数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第18章
この講座の山場です。入試数学で最後まで差がつくのは、「文字が2つ以上動く問題」。ここで多くの受験生が沈みます。でも、方針はたった1つです。動く文字を1つずつ処理する。そして、その最強の道具が逆像法です。第1章から積み上げてきたものが、ここで全部つながります。
なぜ「動く文字」で手が止まるのか
藤原です。第18章です。
こういう問題で、手が止まったことはありませんか。
- 「 が を満たすとき、 のとりうる値の範囲を求めよ」
- 「 が実数全体を動くとき、直線 が通りうる点の範囲を求めよ」
- 「、 のとき、 の最大値を求めよ」
手が止まる理由は、はっきりしています。動くものが2つあるので、どちらから手をつけていいか分からないからです。
そして、答えもはっきりしています。
動く文字は、必ず1つずつ処理する。
2つ同時に動かそうとするから、頭が破裂する。1つを止めて、もう1つだけ動かす。
そして「1つずつ処理する」やり方には、2つの流儀があります。
2つの流儀──順像法と逆像法
【順像法(予選決勝法)】
片方を止めて、もう片方を動かして「予選」を行う。
次に、止めていたほうを動かして「決勝」を行う。
【逆像法】
求めたい値を とおき、「 が実現できるか?」を問う。
「実現できる」=「条件を満たす文字の値が存在する」に翻訳して解く。
第17章の最後で、こう書きました。
が値域に入る ⟺ を満たす が存在する
これを2文字に広げたのが逆像法です。
が の値として実現できる
⟺ 「条件」かつ「」を満たす が存在する
「存在する」と言えれば勝ちです。なぜなら、第3章と第7章で「実数が存在する条件=判別式」という道具を、すでに手に入れているからです。
まずは1つ、最後までやってみる
例題1 実数 が を満たすとき、 のとりうる値の範囲を求めよ。
【逆像法での解答】
求める値を とおきます。すると
が実現できる ⟺ 「」かつ「」を満たす実数 が存在する
ここで を第1式に代入して、文字を1つ減らします。
この2次方程式が実数解をもつ条件を求めればよい。
答え:
第2章で、この問題を「円と直線が共有点を持つ条件」として解きました。まったく同じ答えです。実は同じことをやっています。「共有点が存在する」も「実数解が存在する」も、同じ「存在」の話だからです。
逆像法の手順は、いつも同じ3ステップです。
① 求めたい値を とおく
② 「 が実現できる」を「条件を満たす文字が存在する」に翻訳する
③ 存在条件(判別式、値域、グラフの共有点など)を計算する
考えることは何もありません。手順を覚えるのではなく、この3ステップを毎回書くだけで解けます。
「実数」という言葉を、絶対に落とさない
ここが、逆像法での最大の失点ポイントです。
私たちが求めたのは「 が実数解をもつ条件」でした。もし が複素数でもよければ、判別式は要りません。 が実数だからこそ、判別式という条件が生まれるのです。
第7章でやった「実数条件」を思い出してください。、 とおくと が必要でした。あれと同じ話です。
置き換えたら、置き換えた先の文字が動ける範囲を必ず調べる。
この一言が、第7章から第18章まで一貫しています。「 と置いた」なら、 が実数であることを忘れない。忘れた瞬間に、答えが広がりすぎます。
範囲に制限があるときは、判別式だけでは足りない
次はレベルを1つ上げます。
例題2 実数 が 、、 を満たすとき、 のとりうる値の範囲を求めよ。
第7章でも扱いましたが、今回は逆像法の型で処理します。
とおくと、「 かつ かつ かつ 」を満たす実数 が存在する条件を求めればよい。
は2次方程式 の2解です。求めるのは、この方程式が0以上の実数解を2つもつ条件。
ここで「判別式だけ」では足りません。解が0以上かどうかも見ないといけないからです。3つの条件を書きます。
- 実数解をもつ: →
- 2解の和が0以上: → 常に成立
- 2解の積が0以上:
合わせて 。
答え:
【2解がともに0以上である条件】
かつ (2解の和) かつ (2解の積)
理由:積が0以上なら「両方0以上」か「両方0以下」。そこに和が0以上を足せば「両方0以上」に絞れる。
この3条件は、暗記ではなくその場で作れるようにしてください。「積の符号で同符号を確保し、和の符号でどちら側か決める」。第2章でやった積の符号の話と同じ発想です。
もう1つの流儀──順像法(予選決勝法)
逆像法が万能かというと、そうでもありません。逆像法は「存在条件が式で書ける」ときに強いのですが、書けない場合もあります。そのときは順像法です。
例題3 、 のとき、 の最大値と最小値を求めよ。
【順像法での解答】
予選: を止めて、 だけ動かす。
について整理します。
これは の1次式です( は止めているので定数扱い)。1次式は単調なので、最大最小は端点で起こります。ただし傾き の符号で向きが変わるので場合分けします。
- (傾き正): で最大 、 で最小
- (傾き負): で最大 、 で最小
- (傾き0): で一定
決勝:予選の結果を、 を動かして比べる。
最大値の候補は、 では 、 では 。
- で が最大になるのは のときで、値は
- で が最大になるのは のときで、値は
したがって最大値は ( または のとき)。
最小値も同様に、 と の小さいほうを追いかけて、最小値は ( または のとき)。
検算: なら ○ なら ○ なら ○
順像法のコツは「1文字について何次式か」を見ることです。
この問題では、 について見ると1次式でした( の項があるので2次に見えますが、 を止めれば の1次)。1次式なら端点だけ調べればよい。
2文字の式は、片方を止めると急に簡単になる。これが順像法の威力です。
どちらを使うか、の判断基準
逆像法を使う:文字を消したときに2次方程式になる(判別式が使える)/分数式の値域/「〜が存在する」と書かれている
順像法を使う:片方を止めると1次式や扱いやすい2次関数になる/変域が長方形などで区切られている/逆像の存在条件が式で書きにくい
迷ったらまず逆像法を試すのがおすすめです。手順が固定されていて、思考の負荷が低いからです。うまくいかなければ順像法に切り替える。
逆像法のもう1つの顔──「定数分離」
次の問題を考えます。
例題4 方程式 の実数解の個数を、実数 の値によって分類せよ。
左辺に が集まり、右辺は定数。これは「 が実現できるか」だけでなく、「何通りの で実現できるか」を聞いています。
そこで、こう読み替えます。
実数解の個数 = 曲線 と横線 の共有点の個数
横線を上下に動かして、交点の数を数えるだけです。
の増減を調べます。 より、 で極大値 、 で極小値 。
グラフを見ながら、横線 を上から下へ動かします。
- :右上の部分と1回だけ交わる → 1個
- :極大点で接し、さらに右側で1回交わる → 2個
- :山と谷の間を通るので3回交わる → 3個
- :極小点で接し、さらに左側で1回交わる → 2個
- :左下の部分と1回だけ交わる → 1個
「定数分離」は、逆像法の一種です。「 が実現できるか」だけでなく「何回実現できるか」まで一気に見えるので、実数解の個数を問う問題では最強です。
方程式に文字定数が入っていたら、まず定数だけを片側に集められないかを考えてください。
【原理】この章の芯
① 動く文字は1つずつ処理する。同時に動かそうとしない。
② 逆像法:求める値を とおき、「存在するか」に翻訳する。
③ 「実数が存在する」条件を落とさない(判別式・変域)。
④ 解に範囲の制限があるときは、判別式だけでなく和と積の符号も見る。
⑤ 順像法:片方を止めると1次式や2次関数になる。予選をやって決勝をやる。
⑥ 定数分離は逆像法の一種。実数解の個数まで一気に見える。
オリジナル問題で確かめる
問題1(逆像法の基本)
実数 が を満たすとき、 のとりうる値の範囲を求めよ。
問題2(逆像法・和が一定)
実数 が を満たすとき、 のとりうる値の範囲を求めよ。
問題3(範囲つき)
実数 が 、、 を満たすとき、 のとりうる値の範囲を求めよ。
問題4(分数関数の値域)
が実数全体を動くとき、 のとりうる値の範囲を求めよ。
問題5(順像法・1次式に落とす)
、 のとき、 の最大値と最小値を求めよ。
問題6(定数分離・実数解の個数)
方程式 の実数解の個数を、実数 の値によって分類せよ。
問題7(定数分離・範囲つき)
方程式 が の範囲に少なくとも1つの実数解をもつような実数 の範囲を求めよ。
問題8(存在条件で領域を出す・通過領域の予告)
実数 が全体を動くとき、直線 が通る点 の全体を求め、図示せよ。
問題9(2解の配置)
2次方程式 が、異なる2つの正の実数解をもつような実数 の範囲を求めよ。
解答と解説
問題1の解答
とおくと 。これを に代入します。
実数 が存在する条件は
答え:
第2章の問題8で、点と直線の距離を使って同じ答えを出しました。2通りの方法で一致しています。
問題2の解答
とおきます。 を代入して
実数解をもつ条件は
答え:
第7章の問題9で示した不等式 と同じ結果です。あちらは平方完成、こちらは逆像法。道具が増えると、同じ事実に複数の道からたどり着けるようになります。
問題3の解答
とおくと、 は の2解です。求めるのは2解がともに0以上となる条件。
- 実数解: →
- 和: → 常に成立
- 積:
合わせて
答え:
検算: のとき で最大。 のとき で最小。和が一定なら、等しいときに積が最大という第7章の事実とも合っています。
問題4の解答
分母 なので、いつでも払えます。 とおくと
(i) のとき: より 。実数解があるので は値域に入る。
(ii) のとき:2次方程式なので
の形に見て因数分解します。
両辺に を掛けて より
(i)(ii) を合わせて
答え:
検算: のとき (下限)、 のとき (上限)。両端が実現できているので正しいと分かります。
問題5の解答
について整理します。
なので 。つまり傾きは常に0以下で、場合分けが要りません。
予選( を止めて を動かす)
- 最大: のとき
- 最小: のとき
決勝( を動かす)
- 最大の候補 は、 で のとき最大となり、値は
- 最小の候補 は、 のとき最小となり、値は
答え:最大値 ()、最小値 ()
検算: なら ○ なら ○ なら (範囲内) ○
問題6の解答
と の共有点の個数を数えます。
より で極大値 、 で極小値 。
横線 を動かして
- :1個
- :2個
- :3個
- :2個
- :1個
検算: なら より (重解)と 。異なる解は2個 ○
問題7の解答
この問題は、素直に「2次関数の解の配置」でやると場合分けが多くなります。 について解いて、定数分離してしまうのが速いです。
は1次で入っているので解けます。
のとき:左辺 、右辺 で成り立ちません。よって は解になりえない。
のとき:
したがって「(ただし )における の値域」が答えです。
微分します。
区間 では:、 より で減少。 で 、 で分母が に近づき 。よってこの区間での値域は 。
区間 では: で 。 では で減少し、 で最小値 。その後 で増加し、 で に近づく( は含まない)。
したがってこの区間での値域は 。
2つを合わせて
答え: または
検算: のとき より 。たしかに ○
のとき は実数解なし ○(範囲外なので不適で正しい)
のとき より 。 は に入ります ○
問題8の解答
「直線が通る点」とは、その点を通るような が存在する点のことです。だから逆像法がそのまま使えます。
点 が通過されるための条件は
を満たす実数 が存在すること。これを についての方程式と見ます。
の2次方程式なので、実数解が存在する条件は
答え:放物線 とその下側の領域(境界を含む)
これが「通過領域」の問題です。手順は逆像法そのもの。「 を固定して、パラメータ についての存在条件を書く」。次の第19章で、この考え方を本格的に展開します。
ちなみに、この という直線は、放物線 の における接線です(接線の方程式は )。放物線の接線を全部集めると、放物線の下側が埋め尽くされる——きれいな事実ですね。
問題9の解答
「異なる2つの正の解」なので、3つの条件を書きます。
- 異なる2実数解:
→ または - 2解の和が正: →
- 2解の積が正: →
3つの共通部分を取ると
答え:
検算: のとき より 。 なので、2解は約 と 。ともに正で異なる ○
のとき で重解。「異なる」に反するので除外されるのが正しい ○
「異なる」が付いたら 、付かなければ 。この1文字で答えが変わるので、問題文を丁寧に読んでください。
よくある誤解
誤解1:文字を消したら、消した文字の条件も消えると思う
消えません。「実数である」「0以上である」といった条件は、判別式や和・積の符号として生き残ります。
誤解2:範囲つきなのに判別式だけで済ませる
「2解がともに正」なら和と積の符号も要ります。判別式だけでは、負の解も許してしまいます。
誤解3:どの文字について整理するかを間違える
逆像法ではパラメータ(動く定数)について整理するのが基本です。問題8で について2次式と見たのがポイントでした。
誤解4:2次の係数が0になる場合を忘れる
のように、係数に文字が入っていたら必ず場合分けしてください。
よくある質問
Q. 逆像法と順像法、どちらを先に試すべきですか?
逆像法です。手順が「 とおく → 存在条件を書く → 計算する」と固定されているので、思考の負荷が低い。うまく式が書けないと感じたら順像法に切り替えてください。
Q. 「予選決勝法」という言葉は答案で使えますか?
使わないほうがよいでしょう。俗称なので、採点者に伝わらない可能性があります。答案では「 を固定して を動かすと……」「次に を動かすと……」と、やっていることを日本語で書けば十分です。
Q. 逆像法の答案は、どこまで書けばいいですか?
「 が実現できる ⟺ 〜を満たす実数 が存在する」という同値の一行を必ず書いてください。ここが逆像法の心臓部です。この一行がないと、判別式を書いている理由が採点者に伝わりません。
次の章へ
逆像法が手に入りました。次の第19章では、この道具をそのまま軌跡と通過領域に使います。「点が動いた跡」と「直線が通った跡」は、まったく同じ問題です。問題8で見た「パラメータの存在条件」が、そのまま主役になります。
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▶ 第19章:軌跡と領域は同じ話──通過領域の考え方
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