせて使うものです。

背理法が特に効くのは「少なくとも1つ」

ここで第3章がつながります。

「少なくとも1つは〜である」という主張は、「ある」の形です。これを直接示そうとすると、どれが該当するのかを名指ししないといけない。でも、名指しできないことが多い。

ところが、これを否定すると

すべてが〜でない」

となります。「すべて」の形は全部について式が書けるので、扱いやすい。ここから矛盾を導くほうがずっと簡単なのです。

例題 実数 について ならば、 の少なくとも1つは正であることを示せ。

【証明】 結論を否定して、すべて 以下であると仮定する。すなわち

このとき、辺々を足して

これは仮定 に矛盾する。よって、少なくとも1つは正である。(証明終)

驚くほど短いですよね。否定したほうが式が書けるから、こうなるのです。「少なくとも1つ」「〜でない」「〜は存在しない」といった言葉を見たら、背理法を疑ってください。

対偶法と背理法の関係

じつは、対偶法は背理法の特別な場合です。

」を背理法で示すとします。否定は「 かつ 」。ここから矛盾を導きたい。

もし から が導けたなら、「 かつ 」となって矛盾です。これはまさに対偶を示したことになっています。

対偶法 から出発して、必ず に着地する
背理法 かつ から出発して、どこでもいいから矛盾を見つける

背理法のほうが自由度が高い。着地点を選べるからです。だから、対偶がうまく作れないときは背理法、と考えておけばよいでしょう。

答案での注意:背理法を使うときは、必ず冒頭に「〜と仮定する」と書き、最後に「これは〜に矛盾する」と、何と矛盾したのかを明記してください。ここを書かない答案は、読み手に何をしているのか伝わりません。

【原理】この章の芯

① 対偶は、同じ包含関係を外側から見たもの。だから真偽が一致する。
② 仮定が否定形なら、対偶を疑う。
③ 背理法は「否定して矛盾」。何と矛盾したかを必ず書く。
④ 「少なくとも1つ」は否定すると「すべて」になり、扱いやすくなる。
⑤ 対偶法は背理法の特別な場合。背理法のほうが自由度が高い。

オリジナル問題で確かめる

問題1(対偶を書く)

次の命題の対偶を書け。

  1. 整数 について、 の倍数ならば の倍数である。
  2. 実数 について、 ならば である。
  3. 実数 について、 ならば または である。

問題2(対偶で証明する・その1)

整数 について、 の倍数ならば の倍数であることを示せ。

問題3(対偶で証明する・その2)

実数 について、 ならば「 または 」であることを示せ。

問題4(背理法・無理数)

は無理数であることを示せ。( の倍数ならば の倍数であること(問題2)は用いてよい。)

問題5(背理法・少なくとも1つ)

実数 について ならば、 の少なくとも一方の絶対値は より大きいことを示せ。

問題6(有理数と無理数の混ざった等式)

有理数 を満たすならば、 であることを示せ。( が無理数であることは用いてよい。)

問題7(応用)

は無理数であることを示せ。

問題8(背理法・存在しないことの証明)

の倍数となる整数 は存在しないことを示せ。

問題9(有名定理)

素数は無限に存在することを示せ。

解答と解説

問題1の解答

  1. の倍数でないならば、 の倍数でない。
  2. ならば である。 の否定は です。)
  3. かつ 」ならば である。
    結論の「または」を否定すると「かつ」になります(第1章のド・モルガン)。ここを間違える人が非常に多いので注意してください。

問題2の解答

対偶「 の倍数でないならば、 の倍数でない」を示します。

の倍数でないとき、 または は整数)と書けます。

  • のとき
     →  で割ると余り
  • のとき
     →  で割ると余り

どちらの場合も の倍数ではありません。対偶が示されたので、もとの命題も真です。(証明終)

第4章の問題9とまったく同じ計算をしています。「余りで分類する」は整数問題の最重要ツールです。無限にある整数を、有限個のグループに落とし込む。この発想を使い倒してください。

問題3の解答

対偶「 かつ ならば 」を示します。

を辺々足すと

対偶が示されたので、もとの命題も真です。(証明終)

1行で終わりました。直接示そうとすると「 だから……えっと」と詰まるのに、対偶にすると足すだけ。結論の「または」が、対偶で「かつ」になったおかげです。「または」は扱いにくく、「かつ」は扱いやすい。この非対称性は覚えておく価値があります。

問題4の解答

【証明】  が有理数であると仮定する。すると互いに素な自然数 を用いて と書ける。

両辺を2乗して を掛けると

右辺は の倍数なので の倍数。問題2より の倍数なので、 は自然数)と書ける。代入して


同様に の倍数。よって はともに で割り切れ、互いに素であることに矛盾する。

したがって は無理数である。(証明終)

の証明とまったく同じ骨格です。証明は「型」であることが、よく分かると思います。

問題5の解答

【証明】 結論を否定して、 かつ であると仮定する。

このとき、両辺とも0以上なので掛け合わせることができて

であり、また が常に成り立つので

これは仮定 に矛盾する。

よって、 の少なくとも一方の絶対値は より大きい。(証明終)

「少なくとも一方」の否定が「両方とも」になり、両方について式が書けるようになりました。これが背理法の効き目です。

問題6の解答

【証明】  であると仮定する。すると より

右辺は有理数どうしの商なので有理数である。しかし は無理数なので、これは矛盾。

したがって 。このとき元の式は となる。

よって (証明終)

この命題は、 は有理数)ならば かつ という、係数比較のルールの根拠になっています。移項すれば となり、この問題の形になるからです。
入試で「 の係数を比べて」とやるとき、裏でこの証明が働いています。

問題7の解答

【証明】  が有理数であると仮定し、その値を とおく。

両辺を2乗すると



右辺は有理数どうしの計算なので有理数。したがって は有理数ということになる。

しかし は無理数である。実際、 は互いに素な自然数)と書けたとすると となり、 は偶数だから も偶数。 とおくと 、すなわち 。左辺は偶数なので も偶数、 は奇数だから が偶数、よって も偶数。これは が互いに素であることに矛盾する。

以上より、 が有理数となることは矛盾であり、最初の仮定が誤り。

したがって は無理数である。(証明終)

ポイントは「2乗して、無理数を1つにまとめる」ことです。 が同時にあると扱いにくいので、2乗して だけにしてしまう。既知の事実に帰着させるのが、証明の基本戦略です。

問題8の解答

「存在しない」ことの証明なので、第3章の考え方が効きます。「存在しない」=「すべての について成り立たない」。だから全部調べればよい。ただし整数は無限にあるので、余りで分類します。

【証明】 整数 で割った余りで分類する。問題2の計算より、 で割った余りは

  • の倍数のとき 余り
  • そうでないとき 余り

したがって で割った余りは または であり、 にはならない。

よって の倍数となる整数 は存在しない。(証明終)

この問題は背理法を使わなくても解けました。「すべて」を有限個の場合に落とし込めるなら、直接示すほうが速いのです。背理法は万能ですが、いつも最短とは限りません。

問題9の解答

紀元前から知られている、ユークリッドによる証明です。

【証明】 素数が有限個しかないと仮定する。それらをすべて並べて

とする。ここで、次の数を考える。

以上の整数なので、少なくとも1つの素因数をもつ。その素因数を とする。

仮定より、素数は しかないので、 はこのどれかである。したがって は積 を割り切る。

一方、 も割り切る。よって は差

も割り切ることになる。しかし を割り切る素数は存在しない(素数は 以上)。これは矛盾である。

よって、素数は無限に存在する。(証明終)

2000年以上前の証明が、いまも高校生に理解できる形で残っている。数学の面白さが詰まった一問だと思います。

なお、この 自身が素数だとは限りません(実際 )。 は素数だ」と書いてしまうのはよくある誤りです。正しくは「 の素因数は、並べた素数のどれとも異なる」と言えればよいのです。

よくある誤解

誤解1:対偶は「逆」と同じ
違います。「逆」は で、もとの命題と真偽が一致しません。対偶は で、必ず一致します。

誤解2:「または」の否定を「または」のままにする
否定すると「かつ」になります。対偶を作るときに最も多い失点です。

誤解3:背理法で、何と矛盾したのかを書かない
「矛盾する」だけでは不十分です。「互いに素であることに矛盾」のように、対象を明記してください。

誤解4:ユークリッドの証明で「N は素数」と書く
が素数とは限りません。「 の素因数が、並べた素数のどれでもない」ことを言うのが正しい流れです。

よくある質問

Q. 対偶と背理法、どちらを使えばいいか分かりません。

まず対偶を書いてみるのがおすすめです。書いてみて「これなら示せそう」と思えたら対偶法。ピンとこなければ背理法。対偶を書くのはタダなので、迷ったらとりあえず書いてみてください。

Q. 背理法は「ズルい」証明という気がします。

その感覚は大事にしてください。実際、数学の一部の立場では背理法の使用を制限することもあります。ただし高校数学・大学入試では完全に正当な証明手段です。むしろ背理法でしか示せない主張(無理数性、存在しないことの証明など)が多いので、遠慮なく使ってください。

Q. 「示せ」の答案は、どこまで丁寧に書けばいいですか?

目安は「クラスメイトが読んで納得できるか」です。とくに、①どの手法を使うのか(「対偶を示す」「〜と仮定する」)、②どこで矛盾したのか、③最後に結論、この3つは必ず書いてください。計算過程よりも、この骨組みのほうが点数になります。

第1部、おつかれさまでした

ここまでで、数学の言葉がひととおり揃いました。命題と条件、集合と領域、すべてとある、必要と十分、同値変形、そして証明の型。これが、この先すべての土台になります。

第2部からは、この道具を使って具体的な分野に入っていきます。まずは数列から。「Σって結局なんなんだ」という疑問に、第9章で決着をつけます。答えを先に言うと、Σは引き算です。意味が分からないと思いますが、読めば分かります。

第7章:同値変形③──連立方程式と「文字を消す」の正体
第9章:「差」からすべてが始まる──差分とΣの正体
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