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【第16章】二項定理は「展開して数えているだけ」

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数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第16章
第2部の最終章です。 を展開すると、なぜ が出てくるのか。答えはシンプルで、展開するときに私たちは”数えている”からです。この章では、二項定理を「覚える公式」から「当たり前の事実」に変えます。そして、係数に を代入するだけで、驚くような等式が次々に出てくる遊びも紹介します。

展開とは、実は「選ぶ」作業である

藤原です。第16章です。

いきなりですが、これを展開してください。

答えは ですね。では、なぜ の係数が3なのかを説明できますか。

展開するとき、私たちは何をしているでしょうか。3つのカッコそれぞれから、1つずつ選んで掛け合わせ、それを全部足しています。

選び方は 通り。書き出すとこうです。

このうち になるのは、3つ。だから係数が3です。

そして「3つのカッコのうち、どれで を選ぶか」を決めれば、その項が1つ決まります。だから

展開の係数とは「そうなる選び方が何通りあるか」である。
だから、展開の係数は必ず組合せの数になる。それが二項定理の正体です。

二項定理を、自分の手で作る

一般化しましょう。

(下線の は、カッコが 個あるという意味です。)

個のカッコそれぞれから を選びます。 をちょうど 個選べば、項は

そして「 個のカッコのうち、どの 個で を選ぶか」は 通り。したがって

【二項定理】

証明終わり。覚えることは何もありません。「カッコから1つずつ選ぶ」という当たり前の事実を書いただけです。

ちなみに 二項係数と呼びます。名前の由来は、まさにこの定理です。

前章の反復試行と、同じ形をしている理由

第15章の最後に、こんな式が出てきました。

二項定理の項と、まったく同じ形です。偶然でしょうか。

偶然ではありません。二項定理で とすると

左辺は です。つまり

「成功回数が 回から 回までの確率を全部足すと1になる」という、確率として当然の事実が、二項定理から出てきました。

どちらも「 個のうちどれを選ぶか」を数えているので、同じ構造になるのです。展開も確率も、根っこは数え上げ。第12章の主張が、ここでも生きています。

代入するだけで、面白い等式が出てくる

二項定理の等式は、 に好きな値を代入できます。ここから遊びが始まります。

その1: を代入

意味を考えましょう。左辺は「 個のものそれぞれについて、選ぶ/選ばないを決める方法の数」。右辺は「0個選ぶ場合+1個選ぶ場合+……」。どちらも「部分集合の個数」を数えているので、一致するのは当然です。

その2: を代入

のとき。左辺は です。)

移項すると、こうなります。

「偶数個選ぶ方法の数」と「奇数個選ぶ方法の数」がぴったり同じ。面白い事実です。しかも、その2つの合計が なので、それぞれ 通りだと分かります。

その3: を代入

この形は、 の係数を取り出す装置」として使えます。次の例を見てください。

例題  の展開式における定数項を求めよ。

二項定理で一般項を書きます。

定数項は の指数が のとき。 より

答え:240

「〜の項の係数を求めよ」型の問題は、必ずこの手順です。
① 一般項を の形で書く
の指数を の式で表す
③ 欲しい指数になる を求める
④ 代入する

全部展開する必要はありません。欲しい項だけ狙い撃ちするのがコツです。

パスカルの三角形も、同じ話

第12章の問題9で示した関係式を思い出してください。

これを表にすると、パスカルの三角形になります。

1
1 1
1 2 1
1 3 3 1
1 4 6 4 1

この三角形の 行目が、そのまま の展開係数です。

なぜ「上の2つを足すと下ができる」のか。第12章で「特定の1個に注目して、選ぶか選ばないかで場合分けする」と説明しました。展開の言葉で言えば、 と分けて、最後のカッコから を取るか を取るかで場合分けしている、ということです。同じ構造を、違う言葉で言っているだけです。

【原理】この章の芯

① 展開とは、各カッコから1つずつ選んで掛けること。
② だから展開の係数は「そうなる選び方の数」=組合せの数になる。
③ 二項定理は覚える公式ではなく、数え上げの記録。
に値を代入すると、いろいろな等式が自動的に出てくる。
⑤ 特定の項の係数は、一般項を書いて指数から を逆算する。

オリジナル問題で確かめる

問題1(展開)

次の式を展開せよ。

問題2(係数を求める)

次の展開式における、指定された項の係数を求めよ。

  1. における の係数
  2. における の係数

問題3(定数項)

の展開式における定数項を求めよ。

問題4(代入して等式を作る)

二項定理を用いて、次の等式を示せ。

問題5(3で割ったときの値)

二項定理を用いて で割った余りを求めよ。

問題6(近似)

の値を、小数第3位まで概算せよ。( を展開し、 を代入して、小さすぎる項を無視してよい。)

問題7(多項定理への拡張)

の展開式における の係数を求めよ。

問題8(係数の意味を考える)

の両辺で の係数を比べることにより、次の等式が成り立つことを示せ。

問題9(微分を使う・発展)

の両辺を で微分することにより、次の等式を示せ。

解答と解説

問題1の解答

(1) 係数はパスカルの三角形の4行目


(2)  として、係数は


検算: を代入すると左辺は 。右辺は  ○

この「 代入検算」は、展開問題では必ずやってください。係数の和が一致するかを見るだけで、ミスの大半が見つかります。

問題2の解答

(1) 一般項は なので

答え:945

(2) 一般項は なので 、このとき の指数も で条件を満たします。

答え:60

符号に注意してください。 で正になりますが、もし を聞かれていたら で符号が反転します。

問題3の解答

一般項は

定数項は 、つまり のとき。

答え:

問題4の解答

(1) 二項定理 を代入します。

左辺は なので、示された。(証明終)

(2) 今度は を代入します。

より左辺は 。したがって

ここで、偶数番目の和を 、奇数番目の和を とおくと 、つまり

また (1) より 。この2式から

(証明終)

連立方程式を作って解いただけです。「和が分かっていて、差も分かっている」なら、それぞれが求まる。第7章でやった対称式の考え方と同じですね。

問題5の解答

と書くのがポイントです。

の項だけが で、それ以外の項はすべて の因数を含みます。そこで の項の和を とおくと、 の倍数であり

したがって で割った余りは

検算:(余り1)、(余り1)。たしかに常に1です。

この「割る数+1の形に分解して二項展開する」テクニックは、整数問題で非常によく使います。 で割った余りなども、同じ手で一瞬です。

問題6の解答

を代入します。

  • 第1項:
  • 第2項:
  • 第3項:
  • 第4項:
  • 第5項以降: 以下で、小数第3位には影響しない

足すと

答え:約

実際の値は なので、ぴったり合っています。二項定理は「1に近い数のべき乗」を手計算するための道具でもあるのです。第22章で扱う微分の近似()とも、実はつながっています。

問題7の解答

3つ以上の項でも、考え方は同じです。5個のカッコそれぞれから のどれかを選ぶ になるのは、 を2個、 を2個、 を1個選んだとき。

「5個のカッコのうち、どの2個で 、どの2個で 、どの1個で を選ぶか」を数えます。これは第12章の「同じものを含む順列」です。

答え:30

これを一般化したものが多項定理です。)の係数は 公式として覚えるより、「カッコから選ぶ」と考えて自分で作るほうが確実です。

問題8の解答

右辺から。 の係数は、二項定理より

左辺から。 の係数は の係数は 。この2つを掛け合わせると の項ができます。

から まで動くので、 の係数は

同じ多項式の同じ次数の係数なので、両者は等しい。(証明終)

この等式はヴァンデルモンドの畳み込みと呼ばれます。数え上げの言葉でも説明できます。「男子 人・女子 人の合計から 人選ぶ」方法を、「男子を何人選ぶか」で分類したのが左辺、そのまま数えたのが右辺。同じものを2通りに数えたわけです。
「同じものを2通りに数えて等式を作る」は、組合せの等式を示すときの王道です。

問題9の解答

両辺を で微分します。

左辺:

右辺:

の項は定数なので微分すると消えます。だから和が から始まります。)

したがって

ここで を代入すると

(証明終)

検算: なら左辺 。右辺は  ○

「等式の両辺を微分する」「両辺に値を代入する」という操作で、新しい等式が次々に生まれます。二項定理は、等式製造機なのです。

よくある誤解

誤解1: の符号を間違える
と考えて、 をきちんと掛けてください。 が奇数のとき負になります。

誤解2:係数を求めるのに全部展開する
一般項を書いて、指数から を逆算するだけです。全部展開する必要はありません。

誤解3:分数や負の指数が入ると混乱する
と書き換えて、指数の足し算にしてしまえば同じです。

誤解4: が「どちらの文字の個数か」を取り違える
では の個数です。書くときに必ず確認してください。

よくある質問

Q. パスカルの三角形は覚えるべきですか?

くらいまで書けると計算が速くなりますが、覚える必要はありません。「上の2つを足す」というルールさえ知っていれば、その場で30秒で書けます。実際、試験中に を計算するより、三角形を書いたほうが速いこともあります。

Q. 二項定理は、指数が分数や負でも使えますか?

高校範囲では使いません(大学で「一般二項定理」として学びます)。ただし問題6でやったような近似計算では、 という1次近似が、指数が何であっても成り立つことを、第22章で見ることになります。

Q. 組合せの等式を示す問題が苦手です。

3つの道があります。①階乗の式で計算する(力技だが確実)②二項定理に代入する(問題4・9の方法)③同じものを2通りに数える(問題8の方法)。まず③を考えて、思いつかなければ②、それでもダメなら①という順で試してみてください。

第2部、おつかれさまでした

数列と数え上げが終わりました。差分とΣ、漸化式、1対1対応、確率、二項定理。バラバラに見えた話が、「差を取る」「対応をつける」という2つの発想でつながっていたことを感じてもらえたと思います。

第3部からは、いよいよ関数の世界に入ります。第17章のテーマは「関数とは何か」。答えは「対応」です。そして、この見方を手に入れると、入試の最難関テーマである逆像法・通過領域が、すっと理解できるようになります。

第15章:条件付き確率と独立──情報が増えると何が変わるか
第17章:関数とは「対応」である──写像の原理
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